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仕事の最小単位(2)--アクティビティのパフォーマンスを測る

アクティビティが『お仕事の最小単位』であり、マネジメントの基本部品であることは前回の説明でご理解いただけたと思う。このアクティビティは、ときに「タスク」と呼ばれることもある。わたしも以前はタスクという呼び名の方を使うことが多かった。だが、プロジェクト・スケジューリング(特にPERT/CPM)の理論では伝統的に「アクティビティ」の語が用いられてきたこと、さらにPMIのPMBOK Guide(R)が、activityよりもっと細かな日々の雑務を"daily task"と呼んでいることなどを考え合わせて、このように語法を変えることにした。

ちなみに生産スケジューリングの分野では、アクティビティという語はあまり使われず、ほぼ同じ概念が「タスク」とか「オペレーション」とか、あるいは「オーダー」と呼ばれたりする。もっとも、プロジェクト・マネジメント理論では仕事を中心に、そのインプットとアウトプットとして材料や成果物がある、と捉えるのに対し、生産スケジューリングでは逆に、材料や成果物など(つまりマテリアル)が視点の中心で、その材料を成果物につなげる媒介としてタスク/オペレーションを考える伝統が強かった。つまりモノが主役で作業は脇役な訳である。わたしはこのような物質中心の思考を転換したくて、あえて作業を抽象化した「工順」という概念を中心に据えようとしてきた。

ま、それはさておき、アクティビティに話を戻そう。「人に仕事をしてもらう」がマネジメントの基本であり、その指示する具体的実体がアクティビティである。アクティビティには、必要とするアウトプット・インプット・リソース・完了条件があり、それを明確にして指示を出すわけだ。ところで、その結果として、アウトプットが出てくれば、それだけでOKだろうか? 単に仕事をしてもらうのは必要最低限なことだが、できればちゃんと仕事をしてもらいたいと思わないだろうか? でも、「ちゃんと」した仕事と、不手際な仕事とは、どこが違うのか。

それを決めるためには、仕事の手際を評価する尺度をもたなければならない。つまり、マネジメントにおいては、アクティビティのパフォーマンス指標が必要なわけである。

アクティビティの評価尺度として、誰もが真っ先に思いつくのはコストであろう。どれだけ低コストで結果を出せるか。たとえば、あなたが、自分のプロジェクト・チームの立ち上げのために、作業用PCと机を10台ずつ用意する作業をサービス部門に頼むとする。どれだけ費用がかかるかは、たしかに重要なモノサシである。

しかし、コストさえ安ければそれでいい、と考えるほどあなたは単純ではない(はずだ)。もう一つ大事なものがある。それは納期だ。プロジェクト・ルームはなるべく早く立ち上げたい。社内の購買部門にはコストのみが優先事項だと信じている連中も多いけど、たかがPCの価格ネゴに半月かけて納品が1月後では、肝心の仕事が立ち上がらなくなってしまう。つまり、コストと並んで重要なアクティビティのパフォーマンス指標は、『時間』なのである。

コストと時間。少なくともこの二つは、アクティビティを測る必須の尺度となる。つまり、マネジメントはこの2軸を中心に仕事を導く必要がある。

ところで、コストにいったん話を戻すと、費用を考える場合、そのアクティビティを指示する先が、自社なのか、外注先なのか、あるいは自社でも別部門なのかで、少し話が異なってくる。ここでは一応、自社を前提に考えよう。では、自社のアクティビティのコストとは、本当は何を指すのか。

たとえば、あなたが自分のプロジェクトのテスト工程の一部を、他の部署の誰かに臨時に頼むケースを仮定しよう。ハードウェアのモジュールを10台ほど、出荷前の最終立会検査までに、事前に調整・テストしておかなければならない。計200以上の調整・テスト項目はリストにまとまっており、要領書も作成済みだ。でも追い込みの時期は忙しいので、力仕事の部分に手助けを頼むわけだ。この仕事を、他部門に依頼する。このとき、コストとは何だろうか。

原価管理の考え方では、原価は材料費・経費・そして労務費(人件費)からなる。材料(インプット)として必要なモノは10台のハードウェア・モジュールだが、これは支給するので費用はゼロだ(すでに製造アクティビティで計上済み)。試験器も会社の備品として持っている。問題は隣の部門の人件費である。

人件費のコスト化は、会社の取り決めにも依存している。本社の人件費は全部、一般管理費として丼勘定の中においている企業も、いまだにとても多い。こういう会社では、誰がどれだけ労力をかけようと、見かけ上は「タダ」である。他方、ホワイトカラーの時間をかなり細かく集計している企業もある。後者の場合、他部門の人件費も、その作業時間に単価(賃率)をかける形で集計される。

かりに、あなたの会社はとても先進的で(あるいは、とてもケチで)、各人がどのプロジェクトのどのアクティビティで何時間使ったかを、タイムシート上ですべて把握していると仮定しよう。そうすると、これでテスト作業に借り出された人たちの時間数が分かるから、賃率をかけると人件費が計算できる。ちなみに、日本企業のホワイトカラーの賃率は1時間数千円から1万円程度の間に入るケースが多い(給料の差よりも、オーバーヘッドの乗せ方の基準の違いで、大きく差が出る)。

あなたの依頼したテスト項目を全部こなすのに必要な時間は、延べで約100時間だった。二人がかりで1週間ちょっとの作業量である。慣れている自分達がやれば、もっと手早かったのに、とあなたは思う。でもとにかく、2人の人的リソースを、実働で7日近く占有したのである。

必要なリソースの量。これがアクティビティの第3の評価指標なのである。単位は(リソース数)×(時間)で通常は測られる。そして、これに単価をかけると、リソースの費用になる。一方、投入できるリソース量を決めると、アクティビティ遂行に必要な所要期間のベースが推算できる。つまりリソース量は、コストと時間という、2つの主要なパフォーマンス指標をつなげるパラメータとなっているわけだ。

コスト(Cost)、時間(Time)、リソース量(Resources)。石油メジャーのShellなどでは、仕事の最小単位をアクティビティと呼ぶかわりに、これら三大指標の頭文字をとって、最近『CTR』と呼んだりしている。名は体を表す、面白い言い方である。どこに着目すればいいか、初級マネージャーにとっても明確である。そして、一つの仕事が終わるたびに、これら指標を計測し、前回述べたようなアクティビティの辞書に実績を記録してデータベース化していくのである。ここまで実現できたら、たしかに「マネジメント・システム」と呼んでも良いだろう。
by Tomoichi_Sato | 2011-01-27 07:15 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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