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モダンPMへの誘い ~ プロジェクト・コントロールの目的とEVMS

わたしの働くエンジニアリング業界では、「プロジェクト・マネージャー」という職務のほかに、「プロジェクト・コントロール・マネージャー」というポジションを置くことが、国際的な慣習だ。プロマネは普通、PMと略称するので、区別するために、プロジェクト・コントロール・マネージャーはPCMと呼ぶ。もっとも、小規模なプロジェクトや国内案件では、プロマネがPCM職務を兼務することも多い。だが、プロマネとPCMの仕事の内容は、区別している。PCMの仕事は、プロジェクトのコントロールである。

・・こう書くと、怪訝な思いをする人も多いだろう。というのは、カタカナ英語で言う『マネジメント』も『コントロール』も、日本語に翻訳すると、同じ『管理』になってしまうからだ。プロマネもPCMも、脳内で翻訳すると「プロジェクト管理者」だ。何が違うのか?

だが、英語でManageとControlというと、意味もニュアンスもずいぶん違う。Manageという語には、暴れ馬を乗りこなす、といった語感がある。大変な仕事なのだ。これに対して、Controlはもっと、制御に近い、精密な職人仕事のイメージがある。いいかえると、目標値を設定して、そこからブレないように運転していくのが、コントロールである。

プロジェクト・コントロール・マネージャー(PCM)の主要な業務は、コストとスケジュールのコントロールだ。すなわち、プロジェクトの2大KPIの設定と、その測定が仕事である。もっともモダンPMの教科書を見ると、ほかに品質コントロールやスコープ(変更)コントロールも、対象範囲のように書いてある。だが、エンジ業界では多くの場合、コストとスケジュールがPCMの主要な任務と考えられている。

では、コストとスケジュールのコントロールの主要目的とは何だろうか。それはズバリ、プロジェクトの着地点予測である。すなわち、「このプロジェクトが完了するのは、いつなのか? そのとき完成時の総コストはいくらになるのか、果たして儲かっているのか?」を予測することである。

もちろん、計画時のベースラインと現状が一致しているかどうか、差異分析を行い、問題があれば是正措置を考えてPMに提案するのも、PCMの大事な役割だ。だが、是正措置にはたいてい、時間やコストがかかる。なので、「どれだけ時間とお金が残っているのか」が分からなければ、適切な判断はできない訳である。

それでは、コストに関する着地点は、どうやって予測するのだろうか。当たり前だが、

  • 完成時の総コスト = 現在までに使ったコスト + これから使うコスト

です。

そして「すでに使ったコスト」は集計可能だし、それを集計するのがPCMの大事な仕事である。では、「これから使う(だろう)コスト」は、どうやったら見積ることができるのか?

今、あるプロジェクトが途中まで進んでいるとしよう。元々の実行予算表では、コスト合計は100億円だったとする。さて、現時点までに完了したActivity (Work package)の、実績出費(これをACと呼ぶのだった)を集計すると、60億円になった。

そして、まだ残るActivityの費用見積を、実行予算表から拾い出して、足し合わせると50億円になるとしよう。

ちなみに、これから使うコストを、Cost ETC (Estimate to complete)と呼ぶ。そして完工時コストは、Cost EAC (Estimate at completion)と呼ぶ約束である。すると、上の式を記号で表すと、

  • Cost EAC = AC + Cost ETC

になる。じゃあ、プロジェクトの完工時コストは、60 + 50 = 110億円でいいだろうか?

そうは行かないのである。なぜなら、ここにはプロジェクトを現時点まで遂行してきた際の、現実の状況が反映されていないからだ。

たとえば、実績出費 AC = 60億円だが、完了したActivityの、元々の実行予算表での見積値は、48億円だったとする。これは、「48億と見積もっていたコストが、実際には60億かかってしまった」という現実の状況が示されている。

別の言い方をすると、現時点でのプロジェクトの出来高 EV = 48億円、ということを示します。

そこで前回ご紹介した、Cost Performance Index (CPI)を計算すると、

  • CPI = EV / AC = 48 / 60 = 0.8 

ということになる。これがプロジェクトの費用的なパフォーマンスの、現実の状況を表す。

ということは、残っているActivityの費用も、当初見積の50億円ではすまず、おそらく、50 / 0.8 = 62.5 億円くらいかかりそうだな、という事がわかる。つまり、プロジェクトのコスト的な着地点は、

  • Cost EAC = AC + Cost ETC = 50 + 62.5 = 112.5 億円

という事になりそうだ。少なくとも、コストだけを見ている財務会計担当者なら、そう考えるだろう。

・・だが、いやいや、実はこの話はもっと奥があるのだ。それは、スケジュールの遅延に伴う費用である。

自社内で発生する人件費(Man-Hour cost)も、外注先や現場の労務費も、実際には工数に対して費用が発生する。かりに材料や図面の手待ちが生じて、実質的には何も仕事をしていなくても(できなくても)、待ち時間分のコストは発生する。スケジュールが遅れると、生産性も下がるのである。この分のコストはどう見たら良いだろううか?

EVMSでは経験的に、これから使うコストは、残りの費用見積額を、CPIとSPI (Schedule performance index)の両方で割った数値を使うのがいい、とされている。つまり、コスト効率性とスケジュール効率性の両方を考えろ、ということである。ここでSPIとは、

  • SPI = EV / PV

で計算される指標だ。

本プロジェクトでは、現時点(Time-now)までに、PV = 64億の進捗がある計画だったとしよう。すると SPI = 48 / 64 = 0.75になる。すると、プロジェクトのコスト的な着地点は、

  • Cost EAC = AC + Cost ETC = 50 + 50 / (0.8 * 0.75) = 133.3 億円

という推算になりそうだ。(なお、実際のエンジ会社のプロジェクトでは、こんな概算的な計算ではなく、F-WBSのカテゴリーごとに、もっと緻密な推定を積み上げて行う。ここでは分かりやすく簡略化したご説明をしている)
モダンPMへの誘い ~ プロジェクト・コントロールの目的とEVMS_e0058447_14394715.png



<関連エントリ>
「モダンPMへの誘い ~ EVMSで使うプロジェクトのKPIとは」 https://brevis.exblog.jp/30815670/ (2024-02-19)
「わたしはなぜ、『プロジェクト管理』という言葉を使わないのか」https://brevis.exblog.jp/26270824/ (2017-12-18)


# by Tomoichi_Sato | 2024-02-25 14:40 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

モダンPMへの誘い ~ EVMSで使うプロジェクトのKPIとは

アーンドバリュー(出来高)を用いたプロジェクト状況の把握と分析について、もう少し続けよう。

従来の予実管理手法では、PV(予定出費)AC(実績出費)を単純に比べるだけだった。これは、定常業務に関する予算ならば、十分有効だろう。部門のコピー経費などをおいかける目的には、この手法でも問題はない。

しかしプロジェクトの場合、そうはいかないのだ。プロジェクトという業務の特徴は、「終りがある仕事」である点だからだ。そのため、プロジェクトでは『進捗』という概念が必要になる。部門のコピー経費に、「進捗」を問う人なんていない。だが、プロジェクトは終わるために努力する仕事のため、つねに進捗が問われる。

そして、PVとACを単純に比較するだけでは、コストによる変動と、進捗による変動の、両方の要素が入ってきてしまうため、正しく現状認識ができない問題点があった。コストをうまくコントロールできている状況であれ、進捗が遅れている問題状況であれ、どちらも PV > AC という結果が出てしまう。だから、良いかまずいかの判断ができないのである。

EVMS(Earned Value Management System)のポイントは、EV(出来高)を基準にして、
「EVとPV」の比較、
「EVとAC」の比較、
という形にする点にある。これによって進捗の差異と、コストの差異を区別できるようにするのである。

少し分かりにくいかもしれないので、次の表を見てほしい。
モダンPMへの誘い ~ EVMSで使うプロジェクトのKPIとは_e0058447_10570568.png

従来の予実管理手法で使ってきたKPIは、予定出費(PV = Planned Value)と、実績出費(AC = Actual Cost)だった。

ところで予定出費PVというのは、予算で想定した金額を用い、その出費のタイミングも、スケジュール計画で予定したタイミングで計算する。その一方、実績出費ACは、現実に出ていった金額を計上し、かつ、その計上時点も、実際のタイミングに従う。

だから、予定出費PVと実績出費ACを直接比較しても、その差が金額による差なのか、タイミングの違いによる差なのかが、判別できないのである。そこでEVMSでは、あえて『出来高』EVという、人工的なKPIを導入する。このKPIは、金額は予定していた金額を用いるが、計上するタイミングは現実のタイミングに従う、というものだ。

したがって、予定出費PVと出来高EVを比較すれば、金額は同じだから、その差はタイミングの違いを示すことがわかる(図の右側の「進捗比較」の矢印)。同様に実績出費ACと、出来高EVを比較すると、両者のタイミングは同じだから、その差は金額の差を示すわけである(図の右側の「費用比較」の矢印)。

ちなみにEVMSでは、「EVとPV」の差を、 「スケジュール差違」SV (Schedule Variance)と呼ぶ。これも重要な導出指標KPIである。具体的には、

  • EV– PV = SV (Schedule Variance) 

が、その定義である。この値がプラスならOK、マイナスは遅れを示す。

また「EVとAC」の差を、「コスト差違」CV (Cost Variance)という。これも重要な導出指標KPIの一つだ。

  • EV– AC = CV (Cost Variance)

CV (Cost Variance)がプラスならOK、マイナスだったら赤字状態にあることを意味する。

どちらも、EVを基準にして、他の値を引くのだと覚えておいてほしい。プラスだと良い状態、マイナスだとまずい状態を示す。

モダンPMへの誘い ~ EVMSで使うプロジェクトのKPIとは_e0058447_10570067.png

ところで「EVとPV」「EVとAC」の差分ではなく、両者の比を取る指標というのも、時々用いる。前者をSPI(Schedule performance index)、後者をCPI(Cost performance index)と呼ぶ。

  • SPI = EV / PV
  • CPI = EV / AC

これらの指標は1より大きければGood、小さければPoorという事になる。

差を取ろうが、比を取ろうが、違いがわかれば充分じゃないか。なぜ2種類もあるのだ? と思われたかもしれない。だが、もちろん用途が違うのである。

比を用いるKPIは、どんな時に使うかと言うと、プロジェクト・コントロールの大事な目的である、Cost EACの推測、つまり着地点予測に使うのである。これについては、稿を改めて、また書こう。(→この項続く

<関連エントリ>
「モダンPMへの誘い ~ 『出来高』(EV)をマネジメントに導入する」 https://brevis.exblog.jp/30759325/ (2024-01-22)


# by Tomoichi_Sato | 2024-02-19 11:01 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

休み休み働こう

現代の経営学は、今から100年前、フレデリック・テイラーの「科学的管理法」の実践的研究に始まると言われている。テイラーはBethlehem Steel社の工場の技師長だった当時、銑鉄(ズク=Pig-iron)を運ぶ肉体労働に関し、観察と実験に基づく科学的な方法によって、劇的に生産性を向上させたことで知られる。

彼はまず、この一連の労働を、5つの要素的なタスクに分解する。そして、それぞれに必要とする適切な作業時間を割り出した。さらにSchmidt(仮名)という労働者を選び出し、彼に「ズクを持ち上げろ、歩け、回って休め、歩け、休め」と、ストップウォッチ片手で指示した。それまで、労働者の恣意的判断に任されていた時間の使い方を、細かくコントロールしたのである。

その結果は驚くべきものだった。それまで労働者1人は、1日平均12.5トンしか運べなかった。ところがSchmidtは、なんと47.5トンの銑鉄を運ぶことができた。およそ400%の生産性達成である。当然、彼は大幅アップの賃金を得た(当時の賃金制度は日給制で、完全出来高制度ではなかったため、4倍と言うわけにはいかなかったが)。

ちなみに当時、テイラーの仕事を手伝っていた後輩の技師の一人が、ヘンリー・ガントであった。そう、あの「ガント・チャート」を考案した技術者だ。また、テイラーは主著「科学的管理法の原理」の中で、自分たちの仲間の1人として(別の企業に働いてはいるが)、ギルブレスの成果を引用している。そう、あの動作研究の記号Therbiigの発明者で、かつベストセラー「1ダースなら安くなる」の主人公でもある。現代のマネジメント技術やIE(Industrial Engineering)の創始者達が、ちょうど100年前に、出揃っていたことになる。

もう一つ余談を書くと、テイラーはその素晴らしい功績を挙げたBethlehem Steel社を、1901年に辞職する。社長の経営方針とぶつかったためだ。当時の米国の経営管理とは、労働者を「鞭で追い立てる」方式だった。テイラーはこうした強権的監督と根性主義に反対して、科学的な管理方法を打ち建てるべきだと主張したのだ。だがその頃、Bethlehem Steelは、USスチール社の傘下となり、金融業モルガン・グループ出身のCharles M. Schwabが支配権を手に入れる。彼の「追い立て方式」の経営の下で、ガントらも結局、同社を去って行くのである。

でも、ズク運びの労働に話を戻そう。生産性4倍を達成させたテイラーの指示では、作業と休憩の割合が、なんと42%対58%だった。つまり就業時間のほぼ6割を、休憩しているのである。大半の時間を休んでいて、時々働く程度、と言っても良い。休みだらけの働き方なのだ。

当たり前だが、休憩時間も、就業時間の一部である。労働基準法では、「労働時間が6時間を超える場合は少くとも45分、8時間を超える場合は少くとも1時間の休憩時間」を途中で与えなければならない、と規定している。つまり「休むのも仕事のうち」という訳だ。

工場などに行くと、午前や午後の決まった時間に、10分から15分程度の休憩時間を決めていて、その間は現場作業が全て止まるのを、よく目にする。もちろん、法律で決まっているからだが、上に述べたテイラーの実験例を見ればわかるように、休憩はむしろ生産性を向上するための、必須の要素でもある。​

米国が「鞭で追い立て」主義なら、日本は「ガンバリズム」の世界だ。とにかく頑張れ、頑張れと、自らにも他人にも言い続ける。世界記録に挑もうとするアスリートたちの競技を描いた外国映画で、日本人は皆、競技者に「頑張れ」と声をかけるのに、欧米人たちは殆どが「リラックスしてやれ!」と声援するシーンがあったが、よく違いを捉えているな、と笑ってしまった。

わたし達の文化は、休むことを、まことに軽視している。休んでいる者は、まるで怠け者のようだ。そうした文化で長年育ってしまったわたしは、最近、「自分は休むことがとても下手だ」と感じるようになった。無理がきかない年齢になって、以前のようなペースでは働けなくなったからかもしれない。休暇取得率だって、100%には程遠い。

もっと上手に休むには、どうしたらいいか。

タスクで自分を「追い立て」るような、精神的スタンスをまず止めることだ。それはわかっているのだが、でも仕事は常に追いかけてくる。放っておくと、自分のToDoリストは、すぐに満杯になってしまう。優先順位付けは、もちろんしている。それでも打ち合わせの連続と細かなタスクで、1日があっという間に過ぎてしまうと、なんだかなぁ、と感じる。

そのためには、あらかじめ休みの時間を、スケジュールから「天引き」しておく必要があるようだ。つまり、事前に計画しておくのである。

休暇について言うと、客商売の受注ビジネスに携わっているので、どうしてもこれまで、自分の休暇予定を、仕事に合わせてとってきた。ちなみに、わたしの勤務先は、商社などと同じく、決まった夏休み期間がなく、各人が勝手に取ることになっている。しかし、工場現場を抱える製造業などでは、ゴールデンウィークやお盆などに、かなり連続した休業期間をあらかじめ決めている。それで仕事は回っているわけだ。

ということで、わたしも最近は、季節ごとに、割と連続した休暇を取るように心がけている。休暇というのは、小刻みに取るよりも、まとめて長く取った方が、気持ちの切り替えになりやすい。

その連続した休みの期間の中は、
(1) 休養、
(2) 娯楽・慰安、
(3) またちょっと休養
(4) 整理・雑務
という順序で過ごすよう、心がける。

まずとにかく、心身の疲れを取る。遊ぶのはそれからだ。そして遊び疲れから回復したら、忙しく働いていた時期にできなかった、様々な雑事をこなす。でも、生活上の雑務だって際限なくあるので、これを最初に持ってきてしまったら、休暇のほとんどが潰れてしまう。だからこの順番なのだ。

ところで、働いてる間の休憩はどうか? これは逆に、小刻みに取るのが良いと思う。つい熱中して、パソコンの画面をにらみ続けて、後で眼精疲労の頭痛に見舞われるような経験を、これまで何度もしてきた。そこで最近は、ポモドーロ・テクニックをとり入れるようにしている。

ポモドーロ・テクニックとは、シリロというイタリア人が最初に考案した手法で、25分間の集中作業と、5分間の休憩のセットを、「1ポモドーロ」と呼ぶ。このポモドーロを繰り返しつつ、時に少し長めの休憩を入れて、働くリズムを調整する。なんでも最初、キッチンにあったトマト(イタリア語でポモドーロ)の形をしたタイマーを利用したことから、この名前がついたらしい。

ポモドーロ・テクニックを助けるタイマー・アプリもいろいろと出ている。自宅ではMacを使用しているので、Activity Timer https://macdownload.informer.com/activity-timer/ というアプリを使っている。職場のWindowsではまだ、これといった決め手が見つからない。いろいろと試しているのだが、タスク管理など余計な機能がつきすぎている。そして意外なことに、途中でスキップできる機能が、なかったりする。でも、急な飛び込み等で、ポモドーロのサイクルが中断されることも多いので、スキップ機能は必須だと思う。

ともあれ、こうしたテクニックを試しているうちに気がついたことがある。それは働くことと、休むことのリズムが、実は本質的なものだと言うことだ。生き物は全て、いろいろなリズムに従って生きている。1日の昼と夜のリズムに始まって、潮の満ち引きのリズム、月の満ち欠けのリズム、季節のリズム、などなど。それらに従って活動しては、休息を取る。

休息している間、生き物は何をしているかと言うと、実は自分の体の中のメンテナンスを行い、また体の構造の再編を行ったりしている。「寝る子は育つ」と言う諺があるが、成長ホルモンは夜、分泌されることが知られている。自分の体の中の不整合を修復し、新たな成長に向かうための準備の時が、休息の時期の意味なのだ。言い換えるならば、活動とはエネルギーの時期であり、休息とはエントロピーを下げるための時期である。

だとすると、わたし達の企業組織も同じなのではないか。企業には、せっせと生産をし、商売をして利益を貯める時期と、その内部留保を用いて、仕事の不整合を取ったり、新たな仕事のための組織や仕組みを作るための時期が必要だ。そして、それはある程度、明確に区別すべきではないか。景気にもサイクルがあるが、企業の成長と成熟にもリズムが必要なのだ。

でも、残念ながら現代の経営学には、そのような「リズム」の視点が欠けている。株主や投資家は、常にいつもいつも、企業に絶え間ない成長を要求する。それはちょっと変ではないか?

自然界を見れば、組織に活動と休息のリズムが必要なことは、科学的に明白だ。そしてそのことは、テイラーのズク運びの実験でも明らかになった。だが科学的経営法を提唱したテイラー達が、金融資本に追い出されて以来、アメリカの経営思想には、「休み」の概念の重要性が育たなかったのである。


<関連エントリ>
「マネジメントを科学する​​」 https://brevis.exblog.jp/6465367/ (2007-09-15)
「休むのも仕事のうち」 https://brevis.exblog.jp/18579707/#google_vignette (2012-08-08)




# by Tomoichi_Sato | 2024-02-11 20:27 | 考えるヒント | Comments(0)

セミナー講演のお知らせ:「デジタル技術が変える次世代のスマート・プラントの姿」(2月22日PM)

お知らせです。
来る2月22日(木)午後に、「デジタル技術が変える次世代のスマート・プラントの姿」と題する講演を行います。これは、『デジタル技術が変えるプラント操業の世界』という半日有償セミナーの一環で、冒頭にいわばキーノート・スピーチとしてお話しするものです。

従来、「IT(情報技術)」と呼ばれてきたものの代わりに、最近は『デジタル技術』という言葉が、よく使われるようになってきました。また、「スマート工場」や「デジタル・ツイン」などの用語も、しばしば語られます。しかし、プロセス産業における、それらの意味をきちんと捉えている人は、決して多くないように思えます。

本講演では、データと情報の区別からはじめて、工場を生産のためのシステム(仕組み)としてとらえた上で、スマート化の意味を考えます。さらに、エンジニアリング会社としての経験から、産業間比較に基づいてプロセス対ディスクリート工場の特性を解説します。最後に、デジタル・ツイン概念に関する海外の動きと、日本の化学産業が向かう「ディスクリート・ケミカル工場」の次世代の姿について、皆様と一緒に考えてみたいと思っています。

本セミナーでは、わたしの講演に続いて、さらに3つのテーマでの発表があります:

  1. デジタル技術が可能にするオペレーション(LNGプラントのオペレーションの劇的改良)・・・日揮グローバル・藤崎翔氏
  2. デジタル技術が可能にするメンテナンス(ファストデジタルツインによる保全の変革)・・・ブラウンリバース社・金丸剛久氏
  3. デジタル技術が可能にするサプライチェーン(3Dプリンタが変えるプラント建設と部品調達の未来)・・・日揮グローバル・程原忠氏、日揮・吉本直広氏

想定する聴衆の方は主に、エネルギー・化学など、いわゆるプロセス・プラント分野の技術者の皆様ですが、医薬品・化粧品・食品・飲料・素材など、プロセス的な特徴をもあわせ持つ業界の方々にも、ご参考になる内容だと信じております。


デジタル技術が変えるプラント操業の世界

日時: 2024年2月24日(木) 13:00 ~ 16:50
   (わたしの講演は13:00-13:50です)
主催: 株式会社 技術情報センター
セミナー詳細: 下記のURLをご参照ください(受講申込もここからできます)

なお本セミナーは、会場での受講でも、ライブ配信(Zoom)での受講も可能です。またアーカイブ配信も行う予定です。

大勢の方のご来聴をお待ちしております。


佐藤知一@日揮ホールディングス(株)


# by Tomoichi_Sato | 2024-02-02 18:12 | サプライチェーン | Comments(0)

モダンPMへの誘い ~ 『出来高』(EV)をマネジメントに導入する

前回記事「モダンPMへの誘い 〜 出費が予定を超えなければ大丈夫?」https://brevis.exblog.jp/30726239/ では、Sカーブを使って、プロジェクト状況を判断するときの問題について説明した。Sカーブとは、プロジェクトの時間軸を横に取り、縦軸に出費を描いた線のことである。ふつうは、大文字のSを引き延ばしたような形になるので、こう呼ばれている。

ところで、予定出費の線(Planned Value = PV)の線と、実績出費の線(Actual Cost = AC)の2本を描いて、その大小を比較しても、プロジェクトの状況は「よく分からない」のだ、と前回書いた。なぜなら、実績出費ACのカーブが、予定出費PVのカーブより下に来ても、それだけでは「コストをうまく抑え込んでいる」事を示すのか、あるいは「進捗が遅れていて出費がまだ少ないだけ」かを、判別できないからだ。前者ならば、プロジェクトは良い状態にあると言えるし、後者だったら、まずい状態にある。

じゃあ、この二つの状況のどちらにあるのかを、判別する方法はあるのか? 実は、あるのだ。そのためには、3本目のSカーブを図に書き加えればよろしい。その3本目とは、「その日までに完了したアクティビティの予算額の合計」という、人工的な数値である。これを、Earned Value = EV、日本語で『出来高』と呼ぶ。

念のために書くと、予定出費PVは、「予定ではその日までに終わっているはずのアクティビティの予算額合計」である。実績出費ACは、「その日までに本当に完了したアクティビティの実際の出費額合計」だ。

仮に3本目のEVの線が、図のような位置に来たとしよう。では、この出来高EVの線があると、何がわかるのだろうか? 

モダンPMへの誘い ~ 『出来高』(EV)をマネジメントに導入する_e0058447_21544907.png

いま、出来高EVと計画出費PVを比べると、EVは明らかにPVよりも小さい。仮に図の縦軸の上限が1,000万円を表しているとしようか。すると、本日時点でPVは700万円くらいになる。つまり、今日までに、700万円分相当の仕事が終わっていたはずである。

ところが出来高EVは、図から見て、せいぜい400万円程度しかない。つまり、今日までに400万円分の仕事しか完了していない訳だ。すなわち、このプロジェクトは進捗が遅れていることがわかる。両者は同じ予算額の集計だから、その差はタイミングの差を示しているのだ。

さらに、出来高EVと実績出費ACを比べると、ACは600万円くらいで、EVよりも大きくなっている。両者はどちらも、その日までに完了した同じ仕事の、予算額と実際の出費を示しているわけだから、このプロジェクトでは、当初の見積よりもコストがかかっている訳である。

まとめると、計画よりも出来高は小さい(=進捗遅れ)、かつ、見積より実績出費は大きい(=予算超過)で、大変まずい状況にあるプロジェクトであることが分かる。この事は、PVとACの2本の線だけ、穴が空くほど睨んでも分からなかったのだ。

じゃあ、ためしに、3本目の出来高(EV)カーブの位置関係が、次の図のようだったら、どんな判断になるだろうか?
モダンPMへの誘い ~ 『出来高』(EV)をマネジメントに導入する_e0058447_21545001.png

今度も、考えるべきことは同じだ。まず、出来高EVを基準に、計画出費PVと比べてみる。あきらかにEVはPVよりも小さい。すなわち、進捗が予定より遅れている。ただ、出来高EVと実績出費ACの比較では、ACの方が小さい。これは、コストに関しては低めに押さえ込めていることを示している。納期はあぶないが、コストは今のところOK。そんな状況だと分かる。

どちらのケースでも、出来高EVを基準に、PVやACと比べている点に注意してほしい。PVとACを直接比較するのではない。この点が大事だ。PVとACを直接比べても、プロジェクトの状況は分からないのだ。なぜだろうか?

じつは、Sカーブには、「タイミング」と「コスト」の両方の情報が詰まっている。予定出費PVのカーブは、予定のタイミングと予定のコストを、また実績出費ACは、実際のタイミングと実際のコストを示している。だから、両者に差があったとしても、それがタイミング(進捗)によって生じたのか、コストによって生じたのかが区別できないのである。

これを区別するために、「タイミング」は現実だが、「コスト」は予定の値を表す、『EV』という人工的な量を持ち込んで、進捗とコストの差異を区別できるようにする。EVとPVを比べれば、両者とも金額は同じだから、その差はタイミング(進捗)の違いを示す。またEVとACを比べると、タイミングは同じだから、金額の差が検知できる。

PV, AC, EVの3本の線を活用して、プロジェクトの状況を判断したり着地点を予測したりする。これがEVMS = Earned Value Management Systemとよばれる手法である。そしてEVMSはモダンPMの三本柱の一つ、といえる重要な手法だ。

EVMSの手法は、70年代頃に、米国の防衛宇宙産業で発達したと聞いたことがある。スケジューリング手法であるPERT/CPMの登場が50年代、スコープをコントロールする手法WBSの発達が60年代だから、20世紀中盤の20年間ほどに、現代PM理論を支える3つの手法が出揃ったことになる訳である。

<関連エントリ>
「モダンPMへの誘い 〜 出費が予定を超えなければ大丈夫?」 https://brevis.exblog.jp/30726239/ (2024-01-22)

# by Tomoichi_Sato | 2024-01-28 22:00 | プロジェクト・マネジメント | Comments(2)