宋文洲氏は中国出身の元留学生で、今や著名な経営者である。創立した会社・ソフトブレーン(株)がまたたく間に店頭公開から東証一部まで上場したことで、経営者としてのビジョンがいかに正鵠を射たものであったか、皆が知るところになった。
しかし、宋さんは最近、そのソフトブレーン社の代表権を返上し、単なる会長職に退いてしまった。「上場した会社は公器だ。いつまでも創業者兼経営者が牛耳っているべきではない」との信念からだという。たしかに、一般にワンマン組織は、その経営者個人の器を超えて大きくなることができない。だから、この出処進退の見事さはさすがだ。だが、たいていの経営者はそれができずに、老害や後継者問題で会社をぐちゃぐちゃにしてしまう。宋さんができた理由はなぜかというと、おそらく彼は何よりも、自分の信じる理念・原則に忠実なのだ。理念原則に忠実というところこそ、工学博士号をもつこの人を理解する鍵だと思う。 その宋さんが書いた本書は、「やっぱり変だよ日本の営業」と同様、非常に面白い。その面白さは、表紙帯に描かれたマンガが象徴している。社屋ビルが描かれ、最上階では社長が「まかせるから失敗すんなよっ!」と部長に向かって怒気をあげている。中階の部長は階下の課長に向かって「おまえが責任者だから考えろっ!!」と怒鳴る。その課長は正面入り口から一般社員の背中を蹴りながら、「甘えるなっ、結果がすべてだっ!!!」と叫んでいる。これぞたしかに、ダメな会社の典型である。 それぞれのセリフはどこでも良く聞くセリフだ。では、どうしてダメか。それは、結果だけを命じて、方法を示していないからなのだ。このような思考方法を「根性論」あるいは「精神主義」と呼ぶ。精神主義と計画経済(=命令経済)の2つは、文革で若いころ辛酸をなめた宋さんがもっとも嫌うものである。 日本的経営に共通する特質の一つに、「情報」の軽視がある。そんなことはない、情報は重視している、との反論はあちこちから聞こえそうだが、はたしてそうだろうか。現代日本では情報という言葉に、どちらかというと『情け』『報い』を読みとりたがる。しかし、本来は「敵情報知」の略語だったことを、本書で初めて知った。そういう意味では、情報軽視と言うより、「データ」「客観的事実」の軽視と言うべきかもしれぬ。とにかく、敵情を知らずに作戦を立てるのだから、精神論に陥るのは必然だろう。方法や手順などのプロセスは誰も教えてくれぬ。 前著は主に営業の非能率に焦点を当て、プロセス改革をといたものだったが、本書はさらに生産計画や本社管理部門までが対象になる。そして最終的には、「ダメなマネジメント」論に到達する。“まかせるから失敗すんな”という社長は、じつは何もまかせていないに等しいのだ。とはいえ、「ダメな会社」の愚かさを真っ向から怒らず、笑いを武器にする点が何ともかしこいし、読んでいて楽しい。 こき使われる毎日で、ガンバリズムや精神主義にあきあきしたら、解毒剤に本書を読むといい。もっと有効なのは、たぶん社長室の前の廊下にわざと本書を落としておく方法だろう。もっともまだ私は試していないので、だれかやってみてから効果を教えていただきたい(^_^)。
by Tomoichi_Sato
| 2006-01-20 01:06
| G 書評
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