人気ブログランキング |

コトづくりとは、具体的には何をどうすることなのか?

日本人は、目に見えるモノには徹底して細部までこだわるが、目に見えないコトはまったく無頓着で関心を持たない、といわれる。まあ、こうした事には例外もあるが、その傾向が強いことは確かだろう。

その一方で、日本は「言霊(ことだま)の幸(さきわ)う国」だ、とも言われる。言葉には魂がこもっていて、口にするとそれが(良きにつけ悪しきにつけ)実現する、と無意識に信じられている、という訳だ。そうかもしれないな、とも感じる。

たとえば、「モノづくりよりコトづくり」なんて言葉を聞くと、また言霊かなあ、と思う。「コトづくり」とはどういう意味なのか、わたしにはよく分からない。発言している人はもちろん、分かっていらっしゃるのだろう。だが、その意味は、今ひとつ聞き手に伝わってこない。伝わらなくても、こう発言することが大事だ、という意識の方が、先回りして伝わってくる。

つくるべき「コト」って何? ちょっと定義してくれませんか? 例示だけでもいいんですが。

こうした発言は、近年のいわゆるサービタイゼーション=「経済のサービス化」のトレンドにしたがって、出てきたのだろう。「モノ売りからコト売りへ」などというスローガンも聞かれる。物販で製品の所有権をユーザに売り渡してしまうのではなく、いわばユーザの手元に製品を貸し付けて、その利用料をもらい続けるサブスクリプション型のビジネスモデルが、これから目指すべき潮流だ、という訳だ。

それはつまり、リソース提供型のビジネス、という意味である。リソースをユーザが占有して使っている間は、利用料をチャージする。販売による一時的な収益ではなく、顧客との継続的な関係と、その関係の改善で(たとえばTeslaのEV車が、ソフトウェアをリモートでアップデートしてくれて、使い勝手がどんどん改善されていくように)、ユーザを釘付けにして、永続的な収入を得よう、ということ、らしい。

でも、それが「コトづくり」なのだろうか。コトってのは、はじめがあったら、終わりがあるんじゃないのだろうか。コトとは、ある種、時間の中に実現されていく過程=プロセスの事ではなかったろうか?

コトの代表例を、じつはわたし達は知っている。それは『仕事』である。この日本語は、まさに「事をなす」を意味している。仕とは「行う」の意味があり、だから「仕上げ」「仕手」などの言葉がある(仕手は「する人」で、能楽では主役を指す)。

では、仕事というのは、どういう構造をしているのか。仕事で働くとき、その「働き」とは何なのか? それは次の図のような要素から成り立っている。
コトづくりとは、具体的には何をどうすることなのか?_e0058447_16164291.jpg

「働き」である以上、それは何か付加価値の伴う作用をしている。つまり、アウトプットを生み出す作用だ。そして、全くの無から有を作り出すことは困難だから、普通は何かのインプットをアウトプットに変換する訳である。

インプットをアウトプットにつなげる道筋を、Systems Engineeringではプロセス(過程)とよび、Input-Process-Outputの頭文字を取って、IPOモデルと呼んだりする。しかし、ここでは仕事の要素単位を、プロジェクト・マネジメント分野の用語をとって、「Activity」と呼ぶことにしよう。

Activityをとりまき、構成する要素は、次の5つだ:

1. アウトプット(成果物/完了状態)

 生み出されるべきモノ、情報、または特定の状態をさす。働きとは何らかの有用なアウトプットを生み出すことだから、これが一番重要である。アウトプットは、そのActivityの「完了条件」を意味し、これが生成されれば、その特定のActivityは完了する。なお、アウトプットに「特定の状態」が含まれる理由は、ある条件が満たされれば完了するような仕事もあるからだ(たとえば、部屋の掃除は、部屋がきれいな状態になったら終わりである)。

2. インプット(必要材料):モノ、情報

 アウトプットがモノである場合、当然ながらインプットとしては、材料としてのモノが必要になる。アウトプットが情報(たとえば何らかのレポートとか設計図とか)の場合は、インプットは情報だけでいいだろう。まれには、作家が創作するときのように、特定のインプットなしに空から考えて何かを生み出す場合も、ないではないが。なお、モノづくりの仕事の場合、通常は材料以外に、どんなものを作るのか(What)を示す情報、たとえば設計図とか仕様書も、インプットとして必要なはずである。

3. リソース(経営資源):人、ならびに場所・機械設備・道具、等

 仕事はふつう、人が担う。まあ、完全に機械化されたプラント・工場の工程など、人手を介さずにモノの変化が進むケースもあるが、その場合も、監視や制御といった役割で人がつくことが多い。そして、現実の仕事は、ある場所を使い、機械設備も使い、工具や金型やPCといった道具も使う。これらをまとめて、リソース(経営資源)と呼ぶ。その中で一番重要なのは、もちろん働く人(Human resource)である。

 ちなみにリソースとインプットの違いは、仕事の終わりに消費されて無くなってしまうか、あるいは元のまま残って、次の仕事を担えるか、にある。リソースは、Activityの実行する間だけ占有されるが、完了したら開放されて、別のActivityに用いられる。ちょうど化学反応における触媒のように、それ自体はなくならずに残る。そして触媒のように、多少減耗したり劣化するので、ときに賦活・再生が必要である。

4. 制約条件:コスト・納期、技術規格、法規制、環境・安全影響など

 たいていの仕事には、そのやり方(How)に伴う、制約条件が与えられている。端的には、使える予算の上限とか納期である。また技術規格や法規制などもそうだし、当然ながら騒音だのゴミだのを勝手に排出しないような環境面・安全面の制約もある。

5. 指示及び報告:「Management」のために必要

 自営業者の自発的な仕事ならばいざ知らず、組織の中で行われるActivityには、マネジメントのために指示と報告が必要だ。「マネジメント」とは、人に仕事をしてもらう、という意味であり、だから依頼者と作業者の間に、指示と報告がいるのだ。ちょうど鍋の取っ手のようなものである(少し違うかな?)。納期やコスト制約がActivityごとに個別に異なる場合は、それも指示に付随して渡される事が多い。完了時、ならびに異常発生時にも、報告が出される。

なお、Activityの内部には、さらに下位のSub-activityが並んでいて、それが仕事のプロセスを構成しているかも知れない。そういう意味で、Activityは階層的に分解可能である。ただし内部のSub-activityは通常、外部に対しては「遮蔽」されており、いわば、任されている状態にある。マネジメントにおける指示と報告の単位では、原則としてアウトプットの結果のみを問うことになる。

もっとも長期間にわたるActivityで、途中経過がないと依頼者側が不安な場合は、途中報告を求めるケースも多い。その場合は、Sub-activityのどこまで進んだか、などを回答することになるだろう。


以上が、「仕事というコト」の構造である。こういう図を見れば、当たり前だ、そんなの常識じゃないか、と思うかもしれない。だが、この当たり前が、いつでも言語化して取り出せる形で、皆の胸の中に入っているかどうかは、別だろう。不思議なことに、わたしはこのような図を、あまり他で見かけたことがない。

「コトづくり」だとか、コトを設計する、といった場合、当然ながら上記の5要素を、きちんと定義しないといけない。アウトプットは何で、インプットは何と何なのか。使うべきリソースは、誰がどのように割り当てるのか。制約条件は何で、指示の内容とタイミング、そして報告義務はどんなことなのか。

仕事がトラブる原因の多くは、じつは仕事を頼む際に、上記の5要素をちゃんと確認し、伝えていないために発生する。せっかく働いて成果物を提出したのに、「俺が注文したのはこんな成果物じゃない」といわれたり、逆に誰かに仕事を頼んだら、全然違う材料や情報にもとづいて作業していたり。これが部署をまたぎ会社をまたぎ、さらに国境をまたいだりすると、たいてい悶着のタネに発展する。

だから、わたしは学生にプロジェクト・マネジメントを教えるとき、こんな練習問題を出している:

「あなたが誰か家族に『オムレツを作って』と頼むとしましょう。そのアウトプット・インプット・必要なリソース・制約条件を言葉にしてみて下さい」

こういう練習をしてみて、はじめて学生たちは、自分が人に何かやってもらう時に、いかに伝達があいまいだったに気がつく。これは世間で言う「コミュ力」などの問題ではない。仕事というコトの構成要素が、頭に入っているかどうかの問題なのである。

そこで、わたしは続けて言うことにしている。「みなさんが、先生や先輩やバイト先の上司など、誰かに何か仕事を頼まれた際にも、自分からこの5つの要素をちゃんと確認するようにしましょう。そうしないと、せっかく働いたのに、相手に怒られて、やりきれない思いをしかねませんから。」

なお、製造業では、製造の要素として、よく「4M」をあげる。Man, Machine, Material, Methodである。それぞれ、上記の「働く人」「機械設備」「必要材料」に相当する。じゃあ、最後のMethod(方法)はどこなんだ? 5要素にも、上の図にも入っていないじゃないか? そう疑問に思われた方もおられるだろう。

答えは簡単である。Method(あるいはProcess=過程)とは、Activityの内部を構成するSub-activityの列で表現されている。逆に言うと、コトを設計するとは、入出力を決めた上で、その内部のsub-activityの構造と制御を決めることなのだ。

これが「コトづくり」って事じゃないの? 違う?

春になると暖かくなること、夕日が美しいこと、花にもの思うこと。そうした「こと」は設計できないし、設計不要だ。わたし達をとりまく事には、自然に生じたのも多い。しかし、人が関わって働きをもつ「コト」は、設計し動かしていくスキルが、たしかに必要だ。

コトは目に見えにくいだけに、無頓着な人が少なくない。だから言語や図式で、目に見えるよう表現した方がいい。ただしキーワード単語だけの言葉は、かえってコトダマ化して、人を惑わすことがある。わたしがいつも長々と文章を書いているのは、それを防ぎたいからだ。残念ながら140字では、この説明は伝わらない。コトをなすには、コトバを使いこなす技が必要なのである。


<関連エントリ>


# by Tomoichi_Sato | 2021-04-17 16:21 | ビジネス | Comments(0)

書評掲載のお知らせ

お知らせです。

直木賞作家・姫野カオルコさんの、評判を呼んだ著書『彼女は頭が悪いから』が、この4月に文庫化されました。
これを機に文藝春秋社の依頼で、文藝春秋BOOKS「本の話」に書評、

 「わたし達は皆、頭が悪いから」 

を書きました。
マネジメント・テクノロジーとは何の関係もない文章ですが、よろしければご笑覧ください。


佐藤知一@横浜


# by Tomoichi_Sato | 2021-04-14 20:41 | 書評 | Comments(0)

管理のシステム化は可能か?

「管理不行届」という言葉がある。時折、新聞などをにぎわす言葉だ。通常は人間を対象にした問題が生じた際に使われる(危険物などの保管で使われる場合も、ないではないが、かなりの問題を起こした場合に限られよう)。多くの場合、組織の構成員が、社会問題になるような不適切な行いをした際に、上長とか代表者などの「管理責任」を問うために使われる。管理のかわりに「監督不行届」という場合もある。

「不行届」という漢字を、「ふゆきとどき」と音訓まぜた読み方にして、しかも送り仮名をつけないスタイルから見て、かなり古い時代から使われている言葉らしい。実際のところ、江戸時代などでも、家中で不祥事があると、大名や重役が幕府から管理責任を問われ、蟄居閉門だのお家断絶などを命じられたようだ(ただし、管理責任を厳しく問いすぎると、問題発生を隠して偽装する、という別の問題行動が生じるのは、江戸時代も今も変わらない)。

ちなみに、国士舘大学の杉野隆氏の研究「『管理』という言葉」(情報システム学会, 2011 )によると、管理という言葉は元々、「管轄辨理が略されて成立した」という。「管轄」は、皆が知っている通りの意味だ。「辨理」という言葉は、「事務を処理する」(新漢語林)あるいは「弁別して処理する」(広辞苑)ことだという。「管理」の語は、清朝では17世紀末に成立し、日本には18世紀に到来したが、現在のような意味で広く使われるようになったのは、明治以降らしい。

本サイトでは、前々回の記事「管理とは何か、を明らかにする12の質問」 (2021-03-16)と、前回の「管理という仕事をスケールアウトするために」 (2021-03-28)で、それぞれ、「モノの管理」「人の管理」について、そのありようを考えてみた。その結果、両者はよく似た相似形のサブタスクからなる仕事であることが、見えてきた。

さて、「経営資源は人・モノ・金」と、よく言われる(ただし、こういう言い方が通用するのは日本だけらしく、わたしの知る限り、英文の文献では、あまりこの3要素の列挙は見かけない)。ともあれ、モノと人の管理については、考えてみた。お金の管理は、どうだろうか?

お金の管理は、モノの管理と比較的相似形だと考えられる。管理対象を認識し、その数量と状態、そして出入りを把握する。

ただし、お金がモノと違う点は、紙幣・貨幣を個別に追う必要がないことだ。10円玉10枚と、100円玉1枚は交換可能であり、合計した数値だけを「管理」すればよい。お金というのは預金・株式・債券を含めて、ある種の「権利」の表象だからである。

工場などでモノをきちんと管理する場合は、個品を追いかけるために、ロット番号やシリアルナンバーなどを把握する必要がでてくる。しかし、紙幣の番号をいちいち記録しながら出納している会社など、(金融機関の一部業務を除けば)見たことがない。そして紙幣や貨幣には、消費期限がない。修繕の必要も、ほぼない。それは国家が、必要に応じてやってくれる。とても世話なしである。

だから、お金の管理はモノの管理よりもずっと簡単である・・などというと、「それは違う!」と怒る人が大勢出てくると思う。お金の管理が簡単だなんて、とんでもないことだ。お前はお金で苦労したことがないのか?

いやいや、ここでいう「管理」には、「運用」の仕事は入っていないことに注意してほしい。「モノの管理」には、モノを調達したり加工したり消費したり、といった直接業務は含めないのだった。同じように、お金を貸し付けたり投資したり稼いだり消費したりする行為は、ここでいう「お金の管理」には含まない。

もちろん、お金には「利息」や「配当」、さらに市価上昇による「キャピタルゲイン」など、それ自体が時間と共にお金を生む仕組みがある点が、単なる物品の保管とは異なっている。でも物品だって、消費期限や劣化や陳腐化など、時間と共に数量が変化する場合があるから、本質的にひどく差がある訳ではない。

むしろ、お金について、気を遣わなければならないのは、法律で「管理」が要求される点である。課税のための会計が求められるのだ。そして、会計においては、数字の正確性と記録性、そして一貫性などが要求される。これがゆえに、お金の管理=すなわち経理という仕事に、専門職が発生するのだ。

冷蔵庫や工場倉庫の中が、いかに散らかっていても、そして数量が現実とあわなくても、誰も文句は言われないが、経理の数字が違っていたら、税務署に怒られる。だから「お金の管理は難しい、大変だ」と、多くの人が感じるのである。

かくして、モノ・人・お金の管理業務を、比較して見てきた。そして案外、共通性が高いことが分かった。管理においてやるべき事をまとめて、やや強引に抽象化すると、こんな要素になる:

(1) 対象のリスティング ・・・ 現在
(2) 位置・状態のモニタリング・・・現在(位置・属性)
(3) 動きのトラッキング・・・過去
(4) 当面のフォアキャスティング・・・直近の未来
(5) あるべき姿のデザイニング(個別対象)・・・要求・評価
(6) もっていきたい姿のプランニング(全体)・・・意思・目標

これをよくよく見ると、管理という業務の中は、2つのレベルに分かれそうだ。

一つ目は、(1)〜(3)に表される、管理対象の現在・過去の把握、である。さらに(4)の、確定した直近の予定・見込みも含む。つまり現在と過去と近未来に関して、正確な情報をつかむことだ。

いいかえると、管理という仕事の第一層は、ある意味、情報を処理する仕事=情報処理業務なのである。

だからこそ、「管理システム」という名前のITシステムが、世の中に生じることになる。対象業務は、生産管理だったり在庫管理だったり、あるいは労務管理・出納管理・文書管理などなど、「人・モノ・金」の範疇を含んで、いくらでも広がりうる。

こうした「管理システム」を構築する際は、とりあえず、情報をやりとりするための画面・帳票が規定される。また、業務手順(プロセス)も、一応規定される。さらに、ふつうは、なんらかの台帳も共有される。つまり、ある程度、業務の手続きに関するルールが形式化されるのである。

さらに、多くの場合は、「管理レポート」なる帳票の類いも出力できるようになっている。この管理レポートとは、まあ履歴のリスティングや多少の集計、そして統計分析などが主体である。統計することを「管理」と呼ぶに値するかどうかはさておき、しばしば、何らかのKPIが測られ、計算出力される訳だ。

もっとも、そのKPIに、標準値があり、正常値の範囲(すなわち問題の検知の基準)と、さらに目標値があるかどうかは、別問題だ。そこまでついていたら、たしかに「管理」の名前に似つかわしいと感じるかも知れぬ。昔、わたしの勤務先で、ある管理職の方が、社内開発した「ドキュメント管理システム」の内容を見て、

「これって、単なる『ドキュメント・ステータス・トラッキング・プログラム』に過ぎないではないか。これでドキュメントを管理できる訳ではない。正しい呼び名で呼ぶべきだ」

と主張していたのを思い出す。情報を正確に処理するだけでは、管理として何かが足りない。そう、その管理者は考えた訳だ。では、その足りないものは何なのか?

そこで、上のリストに戻ってみよう。管理の第二層は、(5)と(6)に表されるように、管理対象を望ましい方向に動かすこと、だと分かる。そして、ここには要求や意思・目標、などの要素が入ってくる。つまり人間に起因する要素だ。

では、誰の要求や意思なのか? 直近のことだけを考えるなら、その直接のトリガーは、上から(あるいはユーザや顧客から)課された、要求・指示であろう。管理担当者は、それを管理対象に翻訳して伝達する訳だ。「対象を動かす」と言ってもいい。

しかし、「あるべき姿」「持っていきたい姿」が、誰か外部からの直近の(納期付きの)要求ではなく、自発的な、より中長期的な将来像である場合こそ、より本来の意味で『管理者』の仕事にふさわしい、と言えるだろう。そういう風に、管理対象を構造化・組織化して、動かすのが、管理業務の第二層、より上層の仕事である。

対象を動かすといっても、対象が単なるモノの場合は、「保管」という言葉がふさわしい。また、対象が機械の場合は、運転とか操縦とか制御と呼ぶ。やはり、人間を動かす場合が、一番難しい。対象が人間の場合、あるいは人間を含む「仕組み」の場合は、結果に不確実性も伴う。

ここでいう不確実性とは、「情報の不正確性」とは違う。だから、管理業務の第二層は、情報システムだけでは片付かない。むしろ、伝え方・動かし方の問題になる。そして、動かし方を全体として見た場合の、有用性・効率性・再現性などが、評価尺度になる。だからこそ、管理者側の価値観と意思が問われるのである。

ところで、以前わたしはこのサイトで、「スマートさ」について、7つの基準を用いた定義を紹介したことがある。それはこんな内容であった。

スマートさ:「全体を考えて判断し、自律的にふるまう
1. 現在を正確に把握
2. 過去を記憶
3. 将来を予見
4. 意思と目標を実現すべく計画
5. 問題にすぐ気づき解決する
6. 無駄なことはしない
7. 経験から学び、学びの枠を柔軟に拡げる

このリストを、上の6項目と比較すると、(1)〜(4)がほぼ、1.〜3.に対応していることが分かる。(5)(6)はもう少し詳しく4.〜7.に展開されている。だが、どちらも2つの層からなっている。つまり、「管理」という仕事は、上層の部分まで含めれば、「スマートである」ための条件を満たすのだ。

ITによる管理システムは、もちろん管理の仕事のためには必要だ。だが、それだけでは、第1層をカバーしているに過ぎない。それはスマートであるための必要条件だが、十分条件ではない。賢くなりたかったら、自分の側に、主体的な意思と価値観が必要となるのである。


<関連エントリ>
  (2021-03-16)
  (2021-03-28)


# by Tomoichi_Sato | 2021-04-05 23:56 | ビジネス | Comments(0)

お知らせ:工場設計に関するオンライン・セミナー2件に登壇します(4月15日・4月23日)

ここでお知らせです。

日揮株式会社は、この4月から、新しく「ネクストファクトリーソリューション部」を設置し、製造業のお客様に向けた、スマート工場づくりのビジネスに、本格的に力を注いでいくことになりました。わたしも、この新しい部門のアドバイザーとして、微力ながら日本の製造業の課題解決をお手伝いして参ります。

弊社はこれまで得意分野として、石油・化学・医薬品などのプラントを数多く手がけてきました。我々の新しい部門は、それをさらに拡げて、化粧品・食品をはじめ、組立加工系の業種や物流施設などにも、これまでにつちかったエンジニアリング技術を応用し、スマート&インテグラルな工場づくりに取り組みます。

石油プラントや医薬品工場などは以前から、多数のセンサーと自動制御システムを配備し、MESも活用してきました。「スマート化」の点では、他の分野に比べて一日の長があると言えます。そして、そもそもマスタープランの構想段階から、工場全体を一種の「システム」として捉え、設計していくことが普通です。これは、建物を建てて中に機械を並べ、あとから個別に自動化やスマート化を検討するのとは、かなり異なるアプローチであることが、お分かりいただけると思います。

今回は、そのような観点から、工場全体の最適レイアウトを自動設計する新しい手法について(4月15日)と、MESの存在を前提としたスマート工場のエンジニアリングについて(4月23日)、それぞれ無料のウェビナーでお話しします。


1. 【プロットプラン自動設計システム「Auto Plot PATHFINDER」】(4月15日 18:00〜)

工場・プラントの全体レイアウト設計(プラントの場合はプロット・プラン=Plot Planと呼びます)は、考慮すべき項目の多い、難しい仕事で、ふつうはかなりのベテランが取り組みます。プラントの製造工程を構成する機械・装置群を、ムダなく配置し、モノの流れや人の動線が短く、合理的となることを目指す訳です。しかし実際には、流れと流れが干渉したり、敷地に詰め込みすぎると、機械のメンテに支障をきたすといったトレードオフ問題が発生します。

この問題に対し、わたし達は、多目的最適化の一種である「満足化トレードオフ法」を適用することで、解決を図っています。そして、最適なプロットプランを設計する新しいシステム「Auto Plot PATHFINDER」を開発しました。昨年秋にも、ウェビナーでその内容をご紹介しましたが、今回のセミナーでは、最新の成果も入れて、あらためてご報告します。

なお、本ウェビナーは、海外のお客様を意識して、Q&Aを含めて、すべて英語で行います。あらかじめご了承下さい。

日時:2021年3月15日 18:00 - 19:00 PM
(事前登録制、参加無料です)

講演者:崎山弘道(日揮グローバル)、佐藤知一(日揮ホールディングス)
ゲスト:香川大学教授 荒川雅夫氏

ウェビナー登録サイト
LinkedIn ウェビナー案内

なお、内容の概略については、以下の短い動画でのご覧になることができます。

YouTube

工場・プラントのレイアウト問題にご興味のある方の、ご参加をお待ちしております。


2. 【ダッソー・システムズ オンラインセミナー】(4月23日 13:00~)
「今製造業がスマートマニュファクチャリングを目指すべき理由」
   ~10年後も持続する製造現場のあるべき姿~

こちらは世界有数のMESベンダーでもあるダッソー・システムズさんとの協賛セミナーです。ダッソーさんからは、スマートマニュファクチャリングを実現する生産工程、製造管理、生産計画を最適化するソリューションを、事例と共にご紹介いただきます。

わたし自身は、特別講演として、日揮の考える「次世代のスマート工場」と、MESの存在を前提とした工場のエンジニアリングのあり方について、お話しいたします。


■プログラム(抜粋)

-----------------------------------------
 勝ち残るための10年後に向かうスマート・マニュファクチャリング構想
-----------------------------------------
  ダッソー・システムズ株式会社 DELMIAブランド・ディレクター  藤井 宏樹 氏
  アイティメディア株式会社   MONOist編集長  三島 一孝 氏

-----------------------------------------
特別講演| システムとしての工場をつくる
-----------------------------------------
  日揮ホールディングス株式会社 チーフ・エンジニア(Business Analyst) 佐藤 知一

-----------------------------------------
 デジタル・マニュファクチャリング 納期短縮・工程の効率化を実現する生産検討プロセス
-----------------------------------------
  ダッソー・システムズ株式会社 DELMIAインダストリー・プロセス・コンサルタント  萩原 あづみ 氏

-----------------------------------------
 未来型製造徹底討論 これからの持続可能な製造に向けて今できること
 ~識者が皆様のご質問に答えます~
-----------------------------------------
  ダッソー・システムズ 藤井宏樹 氏、MONOist編集長 三島一孝 氏、日揮HD 佐藤 知一


≪詳細・視聴登録はこちらから≫

■開催概要 [提供:ダッソー・システムズ株式会社]

・配信期間: 2021年4月23日(金) 13:00~16:30(接続開始 12:45~)
・参加費 : 無料
・主 催 : アイティメディア株式会社 MONOist編集部
・協 賛 : ダッソー・システムズ DELMIAブランド
・対象者 : 製造業の経営企画部門、製造管理部門、工場長、
       SCM・ロジスティクス部門、生産技術部門長、生産技術部門、
       情報システム部門など

※ 協賛社の競合企業にお勤めの方、個人の方のお申し込みはお断りすることがございます。
※ 申込多数の場合、対象の方を優先させていただく場合がございます。

≪詳細・視聴登録はこちら≫


以上、大勢の皆様のご参加をお待ちしております。


日揮ホールディングス(株) 
チーフ・エンジニア(Business Analyst) 佐藤 知一


# by Tomoichi_Sato | 2021-04-01 23:36 | 工場計画論 | Comments(0)

管理という仕事をスケールアウトするために

あなたは、新しく開いた塾の先生だ。以前はIT業界で働いていたのだが、思うところあって脱サラし、小中校生を相手に勉強を教える、私塾を開いた。あなたは子ども好きで面倒見が良く、また以前からいろんな形で地域活動にも関わり顔が知られていたので、幸いそれなりに生徒も集まってきた。あなた一人ですべての科目を教えるのは大変なので、知り合いの大学生2人もアルバイトで雇い、手伝ってもらっている。

最初の受験シーズンも終え、成果はまずまずだった。あなたは胸をなで下ろし、新規募集に力を入れよう、と思う。前の職場では途中でエンジニアから営業職に転換され、不本意な思いもしたのだが、その時の経験は、塾生の募集にも多少役立っている。人生、どこで何が役に立つか、分からぬものだ。新学期に向け、新たな入塾希望者も増えてきた。そしてあなたは次第に、子ども達の顔と名前が覚えきれなくなるのを感じる。

そろそろ、塾の生徒たちの管理の仕組みが必要になってきたようだ。では、塾生の管理とは、いったいどういう仕事なのか? あなたは昔取った杵柄で、「管理という業務の要件」を分析してみることにした。

最初に考えるべきは、あなたの「管理対象」である塾生が、誰と誰か、である。つまり塾生の名簿(リスト)が必要なのだ。それに加えて、本日、塾に来ているのは誰と誰か、も把握しないといけない。以前、ある親から、「塾に行く」といって家を出たまま帰らないのですが、という問合せがあったのだ。それ以来、あなたは入口近くに生徒の名札を下げ、来たら表側にし、帰るとき裏返す、という柔道場方式をとりいれている。

もちろん、当然ながら生徒たちの本来かえる場所(つまり自宅住所)はどこか、連絡先と連絡方法も、リストに記載しなければ。家の固定電話だけでなく、携帯も必要だ。あなたは現在、スマホの簡単な住所録アプリにグループを作って登録しているだけだが、近頃では親御さんともLINEでの連絡が増えてきている。どうしたものか。

次に把握すべきは、子ども達の状態だ。それには健康状態なども含まれるが、何よりも、毎回塾に通ってきているかどうかが大事だ。気持ちが向かってきているか、塾から離れていないか。義務教育の学校と違って、塾は結局、子どもの気持ちと意欲に依存している。

そして最大限に重要なのは、もちろん、それぞれの子どもの能力・態度・成績だ。塾は学校と違い、学期ごとに成績簿をつける訳ではない。むしろもっと細やかに、各人の能力や得意・不得意を見ていく必要がある。それにしても、能力・態度・成績とは、まるで会社における業績評定と同じ評価軸ではないか。むろん成績は科目別に細分化されているわけだが、人の「評価」って、どこでもよく似た形になるのだと、(中間管理職だったあなたは、年度末の査定業務を思い出しながら)思う。

次なる課題は、塾全体としての人数はどうか、である。現状の人数の把握も必要だが、むしろ管理者としてのあなたの主要な関心は、生徒の増加数はどうか、という時間軸の変化である。増加数とはすなわち、入塾・卒業・途中退塾から得られる純増のことだ。学校なら転入出というのも考えるところだが。

塾生の管理ということなら、ここまでかな、とあなたは思う。幸い人数が増えた。おかげで、自分の頭の中だけでは追い切れなくなってきた。そこでリストを作る必要が出てきた。とはいえ、リストも今の人数程度だったら、自分のPCでExcelの表を作れば十分そうだ。管理という業務の要件定義、なんて、習慣でつい身構えたが、データベースとか台帳とかいうほどのレベルじゃない・・

いや、待てよ。あなたは考える。そもそも、管理対象の単なるリストと、『台帳』とは何が違うのだろうか? ほんとに、PCの中のExcelファイルのままでいいのだろうか。

それではまずそうだ、と今のあなたは思う。なぜなら、他のアルバイトの教師もいるし、経理事務を手伝ってくれている配偶者もいるからだ。この人たちも、必要に応じて、塾生のリストを参照したり、あるいは追記更新したりできる必要がある。個人事業主のあなたが、風邪をひいて3日寝込んだら、塾のすべての業務がストップするようでは、まずいだろう。

リストと台帳の違いなど、今まで考えたこともなかった。業務系システムの中でRDBで定義されたマスタを、台帳と呼ぶのだと、漠然と理解していた。だが、そうではなかったのだ。台帳とは、管理責任者である自分以外も含めて、複数の人間が共有し、必要に応じてアップデートできるリストであり、しかも、一次情報の源であって、情報の真偽はそこを基準に判断するようなリストのことを指している

いいかえると、管理という仕事を複数の人間に拡大し、一部の機能を移転可能にするために、台帳というツールが必要なのだった。

あなたは前職の時代に、客先の製品倉庫で見た、紙の在庫台帳を思い出す。古くさいが、あの仕組みはちゃんと機能していた。あれは、販売管理システム構築のプロジェクトだったっけ。販売物流の側は、ちゃんと業務をシステム化できた。だが営業部門側は業務がグチャグチャで、各人が勝手に案件情報を抱え込んでおり、システム化は難航した。おまけに、苦労して開発して納めたのに、ろくに使われぬままだった。IT化の前に、台帳の仕組みがあるかどうかが、実は管理という仕事のカギなのだ。

管理対象が少数なら(数個とか数人なら)、すべてを頭の中で追うことができる。だが、対象の数が増えて数十の単位になったら、リスト化が必要になる。対象が百を超えたら、おそらく『台帳』化して複数人が使えるようにするべきだ。そして千個を越したら、もうITを使わなければ不正確非効率でやっていられない。

逆に言うと、管理の仕組みを検討するにあたっては、最初から、「現在の規模をスケールアウトできるようにするには、どうすべきか」を考えておく必要があるようだ。だとすると、現在、想定しておくべき事態は、何だろうか。たとえば、生徒の数が数百人に達したら、何が起きるか。

あたりまえだが、今のように、自分一人とアルバイト2名では回らなくなる。講師を増やして、組織化していく必要があるだろう。そんなことを今から心配してどうするのか、と配偶者は笑うかも知れない。だが、その時はどうすべきか。今度は、部下である講師も管理していかねばならない。講師の台帳が必要になるのだ。

ただ、その場合は、塾生のようなフラットな構造の台帳だけでは、足りないだろう。「組織」になるからだ。業務の組織であるからには、人数や連絡先や能力評価以外に、役割とポジションが適切か、という視点がいるだろう。業務ルールも作らなくてはならない。また、講師についても、求人や教育・認定などの仕組みが必要になる。企業組織の塾や予備校は、そうなっているはずだ。

加えて、現在はいないが、できれば居てほしい人材はいるか? という問いに答えなければなるまい。今から何年後にそうなるかは知らないが、その時までの経験に学んで、人の管理(この場合は生徒の管理と講師の管理の両面になるが)の仕組みを作り上げるのが、経営者たる自分の責務であろう・・


まとめると、人の管理という仕事は、最低限、以下の項目に答えられるようになっていなければならない:
(1) 管理対象は、誰と誰か
(2) 現在来ているのは誰か
(3) 本来の場所(自宅住所)はどこか、また連絡方法は
(4) 状態はどうか(毎回通っているか)
(5) どんな能力・態度・成績か
(6) 人数はどうか
(7) 入学/退出はどうだったか
(8) 入学/退出はどうなる予定か
(9) 役割・ポジションは適切か
(10) 募集、教育、認定がなされているか
(11) 現在はいないが、できればほしい人はいるか
(12) 経験に学んで、人の管理の方式をつくっているか

前回の記事で解説した、モノの管理と比較すると、かなり相似形になっている事が分かる。

管理という仕事をスケールアウトするために_e0058447_22315374.jpg
ただし、それは、人の管理がモノの管理と同じような仕事だ、という意味ではない。経験者なら誰でも知っているが、人を動かす方が、モノを動かすよりも、ある意味ずっと難しい。人は(モノと違って)自分の判断で場所を移動してしまう。人間はロボットではないので、同じことを指示しても、動きが異なる。訓練や経験で(そして対人関係や気分で)、動き方をかえる。それぞれが人格と自由意思を持つ存在だからだ。

したがって、個別のイベントから、再利用(再適用)可能な教訓を引き出すことも、モノ相手に比べて、はるかに難しい。それはあなたが、自分の親兄弟や、配偶者や子ども相手に、ほぼ毎日経験していることだろう。

ただ、そうした仕事の難しさの違いは、上の表の、どこに現れているのだろうか? 比べても、あまり差がありそうには思えないではないか。

逆の問い方をしてみよう。あなたが前職で客先に、製品在庫の管理システムを納入したとき、それがカバーした機能範囲は、表の左の列の、どこからどこまでだったのか? おそらく、(1)〜(10)だったに違いない。

じゃあ、あなたの塾が将来成長したときに必要になる、「塾生・講師の管理システム」の機能範囲は? それも同じように、(1)〜(10)だろう。(11)「あるべき姿の構想」と(12)「管理の方式づくり」は、ITで自動化したり効率化したりする範疇の仕事とは思えない。

だとすると、モノと人の管理の違い、人の管理の難しさは、もっぱら「あるべき姿の構想」「管理の方式」に潜んでいるに違いない。つまり、管理といっても、そこにはたぶん、二つの層があるのだ。それについて、もう少しだけ考えてみよう。

(この項続く)


<関連エントリ>
  (2021-03-16)


# by Tomoichi_Sato | 2021-03-28 22:45 | ビジネス | Comments(0)