Kさん。“工程管理で一番大切なことは、実行可能な計画を作って、それを守ることです”--こうご説明しても、そんな言葉は当たり前すぎて、何の役に立つんだ、と疑問を感じられたかと思います。 しかし私の見聞きしているかぎり、少なからぬ業界で、近年、これとは逆のことがしばしば起きてきたのです。つまり、実行不可能な納期を請け合ってしまって、守れなくなる。あるいは、たぶん最初は可能だったはずの納期が、他のオーダーの割り込み等で、どんどんずれていく。ひどいときには、そもそも出荷がいつになるか答えられない。昨年夏までの原材料インフレの時期は、こうしたことが頻発しました。秋以降、一転して不況になると、納期の見積はさすがに正常化してきましたが、今度は安値競争になって、設計も製造も外注に出す、という。こうなると、どうやって工程を守るのか、逆に心配になってきます。 「守る」とは、自分自身が努力して個別作業のスケジュールを守る(keep)ことだけではありません。外乱や飛び込みからスケジュール表を守る(protect)ことも含まれています。守らなければ、納期を確約できません。納期を確約できないと、心配性の営業や上役や顧客から、さらに外乱や飛び込みの依頼を招くことになるのです。 くりかえしますが、私がここで問題にしているのは、製造業におけるオフィスワークを主体とした工程の管理です。製造業では伝統的に、工程のボトルネックは製造現場にあると信じられてきました。これは見込生産や、一部の繰返し受注生産の企業では、いまだに正しいでしょう。製品の設計(仕様)がすでに決まっていて、同じ材料を買って繰り返し作る場合、工程管理の仕事はほぼ製造現場だけのスケジュールを見ていればすみます。 ですが、多くの受注生産企業では、自社工場の現場以外の部分でリードタイムの大部分を使ってしまっています。その理由は、顧客からの注文の個別性が高まったこと(これは「製品にいろいろなオプションをつけて差別化し、高付加価値にしたい」という方針の生んだ結果)です。また、御社で行われている海外子会社からの部品輸入や、製造委託や、詳細設計作業の外注など、受注から製造までのプロセスが社内外で細分化されてきた結果でもあります。つまり、設計・調達(個別調達)作業が入るかどうかで、工程管理の事情は大きく分かれるのです。 そして、こうしたオフィスワーク主体の工程では、たとえスケジュール計画を立てても、その実行可能性を簡単に保証できない、という問題が生じます。計画上の納期は3ヶ月後です、といっても、技術も営業も(そして顧客も)疑心暗鬼でいるのです。そこで、どうしても確認・連絡・調整のやりとりが多くなる。そうするとコミュニケーションに手間をとられて、なおさら遅れていく。悪循環ですね。 このように、計画の実行可能性を検証することが困難になる理由は、大きく4つあると私は考えています。まず第1に、オフィスワークのスケジュールは計数管理に乗せにくい、という問題があります。次に、受注設計生産では、外部のプロセスの比率が高い、という事情があります。第3の理由は、オフィスワークでは手戻りによるやり直し(リワーク)のリスクが無視できない、という点です。そして、第4は、そもそも工程が複数の部門をまたいで遂行されるため、全体像や責任の所在がわかりにくいことです。以下、これらについて検討してみましょう。 (1)スケジュールを計数管理に乗せにくい 製造現場ではスケジュールについて計数管理ができます。部品の数量や機械の加工速度などから、「時間を読む」ことがたやすいのです。しかし、オフィスワークの工程は計数化が簡単ではありません。やろうと思えばできなくはないのですが、きちんと計数化するためには、設計業務や調達業務にたいする案件別タイムシートの記録からはじまって、乗り越えねばならない条件がいろいろあります。なまじ中途半端に計数化しようとして、設計図面枚数や部品数などを数えても、あまり役に立ちません。というのは、スケジュール上重要なものとそうでないものの区別が厳然とあり、その進捗状況は、予算消化と違って、単純な足し算で比率を決められないからです。 (2)スケジュールを外部に依存するプロセスが多い 詳細設計や部品調達、製造の一部などを外注することは、製造業でかなり広く行われています。そして、いったん工程を外に出すとなると、その段階のスケジュールは固定されてしまって、自社内で吸収できる自由度が減ってしまいます。とくに、一番困るのが顧客承認のプロセスでしょう。個別受注生産では、製造に入る前に、設計図や仕様書を「顧客承認図」として提出し、OKをもらってから先に進むのが世界的な慣習です。でも、承認図を提出したからといって、即座にOKがでるケースはめったになくて、翌日か、5日後、あるいは10日後にようやくGOサインがでます。この「待ち」の期間が読めなくて困るわけです。 (3)手戻りによるやり直し(リワーク)のリスクがある さて、承認図を提出してからOKが出るまでの間、ぼおっと腕を組んで待っている訳にもいきません。それだけの納期は与えられないのがふつうです。そこで、しかたなく承認されるという前提で、部品調達や製作図作成の作業に移ります。ところが10日後、急に客先からコメントがついてやり直しになり、それまでの作業がムダになる--こんな可能性がつねにあります。あるいは、正式受注前に、主要な長納期部品を先行手配することも、まま行われると思います。これらの行為は、納期を守ることを意図して行われるリスクテークですが、そのスケジュール上のリスクが無視し得ないのです。 (4)複数の部門がかかわっているためスケジュールの責任が不明確 そして、スケジュールの実行可能性を判定しにくい最大の原因が、これです。営業部門・設計部門・調達部門・製造部門・品管部門・物流部門・・・いくつもの部門をまたいで、受注生産は遂行されます。おそらく部門の所在地も本社と工場とでばらばらでしょう。月1、2回の工程調整会議のようなものは、Kさんの会社でも行われていると思いますが、とてもこれでは間に合いますまい。まして、納期が遅れそうになった場合に、どの案件を先に処理して、どれを遅らせるのか。その調整は誰がいつやるのか。日本企業では、ここが不明確になったまま進んでいきがちです。 Kさん。製造現場の生産性は、着手時に全てのモノと情報がそろえば、必ず上がります。しかし、これらが十分そろわないまま、製造フェーズになだれ込まざるを得ない状況が起こりがちです。そして、その責任は、なぜか最下流部門である製造に帰せられる。これこそ先日、本社に呼ばれて役員の方に文句を言われたとき感じられた「理不尽」の正体ではありませんか。 では、どうしたらいいのか。私はオフィスワークを主体とする工程管理を、「実行可能性」の尺度にのせるために、7つの処方箋を提案したいと思います。 (この項、再度続く)
by Tomoichi_Sato
| 2009-04-21 22:35
| A2 生産計画と生産スケジューリング
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