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Web連載記事のお知らせ

IT MediaのWebマガジン「@IT MONOist」(ものづくりスペシャリストのためのポータル)に、第3回記事
納期と在庫のトレードオフを解決する知恵とは?
を掲載しました。どうぞご覧ください。
by Tomoichi_Sato | 2008-11-29 23:57 | サプライチェーン | Comments(0)

Excelで工程表を書いてはいけない

さる8月、翔泳社主催の「PM Conference 2008」に招かれて講演をした。テーマはプロジェクト・コントロールの技法論で、私が長い間、エンジニアリング業界とIT業界の二足のわらじを履いてきた経験から、両者の比較を論じたものだった。最近のIT業界における「プロジェクト・マネジメント」の認識の普及進展はめざましいものがある。これに対して、エンジニアリング業界は過去10年以上、EVMSの徹底化以外とくに主立った進歩はない。にもかかわらず、両者の違いはいまだ歴然としたものがあり、それはとくにプロジェクト・コントロールの基本であるWBSやコントロール・リストなどの使い方で明瞭だ、というのが論旨だった。

ところで、この講演の中で、「工程表のガントチャートをExcelで書いてはいけない」と強調した点が、どうも多くの聴衆の注意を引いたらしい。終わってからのアンケートでも、そこに関する感想が少なくなかったし、講演後、直接私のところに質問に来られた方もいた。“ じゃあどうしたらいいんだ?”“何か良いツールはあるのか?”というのが率直な疑問らしい。

Excelでガントチャートを書きたくなる理由は、私もよく分かる。まず、事実上すべてのPCにのっており、誰でも読み書きできる。縦横に罫線があり、ガントチャート作成に便利に思える。お絵描きの道具がそろっていて、すぐに矢印を引ける。担当者の名前や作業量なども表に書き込める。必要なら、さらに引出し線だの注釈だの好きなコメントを書いていける。実に便利である。

にもかかわらず私が、Excelで工程表を書いてはいけない、と説明したのには三つの理由がある。第一の理由は、クリティカル・パスが見えないことだ。プロジェクトの出発点から、全作業の完了までの経路の中で、時間的に最長の経路をクリティカル・パスとよぶ(日本語では「隘路」だ)。プロジェクト全体の納期は、このクリティカル・パスの長さに等しい。したがって、プロジェクトの納期短縮を図りたかったら、どこがクリティカル・パスになっているかを見つけ出して、それを短くすることを考える必要がある。

コスト=原価管理の世界では、プロジェクトのコストは、すべてのアクティビティのコストの足し算になる。大小を問わずどのアクティビティで1円節約しても、全体予算の1円節減に直結する。だからコスト・マネジメントでは、基本的にすべてを軽重なく公平に見ていく必要がある。ところがスケジューリングの世界では、クリティカル・パスの長さだけがプロジェクト全体の期間を決める。非クリティカルなアクティビティについていくら期間短縮の努力を払っても、全体には何の影響もでない。そこでタイム・マネジメントでは、重要な管理対象と重要でないものが峻別される。これがマネージャーにとって最も大きな違いだろう。

Excelで工程表を書いてしまうと、ここが見えなくなってしまう。「だったら太線にしたり、赤く表示したらいいじゃないか」というのは浅知恵というものだ。クリティカル・パスは、作業が進むにつれて(その進捗や遅延にしたがい)しばしば他の経路に移ってしまうことを忘れている。このため、潜在的にクリティカル・パスになりやすい経路を、「サブクリティカル・パス」と呼んで、最初から注意しておく必要がある。CPMの技法論でいえば、フロート日数=ゼロの経路がクリティカル・パスになる。そこで、フロート日数が(たとえば)2週間以内の経路をサブクリティカルとして認知しておく、などの工夫がいるのだ。Excelの線表では、このフロート日数が見えてこない。

第2の理由は、先行作業が遅れた場合の影響範囲がわかりにくい、ということだ。実際問題として、プロジェクトというのは遅れるものなのである。これは、最初に作成する工程表が「ターゲット日程」を表しているものである以上、当然のことだ。そこで、実務上問題となるのは、前方の作業が遅れたとき、後ろの方のアクティビティが着手するのはいつになるのか、という点だ。これはとくに、担当者や担当部署が異なるときは悶着のタネだ。ところが、Excelの線表というのは、一つの線を延ばしたら、後ろにつながる線を全部、自分の手で書き直さなくてはならない。当然、ここにはミスが入り込む可能性も出てくる。

3番目の理由は、スコープの追加や、WBSの変更に対応した修正が面倒であることだ。これは第2の理由とも通じるが、部分的な修正が全体の変更につながる、というのがプロジェクト・ネットワークの性質である。これを、書き手がすべて自分の頭の中で追いかけなくてはならない。そして、追加変更は、プロジェクトに宿命的について回るものである。

結局、Excelで書いたガントチャートは、ロジック無き「絵」にすぎないのだ。プロジェクトの工程表とは、背後にロジック・ネットワーク・スケジュールを持っていなければならない。ここが根本的な認識のズレなのである。Excelで工程管理してはいけない。私の主張は、この点にある。

じゃあ、工程表どんなツールで描いたらいいのか?--こういう質問が出てくる点が、まあいかにもIT業界らしいな、と感じてしまう。こちらは考え方の話をしたつもりなのに、いつの間にかツール論になっている。ツールとはさみは使いようだから、上記のことさえ忘れなければ、別にExcelを使うこと自体がわるいわけではない。まあ、不便だが。

それでも、何かのツールを推奨しろ、という話になると、ちょっと困ってしまう。Microsoft Projectは誰もがまず思いつく製品だろうが、いくつか理由があって、私はMS Projectはあまりおすすめしない。たとえば後続のアクティビティをすぐに見つけにくい、だとか、アクティビティ数が増えていくとひどく重くなるとか、は機能的問題だからまだしも、Forecastという概念がないとか、プロジェクト全体の締切というものがクリティカル・パスの長さとは別に規定されているとか、概念自体に違和感を感じる。

米国でのある調査でも、MS Projectはもっとも多く購入されているが、もっとも使われていないプロジェクト・マネジメント・ソフトだという結果が出ている。そもそも、この製品を出しているMicrosoft自体、自社の主力製品をリリースする際、期日変更や早期パッチの常習犯になっていないだろうか。自社のプロジェクトをきちんとマネジメントできない会社の製品を、私はあまり信用したくない。むろん、ツールは使いよう次第。現在この製品で十分うまく仕事を回している人に対してまで、使うのをやめろと主張するつもりはない。限界を知った上で、ツールを使い倒すのが、プロの仕事というものだろう。

じゃあ、そういうおまえ自身は何を使っているのか? そういう質問もあるだろう。私自身は、二つの製品をほぼ毎日使っている。一つは、Primavera Project Planner(略称P3)だ。これはエンジニアリング業界では事実上の世界標準であり、海外のほとんどの顧客から、これを使え、と指定される。P3は、いわば超高級Microsoft Projectであり、とくに1,000以上のアクティビティからなるプロジェクト計画では、ほぼこれ以外に使い物になるソフトはないと言っていい。

そのかわり、これは「プロの使う道具」である。機能が多く、スキルが必要だ。どうしても、スケジュール・コントロール専門職のツールになってしまう。おまけに、世界中で広く使われているVer. 3は英語版だ。最新のVer. 6は日本語も通るが、高くて重くて人気がない。しかも、Primavera社は先月、とうとうOracle社に買収されてしまった。この先、旧バージョンがどうなっていくかは誰にも分からない。いずれにせよ、日本国内での仕事で、かつアクティビティ数が50から100程度の工程表には、P3はおすすめではない。

ちなみに、私がもう一つ使っているのは、ソフトブレーン社の「e工程マネージャー」である。これは、かつて企画段階に私自身が参画した製品なので、私が使っているのは当然だし、ここで何か言っても宣伝にしか聞こえないだろうから、あまり詳しく述べるつもりはない。Ver. 3になってだいぶん良くなったが、改善すべき課題はまだ多いと私自身は感じている。

それにしても、どんなツールが良いのか? という問に対しては、こう答えるしかない。まず、あなた(の会社)は、それにいくら払う用意があるのか。数万円か、数百万円か? それはつまり、プロジェクト・マネジメントの向上にいくら価値を認めるのか、という問いかけである。プロジェクトの失敗で数千万の赤字を出した経験のある企業は少なくない。なのに、プロマネに数万円の工程表作成の道具代を配ればどうにかなるだろう(これだってあわせれば百万にはなるだろうが)、という楽観的なポリシーで運営されているとしたら、“グッド・ラックを”というのが唯一の回答かもしれない。それが「ツール」と言えるのかどうかは自信がないが。
by Tomoichi_Sato | 2008-11-24 10:49 | 時間管理術 | Comments(31)

Web連載記事のお知らせ

技術評論社のWebマガジン「エンジニア・マインド」に、連載「タイム・マネジメントの心得」第7回 『仕事の工程表をつくる』を掲載しました。どうぞご覧ください。
by Tomoichi_Sato | 2008-11-20 23:24 | 時間管理術 | Comments(0)

超入門・在庫管理 在庫ゼロは危険な目標

Kさん。丁寧なご返事、ありがとうございました。しだいに工場の生産部門になじんで、活躍を開始されているご様子、何よりです。また、生産管理とは何かという問題について、ホワイトカラーの役割は命令でなく支援である、という小生の考えに賛同いただき、うれしく思っています。

さて、前回の「超入門・生産管理」にも書きましたとおり、私は在庫量ないしリードタイムが生産システムの重要な性能指標である、と考えています。最小の在庫(ならびに最小の欠品)で、顧客の需要にミートすることは、まさしく生産管理の重要課題です。そして最小の在庫量はすなわち、着手から完成までのリードタイムを短縮する重大な手段です。しかし、この課題認識と、「在庫をゼロにすべきだ」という目標設定は、似て非なるものだというのが私の考えです。

あらたに副工場長として赴任されてこられた方が、『在庫ゼロ』を目標として掲げられたとのことですが、Kさんの感じられた“一抹の不安”、私も文面から同じ様に感じました。この方は技術畑出身で、IT関係の実績はお強いけれども、あまり製造現場のキャリアをお持ちでないとのこと。それだけで判断すべきとは思いませんが、『在庫ゼロ』目標が、ご自身で現場を見て歩かれた判断として出てきたのではなく、どこかよそのセミナーやコンサルタントから聞いて持ち込まれたスローガンだとしたら、たしかに心配です。

その副工場長さんがおっしゃるように、「旧来からの慣習の元に、何かを“必要悪”だと規定してしまうと、それ以上改善する意欲がなくなってしまう」という見解それ自体は、まことにごもっともなことと思います。日本の会社ではあまりにも多くのことが、形骸化したまま慣習として墨守されてしまいます。「だから“在庫は必要悪だ”という思い込みを捨てなさい。」という主張も、その通りかと思います。

ですが、さらに「工場は在庫ゼロを目指すべきだ」とつづく論理には、私はまったく賛成しかねます。その方とちがって、私は意図的に置く適正な最小限の在庫は「必要」であり、「善」である(必要悪という言葉と対比するならば)と考えるからです。私が排撃するのは、意図せざる在庫、いわゆる“できちゃった在庫”のみです。では、その必要善の在庫とは、どのようなものでしょうか?

そもそも在庫(棚卸資産)には、製品在庫・仕掛在庫・原材料在庫の三種類があること、これはご存じだと思います。このうち、個別受注生産品には製品在庫(作りだめ)はあり得ませんから、製品在庫があるのは見込生産品か繰返し受注生産品のいずれかだ、ということになります。(繰返し受注生産に製品在庫があるのはおかしいとお思いですか? しかし、生産に必要とするリードタイムを顧客が与えてくれない場合は、ある程度作りだめをしておかなければ急な注文に応じられません。よければ拙稿『受注生産という名前の見込生産』をご覧ください)。

それで、需要見込を元に作りだめした製品在庫は、工場の判断のみで生じるでしょうか? 多めの需要を見込んで、生産依頼を出してきた営業部門にも責任はあるのではないでしょうか。さらに、製品在庫をゼロにして、本当に営業活動が成り立つかどうかも疑問です。需要は変動するものだ、という基本認識に立てば、その変動に適正な範囲内で対応すべく、製品在庫を持つことは決して責められるべきことではない、と考えます。つまり、在庫の第一の意義とは、予期せぬ需要の変動に対応するためのバッファーなのです。

ただしこの「適正」の範囲については、いろいろ議論はあるでしょう。在庫管理理論の教科書をひもとけばわかるとおり、「需要のばらつき」(分散)をどう見るか、がここでのポイントです。また、「予期せぬ」需要の変動と書いた点にもご注意ください。需要をすべて完璧に予期できる企業なら、たしかに製品在庫は不要になります。

仕掛在庫はどうでしょうか。いうまでもなく、材料部品に対して何らかの作業に着手してから、製品として完成するまでの間のモノは、それが中間品倉庫に鎮座ましましていようが組立場にころがっていようが、すべて仕掛在庫です。加工・製造時間がゼロでないかぎり、仕掛在庫はゼロにはなりません。ときどきこの点を誤解して、うちはコンベヤを捨てて一人屋台生産すれば仕掛ゼロになるはずだ、などという方を見かけますが、生産管理の基礎的な概念をご存じないのでは、と思ってしまいます。

つぎに、原材料在庫に目を転じてみましょう。外部から仕入れる部品類も同じです。これらはどうでしょうか。工場で使う原材料や部品は、発注手配してから納品されるまで、ものにもよりますが日数がかかります。サプライヤーがKさんの会社の系列で、かなりの量を継続して仕入れている場合ならば、今日言って明日持ってこさせる、あるいは数時間単位での納品も可能かもしれません。が、そんな材料部品ばかりではありません。いま、手元のストックが底をついたとします。そこであわてて発注する。入ってくるのは一週間後だと仮定しましょう。その一週間の間に、この部品を使う製造オーダーが一つでも飛び込んできたら、材料欠品になりますね。製品の納期遅れは必定です。

原材料は、最低でもリードタイム期間の日数分は確保しておく必要があります。その日数分を切ったら、発注する。いいかえるなら、原料在庫は、仕入れの発注リードタイム期間中のストック切れを防ぐためにあるのです。

ちなみに、在庫量をはかるときは、個数や金額も大事ですが、いつも「日数分」ではかる習慣を持つことをおすすめします。在庫数量を、毎日の平均使用量(平均需要)で割って得られる値です。これは、在庫回転数や発注点の計算が楽になるだけではなく、“継続的に平均需要をチェックしなおす”習慣にもつながるからです。

そして、在庫にはもう一つ重要な意義があります。それは、在庫によって、注文を受けてから納入するまでのリードタイムを短縮する機能を持つことです。いいかえれば、在庫とは需要の読みにもとづく「時間の缶詰め」なのです。よく、食堂で注文した品が遅いと、「おーい、材料の魚を釣りに行ったのかな」などと冗談で冷やかすことがありますね。注文のたびに、すべて元から作っていたのでは、リードタイムが長くなってかないません。だから需要を見込んで在庫するのです。

まとめましょう。在庫の意義は三つあります。
(1)在庫とは、予期せぬ需要の変動に対応するためのバッファーである
(2)在庫は、手配リードタイム期間中のストック切れを防ぐためにある
(3)在庫とは、需要の読みにもとづくリードタイム短縮を可能にする「時間の缶詰め」である

おわかりですか。在庫は必要なのです。需要に関して完全な予知ができず、かつ、市場の変化速度より生産システムの追随速度が遅い場合は、在庫なしでは済まされません。在庫とは、ある意味では保険です。だれしも保険は払いたくない。しかし、保険なしで自動車を運転することは許されません。あるいは、在庫とは潤滑油です。気まぐれな市場と御社の生産システムをつなぐギアボックスの潤滑油です。Kさん。あなたは潤滑油なしでギアボックスを回せますか? 副工場長さんが指示しているのは、そういうことではありませんか。

むろん、上に述べた3つの意義に対応する在庫は、「意図して置く」在庫です。しばしば工場においては、「意図した結果」なのか「できちゃった結果」なのか、区別せずに議論されます。どうか、適正な意図在庫を配置し、意図せざる在庫はボクメツするよう、努力されることを望んでやみません。
by Tomoichi_Sato | 2008-11-13 18:53 | サプライチェーン | Comments(0)

労働装備率とは何か

生産システムの効率性は生産性付加価値生産性)によって測ることができ、生産管理の一つの目標は生産性を向上させることにある、と私は何度か書いてきた。では、目標達成のために、生産管理の担当者はなにをすべきか。具体的にどのようにしたら、付加価値生産性は上げることができるのだろうか。そこがわからないと、生産システムの議論など単なる抽象論、絵に描いた餅に終わりそうである。付加価値生産性=(付加価値額)/(従業員数)で定義されるが、この分子・分母とも、そう簡単には変えられそうにないように思われるからだ。

むろん、正社員の労働者の首を切って、派遣労働者に入れ替えれば、見かけ上は分母である雇用数は下がる。しかし、分子の付加価値額とは、(製品の売上額)-(外部支払額)で定義されている。この外部支払額には、社内人件費や減価償却費など、社内の<リソース>にかかわる固定費(社内振替費用)は入っていないことに注意して欲しい。もし正社員を派遣労働者に切り替えると、それは社外への支払額を増やすことになるから、すなわち付加価値額が減ってしまう。つまり分母と分子の間にはトレードオフの関係があって、そう簡単に一方だけをかえることはできない相談なのである。

また、今日の多くの製造業では、工場の人員よりも、営業部門の販売員や本社人員がずっと多いため、直接工の首を多少切っても、分母はたいして減少しない(さらに言えば、こういう無意味な数字操作の影響を排除するため、分母を「従業員数」ではなく「従事者の総労働時間数」で分析する方法もとられるようになってきた)。分母が大して変わらないのに、分子だけが小さくなるのだから、派遣労働者への切り替えによる原価低減策は、あきらかに生産性向上には逆行する施策だということができそうだ。

ちなみに、ご存じかどうかは知らないが、わが政府はつい1年半ほど前に、経済財政政策担当大臣が「今後5年間で労働生産性の伸び率を50%アップさせる」と経済財政諮問会議で発表した。たいしたものである。我が国の過去10年の年平均伸び率は1.6%だから、2.4%にしたいということらしい。1980年代は平均3%だったから、その水準まで戻りたい、ということだろう。だが、その大臣の国会答弁によると、付加価値生産性の中に技術進歩率が入っていると思っているらしい。なんだか定義自体が曖昧な、不思議な経済政策ではある。

IE的手法を用いて製造労働者の動作時間のムダとりを行い、総労働時間数を下げる、というのが、ふつうは生産性向上の王道である。しかし、そこで削減された分だけ、すぐさま人減らしできなければ、結局分母はかわらないことに注意して欲しい。動作時間のムダとりは、ボトルネックとなっている工程以外では生産性向上にはあまり寄与しないのだ。

では、どうするべきか。ここで登場するのが『労働装備率』である。労働装備率とは、(有形固定資産額)/(従業員数)で定義される指標だ。製造業の場合、有形固定資産とは、工場の建物や機械設備などが大きな割合を占めている。つまり、この指標は、労働者一人あたり、どれほど機械化が進んでいるかを大まかに示すと考えて良い。

じつは付加価値生産性は、労働装備率と密接な関係がある。同一の業種に属する日本の製造業数社をとり、横軸に労働装備率、縦軸に付加価値生産性をとって、グラフにプロットしてみると、両社の間には有意な正の相関があることが見て取れる。付加価値生産性の高い企業は、面白いことに労働装備率も高いのだ。

これは、ある意味では当然のことかも知れない。同じ製品を作る場合、より機械化され自動化された工場の方が、労働者は少なくてすむ。従来人間がやっていたことを、機械装置がやってくれるのだから、一人あたりの生産性は高くなるはずだ。そういう意味で、この「労働装備率」という言葉はいささかミスリーディングな用語であって、本来ならば、たとえば「機械装備率」とか「資本装備率」と呼ぶ方が分かりやすい。

そして、この労働装備率は、計画的に変えていくことが可能だ。たとえば、それまで人間が手作業で箱詰めしていた包装ラインがあったとする。ここに、自動包装機を導入する。あるいは、包装材料を倉庫から人間が運んで補充する作業を、天井走行車による自動供給にかえる、といった施策は労働装備率をアップさせ、それで手の空いた労働者を、よりマンパワーがタイトな工程に適切に配置転換すれば、付加価値生産性の向上にも寄与するはずである。

こう書くと、二つの疑問が浮かぶかもしれない。まず第一に、よくJITコンサルタントが“コンベヤラインや自動倉庫を捨てろ、人間を活かして使え”という指導はどうなのか、という点。また、機械化するとしたら、どの部分を機械化するのが良いのか、という点。

じつは、この二つの疑問は、同じ問題を両面から見ているのである。'90年代の初め頃、バブル経済に浮かれていた頃の日本の工場は、「人減らし・機械化」をスローガンに、むやみやたらとコンベヤや自動機械を導入した。しかし、頭の中は「見込・大量生産」時代の発想のままに行ったのである。大量高速生産の機械装置は、たいてい融通がきかない。その結果、単一製品をずっと作るには良いが、需要変動には弱い工場ができあがった。生産システムの機能は「需要情報を製品というモノに変換しアウトプットする」ことなのに、ひどく有効性の低いシステムができあがったのである。人間は柔軟だから、人間力を使え、というのはその意味では正しい。

ただし。いくら人間が柔軟といえども、工場の中には人間がやりたくない/やるべきではない作業がある。危険・汚い・きつい、いわゆる3Kの仕事である。判断基準としては、あなた自身が(あるいはあなたの子ども達が)、その作業を一生続けてやっても良いと思えるかどうかがポイントだ。工場の中の作業を分類すると、

A 人間しかできない、かつ人間がやりたい作業
B 人間しかできない、しかしやりたくない作業
C 機械でもできる、しかし人間がやりたい作業 (←これはあまりない)
D 機械でもできる、かつやりたくない作業

がある。機械化するならば、まずDから着手し、それからBにチャレンジする。これが本来の生産技術というもののあり方であろう。そのようにして労働装備率を改善していくことが、最終的に付加価値生産性の向上につながっていくのである。
by Tomoichi_Sato | 2008-11-04 23:22 | サプライチェーン | Comments(0)

お知らせ:Lean-Manufacturing-Japanに英文インタビュー掲載

日本型生産管理思想の海外向け紹介サイト「Lean-Manufacturing-Japan」に、生産システムの計画と管理についての考え方をインタビューQ&A形式で解説した『Production Management and Planning (Part 1 & 2)』を発表しました。英文ですが、ご興味があればぜひご覧ください。
by Tomoichi_Sato | 2008-11-02 23:20 | ビジネス | Comments(0)