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結果オーライのマネジメントでいいのか? - 成果の予見可能性を高めるために

海外企業で経営者の一員として働く知人が、「利益額という結果だけで親会社から評価されマネージされるのではたまらん」と考え、Strategic Business Planを策定したという話を、前回書いた。彼は安定した成長の軌道を描くために、そして必要な経営資源を明らかにするために、苦心している訳である。では組織が「結果オーライのマネジメント」を脱して、成果の予見可能性を高めるためには、どうしたらいいのか?

答えはある意味、単純である。最終結果だけではなく、途中段階をコントロールする。すなわち、仕事を結果に至るまでの過程=プロセスに分解し、プロセスを構成するそれぞれのステップがきちんと働くようにすることである。たとえていうならば、長い釣り竿の先端を、ねらった位置にぴたりと当てるゲームを考えてみてほしい。根元だけ持って、先端の位置をコントロールするのは難しい。途中で勝手にしなるし、手元のブレや風の影響でブルブルゆれるだろう。だが、竿の途中の何カ所かに細い棒か何かで支えを入れて、その支えの位置をそれぞれ動かせれば、先端の位置決めははるかに精度が高くなる。そういうことだ。

仕事をプロセスに分解するとは、受注型営業ならば、商品説明→提案→見積→受注、という段階になるだろうし、設計作業なら要件確認→基本設計→詳細設計→試験確認、といった流れかもしれない。図では、仕事を直列な4つのステップに分けているが、べつに4でなくてもいいし、直線状ではなく分岐や並行があってもいい。
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各ステップには、それぞれの中間成果物や達成状態がある。そして各ステップには、そのパフォーマンスを左右するような、主要な導因(Key drivers)と、それを測るモノサシがあるはずだ。これが先ほどの釣り竿の例でいう、途中の支えに相当する。たとえば営業の商品説明なら、客先への訪問がKey driverだろう。それは訪問件数で測ることができる。そのステップの中間結果としては、次のステップ=提案まで持ち込める案件の比率が、達成度合いを示す。このようにプロセスを分解して、各ステップの状態を良く見分けることができれば、最終結果に至るずっと以前に、先行きの予想がつきやすくなる。つまり『予見可能性』が高まるのだ。

かりに営業の受注プロセスをよく見たら、商品説明から提案までは高い比率で進んでいくのに、その後、見積に行く段階で急に案件数が下がったとしよう。だとしたら、受注がふるわないのは、「商品力がないから」とか、「他社より価格が高いから」といった理由ではなく、「提案段階での内容・質に問題がある」ことが主要な原因だと分かるだろう。商品に興味は持ってもらえるのだ。だが、提案が顧客の期待にマッチしていない。だとしたら、提案力を上げるにはどうしたらいいかを考えることになる。

そして各ステップには、そのパフォーマンスに影響を与える環境要因がある。これもステップ毎に異なるはずだ。環境要因とは、担当者の意志や努力ではどうにも変えられない事象を指す。提案段階のパフォーマンスに影響を与えるのは、「世の中の景気」でもないし、「他社との競合の激しさ」でもあるまい。

提案力が低いのは、もしかすると設計部門が多忙すぎて提案営業に協力できない、といった内部環境なのかもしれない。あるいは単に、営業から技術部門への顧客ニーズの伝達が、うまくいっていないのかもしれない。ただ明らかなのは、「世の中の景気が落ち込んで競合が厳しくなったから受注高が上がりませんでした」という説明は、事実を正しく伝えていないということだ。こうした営業部門の言い訳は、プロセスに分解すると正当かどうか判断できる。

戦略とは、限られた経営資源をどこに集中し、どこは略すかを決めることである。だから上記のような状況では、提案能力を上げる部分に、人員や資金や技術を投入すべきだということになる。戦略は一種の賭けでもあるので、経営資源の投下が本当に期待した効果を上げているかを、Key driverと中間成果の数字で測って、適時検証しなければならない。

・・と、いうような話は、別にわたしの創意でもないし、取り立てて新しい考えでもない。結果だけを見るのではなく、結果に至るまでの段階と構成要素を見てコントロールすること、かつ全体を見て判断すること、必要ならばその仕組みを改良すること。これがシステムズ・アプローチである。原理自体はとりたてて難しいものではないし、図を見ればほとんどの人は「なるほど」と同意するだろう。プロジェクトという大きな仕事のまとまりを、構成要素であるActivityに分解するWBSという手法だって、その一例である。工場の人なら、工程単位に検査をしながら進んでいく「自工程完結方式」だな、と思うかもしれない。

だが、システムズ・アプローチを知っているということと、組織がいつでもそれを使いこなせるかどうかは、別物である。組織の構成員が無意識に従う、体系化された思考と行動の習慣を、わたしは『組織のOS』と呼んでいる。「結果オーライのマネジメント」が横行している組織では、システムズ・アプローチはまだOSレベルに至っていないな、と判断できる。そういう組織では、仕事の成果は人で決まるか、環境に左右されるか、だと信じられている。だから競争で人を選別するか、あるいは各人の頑張りで環境条件をはね返すしかない、という結論になる。

最近、とある著名な経営コンサルタントから聞いた話がある。この方は製造業の分野に強いのだが、日本企業の海外展開のあり方について気になることをいっておられた。海外に工場を建て、子会社を作るのはいいのだが、その子会社に対してまさに「利益額の結果だけで管理する」やり方をとっている企業がほとんどだ、というのだ。きいていて、ちょっとドキッとした。

かと思うと逆に、やれ稼働率だ資材購入単価だ生産性だと、部門別に細かなモノサシをたくさん指定して、それで海外工場同士を比較競争させる発想もけっこう強いらしい。「KPI経営」と、その方はよんでおられた。

KPI経営のどこがまずいのか? 企業の部門というのは、営業・資材購買・製造・物流、という風に、仕事の機能単位に、まさにプロセスで並んでいるのだから、それぞれの機能をKPIでコントロールするやり方は、まさに上に述べたシステムズ・アプローチではないか、と思う人もいるかもしれない。

だが、両者は似て非なるものである。まず、プロセス全体を見ている者がいない。日本の工場を「マザー工場」に指定して、海外工場にならわせるマザー工場制度を取るところも多いので、実質的には日本の各部門が、子会社の各部門をそれぞれ個別に指導・管理しているだけだったりする。だから、現地にも工場長はいるだろうが、日本で適切だったはずのKPIが、海外工場に同じように該当するかどうか、誰もきちんと全体を見て検証していない。

それに、上述の各ステップのパフォーマンスを左右する動因の一つは、すぐ上流側から受け取る中間成果物の品質やタイミングなのである。いってみれば上流側プロセスが、各ステップにとって最大の『環境』に相当するのだ。それなのに、上流側が勝手にそれぞれ局所最適を目指したらどうなるか。

たとえば資材購買のKPIが購入単価だったとする。つまり安ければ安いほどいい、と。いきおい、入ってくる資材は品質や納期にリスクを抱えることになる。加工課のKPIは機械稼働率だったとしよう。そしたら、とにかく機械を遊ばせないため、遅れ気味の資材が、入るはしから部品に加工したがるかもしれない。低品質な部品が、使うかどうかも不明なまま大ロットで工場倉庫に積み上がる。ところで組立課のKPIは一人あたり生産性である。そこで、できるだけ部品を作業ラインの近くに置いておきたがる。かくて、工場はモノであふれかえっているのに、必要なモノは足りなかったり、出来上がった製品の品質はさんざんだったりする・・

おわかりだろう。各ステップのKey Driversというのは、プロセス全体をとりまく状況に依存するのである。だから、システム全体を見る目と、判断する能力が必要なのだ。中小零細の工場主なら、こうしたことは理屈で知らなくても体感でわかっている。むしろ中堅以上の、分業が進んだ企業組織ほど危ない。業務を機能別に分解してKPIで働かせるだけででは、マネジメントしていることにはならない。WBSをつくって各Activityに担当者を割り振ったら、あとはプロマネなしでもプロジェクトは成功するだろうか? そうはいくまい。つねに変わりつつある内部環境や内部環境に応じて、総合的に判断する役目が必要なのだ。「総員がその持ち場で最善を尽くせば、結果は必ずついてくる」などというのは、じつはマネジメントの不在を示している。

くりかえすと、組織全体の成果の予見可能性を高めるためには、プロセス(工程)によるマネジメントとコントロールが必要である。そのためには、

・プロセスを構成する各ステップのキーとなる導因とモノサシを見定める
・モノサシと、結果のパフォーマンス(コスト、時間、品質など)との関係を推定する
・全体プロセスがうまく働くように、適切に人員や予算などの経営資源の配分を判断する

という手順を踏むことになる。こうしたことは、皆がある程度、無意識にやっている事かもしれない。いわれてみれば当たり前、あるいは「そんなの知ってるさ」という事かもしれない。だが、それを形式化し、OS化することが大切なのだ。それによって、属人的な仕事の進め方(技能)が、標準化された技術になるからだ。

そしてもう一つ。こういった原則的な知識は、字で読んだだけでは身につかない。自分自身の状況に引きつけて応用問題を考え、少しずつ試しながら理解する必要がある。たとえば上記のプロセスに、ループや分岐があったらどうしたらいいのか。どうみても数値化しにくい中間成果は、どう扱うか。

一般にマネジメントの問題には正解がないといわれる。それは、現実の仕事には環境条件や不確実性が左右して、結果に必ずしも再現性がないためである。だが同時に、『全体を見て総合的に判断する』ためには、確固とした価値観を持たなければならないからでもある。そして、こうした総合的判断の訓練のためには、学ぶ仲間がいるほうがいい。現在、わたしが主宰する研究部会では「PM教育の新しいアプローチ」を構想中だが、そこで学びのコミュニティが必要であると考えているのは、このためだ。一人だけで問題を考えると、どうしても視野が限られるが、複数人なら「三人寄れば文殊の知恵」が働くからだ。

そしてわたし自身も、まだ学びの途中である。

<関連エントリ>



by Tomoichi_Sato | 2017-01-25 23:01 | ビジネス | Comments(0)

結果オーライのマネジメントでいいのか?

帰国した知人と久しぶりに会った。アジアの新興国で会社の経営陣の一員として働いている。日系ではなく純然たる現地企業だ。中堅規模でそれなりの業績も上げているらしい。知人の主な仕事はBusiness Development、すなわち事業分野の拡大と経営面の仕組み造りである。わたしも最近ずっと経営企画的な仕事をしているので、興味が重なり、いろいろな話を聞かせてもらった。

知人がその会社にヘッドハントされて着任したとき、真っ先に気になったのは、きちんとした中期的な経営の方針がないことだった。彼の会社は、その国の結構大きなコングロマリットの一部であり、子会社の位置づけだ。だが親会社からは、「何の指針も指示もなく、P/Lのボトムラインだけで管理されている」状態だったという。

P/Lとは財務諸表の『損益計算書』(Profit & Loss)の略称だ。損益計算書は一番上に売上収入が書かれ、その下に出費経費がずらずらとならぶ構造になっている。一番下の行には、差し引きの結果である経常利益が記載される。これを英語ではよく"bottom line"と称する。「P/Lのボトムラインで管理する」とはつまり、通期の利益額だけを見て、赤字だったら叱責され、黒字ならよしよしと言われるか、「まだ足りない」と言われるか、だけだったということを意味する。収益が大きければたぶん経営者はグループ内で地位が昇格し、赤字が続けばクビになって別の者にすげ替えられるのだろう。

だが、これだけでは、会社の経営陣として次にどういう手を打つべきか、さっぱり分からず、方向性が定まらないと知人は言う。そうだろうな、とわたしも思う。お前の会社はグループ内でこういう位置づけ、こうした役割を担っているのだから、こんな風な姿を目指せ、親会社として支援できるのはここまでで、判断基準ややり方はこうだ、というような指針が一切ない。ただ結果としての利益を出せ、と言われているだけだ。

きいていてわたしは、「甘えるな、結果が全てだ!」という標語を思い出した。わたし達の社会では、あちこちで出会うセリフである。経営者は結果が全てだ、利益を出せるかどうかだ。これは多くの株主が感じていることだろう。あるいは職場でも使う。営業は結果が全てだ、受注できるかどうかだ、という具合に。学校教育でもそうかもしれない。入試は結果が全てだ、いくら試験場で気張っても入試に通らなければ意味がない。スポーツも、参加したって勝てなければ意味がない・・

これは裏を返せば、良い結果さえ得られれば、その方法や途中経過は問わない、というメッセージでもある。そのやり方がどんなに属人的でも運頼みでも、とにかく結果さえ出れば、それで良いとほめられる。そして結果は、たいていリーダーの功績に帰せられる。だから優れた業績を上げた人は、どんどん引き上げて、より上位のポジションにつける。結果とは一種の人材選別のフィルターであって、優秀な人間を見いだしてリーダーに据えることですべてはうまくいく。そういう思想の表れである。そう考えると、わたし達の社会でやっている受験競争だとか就活だとかの大騒ぎの意味が、よく分かるではないか。試験で優秀な結果を出せた者が一流大学に進学でき、その中の成績上位者がさらに中央に引き立てられてエリートとして社会に君臨する。そのおかげで日本はここまで立派な大国になったのである、と。

でも、知人のケースに話を戻そう。結果を出すために、目の前の仕事を取りに行って、何とか完遂する。それをおえたら、また次の仕事を取りに行き、完遂する・・これの繰返しだけでは、会社は新興国の不安定な景気の波にもまれるだけで、真の成長はむずかしい。このままではまずいので、Strategic Business Planを作ることになった。それが彼に期待されたミッションの一つでもあった。ちなみに知人は元々、技術屋である。だが長らくプロジェクト・マネージャー職に従事し、さらに<マネジメント的な視点>を持っている人だ。経営関係の勉強もそれなりにしている。彼の上司にあたる社長も、技術者上がりだ(わたしは一度だけ挨拶したことがあるが、人柄を感じさせる立派な方だった)。だからこうした方面の役割を、その知人に期待したらしい。

Strategic Business Planであるから、まずは会社が中長期的に目指す姿を明らかにすることからはじめなければならない。そのためには無論、ある程度のマーケットの読みが必要である。魚のいない海に船を出してもしかたがないからだ。アジアのその国では、長い政治的低迷時代を少し前に脱し、ようやく成長過程に入っていて、エネルギーやインフラなども市場が期待できる。ただし市場は大きくても、競争をどうしのぐかが次の問題になる。せっかく豊富な漁場に出ても、周りを見渡したら、(たとえば)中国漁船がうじゃうじゃ、というのでは始末に負えまい。それから、自社の強みを明らかにして、それを向上させる技術なり人材なりの方策が必要である。漁場も良く、回りにライバル船が不在でも、自分の船にGPSもレーダーもなく、古代さながらの投げ網だけでは、収穫はしれているというものだ。

こうした仕事を進めるにあたり、すべてを自分だけで我流でやらず、社内を動員し、また外部のコンサルタントを活用したそうだ。とくに遂行面での弱みを補強するために、欧米系の超有名な、「マ」ではじまるコンサル会社を雇ったりもしたのだが、ここは期待外れだったらしい。それはさておき、彼が目指すStrategic Business Planを一通りつくり上げることができた。外部コンサルも、自分たちの頭を整理してくれる点では役に立った。なぜなら、経営計画を策定するという仕事はどこの会社にも共通しているし、経営学という学問の蓄積も一応はある訳だから、自分でゼロから車輪を再発明せずにすむ訳である。

こうして海図と羅針盤は手に入れた。だが、これからPlanを実行する段になると、別種の難しさに向き合うことになる。それは環境変化だ。

ここでちょっと考えて見て欲しい。今、AとBの二人の経営者がいるとする。彼らの会社の利益は次の通りだ。あなたが投資家だったら、どちらの会社がより投資先として好ましいと思うだろうか?
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どうやらこの国では、第2期は景気が良く、第3期はその反動で不況だったようだ。こうした環境変化はつねに起こりうる。企業の業績も、それを反映して変わるのがつねだ。それはこの表にも現れている。そしてA社・B社とも、4期合計の利益額は180億円で、結果に違いはない。

だが、A社はいかにも、業績にムラがある。これにたいしてB社の方が、より安定している。あなたが投資家だったら、B社の方が好ましいと思わないだろうか。たしかに経営者は結果が大切で、たくさんの利益を出した方が勝ちかもしれない。だが、ある期は黒字、次の期は赤字で、先々の予測がつかない経営では、ジェットコースターに乗っているようなものだ。過度のスリルを楽しみたいギャンブル的投機ならともかく、投資としてはいただけない。

つまり、組織のパフォーマンスというのは、個別の結果の良し悪しだけでなく、『予見可能性』が高いことが、社会から信用を得るためには非常に大事なのである。それはある意味、個人でも似ている。天才肌で、仕事の業績が飛び抜けて良い日もあるが、別の日はさっぱりふるわない、では組織の一員として使いにくい。何年に一度かヒット作が出れば食っていける職種もあるかもしれないが、たいていの業種はそうではない。

では、組織として、環境条件の変化にあまり左右されずに、安定してパフォーマンスを上げるためにはどうしたらいいのか。長くなってきたので、この続きは稿をあらためて、また考えよう。
(この稿続く)



by Tomoichi_Sato | 2017-01-20 23:02 | ビジネス | Comments(0)

好きな事・上手にできる事・稼げる事・世の役に立つ事

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この図形をいつ、どこで見つけたのか、正直いって思い出せない。ネットで拾ってきたのは確かなのだが、今、検索し直してもオリジナルがどれか見つけられずにいる。でも、著作権不明なまま、掲げておこう。非常に気が利いていて、初めて見たときから面白いと感じたからだ。

言うまでもないが、これは「人生の目的」に関する、一種のベン図である。ベン図は集合の包含関係を示す図だが、日本人は視覚的な表現にたけている人が多いらしく、ほとんど説明せずに理解してくれる。この図は、わたしやあなたが、毎日している(かもしれない)ことを、大きく4つの領域に分けて示している。

図の一番上にある円が示す領域は、”You love it”である。つまり、好きな事、したい事を表す。そして、図の左側にあるのは”You are great at it”、すなわち「上手にできる事」を示す円である。さらに反時計回りに図の下側に目をやると、”You are paid for it”がくる。それは「稼げる事」だ。そして一番右にあるのは、”The world needs it”で、この円だけは説明に、二人称”you”を含まない点に注意してほしい。つまり、他者の視点をここだけに導入しているのだ。これは「世の役に立つ事」を表している。

この図が巧みなのは、隣り合う円同士が重なる領域に、さらに名称を書き入れている事だ。「好きな事」と「上手にできる事」の重なり合う領域、つまり自分が好きで、かつ上手な事は、自分にとって”Passion”(情熱)の源泉である。それはそうだろう。

「上手にできる事」で、かつ「稼げる事」の領域は”Profession”(職業)である。英語のProfessionは、単純な労働ではなく、プロとして認められる高収入な職業を示す。そして、「稼げる事」と「世の役に立つ事」の重なりは、”Vocation”(天職)となる。社会的に価値のある、お仕事である。

そして「世の役に立つ事」であって、かつ自分の「したい事」となる領域は、”Mission”(使命)という訳だ。稼ぎにはつながらないかもしれない。しかし自分がしたくて、世の役に立つ事。Missionは宣教という意味も持つが、欧米のキリスト教社会では、たしかに直接お金にならなくても、こうした活動に力を入れる人は多い。エバンジェリストなんて言葉も、この同類だ。

Passion - Profession - Vocation - Missionと、4つの言葉がいずれも高尚で、かつ脚韻を踏んでいる点にも注目してほしい。ここら辺がこの絵を見て感心したところの一つだ。

そして、全ての円が重なり合う中心の赤いスポット。これが”Purpose”であると、この図は説明する。生きる目的、という訳だ。「生きがい」と訳することも可能だろう。好きで、上手で、稼げて、世の役に立つ。そのような仕事を見つける事ができれば、たしかに大きなやりがいを感じ、熱中できるに違いない。

今年の抱負をどう決めようか。人生の中期的な目標は、どこに置こうか。年末年始の休みの間に、そういったことを考えてみた人は多いだろう。わたしもそうだ。連続した長い休みの日がないと、なかなか、重要だが緊急でない問題を考える時間が取れないものだ。そのときに、なんとなくこの図を思い出して、しばし眺めてみた。

ただし、この図は眺めるだけならば面白いが、いざ「思考の道具」として使おうとすると、あまり便利ではない事に気づく。自分の生きがいを見つけるために、では、具体的にどうしたらいいのか。

自分が今、日常の中で主にやっている事は、当然、「稼げる事」の中に入っているはずだ(利子生活とか年金生活で、一切働く必要のない人はのぞく)。そのうち、「世の役に立」たないようなこと、つまり反社会的な仕事で稼いでいるかというと、まあそんな事はないはずだと思う。だとすると、自分はもう自動的に、「天職」の中にいる事になる。あとはまあ、その中で自分が好きで上手にできる部分を探すだけだ。好きこそ物の上手なれ、だから、上手な事と好きな事は普通重なっている。だったら自分が普段やっている仕事の中で好きな事を選べば、それが「生きがい』になる・・そんな簡単なものだろうか? 何か違う気がする。

だいたい、自分が稼ぐために毎日している仕事の中に、好きでしたい事なんてほとんど無いよ、というのが、しばしばある悩みだろう。では、自分が好きで、したい事とは何なのか。多少の趣味や娯楽ならともかく、仕事になりうるもので、かつ自分がしたい事とは。それがなんだか分からないので、「自分探し」という奇妙な言葉がはやるのだろう。どこかに自分に向いた、しかも面白いことがあるに違いない、今の自分はかりそめの姿だ、今の仕事は腰掛けにすぎない・・と。

だがそもそも、自分のしたい事とは、最初からそんなに明確に自己の中に内在していて、いわば「発見されるのを待っているだけ」、という状況なのだろうか? 周囲の状況に応じて、上手に適応することを求められ続ける日本人にとって、「周囲のみんなが好きだというから」「周りから『それが似合っているね』と言われたから」、いつのまにか、“自分でも好きだと思い込んでいる”ことも結構ありそうだ。自我が強くて頑固な西洋人なら、「好きな事」はかなり明確なのかもしれない。だがわたし達の多くにとって、好きな事の輪郭はもっとぼんやりしているというのが、事実なのではないか。

そう。この図が、生き甲斐を見つけるツールとしては、必ずしも役立たない理由はそこなのだ。ベン図は物事(集合)の境界線を示す。それは1か0かであって、中なら集合に属し、外なら属さない。白黒はっきりした世界だ。だが、わたし達の「好きな事」「上手にできる事」などはもっと、なだらかにグラデーションがついた世界ではないか。ちょうど物理で言う電子雲のようなものだ。だからこの図は、4原子分子の電子雲のように表現されるべきなのだ。ま、それで分かる人が増えるかどうかはともかく・・(^^;)

だが、それでもこの図に表された概念は、チェックリストとしては非常に有用であると、わたしは考える。すなわち、自分が(たとえば)今年の抱負といて取り組もうとしている事、いろいろなアクションについて、
「それは自分が好きな事か?」
「自分が上手にできる事か?」
「稼げる事か?」
「世の役に立つ事か?」
を問うのである。そのとき、1か0か、YesかNoかで判別するのではなく、◎○△×といったグラデーションのレベルで評価してみるのだ。

そして、自分の希望するアクションリストについて、4つの軸から採点してみる。その結果、もし「好きな事」ばかりに◎がつくようなら、ちょっと自分は楽な方向に傾きすぎていないか、と疑ってみる。逆に「好きな事」が少なすぎたら、自分は何か無理をしているかな、と気づくだろう。

同様に、「上手にできる事」の色彩が強すぎるようだと、自分は他の能力を伸ばす事を怠っているのかもしれない。「稼げる事」が足りない場合、どうも趣味や使命感に走りすぎていて、生活を軽んじているかと反省してみるべきかもしれない。「世の役に立つ」ことが少なすぎると、家族や世間の付き合いを避ける傾向があるのかもしれないし、あるいはいささか身勝手になっているのかもしれない、と思ってみる。

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わたし達は、未来の自分のありたい姿と、現在のポジションとのギャップから、いろいろな課題を見つける訳だ。そして、それを埋めるべく、中期的なテーマを設定する。それが「今年の抱負」である。抱負はさらに、具体的なアクション・リストに落とし込む必要がある。ただし、今年の抱負のアクションを、総花的に10も20もリストアップしたら愚かだ。候補の中からある程度、優先順位をつけて選ぶプロセスを、わたし達はしているはずである。

そして、以前、「今年の抱負はこう作ろう」にも書いたように、こうしたアクションには、具体的なゴールのイメージと、その成功・失敗をはかる基準としての目標があった方がいい。そうしたことを、表の形にしてみる事をお勧めする。

こうしたアクションリストを年の初めに作るというのは、ちょっと大げさに言えば、わたし達の生き方において、海図と羅針盤を持つことに相当する。日々の雑事に流されがちな生活の中で、流されない自分の軸を決めるということである。

そして、実は同じような事が、会社における年度方針やアクションプランにも言えるはずなのだ。会社は稼ぐ事、利益を得る事が、もちろん第一目的ではある。しかし、不思議な事に、「お金お金」だけでは、わたし達は十分うまく働けないのだ。そこで、会社における種々のアクションについても、
・上手にできる事か(=自分たちの強みを生かしているか)
・したい事か(=モチベーションを高めるような仕事か)
・世の役に立つ事か(=市場性、コンプライアンス性は満たしているか)
をチェックしてみるといい。

アメリカの経営学者の中には、企業を、財務諸表の上の数値だけで追いかけて管理するのでは不十分なのだ、と気づいた人たちがいる。彼らは、財務に加えて、顧客の視点・業務プロセスの視点・学習と成長の視点などを取り入れた企業の通信簿=「バランス・スコアカード」(Balanced Score Card, BSC)を提唱している。これは、よく考えてみると、最初に示した図の4軸とよく似ているではないか。

わたし達は「生きがい」には、なかなか到達しないかもしれない。だが少なくとも、4つの軸のバランスをはかりながら、少しずつでも進んでいくべきなのである。


<関連エントリ>
 →「時間の中に生きる」http://brevis.exblog.jp/11897591/ (2010-01-03)
 →「今年の抱負はこう作ろう」 http://brevis.exblog.jp/21527608/ (2014-01-03)

by Tomoichi_Sato | 2017-01-12 23:04 | 考えるヒント | Comments(0)

プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」(1月17日)開催のお知らせ

(訂正: 最初、本文中で1月17日を金曜日と誤記してしまいましたが、正しくは火曜です。お詫びして訂正してます_o_)

「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」2017年の第1回会合を、下記の要領にて開催いたします。

今回は、システム開発プロジェクトのトラブルという、世の中に広く見られる問題への取組みがテーマです。
昨年、一般社団法人アドバンストビジネス協会が「システムトラブル相談センター」を解説して、話題を呼びました。発注者とITベンダーの間でこじれてしまったITプロジェクトには、どのようなパターンがあるのか。それを解決するための助言とは、どんなことか。
このセンターのキーパーソンである本間峰一氏は、ERPおよび生産情報システムにも詳しい経営コンサルタントで中小企業診断士です(また古くからの友人でもあります)。第三者の目から見た、日本のITプロジェクトの問題とはどのようなものか、興味深い話が聞けると思います。ぜひご期待ください。

<記>
■日時:2017年1月17日(火)18:30~20:30
■場所:三田キャンパス・北館会議室2(1階)(定員:28)
 キャンパスマップ・【1】

■講演タイトル:「システムトラブル相談センターの概要と開設の背景

■概要:
ERPパッケージの導入プロジェクトを中心にシステム導入トラブルに巻き込まれる企業が増えています。その原因と対策に関して一般社団法人アドバンストビジネス協会が開設したシステムトラブル相談センターの狙いなどを中心に、実際の事例をベースにお話しします。

■講師: 本間峰一(ほんま みねかず)

■講師略歴:
前職:みずほ総合研究所 コンサルティング部
現職:(株)ほんま コンサルティング部

■参加費用:無料。 ちなみに本研究部会員がスケジューリング学会に新たに参加される場合、学会の入会金¥2,000が免除されます。

会場の人数に上限があるため、参加を希望される方は、できましたら前日までに三好副幹事までご連絡ください。

以上、よろしくお願いいたします。


佐藤知一@日揮(株)

by Tomoichi_Sato | 2017-01-06 21:24 | Comments(0)