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シンプル化のすすめ

最近、勤務先のPCの環境を移行・再構築せざるを得ない機会があった。まあ、一種のお引越である。面倒な作業だが、このチャンスに、少しファイルやアプリの整理をはかろうと思った。PCを数年間も使っていると、いつのまにか、ローカル環境にも、不要なもの、使わなくなったものが溜まってくる。引越は、ゴミ捨ての良い機会でもある。よし、デスクトップもクリーンにしよう。自分の環境は、できる限りシンプルにしよう。そう、考えている。

いろいろな事を、シンプル化したい。最近はそういう気持ちが強くなった。その方がすっきりして、精神衛生にも良いし、集中できるからだ。

わたしは元々、整理整頓・お片付けがそれほど得意ではない。机の上は、ほっとくとすぐ乱雑になってしまう。読んだりファイルしたりしなければならぬ書類が、どんどん積み上がっていく。そのあげく、書類探しで余計な時間を費やすことになる。忙しいから書類整理の時間がとれない、と自分では思っているのだが、その結果、生産性が下がって、さらに自分を忙しくしているのだ。こういうことを何年間も繰り返し、さすがに「このダウン・サイクルから抜け出すべきだ」と思った。

一つのきっかけは、ある方からのEメールだった。

わたしは経営企画部門の仕事をしているため、回ってくるメールの情報量が多い。わたしでこれなら、本物の経営トップの所には、さらに大量のメールが入ってくるに違いない。

ところで、昨年、ある日本でも指折りの大企業のトップに、直接メールする機会があった。そうしたら、数時間以内に当人から短い返信が返ってきて、度肝をぬかれた。当然、秘書経由で2〜3日後に返事があるんだろう、と想像していたからだ。

その後、ご本人に実際にお目にかかる機会があったが、その頭の回転の速さ、視点の戦略的なことに、また印象づけられた。だからこの会社は、低迷する同業他社を尻目に、業績を伸ばしているのだろう。それにしても、本当に仕事ができる人は、ボールをすぐ相手に打ち返して、自分のコートに止めておかないのだだな、と思った。それなのに、はるか格下のわたしが、何日も遅れて返事するのは、まことに恥ずかしいと肝に銘じた。

そこで、最近わたしが取り組んでいるシンプル化のやり方を簡単に記しておこう。けっして偉そうなことは言えないが、多少なりとも読者諸賢の参考になるかも知れない。

まず、モノのシンプル化である。

自分の持ち物は、自分なりに、ずいぶんと減らした。自分が好きで、大事なものだけを手元に残すように心がけるようになった。たとえばワードローブには、自分が気に入った服だけが並んでいる。引き出しには、いつも使う気に入りの文房具だけが入っている。こういう状態が、理想だ。

ベストセラーになった近藤麻理恵・著「人生がときめく片づけの魔法」には、不要なものを捨てる際のテクニックが、いろいろ書いてる。この著者によると、片付けの際は、自分が持っている服を、全部、床の上に並べろ、という。つまり在庫を一望できる状態に「見える化」するのだ。服全部だと多すぎる場合は、カテゴリー単位に、たとえばシャツなり上着なりを、全部棚から出してきて並べる。その上で、一つひとつ手にとって、「ときめく」かどうかを感じろ、という。ときめかなくなったものは、感謝した上で、捨てろというのだ。いかにも感性が女性的だが、とても面白い。

自分もそれにならって、いくつかのカテゴリーについて思い切った整理を行った。さて、モノが減って少なくなると、なんにもしてないのに、自然と部屋の中が整った形になってくる。これは思いもよらぬ効果だった。

実際、いろんな沢山のモノに囲まれている生活よりも、大切な少数のものを長く使う方がカッコいい。学生の頃、聞いた話がある。ヨーロッパの人は、たとえば毛皮のコートなど、仕立て直して長く着続ける。ときには、親から子に引き継ぐのだという。その後、西欧の街で短いながら暮らす機会があったが、周りを見ていると、たしかにそんな感じがあった。

本当に良いものは、長く使える。値段が多少高くても、引き合う。だから質素な暮らしぶりの人達でも、仕立ての良い服を着ている。環境派の人はリサイクルなどを盛んに言うが、それよりも、長く使える良いものを買う方が地球に優しい。すごく安いけど、買ってすぐダメになってしまう衣類を手に、出張先でため息をついた。

ただし、シンプル化の目的は、整理整頓ではない。見た目が整うことは、むしろ副次的な結果だ。けっして、美意識のためにやっているのではない。また、通常思われているように、シンプル化できるかどうかは個人の性格の問題でもない。片付けられない奴はダメな奴だ、という風には、わたしは思わない。台所はゴチャゴチャだけど、ため息が出るほど美味しい料理を出す人だっている。美観の問題ではなく、その人の大切なモノがちゃんとすぐ出てくるようにすることが、目的なのだ。つまり、シンプル化は生産性向上の問題である。

まとめよう。
(1) モノを整理するときは、カテゴリー単位に在庫の全貌を見てから取捨選択する
(2) 気に入った良いものだけに囲まれて暮らす
(3) モノが少なくなれば、必然的に部屋は整う

モノの次は、タスクのシンプル化だ。昨年わたしはシカゴに行ったときに、有名なLeo Babuta氏のサイト"ZEN habits"を読み、あらためて作業をシングルタスク化して、単純化することの大事さに感銘を受けた。("Creating the Elegance of Simplicity & Focus in Your Work Day” https://zenhabits.net/elegance/
Leo Babutaの教えは、単純だ。
・一度に一つのタスクだけに集中する。できれば10〜15分間は中断せずに。
・PCでもスマホでも、一つのアプリだけを立ち上げる。気が散らないようにするためだ。
・ブラウザのタブも、一つを残して閉じる。もし必要ならば、ブックマークしておく。
・メーラーも、メールの読み書き以外をしているときは、閉じる。

メーラーについては、わたしもかつて「メーラーを閉じろ」(2008-10-18)なる記事を書いたことがあるので、同感だった。だが、Leo Babutaの徹底ぶりは、はるかに上をいっていた。ブログには、彼のiPhone画面がのっているが、その何もないシンプルさには驚嘆した。

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彼の場合、アプリは全部、一つのフォルダの中にしまってある(それは別の頁においてあるので、画面には見えない)。ではアプリの起動はどうするかというと、検索画面から起動するのである。iPhoneでは、フロントページから1スワイプで検索窓が出てくるし、最近使ったアプリのアイコンがその下に並ぶ。だから実際やってみると、複数の画面をめくっていくより、ずっと簡単で早い。

比較のために、普通のiPhoneのホーム画面をのせよう。誰のiPhoneかは、ご想像にお任せする(笑)。残念ながら、なんとゴチャゴチャしていることか! この手のアイコン・タイルが、さらに数画面も続くのだ。
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つづいて、Eメール処理のシンプル化にも取り組もう。モノのシンプル化に比べ、メールや書類は情報だから、取り組みがやっかいだ。

まず、毎日送りつけられてくる大量のダイレクトメールは、極力、すべて購読を止める。毎日、いちいち仕分けして捨てる手間とイライラを考えれば、元から絶つ方が得だ。

つぎに、メールはタイトルやプレビュー画面をざっと見て、以下の3種類に仕分ける:
A. アクションや返信が必須のもの
B. アクションはいらないが、仕事上、必読の情報を含むもの
C. 参考的な情報

BとCは、それぞれ「必読」と「後で読む」のフォルダに移す。インボックスに残るのは、Aランクのものだけだ。一つひとつ開けて、すぐにアクションをとる。開けたメールは、しかるべきフォルダに移す。こうして、インボックスは、極力、きれいな状態にしておく。

すぐ返信できないような内容のメールは、いついつまでに回答します、とまず返信しておいて、自分のToDoリストに期限付きでタスク化する。この方が、何も言わずに数日たってからアクション結果を返信するより、ずっとシンプルだし、相手にも感じが良い。

ここでのポイントは、ToDoリストの利用だ。メールボックスというのは、実は一種のタスクリスト(=ToDoリスト)である。そこには読むべき未読メールと、返信すべき既読メールが、着信時間順に並んでいる。だが、自分にとっての優先度順には並んでいない。ここが不便なのだ。

ところで、拙著『時間管理術 (日経文庫)』にも書いたとおり、ToDoリストをきちんと回す最大の秘訣は、一つのリストに集約することである。いくつものタスクが、複数の異なるリストに入っていたら、自分がやるべきタスクの全貌が見えない。だから仕事上であれプライベートであれ、すべてのToDoを一つのリストに集約する。自分には、1日に24時間しかないのだから、当然である。

ここでも、「持っているタスクの全貌を見えるようにする」が秘訣だ。タスクを全部、ToDoリストの形で、見渡す。それを優先度順に並べ替える。そして最重要なタスクから、一度に一つずつ、取り組んでいく。ToDoリストに転記する手間が面倒に思えるが、得られる効果の方がずっと大きい。

なお、Bランクのフォルダに移した未読メールも、それを読むタスクを定期的にToDoリストに入れておく。時間は30分から、1時間程度にとどめる。Cランクのフォルダは、気が向いたときに読めば良い。

まとめよう。
(1) 一度に一つのタスクに、集中する。最低でも10〜15分間は。
(2) 集中できる環境を作るため、余計なアプリは閉じる。メーラーの通知機能もオフにする。
(3) メールはToDoリストを併用して優先度をコントロールし、読んだら極力その場で返信する。

くどいけれど、シンプル化の目的は、美学でも整理整頓でもない。知的生産性を向上させることにある。なぜ、知的生産性を上げたいのか。それは、「落ち着いて考える時間」を手に入れるためである。


<関連エントリ>
 →「メーラーを閉じろ」http://brevis.exblog.jp/8779827/(2008-10-18)


by Tomoichi_Sato | 2018-01-08 21:00 | ビジネス | Comments(0)
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