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プロジェクト・コスト・コントロールのベーシック

プロジェクトのコスト・マネジメントは、計画段階の仕事と遂行段階の仕事に大きく分けることができる。前者はコストの計画=プランニングの仕事で、具体的にはコスト見積および予算設定である。そして遂行段階の方は「コスト・コントロール」とよばれる。

このサイトを以前からよんでおられる読者の方はご存じかもしれないが、わたしは『管理』という日本語は基本的に使わない。かわりに、『マネジメント』とか『コントロール』といった、英語をカタカナ書きにした言葉を使うことにしている。カタカナ言葉の氾濫は好きではないが、管理という語が多義語で、あまりに曖昧な使われ方をするので、コミュニケーションで誤解を生みやすいためだ。誤解というのは、お互いに違うことをいっているのに、それぞれがちゃんと理解したと勘違いすることである。誤解はたんに話が通じないことより、始末に負えない。通じていないのは、その場で両者が分かるが、誤解は両者が気づかずに進んでしまうからだ。たとえば「原価管理」といった場合、片方はCost Managementというつもりで話し、他方はCost Controlの意味で理解する、といった具合だ。

英語でControlというと、何かの仕組みや対象を、きちんとチェックしたり意図したとおりに正確に動かしたりする、という意味になる。技術系の日本語で言うと『制御』に近い。たとえば工場の検査工程の仕事は、設計通りにモノが製造されているかをテストする仕事で、Quality Controlとよばれる。あるいは、空港で到着客のパスポートをチェックする仕事は、Passport Controlとよばれる。

一方、Manageという英語の動詞にはどこか、暴れ馬を乗りこなす、といったニュアンスがある。御しがたい相手を何とか従わせる、という風にである。なので、マネジメントという仕事の中には、計画や制御以外に、先読みとかリスク・テークとか決断と交渉といった行為が重要な要素となってくる。入国管理係官の仕事をPassport Managementと呼ばないのはこのためで、係官に個別にリスクテークや入国判断などしてもらってはまずいからだ。マネジメントというのは、コントロールの上位概念である。Quality Managementといえば、設計から品質検査までを含む品質の全体像を、なんとか思い通りにしていくことを意味する。

そしてコスト・コントロールとは、コストを意図したベースライン(実行予算)の中におさめていく仕事である。計画通りに収まるよう、モニタリングしながら制御していく。これがコスト・コントロールの目的である。ついでにいうと、英語のCostの方は、「原価」でほぼ誤解が無い。

実行予算の枠内にコストをおさめるためには、二つのことが必要だ。まず、現時点までにいくらのコストを実際に使っているのか。そして、このままでいくと、プロジェクトが完了する時点での最終的なコストはいくらになるのか。これを、コストの費目ごとに把握する。

月ロケットか何かにたとえるならば、現在位置の計測と、着地点の予測である。着地点はロケットの場合、発射時点でかなりの部分が決まる。しかし、航行途上でも大気圏の状況やらエンジンの燃焼具合などで、それなりに予定した航路からの変動がある。そこで、元々ねらった地点に進路をもどすべく、制御するのである。プロジェクトも同じで、コストの着地点は、最初の計画(=コスト見積)の良し悪しで、かなり決まってしまう。しかし、遂行途上でもいろいろな変動要因がある。すなわち、工夫の余地があるということだ。

ここで念のために書いておく。プロジェクトのコスト(原価)とは、つまり、かかる費用のことだ。受注金額(プライス)のことではない。コスト・コントロールのベースラインとなる数値というのは、プロジェクト計画において決めた、実行予算の内訳となる費目別の数値である。

こんな当たり前のことを書くのは、ときにこの両者が混同されているケースを見かけるからだ。たとえば費目の内の、外部発注の比率を議論するとしよう。いろいろな過去のプロジェクトの実績データを掘り出してきて、あのケースでは何%だったとか、比較する。この時の基準は、費用総額に対する比率を議論する必要がある。受注金額に対する比率であってはいけない。なぜなら、受注金額は販売戦略に応じて、意図的に上乗せしたり値引きしたりすることがあるからだ。ある成果物を作るのに、外注コストが6千万円だった。ただ、全部で費用は1億円かかった。だから外注比率=60%となる。かりにこの成果物を1億2千万円で売ることに成功しようと、競合のためやむなく9千万円の赤字で受注しようと、外注比率にかわりはない。

これはつまり、プロジェクト・マネージャーはコスト総額に責任を持ち、セールス側は販売金額に責任を持つ、という責任分担を意味する。そして、

 利益 = 販売金額 − コスト総額

なのだから、利益確保はプロマネと営業の共通目標であることを意味する。かりにやむなく9千万円で赤字受注をしたとしても、計画時点のコスト見積の総額である正味原価(Net Cost)は1億円であり、プロマネは1億円以内での達成に責任を持つべし、ということである。かりに社内組織の都合で、プロマネが営業マンを兼ねている場合でも、正味原価と販売価格は区別して考える。そうしないと、後々でコスト分析をして次の見積をするときに、基準となるデータが混乱してしまう。

プロジェクト・コスト・コントロールの仕事は、たった一つの式で表現することもできる。それは次の式だ。

 AC + ETC = EAC

ここで、ACとはActual Costの略で、すでに使った実績コストを表す。ETCはEstimate to Completeの略で、これから完了までに必要だと予測されるコストである。そしてEACとは、Estimate at Completionの略で、完成時点での予想金額を意味する。これらの略号は、今日の現代PM理論で標準的に通用している用語だ。

コスト・コントロールの仕事とは、上の式にあるように、三つの要素からなる。まずACすなわち実績出費を把握すること。つぎに、これからの出費であるETCを推定すること。そして着地点であるEACを計算し、元の目標であった実行予算の枠内に収まらなければ、対策を考えて講じる(普通はETCを下げる方策をとる)ことの三つだ。

ACの把握のためには、組織の出費がきちんと記録されていること、それがプロジェクト単位に仕分け可能になっている必要がある。つまり『プロジェクト制』が確立していることが望ましい。もちろん、どんな企業でも、経理と納税の義務がある以上、出費の記録はとられているはずだ。ただ、どの出費がどのプロジェクトの原価に対応しているかを、区別できるようになっている必要がある。外注先企業に案件Aも案件Bも案件Cもいっしょくたに発注、検収もどんぶり勘定、では、コスト・コントロールができている状態とは言えない。

かりにプロジェクト単位での出費の把握が可能でも、それが迅速に行われないと、やはりコスト・コントロールの役には立たない。日本企業では「月締め」の慣習が強いので、新春まだ松の内の注文も、1月末の注文も、翌月の2月15日頃にまとめて請求され、それが経理部門のチェックを終えて技術部門にフィードバックされるのは2月25日頃、なんて状況は珍しくない。費用が発生してから、実質的にそれが計上把握されるまで、平均1ヶ月くらいかかる。もしプロジェクト全体工期が6ヶ月程度なら、1/6 = 16.7%程度の遅れである。あなたは1日に4時間ずつ遅れていく時計で仕事を計測したいだろうか?(笑)

社内コスト、とくに人件費の把握も、コスト・コントロール実現のための次なるハードルだろう。当たり前だが、関係する社員全員が、きちんと精確にタイム・シートを記録している必要がある。それも、皆がタイム・シートを記入するのが月1回、庶務の担当者に尻をたたかれて慌てて入力、では上と同じだ。タイム・シートには、プロジェクトを識別する番号と、WBSコードが記入されていなければならない。

WBSコード? そんなのがタイム・シートに必要なの? ——はい、そうです。プロジェクト・コスト集計は、通常、計画時点で作ったWBSがベースになる。プロジェクト全体を作業(Activity)の集合体に分け、それを階層的に構成したものがWBS(Work Breakdown Strucuture)である。WBSそれぞれの作業に必要な費用を見積って、全体の実行予算が設定される。この予算額に対して、実際の出費と今後の出費予定がいくらになるのかを、それぞれの作業に対して予測する。それを集計したものがプロジェクト全体コストの着地点になるのだ。

つまり、プロジェクト・コスト・コントロールにおいて、WBSとはコストのロールアップ(集計)構造を示すのである。(→「WBSはコスト見積の基準を規定する」 2012/10/31 参照のこと)。である以上、何野誰夫君が1月第2週にプロジェクトAに使った32時間は、モジュールXの実装Acitivityの仕事なのか、それともインタフェースYの内部設計のActivityの分なのか、対応関係が分からないといけない訳である。

そうしない限り、「このプロジェクトAの時、内部設計と実装にかかった工数の比率は25:47%だったっけ?」という会話が、あとでできなくなるということだし、「要件定義以前と結合テスト以降を除いて、設計と実装についていうと、モジュールXは結局いくら工数がかかることになるのかなあ」という予測が不能になってしまう。

ところが会社というのは不思議なところで、何野誰夫君の32時間の内、残業割増分がつく残業部分は何時間だとか、彼の給料が毎月何円だとかいったお金の細部にはこだわるくせに、32時間が結局どのような仕事に費やされたのか、それは元々何時間分で見積もっていた仕事なのか、といったことはないがしろにされがちだ。お金にこだわるくせに、仕事の内容にはこだわらない。これでマネジメントだのコントロールだのができるはずはない。はっきり言って、プロジェクトの実務の世界では、個人別の給与や残業割り増しなど、どうでもいい。時間あたりの平均単価による標準原価で十分なのである。それより、100時間で終わるはずの仕事が200時間になるかどうかの方が、はるかに重要なのだ。

著書「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」https://gihyo.jp/dp/ebook/2015/978-4-7741-7625-3 にも書いたとおり、予算と進捗のコントロールというのは、ある意味で、プロジェクトを引っ張っているリーダーに対し、カーナビを提供する仕事にたとえられる。カーナビは、車のドライバーが運転に集中できるよう、位置測定や走路計算などの補佐してくれる。だからわたしの業界などでは、「コスト・エンジニア」という専門職が存在しており、大規模プロジェクトではプロマネの下に専任のコスト・コントロール・マネージャーというポストを置く。

そして、すべてのプロジェクトにおける見積・実行予算と、その実績データは、コスト・エンジニアリング部門に集約される仕組みとなっている。それが、次のプロジェクトの正確な見積のベースとなるのである。コストの話をすると、とくにIT系では見積手法の話題に関心が向かい、ファンクション・ポイント法だCoCoMoモデルだという議論になりがちだ。それも大切だが、1 Function Pointが、自社の組織では何時間の工数になるのかを推計する基盤は、自社の実績データしかない。より良い見積をしたければ、より適切な実績把握の仕組みを、まず考えるべきなのである。


<関連エントリ>
 →「WBSはコスト見積の基準を規定する」 (2012/10/31)
by Tomoichi_Sato | 2016-01-11 13:00 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

お知らせ:浜松でプロマネ育成研修セミナーを開催します(1月9日)

新年の1月9日(土)に、静岡大学大学院事業開発マネジメントコースとNPO法人浜松ソフト産業協会が開催する

 「プロジェクトマネージャー育成研修
  https://dl.dropboxusercontent.com/u/17787880/PMseminarHamamatsu2016-01-09.pdf

の講師を務めます。
 これは1月9日と1月23日の土曜日二日間にわたって開催される研修セミナーです。わたしはその初日を担当し、

 「プロジェクトマネジメントの基礎  — グループ演習を交えて知識と技法を実践的に身に付ける — 」

と題して、WBSの作り方、アクティビティの構成要素、プロジェクト組織と役割、コスト・コントロール、そしてプロジェクト目標の設定などについて講義します。PMとして必須な基本的なスキルを1日できちんと身につけられるよう、グループ演習を交えた実践的なレクチャーを行うつもりです。
 二日目は静岡大学の前田恭伸教授と八巻直一名誉教授による、リスク分析とPERT手法(スケジューリング)の実際に関する研修です。

 場所は静岡県浜松市にある、静岡大学工学部5号館3階第一会議室です。
  (静岡県浜松市中区城北3-5-1)

 定員は20名で、有償ですが、実践的で役に立つ内容となっています。
 単なる資格試験のためのお勉強ではなく、本当に実務に役立つプロジェクト・マネジメントの基本を身につけたいと考えている方、上記URLにある案内パンフレットの申込先にて受け付けしております。定員が限られておりますので、お早めにお申し込みください。積極的なご来聴をお待ちしております。

  佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2015-12-15 07:04 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」(1月29日)開催のお知らせ

プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」2016年の第1回会合を、下記の要領にて開催いたします。

今回は新年の企画にふさわしく、日本のプロジェクト・スケジューリング研究の雄である摂南大学・諏訪晴彦教授に、最近の研究成果についてご講演いただきます。IT業界の方にも、他業界の方にも、いろいろなヒントが満ちていることと思います。

<記>
■日時:2016年1月29日(金)18:30~20:30
■場所:三田キャンパス・北館会議室3(地下1階)(定員:21)
http://www.keio.ac.jp/ja/access/mita.html
キャンパスマップ・【1】

■講演タイトル:「安定性と予見性を指向するプロジェクト・タイムマネジメント
■概要:
講演者の研究室では「プロジェクト遅延は必ず生じるものである」という前提の下、安定性(stability)および予見性(predictablity)を指向するプロジェクト・タイムマネジメントのシステム工学的手法を開発してきた。本講演では、その柱となる工数見積りと,クリティカルチェーン生成の理論モデルと方法論を紹介する。最近,これら方法論のスマート製造への応用(とくにエネルギー負荷計画や能力所要量計画)にも取り組んでおり、その研究成果についても触れる。

■講師: 諏訪晴彦(すわ はるひこ)
博士(工学),摂南大学 教授,テクノセンター長
■講師略歴:
 1997.3 神戸大学大学院 自然科学研究科 博士後期課程 修了。
 1997.4 摂南大学 工学部 経営工学科講師
 2010.4 摂南大学 理工学部 機械工学科 教授,現在に至る
 2012.8〜2013.9, 2014.7 マサチューセッツ工科大学客員研究員。
〔専門分野〕システム工学,生産工学
〔主な研究〕エネルギー高効率製造システムの構築,生産計画/スケジューリングの理論と技法開発,超硬合金の切削加工法
〔受  賞〕スケジューリング学会学術賞(2008),電気学会優秀発表論文賞(2003),
〔学会活動〕アメリカ機械学会,日本機械学会,システム制御情報学会,精密工学会,日本鉄鋼協会,計測自動制御学会などの会員。
 システム制御情報学会 Editor-in-chief (2015〜),スケジューリング学会理事・評議員(2004〜)

■参加費用:無料。 ちなみに本研究部会員がスケジューリング学会に新たに参加される場合、学会の入会金(¥1,000)は免除されます。 参加を希望される方は、確認のため、できましたら当日までに佐藤までご連絡ください。


★★ お知らせ ★★

来年4月初旬に浜松市で合同シンポジウムを開催します!
 来年の2016年4月2日(土)に、OR学会傘下の「サプライチェーン戦略研究部会」(略称SCSR、http://scsr.jp/)と合同で、浜松コングレスセンターにて合同シンポジウムを開催することが決まりました。午後一杯にかけて講演とパネル・ディスカッション、そして夜は懇親会というプログラムを企画中です。
 当研究部会としては2年ぶりに、また製造業のメッカ浜松市で開催できることを楽しみにしております。
 詳細については決まり次第、追ってご連絡いたします。
 

佐藤知一@日揮(株)
by Tomoichi_Sato | 2015-12-09 07:10 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

お知らせ:PMI日本支部でグローバルPMに関する講演をします(12/15)

来る12月15日(火)午後に、PMI日本支部が主催する法人スポンサー連絡会で、

グローバルPMを実現させる組織のプロセスとOS ~日揮の経験から~

と題する講演を行います。
場所は東京・永田町の株式会社三菱総合研究所 4階大会議室です。
(→案内 https://www.pmi-japan.org/event/cat/2015_10_27_houjin_renrakukai_2015_12_15.php

本講演では、10月に出版した新著『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書 〜グローバルなチャレンジを成功させるOSの作り方』の内容とも連動し、

・海外型プロジェクトの難しさとはどこにあるのか、
・なぜ「国際標準のPMプロセス」を適用するだけでは十分ではないのか、そして
・日本企業が海外に出て行った際にとりくむマネジメント・スタイルや組織の行動習慣はどうつくるべきか、

などの論点についてお話しします。

あいにく、PMI日本支部の法人スポンサー企業向けの講演ですが、ご興味のある方のご来聴をお待ちしております。

日揮(株) 佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2015-12-02 07:05 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

講演のお知らせ2件(東京・沖縄)

(1)生産革新フォーラムの月例会で講演します

中小企業診断士協会の研究会である「生産革新フォーラム」(通称MIF研)で、わたしの新著発刊を記念し

世界を動かすプロジェクトマネジメントの仕組み

と題する講演を行います。

日時:11月19日(木)18:30より
場所:中央区日本橋堀留町区民館
(→最初「瀧田ビル」と書きましたが修正します。場所は向かい側です)

診断士でなくとも研究会は参加できますので、ご関心のある大勢の方のご来聴をお待ちしております


(2)経営情報学会で講演発表を行います

11月28・29日に沖縄で開催される経営情報学会2015年秋期大会 で、

プロジェクト入札の最適価格と撤退戦略

と題する講演発表を行います。

日時:2015年11月29日(日)11:30~12:00
場所:沖縄コンベンションセンター
   (沖縄県宜野湾市真志喜 4-3-1)

概要:内容的には、7月にOR学会の「オペレーションズ・リサーチ」誌に執筆した論文をわかりやすく敷衍したもので、プロジェクト入札の競争環境下における最適価格戦略と、市場縮小期の撤退戦略についてお話しします。
本講演は、オーガナイズドセッション:「マーケットデザイン」の一環で、司会は静岡大学の八巻直一名誉教授です。

場所が沖縄ですので、気楽に来られる方は多くはないと思いますが(笑)、この機会にオークション問題やマーケットデザインに関するミクロ経済学も学んでみたいと思われる方には、興味深いセッションになると思います。感心をお持ちの方のご来聴をお待ちしております。

by Tomoichi_Sato | 2015-11-07 02:11 | プロジェクト・マネジメント | Comments(2)

お知らせ:雑誌「リスクマネジメントTODAY」に新国立競技場問題の記事を執筆しました

財団法人リスクマネジメント協会の発行する月刊誌「リスクマネジメントTODAY」 11月号に、

 『プログラムマネジメントで競技場問題の混乱を解く ~ ロンドンにあって東京になかった成功要件』

という記事を執筆しました。

新国立競技場の建設プロジェクトは周知の通り迷走を続けた後に、リセットとなった訳です。
この問題に対し、第三者委員会の検証報告書など公表された情報を元に、わたしがプロジェクト・アナリストとして分析した論文です。ロンドン・オリンピックにおける英国政府の取り組みなどと比較しつつ、この問題の根幹には、じつはプロジェクト・マネジメントの上位概念であるプログラム・マネジメントの不在がある、ということを論証します。

ご注目ください。
by Tomoichi_Sato | 2015-10-31 10:33 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

プロジェクトにおけるスケジュールと費用のトレードオフを考える

9月にスケジューリング学会で「プロジェクトにおけるスケジュールと費用のトレードオフを考える」というタイトルの講演発表を行った。わたしがこの何年間か個人的に続けている『リスク基準プロジェクト価値』(Risk-based project value = RPV)分析の手法を用いて、スケジュール・リスクのコスト化という問題に初めてくさびを打ち込んだ研究の発表である。サイトに書くにはやや理屈っぽい話であるが、小さな学会でもあったので、ここにその要旨を(数式は極力飛ばして)再録する。
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日揮株式会社の佐藤です。本日は「プロジェクトにおけるスケジュールと費用のトレードオフを考える」というタイトルで発表させていただきます。

皆さん、ちょっとこういう問題を考えてみてください。皆さんはあるプロジェクトのプロマネです。このプロジェクトは全体納期に対して、1日10万円の遅延ペナルティがかかっています。さて、このプロジェクトの中に外注製作のactivityがあり、A社に発注すると製作納期は45日です。他方、これに並行して内製の作業があり、そちらがクリティカル・パスとなっているため、この外注製作activityにはフロート(日程上の余裕)が18日あります。さて、ここにB社が現れ、納期は60日かかるけれども 金額はX円お安くできます、との提案をしてきました。この場合、フロートは3日間に減ります。皆さんなら、どちらを選びますか?

どちらを選んでも、プロジェクトの全体期間に影響はありません。である以上、差額がたとえ1円でも、B社を選ぶのが合理的だ、というのが従来のクリティカル・パス法(Critical Path Method = CPM)の考え方でした。しかし、わたしならそうしません。差額が20万や30万円なら、A社のままにするでしょう。たぶん多くの実務家もそうすると思います。でも、なぜそう判断するのか?

考えられる説明は二つです。佐藤の頭がおかしくて、合理的な結論が理解できない(笑)のか 、さもなくば従来のPERT/CPMの論理に、何か欠けている部分があるのです。

コストとスケジュールは、プロジェクトのパフォーマンスを測る主要な二大指標です。プロマネはコスト節約、スケジュール短縮のため様々な努力をはらいます。しかし両者の間にトレードオフが生じた場合、いずれを優先すべきかは難問でした。コストとスケジュールは独立な指標で、互いを関係づける定量的で適切な方法がなかったためです。かりに納期ペナルティが設定されている場合でも、個別activityのレベルでの意思決定は簡単ではありません。CPMでいうフロートの存在のためです。先ほどのケースの場合、差額がいくらならB社の選択が合理的になるのか。これは、Activity期間短縮に見合うコストは一般にどう決めるか、ないし「スケジュール・フロートは1日いくらの価値があるのか」という問題であります。

本研究では、この問題に理論的な解決を与えます。


1 リスク基準プロジェクト価値(RPV)の導入

先ほどの問題で、実務家がB社を選びたくなるのは、A社だとフロートがわずか3日しかなく、全体スケジュールが延びるリスクが高まるからです。つまりこの問題の分析には、リスク概念の導入が必要になるのです。

わたしは以前より、『リスク基準プロジェクト価値』(Risk-based project value=RPV)という評価尺度を提案しております。RPVはプロジェクトの任意の時点において、すでに達成したキャッシュフローと、将来のキャッシュフローの期待値との合計で表されます。ただし将来キャッシュフローの期待値は、それが実現されないリスク確率で割り引いて求めます。プロジェクト開始時点のRPVは計画段階のプロジェクト価値を表し、プロジェクトの進行とともに通常はRPVは増大していくことが証明できます。(注:詳細は佐藤知一著「リスク確率に基づくプロジェクト・マネジメントの研究」静岡学術出版(2013)を参照のこと)

今、単一のactivityからなるプロジェクトを考えます。Activityの開始時に費用Cを投下し、完了時に収入Sを得るとします。また、このactivityは最短でTmin(日)で完了できると考えられます。だが現実にはばらつきがあり、その期間Tは確率分布p(T)にしたがい、期待値はTavg(日) だとします。このとき、プロジェクトの納期がTminより1日遅れるごとにL円のペナルティがかかると、計画時点でのリスク基準プロジェクト価値は次式の通りになります。

RPV = S - C - L(Tavg - Tmin)  ・・・・・・式(1)

したがって、ある施策がp(T)を変化させてTavgを△Tだけ短縮するが、コストがX円かかるとすると、その施策が合理的となるのは

L△T > X ・・・・・・式(2)

となる場合です。

たとえば最短期間Tminが30日で、平均期間Tavg=45日なら、もし1日のペナルティが10万円の場合、10 (45 - 30) = 150万円の納期ペナルティを覚悟している訳です。ここで、30万円の追加コストをかけて平均期間Tavgを40日に短縮できる施策があったら、10 (45 - 40) > 30 ですから、その施策は見合うのです。ここまでは自明でしょう。


2 期間短縮とInverse Floatの概念

次に、このactivityにもう1本の並行activity #2が存在し、確定した期間T2を持つ場合を考えます。Tavg > T2の場合、activity #2は、Tavg– T2(日)のフロート を持ちます。たとえばT2 = 36日だったとしましょう。すると45 - 36 = 9日のフロートがある訳です。ただし元のactivity #1がかりに最短期間Tmin(30日)で完了できたとしても、プロジェクト全体期間はactivity #2がつっかい棒のように邪魔をするため、T2(36日)よりは短くなりません。一般に並行するactivityが存在する場合、クリティカル・パス上のactivityの期間短縮がプロジェクト全体期間に与える影響には、限界があるのです。
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図 1: 2個のActivityからなるプロジェクト

さて、米国のPMコンサルタントであるSteven Devaux氏は、スケジューリング問題の分析のためにCritical Path Drag (CP Drag)という尺度を提案しました(「納期が延びる要因を指標化する - スケジュールのDRAGとはどんな尺度か」、または Devaux: "Total Project Control" Revised Edition. CRC Press, 2015参照)。これは、「あるactivityの期間がゼロになった時の、プロジェクト全体の工期短縮値」で定義される量です。CP Dragはcritical activityでは正の値だが、non-critical activityは0になります。

これを応用して、activityのスケジュール短縮効果に関する新しい尺度を提案したいと思います。これは、「あるactivityの期間が最短値Tminになった時の、プロジェクト全体期間の変化」で定義される日数です。ある意味でフロートの反対概念ですから、Inverse Floatと呼び、以下、記号IFで表現します。ちなみにフロートとは「プロジェクト全体期間に影響しない範囲でとれるactivity期間の最大値」です。

IFは0か負の値をとります。Non-critical activityのIFは0です(短縮しても全体期間に影響しないため)。Critical activityの場合、Tminで実行できたならプロジェクト全体期間は通常、Tavg – Tmin だけ短くなります。ですが、もし並行activityが存在し、そのフロート値がTavg – Tminよりも小さい場合は、そちらが新たにcritical pathとなるため、全体期間はそれ以上短縮されません。

Inverse floatは、それ単体でもスケジューリングの実務において有用です。たとえば、プロジェクト全体の納期を早めるために、critical pathを構成する各activityの期間短縮を考えるときは、まず各activityのIFを求めた上で、その値の大きなものから検討すべきです。

たとえば、あるcritical activityはTavg = 10週、かつTmin = 5週で、並行activityは2週のフロートを持っていたとします。このactivityに万全のリスク対策を施して5週まで短縮しても、critical pathは並行activityの側に移ってしまい、3週分の短縮努力は実りません。このactivityのIFは-2週ですから、2週以上の短縮効果は得られないことは明白です。IFを計算すれば、ムダな短縮の努力を避けることができます。

Activity iの短縮が全体期間に与える限界値がIF(i)ですから、Maximum potential gain: Gmax(i)を次式で定義できます。

 Gmax(i) = – L・IF(i) ・・・・・・式(3)

ある施策がX円かかり、それがactivity iの期間を△T(>-IF)だけ短縮しても、もし

Gmax(i) < X ・・・・・・式(4)

が成り立つ場合、その選択は合理的ではないと判断できます。Gmax(i)はこの問題に一種の十分条件を与えるのです。


3 Potential Assistの概念

図2の事例に戻ります。このケースではactivity #1のIF = T2 –Tavgです。このときRPVを計算すると(数式は略す)、単一activityのRPVより減少することが分かります。すなわち、フロートを持つ並行activityを追加すると、全体期間に直接の影響はなくても、期間短縮の可能性を最大–IFだけ阻害し、プロジェクトの収益期待値RPVを下げる場合があるのです。

逆にactivity #2に追加費用をかけることで期間をT2 < Tminまで短縮できれば、RPVを元の値まで増大できる。これをPotential assist (PA)と呼ぶことにします。

今、T2 = Tmin + yとし、Potential assistをyの関数としてPG(y)の形で表すと、これはクリティカル・パスに並行するactivityがフロートをx日消費する潜在的コストを表します。したがって、追加コストX円により、そのactivityの期間をy日短縮する(フロートをy日増大する)施策があるとしたら、

 X < PA(y) ・・・・・・式(5)

が成り立てば、その選択は合理的となると判断できます。

(講演発表ではこの後、具体的なactivity期間の分布形について、PERTで用いられるベータ分布の場合について検討した。β分布はa, bの二つのパラメータで規定されるが、PERTでは a + b = 6 という仮定があるため、実質的にはaの値のみで分布系が決まる。S=3, C=1, L=2としてRPVを計算し、並行activityの期間短縮によるRPV増分値を示したのが図2である。たとえばa=2の分布系で、並行activityが0.33だけ短縮すれば(これは最初にあげた60日→45日にほぼ相当する)、プロジェクトの収益期待値RPVは0.15ほど増大する。これが期間短縮のためのコスト増を合理化できる必要条件を与える訳だ。)
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===============
以上が講演の要旨である。はっきり言って、現時点ではまだこの奥の深い問題のとば口に立ったばかりで、解決すべき事柄は多い。しかし一つの手がかりは得られたように思う。それはコストとスケジュールが、意外にもリスクという因子を通じて互いに関係し合っているという視点である。できればこの問題に関心を持つ同士が現れて、ぜひ互いに発展させていきたいと願っている。

というのも、(この学会の後で、ある大学教授が言われたことだが)日本にプロジェクト・マネジメントの本格的な研究者は非常に少ないからである。そのことは、日本発で国際的に通用するPM研究論文数の少なさを見ればよく分かる。たしかにPMPの資格取得者は多く、関連学会や団体も一応それなりに賑わっている。しかし、よその誰かが作ったPM標準を勉強することと、自分なりにものを考えて筋道を作っていくのとは別のことである。すでに大勢が踏みならした道を歩いて行くのと、沃野に道を切り開く違いといってもいい。

日本にはプロジェクト・マネジメント学科を標榜した大学が、学部レベルでは未だに私学の千葉工業大学1校しかない。しかし隣の中国には修士課程(MPM)が最高学部の北京大学、清華大学以下150大学くらいある。欧米でのPM博士課程にも他のアジア人学生はよく見かけるし、研究論文も多い。はたして物づくりニッポンは本当にこのような状態のまま、
 「マネジメントは人だよ、人。」
 「リーダーをどう育てるかだ」
 「プロジェクトの現場は理屈では割り切れない」
などと言い続けていて、大丈夫なのだろうか? たしかにプロジェクトは人が動かすものだ。人が理屈だけで動かないことも確かだ。だが、マネジメントを客観的に計量化し、予測可能性を高める仕組みも一方では必要なのだ。それは、プロジェクト・マネジメントという普遍的な仕事を、リーダーの資質というただ一点に委ねず、誰でも一定レベルで遂行できるようにするためである。

つまり、マネジメントの『技術』のためには、マネジメントの『科学』がなければいけないということだ。わたしはこの科学が理系に属するのか文系に属するのかは知らない(「文系・理系」などという日本にしか存在しない分類には正直、興味がない)。わたしが知っているのは、この種の科学は未来に属しているということだけである。
by Tomoichi_Sato | 2015-10-26 07:19 | プロジェクト・マネジメント | Comments(3)

プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントと、顧客を選ぶということ

プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントという言葉をはじめて知ったのは2003年頃のことで、ITRという調査会社のレポートからだった。当時わたしは米国のPM関連製品について調べていたのだが、米国ではじつに100種類以上のPMソフトウェア・パッケージが発売されていた。その中でメジャーな商品は、ローエンドがMirosoft Project、ハイエンドがPrimavera Project Plannerというプロ向きの製品だった。Primaveraは大規模プロジェクトの計画とスケジュール・コントロールに特化した製品で、日本ではごく一部の業界でしか使われていないため知名度が低いが、欧米ではエネルギー産業や航空宇宙産業に広く使われてきた。MS ProjectもPrimaveraも現在ではサーバ型製品が主流だが、10年以上前はPC上でのスタンドアローン・ユースが普通だった。ちなみに当時すでにASP型(今でいうクラウド型)商品もでていたが、メジャーな製品はなかった。

ほかに、ERPのプロジェクト管理モジュールというものも存在した。SAP R/3のPSだとか、Oracle EBSのPAなどだ。これらは金額的には超弩級だが、プロジェクト・マネジメントの日々の実務を助けるツールというより、プロジェクト会計や原価管理のための道具であった。

しかし調査会社のレポートによると、これ以外に第3のカテゴリーが勃興しつつあるという。それがプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(略称PPfM)であった。これはプロジェクトを投資ととらえ、企業が持つ複数のプロジェクトの組み合わせを、ちょうど金融資産のポートフォリオと同じように最適化し管理するための道具立て、との位置づけだった。

プロジェクトの上位計画をプログラムと呼ぶことは、当時も知っていた。アポロ計画は英語ではApollo Programという。そして個別の飛行ミッション、たとえばアポロ11号をプロジェクトと呼ぶのだ。プロジェクトの下には「フェーズ」がある。Program > Project > Phaseの序列は、頭文字をとってPPPと呼ばれていた。しかし、実は第4のP、すなわちポートフォリオ(Portfolio)があって、それはプログラムよりも上位の概念なのだった。

そして米国の市場は、明らかにこのプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントに向かっている、とレポートは結論していた。この予測は、米国に関していうと、きわめて適切であった。MS ProjectもPrimaveraも、その後の新バージョンではポートフォリオ・マネジメントを意識した形で、プロダクトを再デザインしていった。サーバ型製品が主流になったのも、ある意味でその影響である。PPfMにねらいを特化した製品も出るようになった。

そして日本市場は米国のトレンドを数年遅れて追っている。したがって、今後の期待株はPPfM関連の製品にある、とレポートは言いたげであった。

しかし、わたしは、それが日本でも広がるという予測には疑問を持った。そもそも、わたし達の社会では、プロジェクト・マネジメントは受注者がやる仕事だと考える風潮が強い。まるで投資者(発注者)は、発注書さえ切ってしまえば、あとは口々に好きな放題な要望を言えばよく、それをとりまとめるて調整するのは受注者の仕事だと思っているかのようだ。発注者こそ、きちんとプロジェクトを舵取りしなければならない、という社会的常識はきわめて薄い。

そして受注者にとって、プロジェクトは投資ではない。競争環境下にいる受注ビジネス企業は、どのプロジェクトをやるかは自分で決められないのだ。だからポートフォリオ・マネジメントなどやりようがない。日本では普及しないし、ソフトも売れないだろう。これが、わたしの予測だった。

10年以上が経った現在でも、わたし達の社会でポートフォリオ・マネジメント・ブームが来そうな兆しはない。企業にプロジェクト・ポートフォリオ・マネージャーという役職が設置されたという話も、いっこうに聞かない。

・・だが、つい最近、わたしは重大な見落としをしていた事に気がついた。それは、6月に開催した「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」でのことだった。

6月の研究部会では、元NECの田島彰二氏を講師に迎えた。田島さんは世界におけるプロジェクト標準化活動では、日本を代表する論客として長年、活躍してこられた方だ。国内より海外でずっと知名度が高い。PMIの各種スタンダードの巻末にある貢献者リストで、最も頻繁に名前を見かける日本人だろう。最近では、国際標準化機構ISOの、プログラムとポートフォリオ・マネジメントの標準策定に尽力しておられる。

その田島さんが、欧州で参加されたポートフォリオに関するワークショップで出題されたグループワークの問題を紹介された。著作権の関係もあるので正確な引用はできないが、おおよそこんな問題だった:

あなたは脱サラをして、風光明媚なエリアに地産地消のピザ屋を開くことにした。店を構え、レシピを工夫し、地元の仕入れもなんとか道筋をつけて、順調に運営しはじめたところだ。ところである日のこと、あなたのところに電話がある。これから観光バス1台に乗り込んだ団体ツアー客50名が、店の評判をきいて昼食に行きたいというのだ。今は11時過ぎだが、12時には来るという。それだけの数の客が来たら、小さなあなたの店は完全に満杯になる。それに、あなたの店はいつも11時半に開店して、いつもそれなりの常客が来てくれているのだ。さて、あなたはどうするべきか?

田島さんは研究部会の参加者を二人一組にわけて、それぞれに8分間で意見をまとめるよう依頼した。各チームの話し合いを見ていると、出題にどう取り組むか、参加者の頭がフル回転している様子がありありと感じられた。まず、50人分ものピザの材料はあるのか? 仕入れは今から追加手配して間に合うのか? 椅子やテーブルの数は足りているか? 店の外にもテーブルを並べるべきか。フロアのサービス係の人数は。かまどは一度にそれだけの数量を焼けるのか。そして、いつもの常客にはどう応対するのか。本日貸し切りにする? だが何とかやっと安定運営にこぎつけた店で、常客を断ったらまずくはないか。いや、そもそもこんな飲食店の話、どこがプロジェクト・マネジメントなんだ!?

だが、これは非常に面白い出題だと、わたしは思った。この話は、突発的な需要増が見込まれるケースで、どう戦略的な意思決定を下すかを問うている。その際にポイントとなるのは、経営資源が限られている、ということだ。店の従業員数も、スペースも、かまども椅子もテーブルも、そしてピザ製造の材料も、すべて『経営資源』の一種である、という風に抽象化して問題を捉えることができるかに、かかっている。

経営資源が限られている際に、どこに重点的に投入していくかという問題こそ、ポートフォリオ・マネジメントの要点である。そして、需要に対して経営資源が限られている場合、考えられる主な対応は、二つしかない。
(1)ボトルネックの資源を手配する(資源制約を緩める)
(2)顧客を選別する、
の二つである。だからこの地産地消ピザ屋の問題は、この(1)(2)の視点に気がつけるかどうか、回答者の戦略思考能力(抽象化能力といってもいい)を試しているわけだ。

ところで、わたしの見た限り、参加者のほとんどは(1)の対応策にのみ集中して議論していた。材料をどうするか、テーブルや椅子やスペースをどう広げるか、という議論で、つまりボトルネックはそうした点にあるだろう、という仮定に立っている。

しかし、(2)を明確に意識して、「観光客か常客のいずれかを選んで、他はお断りしよう」との意見は、あまり出てこないようだった。仕事(需要)が来たら、それをどうこなすかを必死に考える。しかし、顧客を選ぼう、という発想は意識に上らない。なんて技術屋的だろうと、わたしは感じた。

常客に加えて50人もの観光客が来たら、店は明らかにパンクする。無理に受け入れたら、確実にピザの味やサービスのクォリティは下がるだろう。それでも受け入れようと決めるのは、たしかにひとつ戦略的決断である。だが店の将来を考えたら、下手に今、評判の落ちるような仕事はできないのだから、顧客を選ぼう、というのもやはり戦略である。どちらがベターかは議論の余地もあろうし、たぶん正解はない。ただ、この両面の視点を持つことは、経営者として必須だ。

顧客は選べないし、選んではいけない、という思い込みは、わたし達の間に強固に存在している。顧客の中には上客も、こまった客も存在する。しかし注文しに来てくれた客である以上は、応対しなければいけない。応対すべきである。もし今かりに手一杯でも、一度断った客はたぶん二度と来ない。だから何とか応対を考えるべきだ、と。値切ってくる客とも、仕事を失わないよう、どこかで折り合いをつけるべきだ、と。

しかし、世の中にはまったく別の視点も存在するのだ。それは、経営とは顧客(のセグメント)を選ぶことである、という視点である。「経営者の仕事とは、店の前に客の行列をつくることだ」という意見も読んだことがある。客がつねに行列をなしていれば、自分のペースで、クオリティを落とさずに仕事ができるし、値切りにも応ぜず、いやな客はお断りできる。そのためには、どのような形で他社との競合から避けるか、どのような見えない参入障壁を築くか、どのような独自技術や商品を作り、どうマーケティングしプライシングていくかこそ、戦略である−−そんな見方だって、存在するのだ。

ポートフォリオとは元々、書類を束ねる紙挟みを意味する言葉だ。そこから派生して、債権や株などいろいろな金融資産の束、組み合わせを意味するようになった。さらにそこから広がって、経営資源を投入する行為自体も、一種の投資と考え、それをうまく組み合わせようとするのが、現代のポートフォリオ・マネジメントである。

経営資源はつねに、有限である。そこで、どこにどう投入するかを、選ばなくてはいけない。何かを選んだら、他は捨てることになる。捨てたり、やめたり、断ったりすることが、ポートフォリオ・マネジメントから必然的に導かれる行為である。その対象の中には、市場のセグメントや、需要や、見込案件が含まれる。

あいにく長らく不況の続いた現在、案件選別という考え方は、受注ビジネスの分野ではきわめて薄弱だ。とにかく有望そうな案件にはトライしてみる。三つでも四つでも追いかけてみる。どれがとれるかは、わからない。二つ以上とれたら、どうするかって? そんなこと、とれる前に心配しても仕方がない。取れてから考えればいい・・「とれるだけ仕事をとってはいけない」とわたしが信じるようになったのは、つい近年のことである。

わたし達はやはりもう少し、ポートフォリオの視点を持つべきではないかと思う。日本プロジェクト・マネジメント協会が、日本独自の標準である「P2M=プログラム&プロジェクト・マネジメント」の改訂3版を昨年度出したが(わたしも標準ガイドブックの貢献者の一員である)、田島氏は、「経営戦略とプログラムの間に、ポートフォリオ・マネジメントを入れるべきだった」と批判している。たしかに、上記のような状況を考えると、正当な批判というべきだろう。顧客(セグメント)を選ぶこと、そのために圧倒的な競合力のある市場を作ること、それをめざして経営資源を投入すること、そして仮想的な顧客の行列を生み出すこと。そうしたポートフォリオの視点こそ、今のわたし達が必要とするものかもしれない。

<関連エントリ>
 →「とれるだけ仕事をとってはいけない」(2015-03-03)
by Tomoichi_Sato | 2015-09-21 14:18 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

海外プロジェクト・マネジメントにおけるシステムズ・アプローチとは 〜化学工学会展望講演(9/09)から

・・・ただいまご紹介いただきました日揮の佐藤です。本日このセッションには、アカデミアの先生方、また実務界の諸先輩が大勢お見えになっていると思います。そこで、まず皆さんに考えていただきたい問題があります。

時は紀元前215年のこと。秦の始皇帝は、北方の異民族・匈奴の侵入を防ぐため、部下の将軍・蒙恬に城壁の建設を命じました。 今日「万里の長城」として知られるものの原型で、歴史に残るビッグ・プロジェクトでした。
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しかし、長城はなかなか完成しません。そればかりか、苦役にかり出された民の怨嗟の声も届きます。そこで始皇帝は、自分の長男・扶蘇を現地に派遣し、建設事業の状態を調べることにしました。では、扶蘇が現地でまず調べるべき事は何でしょうか? ご自分が始皇帝なら、何を調べろと扶蘇に命じますか?

(本サイトの読者諸賢も、この先を読む前に、ちょっと考えてみてください。)

次に、第二問です。
今度は、皆さんは化学企業の経営者になったと想像してください。そして自社の業容拡大のため、南米の新興国に新しく化学プラントを建設することにしました。

皆さんは部下をプロマネに任命し、現地に派遣しました。しかし、プラントはなかなか完成しません。現地のパートナー企業の不満の声も届きます。そこでTV会議で現地のプロマネを呼び出し、話すことにしました。では、皆さんがまず質問すべき事は何でしょうか?

いずれも、遠隔地で遂行する「問題プロジェクト」の実態を調べるケースです。

最初のケースについて、詳しい史料が残っているかどうか、寡聞にして知りません。しかし想像するに、2000年前の扶蘇がが訊ね、調べたのは、こんな事だったのではないでしょうか?

− いったい今までいくらの費用を使ったのか?
− 長城の建設はいつ終わるのか?
− そもそもこの蒙恬将軍という男は、どういう人物か? はたして信用できるのか。

では、二番目のケースについてはどうでしょうか。まさか、現代人の皆さんが、2000年前の扶蘇と同じことをたずねて良い訳はないですよね? 現代ならば、プロマネにたずねるべきは、こんな質問のはずです:

− プロジェクトの『スコープ』はどうなっているのか。WBSを見せろ。
− このプロジェクトの『クリティカル・パス』は何か? アクティビティ・ネットワークの上で示せ。 主要なリスクは何か?
− 現在までのPV, AC, そしてEVはいくらか。完成時のCost EACを予測せよ!

現代のプロジェクト・マネジメント理論(以後『モダンPM』と略称することにします)が生まれたのは、20世紀中盤のことでした。モダンPMは、1950 年代にデュポン社が化学プラント建設プロジェクトの工期予測のために開発した、スケジューリング手法である”Critical Path Method” (CPM)に始まります。

このCPMは、プロジェクトを複数の要素作業(アクティビティ)から構成される『システム』としてモデリングした、システムズ・アプローチの産物です。プロジェクトを構成するアクティビティのネットワークを考えたとき、プロジェクトの全体工期はネットワークの始点から終点までを結ぶ最長の経路=クリティカル・パス(Critical Path)によって決まる、というのが、CPMの理論的骨子です。
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クリティカル・パスに属するアクティビティの比率は、実規模のプロジェクトでは全体の2~3割程度と言われています。他のアクティビティは、日程上のフロート(余裕日数)を持っているのです。そしてクリティカル・パス上の仕事が遅れた場合、他の仕事をどんなに頑張っても、プロジェクト全体の納期が遅れます。だから、納期遅延のおそれのあるプロジェクトでは、状況把握のために、まずクリティカル・パスがどこにあるかを問うのです。

またCPMは、スケジューリングとコスト管理に際だった違いがあることを示しています。コストの世界では、どこかのアクティビティで1円得すれば、プロジェクト全体で1円、得します。単純な足し算の論理です。しかし、時間の世界はそうなりません。フロート(余裕日数)を持つアクティビティを、いくら頑張って短縮しても、プロジェクト全体の納期にはちっとも貢献しないのです。プロマネはどこがクリティカル・パスになっているか、つねに意識し、そこに集中すべきです。だから、現代でプロマネに問うべき3つの質問に、この項目が入っているのです。

さて、モダンPMの発展史で次に議論になったのは、「プロジェクトはどのようにアクティビティに分解すべきか」という問題でした。ここで確立したのが、WBS(Work Breakdown Structure)という概念です。プロジェクト全体のスコープ(作業範囲)をアクティビティで階層的に構成し、管理番号を付番したものをWBSと呼びます。各アクティビティは、達成すべきアウトプット(成果物)と、必要なインプットが決められており、担当する人とリソースを割り当てる 必要があります。また、それをさらに下位のサブ・アクティビティに階層的に分解することができます。

WBSはスコープ、すなわちプロジェクトの責任範囲を可視化したものです。またWBSはプロジェクト組織の分担の表現でもあり、またコストをロールアップし集計する際の基準にもなります。ですから、WBSをよく見れば、どのようにプロジェクトを進めようとしているのかがすべて見て取れます。だから問題プロジェクトの状況把握では、最初にWBSについて質問するのです。

このようにWBSはモダンPMにとって非常に重要なのですが、多少の論争がありました。ある人々は、プロジェクトを、仕事のプロセスに沿った機能別・仕事の種類別に分解すべきだと考えました。これをFunctional-WBS(略称F-WBS)といいます。たとえば化学プラント建設を例にとると、基本計画・設計・調達・建設・試運転・・といった分解になります。
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他方、いや、プロジェクトは必ず何らかの成果物を生み出す活動なのだから、成果物自体の構成に準じた分解をするべきだと主張した人々もいます。これを、Product-WBS(略称P-WBS)と呼びます。たとえば化学プラントならば、製造設備・ユーティリティ設備・物流エリア・事務棟、といった分解です。

両者に論争があったということは、実はどちらか片方では十分ではないことを示しています。そこで、両者を縦横にとった二次元マトリクスでアクティビティを数え上げるのが、もっとも理想的な方法だという考えに至ります。単位要素となるアクティビティは、「製造設備-設計(1-E)」「物流エリア-調達(3-P)」といった具合です。
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ただしこの方法では、アクティビティが必要以上に小さく分解されすぎてしまうことがあります。アクティビティが小さすぎると、情報収集やレポーティングなど、コントロールにかかる手間が増大し、本末転倒の「管理のための管理」になる 危険性があります。そこで、いくつかをまとめて、アクティビティの最小単位「ワークパッケージ」とする 技法が用いられています。

WBSにつづいて70年頃から発展したのが、EVMS(アーンドバリュー・マネジメント・システム)と呼ばれる手法です。扶蘇が蒙恬将軍にたずねたであろう問いを思い出してください。「この仕事にこれまでいくら費用を使ったのか?」--それでは、もしも現在までの出費(Actual Cost = AC)が、当初計画していた現時点までの予算(Planned Value = PV)よりも小さかったら、プロジェクトはうまく出費をコントロールしていると言えるでしょうか? たとえば、現時点までの出費予定が1億ドルだったのに、現実の出費実績が9千万ドルだったら、うまくいっていると判断していいでしょうか?

そうは言えないのです。なぜなら、単に仕事が遅れているために 出費実績が計画より小さいのかもしれないからです。むろん、本当にうまくコストを押さえ込んでいるのかもしれない。どちらの理由で1千万ドルの差が生じているのかは、この二つの数字だけいくら眺めたって分かりません。

そこで、Earned Value = EVとよぶ第3の金額を計算してみるのです。EVとは、「現時点までに完了した作業(アクティビティ)の予算金額合計」のことで、日本語では『出来高』と呼ばれます。かりに、前述のプロジェクトでEVを計算してみたら7500万ドルだったとしましょう。これから何が分かるでしょうか? まず、EVとPVを比べます。すると、EVの方が小さいですね。つまり、元々の予定では現時点までに1億円分のアクティビティが終わっているはずだったのに、現実には7500万ドル分しか完了していない訳です。これは、プロジェクトの進捗が予定よりも遅れている(予定の75%の進捗しかない)事実を示します。

さらに、EVとACを比べると何が分かるでしょうか。EVが7500万ドルなのに、ACが9000万ドルということは、すでに終わったアクティビティについては、当初の予算では7500万ですむはずだったの出費が、実際には9000万かかった、つまり見込よりも余計にコストがかかっていることを意味します。まとめると、このプロジェクトは、進捗は予定よりも遅れており、なおかつコストは予算より超過しているという、非常に危険な状態にあることが、わかるのです。これはEVという指標を導入することで明らかになったことで、予算PVと実績ACの二つだけをいくら比べたって、分かりません。これが、プロジェクトの予算管理と、通常の定常業務の予算管理との大きな違いなのです。

では、プロジェクトの完成時にはいったいいくらの金額になる見込なのか。これを完成予測額(Cost Estimate at Completion = Cost EAC)と呼びます。それは、すでに使ってしまったお金ACと、残っているアクティビティを完了するのにこれからまだ必要となる金額ETC(Estmate to Complete)の合計ということになります。Cost EAC = AC + ETCです。ACは9000万ドルですね。あと、仕上げなければいけない作業が、元々の予算計画ではまだ2億ドル分あったとしましょう。すると、Cost EACは2億9000万ドルでいいでしょうか?

むろん、それでは楽観的すぎます。まず、これまで7500万ですむと思っていた仕事が現実には9000万かかっていたことを思い出してください。これは、平均するとちょうど2割だけ、実際の出費が高いことを示します。このトレンドは、おそらく将来も続くでしょう。EVMSの膨大な経験が教えるところによると、プロジェクトが全体の2割を過ぎたあたりから、AC/EVの比率は安定してきます。である以上、残る仕事も、2億ドルではなく、2.4億ドルはかかりそうです。おまけに、進捗が遅れていることもお忘れなく。納期に間に合わせるためには、人を増員するなどキャッチアップのために余計な費用が必要でしょう。となると、たぶんCost EACは3億3000万をもっと上回ることが予想されます。

このように、EVを用いてコストと進捗をコントロールしていく手法を、Earned Value Management System = EVMSと呼びます。

モダンPMで用いられている三大技法であるCPM、WBS、そしてEVMSの原理を、簡単にご説明しました。この3つはちょうど、プロジェクトを取り囲む三大制約である『スケジュール』『スコープ』そして『コスト』に対応しています。この三大制約は別名、「鉄の三角形」とも呼ばれ、プロマネは日夜その中で苦労しながら進んでいるのです。だからこそ、これを押さえるための手法が真っ先に発達してきたのでしょう。
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もちろん前述の原理を、現実のプロジェクトに適用するためには、いろいろな道具立てやノウハウの集積が必要です。そうした原理・ツール・ノウハウの総体を称して、技術と呼ぶのです。プロジェクト・マネジメントの技術です。

こうしたマネジメント技術の基本を押さえた上で、プロマネのリーダーシップやメンバー達のモチベーションを問うのならわかります。プロジェクトは結局、人間がやることですから。しかし、こうした基本さえ知らずに、いきなりリーダーの人格や志気を問題にするとしたら、そして、プロジェクトの構造を見ずに、ただ全体の費用や納期だけを見るとしたら、2000年前の扶蘇と同じではないでしょうか。

国内で顔見知り同士が、同じ言語と文脈を共有して、以心伝心で仕事を進めていける国内プロジェクトならば、技術なしでも気合で乗り切れるでしょう。しかし海外プロジェクトは、根本的に違います。 こうした技法を押さえた上で、さらにわたし達が身につけるべき思考と行動の習慣、いわばマインド面でのOSがあるのです。それは端的にいえば、

言葉を大切にする(言語化)
・かならず計画をたてる(計画重視)
契約と責任を重んじる(契約責任制)
そして、
・システム的な見方をする(Systems approach)

です。 システム・言葉・計画・契約の頭文字をとって、 わたしは「S + 3K」と呼んでいます。


・・ということで、展望講演はこの後、海外プロジェクトの進め方を概説し、さらに現在のモダンPM理論に欠けている価値評価をめぐって、わたしが進めてきた「リスク基準プロジェクト価値」研究成果を紹介した。そして、今後のモダンPMの発展には「仕事のプロセスシステム工学」が大事になるだろう、という話で締めくくった。だが長くなりすぎるので、後半は割愛させていただこう。なお念のために書いておくと、化学工学とは元々、化学プラントの設計論であり、とくに各種装置を組み合わせてプラント全体のシステムを設計・最適化する手法論を「プロセスシステム工学」と呼ぶ。

プロジェクトもまた一種の化学プラントに類似したシステムであり、個別のアクティビティという要素を組み合わせて、全体のシステムを作り上げ、動かしていく。そうした思考方法=システムズ・アプローチこそ、これからのプロジェクトにとって必須のものだ、というのが、聴衆の皆さんに伝えたかったコアのメッセージだ。

では最後に、WBSをはじめとするモダンPMの技術、そしてシステムズ・アプローチを中心としたマインド面でのOSについて、もう少し深く知りたい方のために、格好の入門書をご紹介しよう。1年半かけて書いた、わたしの新著『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』である(笑)。今週末から書店に並ぶが、電子版はさきがけて本日から発売である。ぜひ手にとってご覧いただきたい。海外プロジェクトに長年実務で携わり、また近年はPM理論研究と教育も実践してきた人間として、類書にない思想と技法を盛り込んだつもりである。

地図を読んでも山には登れず、海図を見ても船は航行できない。だが、どこに登るべき山があり、渡るべき海があるかは分かる。本を読んでも能力がすぐ得られるわけではないが、できればぜひ一人でも多くの方に、海を渡って広い世界を目指してほしいと願っている次第である。
by Tomoichi_Sato | 2015-09-15 22:18 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」(10月13日)開催のお知らせ

「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」2015年の第5回会合を、下記の要領にて開催いたします。

皆さんは「シナリオ・プランニング」手法について聞いたことがあるでしょうか? 事業プログラムの戦略立案においては、つねに複雑で不確実性の高い環境の中で予測を行い、最適な目標とアクションを選ばなければなりません。またプロジェクトのリスク・アセスメントにおいても、定量化し確率を予測できる事ばかりではなく、定性的な先読みが求められる局面がしばしばあります。そうした問題に対応するため、主に欧州を中心に開発されてきた手法がシナリオ・プランニングです。

この手法の初期の有名な成功例は、'70年代に石油メジャーであるロイヤル・ダッチ・シェル社が作成した「石油危機シナリオ」でした。同社は事前に複数シナリオによる予測を行い、組織内の体制を整えていたことで、世界的な石油ショックに効果的に対応することができました。同社はその後もシナリオ・プランニングの手法を継続して発展させ、戦略構築に結びつけてきました。そして、他の企業・政府機関などでも戦略構築のために広く使われるようになったのです。

今回は、シナリオ・プランニングに関する日本の権威である、昭和シェル石油チーフエコノミストで東京大学客員教授の角和昌浩様をお招きして、その方法と成功のポイントについてお話しいただきます。業種を問わず、戦略や予測に関心のある方に興味深い内容になると思います。

<記>

■日時:2015年10月13日(火) 18:30~20:30
■場所:三田キャンパス・北館会議室2(1階)(定員:28)
http://www.keio.ac.jp/ja/access/mita.html
キャンパスマップ・【1】

■講演タイトル:「シナリオ・プランニングによるビジネス環境分析
        ~シェルのグローバルシナリオ作成に学ぶ」
■概要:
シェルグループは、なぜシナリオプランニングを戦略検討ツールとして40年以上、継続してやっているのか。このツールを戦略検討作業や戦略決定に取り込むと、どういう便益があるのか。最新のシェルのシナリオ作品を紹介しながら、その方法と成功のポイントを理解していただきたいと思います。

■講師: 角和 昌浩 (かくわ まさひろ)
    昭和シェル石油株式会社 チーフエコノミスト 兼 東京大学 公共政策大学院 客員教授
■講師略歴:
 1977年3月 東京大学法学部政治学科 卒
 1977年4月 昭和石油(現昭和シェル石油)入社
 1982-83年 ロンドン大学東方アフリカ研究所 中近東学科留学
 1987-89年 石油公団に出向
 1992-95年 ロイヤル・ダッチ/シェルロンドン本社に出向
 2003年10月 日本エネルギー経済研究所 兼 名古屋大学エコトピア科学研究所客員教授 兼 電力中央研究所客員研究員
 2009年4月 現職にいたる

■参加費用:無料。 ちなみに本研究部会員がスケジューリング学会に新たに参加される場合、学会の入会金(¥1,000)は免除されます。

参加を希望される方は、確認のため、できましたら前日までに佐藤までご連絡ください。
よろしくお願いいたします。

佐藤知一@日揮(株)
by Tomoichi_Sato | 2015-09-10 23:04 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)