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基本的フレームワークで4種類のビジネスモデルを理解する


企画部門で働いていると、ときどき外部から質問だのアンケートだのが送られてくる。このごろは、「御社ではビッグデータに取り組まれていますか」という意味の質問がときどき来る。しかし、なぜそんなお門違いのことを聞いてくるのか、と思ってしまう。大企業は皆、ビッグデータを持っていると思っているのだろうか?わたしの勤務先はエンジニアリング会社である。どうみても送り先を間違えているだろう。それは、エンジ会社というビジネスモデルの基本類型を考えてみれば、自ずから明らかなはずなのだが。

わたし達の生きているこの社会でのビジネスモデルは、大きく分けて

 (1) 一般消費者向けの商品・サービスを主に販売するB2C(Business to Customer)モデル
 (2) 他の企業・組織向けの商品・サービスを主に販売するB2B(Business to Business)モデル

に分類でき、それらはさらに

 (a) 需要の予測にもとづいて、商品・サービスをあらかじめ用意しておく見込型ビジネス
 (b) 個別の注文を受けてから、商品・サービスを提供する受注型ビジネス

に分けることができる。つまり、全部で4種類が存在する訳である。そして、各企業の業務の特性や組織のあり方は、このビジネスモデルのあり方に大きく影響される。

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たとえば、液晶TVを生産する電機メーカーは、(1a)「B2C見込型ビジネスモデル」である。あらかじめ需要を見込んで商品を設計し、生産しておく。販売先は一般消費者だ。いや、電機メーカーの直接の販売先は、家電チェーンストアや一般家電店のはずだ、それに、企業や学校なども液晶TVは購入する--という反論も考えられよう。しかし、需要のあり方(量や種類)を最終的に決めるのは消費者だし、販売量も圧倒的に消費者向けが多い。だから、(1a)のB2C見込型、という見立てが適当なのである。こうした分類では、「主に」という面に注目するのが大事である。

自動車会社はどれだろうか。いわゆる乗用車を主に生産している会社がB2Cに属するのはわかる。ただし消費者は、購入時点で、どのモデルの車種を選ぶかだけでなく、外装や内装、ATかマニュアルか、エアバッグ等のさまざまなオプションを選ぶ。したがって、個別に見ればどれひとつとして同じ車はなく、すべて受注生産だ--という事を強調したがる人も多い。じゃあ(1b)「B2C受注型ビジネス」かというと、わたしはそうは考えない。じつは自動車を構成する数万点の部品のうち、顧客指定の個別仕様でかわる部分の比率は非常に小さく、車種・モデルによる共通点のほうが圧倒的に大きい(だから「モデル」という概念が成立するのだ)。おまけに、日本の自動車工場では、じつは海外輸出向け製品が案外大きな比重を占めている。このことはコンサルや学者もほとんど言及しないか忘れているようだが、見込生産分がそれなりに多いのだ。だから自動車メーカーも、(1a)「B2C見込型ビジネスモデル」に属するといっていい。

サービス業で言えば、鉄道・航空・ホテル・携帯電話など、一般消費者向けの業種の多くが(1a)に属する。預金者を相手にする銀行業も(1a)である。学校、保育、病院なども、民間ビジネスとして見れば(1a)に属する。

では、(1b)「B2C受注型」にはどんなものがあるのか。たとえば宅配便というビジネスは、その典型例だ。またオーダーメイドの服しか作らぬテーラーや、高級オートクチュールなどはこの種類になる。サービス業としての弁護士なども、多くはこのタイプである。ただ、基本的に顧客数が多くなるB2Cビジネスで、個別性の高い商売を続けるのは、どうしても効率がわるい。だから、成長拡大しようとすると、ある程度の「パターン」「モデルコース」「商品メニュー」などを事前に取りそろえて、人員や資源を配備することになる。その結果、しだいに(1a)タイプに移行していくわけで、(1b)はむしろ(1a)を補完する形で、個別需要を満たすような、ラスト・ワンマイル的な、あるいは高級顧客向けの業態として残るケースが多い。

(2a)「B2B見込型」は、基礎化学・素材メーカーが典型である。エチレンだのプロピレンだのといった商品は、普通の消費者が買いに来るものではない。ERPなど業務パッケージ・ソリューションのベンダーもこの部類だ。また、自動車業界の系列として、ジャスト・イン・タイム供給に全面的組み込まれている部品メーカーなども、じつはこの部類に属する(部品メーカーは受注生産に分類されるのが普通だが、この種の業態では、じつは注文を受けてから製造しているのでは間に合わぬ。だから内示などの需要見込を起点に、自己責任で作り始めるのである。「受注生産という名前の見込生産」「PushでPullで」を参照のこと)。

(2b)「B2B受注型」にはどんなものがあるだろうか。たとえば、わたしの勤務するエンジニアリング業は、典型的な企業相手の受注ビジネスである。製造業の顧客相手に、工場を設計して納める仕事だ。製鉄業も、納める相手は企業だが、基本は受注生産である。産業機械・工作機械もこのタイプが多い。いわゆる建設業も、ほぼB2B受注型ビジネスの範疇に属する。住宅建設で建売の場合でも、通常は不動産デベロッパーが直接顧客である。もし注文住宅専門のところがあるとしたら、それはさすがに(1b)タイプだが。このように、同じ業種分類でも、ビジネスモデル種別が異なることはありうる。

もちろん、同じ会社の中に二種類以上が同居する場合もある。医薬品メーカーは基本的に見込生産だが、いわゆる医家向け医薬品と、店頭で販売する売薬では、モデルが異なる。前者は、医師の処方箋が必要な医薬品で、病院や薬局などで渡されるものである。ふつうの消費者が知っているのは後者の方だろうが、じつはビジネス規模としては前者の方が大きい。(1b)と(1a)が混在しているといえるだろう。

こうしたビジネスモデルの基本類型は、教科書的に言えば「企業が戦略として選ぶ」だろうが、現実には“結果としてそうなっている”場合も多いだろう。売る商品と市場の形から、4つのタイプのどれになるのかが自然と決まってくるのだ。

そして、このビジネスモデル基本類型のあり方は、企業の特性や組織に大きく影響を与える。たとえば(1a)のB2C見込型企業では、幅広い販売網の形成と維持が不可欠である。とくに現代の成熟した消費者市場では、モノを作る側よりモノを売る側の方にボトルネックがある。したがって営業組織の人数が、いきおい多くなる。社内での発言力も大きいだろう。もしかすると工場は製造子会社化しているかもしれない。また、このタイプではTVなどに広告宣伝も打つから、結果として会社の知名度も高く、マスコミの注目度(とりあげる頻度)も大きくなる。

B2Cビジネスの特徴は、「大ヒット」商品が存在しうることである。消費者の購買行動には、他の消費者と同調する傾向がある。だから、「良く売れている商品だから買う」「人より一歩早く流行に乗りたいから買う」行為、つまり商品それ自体の価値とは直接関係しない購買が少なくない。そしてヒットが生じれば、マスコミがニュースとしてとりあげ、さらに注目されるスパイラル効果が生じる(マスコミ、つまり放送・新聞・出版業もまたB2C見込型ビジネスなので、ヒットを題材にできるとありがたい)。かくして、いったん大ヒットになれば、企業として売上面の大幅な成長が期待できる。工場でこつこつカイゼンして作るより、ずっと儲かるのだ。結果として、組織内に「ヒット待望論」的なムードも生じ、製品企画部門がその期待の中心になる。

さらにいえば、このタイプは顧客データが膨大になる。そこから需要傾向をつかむ事も大切なので、顧客マスタの統合・維持がIT面での大きなテーマだろう。冒頭にあげた『ビッグデータ』でワイワイ騒いでいるのは、ほとんどがこの(1a)タイプのビジネスである。なのに、相手の企業の業容を考えずに、どんなキーワードも同じように適用できるとIT産業の人たちが思っているのだとしたら、少々おめでたい。だから、「相手の業容」を理解するための簡単な道具の一つとして、このビジネスモデル分類の話をしているのである。

(1a)の対極にある(2b)「B2B受注型ビジネス」は、広告やマスコミ取材という華やぎもなく、一発大ヒットも生じにくい、地味な世界である。しかし、移り気な消費者の好みによる需要の急減もなく、目先をかえるために半年ごとに製品開発を繰り返す必要もない。とくに生産財の場合、まともな購入側は、価格のみならず実績・品質・納期なども必ず勘案して、総合的に判断する。だから、よほど汎用的なモノでない限り、品質度外視の無謀な価格競争には比較的陥りにくいし、新規参入だってB2Cほど楽ではない。

したがって、自分のポジションの利点をきちんと理解し、有利性を確保するよう戦略的に動くことができれば、きちんと利益を上げることも難しくない。本間峰一氏が「受注生産に徹すれば利益はついてくる!」で指摘するように、銀行の融資はむしろ受注生産企業の方が得やすいのも、このような理由による。

そのかわり、自分から積極的に新製品を生み出して、市場にイノベーションを起こそう、という発想がうすくなる。小さなカイゼンは行うだろうが、冒険的な提案や改革は起こしにくい。(2b)タイプの企業では、営業、とくにマーケティング機能が弱いのだ。何ごとも顧客から直接要求されない限り動かない、という『Pull型発想』が強くなる。このような体質は、社内的な「B2B受注型」機能である、情報システム部門や物流部門などにも共通する問題点だ。

(2a)型や(2b)型の企業は、サプライチェーンの中では消費者よりもずっと上流に位置することが多い。したがって、大規模で海外展開の進んだ企業であっても、その物流はかなり計画に沿ったものになる。(1a)型企業が、気ままな需要変動に対応するため、あちこちにストックを保有したり、小口多頻度物流を余儀なくされるのとは対照的である。

このように、企業の組織体制や業務スタイルは、その会社の基本的なビジネスモデル類型にしたがって大きく変わる。この差は、いわゆる製品別の「業種分類」などよりもしばしば強く、同じ業界内でも対話がかみあわないことがよくある。周知の通り、わたし達の社会では、官庁が業種別に監督権限を持ち、業種団体を束ねたり、政策を考えたりする傾向が強い。だが、彼らの政策が現実のニーズになかなかフィットしないのは、このようなビジネスモデル別の視点が乏しいためではないだろうか。

この点はコンサル業界やマスコミなども同様で、やれグローバル戦略だビッグデータだとかまびすしいが、もう少し相手のタイプを見て話しかけたらどうか、と思うことがよくある。米国には(1a)型で成功した大企業が多く、彼らのやり方がなんとなくカッコいいから、それを輸入・模倣したらどうかと考えるらしいのだが、(2b)世界で生きている者にとっては、余計なお世話である。

企業とは、需要情報を起点とし、モノやサービスや情報という形で付加価値を創造して、顧客に提供する「システム」である、とわたしは考えている。このシステムの基本類型として、4種類のビジネスモデルがある訳だ。だから、他の企業に対して何かを提案したり持ちかけたり、あるいは分析したりする際には、相手がこの4種類のどれにあたるのかを最初に考えるのが、習慣になっている。種類ごとに、相手の抱える課題や悩みは異なる。相手を知り、おのれを知ることこそ、対話の基礎だ。だから、こういうフレームワークを、皆がもっと共有できるといいと思う。


<関連エントリ>
→「受注生産という名前の見込生産」(2008-07-08)
→「書評:受注生産に徹すれば利益はついてくる! 本間峰一・著
by Tomoichi_Sato | 2014-08-30 22:11 | ビジネス | Comments(0)
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