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心の残業は、やめよう

  • 「仕事に心をつかってはいけない」

夜中に目が覚めて、眠れなくなった。目を閉じても、頭がループしたように、考えるのは同じ事柄とシーンばかり。しばらくしてから、ようやく自分で「ああ、また心で残業してしまっている」と気づいた。こんな残業を深夜に自分の寝床でしても、誰も手当を払ってくれる訳でもない。やめよう、やめよう。

仕事に心をつかってはいけない」と、昔、あるベテランのプロジェクト・マネージャーから聞いた事がある。でも、聴いて真意をすぐに理解したとはいえない。仕事は複数の人間が協力して進めるものだし、人に気遣いをするのは、ある意味、大事じゃないか。そうも思った。

しかし、この方が言われていたのは、もっと深い話だった。「心をつかう」とは、じつは気遣いとか心遣いの事ではない。心を浪費する、という意味なのだ。あるいは、わたし達の中にある、感情と思考という大切な脳のリソースを無駄につかってはいけない、というアドバイスだ。

仕事の時間が終わったら、もう、仕事に関する心配も気苦労も、終わりにする。余計なプライドも他者へのイライラも、心の中で追いかけない。それを時間外に家に持ち帰ったって、ほとんどの場合、自分で仕事の歯車を前に回すことはできない。自分をすり減らし、自分の時間と大切なリソースを浪費するだけだ。そう、言われていたのだ。


  • 感情労働という概念

『感情労働』という言葉を知ったのは、もう10年以上も前のことだ。感情をリソースとして他者に提供するサービスを、『感情労働』と呼ぶ。社会学から出てきた言葉で、仕事の一環として自分の感情をコントロールしたり、顧客に「感情の贈り物」を提供したりすることを指す。

世の中の仕事はふつう、知識労働と肉体労働に分離される(と、ほとんどの人は思っている)。だが社会学者たちは、それ以外に第3の労働の種類、感情労働が存在すると指摘したのだ。わたし達は感情を上手に表出し、他者に伝え合うことで、人間関係を円滑に成り立たせている。それは普通、プライベートな関係における機能であるはずだが、現代社会はその感情を商品化し、仕事で売買するようになる。

もちろん接客サービス業などの仕事は、紀元前から存在しており、彼ら彼女らが上手に、ビジネスで感情表現を使ってきたことは誰もが知っている。だがそうしたことは、売買する商品・サービスのおまけであり、一種の個性だと考えられてきた。現代の社会学は、それが個性と言うより業務上のスキルであり、かつ広く薄い形で、様々な職種において求められていることを明らかにしている。

プロジェクト・マネージャーという職種も、感情労働を求められる典型の一つだというのが、わたしの推論である。そして感情は、『リソース』としては目に見えず、捉えどころもなく、どれだけ消費し、どこまで再生されているのかが、とても分かりにくい。だから感情労働の強化は、働く人の情緒障害と自己疎外を招きやすい、というのが社会学からの警告である。


  • 感情負荷に気づく、感情のドレイを卒業する

わたしの普段している仕事が感情労働に分類されるかどうかは、わからない。しかし、夜中に仕事のストレスで目が覚める経験は、自分が仕事で相当な感情的な負荷を感じていることを示している。そうしたネガティブな感情は、自分の脳内で思考(想像力)を勝手にドライブしていく。それによって、わたしの脳内リソ−スを浪費してしまう。わたしはこれを『感情負荷』と名付けている。

負荷とは、対応・処理しないと自分にストレスがかかるような、外部要求である。もっとも感情負荷は、誰か外部の人間から「感情を使え」と、直接要求される訳ではない。仕事の負荷とは、アウトプットや金銭や評価に関わる要求事項だ。しかし仕事はほとんどの場合、対人・社会関係の中で成立する。そして、わたし達は人間関係において、「承認欲求」だとか「支配欲求」といった欲求を生まれつき持っている。これが満たされないと、結果としてネガティブな感情が発動してくるのだ。

こうした感情負荷の存在の何がまずいかというと、思考の流れが偏流しやすくなることだ。何を見ても、どんな事柄を知っても、気がついたら同じテーマの思考ルーチンに陥ってしまう。理知的であるとは、ある意味、多面的・客観的に考える能力だ。だが同じ一つの方向、一つの結論にばかり頭が向いてしまう。あなたの周囲に、こうした傾向の人はいないだろうか。だとしたら、その人は一種の感情負荷を背負って、それに縛られているのだ。

わたし達は、感情のドレイを卒業する必要がある。その出発点は、自分の感情に対して気づいて自覚することだろう(こういう能力を心理学では「メタ認知」と呼ぶ)。わたしは自分の感情負荷に気づいたら、日誌に書くことにしている。見える化はまあ、対策の第一歩だからだ。


  • 「心の残業」の習慣を断ち切る、三つの手法

では、その先はどのような方法、道のりがあるだろうか。わたし自身、まだ旅路の途上なので、自信ある答えを持ちあわせている訳ではない。単に、自分の試行錯誤の旅程を三つほど、恥を忍んでご紹介するだけだが・・

まず一つ目は、「自律訓練法」である。この方法は、学生の頃読んだ、池見酉次郎・著「心療内科」 (中公新書)で知った。随分古い本だが、この技法のコア自体は変わっていない。

自律訓練法では、6つのステップをたどって、自分の身体をリラックスさせていく。それは、落ち着いた姿勢で座るか横たわるかして、自分に、次のような順番で言い聞かせ、それを身体的に感じ取っていくのである。

(1) 腕が重い
(2) 手足が温かい
(3) 心臓が静かに脈打っている
(4) 呼吸が楽だ
(5) お腹が温かい(みぞおちあたりの太陽神経叢を意識する)
(6) 額が涼しい

昔はこの手法については、(専門医に聴きに行く以外は)ほとんど資料がなかった。わたしも見よう見まねで全くの我流でやってきたに過ぎないが、睡眠導入につかっていて、それなりに効果は感じている。夜中に目覚めたときも、「ああ、これは感情負荷状態だな」と気づいたら、この方法を用いる。幸い今は、ネットでもいろいろな情報が手に入るようになったようだ。

ついで、数年前から学んで取り入れているのが、『セドナメソッド』と呼ばれる感情リリースのテクニックである(「新版 人生を変える一番シンプルな方法 ― セドナメソッド」 参照)。これは自分が、怒りや不安・恐怖や嫉妬などの感情にとらわれていると気づいたとき、次のような自問自答をたどることによって、感情を解放していく技法である

(0) (リラックスした姿勢になって)「今、何を感じていますか?」
(1) 「この感情を認めることはできますか?」
(2) 「この感情を手放せますか?」
(3) 「(この感情を)手放しますか?」
(4) 「いつ?」

「手放す」の原文は、英語で"Let go"である。感情というシロモノのやっかいな点は、それを押さえ込もう遠ざけようと、もがけばもがくほど、かえってからみついてくる点にある。寝ようと必死になればなるほど、眠れなくなるのと似ている。セドナメソッドの中心概念は、感情を流れに任せて解放することで、負荷にとらわれた状態をほどく事にある。このため、「リリーステクニック」と呼ばれることもある。

なお、感情の多くは対人関係で生じるため、セドナメソッドを適切につかうと、対人関係が円滑に回るようになると言われている。わたしは対人スキルに問題がある(すぐカッとなりやすい)ため、これが少しでも役に立つとありがたい。

セドナメソッドの難点は、指導者が日本に非常に少ない点だ。本だけではやはり、実際上は分からない部分がいろいろと出てくる。訳書の監修者のセミナーを聴いたりしたこともあったが、習える機会が少ないのは残念である。

そして3番目が、瞑想である(マインドフルネス、座禅もその類に入れていいだろう)。これについては、先頃、書評で「サーチ・インサイド・ユアセルフ ― 仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法」 チャディー・メン・タン著 を紹介した。今のところ、毎朝10〜15分ほど、静かに座って心を落ち着かせるようにしている。

その効果はいかほどか、自分では今ひとつよく分からない。ただ、「瞑想は自分のメタ認知能力を上げる」という知人のアドバイスがあり、それは正しいのかなと思う。自分の感情に気づくのが第一歩だと上にも書いたが、これが実はとても難しいのだ。不思議なことだが、感情にとらわれている人(特に怒っている人)は、その事を指摘すると、かえってムキになって「俺は感情的になんかなっていない!」と反論してきたりする。自分の感情状態に気づくためには、「我にかえる」必要があるが、感情ループに入っていると、とても困難なのだ。

瞑想は、それこそ禅寺のお坊さんまで含めると、指導者が大勢いる。むしろ居すぎて迷うくらいだ。でも、こうした心身に関わるデリケートな事柄については、自分に合った良い指導者に巡り会えるかどうかが、とても大切である。誰でもいい、という訳にはいかないのだ。


(何を食べ何を着ようかと考えて)「明日のことを思い煩うな。一日の苦労は一日で足れり」と、かつて2千年前にパレスチナの地を歩いた賢人は語った。夜中に目を覚まして眠れなくなった経験のない人は、幸いだと思う。でも、少しでも感情負荷に悩む方に、この小文がわずかでもお役に立てばありがたい。

そして、心の残業は、もうやめよう。


<関連エントリ>
「仕事に心をつかってはいけない」 https://brevis.exblog.jp/16701913/ (2011-11-13)
「知識労働、肉体労働、そして『感情労働』」 https://brevis.exblog.jp/15300953/ (2011-08-19)


# by Tomoichi_Sato | 2024-07-19 22:29 | 考えるヒント | Comments(0)

お知らせ:第4回「スマート工場 構想企画人材 育成セミナー」を開催します

本サイトでもすでにお知らせしたとおり、小生が幹事を務める(財)エンジニアリング協会の『次世代スマート工場のエンジニアリング研究会』では、先月、MES導入のための標準テンプレートを策定し、パブリックコメント版として公開しています(入手先のURLはこちらです→https://www.enaa.or.jp/research/smart/mes
この標準化活動は、研究会の有志メンバーが、手弁当で活動して作り上げた成果です。でも、なぜこのようなプロジェクトを立ち上げたかというと、実は「製造とITに両方通じた専門家が、この国には払底している」という、共通の問題意識があったからです。

スマート工場にはMES/MOMの導入が必須である、という事は、当サイトでも何度か訴えてきました(たとえば、「スマート・ファクトリーとはMESを活用する工場である」 https://brevis.exblog.jp/30503581/ 2023-12-02 参照)。

もちろん、スマート製造はデジタルだけで達成できる訳ではありません。どんなに立派なITシステムが動いていても、その工場が鉄骨スレート・外気解放で、夏暑く冬寒い建屋だったら、誰がそこで働きたいと思うでしょうか? 重い部品や金型を手で抱えて、あちこちレールをまたいで歩かなければならないとしたら、そんな工場はスマートでしょうか? 「スマート工場とは、そこを見た人は誰もが、ぜひ働いてみたいと感じる工場だ」と繰返し述べてきたのは、そのためです。

でも話を戻しますが、加工や搬送がどんなに自動化されていても、毎朝現場にExcelの日程表が配られ、品質履歴は紙の台帳をいくつもひっくり返さないとトレースできないようでは、やはり「スマート」ではありませんね。

そして問題なのは、このようにハードとソフトと、運用マネジメントとをバランスさせて、自社にとって現実的なビジョン・姿を描ける人間は、どこにいるのか、なのです。見渡したって、自社には居なさそうだ、と。じゃあ外部、頼りになる専門家は大勢いますか?

3月に、ドイツのミュンヘンで開かれた「スマート製造エクセレンス・サミット」という会議に参加し、同時にBMWの最新の電気自動車工場を見学してきました。欧州は不況だと報道されていますが、カンファレンス自体はレベルが高く、盛況でした。発表者の多くは製造業の当事者です。ただITベンダーとコンサルタントも適度に交じり、バランスのとれた意見交換ができていました。

うらやましいと思ったのは、製造業のユーザと、IT業界のエンジニアと、コンサルタント達の間で話がちゃんとかみ合って、距離感が近いと感じられたことです。残念ながら、わたし達の社会では、現業の人はITにうとく、SEさんたちは現場に関心が無く、コンサルタント達は製造業をよく知らない――という例を、たくさん見てきました。

製造業務とITシステムの両方が分かる専門家が、足りない。社内にいなければ、外部に(つまりコンサルに)求めるのが普通です。しかしある意味で日本の製造業をとりまくコンサルタント業界は、二極分化しています。一方には、経営戦略コンサルティング会社があり、とくに外資系や有名どころとなれば、かなりの費用がかかります。この人たちは、戦略やITには詳しい。ところが製造の現実をよく知らない。

他方、個人ベースのコンサルタントも大勢います。わたし自身も一応、中小企業診断士ですが、多くは企業OBで、製造業出身者も多い。こういう個人コンサルの人たちは、現場改善などのアドバイスには強いのですが、ITには弱い人が少なくない。

なぜこのように二極分化したかというと、理由は簡単です。ほとんどの工場は、コンサルティングに払う予算をあまり持っていないためです。直接資材の予算はあります。機械購入の予算だって、まあ、もっている。でも業務コンサルティングの予算はない。なぜなら、工場はコストセンターであり、業務カイゼンは自分の仕事だから、という訳です。そこに潤沢な予算がないのだから、大手コンサルも寄りつかない。

大手に払う予算をもっているのは、本社です。だから大手コンサルは本社の経営企画やら、商品開発・設計など「プロフィットセンター」の仕事を手伝い、工場に出入りするのは現場改善の個人コンサル、という分極化が起きているのです。この図式の中で、「ERP-PLM-MESの連携」だとか、「工場内サプライチェーンとM-BOMの再構築」とか、あるいは「MESと自動搬送設備の連動」といった、今日的なスマート化の課題について、アドバイスできる人が大勢出てくる訳はありません。

だったらどうしたら良いか。そのためには、やはり自分で製造とITの根幹を理解し、問題解決ができる能力を身につけるしかないのです。そういうトレーニングをしてくれるセミナーは、世の中に殆どありません。われらが『次世代スマート工場』研究会は、そのための1日コースを提供できる、希少な組織であると自負しています。

ちなみに、我々の1日セミナーは、製造業の実務家だけでなく、まさに上記のようなギャップ問題に直面している、コンサルタントやITエンジニアの方にも、十分役立つ内容となっています。製造業とはどういう情報の流れで成り立っている仕組みなのか、生産マネジメントとはどういうレイヤーの仕事なのか。これを論理的に、かつIT的なアーキテクチャの中で説明するコースは、日本では珍しいと思います。なぜこれが可能かというと、今回の主な講師が、製造業に特化した中堅コンサルティング企業とか、工場作りに携わるエンジニアリング会社のメンバーだからです。

ということで、宣伝文句を並べる形に聞こえたかもしれませんが、多くの方のご来聴をお待ちしております。受講すると、PM系の資格のための認定単位も得られます。しかも財団法人の主催ということで、格安です。こうした取り組みにより、欧米に負けない「スマートな」人財の育成を通じて製造業に貢献したいと、わたし達は願っております。

<記>
第4回SP-T1「スマート工場 構想企画人材 育成セミナー」

日時: 2024年7月31日(水) 09:30 ~ 17:15 事前登録制

会場受講:24名  オンライン聴講:30名

講演者と内容:(敬称略)

  1. スマートファクトリー実現に必要な知識 ・・・ 講師:渡辺 薫(ゴールシステム・コンサルティング)
  2. システムとしての工場~その機能とデータの流れ(1)(2) ・・・ 講師:佐藤 知一(日揮ホールディングス)
  3. 工場スマート化プロジェクトの事例紹介 ・・・ 講師:渡辺 薫(ゴールシステム・コンサルティング)
  4. 工場スマート化のプロジェクトマネジメントとは ・・・ 講師:川村 武也(エンジニアリング協会)
  5. 【演習】自社(受講者所属工場等)における課題の整理 ・・・ 全講師

セミナー詳細: 下記をご参照ください

<関連エントリ>
「スマート・ファクトリーとはMESを活用する工場である」 https://brevis.exblog.jp/30503581/ (2023-12-02)


# by Tomoichi_Sato | 2024-07-14 00:51 | 工場計画論 | Comments(0)

BOM(部品表)は世代交代とともに精緻化している

  • 設計部品表(E-BOM)の階層について

最初に、前回記事「BOM(部品表)、その第1世代~第2.5世代の変遷を知る」 について補足しておきたい。記事では、第1世代の設計部品表(E-BOM = Engineering Bill of Material)には、階層構造がなく、製品と構成部品の数量関係(員数)があるだけだ、と書いた。

しかし、「それはちょっとおかしい。ウチの会社のE-BOMには、ちゃんと階層構造があるぞ」という、疑問を抱かれた読者も、おられたに違いない。E-BOM=サマリー型、M-BOM=ストラクチャー型、という区別は本当なのか?と。その点について説明しておきたい。

元々、BOM=部品表の概念は、機械組立加工系の分野から発達した。機械設計の分野では、製品組立図という図面を作る。製品全体の構造を図示し、それを構成している各部品について、引き出し線と番号をつける(――①、つまり細い糸の先に○がついてる形なので、俗に「風船」と呼ばれる)。

そしてふつうは図の端に、表がついている。その表は、引き出し線の番号①②…と、それぞれの部品名称・番号、そして数量が記載された表だ。これが、設計部品表の原型なのだ。そして世の中には、この部品表だけで業務を回している会社も、まだ少しは残っているはずだ。
BOM(部品表)は世代交代とともに精緻化している_e0058447_07021423.png
機械組立図の例


  • アッセンブリーという名の部品

ところで、複雑な機械製品になると、それを構成するモノの中に、「アッセンブリー」を持つ場合がある。アッセンブリーとは、複数の部品を組合せて作る、一種の大型部品だと思えば良い。長いので、しばしば「アッシー」などと略して呼ばれる。

たとえばモーター駆動のポンプを考えた場合、そのモーターを外から買ってくる場合は、一つの購入部品扱いだ。だがもし電動モーターも内製するとなると、その内部構造も設計しなければならない。この場合、電動モーターがアッセンブリー扱いになる。そして設計部門は、モーターの組立図を作成することになる。そこにはまた風船が飛んでいて、図の右端に部品構成表がつくだろう。つまり、製品のE-BOMの下に、アッセンブリーのE-BOMがつき、一種の階層構造になる訳だ。

そして時には、アッセンブリーの下に、「サブ・アッセンブリー」を持つ場合だってある。そうなると、

製品 > アッセンブリー > サブアッセンブリー > 部品、

という風に、E-BOMは4階層になる。もっと階層が増えるケースだってあり得るだろう。これが、E-BOMにも階層が現れる理由である。


  • E-BOMの階層は、どこまでをカバーするか

ただし機械設計部門の仕事は、組立図で終わる訳ではない。それを構成する機械部品全てについて、それぞれの部品図を作成する。この際に、部品図は「一品一葉」で作成するのが、由緒正しいお作法とされている。つまり個別の部品に対して、1枚ずつ部品図を作成するのである。隣接していても、別々に図面化する。なので、古くからある企業では、しばしば「部品番号」を取る代わりに、「図面番号」で代用してきたところも多い。

当然ながら、個別の部品は、図面に表す幾何的形状のみならず、材質や表面処理・仕上げなどの仕様についても、規定する。ただ、一般的に、製品設計部門の仕事は、そこまでだ。

その部品を、どのような素材から、どう切り出し、素形材をどんな工作機械を使って加工するか、どんな熱処理や表面処理、塗装を行うか、などといった製造技術に関する部分は、通常、生産技術部門の仕事になる。そこではしばしば、切断→加工→熱処理→表面処理、といった工程が並んでいく。これらを総称して『加工工程』と呼び、できあがった部品たちをくみ上げていく『組立工程』と区別する。

つまり機械製造は一般に、『加工工程』→『組立工程』という大きなステップから成り立っているのである。このうち、製品設計部門の部品図や組立図がカバーするのは、後半の『組立工程』だけだ。であるから、設計図やCADデータをベースとした、通常のE-BOMのカバー範囲は、『組立工程』に限られることになる。でも、製造工程の全体像を示す、本来の第2世代・製造部品表M-BOM(= Manufacturing Bill of Matrial)は、『加工工程』も表現していなければならないのである。

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M-BOMの全体像と、階層構造を持つE-BOMのカバー範囲


  • MRP IIの発達に伴い、第3世代のBOMへ

さて前回記事では、第2世代のM-BOMの 親子関係を規定するのは「工程」であり、そこに「標準リードタイム」を追加したものが、第2.5世代である、と解説した。標準リードタイムを追加したのは、日程展開計算を可能にすることによって、生産計画立案に活かしたいからであった。 この考え方をベースに確立したのが、MRP = Material Requirement Planningという生産管理手法で、その成立には米国IBMが大きな貢献を果たした。

80年代に入ると米国では、このMRPの手法をさらに発展させ、資材所要量だけでなく、製造に関わるすべての経営資源の所要量を計算しようと言う方向に機能拡充させた。製造に関わる経営資源とは、 機械設備であり、人員であり、金型・ツール類であり、そして資金であった。

これらの所要量をきちんと計算するためには、部品表の親子関係に1つの工程が定義されているだけでは足りない。 一口に加工工程や組立工程といっても、部品は複数の機械を渡り歩き、それぞれは異なるオペレーターによって操作される。したがって、粒度を1つ上げて、工程を複数の「作業」からなる『工順』(Routing)として認識する必要が出てくる。 各作業には、それぞれ必要とする機械設備・人員・金型・ツールなどが定義される。

このようにして生まれたのが、第3世代のBOMである。図は、ある親部品と、それを構成する子部品のペアとの関係を示しているだけだが、相当精緻かつ複雑になっていることがわかると思う。

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第3世代のBOMの概念

ともあれ、ここまで表現することができれば、各種製造資源の所要量計算が可能になる。こうして、単なる部品の所要量計算が主機能だったMRP = Material Requirement Planningは、80年代に入ると、MRP II = Manufacturing Resource Planningへと進化した。頭文字は同じMRPだが、単語が入れ替わっている点に注意してほしい。

そして90年代に入ると、あるドイツの基幹業務パッケージ・ソフトウェアのベンダーが、 製造だけでなく、企業全ての経営資源の所要量を、経営者がコントロールするツールの概念を提唱した。そして、それをERP = Enterprize Resource Planningと名付ける。その企業の名前は、SAP社。これがERPの誕生なのだが、その源流を遡ると、BOM/部品表にたどり着くと言うことを理解している人は、決して多くない。


<関連エントリ>
「BOM(部品表)、その第1世代~第2.5世代の変遷を知る」 https://brevis.exblog.jp/32520484/ (2024/6/26)


# by Tomoichi_Sato | 2024-07-04 17:17 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

BOM(部品表)、その第1世代~第2.5世代の変遷を知る

  • BOM/部品表をめぐる、日本と中国の製造業事情

このところ、BOM(部品表)に関する依頼や問い合せが、急に増えている。先週19日に開催した、有料1日セミナー「BOM/部品表の基礎とBOM構築の留意点および応用テクニック」 は、参加申込みが事前に満員御礼で、アンコール講演を秋に行うことになった。また拙著「BOM/部品表入門」 もつい先日、1,000部増刷して、15刷・累計13,800部となるとの連絡を、出版社からもらった。個別企業や団体からの講演依頼もあり、誠にありがたい。

だが、2004年に出版した本が、今さら売れ出すという現象は、不思議でもある。一体この20年間は、何だったのか。日本の製造業はBOMに関して、眠っていたのか?

もっとも今月は、同書の中国語翻訳版も売れ続けているとの知らせも受けた。実際、中国からの製造業の視察団に本を紹介したところ、かなり興味を持っていただけた。また質問内容からすると、中国製造業も次第に、BOM(部品表)のマネジメントについて、次第に難しい局面に入りつつあるようだ、との印象を受けた。


  • BOM(部品表)のマネジメントを難しくする、製造業の構造変化

BOMの難しい局面とは何か。それは簡単に言うと、見込生産から受注生産への転換、そして製品バリエーションの無際限な増大、という二つの大きなシフトだ。この二つの変化は突然、急に起きるのではなく、いつの間にか徐々に、ちっとも劇的でない形で、製造業のビジネスのやり方を変えていく。しかしある日、気がつくと製品在庫の膨張、部品資材の欠品の頻発、多発する設計変更への対応不全、そして品目コードの桁数不足など、目に見えにくい地味な形で、製造業の俊敏な対応力を奪っていく。

多数の人口をかかえ、広大な国土を持つ中国の製造業は、これまで見込生産中心で拡大してきたのだろう。わたしは中国事情についてはほとんど知らないので、想像で書いているだけだが、元々は計画経済の下で、計画生産、それも少品種大量生産形態が、メインだったろう。「作れば売れる」時代だったのだ。これは、日本の戦後の高度成長期を思い出してみても分かる(わたしは昭和世代なので、当時のことは多少まだ記憶にある)。

ところが経済が成熟し、消費者や企業が豊かになっていくと、何が変わるか。当たり前だが、市場が次第に飽和し、「作れば売れる」状態から、競争の激しい状態になっていく。するとメーカーは、従来の大量生産・低コスト戦略だけでは持たなくなり、差別化戦略を求めて、製品仕様のバリエーションを増やしていくことになる。それは家電でも自動車でも一般消費財でも、あらゆる商品カテゴリーで進んでいく。

サプライチェーンで商品の種類が増えると、何が起きるか。当然ながら、小売店やチェーンストアの店舗で、棚の場所の奪い合いが起きる。自社の商品を置いてもらえるかどうかが、売れ行きに直接、はね返る。物不足時代には、商店がメーカーに製品を「置かせてもらう」立場だったが、モノあまり時代には、メーカーが商店に「置いてもらう」時代になる。

かくて、流通側と生産側の力関係が、いつの間にか、逆転していく。流通側が力を持つようになると、チェーンストアが発達し、商品仕入れや在庫管理能力も高まる。そして、次第に流通側が主導権を取って、メーカーに対し、作る商品と時期を伝えるようになる。つまり、見込生産から受注生産に変わっていくのだ。

実際、メーカーの方だって、製品ラインナップが増えているので、同じ品目ばかり、常時作り続ける訳にはいかなくなる。何をいくつ、どのタイミングで作るか、市場の需要情報を見て、決めなければならない。受注生産が増えると、顧客からの個別仕様の要求も増えてくる。かくして製品バリエーションは、どんどん多様化・複雑化の方向に向かう。


  • 大量見込生産時代を支えた、第1世代のBOMとは

ところで、モノづくりをするためには、部品材料が必要である。では、その調達計画を支えるものは、何か。二つ、重要なインプットがある。それは製品単位の生産計画と、その製品を構成する部品表である。これが無かったら、資材購買部門は何をいくつ、買ったら良いか分からない。

ここで言う部品表とは、一つの製品を作るのに、どの部品が何個、必要かを表した表である。

BOMの世界では、「親子関係」で部品間の関わりを表す。つまり、親製品を構成する子部品は、何が何個ずついるのかを示すのが、部品表の元々の姿である。たとえば親製品Xを1個作るのに、部品Aが2個、部品Bが4本、といった関係である。この数量関係を『員数』と呼ぶ。この、親子間の員数を記述した表を、わたしは「BOMの第1世代」と呼ぶことにしている。
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図1 第1世代のBOM

図を見てほしい。第1世代のBOMの典型例を示す。左にあるのは、『設計部品表』(E-BOM = Engineering Bill of Material)と呼ばれるもので、設計部門が、製品の機械組立図などに記載するものだ。もっとも図の例は、製品として「冷やし中華」を取り上げているので、組立図などは作らないかもしれないが、ともかく最終製品は、錦糸玉子50gと、ゆで麺150gと、チャーシュー細切り50g・・などを、お皿に盛り付けて(=組み立てて)作ることを示している。

もっとも、このままでは購買の役には立たない。ゆで麺とかきゅうり細切りなどは、市場から調達できないからだ。そこで、これらの部品を、外部から調達可能な原材料に変換しなければならない。それを示したのが、図右側の『購買用部品表』(P-BOM = Purchase Bill of Material)と呼ぶ表だ。これなら、製品100個を作る場合なら、何をどれだけ、買ってくればいいかを知ることができる(こうした計算を『部品展開』と呼ぶ)。

ちなみに、BOMの世界では、上にある品目を親と呼び、下にある品目を子と呼ぶ約束だ。ふつうの世の中では、親が子を産むのだが、部品表の世界だけは、子が集まって親を生むのである。

この2種類のBOMはいずれも、親子だけが記述されており、それ以上の階層構造を持っていないことに注意してほしい。これが第1世代のBOMの特徴である。そして現在でもなお、かなり多くの企業が、この第1世代のBOMだけで、業務を回していたりする(日本でもそうなのだから、中国においておや、とも想像される)。


  • 工程展開と、BOMの第2世代

ところで、高度成長期の日本と現代の中国は、次第に製品バリエーションの増大と製品在庫の膨張に、頭を悩ませていると書いたが、じつはこの問題にもっと先に直面したのは、アメリカの製造業だった。「1ダースなら安くなる」という思想を信条とする米国では、ずっと大量見込生産で産業をドライブしてきた。T型フォードが、その良い例だ。

そしてフォードをはじめとする自動車産業が、少品種だけで済まなくなってきて直面したのが、在庫膨張問題だった。それが目に見えてきたのが1960年代であるが、ここで彼らは、米国人らしく論理的かつ実用的な方式を考案する。生産マネジメントに、当時登場してきたばかりの、電子計算機を使うことを思いついたのだ。

それまでの米国の生産管理を支えてきたのは、工程別のロット生産、そして在庫の定量補充発注だった。少品種ならこれを繰り返していれば良い。しかし多品種化すると、工程別に、何をどう作るべきか、的確な指示が必要になる。

何も指示しなくても現場が主体的に判断して動く日本と違い、低賃金労働者や移民を大量に雇う米国の工場では、事細かな指示を、紙に書いて出さないと動かない。その工程への指示を、計算機で出すことにする訳だ。そのためには、製品を1個作るのに、何が何個、だけでは足りない。製品から原材料までさかのぼった、工程のリストが必要になる。

これを表現するのが、第2世代の「ストラクチャー型部品表」である。これは最終製品(End item)を1個製造するために必要な、すべての購入部品・中間製品等の親子関係を表示したものである。そして、親子関係の属性として、それをつなぐ「製造工程」を記述する。そこで、これを製造部品表(M-BOM = Manufacturing Bill of Matrial)とも呼ぶ。

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図2 第2~2.5世代のBOM

この第2世代のBOMがあれば、工場の各工程に対して、何を何個作れ、と計算することができる(これを『工程展開』と呼ぶ)。そして、指示を出すことも可能になる。M-BOMはまた、製品の構成管理や、工程設計などにも連動し、活用される。用途と、関わる部門数が増える訳だ。


  • MRPと第2.5世代のBOM

ところで、各工程への指示となると、実は何を何個、だけでは足りない。いつまでに、というタイミングも、指示には必要である。では、これを計算するにはどうするか。

60~70年代の米国人が考えたのは、BOMの親子関係の属性として、工程種別だけでなく、その標準的なリードタイムをも設定することだった。これによって、どの工程で、何を何個、いつまでに作るべきか、が計算できるようになる。つまり『日程展開』が可能になるのである。これをわたしは、第2世代とあえて区別して、第2.5世代のBOMと呼ぶことにしている。

(ただし、このような世代の呼び方は、わたしのオリジナルであって、別に世間的に確立した用語ではないし、「[BOM/部品表入門]」 https://amzn.to/3xIFai6 にも書かなかったが、分かりやすさのために世代番号を振っていると理解してほしい)

まとめると、各世代のBOMの主な目的は、以下のようになる:

  • 第1世代=部品展開
  • 第2世代=工程展開
  • 第2.5世代=日程展開

この2.5世代BOMで可能になったのが、生産スケジューリング機能を持つMRPと呼ばれる手法であった。そして80年代に入ると、MRPはさらに発展してMRP IIとなり、それに伴ってBOMも第3世代に進化していくのだが、長くなってきたので、それについては次回、書こう。


<関連エントリ>
「E-BOM(設計部品表)とM-BOM(製造部品表)の関係を考える」 https://brevis.exblog.jp/24157732/ (2016-06-21)


# by Tomoichi_Sato | 2024-06-26 22:17 | Comments(0)

モダンPMへの誘い 〜 『フロート日数』の意味とは

  • 余裕日数の意味を考える

前回の記事「モダンPMへの誘い 〜 計画のSカーブは、実は2本あり得る」 (2024-05-24)では、タイトルの通り、プロジェクト計画には最早ケースと最遅ケースの二つがありうることを説明した。より正確に言うと、最早と最遅の2ケースは理屈上可能な両極端を表しており、実際はその中間帯に、いくらでもバリエーションを取ることができる(ただし実務上は、たいがい最早ケースで計画を設定してしまう。そのよしあしについては後で論じよう)。

ところで、なぜ計画にこのような幅が生じるのか。それは、プロジェクトを構成するActivityの中に、余裕日数を持つものがあるからだ。前回の例で言えば、それは「ハード選定」と「ハード納品」の2つで、どちらも10日の余裕日数があった。というのも、並列して遂行している「詳細設計」「ソフト開発」の2つの方が、トータルで余計に日数がかかるからだった。まあ、IT開発系のプロジェクトではよく見られることだが。

この余裕日数について、もっとわかりやすい例を考えてみよう。たとえば、あなたは月曜日の朝、上司から急に、「○○の件のレポートを今週中に作ってくれ」と命じられた。内容は、書くのに丸3日くらいかかりそうな、ごっついレポートだ。ほかにも仕事はあるのに、参ったなあ。しかし、命じられたからには仕方がない。

今は月曜日の朝一番である。提出期限は、金曜日の夕方だ。レポート作成には、丸3日かかる。やろうと思えば、今すぐ着手することもできる。この、最も早く着手できるタイミングのことを、『最早開始日』という。英語ではEarliest Startと呼び、頭文字を取ってESと略す。

そして今すぐ着手して、脇目も振らずにレポート作成に邁進すれば、最早で水曜日の夕方には完成できる。この、最も早く完了できるタイミングを、『最早終了日』Earliest Finish(略称EF)と呼ぶ。

でも、逆の考え方をすることもできる。つまり、遅くても金曜日の夕方にレポートができていれば良い訳だよね? これを『最遅終了日』といい、英語はLatest Finish(略称LF)である。そして、そのためには、まあ、ぎりぎり水曜日の朝、着手すれば間に合う。これを『最遅開始日』Latest Start(略称LS)という。図にすればこんな感じだ。
モダンPMへの誘い 〜 『フロート日数』の意味とは_e0058447_22195926.png

図の実線は、レポート作成に従事している作業時間を示す。そして点線が、各ケースにおける余裕日数を示しているのである。それは、どちらも2日間だ。


  • あらゆるActivityは4種類の日付を持つ

このようにスケジューリング理論では、どんなActivityも4種類の日付を持つ、と考える。

最早開始日 Earliest Start = ES
最遅開始日 Latest Start = LS
最早終了日 Earliest Finish = EF
最遅終了日 Latest Finish = LF

そして、このケースでは、最早開始日ESと最遅開始日LSの間に、2日間の差がある。これが、レポート作成作業の余裕日数を示すのである:

余裕日数 = 最遅開始日LS — 最早開始日ES

この余裕日数のことを、スケジューリングの専門用語では『フロート』Float と呼ぶ。なぜこう呼ぶのかは、よく知らない。ただガントチャートなどを描いていると、余裕日数を持つActivityは、最早開始日と最遅開始日の間を自由に動かせて、<浮遊している>感じがあるからかもしれない。

余裕日数=フロートがN日あるとは、どういう意味か。それは、Activityの開始日を、最早開始日から最大N日間まで遅らせても(=最遅開始日までずらしても)、全体納期には影響しない事を示す。


  • Total FloatとFree Float

なお、厳密に言うと、フロート日数には、"Total Float"と"Free Float"の2種類がある。たとえば最初の例に戻ると、「ハード選定」Activityは、10日遅らせても、後続の「ハード納品」も同様に10日ずれるならば、プロジェクト全体納期には影響がない。

ところが、担当者の思惑や何らかの都合で、後続の「ハード納品」の開始日は、4日しか後ろにずらしたくない、となったら、どうだろうか? その場合、「ハード選定」も4日しか、遅らせられないことになる。

そのActivityの開始日を、後続のActivityの予定に影響しない範囲で、どれだけ遅らせられるかを示す余裕日数を、Free Floatと呼ぶ。この例では、つまり4日だ。それに対して、後続のActivity(複数あるかもしれない)も全部、最大限遅らせた場合、何日までずらせることが可能かを示す余裕日数を、Total Floatと呼ぶ。

ちなみに、Activityのつながりの図を作った際に、複数のActivityが直列につながるだけで、途中に分岐も合流もないような経路上にある場合、それらは同じTotal Floatの値を持つ。だから「ハード選定」と「ハード納品」のTotal Floatは、同じ10日なのだ。

まあ、後続の「ハード納品」を4日しか遅らせたくない、というケースを今しがた考えたが、これは多分、「できれば」という希望であって、「どうしても」という制約ではあるまい。もしもこれが必須の制約条件ならば(たとえば調達先メーカーがお盆休みに入るため受注受付期限がある、などの場合)、そもそも「ハード納品」の最遅開始日は35日ではなく29日だった訳で、そうすると先行する「ハード選定」も「ハード納品」も、Total Floatは10日ではなく4日であることになる。このように計画立案の実務では、Free Floatを問題にするケースはあまりなく、ほぼTotal Floatだけを注視するといってもいい。

そして計画全体を、早め早めの最早開始日ベースで作るアプローチを、『フォワード・スケジューリング』と呼び、逆にギリギリ間に合うタイミングの最遅開始日ベースで考えるのを、『バックワード・スケジューリング』と呼ぶ。次回は、この二つのアプローチを統合すると、何が見えてくるかを説明しよう。


<関連エントリ>
「モダンPMへの誘い 〜 計画のSカーブは、実は2本あり得る」https://brevis.exblog.jp/31379110/ (2024-05-24)



# by Tomoichi_Sato | 2024-06-16 22:21 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)