供述によるとペレイラは…
現代イタリア文学のトップランナー、タブッキの'94年の傑作。幻想的ないつもの作風とは異なり、リアリスティックな叙述で人間の生死と意思、そしてファシズム下の社会をまっこうから描いた本作は、伊文学最高のヴィアレッジョ賞を受賞している。 舞台は(なぜかイタリアではなく)ポルトガルのリスボン、それも、サラザール首相が長期独裁政権をはじめた1930年代のリスボンだ。隣国スペインでは共和国軍とフランコ将軍が内戦に突入している。そして社会全体を、ファシズムの不気味な影が覆い尽くそうとする時代だ。そのさなか、主人公の中年新聞記者ペレイラは肥満と持病の心臓に悩みながら、社会とは無縁の文芸面の主任として、紙面作りのために大学出の若い助手を雇おうとする。しかし、その助手と彼の婚約者との出会いは、ペレイラの運命を大きく変えてしまうことになる・・ ファシズム前期の社会とは、表向きは法と秩序と民主主義が支配しているように見えながら、じつは情報隠蔽の下、権力者のための暴力的別働隊が、警察の見て見ぬ振りの協力のもと、気に入らぬ人間を文字通り抹殺するために隠然と動く社会だ。タブッキはその不気味さを、落ち着いた筆致の中で描いていく。主人公の疑問に対して、大学教授の友人も、信頼する神父も、満足できる答えをくれない。ヨーロッパで何が起こっているか、隣国スペインで何が起こっているか不安に思わないのか、との問いに、「だいじょうぶ、ここはヨーロッパじゃないからね」と答える友人が象徴的だ。 この小説は、典型的な序破急の展開になる。最初はゆっくりと穏やかにはじまり、しかし半ば頃から主人公は目に見えぬ何者かに心を乱され、最後に物語は疾走する。心臓を気にしてずっとレモネードを飲んでいたペレイラが、決意の日、カフェで辛口のポルトを飲み干し、亡き妻の写真を鞄に入れて出発するシーンは感動的だ。彼と似た時代を生きる今日のわれわれにとって、必読の小説である。
by Tomoichi_Sato
| 2011-12-01 21:26
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