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お知らせ: 東工大ストラテジックSCMコースで講演します(3月6日)

直前のお知らせになり恐縮ですが、来る3月6日(日)午後2時から、東京工業大学で

 「海外プロジェクト・マネジメントへのシステムズ・アプローチ − その理論と技法」

と題して講演します(無料・事前登録必要)。
これは東工大イノベーションマネジメント学科が主催する、キャリアアップMOT(技術経営)コースの「サプライチェーン戦略スクール・ストラテジックSCM講座」今期(第12期)修了発表会での事例講演です。
(→詳しい案内) http://www.mot.titech.ac.jp/cumot/sss/scm/

開催場所は、東京工業大学 大岡山キャンパス 西9号館2階 デジタル多目的ホールです。
 東京都目黒区大岡山2-12-1(東急目っっっっf黒線大岡山駅前)

本講演では、10月に出版した『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書 〜グローバルなチャレンジを成功させるOSの作り方』の内容とも連動し、以下のような内容をお話しする予定です:

「現代のプロジェクト・マネジメント理論は、1950年代のクリティカル・パス法に始まる。それはプロジェクトを、Activityからなる『システム』と捉えたアプローチの産物であった。本講演では、なぜ海外プロジェクトではシステムズ・アプローチが特に重要になるかを類型論から分析し、現代PM理論の中心技法を概観する。その上で、日本企業が準備すべき組織体勢・行動習慣を解説するとともに、プロジェクト評価に関する最新の研究について紹介する。」

日曜日の開催ですが、ご興味のある大勢の方のご来聴をお待ちしております。


日揮(株) 佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2016-02-24 12:29 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

プロジェクト・コスト・コントロールの中級編:実績コストACをいつ計上するべきか?

前回、プロジェクト・コスト・コントロールの入門編として、費用を正確に把握するためには、社内におけるプロジェクト制の確立と、WBSに基づいた実行予算の設定が重要である、と書いた。そこで今回は、現実のプロジェクトにおける、実績コストACの定義と、将来発生コストETCの推定方法について書こうと思う。というのは、この両者はいずれも、標準的な教科書に書かれている公式だけでは、十分に捕まえられないからだ。

まず、コスト・コントロールと言う仕事の目的を再確認しておこう。それは完成時のコストを、実行予算の枠内に収めることである。完成時の予測金額EACは、実績コストACと将来発生コストETCの合計で表される(EAC = AC + ETC)。実績コストが予定より超過している場合には、まだ手元に残っていて自由度のある予算残額をうまく用いて、今後の出費を抑える手段を講じる必要がある。つまり、早めで上手なお金の使い方を決めるということだ。早めに生きたお金の使い方をして、問題発生を先に予防しておけば、後で問題が生じてから慌てて対策するよりも少ない金額ですむ。

さてプロジェクトのコストを構成する費目は、大きく次の要素からなる。
1 社内人件費(労務費)
2 材料購入費
3 外注費
4 その他直接経費
5 間接経費
この分類は製造業の原価管理に準拠しているが、多くの業界で同じだと思う。

上記のうち、2番目から4番目までは外部費用である。したがって実績コストACは企業の経理部門で、確実に捉えられるはずのものだ。だから、世の中によくあるプロジェクト・コスト・コントロール用の情報システムでは、会計システムからのインターフェイスでこうしたデータを持ってくるような設計になっている。

ところがここには問題がある。実は、外部コストには3つの発生時点があるのだ。発注時、検収(請求)時、支払時の三つである。英語ではそれぞれ、Committed cost, Incurred cost, Paid costという。そしてこれら3つの時点の金額は、異なる可能性がある。

例えば何か機材を購入するときのことを考えてみればわかる。発注書を切った後で、仕様変更を行ったために、検収(請求)金額が変わる。あるいは、検収時点で納品物に齟齬が見つかり、支払い金額がさらに変更になる。こうした事はプロジェクトではよくある話だ。ではこれら3つの金額のどれが実績コストACにあたるのか?

おまけに、支払い自体、何度かに分かれる場合もある。発注書を切る時点で、着手時に1割の前渡金をわたして、納品時に残額というのも、しばしばある話だ。さらに、途中に支払いのマイルストーンをもうける場合もある。

ちなみに会計的には普通、注文時ではなく、検収をもって買掛金に計上する。逆に言うと、発注時にはまだ金額や役務内容は確定していないと考える訳だ。ただし、プロジェクトのキャッシュフロー的には、請求を受けたときではなく、実際の支払時に変化が生じる。

さらにいうと、発注時の前渡金はキャッシュフローに影響するが、会計的には原価ではない(対応する役務提供がないから)。受注側からも、売上計上はできないのである。

ついでながら、費目の中には、そもそも発注という行為自体ががない費目もある。たとえば、日頃つきあいのある業者から材料を購入する場合など、電話で注文して、いきなり納品書と請求書が来るのが普通だ。常駐派遣の人件費もそうだろう。いちいち毎月、発注書を切るわけではない。ただ、こうした費目には、検収行為はある。

さらに、発注も検収もなく、いきなり支払行為のみの費目も存在する。交通費・通信費など「その他直接経費」と呼ばれるもののほとんどはそうだ。さらに、社内人件費もこれに似ている。いずれも、実際に費用が発生した後でないと、把握できない。

え、頭がだんだん混乱してきた? まあ、そうかもしれない。だが、こうした現実のややこしい姿を理解した上で、実績コストACの適切な定義は何かを決めておかないと、実際のプロジェクト・マネジメントの役には立たなくなってしまう。だから中級編なのだ。

この種の問題を考えるときは、目的にさかのぼって確認する方がいい。コスト・コントロールの目的は、経理(会計)だろうか? それとも、キャッシュフローの管理だろうか? もちろん違う。完成時のコストを予算に収めることである。そのためには、予算に関する『自由度』の観点が必要になる。

予算の自由度の観点からいうと、発注書を切ってコミットしてしまったら、他にはもう使えないのだ。である以上、じつは一番早い発注段階で実績コストACをつかみ、計上するのが、目的にかなうということになる。もちろん、そのためには、発注予定との差異を検知できるように、コスト・ベースラインも発注時点での線を引いておく必要がある。

ところが、市販の多くのコスト・コントロール・システムは、発注時ではなく、検収時に実績コスト発生と定義している。これは、会計システムとのインタフェースの都合でそうなっているにすぎないと思う。おまけに世の中の文献でも、これに準じて検収額 Incurred costをACと定義してるものが多い。そこでこれ以降は、世の大勢にしたがい、検収額をACとして話を続けよう。

次なる課題は、今後発生するコスト(ETC)をどうやって推測するかである。

プロジェクトのアーンドバリュー法(EVMS)を解説した本では、たとえば、次の式が出てくる。

 ETC = BAC - EV

ここでBACとはBadget at Completion、すなわち実行予算での完成予定額を示し、EVとはEarned Value、すなわち出来高をいう。EVは、少し古い教科書ではBCWP(Budgeted cost of work performed)と書いてある場合もある。

例を挙げる。ここに元々、100万円で終わるはずの仕事があった(BAC = 100)。ところが実際にやらせてみると、今現在までにかかったコストは50万円だった(AC = 50)としよう。で、現時点の進捗は40%だ。つまり100万円の仕事の内、40万円分の仕事しか出来高は上がっていない(EV = 40)。そこで、今後発生するコストは、100 - 40 = 60万円だろう、というのが上の式である。

ただし。もし今までやってきた40万円分の仕事と、まだこれからやらなければならない60万円分の仕事が、まったく独立したWBS要素で、やる人も別で、これまでの実績とは関係ないというなら、それでもいいだろう。しかしもし同じ人や業者で行うとしたら、これまで40万円分の仕事を仕上げるのに、50万円かかってきた訳だ。だったら、今後も同じような調子で進むんじゃないか、と考えるのが現実的な感覚だろう。

ここで、コストパフォーマンス・インデックス(CPI)を、CPI = EV/ACで定義する。上の例だと、40/50 = 0.8だ。つまりこれまでの仕事ぶりは、当初考えていたより、8割程度の生産性しか上げられなかった。だとしたら、今後も同じ調子で、60万円分の仕事も、実際には60/0.8 = 75万円かかると見た方がいい。

 ETC = (BAC - EV)/CPI

これが、たぶんより現実的な推算式だ。と、たいていの教科書には書いてある。

しかし、上の式は、じつは適用対象に限定があるのだ。それは「スコープが柔らかい費目」だけに該当する。ここが中級編のポイントである。

スコープが柔らかいとは、どういう意味か。それは、コミット(発注)した時点で作業量の全体が明確ではなく、途中で増減があり得る種類のアクティビティであることを示す。逆に「スコープが堅い費目」とは、コミットの時点で、作業量の全体像がかなり明確なアクティビティである。

スコープが柔らかい費目の代表例は、実費償還契約(準委任、あるいはBQ精算など)による外部費用である。あるいは、設計などの社内人件費もこの部類に属する。こうした費目では、時間の経過とともに作業が進捗していき、少しずつ費用ACが確定する。図の左を見てほしい。たとえ最初に何らかの見積があり、それにしたがって発注(コミット)したとしても、その後、少し時ずつ作業が進み、順次、実績コストが上がってくる。
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以前書いたように、『進捗』とは「あとどれだけ仕事が残っているか」で計測する。進捗とともに、残る作業量はより明確となり、それに相当する発注残額は減っていく。ただ、生産性の問題などで、検収した実績コストが予定より増えてしまうのは良くある話だ。いずれにせよ、このケースでは、EAC=検収額+発注残額 で推計される。検収額は確定したコストで、発注残額は比較的確実な将来コストである。

こうした費目では、コスト・コントローラーは、発注時には予定総額ないし上限を決めて発注すること、実績コストの発生をリアルタイムにつかむこと、そして進捗を精確に計測するため主要なメトリクスとあわせて把握する、などのテクニックが要求される。

他方、スコープが堅い費目では、別の見方をしなくてはならない。こうした費目では、作業が完了したときに、いきなり全体の検収額が上がってくることになる。途中のACはゼロなのだ。だから、あらかじめ、コミットした発注額に対して、この先に発生するかもしれない追加費用を、リスク項目ないし潜在的追加としてリスト化し、追いかけておく必要がある。図の右側にあるとおり、このケースでは、発注額Committed costは一種の確実な将来コスト Firm ETCである(まだ実績ACは上がってきていないから)。時間の経過とともに、潜在的追加もふえていくかもしれない。そして最後になって、当初の発注額に対して、追加金額(approved change)が決まる。

図では、会計的な実績コスト(Actual Cost)と、確実な将来コスト(Firm ETC)、そして不確実な将来コスト(Uncertain ETC)を色分けで区別している。だが、どちらも着目しているのは、それらの合計である完成予定額EACである。仮にもし、ACを検収額ではなく発注額で定義したとしても、単に色分けが変わるだけで、潜在的追加をきちんと把握しなければ全体が分からないことにかわりはない。

おわかりだろうか。長々と論じてきたが、ACとETCの区別などというのは、相対的なものである。それはコントロールの目的に応じて決めればいいのだ。大事なのは、完成予測における不確実な項目を、どうやって整合性をもって把握するかの方なので、ここをきちんと仕組み作りできてはじめて、中級レベルになるのである。


<関連エントリ>
 →「プロジェクト・コスト・コントロールのベーシック」(2016-01-11)
by Tomoichi_Sato | 2016-01-17 21:48 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

プロジェクト・コスト・コントロールのベーシック

プロジェクトのコスト・マネジメントは、計画段階の仕事と遂行段階の仕事に大きく分けることができる。前者はコストの計画=プランニングの仕事で、具体的にはコスト見積および予算設定である。そして遂行段階の方は「コスト・コントロール」とよばれる。

このサイトを以前からよんでおられる読者の方はご存じかもしれないが、わたしは『管理』という日本語は基本的に使わない。かわりに、『マネジメント』とか『コントロール』といった、英語をカタカナ書きにした言葉を使うことにしている。カタカナ言葉の氾濫は好きではないが、管理という語が多義語で、あまりに曖昧な使われ方をするので、コミュニケーションで誤解を生みやすいためだ。誤解というのは、お互いに違うことをいっているのに、それぞれがちゃんと理解したと勘違いすることである。誤解はたんに話が通じないことより、始末に負えない。通じていないのは、その場で両者が分かるが、誤解は両者が気づかずに進んでしまうからだ。たとえば「原価管理」といった場合、片方はCost Managementというつもりで話し、他方はCost Controlの意味で理解する、といった具合だ。

英語でControlというと、何かの仕組みや対象を、きちんとチェックしたり意図したとおりに正確に動かしたりする、という意味になる。技術系の日本語で言うと『制御』に近い。たとえば工場の検査工程の仕事は、設計通りにモノが製造されているかをテストする仕事で、Quality Controlとよばれる。あるいは、空港で到着客のパスポートをチェックする仕事は、Passport Controlとよばれる。

一方、Manageという英語の動詞にはどこか、暴れ馬を乗りこなす、といったニュアンスがある。御しがたい相手を何とか従わせる、という風にである。なので、マネジメントという仕事の中には、計画や制御以外に、先読みとかリスク・テークとか決断と交渉といった行為が重要な要素となってくる。入国管理係官の仕事をPassport Managementと呼ばないのはこのためで、係官に個別にリスクテークや入国判断などしてもらってはまずいからだ。マネジメントというのは、コントロールの上位概念である。Quality Managementといえば、設計から品質検査までを含む品質の全体像を、なんとか思い通りにしていくことを意味する。

そしてコスト・コントロールとは、コストを意図したベースライン(実行予算)の中におさめていく仕事である。計画通りに収まるよう、モニタリングしながら制御していく。これがコスト・コントロールの目的である。ついでにいうと、英語のCostの方は、「原価」でほぼ誤解が無い。

実行予算の枠内にコストをおさめるためには、二つのことが必要だ。まず、現時点までにいくらのコストを実際に使っているのか。そして、このままでいくと、プロジェクトが完了する時点での最終的なコストはいくらになるのか。これを、コストの費目ごとに把握する。

月ロケットか何かにたとえるならば、現在位置の計測と、着地点の予測である。着地点はロケットの場合、発射時点でかなりの部分が決まる。しかし、航行途上でも大気圏の状況やらエンジンの燃焼具合などで、それなりに予定した航路からの変動がある。そこで、元々ねらった地点に進路をもどすべく、制御するのである。プロジェクトも同じで、コストの着地点は、最初の計画(=コスト見積)の良し悪しで、かなり決まってしまう。しかし、遂行途上でもいろいろな変動要因がある。すなわち、工夫の余地があるということだ。

ここで念のために書いておく。プロジェクトのコスト(原価)とは、つまり、かかる費用のことだ。受注金額(プライス)のことではない。コスト・コントロールのベースラインとなる数値というのは、プロジェクト計画において決めた、実行予算の内訳となる費目別の数値である。

こんな当たり前のことを書くのは、ときにこの両者が混同されているケースを見かけるからだ。たとえば費目の内の、外部発注の比率を議論するとしよう。いろいろな過去のプロジェクトの実績データを掘り出してきて、あのケースでは何%だったとか、比較する。この時の基準は、費用総額に対する比率を議論する必要がある。受注金額に対する比率であってはいけない。なぜなら、受注金額は販売戦略に応じて、意図的に上乗せしたり値引きしたりすることがあるからだ。ある成果物を作るのに、外注コストが6千万円だった。ただ、全部で費用は1億円かかった。だから外注比率=60%となる。かりにこの成果物を1億2千万円で売ることに成功しようと、競合のためやむなく9千万円の赤字で受注しようと、外注比率にかわりはない。

これはつまり、プロジェクト・マネージャーはコスト総額に責任を持ち、セールス側は販売金額に責任を持つ、という責任分担を意味する。そして、

 利益 = 販売金額 − コスト総額

なのだから、利益確保はプロマネと営業の共通目標であることを意味する。かりにやむなく9千万円で赤字受注をしたとしても、計画時点のコスト見積の総額である正味原価(Net Cost)は1億円であり、プロマネは1億円以内での達成に責任を持つべし、ということである。かりに社内組織の都合で、プロマネが営業マンを兼ねている場合でも、正味原価と販売価格は区別して考える。そうしないと、後々でコスト分析をして次の見積をするときに、基準となるデータが混乱してしまう。

プロジェクト・コスト・コントロールの仕事は、たった一つの式で表現することもできる。それは次の式だ。

 AC + ETC = EAC

ここで、ACとはActual Costの略で、すでに使った実績コストを表す。ETCはEstimate to Completeの略で、これから完了までに必要だと予測されるコストである。そしてEACとは、Estimate at Completionの略で、完成時点での予想金額を意味する。これらの略号は、今日の現代PM理論で標準的に通用している用語だ。

コスト・コントロールの仕事とは、上の式にあるように、三つの要素からなる。まずACすなわち実績出費を把握すること。つぎに、これからの出費であるETCを推定すること。そして着地点であるEACを計算し、元の目標であった実行予算の枠内に収まらなければ、対策を考えて講じる(普通はETCを下げる方策をとる)ことの三つだ。

ACの把握のためには、組織の出費がきちんと記録されていること、それがプロジェクト単位に仕分け可能になっている必要がある。つまり『プロジェクト制』が確立していることが望ましい。もちろん、どんな企業でも、経理と納税の義務がある以上、出費の記録はとられているはずだ。ただ、どの出費がどのプロジェクトの原価に対応しているかを、区別できるようになっている必要がある。外注先企業に案件Aも案件Bも案件Cもいっしょくたに発注、検収もどんぶり勘定、では、コスト・コントロールができている状態とは言えない。

かりにプロジェクト単位での出費の把握が可能でも、それが迅速に行われないと、やはりコスト・コントロールの役には立たない。日本企業では「月締め」の慣習が強いので、新春まだ松の内の注文も、1月末の注文も、翌月の2月15日頃にまとめて請求され、それが経理部門のチェックを終えて技術部門にフィードバックされるのは2月25日頃、なんて状況は珍しくない。費用が発生してから、実質的にそれが計上把握されるまで、平均1ヶ月くらいかかる。もしプロジェクト全体工期が6ヶ月程度なら、1/6 = 16.7%程度の遅れである。あなたは1日に4時間ずつ遅れていく時計で仕事を計測したいだろうか?(笑)

社内コスト、とくに人件費の把握も、コスト・コントロール実現のための次なるハードルだろう。当たり前だが、関係する社員全員が、きちんと精確にタイム・シートを記録している必要がある。それも、皆がタイム・シートを記入するのが月1回、庶務の担当者に尻をたたかれて慌てて入力、では上と同じだ。タイム・シートには、プロジェクトを識別する番号と、WBSコードが記入されていなければならない。

WBSコード? そんなのがタイム・シートに必要なの? ——はい、そうです。プロジェクト・コスト集計は、通常、計画時点で作ったWBSがベースになる。プロジェクト全体を作業(Activity)の集合体に分け、それを階層的に構成したものがWBS(Work Breakdown Strucuture)である。WBSそれぞれの作業に必要な費用を見積って、全体の実行予算が設定される。この予算額に対して、実際の出費と今後の出費予定がいくらになるのかを、それぞれの作業に対して予測する。それを集計したものがプロジェクト全体コストの着地点になるのだ。

つまり、プロジェクト・コスト・コントロールにおいて、WBSとはコストのロールアップ(集計)構造を示すのである。(→「WBSはコスト見積の基準を規定する」 2012/10/31 参照のこと)。である以上、何野誰夫君が1月第2週にプロジェクトAに使った32時間は、モジュールXの実装Acitivityの仕事なのか、それともインタフェースYの内部設計のActivityの分なのか、対応関係が分からないといけない訳である。

そうしない限り、「このプロジェクトAの時、内部設計と実装にかかった工数の比率は25:47%だったっけ?」という会話が、あとでできなくなるということだし、「要件定義以前と結合テスト以降を除いて、設計と実装についていうと、モジュールXは結局いくら工数がかかることになるのかなあ」という予測が不能になってしまう。

ところが会社というのは不思議なところで、何野誰夫君の32時間の内、残業割増分がつく残業部分は何時間だとか、彼の給料が毎月何円だとかいったお金の細部にはこだわるくせに、32時間が結局どのような仕事に費やされたのか、それは元々何時間分で見積もっていた仕事なのか、といったことはないがしろにされがちだ。お金にこだわるくせに、仕事の内容にはこだわらない。これでマネジメントだのコントロールだのができるはずはない。はっきり言って、プロジェクトの実務の世界では、個人別の給与や残業割り増しなど、どうでもいい。時間あたりの平均単価による標準原価で十分なのである。それより、100時間で終わるはずの仕事が200時間になるかどうかの方が、はるかに重要なのだ。

著書「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」https://gihyo.jp/dp/ebook/2015/978-4-7741-7625-3 にも書いたとおり、予算と進捗のコントロールというのは、ある意味で、プロジェクトを引っ張っているリーダーに対し、カーナビを提供する仕事にたとえられる。カーナビは、車のドライバーが運転に集中できるよう、位置測定や走路計算などの補佐してくれる。だからわたしの業界などでは、「コスト・エンジニア」という専門職が存在しており、大規模プロジェクトではプロマネの下に専任のコスト・コントロール・マネージャーというポストを置く。

そして、すべてのプロジェクトにおける見積・実行予算と、その実績データは、コスト・エンジニアリング部門に集約される仕組みとなっている。それが、次のプロジェクトの正確な見積のベースとなるのである。コストの話をすると、とくにIT系では見積手法の話題に関心が向かい、ファンクション・ポイント法だCoCoMoモデルだという議論になりがちだ。それも大切だが、1 Function Pointが、自社の組織では何時間の工数になるのかを推計する基盤は、自社の実績データしかない。より良い見積をしたければ、より適切な実績把握の仕組みを、まず考えるべきなのである。


<関連エントリ>
 →「WBSはコスト見積の基準を規定する」 (2012/10/31)
by Tomoichi_Sato | 2016-01-11 13:00 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

お知らせ:浜松でプロマネ育成研修セミナーを開催します(1月9日)

新年の1月9日(土)に、静岡大学大学院事業開発マネジメントコースとNPO法人浜松ソフト産業協会が開催する

 「プロジェクトマネージャー育成研修
  https://dl.dropboxusercontent.com/u/17787880/PMseminarHamamatsu2016-01-09.pdf

の講師を務めます。
 これは1月9日と1月23日の土曜日二日間にわたって開催される研修セミナーです。わたしはその初日を担当し、

 「プロジェクトマネジメントの基礎  — グループ演習を交えて知識と技法を実践的に身に付ける — 」

と題して、WBSの作り方、アクティビティの構成要素、プロジェクト組織と役割、コスト・コントロール、そしてプロジェクト目標の設定などについて講義します。PMとして必須な基本的なスキルを1日できちんと身につけられるよう、グループ演習を交えた実践的なレクチャーを行うつもりです。
 二日目は静岡大学の前田恭伸教授と八巻直一名誉教授による、リスク分析とPERT手法(スケジューリング)の実際に関する研修です。

 場所は静岡県浜松市にある、静岡大学工学部5号館3階第一会議室です。
  (静岡県浜松市中区城北3-5-1)

 定員は20名で、有償ですが、実践的で役に立つ内容となっています。
 単なる資格試験のためのお勉強ではなく、本当に実務に役立つプロジェクト・マネジメントの基本を身につけたいと考えている方、上記URLにある案内パンフレットの申込先にて受け付けしております。定員が限られておりますので、お早めにお申し込みください。積極的なご来聴をお待ちしております。

  佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2015-12-15 07:04 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」(1月29日)開催のお知らせ

プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」2016年の第1回会合を、下記の要領にて開催いたします。

今回は新年の企画にふさわしく、日本のプロジェクト・スケジューリング研究の雄である摂南大学・諏訪晴彦教授に、最近の研究成果についてご講演いただきます。IT業界の方にも、他業界の方にも、いろいろなヒントが満ちていることと思います。

<記>
■日時:2016年1月29日(金)18:30~20:30
■場所:三田キャンパス・北館会議室3(地下1階)(定員:21)
http://www.keio.ac.jp/ja/access/mita.html
キャンパスマップ・【1】

■講演タイトル:「安定性と予見性を指向するプロジェクト・タイムマネジメント
■概要:
講演者の研究室では「プロジェクト遅延は必ず生じるものである」という前提の下、安定性(stability)および予見性(predictablity)を指向するプロジェクト・タイムマネジメントのシステム工学的手法を開発してきた。本講演では、その柱となる工数見積りと,クリティカルチェーン生成の理論モデルと方法論を紹介する。最近,これら方法論のスマート製造への応用(とくにエネルギー負荷計画や能力所要量計画)にも取り組んでおり、その研究成果についても触れる。

■講師: 諏訪晴彦(すわ はるひこ)
博士(工学),摂南大学 教授,テクノセンター長
■講師略歴:
 1997.3 神戸大学大学院 自然科学研究科 博士後期課程 修了。
 1997.4 摂南大学 工学部 経営工学科講師
 2010.4 摂南大学 理工学部 機械工学科 教授,現在に至る
 2012.8〜2013.9, 2014.7 マサチューセッツ工科大学客員研究員。
〔専門分野〕システム工学,生産工学
〔主な研究〕エネルギー高効率製造システムの構築,生産計画/スケジューリングの理論と技法開発,超硬合金の切削加工法
〔受  賞〕スケジューリング学会学術賞(2008),電気学会優秀発表論文賞(2003),
〔学会活動〕アメリカ機械学会,日本機械学会,システム制御情報学会,精密工学会,日本鉄鋼協会,計測自動制御学会などの会員。
 システム制御情報学会 Editor-in-chief (2015〜),スケジューリング学会理事・評議員(2004〜)

■参加費用:無料。 ちなみに本研究部会員がスケジューリング学会に新たに参加される場合、学会の入会金(¥1,000)は免除されます。 参加を希望される方は、確認のため、できましたら当日までに佐藤までご連絡ください。


★★ お知らせ ★★

来年4月初旬に浜松市で合同シンポジウムを開催します!
 来年の2016年4月2日(土)に、OR学会傘下の「サプライチェーン戦略研究部会」(略称SCSR、http://scsr.jp/)と合同で、浜松コングレスセンターにて合同シンポジウムを開催することが決まりました。午後一杯にかけて講演とパネル・ディスカッション、そして夜は懇親会というプログラムを企画中です。
 当研究部会としては2年ぶりに、また製造業のメッカ浜松市で開催できることを楽しみにしております。
 詳細については決まり次第、追ってご連絡いたします。
 

佐藤知一@日揮(株)
by Tomoichi_Sato | 2015-12-09 07:10 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

お知らせ:PMI日本支部でグローバルPMに関する講演をします(12/15)

来る12月15日(火)午後に、PMI日本支部が主催する法人スポンサー連絡会で、

グローバルPMを実現させる組織のプロセスとOS ~日揮の経験から~

と題する講演を行います。
場所は東京・永田町の株式会社三菱総合研究所 4階大会議室です。
(→案内 https://www.pmi-japan.org/event/cat/2015_10_27_houjin_renrakukai_2015_12_15.php

本講演では、10月に出版した新著『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書 〜グローバルなチャレンジを成功させるOSの作り方』の内容とも連動し、

・海外型プロジェクトの難しさとはどこにあるのか、
・なぜ「国際標準のPMプロセス」を適用するだけでは十分ではないのか、そして
・日本企業が海外に出て行った際にとりくむマネジメント・スタイルや組織の行動習慣はどうつくるべきか、

などの論点についてお話しします。

あいにく、PMI日本支部の法人スポンサー企業向けの講演ですが、ご興味のある方のご来聴をお待ちしております。

日揮(株) 佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2015-12-02 07:05 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

講演のお知らせ2件(東京・沖縄)

(1)生産革新フォーラムの月例会で講演します

中小企業診断士協会の研究会である「生産革新フォーラム」(通称MIF研)で、わたしの新著発刊を記念し

世界を動かすプロジェクトマネジメントの仕組み

と題する講演を行います。

日時:11月19日(木)18:30より
場所:中央区日本橋堀留町区民館
(→最初「瀧田ビル」と書きましたが修正します。場所は向かい側です)

診断士でなくとも研究会は参加できますので、ご関心のある大勢の方のご来聴をお待ちしております


(2)経営情報学会で講演発表を行います

11月28・29日に沖縄で開催される経営情報学会2015年秋期大会 で、

プロジェクト入札の最適価格と撤退戦略

と題する講演発表を行います。

日時:2015年11月29日(日)11:30~12:00
場所:沖縄コンベンションセンター
   (沖縄県宜野湾市真志喜 4-3-1)

概要:内容的には、7月にOR学会の「オペレーションズ・リサーチ」誌に執筆した論文をわかりやすく敷衍したもので、プロジェクト入札の競争環境下における最適価格戦略と、市場縮小期の撤退戦略についてお話しします。
本講演は、オーガナイズドセッション:「マーケットデザイン」の一環で、司会は静岡大学の八巻直一名誉教授です。

場所が沖縄ですので、気楽に来られる方は多くはないと思いますが(笑)、この機会にオークション問題やマーケットデザインに関するミクロ経済学も学んでみたいと思われる方には、興味深いセッションになると思います。感心をお持ちの方のご来聴をお待ちしております。

by Tomoichi_Sato | 2015-11-07 02:11 | プロジェクト・マネジメント | Comments(2)

お知らせ:雑誌「リスクマネジメントTODAY」に新国立競技場問題の記事を執筆しました

財団法人リスクマネジメント協会の発行する月刊誌「リスクマネジメントTODAY」 11月号に、

 『プログラムマネジメントで競技場問題の混乱を解く ~ ロンドンにあって東京になかった成功要件』

という記事を執筆しました。

新国立競技場の建設プロジェクトは周知の通り迷走を続けた後に、リセットとなった訳です。
この問題に対し、第三者委員会の検証報告書など公表された情報を元に、わたしがプロジェクト・アナリストとして分析した論文です。ロンドン・オリンピックにおける英国政府の取り組みなどと比較しつつ、この問題の根幹には、じつはプロジェクト・マネジメントの上位概念であるプログラム・マネジメントの不在がある、ということを論証します。

ご注目ください。
by Tomoichi_Sato | 2015-10-31 10:33 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)

プロジェクトにおけるスケジュールと費用のトレードオフを考える

9月にスケジューリング学会で「プロジェクトにおけるスケジュールと費用のトレードオフを考える」というタイトルの講演発表を行った。わたしがこの何年間か個人的に続けている『リスク基準プロジェクト価値』(Risk-based project value = RPV)分析の手法を用いて、スケジュール・リスクのコスト化という問題に初めてくさびを打ち込んだ研究の発表である。サイトに書くにはやや理屈っぽい話であるが、小さな学会でもあったので、ここにその要旨を(数式は極力飛ばして)再録する。
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日揮株式会社の佐藤です。本日は「プロジェクトにおけるスケジュールと費用のトレードオフを考える」というタイトルで発表させていただきます。

皆さん、ちょっとこういう問題を考えてみてください。皆さんはあるプロジェクトのプロマネです。このプロジェクトは全体納期に対して、1日10万円の遅延ペナルティがかかっています。さて、このプロジェクトの中に外注製作のactivityがあり、A社に発注すると製作納期は45日です。他方、これに並行して内製の作業があり、そちらがクリティカル・パスとなっているため、この外注製作activityにはフロート(日程上の余裕)が18日あります。さて、ここにB社が現れ、納期は60日かかるけれども 金額はX円お安くできます、との提案をしてきました。この場合、フロートは3日間に減ります。皆さんなら、どちらを選びますか?

どちらを選んでも、プロジェクトの全体期間に影響はありません。である以上、差額がたとえ1円でも、B社を選ぶのが合理的だ、というのが従来のクリティカル・パス法(Critical Path Method = CPM)の考え方でした。しかし、わたしならそうしません。差額が20万や30万円なら、A社のままにするでしょう。たぶん多くの実務家もそうすると思います。でも、なぜそう判断するのか?

考えられる説明は二つです。佐藤の頭がおかしくて、合理的な結論が理解できない(笑)のか 、さもなくば従来のPERT/CPMの論理に、何か欠けている部分があるのです。

コストとスケジュールは、プロジェクトのパフォーマンスを測る主要な二大指標です。プロマネはコスト節約、スケジュール短縮のため様々な努力をはらいます。しかし両者の間にトレードオフが生じた場合、いずれを優先すべきかは難問でした。コストとスケジュールは独立な指標で、互いを関係づける定量的で適切な方法がなかったためです。かりに納期ペナルティが設定されている場合でも、個別activityのレベルでの意思決定は簡単ではありません。CPMでいうフロートの存在のためです。先ほどのケースの場合、差額がいくらならB社の選択が合理的になるのか。これは、Activity期間短縮に見合うコストは一般にどう決めるか、ないし「スケジュール・フロートは1日いくらの価値があるのか」という問題であります。

本研究では、この問題に理論的な解決を与えます。


1 リスク基準プロジェクト価値(RPV)の導入

先ほどの問題で、実務家がB社を選びたくなるのは、A社だとフロートがわずか3日しかなく、全体スケジュールが延びるリスクが高まるからです。つまりこの問題の分析には、リスク概念の導入が必要になるのです。

わたしは以前より、『リスク基準プロジェクト価値』(Risk-based project value=RPV)という評価尺度を提案しております。RPVはプロジェクトの任意の時点において、すでに達成したキャッシュフローと、将来のキャッシュフローの期待値との合計で表されます。ただし将来キャッシュフローの期待値は、それが実現されないリスク確率で割り引いて求めます。プロジェクト開始時点のRPVは計画段階のプロジェクト価値を表し、プロジェクトの進行とともに通常はRPVは増大していくことが証明できます。(注:詳細は佐藤知一著「リスク確率に基づくプロジェクト・マネジメントの研究」静岡学術出版(2013)を参照のこと)

今、単一のactivityからなるプロジェクトを考えます。Activityの開始時に費用Cを投下し、完了時に収入Sを得るとします。また、このactivityは最短でTmin(日)で完了できると考えられます。だが現実にはばらつきがあり、その期間Tは確率分布p(T)にしたがい、期待値はTavg(日) だとします。このとき、プロジェクトの納期がTminより1日遅れるごとにL円のペナルティがかかると、計画時点でのリスク基準プロジェクト価値は次式の通りになります。

RPV = S - C - L(Tavg - Tmin)  ・・・・・・式(1)

したがって、ある施策がp(T)を変化させてTavgを△Tだけ短縮するが、コストがX円かかるとすると、その施策が合理的となるのは

L△T > X ・・・・・・式(2)

となる場合です。

たとえば最短期間Tminが30日で、平均期間Tavg=45日なら、もし1日のペナルティが10万円の場合、10 (45 - 30) = 150万円の納期ペナルティを覚悟している訳です。ここで、30万円の追加コストをかけて平均期間Tavgを40日に短縮できる施策があったら、10 (45 - 40) > 30 ですから、その施策は見合うのです。ここまでは自明でしょう。


2 期間短縮とInverse Floatの概念

次に、このactivityにもう1本の並行activity #2が存在し、確定した期間T2を持つ場合を考えます。Tavg > T2の場合、activity #2は、Tavg– T2(日)のフロート を持ちます。たとえばT2 = 36日だったとしましょう。すると45 - 36 = 9日のフロートがある訳です。ただし元のactivity #1がかりに最短期間Tmin(30日)で完了できたとしても、プロジェクト全体期間はactivity #2がつっかい棒のように邪魔をするため、T2(36日)よりは短くなりません。一般に並行するactivityが存在する場合、クリティカル・パス上のactivityの期間短縮がプロジェクト全体期間に与える影響には、限界があるのです。
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図 1: 2個のActivityからなるプロジェクト

さて、米国のPMコンサルタントであるSteven Devaux氏は、スケジューリング問題の分析のためにCritical Path Drag (CP Drag)という尺度を提案しました(「納期が延びる要因を指標化する - スケジュールのDRAGとはどんな尺度か」、または Devaux: "Total Project Control" Revised Edition. CRC Press, 2015参照)。これは、「あるactivityの期間がゼロになった時の、プロジェクト全体の工期短縮値」で定義される量です。CP Dragはcritical activityでは正の値だが、non-critical activityは0になります。

これを応用して、activityのスケジュール短縮効果に関する新しい尺度を提案したいと思います。これは、「あるactivityの期間が最短値Tminになった時の、プロジェクト全体期間の変化」で定義される日数です。ある意味でフロートの反対概念ですから、Inverse Floatと呼び、以下、記号IFで表現します。ちなみにフロートとは「プロジェクト全体期間に影響しない範囲でとれるactivity期間の最大値」です。

IFは0か負の値をとります。Non-critical activityのIFは0です(短縮しても全体期間に影響しないため)。Critical activityの場合、Tminで実行できたならプロジェクト全体期間は通常、Tavg – Tmin だけ短くなります。ですが、もし並行activityが存在し、そのフロート値がTavg – Tminよりも小さい場合は、そちらが新たにcritical pathとなるため、全体期間はそれ以上短縮されません。

Inverse floatは、それ単体でもスケジューリングの実務において有用です。たとえば、プロジェクト全体の納期を早めるために、critical pathを構成する各activityの期間短縮を考えるときは、まず各activityのIFを求めた上で、その値の大きなものから検討すべきです。

たとえば、あるcritical activityはTavg = 10週、かつTmin = 5週で、並行activityは2週のフロートを持っていたとします。このactivityに万全のリスク対策を施して5週まで短縮しても、critical pathは並行activityの側に移ってしまい、3週分の短縮努力は実りません。このactivityのIFは-2週ですから、2週以上の短縮効果は得られないことは明白です。IFを計算すれば、ムダな短縮の努力を避けることができます。

Activity iの短縮が全体期間に与える限界値がIF(i)ですから、Maximum potential gain: Gmax(i)を次式で定義できます。

 Gmax(i) = – L・IF(i) ・・・・・・式(3)

ある施策がX円かかり、それがactivity iの期間を△T(>-IF)だけ短縮しても、もし

Gmax(i) < X ・・・・・・式(4)

が成り立つ場合、その選択は合理的ではないと判断できます。Gmax(i)はこの問題に一種の十分条件を与えるのです。


3 Potential Assistの概念

図2の事例に戻ります。このケースではactivity #1のIF = T2 –Tavgです。このときRPVを計算すると(数式は略す)、単一activityのRPVより減少することが分かります。すなわち、フロートを持つ並行activityを追加すると、全体期間に直接の影響はなくても、期間短縮の可能性を最大–IFだけ阻害し、プロジェクトの収益期待値RPVを下げる場合があるのです。

逆にactivity #2に追加費用をかけることで期間をT2 < Tminまで短縮できれば、RPVを元の値まで増大できる。これをPotential assist (PA)と呼ぶことにします。

今、T2 = Tmin + yとし、Potential assistをyの関数としてPG(y)の形で表すと、これはクリティカル・パスに並行するactivityがフロートをx日消費する潜在的コストを表します。したがって、追加コストX円により、そのactivityの期間をy日短縮する(フロートをy日増大する)施策があるとしたら、

 X < PA(y) ・・・・・・式(5)

が成り立てば、その選択は合理的となると判断できます。

(講演発表ではこの後、具体的なactivity期間の分布形について、PERTで用いられるベータ分布の場合について検討した。β分布はa, bの二つのパラメータで規定されるが、PERTでは a + b = 6 という仮定があるため、実質的にはaの値のみで分布系が決まる。S=3, C=1, L=2としてRPVを計算し、並行activityの期間短縮によるRPV増分値を示したのが図2である。たとえばa=2の分布系で、並行activityが0.33だけ短縮すれば(これは最初にあげた60日→45日にほぼ相当する)、プロジェクトの収益期待値RPVは0.15ほど増大する。これが期間短縮のためのコスト増を合理化できる必要条件を与える訳だ。)
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以上が講演の要旨である。はっきり言って、現時点ではまだこの奥の深い問題のとば口に立ったばかりで、解決すべき事柄は多い。しかし一つの手がかりは得られたように思う。それはコストとスケジュールが、意外にもリスクという因子を通じて互いに関係し合っているという視点である。できればこの問題に関心を持つ同士が現れて、ぜひ互いに発展させていきたいと願っている。

というのも、(この学会の後で、ある大学教授が言われたことだが)日本にプロジェクト・マネジメントの本格的な研究者は非常に少ないからである。そのことは、日本発で国際的に通用するPM研究論文数の少なさを見ればよく分かる。たしかにPMPの資格取得者は多く、関連学会や団体も一応それなりに賑わっている。しかし、よその誰かが作ったPM標準を勉強することと、自分なりにものを考えて筋道を作っていくのとは別のことである。すでに大勢が踏みならした道を歩いて行くのと、沃野に道を切り開く違いといってもいい。

日本にはプロジェクト・マネジメント学科を標榜した大学が、学部レベルでは未だに私学の千葉工業大学1校しかない。しかし隣の中国には修士課程(MPM)が最高学部の北京大学、清華大学以下150大学くらいある。欧米でのPM博士課程にも他のアジア人学生はよく見かけるし、研究論文も多い。はたして物づくりニッポンは本当にこのような状態のまま、
 「マネジメントは人だよ、人。」
 「リーダーをどう育てるかだ」
 「プロジェクトの現場は理屈では割り切れない」
などと言い続けていて、大丈夫なのだろうか? たしかにプロジェクトは人が動かすものだ。人が理屈だけで動かないことも確かだ。だが、マネジメントを客観的に計量化し、予測可能性を高める仕組みも一方では必要なのだ。それは、プロジェクト・マネジメントという普遍的な仕事を、リーダーの資質というただ一点に委ねず、誰でも一定レベルで遂行できるようにするためである。

つまり、マネジメントの『技術』のためには、マネジメントの『科学』がなければいけないということだ。わたしはこの科学が理系に属するのか文系に属するのかは知らない(「文系・理系」などという日本にしか存在しない分類には正直、興味がない)。わたしが知っているのは、この種の科学は未来に属しているということだけである。
by Tomoichi_Sato | 2015-10-26 07:19 | プロジェクト・マネジメント | Comments(3)

プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントと、顧客を選ぶということ

プロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントという言葉をはじめて知ったのは2003年頃のことで、ITRという調査会社のレポートからだった。当時わたしは米国のPM関連製品について調べていたのだが、米国ではじつに100種類以上のPMソフトウェア・パッケージが発売されていた。その中でメジャーな商品は、ローエンドがMirosoft Project、ハイエンドがPrimavera Project Plannerというプロ向きの製品だった。Primaveraは大規模プロジェクトの計画とスケジュール・コントロールに特化した製品で、日本ではごく一部の業界でしか使われていないため知名度が低いが、欧米ではエネルギー産業や航空宇宙産業に広く使われてきた。MS ProjectもPrimaveraも現在ではサーバ型製品が主流だが、10年以上前はPC上でのスタンドアローン・ユースが普通だった。ちなみに当時すでにASP型(今でいうクラウド型)商品もでていたが、メジャーな製品はなかった。

ほかに、ERPのプロジェクト管理モジュールというものも存在した。SAP R/3のPSだとか、Oracle EBSのPAなどだ。これらは金額的には超弩級だが、プロジェクト・マネジメントの日々の実務を助けるツールというより、プロジェクト会計や原価管理のための道具であった。

しかし調査会社のレポートによると、これ以外に第3のカテゴリーが勃興しつつあるという。それがプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(略称PPfM)であった。これはプロジェクトを投資ととらえ、企業が持つ複数のプロジェクトの組み合わせを、ちょうど金融資産のポートフォリオと同じように最適化し管理するための道具立て、との位置づけだった。

プロジェクトの上位計画をプログラムと呼ぶことは、当時も知っていた。アポロ計画は英語ではApollo Programという。そして個別の飛行ミッション、たとえばアポロ11号をプロジェクトと呼ぶのだ。プロジェクトの下には「フェーズ」がある。Program > Project > Phaseの序列は、頭文字をとってPPPと呼ばれていた。しかし、実は第4のP、すなわちポートフォリオ(Portfolio)があって、それはプログラムよりも上位の概念なのだった。

そして米国の市場は、明らかにこのプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントに向かっている、とレポートは結論していた。この予測は、米国に関していうと、きわめて適切であった。MS ProjectもPrimaveraも、その後の新バージョンではポートフォリオ・マネジメントを意識した形で、プロダクトを再デザインしていった。サーバ型製品が主流になったのも、ある意味でその影響である。PPfMにねらいを特化した製品も出るようになった。

そして日本市場は米国のトレンドを数年遅れて追っている。したがって、今後の期待株はPPfM関連の製品にある、とレポートは言いたげであった。

しかし、わたしは、それが日本でも広がるという予測には疑問を持った。そもそも、わたし達の社会では、プロジェクト・マネジメントは受注者がやる仕事だと考える風潮が強い。まるで投資者(発注者)は、発注書さえ切ってしまえば、あとは口々に好きな放題な要望を言えばよく、それをとりまとめるて調整するのは受注者の仕事だと思っているかのようだ。発注者こそ、きちんとプロジェクトを舵取りしなければならない、という社会的常識はきわめて薄い。

そして受注者にとって、プロジェクトは投資ではない。競争環境下にいる受注ビジネス企業は、どのプロジェクトをやるかは自分で決められないのだ。だからポートフォリオ・マネジメントなどやりようがない。日本では普及しないし、ソフトも売れないだろう。これが、わたしの予測だった。

10年以上が経った現在でも、わたし達の社会でポートフォリオ・マネジメント・ブームが来そうな兆しはない。企業にプロジェクト・ポートフォリオ・マネージャーという役職が設置されたという話も、いっこうに聞かない。

・・だが、つい最近、わたしは重大な見落としをしていた事に気がついた。それは、6月に開催した「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」でのことだった。

6月の研究部会では、元NECの田島彰二氏を講師に迎えた。田島さんは世界におけるプロジェクト標準化活動では、日本を代表する論客として長年、活躍してこられた方だ。国内より海外でずっと知名度が高い。PMIの各種スタンダードの巻末にある貢献者リストで、最も頻繁に名前を見かける日本人だろう。最近では、国際標準化機構ISOの、プログラムとポートフォリオ・マネジメントの標準策定に尽力しておられる。

その田島さんが、欧州で参加されたポートフォリオに関するワークショップで出題されたグループワークの問題を紹介された。著作権の関係もあるので正確な引用はできないが、おおよそこんな問題だった:

あなたは脱サラをして、風光明媚なエリアに地産地消のピザ屋を開くことにした。店を構え、レシピを工夫し、地元の仕入れもなんとか道筋をつけて、順調に運営しはじめたところだ。ところである日のこと、あなたのところに電話がある。これから観光バス1台に乗り込んだ団体ツアー客50名が、店の評判をきいて昼食に行きたいというのだ。今は11時過ぎだが、12時には来るという。それだけの数の客が来たら、小さなあなたの店は完全に満杯になる。それに、あなたの店はいつも11時半に開店して、いつもそれなりの常客が来てくれているのだ。さて、あなたはどうするべきか?

田島さんは研究部会の参加者を二人一組にわけて、それぞれに8分間で意見をまとめるよう依頼した。各チームの話し合いを見ていると、出題にどう取り組むか、参加者の頭がフル回転している様子がありありと感じられた。まず、50人分ものピザの材料はあるのか? 仕入れは今から追加手配して間に合うのか? 椅子やテーブルの数は足りているか? 店の外にもテーブルを並べるべきか。フロアのサービス係の人数は。かまどは一度にそれだけの数量を焼けるのか。そして、いつもの常客にはどう応対するのか。本日貸し切りにする? だが何とかやっと安定運営にこぎつけた店で、常客を断ったらまずくはないか。いや、そもそもこんな飲食店の話、どこがプロジェクト・マネジメントなんだ!?

だが、これは非常に面白い出題だと、わたしは思った。この話は、突発的な需要増が見込まれるケースで、どう戦略的な意思決定を下すかを問うている。その際にポイントとなるのは、経営資源が限られている、ということだ。店の従業員数も、スペースも、かまども椅子もテーブルも、そしてピザ製造の材料も、すべて『経営資源』の一種である、という風に抽象化して問題を捉えることができるかに、かかっている。

経営資源が限られている際に、どこに重点的に投入していくかという問題こそ、ポートフォリオ・マネジメントの要点である。そして、需要に対して経営資源が限られている場合、考えられる主な対応は、二つしかない。
(1)ボトルネックの資源を手配する(資源制約を緩める)
(2)顧客を選別する、
の二つである。だからこの地産地消ピザ屋の問題は、この(1)(2)の視点に気がつけるかどうか、回答者の戦略思考能力(抽象化能力といってもいい)を試しているわけだ。

ところで、わたしの見た限り、参加者のほとんどは(1)の対応策にのみ集中して議論していた。材料をどうするか、テーブルや椅子やスペースをどう広げるか、という議論で、つまりボトルネックはそうした点にあるだろう、という仮定に立っている。

しかし、(2)を明確に意識して、「観光客か常客のいずれかを選んで、他はお断りしよう」との意見は、あまり出てこないようだった。仕事(需要)が来たら、それをどうこなすかを必死に考える。しかし、顧客を選ぼう、という発想は意識に上らない。なんて技術屋的だろうと、わたしは感じた。

常客に加えて50人もの観光客が来たら、店は明らかにパンクする。無理に受け入れたら、確実にピザの味やサービスのクォリティは下がるだろう。それでも受け入れようと決めるのは、たしかにひとつ戦略的決断である。だが店の将来を考えたら、下手に今、評判の落ちるような仕事はできないのだから、顧客を選ぼう、というのもやはり戦略である。どちらがベターかは議論の余地もあろうし、たぶん正解はない。ただ、この両面の視点を持つことは、経営者として必須だ。

顧客は選べないし、選んではいけない、という思い込みは、わたし達の間に強固に存在している。顧客の中には上客も、こまった客も存在する。しかし注文しに来てくれた客である以上は、応対しなければいけない。応対すべきである。もし今かりに手一杯でも、一度断った客はたぶん二度と来ない。だから何とか応対を考えるべきだ、と。値切ってくる客とも、仕事を失わないよう、どこかで折り合いをつけるべきだ、と。

しかし、世の中にはまったく別の視点も存在するのだ。それは、経営とは顧客(のセグメント)を選ぶことである、という視点である。「経営者の仕事とは、店の前に客の行列をつくることだ」という意見も読んだことがある。客がつねに行列をなしていれば、自分のペースで、クオリティを落とさずに仕事ができるし、値切りにも応ぜず、いやな客はお断りできる。そのためには、どのような形で他社との競合から避けるか、どのような見えない参入障壁を築くか、どのような独自技術や商品を作り、どうマーケティングしプライシングていくかこそ、戦略である−−そんな見方だって、存在するのだ。

ポートフォリオとは元々、書類を束ねる紙挟みを意味する言葉だ。そこから派生して、債権や株などいろいろな金融資産の束、組み合わせを意味するようになった。さらにそこから広がって、経営資源を投入する行為自体も、一種の投資と考え、それをうまく組み合わせようとするのが、現代のポートフォリオ・マネジメントである。

経営資源はつねに、有限である。そこで、どこにどう投入するかを、選ばなくてはいけない。何かを選んだら、他は捨てることになる。捨てたり、やめたり、断ったりすることが、ポートフォリオ・マネジメントから必然的に導かれる行為である。その対象の中には、市場のセグメントや、需要や、見込案件が含まれる。

あいにく長らく不況の続いた現在、案件選別という考え方は、受注ビジネスの分野ではきわめて薄弱だ。とにかく有望そうな案件にはトライしてみる。三つでも四つでも追いかけてみる。どれがとれるかは、わからない。二つ以上とれたら、どうするかって? そんなこと、とれる前に心配しても仕方がない。取れてから考えればいい・・「とれるだけ仕事をとってはいけない」とわたしが信じるようになったのは、つい近年のことである。

わたし達はやはりもう少し、ポートフォリオの視点を持つべきではないかと思う。日本プロジェクト・マネジメント協会が、日本独自の標準である「P2M=プログラム&プロジェクト・マネジメント」の改訂3版を昨年度出したが(わたしも標準ガイドブックの貢献者の一員である)、田島氏は、「経営戦略とプログラムの間に、ポートフォリオ・マネジメントを入れるべきだった」と批判している。たしかに、上記のような状況を考えると、正当な批判というべきだろう。顧客(セグメント)を選ぶこと、そのために圧倒的な競合力のある市場を作ること、それをめざして経営資源を投入すること、そして仮想的な顧客の行列を生み出すこと。そうしたポートフォリオの視点こそ、今のわたし達が必要とするものかもしれない。

<関連エントリ>
 →「とれるだけ仕事をとってはいけない」(2015-03-03)
by Tomoichi_Sato | 2015-09-21 14:18 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)