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PM理論に関する講演のお知らせ(12月8日)

来る12月8日(金)の夜、東京・東麻布の日本プロジェクトマネジメント協会で、講演を行います。

先月、わたしは米国シカゴで開催されたProject Management Institute (PMI) Global Conference 2017に参加し、講演発表を行ってきました。ご存じの通りPMIは世界最大の影響力を持つプロジェクト・マネジメント専門職団体で、その世界大会はPM分野の最新状況を反映しています。

今回の講演では、まずPMI世界大会2017にみる北米PM界の潮流を概観します。その上で、わたしが行った発表『Decision making with Risk-based Project Value (RPV) analysis and activities’ value contributions』(「リスク基準プロジェクト価値RPVとアクティビティの貢献価値に基づく意思決定」)の内容を、そのままご説明します。

リスク基準プロジェクト価値(RPV)は、わたしが提案した意思決定のための尺度で、文字通りリスクを勘案したプロジェクトの価値を数字で表したものです。これを用いると、プロジェクトを構成する各アクティビティの貢献が計算できるばかりでなく、コスト対リスクといったトレードオフ状況下における意思決定を、客観的にサポートする基準を導出することができます。

このRPV理論は、わたしが自分の学位論文の中ではじめて提案し、研究・発展させてきたものです。理論的な内容のため、これまでは学会論文誌や大学講義、ならびに海外でのみ、発表してきました。今回、はじめて普通の民間の場を借りて、お話しする機会をいただきました。そこで具体的なケース事例を交えて、できるだけ分かりやすく解説させていただくつもりです。

この講演は、どなたでも参加できます。大勢の方のご来聴をお待ちしております。

<記>

日時:12月8日(金) 18:00〜

場所:日本プロジェクトマネジメント協会 「PMAJ Networking」
   〒106-0044 東京都港区東麻布一丁目5番2号 トウセン東麻布ビル7階

講演タイトル:
「PMへのシステムズ・アプローチと、『リスク基準プロジェクト価値(RPV)』理論の応用」

要旨:
 モダンPMの手法は、1950年代の米国で、プロジェクトを『アクティビティのネットワークからなる一種のシステム』と認識した事にはじまる。以来、PERT/CPM、WBS、EVMSなどの定量的技法が開発され普及してきた。しかし今日のPM論の枠組みには、まだ意思決定に資する価値論が欠けているように思われる。演者は数年前から、『リスク基準プロジェクト価値(RPV)』という指標を用いた、独自の理論的枠組みを研究してきた。本講演では、10月末に米国シカゴのPMI世界大会に発表した内容を中心に、ケース事例への応用と今後の課題について展望する。

講師プロフィール:
 日揮株式会社・グローバル戦略室長代行。博士(工学)。中小企業診断士。
 ながらく国内外の製造業のプラント計画、生産システム構築と、プロジェクト・マネジメントに従事。現在は経営企画部門で戦略立案に携わる。
 そのかたわら、近年はプロジェクト・マネジメント手法の改善・体系化と教育に力を注ぎ、「リスク確率に基づいた新しいプロジェクト・マネジメント」の研究開発にも取り組んでいる。
 静岡大学客員教授、東京大学・法政大学非常勤講師。

参加申込みは、以下のURLからお願いします。


佐藤知一@日揮(株)


by Tomoichi_Sato | 2017-11-16 22:10 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

天の時・地の利・人の和と、プロジェクト

プロジェクトに関わる仕事をずっとしていると、プロジェクトの成否はプロマネの手腕やチーム員の努力だけでなく、「天の時・地の利・人の和」とでも言うべき要因によって左右されがちだ、と感じることがある。いわば、プロジェクトの出発点における環境条件である。こうした環境がプロジェクトのパフォーマンスにどのような影響を与えるのか、まだ十分に解明されていないように思う。

たとえば、「天の時」である。

プロジェクトのスタートするタイミングは、さまざまな形でパフォーマンスに影響する。端的には、マーケットの状況だ。市場全体が活況を呈しているかどうか。受注型プロジェクトの場合なら、契約金額が上昇気味かどうか? これは、プロジェクトの採算性にとって重大である。また、外部に発注するリソースや資機材の値段が上がりつつあるか、どうか。これも採算に影響する。

自社が好調か、それとも苦しい時期かも大きな要因だ。苦しい時期だと、どうしても無理して仕事を取りに行く姿勢が強まる。当然、予算は厳しくなる。

こうした全体的な市況は、プロマネ自身が勝手に選べるものではない。まったく同じ前提条件ではじめても、スタートする時期が好況期で売り手市場なのか、あるいは不況期で買い手市場なのかによって、結果は相当異なるだろう。途中で市況が急変することだって、ある。わたしは10年近く前、あるビッグ・プロジェクトの見積をしていたが、途中でリーマンショックが深刻化し、プロジェクト自体の成立が急に危ぶまれたことを思い出す。そうなると、億の単位でかかる見積費用が、パーになってしまうのだ。たまったものではない。

次の、「地の利」とは何か。

プロジェクトを遂行する上で、立地的な優位性があるかどうか、の意味が第一だ。プロジェクトを遂行したり成果物を納入する場所の近くに、自社の拠点があるかどうか。これは、ふつうプロマネが自分で決められる条件ではない。海外プロジェクトの場合は、そこに支社や合弁相手がいるかどうか。いるとして、その能力はどうか。あるいは、日本から出かけていかなければならないのか。これらは大きな違いを生む。たまたまわたしは今、この文章をジャカルタの空港で書いているが、多くの日本企業がすでに存在していることも、ある種の地の利であると考えられる。

地の利は、より象徴的には、競合状態が厳しいかどうか、を表す。たとえ市況は好調期、現地に拠点があろうとも、競合相手が5社も10社も現れるようでは、レッド・オーシャンそのものである。勝ち抜くのは、かなり厳しい。

では「人の和」は、プロジェクトにとって、何を意味するか。

もちろん、それはまず、プロジェクト・チーム自体の協働意識を、そのまま表す。だが、そこはプロマネがある程度は醸成できるし、しなければならない。

しかしさらに掘り下げると、適切なメンバーがアサインされているか、という問題になる。メンバーがプロマネの固定的な部下であるような組織では、まあ、これは問題になるまい。が、機能型組織やマトリクス型組織では、複数の部門からメンバーをアサインしてもらわなければならない。とくに製造業ではライン部門長の権限は強大だ。プロマネが好きに人を集められる訳ではない。

もっと言うと、プロマネ自身の任命が適切か、ということもある。これはPMO的な視点から言っているのだが、「あのプロジェクトの最大のリスク要因は、XXさんがプロマネをやっていることだ」という笑えない冗談も、生まれたりする。良い仕事は、チームワークから生まれる。ぎくしゃくしたチームから、優れた仕事が生まれる可能性は、少ない。

しかし、人の和に関する、より深刻な問題は、外部のステークホルダにある。たとえば顧客(発注者)、ユーザ、協力会社、ベンダー、監督官庁、地域住民などである。とくに顧客は重要だ。受注型プロジェクトで、訳の分からん顧客に当たって、苦労した経験のあるプロマネは多いだろう。顧客と和の気持ちを持って、適度に緊張した関係を続けられるかどうかは、プロジェクトの成否を大きく左右する。

このほかに、かなり大事な要素として、プロジェクト・スポンサーの能力をあげたいところだ。スポンサーとは、経営層に近い上級管理者で、プロジェクトに予算枠を与え、プロマネを任命する権限を持つ人のことである。「スポンサー」のかわりに「プロジェクト・オーナー」と呼ぶケースもある。

プロジェクト・スポンサーは、プロマネの後見人であり、相談相手でもある。この人が、プロジェクトに理解があり、適切に経営層を動かせるかどうかが大事だ。大事なのだが、そもそも日本企業では「スポンサー」の役割が存在していなかったり、十分に認識されていない場合が多い。そうなると、「人の和」に、重大な欠落があることになる。

(余談だが、拙著『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』は、海外企業と合同でプロジェクトを始めることになった製造業を舞台に、主人公の若手技術者が、プロマネもスポンサーも誰だか曖昧な状況下で、なんとか成功させようと懸命に奮闘する物語である。つまり、あれは和を尊しとなす日本企業で、じつは機能的な「人の輪」が欠落している問題を扱っている)

元々、天の時・地の利・人の和とは、「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」という孟子の言葉から来ている。これが日本では、戦国時代に兵法の判断条件として、流布されるに至った。人の和が一番大事だと、孟子はいう。だが、戦国大名ならいざ知らず、現代のプロマネにとっては、上記の通り自分の力だけで人の和を作り上げることはできない。まして天の時や地の利は、所与の条件、としか言いようがない。

こうした要素は、環境としてプロジェクトに影響を及ぼす。ここで環境とは、「プロマネの意思では短期間に変えられないものごと」を意味する。

プロジェクトの成否は、受注時点で半分以上が決まっているーーそう言ったら、読者諸賢は、オーバーだと思うだろうか。だが、これに近い実感を、受注型プロジェクトに長年従事する実務者は、少なからずもっている。受注の時点で、天の時・地の利がもう決まっている。人の和も、かなり重要な部分が定まってしまっている。残された自由度の中で、プロマネは奮闘をはじめなければならない。

問題は、プロジェクトの採算が結果として悪化した時に、その原因のうち、環境因子による部分と、プロマネに起因する部分が、それぞれどれだけあるか、客観的な評価が難しいということだ。もちろん、「半分以上が環境」というのは、感覚論にすぎない。これについて定量的な分析を、あいにくわたしは見たことがない。

「プロジェクトの結果・採算は、全てリーダーであるプロマネの責任」、という結果責任の原則をとる企業は多い。これは、プロマネに責任感を持たせて育てるためには、良い指針である。プロマネがいつも責任回避的、あるいは他責的な人間では、会社はこまってしまう。

しかし、だからといって、プロジェクトの最終的な損益金額だけで、プロマネたちを、
 「貴方は今期2千万円の黒字を出したからA評価」
 「お前は今回、5百万円の赤字を喫したからC評価」
と、単純に査定していいだろうか?

それはあまり賢明ではない、と、わたしは考える。個別の案件の結果は、短期的な環境因子に左右されやすいからだ。プロ野球の一流バッターだって、打率は3割台である。1打席ごとの結果は、その時の状況に左右されやすい。能力の査定はある程度、長期的に見るべきだ、というのがわたしの意見である。ただ人事の査定は、半年ないし一年ごとに行わざるを得ない。数プロジェクトの平均打率を計算していては、間に合わない。では、どうするか。

わたしの提案は、プロマネの査定を行う前に、「プロジェクトの評価」を組織として公式に行うべきだ、というものである。会社として
  • プロジェクトの成果物、
  • 達成した金銭的価値、
  • 非金銭的な達成(人材の成長や実績レコードの確立など)、
  • 出発時点での環境条件、そして
  • 今後への教訓など
を評価し、記録する。このとき、損益の数字だけでプロジェクトを評価しないことが大切であろう。

その上で、出発点から到達点までの、プロマネの貢献を考量する。それが査定のベースとなるべきである。たとえプロジェクトの最終評価が低くとも、出発点での環境条件が厳しい場合は、その分を勘案する。

そのためには、プロジェクトの出発時点で、『案件のプロファイリング』を行う必要がある。市場環境(天の時)・競合状況(地の利)・顧客特性と組織メンバー(人の和)などを、プロファイリングして事前評価しておくのである。別に5段階評価程度でもいい。このような作業は、営業段階における受注戦略・案件選別においても有用だろう。営業部長の胸先三寸にすべてを任せるより、少なくとも公平に思える。

念のために書いておくが、上記のようなことを、わたしの勤務先がすべて実践しているから真似た方がいい、というような話をしているのではない。そうではなくて、環境条件の重要性に目を向けて、各社でそれを評価するようにしたらどうか、と提案しているのだ。また、そういう問題に定量的に取り組む研究者が、できれば現れてほしい。

その上で、厳しい環境条件が揃っている場合は、組織として積極的にプロジェクトの支援を行う。そうして、プロジェクトが倒れないように支える。そういう仕組みが必要だろう。

支援で人を出すと、その人件費のぶん、採算がさらに悪化する。すると、プロマネ自身は赤字をおそれて、支援を遠慮するかもしれない(問題を抱え込んで、上に報告しない可能性さえある)。しかし、放置したら会社としては、もっと赤字が膨らむ。それを防止することが、全体としては重要だ。

会社がプロマネを任命して、「プロジェクトは結果が全てだ」「あとは死ぬ気で頑張ってこい。」というのは、以前も書いたようにレベル1のマネジメントである。それで良い場合もあるが、いつでも正しい訳ではない。適切なマネジメントの仕組みを作るのは、会社の側の仕事である。

またプロマネの側も、本当に良い仕事をしたければ、人の和をつくり、地の利を整えた上で、天の時を待つだけの忍耐力が必要だということになる。それを昔の人は、「人事を尽くして天命を待つ」と言った。

それだけの謙虚さが、わたし達には必要なのだろう。気合や根性よりも、天の時への謙虚さが。


<関連エントリ>
→「マネジメントのレベル0からレベル2まで」(2017-09-22) http://brevis.exblog.jp/26064558/








by Tomoichi_Sato | 2017-11-12 18:16 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

お知らせ:プロジェクト・マネジメントの一日研修セミナーを行います(12月4日)

東京での研修講演のお知らせです。
来る12月4日に、日本テクノセンター(東京・新宿)で


と題する1日研修を行います(有償です)。

本講座では、プロジェクト・マネジメントの主要な技術について解説します。とくに、プロジェクトの成功をしばる三大制約条件であるスコープ・コスト・スケジュールと、それらをコントロールする技法であるWBSEVMSPERT/CPMについて、演習を交えてしっかりと学びます。とくにプロジェクトの基礎となるWBSの作り方については、他にあまりない実戦的なテクニックをお伝えします。また「海外型プロジェクト」の特性と進め方に関しても、講師自身の長年の経験に基づく実践的な解説を行います。

ただし、プロジェクトの成功はプロマネ個人の知識レベルや、スキルだけでは決まりません。組織がもつ思考と行動習慣(いわば組織の「OS」)に応じて人を動かすことが大切だからです。たとえば、

 ・計画がきちんと立てられず、行き当たりばったり
 ・だれが何を決めるのかわからず、意思決定が遅れる
 ・以心伝心・暗黙の了解で動いて、言葉にしない
 ・契約感覚に乏しく、地雷を踏んでしまう

といった項目に、一つでも思い当たることがある方に、ぜひ受講していただきたいと願っております。単なる外国の教科書の解説ではなく、実践的で身につく知識とスキルを学べる講習ですので、とくにこれから海外系のプロジェクトに取り組もうとされる方に、おすすめします。また、中小規模のプロジェクト実務に携わりつつも、世間のPM標準では満たされぬ思いを感じておられる方々にも、身のある内容だと自負しています。

本研修の内容は、拙著『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』とも連動しています。著書はストーリー仕立てになっていますが、研修では背後にある原理とセオリーなどについてもきちんと解説いたします。

お申し込みは案内サイトから行えます。大勢の方のご参加をお待ちしております。


佐藤知一

by Tomoichi_Sato | 2017-11-06 21:24 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

PMの世界はどこに向かうのか 〜 PMI世界大会2017に参加して


1. PMI世界大会とは

米国で10月28日から30日まで開催された、PMI Global Conference 2017 https://www.pmi.org/global-conference/about というカンファレンスに参加してきた。PMIはProject Management Instituteの略で、ご存知の方も多いと思うが、米国発・世界最大のプロジェクトマネジメント専門職団体である。全世界に40万人以上の会員を擁し、通称「PMBOK Guide」(正式名称"A Guide to Project Management Body of Knowledge")と呼ばれるPMの標準書を制定、さらにProject Management Professional(略称PMP)という資格試験認定制度を有している。世界で最も影響力の大きなPM関連団体だ。

そのPMI Global Conference(長いのでPMI世界大会と略そう)は、今年はシカゴで開催された。約3千人が参加する、大規模なカンファレンスである。ベンダーの展示会も併設されている。世界大会の名にふさわしく、60カ国から参加者があったという。みたところ、聴衆は北米、南米からの参加者が多い。他に中東、インドからの参加者も多少眼についた程度か。

ただ意外だったのは、中国人がほとんどいなかったこと。今どき、どこの分野の技術展示会でも大勢の中国人をみかけるものだが、不思議と少なかった。また韓国人らしき人や、東南アジア・アフリカからの参加者も少なかった。ちなみに日本からは、数名の参加者があったようだ(PMI日本支部の方とは、挨拶を交わした)。わたし自身、この大会に参加したのは、はじめてである。2コマ、合計2時間ほど、講演発表をした。その内容については、後で触れよう。

わたしは個人資格で、自費で参加した(発表申込みの事前審査をパスすると、大会参加費約15万円は無料になるが、旅費宿泊費は負担が必要)。日本人の発表者は、他にはいなかったと思う。だが日本にはPMI日本支部・PM学会・日本PM協会という大きな団体が三つもあるのだから、もっと競い合って米国で発表したらどうかと思うのだが。
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(PMI世界大会2017 基調講演の風景)

2. セッションの構成

今回の大会では、全部で100以上のセッションがある(https://www.pmi.org/global-conference/program-schedule)。10以上の部屋で、並行して進んでいく。そしてセッションは基本的に、どれも1時間以上の長さがある。

PMI世界大会は、いわゆる学会風のカンファレンスではない。ふつう学会となると、発表時間は15-30分程度だし、アカデミック・スタイルで論理的に、堅苦しくしゃべらなければならない。しかしPMIの大会は、もっとずっと自由である。講演者が聴衆に語りかける感じだ。分類としては、Educational Session(教育セッション)が中心で、その他に、展示会の出展者によるベンダーセッションがある。

教育セッションは、さらに5種類に分かれる
  • Analyzing and Process Improvement(プロセスの改善)
  • Communication and Teamwork(コミュニケーションと組織)
  • Decision Making and Problem Solving(意思決定と問題解決)
  • Enhancing PM Skills(PMスキル向上)
  • Influencing and Business Strategy(ビジネス戦略と働きかけ)

こう並べてみると分かる通り、セッションの話題はPMのソフト・スキルが中心であり、ハード・スキル系の講演は少なかった。ちなみにハード・スキルとは、技術・知識として確立されており、座学などで習得が可能な能力を指す。PMの分野でいえば、WBSやCPM・EVMSなど、理論やツールに関する事柄だ。だが、こうした話題の発表はほとんどなかった。

他方、ソフト・スキルとは、交渉力や問題解決力など、もっと属人的な技能である。日本だと「人間力」などと一括されがちな能力だ。こちらがどうやら、米国PM界の現在の関心の寄せどころらしい。人間心理などにも関わりが深い。ちなみに米国には「行動科学」「社会心理学」などの流派の心理学がけっこう旺盛である。それは最近の「行動経済学」などにもつながっているし(今年のノーベル経済学賞も行動経済学者だった)、経営学にも取り入れられている。その影響が PM分野にも、かなり流れ込んでいる感じだ。

大会では同時に、"PMI Project of the Year”の発表とポスター・セッションが行われた。毎年行われる数々のプロジェクトの中から、最優秀プロジェクトを選んで表彰するものである(わたしの勤務先は2002年に、サウジアラビアのプロジェクトで受賞した)。今年の候補者は、優勝のHanford Double Shell AY-102 Recovery Project(放射性廃棄物の漏洩回収プロジェクト)のほか、シアトル市のUniversity Link Light Rail Extension(郊外型公共交通システム建築プロジェクト)、Gahcho Kué Mine Project(北極圏でのダイヤモンド採掘施設建設プロジェクト)などである。こうしてみると建設系のプロジェクトが多いのに、大会のセッションには建設関係の話題がきわめて少ないのは不思議である。

ちなみに、本大会のセッションは、よく日本などで行われるような産業別・分野別などの分類にはなっていない。業種を越えて共通の話題を取り扱う、という方針なのだろう。なお、この秋には、遅れていた
PMBOK Guide第6版がやっと出版された訳だが、この解説セッションなどはなかった。


3. わたしの講演発表

わたしの講演タイトルは、"Decision making with Risk-based Project Value (RPV) analysis and activities’ value contributions"である。長さは1時間。日曜日に1回行い、さらに月曜日午後にアンコール講演を行った(アンコールの実施は、事前に事務局からの要望で決まっていた)。

内容は、わたしが近年ずっと取り組んできた、「リスク基準プロジェクト価値(RPV)」理論の概要と、ケーススタディの応用例である。今日のモダンPMには、価値論が欠けている、というのが、かねてからのわたしの課題認識である。意思決定はプロマネの主要な仕事であり、何かを決めるためには、複数の選択肢の中から、ベストなものを選ぶ必要がある。ベストなもの、とはすなわち、「プロジェクトの価値を最も高めるもの」という意味だ。

だが、どんな選択肢にも、不確実性とリスクが付随しているのが、プロジェクトの世界である。では、リスクを伴うプロジェクトの価値とは何で定義されるのか。また、プロジェクトを構成する一つひとつのアクティビティ自体は、そのプロジェクト価値に対して、どのような貢献をするのか。こういった問題を、RPV分析という手法で定量化できる、というのが、わたしの理論的枠組みである。

この上で、たとえば二つの選択肢AとBがあり、AよりもBの方が余計にコストがかかるが、そのかわりBの方が、プロジェクト全体に与えるリスクが小さい場合、どちらをとるべきか、数字で比較評価できるような方法を提示する。このようにして、プロジェクト意思決定に客観性のある基準を確立する、というのがわたしの講演発表の主旨である。さいわい講演は2回とも、好意的な反応を多くの方から(とくに実務者から)いただいた。

なお、今回の発表内容は、来る12月8日(金)夕刻に、東京神谷町の日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が開催する「PM Networking」で詳しく再演する予定である(もちろん日本語で)。PMAJ非会員も自由に参加できるので、近いうちに本サイトでもご案内するつもりだ。
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(講演発表のスライドの前で)


4. 他のセッション内容

わたし自身が聴けた中で、ほかに印象に残ったセッションを、いくつかご紹介しよう。

全体のオープニング・セッションでは、Sir Tim Berners-Leeの講演があった。89年にスイスの物理学研究機関CERNで、はじめてWorld Wide Webとhttpを開発した人だ。これは20世紀後半の最大の発明だったと思う。最後に彼は、AIが将来、裁判で人を刑務所に送り返すか放免するかを決めるようになる可能性もある、と予測。だがその時には、Accountabilityが大切になるし、裁定の理由を説明できなければいけないだろう、との意見には感心した。

もう一人のキーノート講演者・Nicholas Epleyシカゴ大教授の "Mindwise: How We Understand What Other Think, Believe, Feel, Want”もなかなか興味深かった。Epley教授はまさに行動科学者で、マスコミにも頻出する有名人である。彼はさまざまな心理学実験から、わたし達人間が、いかに他人と理解し合えていないかを説明する。にもかかわらず、わたしたちは、「他者に理解してもらっている」と過剰に自信を持っていることが、実験から証明できる。このギャップこそが、われわれのコミュニケーションに横たわる最大の問題点だ、というのが彼の解説である。

一般講演の中で一番面白い、と個人的に感じたのは、Andy Silberというコンサルタントによる、"Adaptive Project Management: Leading Complex and Uncertain Projects"という講演だったかも知れない。Silberは、ハードウェア製品開発プロジェクトの専門家である。彼は縦軸に複雑性、横軸に不確実性をとって、プロジェクト方法論を分類していく。まず左下に「最小限の計画」を位置づける。つまり出たとこ勝負だ。縦軸の不確実性とは、プロジェクトの規模をある程度、表す。だから、左上に「ウォーターフォール」をとる。大規模な建設プロジェクトが、その好例だ。そして、クリティカル・パスはPMの重大な関心事となる。

一方、彼は右下に「アジャイル」をおく。アジャイル開発は、要求仕様の不確実性に対応する、良い方法だ。ただし、これはITプロジェクトの一部にしかうまく適用できない。同じ製品開発でも、ハード系になると、長納期の部品調達などにプロジェクトが引きずられるからだ。そこで彼は、右上の象限に、 "Adaptive PM"をおく。ハードの製品開発がここに位置づけられる、というのはなかなか良い。
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Adaptive PMでは、"Replan often"(しょっちゅう再計画)という漸進的なアプローチをとる。この点では、アジャイルに似ている。しかし長納期部品などクリティカル・パスにもフォーカスする必要がある。そこで、フェーズ化されているが、フェーズを一部やり直しながら進める方法をとる、という。これによって進む方向をアジャストしていくのだ。これを通称「刺身モデル」という。なかなか面白い。そして、今回聞いた中で、これが一番、ハードスキル的な話だった。

他にも、Brian Clausenという人の"Design Thinking”の講演、Andy Kaufmanの"Decision making”の講演、
人間類型を用いた"Business Chemistry”の解説、パワポを使わずにプレゼンしようという講演、そして米国企業で働くインド人による、異文化の問題の講義など、興味深い講演が多かった。


5. PMIは、そしてPMの世界はどこに向かうのか

今回のPMI世界大会でのセッション全体をみると、Agile関連の話題がわりと多い印象である。また、Design Thinking(デザイン思考)もいくつか眼についた。

これは結局、プロジェクト・マネジメントにおける”How”(コストやスケジュールなどをいかに計画しコントロールするか)の問題から、”What”(プロジェクトで何を生み出すか)に、関心が移行していることを示しているように思われる。別の言い方を借りれば、"Do things right”から、"Do right things”へ、ということである。

わたしは2003年に、ボストンでProject Worldというカンファレンスに参加したが、その時はハード・スキルや方法論の話が多かった。そして、非常に勉強になったという記憶がある。分野も、医薬品もあればITも防衛産業もある、という感じだった。ただし当時はまだ、米国全体で、Program以上の上位概念への関心が薄かった。

それから12年後、2015年のProject World Bostonは、かなり様変わりしていた。まず、BA(Busines Analyst)団体の大会との共同開催だった。これは、もはやIT ProjectがPM界の主体となったことを示している。その流れは、PMIによるBusiness Analysisの標準制定などの動きにも通底している。

察するに米国では、ハード・スキルの教育普及はおそらく一巡したのだろうと考えられる(その点、日本とはまだ事情が違う)。そして、ソフト・スキルに関心が移ったのだ。

こうした変化は、米国の経営学の歴史の流れをなぞっている、ともいえる。ちょうど100年前、米国でテイラーが「科学的管理法」を提唱したとき、それはハード・スキル中心だった。それはフォード・システムなど自動車産業での応用に結実していった。しかし、1930年前後の有名な「ホーソン実験」以後は、モチベーション理論へと経営学の焦点が移っていく。すなわち、リーダーシップなどソフト・スキルへの注目である。日本風にいえば、理系的な経営工学から、文系的な経営学へのシフトだった。

そして'80年代以降は、金融工学への傾斜があった。つまり、経営における関心事が、
 科学→人の心→お金
という風に、アメリカではシフトしていったのである。

米国におけるPMの分野でも、科学から人の心へ、という方向性が感じられる。CPMやEVMSなど、技術とツールは整った。プロマネもPMBOK Guideで知識を得て、PMPの資格も取った。だが、プロマネの悩みは、あまり解決されていないのである。ハード・スキルの普及によって、プロジェクトの短期的な成功率は上昇した(これは米国IT分野の統計が示している)。だが。望んだアウトカムは得られていない。そのもどかしさ・不満感が、伝え聞くようなPMIの会員数の伸び悩みにつながっているのではないか。

もう少し問題をさかのぼると、PMBOK Guideの枠組みとその限界に突き当たる。PMBOKは周知の通り、「プロセス」を中心にして、プロジェクト・マネジメントの仕事を整理した。それはじつに見事な体系化だったと思う。また、とくに初期のPMBOKは、受注型プロジェクトを無意識に前提としていた。つまりScopeは顧客からSOWで与えられていて、かなり固まっている、という前提である。これは防衛宇宙産業やエンジニアリング産業では確かにその通りだが、そうでない種類のプロジェクトも世には多い。

プロセスとは、How(いかに)を記述するものだ。だが、本当にプロセス中心アプローチで、望む成果が得られるのか。それが今の多くの人の悩みなのではないか? そこでデザイン思考やアジャイルなど、Whatを明らかにする技法に脚光が当たっている。だがWhatを掘り下げていくと、そもそも、何を目的とし、何を価値としてプロジェクトをやっているのか(Why)の問題に突き当たる。

 How→What→Why

こう考えていくと、現在のPM理論のパラダイムには、大きな革新が必要だと分かる。そして、そのブレイクスルーとなるのは価値論であろう、というのがわたしの信条である。当然ながら、これには異論もあろう。だから、そういったオープンな議論ができる場を、わたしは作りたいのである。


by Tomoichi_Sato | 2017-11-03 12:56 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)