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「システム輸出」戦略は成立できるか - 日本アラブ経済フォーラムに出席して

チュニジアで開催された「第二回 日本アラブ経済フォーラム」という国際会議に参加してきた。日本からは官民あわせて約400名が出席したようだ。アラブ各国からの出席者はそれを上回るだろう。

チュニジアは地中海に面した、北アフリカの小国である。両隣にはリビアとアルジェリアという産油国があるが、自国はあまり天然資源に恵まれていないため、教育、商業、観光に力を入れている。人口約1千万人のほとんどがアラブ系でアラブ連盟に属し、公用語はアラビア語。ただし仏の植民地だった影響でフランス語は広く通用するし、英語もちゃんと通じる。首都チュニスの12月の気候はやや肌寒く、アフリカと言えばどこも暑い、というステロタイプの思い込みは、空港に降り立ったとたんに間違いだと思い知らされる。

日ア経済フォーラム」は、昨年(開催地:東京)に引き続き、第2回目である。閣僚級が集まるオープニング・セッションにはじまり、「エネルギーと環境」「人材育成」「観光と投資」などの全体セッションと続き、クロージング・セッションで終わる。また途中に分科会として、「太陽エネルギー」「水」「原子力」「インフラ」「アラブにおけるビジネス」「IT、ハイテク、衛星」のWorkshopがはさまる。わたしは「インフラ」の分科会で、"Project and Program Management"と題する短い講演発表を行った。

ところで、上記各セッションの中に、「石油」が無いことにお気づきだろうか? アラブといえば石油、というのが日本における共通理解(=固定観念)だろう。だがアラブ世界の国々は、4種類に大別できる。産油国と、そうでない国。そして、中東と、北アフリカである。共通点はアラブ民族とアラビア語、そしてイスラム教だが、全部を一緒くたに考えることはできない。とはいえ、人口は合計3億人以上、人口増加率も経済成長率もそれなりに高く、中国・インドに次ぐポテンシャルを持っている地域だと言えよう。

日本からは、外務大臣と経済産業大臣の二人の閣僚が出席した。それなりの力の入れようがわかる。ところで、フォーラム終了後にネットで日本のニュースを検索したところ、「外相、経済外交を陣頭指揮」といった見出しが出てきて、思わず笑ってしまった。これは、現場を見ていない記者による、あおり記事にちがいない。なぜなら、このフォーラムを全面的に仕切っていたのは経済産業省だからだ。

わたしも今回初めて知ったのだが、日本には「中東調査会」と「中東協力センター」という、ちょっと見よく似た組織が二つある。前者は外務省の、後者は経産省の外郭団体である。そして、今回のフォーラムで会場のセッティングから送迎の手配まで、ロジスティック関連の雑務を一手に引き受けていたのは中東協力センターの方だった。セッションの企画や調整は経産省から官僚が大勢出張してきて切り回している。え? 外交って外務省の仕事じゃなかったの? というのが、諸般の事情に疎いわたしのような会社員の、率直な感想だった。

両大臣のスピーチも対照的だった。外相のスピーチは、経済協力から中東平和への言及まで含んだ、しっかりした内容だ。ただし、本人は用意された原稿を読んでいくだけ、というもの(原稿は官僚の作成だろう)。もっとも外相は北米、インドネシア、チュニジア、そしてアルジェリアと連続して世界を飛び回っており、超多忙な仕事ぶりであるのは確かだ。一方、元技術者だという経産相は、正直あまり立派な文章とは感じなかったが、とにかく自分で考え感じたことを話していた。

その経産相のスピーチの骨子が、じつは日本の「新経済成長戦略」と「産業構造ビジョン2010」なのである。あなたは日本政府(経済産業省)が最近、日本の経済まき直しのための戦略を立てたことをご存じだろうか? その上で、今年『戦略五分野の強化』という政策を打ち出した。それは、次のような5点からなっている:
・インフラ関連/システム輸出(原子力、水、鉄道等)
・環境・エネルギー課題解決産業(スマートグリッド、次世代自動車等)
・文化産業(ファッション、コンテンツ、食、観光等)
・医療・介護・健康・子育てサービス
・先端分野(ロボット、宇宙等)

とくに海外については、最初のインフラ関連『システム輸出』という新しい用語に注目して欲しい。これは、従来の日本の輸出が、自動車一辺倒、あるいはもう少し広く、単品としての「製品輸出」一辺倒だったことへの反省から出た言葉である。アジアや新興国のニーズは、工業化・都市化に伴う社会インフラの整備だ。それらは、鉄道であれ水道であれ発電であれ、マスタープランにしたがって構築・統合されるべき「システム」である。ところが、これらシステム全体の青写真を描き、実現にむけてリードしているのは欧米諸企業である。日本が車両や水処理装置やタービンなど個別の製品をいくら輸出してみても、それはいわば「部品メーカー」でしかない。当然、南欧や韓国メーカーとの価格競争に巻き込まれよう。部品メーカーがちっとも儲からないのは、日本国内を振り返ってみても明らかである。

「いや、うちの最新式水処理装置はそれ自体が高度な制御機能を持つシステムです。」などと主張しても、それは意味がちがう。地域の給水系ネットワークという、より大きな絵の中では、それは点に過ぎないからだ。途上国の政策をリードし、プランを牛耳っている者がどこか他にいる限り、日本企業は下請けの地位に甘んじなければいけないのである。

それでは、マスタープラン作りから全体の具現化までの、トータルな実行のためには何が必要か。それが「プログラム・マネジメント」の能力である、というのがわたしの発表の趣旨だ。プログラムとは、互いに関連し協調して遂行される複数プロジェクトのまとまりのことである。意味のあるプロジェクトを発進させ、また途中で価値を失ったプロジェクトは中断撤退させる。これは個別PMではなく、プログラム・マネジメントの仕事である。自分でここを押さえないと、あなた方は欧米に振り回されますよ、それでいいんですか? とアラブの人たちに訴えたわけだ。どれだけ相手に通じたかは分からないけれども、アラブ諸国は欧米の植民地として苦い目に遭っているから、その点だけは日本に親近感を持ってくれるだろう。

それにしても、このような国際会議の成功・不成功は何をもって測るのだろうか? 事情通によると、3点あるらしい。(1)参加者の人数、(2)成果としてのアウトプットがあること、そして(3)継続しうること、である。まず参加者の人数については、合計1,000人近い参加があったから、合格だろう。アウトプットとしては、「チュニス宣言」という文書が挙げられる。この中で日本とアラブ各国は、具体的な協力分野と方法について記している(ちなみに協力分野のトップはインフラである)。継続についても、第3回を2012年に日本で行うことが合意された。

だから大成功だった、と主催者は結論したいだろう。わたしもとくに異議はない。しかし、各セッションが対話としてかみ合っていたかというと、疑問に感じた瞬間もないではなかった。その理由は、日本側の意識にあると思える。'80年代・90年代の日本の輸出は「売ってあげる」だった(とくに途上国に対しては)。ところが2000年代に入ってからは「買って下さい」の立場に、力関係が逆転している。ちょうど、国内での生産形態が見込生産から受注生産に変化したように。だが、日本の大企業や年配者達は、まだこの変化に気づいていない人が少なくないようだ。今回のフォーラムは、そうした気づきを促した点に、最大の意義があったのではないかと思うのである。
by Tomoichi_Sato | 2010-12-15 23:17 | ビジネス | Comments(0)
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