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久しぶりに、プロジェクト・マネジメントの1日セミナーを開催します(12月17日)

お知らせです。

リアル会場で1日かけて行うプロジェクト・マネジメントの研修セミナーを、久しぶりに開催します。今回は、内容も従来の形をかなり刷新したプログラムとします。企業の実務レベルの方に役立つよう、とくに製造業のような縦割り組織の強い職場で、どうプロジェクトを構想し進めるべきかも含めて、構成を組み直しました。

これまでもわたしは、PM研修をいろいろな形で行ってきました。大学でも1学期間の授業を持っていますし、職場でも教え、また依頼されれば企業や官庁向けにクローズドなセミナーも開催しています。昨年度までは、「P&PA研究部会」のPM教育分科会の仲間たちとの共同セミナーもありました。

そこでは主に、20世紀半ばに生まれたモダンPMの中心的概念を理解してもらい、プロジェクト計画とコントロールを客観的・定量的に進める技法の習得を、ねらいとしてきました。モダンPMの概念とは、プロジェクトをアクティビティから構成されるネットワークの「システム」として理解することです。そこから、スコープを表すWBS、スケジュールをおさえるPERT/CPM、コスト・コントロールのためのEVMSなどの技術が出てくる訳です。

ただし、PERT/CPMやEVMSのような技術は、プロジェクト・マネジメントの「ハード・スキル」と呼ばれる面であり、もう少しかみ砕いていうと、それなりに規模のある、スコープ(役務範囲)が明確なプロジェクト向きの手法です。

しかし世の中には、もっと「ソフト」なプロジェクト、すなわち目標や責任範囲が柔らかで不確実性の高い仕事に、取り組まれる方々も多いと思われます。こうした領域は、ハードなPM技術だけでは必ずしも十分に進められません。かと言って、最初から最後まで「リーダーシップの発揮!」の気合い一本槍では、やり抜けないのも事実です。

そこで今回のセミナーでは、不確実性の高いプロジェクトのマネジメントに焦点を当てようと決めました。製品開発や、DXなどの改革、それに伴うIT開発などが典型でしょう。そして、リスク予知やコミュニケーションなどの、ソフト・スキルからスタートします。そしてチームと組織デザインに進み、漏れのないタスクの洗い出しとWBS化、設計とミッション・プロファイリング、といった順序で解説を進めます。

知識のインプット学習だけではマネジメントは身につきにくいため、あえて自分で手を動かすグループ演習を取り入れます。そのため、リアル開催のセミナー形式としています。ソフト面を重視するといっても、モダンPMの知見を援用しますので、わたしが以前行ったハード・スキル中心のPMセミナーを受講された方にも、おすすめしたく思います。拙著「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」でも、ある製造メーカーを舞台に、誰がプロマネかさえ不明確な製品開発プロジェクトを、一担当のエンジニアが乗り切っていく話を書きましたが、実務ではソフト面とハード面の両立が望ましい訳です。

ちなみに、もうじき米国PMIからPMBOK Guide第8版が出ます。PMBOKは2000年刊行の第2版で大枠が固まり、その後はPMP試験と連携しながら第6版まで拡充しましたが、第7版で大幅に内容が変わりました。それは、ハードなPMからソフトなPMへの転身の試みだと言えるでしょう。第8版の予告された目次を見ると、再び構成がそれなりに変わり、ソフト面とハード面の両立・融合に苦心している様子がうかがえます。なお、わたしのセミナーは、用語概念などは可能な限りPMBOK Guideに合わせていますが、もちろんPMP資格試験をねらいとしたものではありませんので、その点ご留意ください。

<記>

プロジェクトを成功させるマネジメントの実践とそのポイント

日時: 2025年12月17日(水) 10:30~17:30

主催: 日本テクノセンター
会場: 〒163-0722 東京都新宿区西新宿二丁目7番1号      小田急第一生命ビル22F

セミナー詳細: 下記をご参照ください(有償です)

大勢の方のご参加をお待ちしております。


<関連エントリ>



# by Tomoichi_Sato | 2025-11-09 12:24 | D1 プロジェクト・マネジメント全般 | Comments(0)

昭和型のビジネスモデル 〜 その疲弊と終焉

  • シャッター商店街を歩く

旅先の小都市で、食事をしようと町の中を歩いた。駅から少し歩くと、市役所や高校やホールが並ぶ街道沿いに、商店街が広がっている。しかし、午後早くだったのに、しまっている店ばかりだ。シャッターを見ると、何の店だったか分かる。電気屋、本屋、八百屋、眼鏡時計店・・それでも食べ物屋は何軒か残っており、そこでその地方の名物料理にありついた。

その小都市自体が寂れてきているとは、言い切れない。むしろ町おこしの事例として有名なくらいだ。たしかに人口は減っているようだ。しかし広い市域に農地と住居が分散しており、モータリゼーションにともなって、旧街道と鉄道の駅を中心とした市街地への集中がなくなったのかもしれない。買い物も食事もバイパス沿いのショップやレストランで事足りる。ネットで注文すれば配達してくれる。商店街は必要ない存在になってしまった。

電気屋、本屋、時計屋と並べてみると、いずれも昭和時代のビジネスモデルだと気づく。昭和のモデルとは何だったのか。そこで生きた人々が支えた経済社会の構造は、どうなっていくのか?


  • 地方商店街の小売の機能とは

商店街に並んでいるのは、ほとんどが小売店だ。そこで販売(小売り)の機能を考えてみよう。もちろん、まず商品(モノ)自体の提供がある。店に行って、モノを買って帰る。あるいは(昭和時代の昔はよくあったのだが)家まで配達して届けてくれる。

つまり商店は、販売機能に加えて、ラスト・ワンマイルの物流配送機能も提供していた。さらに電気屋を考えてみると分かるが、商品提供にまつわる据付工事等の付帯サービスもある。TVを見るには屋根にアンテナをたてる必要があった。洗濯機なども簡単な据付工事がいる。それらを販売店が担った。

情報仲介機能という面もある。お客さんに、商品自体の情報や、それを利用した生活の姿のイメージを提供する。商店もそれなりに、商品仕入れにおける目利き・評価の能力がある。そして昭和時代にはネットという便利なものはなかった。新聞・テレビは広告情報を流すが、個別の商品の特性比較、使い方などは小売店が提供したのだ。

逆に、客側のニーズ、需要情報をメーカーに届ける機能もあった。昔の電気屋は、ナショナル・サンヨー・東芝など大手メーカーごとに系列取引になっていて、メーカーは毎年定期的に全国のサービス店を集めて、軽井沢など有名な観光地で研修大会を開いた。これは新商品の紹介と、ニーズの吸い上げ、そして慰安の提供でもあった。
最後に、小規模金融(決済・売掛・債権回収・保険等)の役目も担った。これらが地方商店街の小売店の機能だったのだ。


  • 集中供給、中央統制が昭和モデルのベース

では、それらを束ねる組織構造は、どうなっていたのだろうか。それはいわば、商品を全国に提供する大企業のブランドによる、自営小企業のネットワークの形であった。電気屋に「ナショナル」のカンバンがかかっていても、別に松下電器の子会社ではなく、特約店契約だったと想像する。大企業は全国を地方や県などに分け、地域的ツリー型のネットワークによって、店舗(拠点)と消費者(利用者)の固定的な結びつけを維持していた。これによって、小売店の経営安定化と、余計な価格競争の排除を図ったのである。

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書店などはもちろん、複数の出版社の商品を扱っていた。出版社には中小零細も多い。そのかわり、書店流通は日販・トーハンなど大手取次店と呼ばれる大企業が全国のサプライチェーンを掌握して、書店と出版社をつないでいた。八百屋や魚屋など生鮮食料品店は、地域の青果市場を通じて、生産者とつながっている。エンド・ツー・エンド、N:Nの直接取引ではなく、地域別のチャネルを通じて集約されていた。

基本的に、商店街の各店舗は、独立自営した小規模企業である。そして必要な初期投資や参入障壁は、それほど大きくなかったはずだ。それでなければ、あれほど多数の商店が、全国に存在できたはずはない。そして店舗の経営者や従業員が、高度な専門知識やスキルを持たなくても一応成立するビジネスモデルになっていた。つまり、フツーの人が真面目にやれば、できる商いなのである。

似たような事情は、エレクトーン教室などにも共通だ。昔、「中の人」だった知人に聞いた話では、エレクトーン教室に通う女の子達にとって、上手になれば自分も教室を開いて先生になれる、経済的に自活できる、というのが夢だった(女性の職業選択は今より遙かに狭かった時代だ)。エレクトーンのメーカーの高収益率は、じつにこの昭和的なビジネスモデルが支えていたのだ。

昭和のビジネスモデルを支えた柱は何だったろうか。第一に、それはブランドによる商品と情報の供給だった。まだ「モノあまり時代」に突入していなかったので、商品供給はパワーだ。プロダクトアウトといってもいい。ブランドの有名さが、情報の権威を裏付ける。ちなみに権威とは、真理を決める力を付与されている状態をいう。売り手と買い手の情報の非対称性が、このモデルのベースにある。だから必然的に、大衆向け広告とマスメディアが大事になる。

第二に、大手メーカーによる小売店のネットワーク化。商品供給のみならず、研修も、慰安旅行も、そして経営面のアドバイスや金融面のサービスまでも提供した。第三に、公共交通機関と徒歩を中心とした、地域交通の構造。商店規模の大きさよりも、住まいへの近隣性が重要だった。


  • 昭和のビジネスモデルはなぜ壊れたのか

このような、よくできた経済モデルがなぜ機能しなくなったのか。それはネットとデジタル技術の登場にある。インターネット・Web・一人1台のパソコンが普及するのは平成に入ってからだ。ネットは情報の非対称性による「情報仲介」サービスへのニーズをくずした、それだけではない。貸付・決済や物流などの機能も、商店を介さずにできるようになった。

第二の変化は、モータリゼーションの進展による交通流の分散化である。鉄道・バスと旧街道から、自動車と新バイパスへ。そして第三の変化は、人口構成の変化、とくに高学歴化だろう。知識大衆化といってもいい。昭和時代には「知識人」とか「インテリ」という言葉があった。今の人には、意味も分かるまい。

業種業界により濃淡はあるが、この四半世紀に進んだビジネスモデルの変化はこれだった。情報は手に入りやすくなり、非対称性は減った。その代わり、独立自営で食べられる選択肢も減って、商工業では、みなが雇われ人になる道しかない。逆に大手メーカーの力も、平場の価格競争にされされて、大きく損なわれた。サプライチェーンを一番マージンが大きいのは、今やチェーンストアである。

経済分野では、この変化はすでに終盤に入っている。教育分野でも、もう個人が塾や学校を開ける時代ではないかもしれない。それ以外の分野では、どうだろうか。たとえば農業、たとえば司法、あるいは宗教、そして政治・・

昭和的なビジネスモデルの特徴は、いくつかある。大手ブランドによる信用と利権、(機能別ではなく)地域別なツリー型組織、それらを支える中央集権的イデオロギー、デジタルと情報への感度の低さ、そして構成員の高齢化・・あなたの周りに、こうした特徴を持つ組織があったら、その行く末を注視した方が良い。それが滅びるのか、無くなるのかは、もちろん予言できない。だが、いつの間にか別種の仕組みに、一番大事なところを奪われていくからだ。


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# by Tomoichi_Sato | 2025-10-31 19:50 | F3 組織・経営・戦略論 | Comments(0)

参謀は将軍になれるか?

  • 直江兼続の「密謀」

先日、藤沢周平の「密謀」(上・下 )を読んだ。藤沢周平は母が好きだった作家で、本棚からもらい受けてきたのだが、わたしのいつもの癖で、何年間も積ん読にした後、今年に入って読み始めたのだ。とてもよく出来た歴史小説で、一気に読み通した。主人公は直江兼続。越後の武将で、上杉謙信の跡継ぎである上杉景勝を、執政として補佐した。

直江兼続は知将として知られるが、生まれたのが1560年で、いわゆる『戦国武将』としては遅い登場だった。上杉謙信は彼が18歳の時に亡くなり、本能寺の変が22歳、天下分け目の関ヶ原のときは40歳だった。彼が一人前になる頃には、天下の大勢はすでに決まっていたのだ。とはいえ、まだ乱世である。この小説は、知将として上杉家を支える彼の、秀吉・三成・家康らとの確執を見事に描いている。

直江兼続は、大藩・越後上杉家の参謀だったと言っても良い。だから小説のタイトルも「密謀」なのだろう。とはいえ自分の知行地も城も持っていたから、秀吉に仕えた竹中半兵衛のような、純粋に知略に生きた軍師とは、少し違う。兼続は農業振興や土木政策など、軍事以外の政策立案と実行にもたけていた。


  • 参謀とはどういう仕事か

そして気になって、「参謀」という言葉を少し調べてみた。Wikipediaは、例によって役に立たない。生成AIの出してくる、テキトーな嘘交じりの答えを鵜呑みにするのもいやだ。調べ物をする場合、わたしは「ジャパンナレッジ」 をよく使う(最新の技術やトピックでない限り)。世界大百科事典や日本大百科事典を同時に検索してくれるし、どちらも各記事の執筆者名が明記してある。つまり内容に責任を持って書いているのだ。バイアスが気になれば著者を調べれば良い。

で、世界大百科事典の「参謀」の項を引くと、「幕僚」を見よ、となっている。そして幕僚の項にはいろいろなことが書いてある。「幕僚は古代エジプトの軍隊に発生した」「アレクサンドロス大王は参謀長などの幕僚を設けた」「カエサルは自らの幕僚経験を生かして組織を改善」など。また近代の欧米そして日本の幕僚組織なども解説されているが、あいにく中国などアジアのことが書いていない。

たとえば三国志で有名な諸葛孔明は参謀と言えるのか。その前の孫子や墨子はどうだったのか。日本の軍師の発生と系譜は、など疑問は残る。諸葛孔明は丞相として、帝位についた劉備を補佐し、内政に尽力した。だから直江兼続も似たような立場だったと言える。


  • 参謀タイプと将軍タイプ

前回の記事「どの人にどのタスクを割り当てるか 〜 感情と思考の4類型を理解しよう」で、わたしは、思考と感情の開放度によって人間を4種類の「ソーシャルスタイル」に分類する考え方を紹介した。思考面では他者からの独立性が高く、感情面はクローズにおさえたがるタイプは、「思考派」ないし「分析家」(アナリスト)と呼ばれ、わたし自身もこれに属する。そして、思うに参謀はこの類型だろう。

では、将軍はどのタイプか? 大勢の人を引きつけ、かつ方向を示して従わせるには、思考面も感情面もオープンであることが望ましいだろう。だとすると「行動派」コントローラーが、一番フィットするのではないか。むろんソーシャルスタイルは単純化したモデルであり、人の個性はそれぞれだから、皆、4つの要素を混合して持っている。原色と自然色のようなものだ。ともあれ参謀と将軍は、かなり異なるキャラであると想像される。

そこで気になるのが、近年のMBAである。ビジネススクールの教育を受け、修士号をとって世に出てくるMBAは、とても頭の良い人たちが多いが、彼らは参謀タイプなのか、それとも将軍タイプなのか? 緻密な作戦を立てるのに秀でているのか、あるいは号令をかけて大勢を動かすのに長けているのか? ビジネススクールで教える財務分析や戦略論は、どちらの育成に向けてカリキュラムが組まれているのか。


  • 分析立案は知的能力だが、決断と説得は総合力である

それは言いかえると、MBAが向いているのは経営者なのか、経営企画立案者なのか、という問いである。まあ企業の中には、経営企画部長がトップへの出世街道、という会社もある。そこでは両者の区別は、意味が無いのかもしれない。また世の中には、MBAのコンサル経験者が落下傘のように下りてきて、組織の頂上に立つ会社も多少はある。だが、そうでない多くの企業(わたしの勤務先も入る)では、実務経験を積んだ人間が、経営層に入るのが普通だ。こういう人たちは後付けで、経営学などのリテラシーを身につけることになる。経営学を最初から専門にするMBAたちとは異なっている。

そこで大事となるポイントは、分析力だけではなく、決断力だ、というのがわたしの意見である。より良い決断を、タイムリーに下す力。情報の不足する曖昧な状況下で、自分自身だけでなく多くの部下達をもリスクに巻き込むかもしれぬ、決断を下す能力。胆力と言ってもいい。そして一度決めたら、多くのステークホルダを動かしていく説得力がいる。こうした能力は、はたして経営戦略や財務会計を専門に勉強することだけで、得られるのか。

「ビジネススクールは総合的・多面的なものの見方を教える場だ」という言い方が、よくされる。それはその通りだろう。分析立案は総合的な知的能力で、若くても優秀ならば一応できる。だが決断力と説得力を育てるためには、訓練と経験値の蓄積が必要だ。それは知的能力と感情的能力の総合なのである。「頭が良い」だけでは足りないのだ。

自分のソーシャルスタイルに合わないポジションを望んだり得たりすると、結局本人も周囲も苦労することになる。もちろんスタイルも人の性格も生涯不変ではなく、ゆっくりと変わることがあるが、望む方向に変えるには意思と時間が必要だ。わたし達の社会は大学歴みたいなものを重視するきらいがあるが、知的能力ばかりみすぎているのではないだろうか。参謀と将軍にも、それぞれ向き不向きがあるのだ。それは役割の違いなのである。


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# by Tomoichi_Sato | 2025-10-24 16:12 | F3 組織・経営・戦略論 | Comments(1)

どの人にどのタスクを割り当てるか 〜 感情と思考の4類型を理解しよう

  • P&PA研究会のPM研修プログラムでやり残したこと

「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」は、わたしがスケジューリング学会の下で組織した研究会で、2011年の5月に発足後、13年間活動を継続し、昨年解散した。研究会が産みだした成果の一つは、『PM教育分科会』で開発したプロマネのための研修プログラムだ。これはいくつかの企業や、浜松ソフト産業協会などのセミナーで実施し、それなりに好評だったと自負している。

わたし達が構想したのは、2日程度をかけた合宿形式の研修で、プロジェクト・マネジメントの様々な面を、手を動かしながら身につけてもらう方式だった。その柱の一つは、紙のカードを使って、横長の大きな模造紙にプロジェクトのネットワークを作成し、全体構造を理解してもらう点にあった。残念ながらコロナ禍の影響でリアルな集合研修ができなくなり、研究会活動のブレーキになったのだが、そこはさておき、現実のセミナーでは、やりたいと思ってもできずに終わった事があった。

その一つが、アクティビティ(タスク)の特性に応じた、人のアサインの問題である。紙のカード自体は、研究会副幹事であった串田悠彰さんが作成した(そう、拙著「ITって、何?」を編集出版してくださった、未来生活研究所の串田さんである)。この問題も、串田さんの発案による。


  • タスクの種類と、人のスキル

研修で使った例題は、生産管理システム開発のITプロジェクトで、業務分析のような上流工程から、開発テストのような下流工程まで、様々なタスクから構成される(プロジェクトのネットワークを構成する要素は「アクティビティ」と呼ぶのがPMBOK流の世界標準だが、日本のIT業界では「タスク」と呼ぶ習慣なので、これ以降はそう呼んでおく)。

串田さんが考えたのは、企画・分析・設計・開発・試験・文書作成といったスキルの種別を設定し、プロジェクトに配員される人ごとに、そのスキルレベルを点数化する、という形式だった。

たとえば「入社N年目の中堅PG。ややムラはあるものの好調時の開発の生産性は高い。一方、上流工程は苦手なため、有力なアーキテクトがいるチームで本領を発揮する」といった要員に、企画:60、設計:110、開発:150・・といったスコアを割り当てる。そして、どのタスクにアサインされるかによって、同じ人間でも生産性をかえよう、という案だ。

非常に興味深いアイデアだったが、あいにく現実の研修は時間の制約が強く、この部分はカットせざるを得なかった。ただタスクのカードの隅に、「設計」とか「試験」とか目立たぬ形で表記してあったことに、気づいた参加者はいたかもしれない。


  • 人の類型と適性について

プロジェクト・マネジメントでも、あるいは先月の記事で触れた設計マネジメントでも、誰にどの仕事をやってもらうかを決めることは、非常に重要だ。人間には個性があり、同じ専門エンジニアといっても仕事の特性に対して、向き不向きがある。だが、他人のスキルレベルを評価するのは簡単ではない。だから試験科目別の得点表みたいには、なかなか整理しきれない。

そこで、ある程度マネジメントに慣れた人は、なんらかの人間の類型論を内心、持っている場合が多い。人間類型は科目別点数よりもラフだが、それでも「彼はこのタイプの人間だ。だからこれを任せよう」とか、「彼女はこういう類型だが、このタスクは荷が重いかも」という風な判断の根拠にはなる。むしろ、どのような人間の類型論を持ち合わせているか、その人のマネジメントの熟達度合いを示すといってもいい。

もちろん人間の類型論には、様々な種類がある。内向的とか外向的とか、思考型と感情型と直感型とか。性別とか出生地とか世代で、人を分けて説明する思考法も根強い。それこそ、血液型や干支や生まれの星座だって、一種の類型論ではある。でもさすがに、人事施策を星座で決めている会社は、現代にはあるまい。今日ではもう少し『科学的』なアプローチが望ましい。

その一つが、「ソーシャルスタイル」と呼ばれる類型論だ。これは、横軸に「感情の開放度」をとり、縦軸に「思考の開放度」をとった4象限で、人の類型を考える。元は、マーストンとガイヤーという行動心理学の研究者の発案になるらしい。
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  • ソーシャルスタイルの4類型

感情の開放度が高い人とは、喜怒哀楽など自分の感情を、すぐ豊富な形でオープンに出すような人である。感情表現の豊かな人という言い方もあろう。逆に、自分の感情を抑えてなかなか外に出さない人、内心の感情とは別の表情を作るような人は、開放度が低い。

また思考の開放度とは、自分の考えをまっすぐな形で、オープンに口にするタイプの人だ。意見が明確とも言えるが、言葉をかえると、思ったことを割とすぐ口にする、とも言えよう。逆に思考の開放度が低い人とは、人の意見をまず聞く人だ。自分の考えをあまり表出しない、とか、じっくり考えて簡単に結論を出さないタイプとも言える。

感情も思考も開放度の高い人は、感じたこと・考えたことをすぐ表に出す。まあ、感覚派の類型で、たとえば「プロモーター」とも呼ばれる。逆に、思考も感情も開放度の低い人は、思考派で「アナライザー」である。4象限の左上は、行動派「コントローラ」である。喜怒哀楽がはっきりしているが、口数は少ない。右下は、協調派の「サポーター」で、意見も言うが自分の感情はおさえる。

あなたは、ご自分がどのタイプだと思われるだろうか? わたし自身は明らかに、左下に属する(その証拠に、わたしの名刺には「チーフエンジニア(システム・アナリスト)」と肩書きがついている)。たとえば上であげた、企画・分析・設計・開発・試験・文書作成といったスキルは、どのタイプが向いているだろうか。そして、プロジェクト・マネージャーに適しているのは、どのタイプだろうか。

ちなみに、このソーシャルスタイルの4象限の図は、わたしの勤務先がずいぶん前から社内で使っているツールでもある(ちょっとアレンジを変えているが)。また「アナライザー」などの呼び方も、いくつか流儀がある。それに、この4類型がいつも万能という訳でもない。すぐれたマネージャーは、いくつかの類型論を組み合わせて使うものだ。

しかし、いやしくも「マネージャー」と呼ばれる立場になった人は、人の個性と類型について、何らかの理解の枠組みを持つべきである。そうでなければ、良いアサインメントの決断はできない。良いアサインができなければ、良いプロジェクトのプロダクトが産まれる訳がないではないか。


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# by Tomoichi_Sato | 2025-10-15 16:12 | D2 スコープ・WBS・プロジェクト組織 | Comments(0)

MES導入のための『標準業務一覧』(正式版)公開と、インタビュー記事のお知らせ

  • スマートでない工場とは

「スマート工場とは、MESを活用する工場である」と発言しはじめてから数年たつ。もちろんMESを入れてさえいれば、自動的にスマート工場になれる訳ではないが、MES抜きで製造指図も製造記録も全て手書きでは、あまりスマートとは言えない。

なぜなら、自分の現在・過去・未来をちゃんと把握し、事実とデータに基づいて判断する、というのが「スマートさの条件」だからだ。生産の現状は現場の各工程を回って追っかけなければ分からず、過去は手書きの記録ばかりでデータになっていないので、何事も勘と経験と度胸で決める、ではスマートにはほど遠い。

そして、スマートでない職場で働くのは楽しくない。そういう職場では、何か想定外のトラブルが起きたり飛び込み注文が入ったりすると、バタバタ状態に陥りやすいからだ。普通の業務を毎日、定常的にこなすだけなら、まあスムーズに流れる。ちょっとした問題なら現場が解決する。だがマクロな問題が生じると、各工程・各部門が、全体の状況も分からぬまま、バラバラに勘で判断する結果、相互調整や実行不能な指図が飛び交う状態に、陥りがちだ。

そんな工場にはしばしば、つまらぬ力仕事も残っている。しようと思えば機械化できるのだが、「採算が合わないから」人手のままだ。アホくさくなって、若手から順に辞めてしまう。そういう楽しくない職場から、良い製品など産まれてくるはずはない。その一番根本のところを、たぶん経営が忘れているのだろう。


  • 「部分の総和が全体である」組織で起きがちな問題

「全体は部分の総和に勝る」とは、その昔ギリシャのアリストテレスが語った言葉だ。だが2千年以上たった後でも、わたし達の社会では、「部分の総和が全体である」会社が少なくない。部門ごとに役目を切り分け、KPIの目標値を与え、あとは「各人持ち場で最善を尽くせば」全体で最良の結果が得られるはず、と信じている。

だから、全体を見て考える立場の部署や、人がいない。工場を訪問して、「原料が入ってから製品が出るまでの、全体の工程の流れを教えてください」と質問しても、全部を答えられる人がいない。しかるべき図もない。工場長さんだって、自分の出身部門の事には強くても、全体を把握できているとは限らない。

ところで、ITシステムの特徴とは何か、ご存じだろうか? それは、部門を横断して働くことが多い仕組みだ、という事だ。製造も品管も生産技術も生産管理も、それぞれ時部門の持ち場で最善を尽くすことだけが求められる。だが、ITシステムは違う。データとは、他のデータと組み合わさることで、価値が何倍にもなる性質を持つ。だからITシステムは必然的に、部署や機能を越境して広がろうとするし、その方が望ましい。

ところが、その段階で『全体を見る人がいない』問題が立ちはだかってくる。日本の製造業は真面目で優秀な人が多いので、各部門単位でそれなりにITシステムを入れて、立ち上げていく。だが部門を越境できない。頑張って越境しても、なんだかモザイク的な温泉旅館的つながりしか実現できない。全体のあるべき姿のデザインがないからだ。MES=製造実行システムの導入に立ちはだかるのは、そうした問題である。


  • この技術で何ができるか、ではなく、何を実現したいのかを考えよう

MESベンダーさん達と話していると、共通して出てくる意見ないし感想がある。それは、「本社レベルでの『ものづくり改革』的なプロジェクトから派生してくるMES導入は比較的スムーズに進む。しかし、工場の製造現場発で動くMES導入の案件は、途中で止まってしまうことが多い」という状況だ。これが本当だとしたら、なぜだろうか?

本社レベルのプロジェクトの方が、予算申請の決裁が通りやすい、という面はあるだろう。しかし、工場発のMES導入の方が、現場ニーズに即しているはずではないか。なのになぜ、止まってしまうのか。

それは、「MES導入で実現したい業務のTo-Be像が、意外に不明確だから」ではないか、というのがわたしの推測である。なぜか。それは(繰返しになるが)工場業務の全体像が見えている人が、ほとんどいないからである。業務のAs-Isの姿があり、明確なTo-Be像があって、そのギャップを埋めるためにITシステム導入をする。そんな風に、システム・アナリストの教科書などには書いてある。住みたい家のクリアなイメージがなければ、建築家に設計を頼むこともできないではないか。だが、そのイメージが部門毎に、バラバラなのである。

スマート工場とか製造DXの仕事をしていて実感するのは、「IoTとかAIとか、面白そうな技術があるから、これを何かに使えないか」という発想で動く人たちと、「こういう業務を実現したいから、こういう技術がないものか」と考える人たちがいることだ。そして前者の、いわば「技術シーズ先行型」が大多数で、後者の「業務ニーズ主体型」は少数派である。しかし何かの仕組みをちゃんと構築するためには、後者のアプローチが絶対に必要だ。PoC止まりになってしまうのは、たいていが前者である。このMESで何ができるか、ではなく、MESで何を実現したいのかを、まず考えるべきなのだ。


  • 『MES/MOM導入のための標準業務一覧』を公開しました

こうした壁を突破するために、わたし達「次世代スマート工場のエンジニアリング研究会」では、2年前から、一つの標準リストを作成することにした。それは、製造業における工場内業務の全体像を示すリストである。日本には組立加工系(ディスクリート型)工場が多いので、それを念頭に置きつつ、500あまりの単位業務をExcelの表にリストアップした。

その中には、「大日程計画立案」のように、工場スタッフ層が行う情報処理的な仕事から、文字通り「製造」のように、ショップフロアの現場で機械や手を動かす仕事まで含まれる。ちなみに、それぞれにはA-10-10-01とかB-30-30-03といった整理用のインテックスもついている。そして業務オペレーションの内容説明や補足記述がついている。

そして、業務全体のAs-IsとTo-Beを考えていただくために、それぞれの単位業務をMES/MOMで行うべき対象かどうかについて、○×のリコメンデーションをつけた。MES/MOMではなく、他のITシステム(ERPとかPLMとか)で行うのが通例のものは、そう記述した。もちろんこれは推奨なので、ユーザは独自の考えを持っていただいても、全然構わない。

昨年、このリストのパブリックコメント版を公開した。そしていよいよ今月、正式版をリリースできる運びとなった。ちなみに昨年はこれを「標準テンプレート」と呼んでいたが、今回の正式版からは「標準業務一覧」と呼ぶことにした。もちろんExcelのリストだけでなく、これをどう使うべきかについての、丁寧な解説もつけている。

リストは、(財)エンジニアリング協会の下記のHPから誰でも無償でダウンロードできる。

たまたまだが、この公開タイミングと前後して、Webメディア「Koto Online」からMESと標準業務一覧について、取材を受けた。その記事も以下から無償でアクセスできるので、ぜひ大勢の方にお読みいただきたい。


念のために書き添えるが、この標準化活動は、研究会メンバーによるまったくの手弁当である。わたし自身も他のメンバーも、誰からも一銭も受け取っていない。ただ、日本のMESをとりまく状況を良くしたい、この国にスマート工場、すなわち面白いと感じながら働ける工場を一つでも増やしたい、との思いから、これを作ってきた。とはいえ、内容の不足面や偏った面は、いろいろあるだろう。だから一人でも多くの製造業の方に、これを見ていただき、前向きなご批判やご意見をいただけるなら本望である。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)


# by Tomoichi_Sato | 2025-10-09 10:29 | E1 製造業のITシステム | Comments(0)