「MBAが会社を滅ぼす」 --マネジャーの正しい育て方
ヘンリー・ミンツバーグ著 (日経BP社) カナダ・マギル大教授のミンツバーグは、経営学の大御所であるが、また異端の経営学者でもある。彼を有名にしたのは「マネージャーの仕事」という研究で、実際の企業の管理者のやっているワークは、経営学の教科書が想定していることと大幅に違っている、との事実を明らかにした。 その彼は、現代のMBAのあり方に疑問をもち、ビジネススクールで教えるのをやめ、この数年間は自らが中心になって「IMPM」という新しい企業マネージャー向けの教育カリキュラムを組織実践するようになった。本書はその彼の考えを述べたもので、前半は現代のMBA批判、後半はIMPMの思想を書いている。全体として学術書の体裁をとっているが、後半は自分の発案であり客観的にかくのは難しい、と率直に認めている。 ただしその分、前半の現代MBA論は広範多岐にわたって調査事実をつみ上げ、総合的批判となっている。歴史、教育内容、教育方法、受講者層、受講動機、企業内での処遇にわたって功罪を論じ、問題点多し、と結論する。 ミンツバーグの批判の根幹は、こうである。マネジメントの成功は、アートとクラフトとサイエンスがそろったときに生まれる。アートは構想力、クラフトは職人的スキル、サイエンスは分析力のシンボルである。しかし、実務経験の浅い数年の若い学生の集まるビジネススクールでは、結局サイエンスだけを身につけることになる。ハーバード型のケースメソッド教育も、スタンフォード型の理論中心教育も、実際にマネージャーをつくる役には立たない。その結果、“MBAになってビジネス世界で追越し車線に移りたい”と野心を持つ若い人間を、分析偏重の『計算型』かアーティスト気取りの『ヒーロー型』マネージャーにしてしまう。こうした連中が、米国だけで10年間に100万人も世に出されるのだ。 その結果生まれた現象は何か。米国大企業のトップの4割はMBAだ。しかし経営者としてのMBAたちの成績簿は、決してよくない。その理由は細々とした雑事を切り捨て、現場を無視して、解決策の方程式を振り回しすぎる点にあった、とミンツバーグは事例分析を通して示す。 それでは、良いマネージャーを育てるには、どうしたらよいのか。マネジメントの根幹には「人を動かす」ことがある。本書の後半は、より実務経験の深い受講者を対象にした、分散的かつ多文化的なプログラムによるIMPM教育の思想について述べている。私自身、このコースには非常に興味を持った。これが理想で最善の教育のあり方かどうかはすぐに結論できないが、ミンツバーグらの試みは、あきらかに経営学者が教壇から教えるよりも、ミドルマネージャーたちが相互に触発研鑽しあえる仕組みを作とうとしている点に特徴がある。 訳書のタイトルは攻撃的だが、原題の"Managers not MBA"は、もっと建設的だ。彼の建設的な提案を、我々の社会はどう遇するべきなのか、もっと考える必要があるだろう。日本が、米国流の計算型ビジネスに浸食され尽くす前に。
by Tomoichi_Sato
| 2010-01-29 23:41
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