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MRPは受注生産形態に適用できるか

日本の製造業の9割は、受注生産形態である。たしかに自動車や家電・情報機器といった花形産業の製品は見込生産品で、メーカーはいずれも世界的に有名な大企業だ。また、われわれが日常生活で触れる食品や衣料なども見込生産品だから、日本では見込生産形態が主流のように思えるかもしれない。

だが、こうした産業を支えている膨大な数の部品・材料製造業は、ほとんど受注生産の形態で運用されている。それらはしょせん中小の系列あるいは下請け企業だと勘違いしている人もいるが、巨大な製鉄所だって受注生産形態で運用されている。企業規模の大小の話ではない。“メーカー”というと、最終消費者の手に届く品物を作るスター企業で、あとは部品製造の中小下請けだ、だから受注生産は特殊な例外だ、という奇妙な錯覚は、生産管理の世界では、まず捨てた方が良い。

さて、生産管理の世界では、もう一つ奇妙な神話ないし誤解がある。それは、MRPは生産管理をコンピュータの仕組み上にのせるための、ベスト・プラクティスである、というものだ。これは、主にERPパッケージを販売するIT企業のSEたちに信奉されている。もうちょっと気の利いたSEだと、この上にAPS(革新的生産スケジューラ)という上級コースもあるが、通常の顧客にはMRPで十分だ、と割り切って考えている。

現在のERPパッケージのほとんどは、MRP(もう少し正確にいうとMRPⅡ)をベースに生産管理機能をつくっている。そして米国生まれのMRPは計画生産の思想、つまり見込生産形態の考え方が濃厚にある。むろん、MRP自体は、きちんと慎重に運用すれば受注生産でも立派に使えるし、それは米国でも実証済みである(米国だって受注生産企業はいくらでもある)。

しかし、受注生産の企業、とくに製番管理で工場を動かしている企業にMRPを導入するにあたっては、必ず注意しなければならない点が二つある。それは、購入部品の在庫ポリシー、ならびに個別設計と先行手配の関係だ。いずれも購買に関係していることに気づいてほしい。

MRPは、各部品に標準リードタイムを設定する。購入部品の場合は、外部に発注してから納入されるまでのリードタイムを設定する。この納入リードタイムがくせもので、我が国の取引慣行では月締めが原則だから、じつは発注タイミングによって納入までの期間は案外変動する。そこでいきおい安全サイドにとって、最大値を設定することになる。だから製造全体の標準期間が長くなる。

するとどうなるか。MRPでは出荷日から逆算してすべての手配スケジュールを決めるから、部品手配のリードタイムを長く取ると、とうぜん、設計に使える期間が短くなる。しかし顧客の個別仕様は昨今、ぶれてなかなか決まらない。購買手配しようにも、設計が決まらなくては手配できない。もう一つ困ったことに、MRPはBOM(部品表)ありき、の発想でできている。設計が完了して、部品表がすべてそろわないと、MRPは購買手配オーダーを発行してくれない。一部の長納期品だけ先行手配、という運用がきかない。

その結果、一部の部品がどうしても当初の予定通りに工場に納入されなくなる。工場は、材料のモノがそろわなくては製造できない。にもかかわらず、MRPは元の予定通りに、製造オーダーを現場に対して発行する。こうして、不可能なミッションを与えられて現場の班長は円形脱毛症になってしまう。

もともと日本の製番管理は、あまり常備品在庫を持たず、毎回、個別手配をかける方式である。一方、MRPは常備品在庫とロットまとめの思想を前提としている。だから、購買品が届かないために製造スケジュールをフォワードでずらす、という仕組みがない。BOMの完成を待たずに、部分的に先行発注する発想もない。

最近私が見聞きした経験では、こうした生産形態の違いに無自覚なまま、生産管理分野にMRPを導入しようとするケースが目立つように思える。ようやく不況を脱しつつある我が国の製造業では、10年以上にわたった投資の空白期間を埋めるために、ERPパッケージの適用分野を生産部門にも広げようとする動きが多い。しかし、繰り返すが、MRPを受注生産に適用するには、かなりの注意と、業務の変更が必要なのだ。それは、“パッケージのベスト・プラクティスに業務を合わせ、BPRを推進する”といったカッコいい主張とは、まったく別の次元の話である。
by Tomoichi_Sato | 2006-08-19 10:56 | サプライチェーン | Comments(0)

製品アーキテクチャー分析--付加価値を高めるためには

日本の製造業の花形は自動車と電子情報機器である。作り手のほとんどは大企業で、一般消費者にアピールする製品を作っているから、知名度も高く宣伝も多い。いきおい、マスコミのクローズアップ報道や、生産管理の解説書は、こうした産業に焦点を当てがちになる。いずれも消費者にBtoCで販売する製品であるから、そのベースは見込み生産である。その結果、多品種だが大量生産の工場を、どう上手にグローバル展開するか、といった面ばかりが喧伝される。

しかし、日本の製造業の9割は、じつは顧客の個別仕様に応じた品目をつくる、受注生産の形態をとっている。自動車メーカー1社に対して、それを支える膨大な系列部品メーカーの存在を考えてみれば、容易に想像がつくはずだ。自動車部品は「すりあわせ型」である。だから部品メーカーはほとんどが受注生産になる。一次部品メーカーに対する二次サプライヤーも同様の立場で、最終顧客の仕様にあう素材を提供しなければならない。

受注生産の特徴は、自分の都合で生産計画を立てることができない点だ。来た注文を、納期に合うように、端からこなしていかなければならない。つまり、イベント・ドリブンな企業形態なのである。設計自体は最初の製品開発と初期流動の時点で済んでいる。だから繰返し受注生産のかたちになる。

さて、繰返し受注生産は儲かる業態だろうか? 製造の効率化は、計画性と、設計の標準化と、購買先の自由度、そして生産の平準化などから生まれる。しかし、この業態ではどれもアウトだ。計画も立てられず、設計は顧客次第、購買先も(個別注文だから)複数から安いものを選ぶのに手間がかかる。唯一、平準化だけは、顧客次第では可能かもしれない(むろん一個流しなどの工程改善の努力は必要だが)。だから、この業種では付加価値を高くとることがかなり困難だ。

するとやはり、最終消費者向けの製品をつくらなければ儲からないのだろうか? じつは、それも早計なのだ。スーパーやドラッグストアなど、安売りチェーンストアに並ぶ商品は、すべて消費財である。誰でも作れて、特色を持たぬ商品は、すぐに価格競争に巻き込まれる。パソコンなどもそうだ。パソコンのような、モジュール化された汎用部品・中間製品を組み合わせて作る「モジュール型」製品には、誰もが参入できる。世界市場相手の価格競争から抜け出すのは容易ではない。

このようなわけで、前回の図表にも説明したとおり、製品アーキテクチャーが「製品=すりあわせ型、部品=すりあわせ型」のタイプと、「製品=モジュール型、部品=モジュール型」のタイプは、付加価値を大きくとることがむずかしいと考えられる(以上は私自身の分析であって、必ずしも藤本教授の学説ではない。念のため)。

そこで、モジュール型製品を作る場合は、部品はきっちり最適設計を徹底し、すりあわせ型部品から作ることで原価低減とリードタイム短縮をはかるべきだ。一方、すりあわせ型製品を作る業界では、オプション仕様の組合せをうまく取り入れて、見かけ上の個別仕様を実現すると共に、部品レベルの共通化を図ってモジュール型を指向すべきだ、ということになる。

どちらも、言うは易く行なうは難し、である。なぜなら、特定の部署だけの努力でどうにかなる話ではないからだ。設計も、販売も、調達も、製造も、みなが協力し合って進むしかない。そして、そうした決断のみが、『経営戦略』の名で呼ばれるにふさわしい決断なのである。
by Tomoichi_Sato | 2006-08-18 11:38 | ビジネス | Comments(0)