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BOMに関するセミナー講演のお知らせ(7月3日・東京)

もう一つ、お知らせです。

来る7月3日(木)に、BOM/部品表に関する有償セミナーの講師を務めます。場所は東京・新宿です。

ご承知のとおりBOM/部品表の構築と保守は、製造業にとって古くて新しい問題です。とくに近年は、
 ・新製品開発・投入のサイクルが早くなったことと、
 ・製造のサプライチェーンが国境をまたいで海外に伸びたこと、
 ・企業買収や提携が進んでいること
などの要因が相まって、BOMの維持運用を難しくしています。

この問題は10年ほど前に一度注目を集めた時期があり、わたしもその頃、拙著「BOM/部品表入門」を上梓しました。それから10年がたちましたが、根本の問題はまだ多くの企業で未解決のまま残っているようです。ただ、昨今多少は情報化投資の余裕が出てきたことと、データ・マネジメントに関心が集まったことで、ふたたび注目されているのかもしれません。

この問題に関心のある方のご来聴をお待ちしております。

<記>

日時: 7月3日(木) 10:30~17:30

テーマ: 「BOM/部品表の基礎と効果的な活用ノウハウ・応用例 ~演習付~」

主催: 日本テクノセンター

会場: 〒163-0722 東京都新宿区西新宿二丁目7番1号
     小田急第一生命ビル22F

セミナー詳細: 下記をご参照ください
     →詳しい開催案内


 よろしくお願いします。
               (佐藤知一)
by Tomoichi_Sato | 2014-06-12 00:03 | サプライチェーン | Comments(0)

講演のお知らせ(6月17日・大阪)

6月17日(火)に大阪で、有償セミナーの講師を務めます。
主に受注生産型の工場における、納期遵守のための生産計画・統制について、事例と演習を含めてお話しします。


<記>

日時: 6月17日(火) 10:00-17:00

テーマ: 「納期遅れを起こさない 生産統制のポイント
     ~ こうすればうまくいく、受注型生産工場の生産計画 ~」

主催: 公益財団法人 大阪府工業協会
     http://www.opmia.or.jp/

会場: 大阪府工業協会研修室
     大阪市中央区本町 4-2-5 本町セントラルビル6F
     (市営地下鉄御堂筋線「本町」駅8番出口すぐ)

セミナー詳細: 下記のPDFファイルをご参照ください(「受講申込書」も兼ねています)
     https://dl.dropboxusercontent.com/u/17787880/Osaka0617.pdf


直前のお知らせで恐縮ですが、この問題に関心のある方のご来聴をお待ちしております!
by Tomoichi_Sato | 2014-06-02 23:20 | サプライチェーン | Comments(0)

Pushで計画し、Pullで調整する

わたしが以前から所属している「生産革新フォーラム」(Manufacturing Innovation Forum、通称「MIF研」)は、中小企業診断士を中心とした生産系コンサルタントの集まりである。毎年2回、工場見学を実施することをモットーとしており、昨年夏には慶応大学管理工学科の学生さんたちと合同見学会を実施したりした。製造現場をほとんど全く知らない学生と、それなりに経験を積んだ診断士では当然、同じ工場を見ても目をつけるポイントが違う。しかし学生さんにも素人ならではの意表を突く着眼点があり、交流してみるとなかなか楽しい。

そのMIF研で、もうけっこう前になるが、九州までの工場見学旅行があった。二日がかりでトヨタと日産の工場を一日ずつ回って見学し比較する、という興味深い企画で、わたしも行きたかったのだが、諸事情で参加できなかった。ただ、行ってきた仲間の報告が、とても面白い。トヨタと日産の生産方式は、用語は違うが、似ているところもたくさんある。自動車という複雑かつ大量の機械製品を扱う以上、当然のことかもしれない。そして両者とも、顧客の需要に合致したプル型生産を行っている。トヨタはこれをジャスト・イン・タイム(JIT)と呼び、日産は同期生産と呼ぶ。だが、同じプル型生産といっても、じつは根本の思想がかなり違う、というのが、見てきた仲間が語ったことだった。

では両社は、どう違うのか。ふつう、プル型生産とは、次のように理解されることが多い:需要に応じて、消費された分だけを補充して作る方式である。プッシュ型生産は、需要を予測し、生産計画を立てて製品を市場に送り出し(Push)する「見込生産」であるのに対し、確定した需要に応じて引きとられた(Pull)消費分を補充していく「受注生産」である、と。トヨタの有名な「かんばん」(引き取りかんばん)方式は、これを後工程から順次、最上流の部品材料投入やサプライヤーまでさかのぼって適用したものであり、自動車各社は呼び方は違えども似たような方式をもっている。

したがって、プル型生産を徹底するとなると、生産計画などは廃し、少量の製品在庫や中間在庫を要所要所に積んでおき、その消費された分だけを補充生産する、ということになる。事実、そういう風に部品メーカーを指導している、いわゆる「JIT生産」コンサルタントも多い。

ところが、このやり方を全社で貫こうとすると、非常に困った問題点が一つ出てくる。その問題に対するスタンスが、トヨタと日産ではほとんど正反対だ、というのが、見学してきた仲間たちの報告であった。その問題点とは何か。

それは『内示』の出し方である。プル型補充生産を徹底するためには、サプライヤーからも、「必要なときに必要なモノを必要な量だけ」納品してもらう必要がある。トヨタ風用語で言うと、ジャスト・イン・タイム納品(JIT納品)である。しかし、サプライヤーは、ドラえもんのポケットではないのだから、いわれたものをすぐ次々と宙から取り出してみせる訳にはいかない。事前の準備が必要なのだ。このために、自動車メーカーは通常、本生産の前月、2ヶ月前、3ヶ月前というタイミングで、部品別の発注量の「内示」を出す。

ところが、この「内示」とは、需要の読み(見込み)に他ならない。自動車の納入リードタイムは、ディーラーで内容・オプション等の細かな仕様が確定し注文してから、組立・製造・輸送(陸送)を含めて、最短でも10日程度だといわれている。書類手続きがはいるため、ユーザの手元に届くのは1ヶ月近くなるが、いずれにせよ、3ヶ月よりはずっと短い。だから、内示情報をサプライヤーに与えるためには、どうしても「需要の先読み」行為が不可欠になる。

ところが、当然ながらこの「先読み」には誤差が伴うわけだ。そこで3ヶ月前、2ヶ月前、前月、というタイミングで少しずつ修正をかけていくのだが、それでも、受注が確定するのはラインオフ(工場出荷)のわずか数日前である。どうしてもずれが生じる。別の言い方をすると、在庫や欠品のリスクが出てくる。そのリスクを、どうヘッジするのか。これが、トヨタと日産で逆方向なのである。

日産の場合、生産側でなんとか誤差を調整しようとするらしい。もとより在庫はミニマムだから、部品在庫や中間在庫で需要変動を吸収することは、難しい。頑張って、全工程に渡ってプル型補充生産を実行し、それをサプライヤーにも要請する。サプライヤーに手配する納入リードタイムも、いきおい短く設定せざるを得ない。リードタイムが長くなるほど、読みの誤差が大きくなるからだ。事実、別の時に、あるサプライヤーの工場見学できいた話では、96時間ほしい所を、どうしても日産は72時間しか与えてくれない、ということだった。それだけ努力しても、先行内示と、現実の発注量には、やはりけっこうな差が出てしまう。これが悩みらしかった。

ところが、トヨタのやり方は全く違う、という。まず、トヨタは意図的にバッファー在庫を持っている。自動車工場は、(1)ボディショップ→(2)ペイントショップ→(3)最終組立工程、というのが大きな工程の流れだが、彼らはペイントショップと最終組立工程の間に、バッファー在庫を置いているらしい(らしい、というのは、この部分は決して外部に見学させてくれないからである)。それ以外にも、いくつか、意図してバッファーを持っているところがある。そして、受注が確定したら順序計画で引き当てていく。まるで、デル・コンピュータのBTO(Build to Order)方式である。

日産はかんばん方式、トヨタはBTO方式」というのが、行った仲間の結論だった。日産は確定受注に同期して生産する、という思想なので、生産計画というものは予測ないし目安に過ぎず、位置づけが弱い。ところが、トヨタは工場に入ると、生産表示板に「今月の生産計画」が機種と台数で掲示されている。計画生産なのである。では、どこで計画と実需のアジャストをするかというと、大きくは月間生産・販売計画(最後は旬単位になる)で合わせて、細かな差は直前の引取かんばんで制御する、という仕組みになっている。だから生産計画の位置づけが重い。

トヨタ自動車社友(OB)で、現在は九州工業大学客員教授である黒岩惠氏は、このようなトヨタの思想を、端的に「内示でPushして、かんばんでPullするのがTPS(トヨタ生産方式)だ」と表現されている。まことに至言である。ここにあらわれているように、トヨタは決して、日産のように“100%受注生産”を志向していない。彼らは、ある部分は見込で、プッシュ生産である、と割り切っている。そして、必要とあれば、販売側に引取義務も課している。それは、トヨタ生産方式の最大の眼目である“平準化”を実現するためなのだ(これは別の機会に、トヨタの技監の方から直接うかがった話である)。

結果として、日産のやり方では、需給ギャップのリスクは生産側が負うのに対して、トヨタのやり方では、販売側が負うことになる。日産は全面的にプル型生産であるが、トヨタは実はプッシュ+プル生産だと言えるだろう。プッシュで計画し、プルで制御(調整)するのが、トヨタのやり方なのだ。

両者のどちらがベターかについては、議論もあろう。ただ、生産側と販売側と、どちらが市場に近く、どちらが需要(の変動)に敏感かといえば、やはり販売側ではないかと、わたしは考える。だとしたら、敏感な側に、より責任を持ってもらう方が合理的なのではないだろうか?


<関連エントリ>
 →「あなたの会社にトヨタ生産方式が向かない五つの理由
 →「ATO、BTO、CTO

追記:
部外者のわたしの説明では信用されない方は、富野貴弘「日産生産方式と受注生産 ―トヨタとの比較を通じて―」(東京大学ものづくり経営研究センター、2010年) も、参考までにご覧いただくといいと思う。この論文は最後に、日産はマーケットイン的な色彩が強く、トヨタの場合は「販売が安定的な生産動向に合わせる」プロダクトアウト志向が強い、と結論づけている。


by Tomoichi_Sato | 2014-02-24 22:51 | サプライチェーン | Comments(0)

モジュラー型 vs. インテグラル型--設計のアーキテクチャ再論

3年前に書いたサイトの記事「モジュラーとインテグラル - 製品アーキテクチャーの二つの方法」に、最近、読者の方から質問が寄せられた。良い質問だと思うので、ここでとりあげ、あらためて自分の考え方をご説明したい。

ご質問は、つぎのとおりだ(やや長いが、全部引用させていただく):

「車がインテグラル型アーキテクチャということは多方面で言われていることなのですが、すんなり納得ができません。

確かに、ボディ形状は独自設計ではありますが、ヘッドライトは他車種でも移植可能なものもありますし、内部のランプ単体については明かな標準規格品です。

また、ハンドルの入れ替えも(日本国内法は別として)置き換え可能ですし、ワイパーやウィンカーレバーはメーカー内で汎用品になっていることが多いです。
タイヤは規格品ですし、ホイールやサスペンションも変更可能です。確かに社外メーカーが純正品規格に合わせて作っているからであるかもしれませんが、事実上ある一定の規格があるので、市場に製品を出せているのだと思います。
カーナビやカーステレオ、スピーカーについては、配線を通じて、社外品が十分に対応していると思います。

ですので、必ずしもメーカーに閉じたインテグラルクローズもしくは、モジューラークローズであるわけではないと思うので、、、いつもすんなりと納得できずにいます。

明確な規格が存在しないからというだけで、インテグラル型だと考えるべきでしょうか?
もしよろしければ、ご助言・ご教示頂けませんか?」

最初にわたしの答えを言ってしまうと、“両者の区分は設計思想によります”、ということなのだが、これだけだと分かりにくいので少し補足させていただこう。

世の中の製品は、単純なものから複雑なものまで、いろいろある。製品が単純で、ほぼ均一の材料からなり、部品で組み立てられていない製品(たとえばモノサシだとか、まな板だとかを想起されたい)では、誰も設計アーキテクチャーについて論じたりはしない。アーキテクチャーが問題になるのは、主に後者である。つまり、複数の部位・部材ないし部品から構成されるもので、想定される機能も複数持ちうるものだ。自動車はもちろん、その代表格である。

ちなみに機能とは、製品と使い手の意思との関係で決まる。だからモノサシのような単純な道具でさえ、長さを測る以外に、紙に直線を引く定規として使う、紙を直線的に千切るのに使う、背中をかく、人の尻を叩く、など様々な「用途」で使える。このうち、設計者が想定する機能は、たぶん最初の二つ程度であろう。それ以外の使用条件は、たぶん『想定外』となる(そのことの是非は別の議論なのでここでは論じない)。ここでは、機能というものが、何か客観的な実在ではなく、製品と使用者の間で相対的にしか決まらない、ということだけ頭に置いておこう。

さて、設計とは、すこぶる単純化すると、「機能を構造に落としこむ」作業である。たとえば椅子というものを考える。椅子は、人がその上に一時的に腰掛けるためのものだ。すなわち、一定の高さに座面を提供することが、その機能である。野良仕事に行った先の、木の切り株だって腰掛ける用には足りるが、その目的で設計されたものではない。椅子を設計するとなると、まず座面と、それを支持する脚部からなる「構造」を考える。次に、座面の広さ・高さ・材質を検討するだろう。それから、その座面を支える脚をどんな形で何本にするのか、地面とはどう接するのかを決めていく。こうして構造の大枠が決まっていく。

木の切り株には構造はない。ムクの木材が均質に詰まっているだけだ。構造とは、ある全体が、均質ではない部分から成り立っているときの、その成り立ち方を指している。目に見える個体製品の場合は、その部品群の相対的な位置と接合関係で記述される。

むろん、椅子は手で持ち上げられる重さでなければならないとか、耐荷重は100kg必要だとか、回転できるようにしたいとか、背もたれも必要だとか、さまざまな設計の『制約条件』がある。この条件を満たすように、要素の成り立ち、組合せを考える。そして、個々の要素が満たすべきサブ機能や仕様を決める。

ここまで来ると、座面と支持脚をどう接合(固定)するかという、インタフェースの問題が出てくる。一体型で同じ一つの素材から削り出すという設計方針もありえるし、接着・溶接する、金具や釘で固定する、取り外し可能にする、等々、インタフェースの実現方法は様々だ。

ここで、接合箇所の形状や固定方法を社内で標準化して、いろいろな座面と支持脚の組合せを可能にしよう、と考えると、その設計はモジュラー型アーキテクチャーだということになる。これに対して、個別の座面に最適な脚の接合方法を個別に設計しよう、というのがインテグラル(すり合わせ型)アーキテクチャーである。そのどちらを選ぶかは、複数の視点からの評価が必要である。

(1)強度(頑健性):一体型が一番、強度が高い。逆に取り外し可能にすると、どうしても強度が弱くなるため、それだけの余裕シロ(安全率)を設計にみなければならない。

(2)部品材料コスト:上記の理由で、インテグラルの方が最適設計となり、ムダがないため材料コストは抑えられる。

(3)製造コスト:組立加工の手間自体は、一概に甲乙は言えないが、モジュラー型の方が同じ作業の繰り返しとなるため、習熟度は上がりやすい。

(4)設計コスト:概して、モジュラー型の方が設計の工数は少なくてすむ。インタフェース回りは毎回流用できるし、なによりモジュラー型の方は、座面だけ、脚だけという風に、独立して設計をすすめることができる。インテグラル型だと、設計も相互調整が必要だ。

(5)技術進歩のスピード:モジュラー型の場合は、ある部品要素だけを設計上で入れ替えることがやりやすいため、技術進歩が早く、次々と取り替えて製品のバージョンアップを図ることが容易となる

(6)サプライヤーの選択肢:インテグラルの場合、自社で設計した詳細図面に基づき、外部調達することになる。モジュラー型の場合、インタフェースと基本仕様だけで引き合いが可能なため、(その業界がそういう仕組みになれていれば)幅広く調達先を探すことができる

(7)ビジネスモデルとの整合性:たとえば本体価格は安く抑え、周辺付属品や消耗品を売って儲けるという方式(ジレット社がカミソリの替え刃で最初に導入した方式なので「ジレット・モデル」と呼ばれる)の場合、その部分の付け外しは可能になっていなければならない。

以上のような複数の視点から、長短を比較しながら、どちらを選ぶべきかを選択することになる。なお、(4)で書いたように、インテグラル型かモジュラー型かは、設計作業の体制にもそのまま影響する。モジュラーの方が分業と平行作業がやりやすく、また設計の流用や標準化も進めやすいのは言うまでもない。

そして、ここまで書いたように、インタフェースを社内で標準化するかどうかと、それを社外にも公開・共有するかどうかは別問題である。前者はクローズド、後者はオープン戦略と言ってもいい。モジュラーだがクローズド、という戦略も当然あり得る(ジレット・モデルはその例である)。

結局、ある製品がモジュラー型かインテグラル型かは、その製品の中核的な機能と構造が、どのような設計思想で作られているかによって分類される訳である。モノコック構造の自動車の場合、エンジンやトランスミッション、ボディなどがそれにあたる。逆に、ヘッドライトやランプ、ホイール、AV機器などは、顧客要望を取り入れやすいように取替可能となっているが、これらは自動車の周辺要素である。その部分だけ取り出せばモジュラー型に見えるが、全体構造はインテグラルである。ある部分だけ、使い分けているわけだ。

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もちろん、言うまでもないが、以上は設計思想が明確にある場合の話である。設計思想とは、設計上の判断が必要になったとき(つまりトレードオフが生じたとき)に、決断するためのガイドラインのことだ。だが、残念ながら、少なからぬ企業では、その設計思想自体が不明確だったり、部署・部位により混沌としていたりするのが実情である。その結果、従来はこうだったとか、業界の慣習ではこうだ(概して言えば電機部品業界は標準化・モジュラー化に慣れている)、といった判断がまかり通る。そして何型ともいえぬ製品ができあがる。

モジュラー型とインテグラル型を意識して使い分けるなら、それはそれで(車の場合にみるように)メリットはある。もしそれが意図した結果でないのなら--今からでも遅くない、本来あるべき設計の姿を、あらためて考え直すべきなのだろう。


<関連エントリ>

→「モジュラーとインテグラル - 製品アーキテクチャーの二つの方法
→「設計思想(Design Philosophy)とは何か
by Tomoichi_Sato | 2013-12-16 22:03 | サプライチェーン | Comments(0)

海外工場のサプライチェーン問題を考える

OKY」という言葉がある。「前が ってみろ」の略だ。日本企業の海外拠点で働く人たちが、本社の無理解に対して感じる不満とボヤキを表す隠語である。以前は一部地域で使われていたのだろうが、経済メディアなどにとりあげられて以来、全国的(全世界的?)に広まったらしい。もちろん語感としては、数年前に流行した「KY」(=空気読めない)をふまえている。ちなみに、「KY」はもともと『危険予知』活動の略語として、製造現場などで使われていた言葉だったが、今やそれを知る人は、製造業や建設業の一部だけになってしまった。

OKYという言葉は、海外の子会社と日本の本社とがギクシャクしている状況を象徴している。本社側は、海外子会社のパフォーマンスに不満を持っている。そして、あれこれと助言や指図をする。他方、海外子会社の側には、日本から派遣されてきた駐在員たちが大勢いて、日夜、悪戦苦闘している。しかし海外は(それが先進国であれ新興国であれ)日本の常識が通じない状況が多い。“なのに本社の奴らは勝手なことばかり言ってくる。まるで俺たちが無能だといわんばかりじゃないか”との感情が、OKYの隠語に込められている。

しかも、実際に海外に出て仕事をしてみると痛感することだが、今や日本という国は、海外でのプレゼンスが非常に弱くなっている。「日本抜きでもビジネスは進む」「日本を手本にしなくても国は発展する」と、途上国の多くの人はもはや考えている。『ジャパン・パッシング』(日本素通り)と呼ばれる状況である。このことが、本社側ではなかなか伝わらない。日本企業はいまだに発言力(購買力)もプレスティジ(技術的威信)も高いと思っているらしい--ここがまた、意識のギャップを痛感するポイントなのだろう。

日本企業の海外工場進出は'80年代からあったが、広まりはじめたのは'90年代後半以降のことだ。一時は中国に工場を建てるのが、ブームのようにもてはやされた時期もあった。そのブームはリーマン・ショックの前後から、多少の反省期に入り、“製造業の日本回帰”などの言葉も言われるようになった。しかし、現在でも海外生産に依存している企業は非常に多い。2011年7月の「海外事業活動基本調査」によると、製造業の海外生産比率は18.1%であり、全体の2割近くを占めている。売上高の合計は183.2兆円で、前年度比11.4%増と、まだまだ伸びる趨勢にある。海外への設備投資比率も17.1%と、ちょうど生産比率に近い数字となっている。

では、これらの海外工場は、企業のサプライチェーンの中でどのような位置を占めているのだろうか? 同調査によれば、製造業の現地・域内販売比率は、その立地によって違い、北米93.8%、ヨーロッパ86.8%、アジア75.3%となっている。つまり欧米に作った工場は、作った製品をその域内で販売する(あるいは取引先工場に納入する)ことがメインの役割である。もともと欧米への工場立地は、大量輸出による貿易摩擦の緩和対策としてはじまった面が強い。他方、アジアの工場は、元々の進出動機が「安価な製造拠点」づくりとの意識が強かった。したがって1/4は域外市場へ出荷される。

逆に、現地・域内調達比率はどうかというと、北米が65.0%、アジアが69.4%、ヨーロッパが55.6%となっている。アジアの工場の収支を見ると、部品・材料の約7割は域内で調達し、そこで作った品目の7割5分強を域内に出荷する。それ以外は、おそらくは日本から素材を持ってきて加工製造し、また日本に輸出するのであろう。

海外工場の自社内サプライチェーンにおける位置づけは、その分業の仕方によって大きく2種類に分けることができる。「垂直分業」と「水平分業」である。この用語は会社によって逆の意味にとられるケースもあるが、ここでは経産省の用法に従っておこう。「垂直分業」とは、サプライチェーンにおいて上流側に位置する、部品加工段階と、下流側(市場に近い側)に位置する製品製造段階とを、海外と日本で分担するタイプである。多くのケースでは、部品加工を海外で、製品製造を日本で行う。製品は日本から世界の市場に出荷される。

これに対して「水平分業」では、それぞれの地域で、部品加工から製品製造までを平行して行う。地域市場に密着した生産を行える点が水平分業の特徴だ。

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両者の違いは、日本と海外で持つ工場の機能の差にも表れる。垂直分業では、作るモノが違うのだから、工場の機能や工程も違っている。水平分業では、基本的に同じ機能を備える必要がある。ただし、この場合は、技術的ノウハウもかなり海外工場に移植しなければならない。

垂直分業にはもう一つのパターンがある。コアとなる部品は日本で製造し、それを海外工場にも供給するやり方だ。ノン・コアの部品材料は現地で調達するが、技術の中核となる部品は、高い技術力とスキルを持つ日本の工場がおさえておく。建設機械で有名なコマツは、この方式をとっていることで知られている。技術流出を防ぎながら、各国の地域市場に対応できる優れた方式であろう。

とはいえ、現実の多くの企業では、すでに上記の類型におさまりきれない混沌的分業パターンに近づいている。最初は垂直分業で部品加工だけの拠点だったはずが、日本市場の停滞と現地市場の成長により、現地でも次第に簡単な製品製造をはじめる。水平分業化のはじまりである。しかし、日本側は部品加工段階を海外に出してしまったために、人や設備が弱体化し、逆に垂直分業に頼らざるを得ない。だから日本への部品供給も続ける。と同時に、現地市場の成長とともに高度な製品の需要がふえるから、日本からの製品輸出も増えて・・

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というような状況だから、当然ながら工場で扱う製造品目も次第に多品種少量化が進んでいく。当初は決まった品目の部品を、そこそこ大量に加工するべく設計していた工場だから、段取り替え作業も手間がかかる。おまけに需要見込や確定受注も、本社や地域営業や顧客など、あちこちからバラバラに入ってくる。こうした中で、本社から「納期が遅い、品質も低い、コストも思ったより高コストだ、そもそも子会社自体が赤字なのをなんとかしろ」などと攻められたら、そりゃあ“OKY(お前が来てやってみろ)”とも言いたくなるだろう。

海外工場のサプライチェーンの悩み(長納期・高コスト・低品質)は、大きくいって以下の4つの原因から起こると考えられる。

(1)サプライヤーに起因する問題、
(2)顧客・販売チャネルに起因する問題、
(3)物流期間・物流品質に起因する問題、そして
(4)本社側に起因する問題(契約・規制・慣習への無理解、リスク・マネジメント原則の不在等)

そして、原因に応じた対策を講じる、というのがもちろん王道である。

しかし、問題がこじれてしまっている場合、つまり納期もコストも品質も人員も問題だらけの時は、根本原因の同定は必ずしも簡単ではない。それに、想定される根本原因が大きすぎて手をつけにくい、ということもあるだろう。本当は、サプライチェーン全体の構造をきちんと設計して、どこで需要予測情報をインプットし、どこに主なストック在庫を置き、どこから先は確定受注に紐づけて動かすか、といった方針が必要なのに、なりゆきでスパゲッティ状のサプライチェーンができてしまっているようなケースである。

この場合、まずは、サプライチェーンの状況を可視化して、問題発生を把握しやすくする、という対策が必要になる。これは本社側と海外工場側が協力した取り組みである。ただ、海外工場側が現地企業との合弁会社であったりすると、工場の内部情報をそのまま日本側に開示するのは抵抗が出てくるはずである。

したがって、共有するのは、互いのサプライチェーン的な界面に限られることになる。すなわち、需要と供給、いいかえれば、発注と納品(と出荷可能な在庫)の情報である。「見える化」というと通常、モノの動き(供給側)だけを追いかけがちであるが、じつは発注(需要側)情報とペアで扱い、どの納品がどの発注に対応しているのか、需要と供給の累積カーブはどういう関係になっているのかまでを「可視化」するべきである。ここでいう発注情報は、見込生産(MTS)や繰返し受注生産(MTO)の場合だと、『需要予測(先行内示)情報』と、『確定需要(納入指示)情報』の二種類がセットで必要になる。また、在庫情報の中では、船の上などの移動中の在庫量も、きちんと把握できなくてはならない。

こうしたシステムを構築するのは、もちろん簡単ではない。しかし、このような『サプライチェーン可視化システム』は必須だとしても、これと同時に、進めるべきことがある。

それは品質問題の可視化である。もっと簡単に言うと、「良品のみを出荷する」体制を作ることだ。海外工場の納期やコストを言う前に、まず品質を最低限確保すべきなのである。もし出荷されたモノの中に不良が多数混じっていて、下流工程で使い物にならなかったり修理再加工が必要だったりしたら、リードタイムや在庫データに、どんな意味があるだろうか? 

もしも日本側の受入検査で不良を発見できるなら、その検査機能は海外工場の出荷側に置くべきだし、さらにいえば部品加工の各工程で、不良を見つけたらその場でラインからとり除けるよう、『不良箱』か何かを設置すべきなのである。そして、不良の数をかぞえ、補修を行い、原因を分析する。それを、現場の作業者たちが自分で自覚し、できれば責任感を持つように、うながしていく。地味だが、こうした努力は製造業として欠かすことができないだろう。

たしかに工程の種類によっては、不良をゼロにするのは技術的に難しい場合もあるだろう。その時はせめて、ある目標パーセンテージまでは安定化をめざす。そして、不可避な不良リスクの分は、安全在庫でカバーするのである。サプライチェーンの可視化システムは、そうした工夫があって、初めて生きてくるはずなのだ。海外と日本、その両者の努力と協力がなければ、「お前が来てやってみろ」症候群は解決するまい。


<関連エントリ>
 →「品質とは(本当は)何だろうか - (1) 問い
 →「品質とは(本当は)何だろうか - (2) 応答
by Tomoichi_Sato | 2013-11-17 22:44 | サプライチェーン | Comments(0)

適正在庫量をはかる三つのモノサシ--個数、金額、そして日数

物置とか押し入れは、たいていの家にあるが、モノを収蔵し保管するにはいささか不便な場所である。まず、出し入れする面が一つしかない。だから、最初にしまったモノは奥に入ってしまい、最近入れたモノが手前に並ぶ。つまりFirst-in last-outである。すると、どうしても古いモノは使われないままになりがちだ。倉庫は、使用側で取り出す口と、供給側で入れる収納口を別にする、というのが工場の物流設計の基本であるが、物置というのはその原則からほど遠い。

物置・押し入れのもう一つの問題点は、モノを積みかさねて置かざるをえないことだ。押し入れは元々、日本家屋で昼の間、ふとんをしまっておく仮置きの場所だから、せいぜい天地二段のがらんどうの空間があるきりである。これをモノの収蔵に使おうとすると、どうしても積みかさねることになる。すると、下にあるモノを直接取り出せないし、何があるかも見えにくくなる。ストレージの場所は、棚にして横から出し入れ可能にする、あるいは縦に区切って上から直接出し入れできるようにする、というのが良い物流設計の基準である。この点でも物置は失格だ。あるモノを取り出すために、他のモノをいったん動かさなければならないのは、まるきり作業のムダである。

なぜこんな事を書いているかというと、ついさっき、ちょっとした日用品を探すために、押し入れ一つ分を全部出して引っかき回したからだ。たしかにあったはずだと思ったのだが、結局スーパーに買い直しに行くはめになった。なぜこんなに余計なモノの在庫があるのに、肝心のモノが見つからないのか。そのために、どれだけ時間がムダになったか。

「モノが有り余っているのに、必要なモノがない」--これは拙著『BOM/部品表入門』導入部のテーマである。なぜ、部品表の本なのに、在庫管理めいた問題からはじまるのか。答えは簡単だ。BOMデータとは、製造業の情報系のかなめとなるマスタだが、BOMに登録すべき品目とは、「在庫を管理する必要のある品目すべて」というのが原則だからである。自社の製品も、外部から購買する部品材料も、自社内でつくるモジュールや半製品も、とにかく数を勘定すべきモノはすべてBOMの登録対象となる。

逆に言うと、BOMデータが正確でないと、在庫管理もおかしくなるということになる。米国の著名な生産管理コンサルタントであるオリバー・ワイトは、かつて「在庫精度が95%を切るような企業では、MRPなどの生産管理システムを入れたって機能しない」という名言をはいた。在庫精度とは、帳面の上での数量と、現地現物の数が一致する比率をいう。つまり、在庫の把握が企業の生産管理のキモになるわけだ。

しかしながら、工場や営業所が物置同然になっている企業は、残念ながら、数多い。モノを保管したり運んだりする仕事は誰もがかかわるが、工場設計や物流管理の基本は、大学でもめったに習わないからだろう。そのために、どれほど広い範囲で生産性の低下が起きているか、誰も知らないし、わたし達の社会では気にとめる人も滅多にいない。隣近所の新興国にコスト競争で負けかけても、向こうは人件費が安いせいだ、と皆ボンヤリ思っているらしい。

では、中小企業や中堅企業で、在庫をきちんと把握するためにはどうしたらいいか。それについては1年ほど前にも簡単に手順を述べたが(「在庫問題の構造を把握するために」参照)、もう一度ここで、より詳しく説明し直そうと思う。

(1)まず、在庫品を表に出すこと

表に出すというのは、文字通り、物理的に、日の当たる場所に取り出すという意味である。積み上がっているモノは上から順におろし、奥のモノも手前からとりだして、どこか床の上のスペースに並べてみる。何と、何が収蔵されていたのかを、目で見える状態にいったんする。すると、「あ、これってここにしまってたのかあ!」「なんだ、こんな所にあったんだ。」「うへ、わざわざ何でこんなモノ、とってあんの?」といった驚きと気づきが、皆を襲うだろう。(嘘だと思ったら、お宅の冷蔵庫について同じことをやってみればいい)

(2)その上で、モノの状態と数を確認すること

ひとつひとつ目で見て、それが何であるか、使える状態にあるか、破損したり使用期限が過ぎていないかを確認しながら、数をかぞえる。すると、当然のように「これもう、使えないな。」といったモノが出てくるので、それは脇に置いて、後で処分する。正常なモノと処分すべきモノの数を調べたら、一応元の場所に戻す。

昔の人は、(1)と(2)の作業をあわせて「棚卸し」とよんだ。文字通り、棚からモノを下ろすのである。おろして、状態を調べ、数を確認して、棚に戻す(ときどき、不要なモノをすてることを「棚卸し」だと思っている人がいるが、それは誤解である)。棚卸の作業の結果、在庫品のリストができる。

(3)在庫品のリストができたら、次にそれを金額に換算すること

上記リストに単価と金額の欄を追加し、それぞれの品目について、「その単価はいくらか」を調べ、個数をかけて、その品目の帳簿上の金額を求める。お金の話になると、人は急に厳密・正確を求めて、「これはいつ・いくらで買ったんだ?」と、数年前の過去にさかのぼって1円単位で調べたがったり、「他の品目とあわせて値引きしてもらったら、単価はどう設定するべきか?」「仕掛品の単価は?」「途中で購入価格が変わった場合は平均値にするのか」といった心配をしはじめる。しかしこの作業の目的は、財務会計ではなく、在庫管理である。だから、1円単位の帳尻はむりに合わせなくてもいい。だいたいの金額イメージが分かれば、それで十分である。

だいたいの金額が表の形で分かると、あらためて、「ウーン、合計100万円近い金額相当のモノが、こんな物置の中に眠っていたのか」という具合に、まともな人だったら考えはじめる。気づかなかったら、それこそ診断士として気づきをうながせばいい。個数だけの表だと、人はイメージがつかめない。お金にすると、突如として分かりやすくなるのである。しかし、これだけではまだ十分でないのだ。そこで、さらに次のステップをとってもらう。

(4)在庫品の数量を、日数分に換算すること

たとえば月に平均25個つかう品目があるとしよう。およそ、稼働日1日につき1個である。その品物が、倉庫に100個あったとすると、実働100日分、あるいはカレンダーでいうと約4ヶ月分も在庫があることになる。

それが多いか少ないかは、もちろん一概には言えない。しかし、同じ在庫品リストの他の品目が、40日~60日程度なのに、それだけが100日を超えていたとしたら、なんだかアンバランスなことだけは分かるはずである。

もちろん、このような換算をするためには、それぞれの品目が、「平均して月に何個使われているか」を調べる必要がある。これは、あまり簡単な作業ではないだろう。とくに作業実績の記録がきちんと残される習慣のない小企業では、なおさらだ。購買の記録などから追わなければならない。

それでも、この作業は、やってみる価値のある仕事なのである。在庫量のモノサシは、(a)個数(b)金額(c)日数、の三つがある。この順番で、把握するのがたいへんになる。たいていの小企業では、(a)個数さえ、実際に目の前に並べてみないと分からない。もう少し入出庫の記録をきちんとしている中堅中小なら、(b)金額くらいまでは、計算上でおさえられるだろう。しかし、(c)日数基準までとなると、上場企業でさえ、あやしいところはいくらでも出てくる。だが、たとえ一部の代表的な品目だけでも、日数基準で把握できるようになると、在庫管理の判断レベルが格段に上がってくる。

というのは、品目間の在庫量の多い少ないの比較は、個数では難しいからだ。小さなボルト1個と、大きなフランジ1個を並べても、意味はない。モノによっては個数ではなく、リットルだとか(溶剤などの場合)、メートルだとか(ケーブルなどの場合)、計量単位すら異なる。これを金額ベースに直すと、すこし比較のベースがはっきりするが、それでも高価なモノ・安価なモノがあるため、直接比較しにくい。日数基準というのは、そういう点で、異なる品目間を比較しやすくする点で共通性があり、非常に優れているのだ。

(5)最後に、リスト上のどこまでが意図して持つべき在庫かを、考えること

このサイトで繰り返し書いているように、在庫には、計画的に持つ意図在庫と、偶発的な『できちゃった在庫』とがある。在庫品のリストを見て、どれだけが意図して持つべき適正在庫かを考えてもらう。その時に、コンサルタントとしては、例えばWilsonの公式などを教えてあげるのもいいだろうし、そこまで行かなくても、自分達で適正な在庫水準について考えてもらえば、十分意義があるだろう。ちなみに、勉強したい意欲のある人には、在庫管理の参考書として、たとえば『適正在庫の考え方・求め方』(勝呂隆男・著)などを、わたしはよくすすめている。

小規模の企業の場合、計算で適正水準を求めるのはあまり現実的ではない。むしろ、「どれとどれは在庫不要と判断し、捨てるべきか」を決める程度でいい。で、じつはこれが結構難しいのである。というのは、現場の人には職業的心配症とでもいうべきマインドがしばしば蔓延していて、あれもこれも心配だから保存して置きたがるからだ。

そこで、第三者の冷静な目が必要になる。ちなみに、冒頭の物置の例でいえば、あるリビング・コンサルタントの人に言わせると、「不要品を捨てるには、配偶者に判断させるのが一番良い」のだそうだ。自分では不安やら愛着やらで捨てられずにいるモノも、パートナーだと「これって2年も使ってないわよね。場所ふさぎだし、全然不要じゃない」という調子で、すっぱりと断捨離を実行できる、からなのだという。(だが、この調子でやられた日には喧嘩になる確率もかなり高いと思うので、だれかやってみて実効性が検証されたら、わたしも追随しようと思う)

もっとも、念のためにつけ加えておくと、在庫というのは少なければ少ないほどいい、と思っている人がいるが、それは間違いである。たしかに意図せざる『できちゃった在庫』は、できるかぎりゼロに近づけるべきだろう。しかし、需給の不一致を調整するためのストック在庫や、工程間のアンバランスを吸収するためのフロー在庫は、適正な量を持っておく必要がある(そうしないと、生産全体が急な変動やトラブルに対応する能力を失ってしまう)。その適正さというのは、大げさに言えば経営判断だが、ふつうは現場をじっと見ているミドルマネジメントが決めるべきものだろう。

「標準なければカイゼンなし」というトヨタ流の標語があるが、在庫も同じだ。『適正な在庫水準』を定め、それで業務を回す努力をした上で、次に、いかにその水準自体を下げるかについて工夫する。標準も無しに、むやみに減らせ減らせというのは、マネジメントの手順として、間違っている。当初の質問をされた方の意図はともかく、「在庫削減」ありきの表現の中に、すこしだけ懸念を感じたのである。

たしかに在庫はお金を寝かせているに等しい。しかし日本は今のところまだ低金利状態にあるし、企業も自前の資金を持っているところも多い。最近、『社長が「在庫削減! 」と言い出した会社は成長しない』という、いたって刺激的なタイトルの本を書かれた畏友・本間峰一氏も指摘するように、日本では上場企業の約半数が、無借金経営状態に近づいているのである。つまり、手金で投資できる訳である。ならば、適正な在庫というモノの形に投資するのも、賢いあり方の一つではないだろうか。


<関連エントリ>
 →「在庫問題の構造を把握するために
 →「超入門・在庫管理 在庫ゼロは危険な目標
by Tomoichi_Sato | 2013-10-27 18:58 | サプライチェーン | Comments(0)

講演のお知らせ(10/30, 11/3)

直前のお知らせになってしまいましたが、東京と沖縄で講演を行います。いずれもサプライチェーン関係のテーマです。

1.「生産システム見える化展」

日時:10月30日(水) 16:00-16:40
場所:東京ビッグサイト東3ホール内 特設ステージ

演題:「サプライチェーンの強者戦略を考える
~ あなたの会社にトヨタ生産方式が向かない5つの理由」

上記「生産システム見える化展」は、『ものづくりNEXT↑ 2013』という大きな展示会の一環です。
そこで、NPO法人「ものづくりAPS推進機構」(通称"APSOM":わたしも理事を務めています)が、『計画・同期化とITカイゼン・コーナー』という企画を持っており、初日のセミナーの一コマを担当いたします。

 http://www.jma.or.jp/next/attendance/program.html#ItKaizenSeminer

ご都合がつくようでしたらぜひお立ち寄りください。
なおセミナー自体は無料ですが、一応定員があるため、可能でしたら上記URLから事前登録をお勧めします。


2.日本経営工学会 生産物流部門 第1回国際ワークショップ

日時:2013年11月3日(日) 11:00~11:30(予定)
場所:ホテルムーンビーチ 沖縄県国頭郡恩納村字前兼久1203

演題:「サプライチェーンの形態分類と強者戦略

こちらは学会の国際ワークショップです。下記URLの案内は英語になっていますが、わたしの口頭発表は日本語で行うつもりです。
 http://www.jimanet.jp/news/workshop/20131025/4663

わたしの発表以外にも、慶応大学の山口高平教授によるオントロジー工学の話(これがなぜ生産物流に結びつくのかは聞いてのお楽しみ)、渡辺幸三氏によるオープンソフトウェアの生産管理システムの発表、座長である慶応大学・松川弘明教授によるサプライチェーン・リスクマネジメントのための可視化システム、など興味深い発表が沢山あります。
場所が場所だけに、ふと思いたって立ち寄れる方は少ないと思いますが(^^;)、一応お知らせしておきます。
参加費: 10,000円

以上、ご案内まで。


佐藤 知一
by Tomoichi_Sato | 2013-10-25 14:14 | サプライチェーン | Comments(0)

セミナー講演のお知らせ:「生産スケジューリングの基礎と海外工場を含むリードタイム問題の解決」

お知らせです。

11月5日(火)10:30-17:30 に、ほぼ1日かけて有償セミナーの講演をいたします。

「生産スケジューリングの基礎と海外工場を含むリードタイム問題の解決
~生産・在庫計画、グローバル・サプライチェーン、ジャスト・イン・タイムの定石を学ぶ~」

というテーマで、文字通り生産スケジューリングの基礎とジャスト・イン・タイム生産システム構築の定石についてお話します。詳細は、下記をご参照ください。

  http://www.j-techno.co.jp/infos/view/6841/

わたしのセミナーですから、当然「トヨタの真似をすれば万事解決」というような事は言いません。生産の問題に魔法の杖はない、というのがわたしの考えです。

したがって、在庫理論の入門からはじめて、各業界のサプライチェーンの特性に根ざした『生産システム』の設計を“そもそも論”から考え直し、自社に適用してみよう、というお話になります。多少、手を動かした演習も交える予定です。

有償で恐縮ですが、一日仕事場を離れてじっくり学び考えてみたい、という方におすすめできるセミナーにするつもりでおります。ちなみに今年は3回めで、昨年はトヨタ自動車の方も参加されたのでちょっと驚きました。

こうした問題に関心のある方々のご来聴を、心よりお待ちしております。


佐藤知一
by tomoichi_sato | 2013-10-09 04:54 | サプライチェーン | Comments(0)

製造業とITをつなぐミッシングリンク - BOM(部品表)の問題

最近、拙著「BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)」の重版の知らせを出版社から受け取った。累計7,400部になるらしい。発刊が2005年初頭だから、8年間かかってやっとこれだけの数字だ。でも、ビジネス書は3千部売れれば及第点のレベルと言われから、まあまあの部類ではあるだろう。多くの方に受け入れていただけたことに、感謝したい。それに、編集担当の方によると、8年以上もの期間にわたってジワジワ売れ続けるのは、こうした分野では珍しいらしい。

それにしても、最近、あらためてBOMが関心を集め直しているのではないか、と感じることがある。今年は二回もBOMに関して講演の依頼を受けているし、本書の増刷もある。もっと驚いたのは、数ヶ月前だが、電車ですぐ隣の人が「BOM/部品表入門」を読んでいたことである。本は何冊か書いているが、初めての体験だ。思わず、「著者ですが」と挨拶をしてしまった(^^;)。相手の方は、SI業界の方で、BOMに関して勉強するため読み始めたとのことだった。

本を書き始めた2004年の頃は、BOMに対する関心が産業界で高まっている時期だった。自動車会社が膨大な労力と費用をかけてBOMを再統一するプロジェクトをはじめたり、電機メーカーが大変な苦労をして部品の品番統一を行ったり、というニュースが報じられた。また本書に前後して、やはりBOM関係の著書や訳書が刊行されたりしていた。

ところがその後、しばらく鎮静期というか、BOMがあまりメディアに取り上げられなくなる時期が続く。そして最近になってまた、再び注目が集まっているように感じられる。これは、何故だろうか?

その答えを考える前に、ちょっとここで読者諸賢にクイズを出してみたい。以下の問に、みなさんならどう答えられるだろうか。いずれも、日本の製造業の姿をあらわす数字だ:

 GDPに占める製造業の割合 = ? %
 製造業ではたらく就業者数 =  ? 万人
 製造業の従業員あたりIT費用 = ? 万円/年

これらの質問は、今年3月に開催した「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」でBOMに関する講演をしたとき、イントロに使った問題である。さて、日本全体のGDPに占める製造業の比率は、何%か。“ものづくり日本”と謳われ、製造業が日本の産業をリードする、あるいは輸出の主軸である、と考えられているわたし達の経済で、さてどれくらいの割合を占めているのか。半分? 7割? それとももうちょっと小さく4割程度?

じつは、日本のGDPの中の製造業の比率は、2008年に19.8%となり、すでに2割を切ったのである。意外に思われる方も多いだろう。モノづくりが倒れたら日本が滅びる、みたいな論調をよく聞かされるが、ちょっとオーバーなことが分かる。メディアも感覚論だけでなく、こうした数字をおさえて報じてくれるといいのにな、と思わないでもない。

なお、ドイツの製造業GDP比率=25%、米国=12%、EU平均=20%である。ドイツはさすがに今でも製造業大国だと分かる。米国の製造業の衰退は、残念ながら数字から見ても本当である。日本はEU全体の平均に近い。

ただ、2割を切ったといっても、日本はGDP規模でまだ世界第三位の経済大国であり、他国と比較すると、やはり大きい。ちなみに日本のGDPは約480兆円。計算がしやすいように、だいたい500兆円と覚えておこう。製造業はその2割だから、毎年100兆円も稼いでいるのだ。ちょっとした国の経済規模より、ずっと大きい。

では、二番目の問は? 研究部会では「5万人くらいかな」と答えた方がおられたが、それでは少なすぎる(トヨタ一社だってそれより多い)。こういう問題を考えるには、概算と類推を活用する必要がある。いわゆる「フェルミ推定」である。GDPに占める製造業の割合は、2割だと分かった。日本の人口は、1億2千数百万だ。ここも、計算が簡単なように、1億2千5百万人と記憶しておこう。そうすると、その2割=1/5だから、2千5百万人が製造業のカバー範囲か。ただし、これは赤ん坊からお年寄りまで、全人口が入っている。就業者となると、生産年齢で、失業者ものぞかなくてはならない。エイヤっと半分にして、1,250万人でどうだ!

ま、惜しいところである。実際の答えは、1,030万人なのだ(2010年度の統計)。ちなみに日本全体の全就業者数は、6,246万人である。総人口の約半分で、ここのエイヤは合っていた。どこが違ったかというと、GDP比率と比例していない点だ。6,246万人中の1,030万人は、16.5%にあたる。製造業は、GDPでは全体の1/5だが、就業者数では1/6しかいないのである。

GDP比率よりも就業者比率の方が小さい。これはすなわち、製造業の方が一人あたりでは余計に付加価値を稼いでいることを示している。経済効率が高いのである。他の産業、すなわち流通業やサービス業などの方が、一人あたりの生産性が少し低い。

それでは第三問、製造業の従業員あたりIT費用は年間でいくらか? 答えをいってしまうと、43.2万円(2010年)である。これは多いと思われるだろうか、それとも少ないだろうか? これも、他と比較すると分かる。全産業平均のIT費用=57.8万円/人・年なのである。「いや、俺、そんなに使ってないから」などといわないでほしい。これは、配備パソコンの購入代金から、基幹システムの開発運用費、保守その他の労務費外注費、デジタル通信費用まですべて含めた金額なのだ。ユーザの目に見えない費用が全部含まれていることに注意してほしい。

さて、全産業の平均に比べると、製造業は75%、つまり3/4しかIT費用が使われていないことが分かった。問題は、これを、どう見るかだ。製造業はITを効率よくつかっているから、一人あたりの費用が少ない? わたしは、そう見ない。工場現場労働者というブルーカラー職種の人数まで入っているから、平均値が下がっている? だが、流通サービス業だって、相当に単純労働者を抱えている。他業種は派遣や外注など非正規雇用者を多用しているから、分母が小さい? いや、分母は正社員数ではなく就業者数であることに注意してほしい。

わたしの見方は、もっと単純である。製造業は、必要なIT費用を十分に使っていないのだ。どれだけ必要かは、無論、業態による。業種の中で最高なのは金融保険業の163.2万円だが、製造業はそのわずか1/4である。では、製造業の業務は金融や流通よりもずっと単純なのか? そんなことはない。むしろ、業務プロセスの幅でいうと、製造業は流通やサービス業よりも、ずっと大きい。受注・設計・製造・検査・物流・保全・販売・購買・在庫・経理・人事・・・(流通業は、これらの内、販売以降の部分だけをカバーすればすむ)。つまり、製造業の情報化は、業務が多くて複雑なのだ。

製造業にIT化費用の支払い能力がない、単価が安い、という訳でもない。わたしの経験では、流通業よりもむしろ発注の査定はリーズナブルである。だったら、なぜSIerはもっと製造業をターゲットにしないのか? いい顧客ではないか。

その大きな理由は、じつは「製造」という業務に対する敷居の高さにある、とわたしは見ている。会計や、販売管理や、発注検収システムを得意とするIT会社はたくさんある。しかし、製造となると急に出足が止まる。なんだかややこしいし、製造現場はうるさくて煙臭くて縁遠い。だいいち工場なんて妙に不便な田舎にあるじゃないか。

おかしなことに、肝心の製造業の情報システム部門の人たちも、しばしばそう感じているらしい。本社でERPやCADシステムを導入することには熱心でも、工場の製造実行システム(MES)などは案外、製造部門任せだったりする。製造部では、若手でちょっとパソコンに詳しいような技術者が、見よう見まねで設計書を書いて開発したりする。これできちんと情報化が進むわけがない。その結果が43.2万円なのだろう。

そのようなやり方は、そろそろ限界に近づいている。なぜなら製造の海外展開が近年急速に進んで、部品・製品のサプライチェーンが工場の壁をまたいで海外まで伸びてしまったからだ。おかげで、どこに何がいくつあって、どれをいくつ作ればいいか、ひと目で分からなくなってしまった。製造業の計画の鍵、中心となるマスタデータはBOM(部品表)である。この部品表という革袋が古くなって、海外展開という新しい酒を入れることができなくなってきたのである。

だったらば、そろそろITのプロに任せればいいじゃないか。製造業が全産業の平均並みにIT費用を使うとすると、57.8―43.2=14.6万円/人・年の潜在需要がそこにあるはずだ。就業者数1,030万人をかければ、毎年約1.5兆円の市場である。これは、IT産業から見ても、非常に良いマーケットだろう。大丈夫、製造業は年間100兆円のGDPを生み出している。念のためにいうが、売上100兆円ではない。付加価値額の合計が100兆円なのである。1.5兆なんて、そのわずか1.5%にすぎない。もし、1.5%のIT投資をして、それで年間3%の生産性アップが得られるなら、ものすごく引き合う話ではないか。

じつは、その素晴らしい見合い話で問題となるのが、BOM/部品表なのだ。多くのシステム屋さんの「躓きの石」が、部品表らしい。なんだか構造もややこしいし、数も種類も多くて訳わからない・・。

別に、そんなことはないのですよ。たしかに見かけはややこしいけれど、それは顧客のデータモデルがしっかりしていないだけかもしれない(だってITのプロが作ってこなかったのだから)。だから、そこさえきちんと押さえれば、あとは論理的に展開できる。そして、製造業のいいところは、業務が理屈どおり進むことなのだ。

わたしは自分の本が売りたくて、こんなことを書いているのではない。日本の製造業は今、明らかに質的転換の曲がり角に来ている。贅肉体質の企業はすでに淘汰が進み、よく考えて行動しているところが(規模の大小にかかわらず)生き延びる時代に入っている。そのボトルネックは、製造・物流のIT化なのだ。わたしはぜひ追加の1.5兆円市場が生まれて、それがGDP全体の拡大に寄与するようになることを望んでいる。その動きに、拙著がちょっとでも貢献できれば、望外の喜びなのである。
by tomoichi_sato | 2013-09-29 17:03 | サプライチェーン | Comments(1)

トヨタ生産システムとは、じつはトヨタ生産&販売システムである

数年前、中東のある国で、大手自動車ディーラーを訪ねたことがある。そこで働く日本人の方のお話を聞くためだった。名前をS氏としておこう。その会社はトヨタ車の販売も多く手がけており、トヨタのOBであるS氏を社内指導に招いていたのである。訪問の主目的は当該国のビジネス事情と官庁との関係をヒアリングすることだったが、氏がご自分がしてこられた事について、淡々と話されるのを聞くうちに、次第に驚嘆の気持ちがわたしの中でふくらんでいった。以下はその時に聞いた話だ(ただし差し障りがないよう、本質的でない点は少し変えてある)。

S氏はもともと、人材育成と社内教育のために、その2年ほど前に呼ばれたのだった。車のディーラーは、業容が拡大すると、売ったらそれで終わり、では済まなくなる。まず、補修用のサービスパーツを自分で手がける必要が出てくる。さらに売上が増えると、自社で保守点検の修理工場を持つことになる。他の不慣れな整備屋に直されて下手に故障されるより、正規ディーラーが修理を手がける方が車の寿命も伸び、結果としてビジネスの評判も良くなるからだ。

かくして、その会社も全国に何箇所かメンテナンス・ショップを持つことになった。そうなると、整備工の教育訓練が大事になってくる。本社に教育研修のためのセンターを作り、きちんとしたプログラムのもと、全国から集めた整備工を育てることになった。そのセンター長として、S氏が招聘されたのである。

ちなみにS氏は、長く海外営業畑を歩いてこられ、アジアの関連会社にも何年かおられたとのことで、英語に関しては全く問題ないようだった。中東では大学教育は英語でやるから、社内でホワイトカラーと仕事をする際には大きな不便はない。もちろん、S氏は技術者ではないから、実際の技能訓練は部下の指導員たちに任せることになる。そして、技能工以外の、社員各層への教育育成もS氏の責任範囲だった。

わたし達は、S氏のオフィスで話を伺った。ミーティングもできるような細長い部屋の隅にデスクをおいて仕事をされている。背面の壁には、模造紙大の大きな紙に、工程表のバーチャートが描かれていて、縦にイナズマ線が引かれている(これが実は毛糸をピンで留めたもので、進捗を確認し、イナズマ線を引き直すのが簡単にできるようにになっている。まことに典型的な、「目で見る管理」である)。

ところで、S氏が着任直後にやったのは、社長のところに直談判にいくことだった、という。なぜか。--S氏の最初にすべきことは、育成のプログラムを作り、指導員たちをまず育成指導することだ。そのため、自分の部門の方針を立てる必要がある。ところが、「驚いたことに、この会社には各部門の方針がなかったんです。それというのも、会社全体の年度方針を社長が出していないからです。つまり、経営をしていなかった。」 そこで、まず社長に、方針管理の重要性を説いて聞かせ、何度か説明し説得し懇願した結果、ようやく全体方針ができた。それを元に、教育研修センターの方針も具体的に作ることができるようになった。

その次にS氏は、センターの方針を部下の指導員や中間管理職たちに下ろして、それぞれの担当セクションの方針と目標をつくらせた。むろん、これがまた一苦労。誰もいままでそんなことをしたことが無かったからだ。右から入ってくる顧客の注文や上司の命令を、左にふって指示すれば、それで仕事をした気になる人たちばっかりだった。S氏はしかし、倦まずひるまず、方針管理を彼らにも貫徹する。年度目標ができたら、今度はそれを時間軸に沿って、どういう手順でどれだけ達成していくかを決めさせる。その結果が、S氏の背中に貼ってあった工程表なのだ。

さらにS氏は、(たしか2週に1度だったと思うが)定例ミーティングで全員を招集した。進捗状況と問題点を報告させるためだ。ただし、ミーティングの冒頭には必ず、このセンターのミッションを全員に大声で復唱させる。ミッション・ステートメントは英語でわずか2行程度の簡潔なもので、部屋の入り口の上に紙で貼ってあった。もちとん、S氏も一緒に大声で唱える。知的な読者諸賢にとって、こんなやり方はひどく体育会的に見えるだろう。しかし、こうすれば、必ず全員の頭の中に、「自分たちの仕事の目的、役割は何か」が刷り込まれる。議論がもつれた際には、このミッションに立ち戻って、何が一番大事かを再確認する。

進捗が2回以上滞っている場合は、何か大きな問題か障害が起こっていると判断し、工程表のイナズマ線の該当箇所に、赤い大きな印をピンで留める。わたしが見たのは2年目の終わりで、ピンの数は2箇所だけだったが、きっと初年度のイナズマ線はもっとぐちゃぐちゃだったに違いない。そして問題点を分析し、解決策をこうじる。「この、問題原因の分析というのも、正しいやり方があるんです」とS氏はいう(原因分析は、有名な「なぜなぜ5回」をやるのだと想像するが、たしかにこの「なぜなぜ分析」は、下手にやると、意味ある分析結果が出てこない)。

S氏はもちろん、自分でも研修の講師をする。営業、輸送、保全などの社員に、小さなオモチャのようなキットを使い、グループで演習をさせながら、トヨタ生産方式の中核である平準化生産の意義を教える、という。やってみればわかるとおり、多くの製品をかためて一度に作るより、少しずつ平準化して作る方が、販売も物流も生産も、ずっと効率がいい。その分、とうぜん安くなる。だから儲かる。「営業がどいういうふうに売れば、生産コストが安くなるのか、ゲームで皆が納得するのです。」

この話を聞いたとき、つくづくトヨタとは空恐ろしい会社だと思った。この方は営業畑の人なのだ。それが、自社の生産システムをきちんと、他人に伝わるように、説明できる。では、日本の製造業で、営業マンが自社の生産の仕組みを外部に説明し、なおかつ、「生産コストが安くなるような売り方とは何か」を語れる企業がどれだけあるだろうか? 営業は営業、生産は生産。それは二つの別の組織。そう思っている会社がほとんどではないのか。

営業は、工場が作ったものを売りさばくのが仕事。技術のことに口出すべきではない。--それが、高度成長期の感覚だった。時代は下り、今は逆に、「工場は、営業がとってきた案件を文句言わずにこなすのが仕事。急な追加も変更もお客様あってのこと、微妙なセールスのことに口を出すんじゃない」、という会社も増えた。だが、両者に壁があるのは変わりない。営業は大げさな販売計画を立てる。工場はその数字を信用せずに、鉛筆を舐めて別の数字で生産計画を立てる。そういう会社を、わたしはいくつも知っている。

ライバルと目される、あるメーカーにいたっては、「自分のとこの営業マンは、トヨタほどセールス力がないから、平準化してなんか売れない。だから、どんな注文がいつ飛び込んできても、すぐに対応できるよう生産側だけで工夫するのだ」と発言する人までいる。トヨタからみれば、こんな状況はお笑い種のはずだ(もちろん、口には出すまいが)。その方針のおかげで、どれだけサプライヤーが振り回されることか。結果、どれだけ生産コストが上がっていることか。

トヨタが成長したのは、カリスマ的なリーダーが衆愚を統率したからでも、ユーザーにしびれるようなエクスペリエンスを与える画期的新製品を連発したからでもない。アメリカ市場で現地生産を始めたのも、大手の中では一番遅かった。今の経済メディアがふりまく「企業の成長に必要なのはカリスマ・リーダー、画期的製品、グローバル化だ」という論調は、どれも当てはまらないのだ。

彼らの真の強さとは、営業と生産がちゃんとかみ合って動いていることにある。このことに、多くの人は気づいていない。それは、ある意味、大野耐一氏が「トヨタ生産システム」と名付けたことに始まるのではないか。これが「トヨタ生産&販売システム」と名付けられていたら、もっと世の中の理解は進んでいただろう。そしてまた、いわゆるJIT生産コンサルタントたちも、その意義を十分宣伝していないように思われる。というのも、JIT生産コンサルの多くは、トヨタ系列のサプライヤー指導で生計を立ててきたからである。トヨタ本体の販売が、きちんと計画通りに売って、ブレの少ない先行内示を保証してくれるから、部品メーカー側も安心して、小ロット生産やシングル段取りなどの現場カイゼンに精を出せるのである。まともな販売があってはじめて、生産のあるべき姿が決まるのだ。

それにしても、S氏の仕事ぶりを見て、改めてその徹底ぶりに感じ入った。わたしは決してトヨタの崇拝者ではない(車も別の会社のものに乗っている)。ただ、尊敬はする。あの会社は、上から下まで、販売の末端から製造の最上流まで、どこまでも首尾一貫しているのである。それが、「システム」というものの強さなのだ。そのことを、世の中の営業系の人たちも、もっと知って欲しいと思う。トヨタ生産システムとは、トヨタの生産&販売システムなのである。


関連エントリ:
→「あなたの会社にトヨタ生産方式が向かない五つの理由
by Tomoichi_Sato | 2013-08-25 13:03 | サプライチェーン | Comments(0)