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自社の生産形態をデザインする

ときおり頼まれて、生産スケジューリングの話を人前でする。生産計画やスケジューリングについて困っている方が、製造業には多いのだろう。中堅中小の工場はいうに及ばず、結構な大企業の工場に行っても、Excelの生産日程表を現場に配って、現場のリーダーたちが個別に指示采配しているケースを、よく見かける。

Excelだから悪いと決めつけるのは早計かもしれないが、現場の状況に応じて臨機応変に修正するには、どうしたって時間がかかる。だから納期や機械稼働に変動の多い工場では、機動的に指示変更が出せない。出せないと、需給のタイミングがずれて、欠品や在庫が増えることになる。かくて納期遅れが多いのに、無駄な在庫も多い、という現場ができ上がる。

そこで、何か良い知恵はないかとお集まりの皆さんに、わたしが必ず最初にする話が、『生産形態』の種別の説明だ。なんだか肩透かしを食らったような気がすると思う。生産方式と生産形態というテーマは、生産管理の教科書なら、最初に出てくる概念だ。だが、セミナーに集まる多くの方は、あまり生産管理の理論をキチンと学んだ経験がないようにも、見受けられる。奇妙なことだが、これが日本の製造業の実態らしい。

生産方式とは、モノの作り方と工程のあり方に関する分類だ。たとえばプロセス型生産とか、組立加工型生産といった類型がある(後者はディスクリート型ともいう)。組立加工型はさらに、フローショップ型とかジョブショップ型などに分かれる。作る製品の量と質によって、生産方式はおのずと制約される。牛乳は旋盤で削らないし、豪華客船は反応釜では作れない。だから生産方式は、主に生産技術部門が考え、結果は工場レイアウトなどに現れてくる。

他方、生産形態とは、需要(顧客注文)に対してどのように応じるかを分類した概念である。たとえば見込み生産とか、個別受注生産といったタイプがある。生産形態は生産方式がどうであるかにかかわらず、独立して決まる事柄で、むしろ生産管理(とくに生産計画)と関係する。だからスケジューリングの話の最初に説明するのだ。生産形態をどう選ぶかによって、リードタイム・在庫量が大きく変わる。

では、生産形態はどこの部門の誰が決めるのか? そう。ここが問題なのだ。

多くの企業では、自社の製品の生産形態を、主体的に決める人がいない。なんとなく、従来の行きがかり上、現在の形態に落ち着いているだけで、それがベストかどうかを吟味する人もおらず、責任部門も存在しない。少なくとも日本では。これがたとえばアメリカの先進的企業なら「サプライチェーン・マネージャー」あたりが決めるのだろう。だが、そうした職位は、わたし達の社会では希少だ。

自社の生産形態は、日本人お得意の全員コンセンサスで決める? わたしは違うと思う。そういう問いを、誰も立てた事がないのではないか。

もっとも先ほど、「生産管理の教科書なら最初の方に書いてあるはず」といったが、そもそも率直に言って、生産管理には良い参考書があまりないようだ。この国では現在、生産管理関連の本は、超初心者向けの易しいものしか、出版社が出さない状況になっている。数式が出たら売れない、「××学」はダメ、とにかく(IT本を除けば)エンジニアは専門書を買って読まない・・これが出版界で信じられている常識のようである。

話を戻すが、それでは、生産形態にはどのような種類があるのか。

これについては、わたしはこのサイトで何回も、もう10年以上前から書いている。でも、未だにネット上に情報源は限られているようだから、もう一度書く。

わたしは生産形態を、基本的に4種類に分類している。学問的にはもっと細かく5〜7種類に分ける流儀もあるのだが、分かりやすさが大事なので、4つとしている。以下の図は、2007年に書いた記事の図を少し手直ししたものだ。
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4つの生産形態の図
ATO、BTO、CTO」(2007-11-09)

4つの生産形態

ものづくりはどんな分野でも、最初にモノを「設計」し、それから部品材料を「調達」して、加工・組立・検査などを通して「製造」し、最後に「出荷」して客に届ける必要がある。すなわち、生産とは
 (1)設計 → (2)資材調達 → (3)製造 → (4)出荷
の4つのステップからなるプロセスを必ず通る。これは乳製品だろうが、豪華客船だろうが同じことだ。

この、設計→資材調達→製造→物流、という4ステップのうち、どこまでを先に準備しておき、どこからを需要情報(顧客注文)に合わせるか、によって、生産形態は大きく4種類に分かれる。

わたし達の社会で、皆が一番イメージしやすいのは、「見込生産」だろう。英語ではMTSと呼ぶ。MTSはMake to stockの略語で、ストックするために作る(=生産して在庫しておく)形態をいう。英語の表現の方が、実質をわかりやすく示している。「見込み」という日本語には、何を見込むのかという曖昧性が残るので、わたしの所属する中小企業診断士協会「生産革新フォーラム」(略称MIF研究会)は、「需要予測生産」と呼ぶことを提案し、共著『“JIT生産”を卒業するための本』 でも、そう書いた。

MTS(見込生産)という生産形態は、この(1)設計から(3)製造までを、自分たちの需要予測に基づいて事前に行っておき、出来上がった製品をストック在庫の形にしておき、実需に応じて流通経路に配する。いわば、顧客の需要(注文)と、生産による供給が、(3)と(4)の間にある製品在庫でマッチする(調整される)形になっている。

顧客から見ると、注文したらあとは出荷のみだから、入手までのリードタイムが短いし、メーカーの立場から見ると、予測に基づく計画生産で工場を動かせるから、すごく生産性もコスト効率も良い、ということになるはずである。ただ、その代償として、陳腐化リスクの高い製品在庫を、たくさん用意しなければならない。

このMTS(見込生産)の代表的業種は、家電・自動車・食品・日用品などの製造メーカーである。これらの業界はほとんどがBtoC(消費者向けビジネス)の企業だから、盛んに広告宣伝をするので目立つし、特に自動車と家電業界は長らく、日本の製造業をリードしてきた業界だった。だから、なんとなく「ものづくり産業」というと、このMTS(見込生産)形態が日本の主流のように、皆が思い込む時代が長く続いた。

しかし日本の電機メーカーは、知っている人は周知の通り、海外市場では見る影もなく落魄し、日本はむしろ電子材料・部品メーカーとしての面だけが生き残っている。部品が強いというのは、航空宇宙業界などでも似ていて、日本製旅客機はいつまでたっても空に雄飛しないが、航空機部品メーカーは海外でもそれなりに存在感を示している。

こうした電子材料・部品や機械部品メーカーの業界は、ほとんどが「繰返し受注生産」(MTO = Make to Order)の形態をとっている。英語のOrderは注文を意味し、MTOとはつまり、注文に応じて作る、の意味である。ものづくりのプロセスでいうと、(1)設計だけは事前に行っておく。注文が来たら、(2)資材調達→(3)製造→(4)出荷、というステップを進める。

MTO(繰返し受注生産)の形態では、MTSと違って、製品在庫という形のリスクを負う必要はない。注文を受けてから資材を手配すれば良いからだ。まあ、正確にいうと、注文に応じて調達する資材(引当品)の他に、注文がなくても常備しておく資材(常備品)も抱えている場合が多いが、在庫リスクはMTSに比べて小さい。

その代わり、MTO(繰返し受注生産)では、注文してから手に入るまでのリードタイムが長くなる。仮にあなたが年末ジャンボ宝くじの特等にあたって、海外メーカーのディーラーに行き、念願通りカタログにある最上等の豪華なスポーツカーを注文したとしよう。もちろんカタログに載っているからには、設計は済んでいる。だが、店頭に在庫はあるまい。十中八九、注文生産になる。そして何ヶ月も待たされることになろう。在庫リスクは小さいが、リードタイムの長さが、この種の生産形態のネックだ。それでも、先に述べたように、今日の日本の製造業のかなりの数が、この生産形態をとっている。

ところで自動車のケースについていうと、あなたが冬のボーナスで普通の乗用車を買うためにディーラーに行った場合、仮に車種はすでに決まっていたとしても、エンジンの排気量や外装・シートの色から、エアバッグ装備、カーナビ等電装品の配置等まで、相当数のオプションを選べるはずである。あなたが選んだオプションは、隣のテーブルで同じ車種を買おうとしている客とは、きっと全然違う。これもまた、注文生産ではないのか? では、自動車メーカーは何ヶ月も待たせる代わりに、どうやって数週間で配車してくれるのか?

それは、国産車メーカーの多くが、自社の主力商品について、じつはATOという生産形態をとっているから可能になるのだ。ATOはAssemble to Orderの略で、日本語では「受注組立生産」と呼ぶ。

ATOでは、受注したら詳細な仕様やオプションに従って、組立に必要な部品やサブアッシーを選び出す。そうした各種部品やサブアッシーは、すでに(1)設計し(2)資材調達して、常備在庫としてストックを持っている。だから工場では組立てして検査するだけで、すぐ(4)出荷できる。MTS(見込生産)ほどではないが、注文から出荷までのリードタイムはかなり短い。そしてMTS(見込生産)に比べて、在庫リスクも小さい。

こうした業態は、PCのようにオプションが多数ある製品に向いている。早くから、この生産形態を徹底化したのがデル・コンピュータ社だ。彼らは自分たちの生産形態をBTO(Build to Order)と呼んで、普通のATOより進化したものと主張している。

事実、デル・コンピュータ社は、工場に常備品を多数ストックするようなことはしていない。そもそもPC用の電子部品(特にチップ系)は数ヶ月単位に値段が下がっていくので、常備すると陳腐化リスクが大きい。だから、彼らは現物として工場にストックする代わりに、部品市場で価格と需要を先読みしながら、先行手配をして、実需ニーズにほぼ合致するようにしている。実物在庫ではなく、サプライチェーン全体の供給予定(一種のエシェロン在庫)で、正確にコントロールする能力が、彼らの強みである。

ここまでに、MTS(見込生産)、MTO(繰返し受注生産)、ATO(受注組立生産)の3種類を説明した。では、残りの1種、図の一番上にあるETO(受注設計生産)とは何なのか?

あなたが仮に、豪華客船を手に入れるべく、造船所に注文に行ったとしよう。豪華客船の購入は、年末ジャンボ宝くじ程度では無理だが、まあ、遠縁の叔父の遺産のおかげで、クルーズ会社の経営者の立場を引き継いだことにしようか。いや、何だったらあなたは投資会社の辣腕役員で、これからは特殊なLNGタンカーの需要が高まると睨んで、造船所に掛け合うのでもいい。

豪華客船であれ特殊タンカーであれ、こうした船は通常、注文を受けてから(1)設計し、(2)資材調達し、(3)製造して、(4)出航(出荷)する、という4ステップを踏むことになる。これをETO = Engineer to Order(受注設計生産)と呼ぶ。特殊な船だけでなく、航空機や産業機械といったものも、この範疇に入る。顧客の仕様があまりにも個別ないし特殊なので、設計が都度必要になるのである。

このETO(受注設計生産)形態は、したがって、注文から出荷までのリードタイムが最長となる。その代わり、ETO企業はふつう、一切ストック在庫を持たない。毎回、個別に必要な資材だけを調達する。工場内にある在庫は全て、仕掛り中のフロー在庫である。

お分かりだろうか。生産形態の選択は、その製品に関して抱えるストック在庫の量と、リードタイムの長さを規定する。一般にリードタイムの短さと在庫量の少なさは、相反の関係にある。短納期を武器にするのか、それとも低在庫リスクのコストメリットを追求するのか? 自社の強みと競争力を、どこに置くのか。したがって、どの生産形態をとるべきかは、製造業における戦略の重要なポイントになるのである。

そして戦略である以上、それは一種の仮説、ないし賭けである。戦略が適切であるかどうか、継続して検証していかなければならない。検証するためには、しかるべきKPIを設定して、測定していく必要がある。とるべき生産形態(戦略)によって、重視すべきKPIも異なるはずである。

ちなみに、上の説明を読むと、何だかATOが一番良さそう(リードタイムと在庫のバランスが取れている)との印象を受けたかもしれない。だが、ATOを実現するためには、
(1)顧客がバラエティ豊かなニーズを持ち、それを受け付けられれば営業上の優位となること、
(2)バラエティを、モジュール化したサブアッシーや部品の組み合わせで実現できる製品アーキテクチャになっていること、
の2条件を満たせる必要がある。つまり、生産形態の選択には、設計部門や営業部門を巻き込んだ検討が必要なのである。

営業、設計、製造の3部門がそれぞれ分権化(あるいは分社化)し、「分業病」の高い壁で隔てられているような企業では、どのような生産形態が望ましいか、といった問題設定を立てること自体が難しくなっている。結果として、「なりゆき」思考で生産形態が決まってしまう。だが競争力を取り戻したかったら、生産形態に関する適切な戦略が必要なのだ。

もっとも、このサイトを読んでくださる読者諸賢の多くは、おそらく3部門を統括する社長でも事業部長でも、ないだろう。でも、そのような問題意識にあふれた貴方こそは、会社の将来、あるいは日本の産業の将来を担うはずの人材なのだと思う。だったらまずは、こうした分業病の限界に気づいて、一人一人が「なりゆき思考」から、脱却するべき時なのである。


by Tomoichi_Sato | 2019-02-24 15:00 | 工場計画論 | Comments(0)
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