休みをとって、愛媛から本四架橋を通って広島まで抜ける旅行をした。のんびり鉄道とバスを乗り継いでいったのだが、幸い天候に恵まれ、とくに瀬戸内の風光の美しさには感激した。青く穏やかな海の上に、大小の島が浮かび、新緑が陽光を浴びて静かに佇んでいる。さすが「しまなみ海道」と名付けられるだけあって、良い景色だった。高速バスだとあっという間に通り抜けるだけだが、それだけではもったいない場所だと思う。
この本四架橋ルートは複数の異なる構造の橋からなっていて、シビル・エンジニアリングの観点からも興味が尽きない。また、このルートを決める際のプロジェクト・マネジメントの苦労も十分想像できた。ただ、それにしても最後に広島空港に乗り継ぐまでが遠くて閉口した。あんな山の上にわざわざ空港を作るのは、まあ科学技術の勝利かもしれぬが、科学技術の無駄な勝利というのもあるのだな、というはなはだ失礼な感想をもった。 本四架橋や東京湾横断アクアラインが巨額の赤字を抱えているのは、よく知られた事実だ。広島空港の場合は知らぬが、最近また増え続けている地方空港(先週も静岡に開港したが)も赤字が多い。用地買収の長期化、材料費の高騰、政治の横やり等、いろいろなリスク要因はあるのだろう。だが、一番の問題として指摘され続けているのは、「事業計画の見通しがそもそも甘い」ということだ。 「地方有料道、6割が赤字 76%が需要予測下回る」という記事を、『ファイナンシャルプランナーのニュースチェック』というブログが転載解説している。「06年度の交通量が計画に達しなかったのは125路線中95路線。50%に満たなかったのは28路線に及んだ」という。中でもワースト3位の長良川右岸有料道路、常陸那珂有料道路、福島空港道路は、実際の交通量が計画の20%にも満たない。こうなると、そもそも「計画」って何なの? という当然の疑問がわいてくる。 「明日の天気は晴れを計画します」と気象庁が言ったら、可笑しいと誰もが思うだろう。「今日の交通事故数は、計画では2件です」と警視庁は言うまい。カツオ漁師は明日の水揚げ量を計画するだろうか。でも漁師だって、交通警官だって、何らかの見通しの上で毎日の仕事の「計画」を立てているのだ。 「計画=予測+意志決定」である、という式を、前にもこのサイトで書いた。今回は、この式をもう少し因数分解してみたい。まず、「予測」の方であるが、そもそも人間であるかぎり完全な予測というものは不可能である。そこで、さまざまな前提条件と近似を積み上げて、数値予測を行うことになる。それは、単に一つの部品を旋盤で加工するための所要時間、といった単純な予測でさえ、そうなのだ。自社内の行為でさえ、いくつかの条件(平均的な習熟度の作業員がやって、材料鋳物には不良が無く、かつ標準加工手順にしたがえば、etc.)を積み上げて、やっと「40分かかるでしょう」という答えが出てくる。 よく、「MRPは実現不可能な生産計画を作ってしまうが、APSは実行可能な正確なスケジュールを生成してくれる」というようなことを主張する人もいるが、これは正しくない。APSの出す答えもまた、スケジュールの一種の近似にすぎないからだ。単に、予測精度の違いということなのである。 ましてこれが、自分でコントロールしがたい、外部環境に大きく左右される現象ならばなおさらである。需要予測がその代表例だ。「需要計画」などと言う人間が少ないのは、自分の努力によって制御しがたい事象だと、皆が認識している(かつての共産主義国家での計画経済は別だが)からだろう。 そして、こうした外部事象の予測においては、必ず前提条件を明らかにした上で、複数の前提での予測結果を並列に記述すべきなのである。これを「感度解析」とか「ケーススタディ」と呼ぶのはご存じだろう。前提条件はいろいろな仮定の仕方がある。そこで、こういう前提なら100だが、ああいう仮定をおけば120、という風に数字を並記するのが、由緒正しい『予測』の仕事のやり方なのである。 では、上の式における「意志決定」とはどういう行為か? それは、この複数の仮定を比較し、評価した上で、その中で一番適切なものを選択し、これを「今回の計画における仮説」と宣言する行為なのである。繰り返すが、計画における意志決定とは、仮説を選び取ることに他ならない。先のことは分からない。だから『仮説』なのである(「仮説検証のトレーニング」 2004/11/06参照)。前期はA製品が低調だった、しかし東アジアの需要動向を見ていると、今年前半には需要は底を打つ、だからAラインは生産余力を残しておいた方がいい・・こうした決定が、「仮説を選び取る」意志決定なのである。 仮説である以上、あたらない可能性もある。“はずれるかもしれない仮説に賭けるのか! それなら確実な戦略を選ぶべきだ”という主張は、一見もっともだが、実は愚かだ。「確実な」将来というのは、あり得ない。確実な戦略といわれるものの多くは、じつは「過去しばらくあたっていただけの戦略」にすぎない。もしかするとそれは、“変化を拒絶する”という最低の戦略なのかもしれない。 さて、現実の企業組織において困ることは、この「仮説」の好みが、部署により立場によって異なることだ。営業部は「もっと低価格なB製品なら多少売れるかもしれない」、企画部は「新しい技術をいれた新製品Cならヒットの可能性がある」、製造部は「製品Aが一番原価低減の余地があるから良いのではないか」・・とバラバラになるのだ。そしてお互いに、自分の好みの仮説に基づいて予測を立てて行動する。“営業は10万個売れると言っている。でもあれは予測ではなく努力目標にすぎない。それを信じて10万個分の部品を手配したら、在庫増で上から怒られる。だったら5万個を仕入れて後は様子を見よう・・”こうして計画の二重帳簿がはじまるのだ。 私の見聞きしてきた経験の範囲から言うと、競争力の高い(したたかな)企業は、皆が同じ一つの仮説を共有して動いている。しかし、そうではない大多数の「普通の企業」は、その規模の大小にかかわらず、皆がバラバラの仮説で動いているのである。いや、そういった企業では、仮説が仮説と意識されないまま、各人の「経験知」として、真実であるかのように流通している。かくて、営業部が立てた販売計画とは別の数字を元に、工場が生産計画を立てる、という(しばしば見かける)事態が出現する。あるいは、プロジェクト的なビジネスにおいても、営業とプロマネと設計技術と品質管理が、互いに別々の思惑で動く状態を生じさせるのである。 このようなバラバラな状態をただす方法は何か。それは、一見逆説的に聞こえるかもしれないが、意図的に計画の中に「幅」と「目標」を持ち込むことなのである。 (この項もう一度続く)
by Tomoichi_Sato
| 2009-06-09 23:16
| B1 プロジェクト・マネジメント全般
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