販売目標と生産計画の不一致が、サプライチェーンの歯車のかみ合わぬ根本原因だ。前回、「生産計画の前にすべきこと」でそう書いた。そもそも、目標は計画ではない。計画はその通り実行されるのが当然だと、誰もが思う。これに対して、たいていの目標は達成できたら上出来だ。目標は背伸びした(ストレッチ)数字を設定するのがふつうだからだ。このため、製造部門の生産計画担当者は、営業部門の出す目標数字をてきとうに「割り引いて」計画を立てるようになる。このズレをなんとか正す必要がある。そこで今回は、販売の計画について少し考えてみよう。
多くの企業では、営業マンに対して販売目標や販売ノルマを与えている。これは金額ベースで、かつ(ふつうは)売上高を指標としている。営業マンはなるべく多く売りたい。また欠品による販売機会損失を最小にしたい。だから、「見積金額はできるかぎり安く」「製品在庫は出来るだけ多く」したい。これが営業と製造の争いの種になるのは周知の通りだ。営業部門と製造部門との間は、『製品在庫』という壁が仕切になって、相手が見えなくなってしまう。逆にいうと、製品在庫の存在が、一つの企業内で、販売目標と生産計画をそれぞれ独立に(バラバラに)立案することを可能にしているとも言える。 ところで、計画と目標のもう一つの違いは、計画は具体的なプロセスに詳細に展開できることだ。生産計画ならば、基準生産計画(MPS = Master Production Schedule)があり、それを部品展開して製造スケジュールや購買手配計画や要員計画に落しこんでいくことが可能だ。一方、販売目標はどうか。「頑張れ」という根性論以外、あまりプロセスが無いのが実態ではないか。 とすると必要なのは、販売目標ではなく「販売計画」と、それを実現するための具体的プロセス・方法論を確立することだ。それは何だろうか? 販売促進の方法論というと、広告や価格キャンペーン、チャネル政策などをすぐ思いつくかもしれない。たしかにそれもあるが、これらマーケティング活動の効果は、なかなか数字で推定しにくい。生産計画のためには、具体的な製品ファミリ別の数量(売上金額ではなく)が必要なのだ。。 数字ベースに根拠を与えてくれる一つの方法は、『需要予測』のプロセスを組み入れることだ。需要予測の具体的な精度を上げる確実な方法も存在する。ただし、需要予測という方法は、見込み生産の業態でないと適用できない。個別受注生産では利用できない。 見込み生産でも個別受注生産でも共通して使える方法とは、「営業案件のプロセス管理」である。あるいは「パイプライン管理」と呼ぶこともある。これは、全営業マンが抱えている案件をリスト化し、それぞれの進捗ステージ(初回訪問/商品説明/引合い/見積提出済み/クロージングなど)と、対象製品の数量・金額と受注確度を評価した上で、全体の受注量を見通す方法だ。 これに類する作業は、たいていの製造業では半期に一回か、あるいは月ごとに行なっているはずだ。しかし、各担当者の憶測やら希望的観測やらがおりまじって、その精度はけっして高くない。理由は簡単で、各販売員の抱えている案件情報が、マネージャーからリアルタイムに見えていないからだ。「受注しました」という結果報告か、あとは言い訳代わりの販売日報しか情報は上がってこない。 つまり、適切な「販売計画」立案のためには、営業情報のリアルタイムな可視化が必要なのだ。販売結果の報告ではなく、刻一刻と変わりつつある、販売途上の状況の可視化だ。これができれば、おのずから「営業案件のプロセス管理」ないし「パイプライン管理」の精度が上がってくる。販売計画の精度や達成率も高くなる。むろん、個別案件で重要なものや問題になりそうなものは、マネージャーが適切な指示を与えていく。これが(本来の意味での)販売管理であろう。 今日、多くの企業で生産計画に無駄が多かったり、サプライチェーンにきしみが生じたりしている原因の大半は、製造側や物流側ではなく、営業側のプロセス管理が貧弱なことに起因しているのだろうと、最近は考えるようになった。個人プレーや根性営業だけでは、もはやダメなのだ。優秀な営業マンはときどきいるが、優秀な営業マネジメントは日本企業には滅多に見かけないように思う。サプライチェーンの問題が、供給側ばかりに起因すると考えるのは片手落ちではないか。正しい販売計画の方法論こそが、じつは生産・物流の効率を上げることにつながるはずなのである。
by Tomoichi_Sato
| 2010-05-30 13:40
| A6 サプライチェーン
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