パンチ・リスト(punch list)とは、片付けなければならない作業のリストのことである。英米では、エンジニアリングおよび建設業界を中心に、ほとんど普通名詞として通用しており、契約書等にもごく当たり前に登場する。我が国でどこまで広く使われているかは不明であるが、利用範囲の広いツールなので、ここに紹介する。
パンチ・リストは一般に、残務としてやらなければならない作業タスクの表の形になっている。つまり、ある設計図にしたがって進めた構築作業がほとんど完了に近づいたとき、実物が顧客に検収され実際に使用可能な状態になるまでにクリアしなければならない項目を整理し共有するために、パンチ・リストは作られる。日本の建設業界では、これを「残工事」とか「ダメ工事」のリストと呼ぶことが多い。一部の重工・機械業界でも似たようなリストをつくって、残務を追いかけることが多い。 周知の通り、複雑な構築物や製品・システムなどを作る場合、横軸に時間をとり、縦軸に進捗度をとると、一般にS字型のカーブを描く。初期は立ち上げ段階のため進捗があまり上がらないが、中期には右肩上がりに進行していく。しかし、最後の段階になると、また傾きは緩やかになり、なかなか100%に到達しない。その傾向はとくに90%をすぎた頃から顕著になる。 そのため、最後の段階では、もはや進捗率によるコントロールはあまり役に立たなくなってくる。そこで、パンチ・リストが登場するのである。作るべきものは、ほぼ出来た。ただ、製作上のミスや不手際、部品材料やツールの欠陥、大詰めになって明かるみに出た設計上の不具合、そして後回しにされたペンディング事項、などがある。これを一まとめにしてリスト化し、追いかけるのである。ちなみに、残務をつぶしていくことを、英語では"punch killing"という、いささか穏やかならぬ言葉で表現する。 パンチ・リストは、1行に1項目、やるべき作業を書いていく。各行には通常、次のような項目が並ぶ。 (1) 整理番号(→これをきちんと採番しておくことは重要) (2) 作業内容(簡単な記述) (3) 責任者 (4) 発生日(リストへの登録日) (5) 優先度 (6) 完了期限 (7) ステータス(未着手/作業中/検証中/完了/キャンセル、等) (8) 実績完了日 (9) その他の注記事項 なお、(5)優先度は、一般にA/B/C等で最低3段階の区分をつけるとよい。たとえば、Aパンチは必須の作業で、これを完了させない限り、仕事全体が先に進めない事項とする(たとえば配電盤にトラブルがあり、全体が動作テストに入れないような場合)。Bパンチは、重要だが、なしでもなんとか先に進めるような回避手段がある場合とする(たとえばスタンバイ装置が誤作動するが、メイン系統でとりあえず運転が可能になる場合)。そしてCパンチは、最終引き渡しまでに終わらせておけばよい、化粧直し的(cosmetic)な作業である。 そして、試運転段階あるいは顧客との引渡し段階において、「Aパンチはすべて完了、Bパンチはすべて何日までに完了のめどがたっている」といった状態に持ち込んでいれば、残務付き引き渡しの形で交渉が可能となるのである。 なお、上の項目を見れば分かるとおり、パンチ・リストは実際にはタスク・リストないしTo Doリストと同じ形をしている。すなわち、これは、当初の計画と現実との差違を明らかにして、両者をすりあわせるための道具なのである。したがって、パンチ・リストはかならずしも製造や工事の最終段階でのみ使うべきものではなく、たとえば要件定義段階や設計段階、あるいは調達段階などでも利用できるツールなのである。そのような意味では、パンチ・リストとは、しばしば用いられている「課題管理表」と同じカテゴリーのツールであるとも考えられる。 そしてまた、パンチ・リストは、案件が終わった後の事後検証、ないし品質改善のための分析対象としても、大きな価値がある。なぜなら、事前の契約や設計と、現実の構築結果との差違こそ、リスク因子そのものを表しているからである。そのような意味でも、パンチ・リストは作るだけでなく、集積し分析するような仕組みを組織内で確立することが望ましい。
by Tomoichi_Sato
| 2009-08-25 21:30
| プロジェクト・マネジメント
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