「神様じゃないんだから、需要なんて予測できない。だから、どんな注文が来ても、即応できるような体制の工場をつくらなくてはダメだ」--これは、ジャスト・イン・タイムを推進するコンサルタントの人達がよくいう言葉である。需要予測なんかに頼って、見込で生産していてはいけない。まして、製品在庫を山と積み上げておくなど愚の骨頂だ。必要なモノを、必要なタイミングに、必要な量だけつくる。製造リードタイムを短縮して、注文から数時間以内に出荷できるようにするべきだ。
そのために、小ロット化をすすめて段取り時間を極小化する。同時に、工員の多能工化を推し進めて、セル生産や一人屋台方式を実現し、大量生産時代の象徴であるベルトコンベヤーや自動倉庫を排除する・・。こういうお話を、あちこちで、それこそ耳にたこができるくらい聞かされている。その根本は、「需要予測に頼るな」というテーゼにある。予測がほんとに可能だったら、それこそ、決められた量の製品を、作りやすいように固めて作ればいいことになる。同じものを繰り返し作る方が機械は効率がいいし、同じ材料をまとめて仕入れた方が単価は安くなるに決まっているからだ。 ご存じの通り、アメリカ産のサプライチェーン・マネジメント・ソフトウェアは、たいてい「需要予測」機能を売りにしていた。あてにならない需要予測を、いかに精度を上げるか。その上に、いかに精緻な計画を作って実行するか。それが、「プッシュ型」論理で成り立つアメリカの製造業の夢だったのである。 ところが、日本の製造業(とくに自動車と電機業界)は徹頭徹尾、「プル型」の論理で成り立っている。“今日電話したら、明日持ってこい”が当たり前と思う顧客が大勢居て、それを受けなければ成り立たない営業体制がある。顧客指定の個別仕様で、『すりあわせ型』の製品・部品を求められるのが常だから、需要予測なんどというのんびりした事はやっていられない。予測や計画なぞに頼るのは、(まあ極論すれば)罪悪である。--これが「計画はずし」の論理であった。 さて。ここで一つ問題が生じる。それは、工場の拡張や新工場建設の問題である。2005年頃から昨年の夏まで、日本の製造業は久方ぶりの好況を経験していた。そして、活発な内外の要求に対応するため、新工場の計画があちこちで進められていた。この計画のベースは、何だろうか? もちろん、需要の見込みに決まっている。注文をもらってから、あわてて工場を建てる会社などない。どこの業界のどんな企業でも、新しい工場を建てる時には、中長期的な需要予測に頼らざるを得ないのである。 自動車業界も例外ではない。各社があらそうように北米に新工場建設を進めていた根拠は、当然、各社なりの米国需要の読みにちがいない。米国の自動車需要はまだ堅調に推移する。そう予測し、その上で投資計画を実行した人たちが、自動車メーカーには、いたのである。電機・電子業界も、似たような状況だったと想像される。そして、こうした予測は、残念ながら2008年9月の米国発金融不況によって、完璧に外れることとなったのだった。 そもそも、(以前にも書いたが)自動車業界のサプライチェーンというのは、その中心に自動車メーカーという巨大企業が居て、販売側の流通チャネル(ディーラー網)も、供給側の部品製造会社(系列サプライヤー)も、すべてコントロールする形になっている。サプライヤーを同期制御するためのツールとして、有名な『かんばん』ならびに先行内示がある。先行内示とは、当月・翌月・翌々月の製造見込み量を示すもので、サプライヤーはこれを元に、多少納期のかかる資材の手配をかけている。 そして、この「内示」というものは、自動車メーカーの生産計画によって決まる。その生産計画のベースは? むろん、直近の予測である。つまり、自動車メーカーとは、巨大なサプライチェーンの中で唯一、需要予測をする予測センターなのである。予測は一箇所だけですればいい。あとは全員、それにしたがって粛々と実行すればいい。各人が勝手な予測や見込や思惑で、ブレた行動を取ってもらっては困る--そういう論理で、この業界は成り立っている。だから「計画はずし」が指導されるのだ。 眼下の不況で、日本の製造業はどこも青息吐息である。なぜ、こうなったのか。むろん、受注量が急減したからだ。個別製品の需要予測に頼って、それが外れたからではない。予測に頼らぬ工場づくりをしてきた自負はある。だが、そもそも、ここまでベース需要が落ち込むことなど、誰が『予測』できただろうか? まことに、予測などあてにならない、そう、みなは感じているにちがいない。 だが、それは同じコインの裏面なのである。「落ち込みを予測できなかった」というのは、「落ち込まないと予測していた」のと、同じ意味だ。直近の需要予測は意識して排除したが、中長期の需要予測で大きく間違えた。それが今日の不況の原因ではないか。製造業においては、予測から無縁でいることはできない。それはとくに、工場能力の計画においてそうなのである。 これから何回かに分けて、あらためて『工場計画論』を考え直してみたいと思っている。この状況下で、何を寝惚けたことを、と批判されるかもしれない。しかし、あえてこういう時期だから、やってみたいのである。旭山動物園の物語をご存じかもしれないが、「理想とすべき動物園の姿」は、一番厳しい冬の時代に考えられたのである。低迷している時ほど、本来の姿を考えるべき時なのだ。 この不況は、いずれ終わる。最終需要予測のずれから生じた、一過性のブルウィップ効果によるものなら、トンネルの出口は遠くない。そのときまでに、理想の姿を考えておく。それこそ、われわれ技術者の責務というものではないだろうか。
by Tomoichi_Sato
| 2009-10-05 21:20
| C1 工場計画論
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