確率的発想法~数学を日常に活かす
積年の蒙を開かれる本、とはこういう書をいうのだろう。天気予報で今日の降水確率が40%とは、何を意味するのか。かつ、この40%という予報が当たる確率は何%なのか。そういった疑問を感じた人は多いだろう。そんな疑問に対して、サイコロの目の数を場合分けする学校数学の確率論の知識は、たいした助けにはならない。 世の中にはそもそも、一回限りの出来事があまりにも多い。これに対して、フィッシャー流の統計的推定を使うのは居心地がわるい。そこで見なおされてきたのが、「主観確率」を基礎におくベイズ推計である。本書の前半は、この両者をおさらいすることで費やされる。 後半は、数学の世界から、「リスク」を軸にした理論経済学の世界に飛び出す。そこには主観的な判断に満ちた意志決定理論の沃野が広がっている。そして、人々は確率も分からない不確実性よりも、確率が分かっている不確実性の方を(たとえ等価であっても)好む、というエルズバーグのパラドックス実験にはじまり、足しても1にならない非加法性確率や、コモン・ノレッジの分析、ロールズの格差原理、中西準子の環境リスク・ベネフィット論への批判へとつづき、最後に「過去に向かっての確率論」への展望でしめくくられる。 本書はたぶん、自由市場経済至上派の人々には気に入られまい。厚生経済学、とくにロールズなどの思想的影響が色濃い。彼らは社会的不公正の問題から、情緒的側面を取り外し、あえて数学的アプローチだけで迫ろうというスタンスを持っている。そこで用いられるのが、知識の非対称性と不確実性(リスク)への考察である。著者の問題意識もこの線にそっている。おかげで、リスク判断と主観確率の関係についてもずいぶん勉強になった。タイトルはちょっとだけミスリーディングだが、お薦めできる良書である。
by Tomoichi_Sato
| 2010-08-14 00:31
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