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物流センターとは何か

物流センターとは何か。それは、物流のセンターである・・と答えたら、正解だろうか? 

物流とはモノの流れ、すなわち販売者(生産者)から消費者へのモノの移動と輸送のことを指すのが普通だ。だとすると、産地も消費地も全国にちらばっているのだから、物流に「センター」があるというのはおかしな話ではないか。全国をカバーするJRの鉄道に、どこか「中心」があるだろうか。全国の高速道路網の、どこがセンターなのか?

もちろん、そんな意味ではない。物流センターとは、企業あるいは商品(群)にとっての、物流のハブなのだ。「ハブ&スポーク」の意味はご存じだろう。ハブはものの流れの集まる焦点であり、またそこから流れが出る中心である。つまり、モノが大量に・頻繁に出入りする施設をいう。そこにモノを在庫・保管し、そこから仕向先にモノを出荷する機能を持つ、施設。これが物流センターだ。モノを分配・配送する拠点。英語ではDistribution Centerなどともいう。

この物流センターとは、具体的にどのような仕組みのものだろうか。念のため、ネットで検索すると、いろいろな解説が出てくる。たとえば、保管のための倉庫と棚が並んでいて、云々と。では、物流センターと倉庫とは同じものなのだろうか? あるいは、中をフォークリフトやコンベヤが走り回っている写真や図もある。どうやら中でモノがけっこう動いているらしい。それはなぜか? そして、自動倉庫や自動ソーターなど機械化されたマテリアル・ハンドリングの設備も紹介されている。では、高度に自動化されていないと物流センターとは呼べないのだろうか。もちろんそうではあるまい。

物流センターとは何かをわたしが説明するとしたら、どんな設備や機械が並んでいます、みたいな工場見学的な解説ではなく、それがどういう機能を持つシステム(仕組み)なのかを言うだろう。

まず、そもそもどうして物流センターなるものが出現したのか。その昔、つまり昭和の高度成長の初期には、明確な物流センターという種類の施設は無かった。工場の倉庫がそれを代用したのである。いや、第一その当時は、『物流』という言葉すらなかった。意外に思うかもしれないが、物流は「物的流通」という語を略して生まれた言葉で、当初は流通という概念しかなかったのだ。もちろん、モノを動かしたり保管したりする作業自体はあった。だが、それには独立した名前がなかった。「流通」という業務に含まれると思われていたのである。

流通とは、生産者からモノを仕入れ、消費者に届け、代金をいただく仕事である。戦後しばらくの間は物不足時代であり、モノは作るはしから売れていった。そのころは、流通・販売は製造業に従属する、一段下に見られる仕事であった。しかし高度成長を経て、次第に市場が成長に向かうにつれ、だんだんと販売側の力が強くなっていった。その中で、商流とモノの流れの分化が進んでいく。こうして物流という独立した職域が認知されるようになる。

とくに、平成に入って、一般消費財や部品類の海外生産が進み、アジアなどからの輸入が増えると、港で荷揚げした物品をいったん受け入れて、集中的に保管・開梱・出荷する施設が必要になる。かりに国内生産を続けている場合でも、複数工場の倉庫にバラバラに保管しているよりも、一カ所に集めて、需要の気ままな変動に耐えやすい形にした方が、効率的だと考える企業が増えた。これが物流センターの増加の原因である。

もともと、物流とは、生産と消費のギャップを埋めるための機能である。生産地と消費地の不一致を埋めるために、輸送という機能が必要になる。また、生産の時期と消費のタイミング・季節のずれを埋めるために、在庫という機能が必要になる。さらに、生産は大ロットでの効率を望むのに対し、消費者は小口でしか買わない。ここに、切り分けや梱包などの物流加工機能が必要になる。

そしてもう一つ忘れてはならないギャップがある。それは、消費者は普通、単品だけを買うことは少ない、という事実だ(とくに企業がモノを購入する場合は)。つまり、複数種類の物品をまとめて注文し、配送するニーズが生まれる。そのためには、物品を取りそろえる業務、すなわち『ピッキング』機能が必要となる。

今日の物流センターは、基本的にピッキング作業が機能的な中心である。ピッキングをはさんで、その上流側には、
・入荷機能、
・保管機能、
・物流加工機能
などがあり、そして下流側には
・出荷機能
がある(もっとも、場合によってはピッキングと物流加工の手順が逆になるケースもある)。

それぞれの機能を果たすためには、作業と、その作業場所・設備がいる。そして、それらを統括するための、倉庫管理システム(WMS = Warehouse Management System)を持っているのが普通だ。図にすると、以下のような姿になる。
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ピッキング作業のためには、通常、何らかの形で、ストックされたモノが並ぶ棚が必要である。棚でなく、パレットを平置きしたり、パレットを段積みしている場合もある。だが、いずれにせよ、その保管場所にアクセスでき、モノを取り出せるスペースがいる。これをピッキング場と呼ぶ。ピッキング場におけるモノの位置は、きちんとロケーション管理されていなければならない(さもないと、人が一々毎回モノを探して歩かなければならなくなる)。

ピッキング棚やピッキング場が、そのままモノの保管場所を兼ねる場合もある。だが、物流センターが大規模化し、物流量が大きくなると、保管庫とピッキング場は場所を分けた方が効率的である。ピッキング棚は、どうしても人やフォークリフトなどがアクセスする間口をあけておく必要があるし、異なった品種のモノを上下に重ねて積むわけにはいかない。まして、先入れ先出しや保管期限の管理が必要な物品の場合、どうしても棚入れと取り出しの二面アクセスがほしくなる。保管の視点で考えると、スペース効率に制限が生じるのだ。

そこで、中期的な保管場所は別に確保し、ピッキング場には、そこから短期的に必要な量だけを補充していくようなやり方の方が効率的になる。かくして、物流センターの中にも、結構な量のモノの移動と流れが定常的に生まれることになる。それに伴い、コンベヤーなどの搬送設備がいるようになるかもしれない。あるいは、手間のかかる人的なピッキングではすまない量の場合、コンベヤと組み合わせた自動ソーター(仕分け機)などの機械設備もいるだろう。保管庫も、立体自動倉庫のような仕組みが有用だろう(とくに敷地面積の限られた日本では)。

だが物流センターの基本になるのは、保管庫とピッキング場であり、そこに働く人やフォークリフトなどの動線である。

ついでにいうならば、物流加工の指示を出すためには、物流のBOM(部品表)が必要である。たとえば、入り数12個のカートンボックスでは、1:12という員数比による、個品とダース箱の親子関係の定義がマスタ情報になければならない。

BOMがあり、加工材料の入荷・保管機能と、加工後の品目の保管・出荷機能がある、という点では、物流センターはある意味、工場と相似形であることが分かる。むろん、加工作業のしめる重要性とボリュームは大違いである。だが、抽象化して考えれば、両者には共通性がある。ということは、工場の設計と物流センターの設計には、互いに学び合えるところがある訳である。

物流センターの規模を示す指標としては、SKU(Stock Keeping Unit)の数がしばしば用いられる。SKUとは、センターにおいて扱うモノの種類を示す用語である。物流センターでは、同じ品目(たとえば単3乾電池)であっても、個品か、2個パックか、4個パックか、1ダースパックか、1ダース箱入りか、といった包装形態によって、別の種類として扱わなくてはならない。これをSKUと呼ぶのである。SKU数が多いセンターほど大規模であり、棚数も多く、ピッキング動線も複雑になるため、それなりの設計上の工夫がいる。

もっとも、上に説明したのは在庫機能を持つ、ストック型の物流センターの仕組みである。物流センターの中には、在庫を原則持たず、入荷した荷物を積み替え・振り分けて出荷するだけの「トランスファー型」物流センターも存在する。センターがどのタイプになるかは、基本的にどの業種が保有する施設かで決まる。

サプライチェーンの中には、
・製造業、
・流通業(卸)、
・運送業、
・小売業、
という4種類のプレイヤーがいる。この中で、基本的に運送業だけは在庫を保有しない。だから、運送業の物流センターは、トランスファー・センターになる。

それ以外の業種は、自分で在庫ストックを持ち、(大小の差はあれども)在庫陳腐化リスクを抱えつつ、それをテコに利益を得ている。だから、基本的にはストック型の物流センターを運営することになる。その立地や大きさなどは業種や商品特性によりまちまちであるけれども、サプライチェーンの中における重要性は、今後とも増えることはあっても減ることはないだろう。


<関連エントリ>
 →「ピッキングとはどういう仕事か」(2015-05-12)
by Tomoichi_Sato | 2015-06-15 22:51 | サプライチェーン | Comments(0)

お知らせ:納期遵守のための1日セミナー(7月4日・大阪)

来る7月4日(土)に、大阪府工業協会で納期遵守をテーマとした1日セミナー(有償)を行います。昨年からはじめたセミナーですが、幸いにもご好評をいただいているため、第3回の開催となりました。

製造業の実務家向けに、主に受注生産型の工場における、納期遵守のための生産計画と統制(コントロール)について、理論・事例と演習を含めてお話しします。

拙著「革新的生産スケジューリング入門―“時間の悩み”を解く手法」や「BOM/部品表入門」をお読みになった方はご承知の通り、わたしは具体的なテクニック論のみならず、原理・原則に関する体系的な理解を重視しています。そのため、生産活動全般を『システム』としてとらえ、その生産システムをより良く運用するにはどうしたらいいか、より上手に設計するためには何に留意したらいいを考える『システムズ・アプローチ』をとります。
したがって業種分野については、わりと間口を広くとってお話しできる点が特徴です(もちろん、ここでいうシステムとは仕組みのことであり、コンピュータのことではありません)。

普通の現場改善コンサルタントの講義に、飽き足りない気持ちでおられる技術者の皆さんのヒントになればと思っています。関心のある方のご来聴をお待ちしております。


<記>

日時: 7月4日(土) 9:30-16:30

テーマ: 「納期遅れを起こさない 生産統制のポイント
     ~ こうすればうまくいく、受注型生産工場の生産計画 ~」

主催: 公益財団法人 大阪府工業協会
     http://www.opmia.or.jp/

会場: 大阪府工業協会研修室
     大阪市中央区本町 4-2-5 本町セントラルビル6F
     (市営地下鉄御堂筋線「本町」駅8番出口すぐ)

セミナー詳細: 下記のPDFファイルをご参照ください(「受講申込書」も兼ねています)
     https://dl.dropboxusercontent.com/u/17787880/OsakaSeminar-20150704.pdf
by Tomoichi_Sato | 2015-06-12 23:45 | サプライチェーン | Comments(0)

マテリアル・コントロールとはどういう仕事か

ちょっと前にも書いたことだが、拙著『BOM/部品表入門』のサブ・タイトルは「マテリアル・マネジメント改革の基本技術」と帯に銘打っている。BOMは製造業における中核的な情報であり、モノの供給・流れ・消費を司っているからである。だが実際には多くの企業において、同一社内にE-BOMやM-BOMなど複数の部品表が存在し、その間に不整合や矛盾が絶えない、といった問題が見受けられる。あるいは逆に、マスタが存在しないまま設計図や発注書が作成され、いざ組立の段階になってから、どれがどれだか分からぬ混乱状態に陥ったりしている(受注設計生産の業態に多い)。だからBOMの諸機能と重要性について社内で認識し、オーナーシップをとりもどそう、というのがこの本の主旨である。

ところで、わたしはこのサイトで「マネジメント」と「コントロール」を区別して使っている。マネジメントはコントロールのいわば上位概念である。であるから、マテリアル・マネジメントとマテリアル・コントロールも、別の仕事と考えている。マネジメントの原義は「人を動かして目的を達すること」、すなわち人に働いてもらうことだ。しかしこの用語は、人間以外にもいろいろな対象を動かして、自分の目的に役立たせるという意味で広く使われるようになった。お金のマネジメントだとか、時間のマネジメントといった具合だ。マテリアル、すなわちビジネス上で扱う物品(材料・部品・製品等)も、マネジメントの対象の一つになる。

もともと英語のManageという言葉には、ちょうど暴れ馬を乗りこなすような、御しがたい相手を何とかして自分の望むとおりに動かす、という語感が強い。他方、Controlとなると、もっと精密な作業の雰囲気がただよう。日本語で制御という訳語があるように、計画した通りに、相手を動かしていく。だから、Controlの対象は人間ではなく、機械や無生物のことが多い。車のスピードをコントロールした、といえば上手な運転手のイメージだ。だが、車のスピードをマネージした、と言ったら、お前の車は大丈夫なのか? と心配になる。そんな違いである。

余談だが、生産管理やサプライチェーン・マネジメントの分野では従来から、まちまちな用語が業種ごと通用し、相互コミュニケーションの障害となってきた。だからわたしは、せめて自分のサイト内ぐらいは、一貫した用語と概念でしゃべろうと努力している。まあ幸い、プロジェクト・マネジメント分野ではPMBOK Guide(R)の強い影響力があり、またISO21600:2012の制定も相まって、用語のブレは比較的小さい。

ただ、分野・業種別の用語のブレと並んで、もう一つ厄介なのが、日本語と英語との間のブレである。『管理』という用語がその最たるものだ。管理という日本語に該当する英語は、Management, Control, Administration の3つある。これはそれぞれ、かなり異なる概念だ。ManageとControlの違いは上に述べたとおりだが、Administrationはどちらかというと事務処理とか行政とかを思わせる言葉である。よく企業の中には、人事・経理・総務・営繕などをまとめて「管理部門」と呼ぶ場合が多いが、これがAdministrationの語感である。

そんなバカな、米国の経営学修士はMBA (Master of Business Administration) ではないか、だからAdministrationは『経営』という意味だ--こう反論される向きもあろう。ところが、そう単純ではないのである。まず、"Master of Business Administration"という名称が制定されたとき、あまり良い用語ではない、という批判が米国内でもあったことは知っておくべきだ(ミンツバーグ著「MBAが会社を滅ぼす」による)。また、わたしの勤務するエンジニアリング業界では、Project Managerが最高責任者で、その下に、Project Control ManagerとProject Administration Managerがいるのが欧米でも一般的だ(AdministrationのかわりにBusiness Managerという職名を使うことも多い)。ここでAdministrationの仕事はまさに、人の手配や金銭出納・職場環境の面倒を見る、総務的な業務である。ITの世界でも、System Adminは「管理者」と呼ばれるが、しかしマネージャーの職位とは限らない。

この話をさらにややこしくしているのは、英語には『経営』に相当する言葉が存在しないことである。日本語で経営と言えば、企業・官庁・学校などの組織体を維持運営するための、最高位の意思決定権限を含む職務である。経営者と言えば、会社なら社長・会長クラスか、少なくとも役員以上を指すだろうし、学校法人などでは理事・理事長クラスだろう。ところがこういう人たちは、英語ではTop Managementと呼ばれる。彼らの仕事は英語で何というか? 答えは”Management”である。それじゃ課長の仕事と同じじゃないかって? そうなのだ。経営者も中間管理職も、英語では同一の仕事になってしまう。

日本語における「経営」「管理」と、英語における”Management”, “Control”の領域の違いを、おおざっぱに図示したのが下図である。むろん、厳密に言えば、経営者の職域にもControlに属する仕事はあるだろうから、分かりやすく示した目安だと思ってほしい。ともあれ、このような差異があることに、多くの人は気がついていないか、無頓着である。だから、プロマネに任命された若手エンジニアが、何か勉強しようと思ってドラッカーやポーターを読む、といった奇妙な現象が起きるのである。
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そのようなわけで、わたしは無用な誤解を避けるため、このサイトでは極力「管理」という言葉は使わないようにしている。かわりに、カタカナで「マネジメント」「コントロール」と書いている。

マネジメントとは、不確実性が高く、比較的変動の大きな対象を、何とか自分の目的に役立てようとする営為である。その中には、先読みと、リスクテークと、決断が含まれる。そしてしばしば、取り組みのために配下の人間を動員することが求められる。そうした、人を動かすルールを定めるのもマネジメントの一部である。同様に、結果への評価と学びもマネジメントの大事な要素だ。

他方、コントロールとは、比較的予測しやすい対象を、自分の計画したとおりに動かしていく営為である。対象の現状をきちんと観察・測定し、本来の計画からずれている場合は、是正すべくアクションを取る。すなわち、方向を修正したり、スピードを上げさせたり(緩めさせたり)する。ハンドルとアクセルとブレーキで、地図通り運転するようなものだ。マネジメントは道のないところに道を引く。コントロールは引かれた道の通りに、走って行く。

それで(ようやく本題に戻るが)、「マテリアル・マネジメント」という仕事は、御しがたいマテリアルを何とか役立つ状態にしようとする営為だ。企業の中でハンドリングしているモノが少なければ、誰もそんな心配はしない。モノの種類や量や場所が増えすぎて、収拾がつかない状態においてはじめて、必要性が意識される。その要点は、まず、モノの台帳(マテリアル・マスタ)を整備して、何はどれであるか、どんな名前で呼ぶかを、統一することだ。それから、マテリアルの供給の流れ(設計→調達→保管→使用→廃棄)の仕組みを作る。さらに、それぞれの段階では、どのようなルールに則ってマテリアルを登録したり動かしたりするのかを決める。そして、適正な在庫レベルや改廃を判断することなどが含まれる。とくに在庫レベルや改廃の判断には、需要の先読みとリスクテーク、そして評価が不可欠である。

マテリアル・コントロール」の仕事は、もう少し日々の定常的業務に近い。それは、上記のマテリアルの供給の流れの交通整理役である。現在、どのモノがどこにいくつあるのか、そして来月はそれが増えるのか減るのか、そうしたことを把握する。また、具体的に、マテリアルの保管や移動についても差配する。ただし、実際に人手や機械でモノを動かしたり置いたり仕分けたりする業務は、「マテリアル・ハンドリング」と呼ぶ。コントロールは、モノの流れの制御である。コントロールの仕事は、現状の正確な把握、近い将来の予測、そして予実分析と是正措置の勧告・手配からなる。(計画立案作業もコントロールの職務に含める場合もあるが、ここでは除外しておく)

マネジメントの特徴は、先読みやリスクテークや決断といった、人間が介在する行為が中心となる点だ。したがって自動化できないし、コンピュータ・システム化も難しい。他方、コントロールは技術的な客観性が高く、コンピュータ化に向いている。すべてを機械で置き換えることはできないし、すべきでもないが、モノの数を数えたり、位置を記憶したり、先行きの数の計算をしたりといった部分は、自動化しやすい。

逆に言うと、マテリアル・コントロール業務がどれだけIT化されているかで、その企業のマネジメント・レベルを見ることができる。この事情は、コストやスケジュールなど他のコントロール領域も共通で、どれだけきちんとIT化されているかが、マネジメント・レベルの指標となる。もっとも、用語の混乱はこの領域にもあって、IT分野ではしばしば、状況レポートに過ぎないプログラムが「○○マネジメント・システム」などと呼ばれたりしているから、注意は必要であるが。

あなたの会社には、マテリアル・コントロール・システムはおありだろうか? え、「在庫管理システム」ならあるって? もちろん、1工場・1拠点なら、それでも結構。だが、モノを拠点間で動かしたり、外注先に支給したり、設計と並行して調達手配をかけたりしなければいけない業態だとしたら、交通整理は十分だろうか。途中で在庫が行方不明になったりしないだろうか。在庫の数値と現物がしばしば食い違って悩むようだったら、在庫「管理」の内容を、もう一回確かめた方がいいかもしれない。
by Tomoichi_Sato | 2015-04-26 23:31 | サプライチェーン | Comments(0)

とれるだけ仕事をとってはいけない

最初に、損益分岐点の説明からはじめよう。企業は、製品やサービスを売って売上を得る。しかし、世の中にタダの物はないので、そこには必ず費用(原価)が発生する。その費用が製品の販売数量に単純に比例する場合、企業は売上に比例した利益を得ることになる。この関係を図(a)に示す。横軸は、売上である。工場の視点から言うと、売上向上すなわち稼働率向上を意味するから、横軸は稼働率と見てもよい。縦軸は金額で、実線が売上高を、点線が費用を示す。費用は純粋に、売上高に比例する。これを変動費ともいう。売上に伴って、変動するからである。たとえば製品を作るのに必要な原材料の購入費がそうだ。あるいは、製品を加工するための外注費などもそうだ。
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ところが、企業にはこれとは別に、売上高にまったく関係なく、固定的に発生する費用がふつうある。これを固定費という。その典型例は、設備機械の減価償却費である。あるいは、従業員の給料などもそうだ。売上があろうがなかろうが、給料は払わなくてはならない。事務所や工場用地の賃料もそう。

こうした固定費があるため、費用合計の線は、図(b)に示すように、グラフの原点ではなく、縦軸に少しプラスの切片を持つようになる。ところが売上の方は当然ながら原点から右上がりの直線だから、この二つの線は、どこかでクロスして、それより右側は売上の方が大きく(つまり利益が出る)、その点より左側は、費用の方が大きく(つまり赤字に)なる。損失と利益を分ける点なので、これを損益分岐点(Break-even Point)とよぶ。経営者は当然、なんとかして売上を損益分岐点よりも大きくして、利益を出そうと努力することになる。また逆に、なんとか固定費を下げて、損益分岐点を小さく(原点よりに)ずらそうと工夫するだろう。
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ここまでは、まあ基本である。問題はこの先だ。

以前、「稼働率100%をねらってはいけない」(2014-07-27)にあげたグラフ(c)を思い出してほしい。工場の設備は、稼働率が高くなり100%に近づくと、急激に待ち行列が長くなる。これは、受注のタイミングや製造作業の時間にバラツキがあるために生じる現象である。注文が立て続きに来ると待ち行列が長くなるが、注文の間隔が開いたときは(行列の長さはゼロ以下にならないので)行列の短縮効果には限界があり、プラスとマイナスが打ち消し合わないために発生する。だから工場には、ある程度は余剰の能力が必要であり、不況になったからといって、遊休設備を捨てて工場稼働率を100%に近づけよう、などといった施策をとってはいけない。これはORの一分野である待ち行列理論から論理的に導き出される性質だ。
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ところで、この待ち行列の長さはすなわち、その会社における仕掛在庫量を表している。なぜなら、注文を受ける→すぐ原材料を手配する→原材料がサプライヤーから到着する→製造機械の前で行列になって待っている、という訳だから。いや、たとえ物が手元にあろうと輸送中であろうと、手配をかけてしまえば事実上、それはもう在庫なのだ。そして在庫であれば必ず、保管費用や在庫金利が発生する。それだけではない。待ち行列が長くなり、製造リードタイムが長くなることは、納期遅れの頻度が高まる訳だ。厳しい顧客だとペナルティを要求されるだろう。不良が出た際、作り直しの工程への影響も甚大になる。苦肉の策で他社に製造の一部を外注すれば、当然コストがかかる。そうでなくとも、工場にモノがあふれかえってくると、動線が錯綜し、モノ探しのムダな手間が増える。つまり、全体としてコストが増えるのだ。

したがって、
 全体の費用 = 固定費 + 変動費 + 製造待ち行列にかかる余計な費用
ということになり、図(d)のような右上がりの曲線(下に凸)になる。この図から分かるように、費用の線は、今度は2回、売上と交わる。一つは先ほどの損益分岐点のあたりだ。もう一つはもっと右側、稼働率が危険水域に達する地点である。これ以上、仕事をとると逆に赤字が発生する。これをわたしは「危険稼働率」と呼んでいる。

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だから製造業では、急に好況になったからといって、営業部門が「とれるだけ仕事をとって」きてはいけない、ということが言える。ほとんどの企業では営業部門を「売上高(受注高)」で目標管理しているから、仕事があればあるだけ取ってこようと、まるで獲物の群れを追う狩猟動物のように反射的に動くが、これは実は危険なのだ。もっとも図(c)は、工場を単一工程でモデリングしたケースであり、実際の工場はもっと複雑な構成になっているから、この危険稼働率は簡単には算出できない。だが、いずれにせよ費用合計が下に凸の曲線になること自体は確かである。

さて、ここまで読んだ読者の中には、「ウチは製造業じゃないから関係ないや」と思うサービス業の方もおられるかもしれない。「別に、仕掛在庫とか発生しないし」と。

ところが違うのである。たとえ在庫の発生しないサービス業でも、それが受注ビジネスであり、かつ受注前に見積設計作業が必要であったら、受注量を増やしすぎるとかえって赤字になることが、最近の研究で明らかになってきているのだ。なぜか。

昨年11月に、わたしが主催する「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」は文教大学の石井信明教授をお招きして、講演していただいた。タイトルは「需要変動化における受注戦略のマネジメント 〜受注ビジネスを例に〜」である。石井先生の講演は、まず、とある受注ビジネス型業界におけるライバル企業2社の、過去40年間の売上と経常利益の比較から始まる。じつは、わたしがよく知っている業界である。この業界では過去40年間に、ほぼ10年ごとに成長局面があった。顧客となる市場に、一種のブームがあったからである。

しかし2社の業績をよく比べてみると、受注変動の大きなA社の方が、そうでないB社と比較して利益が低い傾向が読み取れる。とくに、大きな受注高を上げた少し後に、ひどく赤字を出す傾向があり、長い年月の間では、それが企業の収益力の足を引っ張っていることが分かる。いいかえるなら、同じような業界のアップダウンを経験しても、受注量が比較的平準化されているB社の方が、長期的には成長力が高いのである。

どういうメカニズムでこのような現象が生じるのか。石井教授の立てた仮説は、こうである。競争入札が主体で、受注前に見積設計を要求されるような業界においては、精度の高い見積ができる人材はある程度経験を積んだベテランであろう。そうした人材は、当然ながら社内で限られている。経験の足りない人間が見積をすると、見積自体の精度が落ちる。精度が落ちるというのは、別に見積の値自体が小さくなるという意味ではなく、平均値からのプラス・マイナスの振れ幅が大きくなる訳である。

さて、入札できまる受注ビジネスにおいては、当然ながら提示価格が競合企業の中で最も低い者が、仕事を受注できる。コストを低く見積もった案件ほど、受注の可能性が高まるが、とうぜん受注後の採算は低くなる。そして、見積の精度が悪いほど、コストを低く見積もる可能性が高まり、低採算で案件を受注してしまう可能性も高まることになる。そうなれば、受注段階からすでに、プロマネの管理範囲を超えるような想定外のコスト差異を背負って、スタートしなければならないわけだ。

そして、受注ビジネスにおいて、企業は普通、受注した案件の遂行と、次の案件の見積作業を複数、平行して抱えている。ところが、受注量が多くて業務繁忙期にあるときは、見積に十分なリソース(ベテラン人材)を投入できるとは限らない。その結果、見積の精度が落ち、不採算で仕事を受注してしまうのだ。そして、いったん赤字のジョブを受注してしまうと、その問題を押さえ込むために、さらにベテラン人材を張り付けざるを得ない。また赤字プロジェクトは納期も遅れがちだから、そうした人材を次の案件に回すことも難しくなる・・

石井教授は上記のようなダウン・スパイラルの現象をモデル化して、シミュレーション実験を行った。見積精度は、見積作業に割り当てられる人時に対するロジスティック曲線(S字カーブ)で近似する。詳しい説明は省くが、多期間にわたり、毎年同額の受注を継続する場合、受注高が上がると平均利益も上がっていくのだが、ある点を超えると利益が下がりはじめる結果になった。つまり、平均利益を最大化する受注高が存在するのである。これは、上に説明したような繁忙による見積精度低下によって起こる。

つぎに、三つの受注戦略をシミュレーションで比較してみる。戦略Aは固定型で、目標受注量を固定し、毎年、その目標額を受注すべく、案件の入札を繰り返す。戦略Bは変動型で、前期の受注量が小さかった場合は目標値を大きくし、前期にたくさん受注高が上がった場合は、翌年の目標値を下げる、という具合にする。そして戦略Cは抑制型とよばれ、戦略Bと同様に前期が良ければ当年の受注は抑制するが、たとえ前期の受注量が小さくても、毎年の受注量上限を達成したらそれ以上は入札には参加しない、というものである。そして、今度は、市場の需要にも変動を加えた。

それを15年分、回した結果は、きわめて明瞭だった。市場の需要に変動がある場合、15年間の合計利益は、
 戦略C(抑制型) > 戦略B(変動型) >> 戦略A(固定型)
となったのである。つまり、毎年の受注量に上限を決めて、受注量の平準化を図る戦略が、もっとも安定して収益を上げられる。そして、不況時にも目標を変えずに「とれるだけ仕事をとろう」と入札を繰り返す戦略Aは、他よりもかなり利益が低くなるのである。

ちなみにこの研究は、プロジェクト・マネジメント分野では世界トップの論文誌であるInternational Journal of Project Managementに昨年掲載されたので、もし詳細を知りたい方は、そちらを参照されるといい(Ishii, N., et. al.: An order acceptance strategy under limited engineering man-hours for cost estimation in Engineering–Procurement–Construction projects. JPMA, Vol. 32, pp.519-528, 2014)。

という訳で、教訓は一つである。つまり、たとえ市場環境が好況であっても、“この際、とれるだけ仕事をとろう”、としてはいけないということだ。自分の組織の処理能力を超えて受注してはいけない。それどころか、たとえ稼働率100%に満たなくても、危険水域を超えて受注をしてはいけないのだ。そうすれば、後でツケが回ってくる可能性が非常に高い。短期的には、運がよければ、切り抜けられるかもしれない。しかし、長期的には、自分の成長力を損なうのである。

そして、わたしが何より心配なのは、世の中にはこうした研究があるのに、産業界ではいっこうに気にしないどころか、知ろうともしない様子であることだ。最初に書いた、工場内の仕掛在庫に関わるダイナミクス研究は、米国ではFactory Physics(工場物理)と呼ばれ、広い意味での経営工学の一部である。後半に紹介した石井先生の研究は、プロジェクト・マネジメント分野の研究だ。どちらも、たしかに理論的研究に見える。しかし、ビジネスに対する示唆は非常に大きいものがある。それなのに、わたし達の社会では、産業界はこうした研究に関心がなく、もちろん研究費を投じようという動きもろくにない。

「ウチの社長は文系だから」という言い訳もよくきく。だが、上記の理屈は、ふつうに考える能力のある人なら、理解できる範囲のことである。まともな経営者は、「じゃあ、ウチの危険稼働率は何%なんだ?」とたずねるだろう。それを推算するのが、エンジニアの能力ではないか。「製造業を捨てた」はずの米国では今なお、工場物理が盛んに研究されている。一方、「ものづくりが日本を救う」はずのわれらが社会では、“数式の載った本なんて出版しても、誰も買いません”、と出版社がいう始末だ。どこかで、わたし達の社会の知的風土は、劣化してきていないだろうか? ・・これが単なる杞憂であることを、わたしは願うが。
by Tomoichi_Sato | 2015-03-03 23:12 | サプライチェーン | Comments(7)

減らすべき在庫、生かすべき在庫の区別 — 在庫管理論を再考する(3)

昨年末、拙著『BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)』が増刷になった。初版が2005年1月だから、ありがたいことに10年間、現役で売れ続けていることになる。累計部数も1万部近い。多くの人に手にとっていただけたということは、それだけ部品表の問題に悩む人も多いことを示しているのだろう。

この本は帯の部分に「マテリアル・マネジメント改革の基本技術」とサブ・タイトル風に銘打っている。BOMはマテリアル・マスタ(品目マスタ、部品マスタなどとも呼ばれる)とともに、製造業におけるDNAにも似た役割を持っており、モノの供給・流れ・消費を司っているからである。

ところで、わたしは勤め人なので、本を書くには土日か夜の時間しかつかえない。したがって、1冊の本を書くのに丸1年はかかる。そして1年もあると、執筆してているうちに、本の主旨が最初の意図から変わっていってしまうことがある。本書を書いたときが、まさにそうだった。書き始めた当初は、ERP技術者のために、MRPのパラメータ設定のノウハウを書くつもりだったのだ。だが、書き上げてみると全く別の主張をもつ本になっていた。すなわち、「BOMは製造業のDNA情報であり、そのデータを特定のパッケージソフトなどに依存すべきではない」という結論になったのだ。

BOMの概念は、生産計画手法MRPとともに、米国で’60年代に発達した。MRPの基本コンセプトは、当時の米国における生産管理思想を色濃く反映している。大量見込生産、豊富な生産資源(機械設備能力)、大ロットにふんだんな在庫・・そして何より、生産という仕事を一種のシステムとしてとらえ、非常に理性的かつロジカルにモデル化して、コンピュータ(当時のことだから大型汎用機)で計画・指示しようという発想だ。

この発想は、’70年代前半のオイルショック以降、転換を迫られて、需要にミートしたタイムリーな生産と、在庫陳腐化リスクの低減が求められるようになるのだが、そこでの武器もまたMRPであった。ATPなど様々な機能拡張を経て、’80年代にはMRP IIとして模様替えされ、’90年代には各種ERPパッケージに組み入れられるようになった。その流れは今でも連綿として続いており、グローバル化したサプライチェーン全体での生産・在庫を最適化するために、現代流の超高速MRPを中核にして、販売操業計画S&OPをまわしていく方策が、多くの欧米系企業でとられている。

ところが日本は’80年代、電機業界や自動車業界の輸出の黄金期であり、「日本流経営」に自信満々、“もう欧米に学ぶところなし”と公言してはばからぬ人が続出した。さらに麗しきバブル時代に入ると、生産管理なんて泥臭い仕事には、誰も関心を示さなくなった。このためMRP II以降の発展がまったく入ってこないし、普及もされない状況が10年間続いた。これをわたしは「生産管理の失われた10年」と呼んでいる。バブル崩壊後の’90年代後半は、米国からSCMなどの最新概念がまた入るようになったが、しかし同時に日本企業は工場の閉鎖と海外移転に走るようになった。こうして、生産管理論全般の足腰が弱まってきた。

わたしの本業は工場づくりである。製造業のお客様に工場を作り、また工場の操業管理のためのコンピュータシステムを設計して納める仕事に、ずっとたずさわってきた。ところが、国内顧客はバブル経済崩壊以降、なんとなく、生産管理の基本コンセプト自体がぐらついているケースが多いように、感じられた。同時に、長引く不況のせいか、あるいはERPブームのためか、生産管理システムをきちんと構築できるIT技術者の数も減ったようだった。このままではまずい。わたしがときおり本を書いたり、こんなサイトをずっと運営し続けているのも、もう少しきちんとした議論の土台作りに微力ながらも貢献したいと考えてきたからだ。

さて、BOMの本を書いている途中で、中間部品および原材料の在庫の問題にぶつかった。在庫管理の本は、主に製品在庫に焦点をあてて書いていることが多い。しかしBOMは部品材料の表なのだから、そいつをどう定義し、どう管理すべきか、あらためて考えることになった。『BOM/部品表入門』の第5章「在庫管理のためのBOM」は、まるまる一章を、その問題にあてている。

それを考えるうちに、在庫と一口に呼ばれるものの中にも、じつは複数の異なるカテゴリーがあることに気がついた。そのきっかけは、「引き当て」の概念である。

「引き当て」とは、モノに使用の予定を紐づけることである。あなたが本を探しに書店に行ったとしよう。たとえば、名著の呼び名も高い佐藤知一の『BOM/部品表入門』(笑)を探しているとする。店頭を探したが見当たらない。そこで仕方なく注文をいれることにする。数日後、書店から入荷の連絡を受け、また店にいってみる。注文カウンターにいくと、奥から本を出してきてくれる。たぶん注文主の名前を書いたスリップが添付されているだろう。ところが、よく見ると、棚にも同じ本が置かれているのを発見する。書店がこの本は売れ筋と判断して、2冊仕入れていたのだ。店頭に置いてある本と、注文カウンターの奥にとってある本は、同じモノの在庫である。だが、そのカテゴリーが異なる。1冊は、すでにあなたという特定顧客による消費予定が決まっている。書店はこの本を、他の客先に売るわけにはいかない。しかし店頭に積んだ1冊の方は、誰に売っても良い。というか、誰に売るか(売れるか)決まっていない。

このような状況のことを、引き当て済み在庫=1冊、未引き当て在庫=1冊、と表現する。こうした引き当ての概念は、製品のみならず中間部品にも原材料にも適用される。

さて、「在庫を減らせ!」という号令がかかったとき、減らすべきなのは引き当て済み在庫の方なのか、それとも未引き当ての方なのか? いうまでもないことだが、すでに顧客のついている引き当て済みの本を処分(返品)する訳にはいかない。減らすなら、まず未引き当ての在庫を減らすべきである。

ところで、店頭にある製品で引き当て済みのものは、「売約済み」在庫になる。しかし、中間部品や原材料で、特定の使用予定(製造オーダー)に引き当てられているものは、まったく別の呼び方になる。それは英語でWork in Process = WIPと呼ぶ。日本語なら「仕掛品」とか「仕掛在庫」になる。原材料で使用予定が決まった瞬間から、製品になってめでたく工場から出荷するまでの間は、次の使用予定が決まっている限り、WIP=仕掛在庫になる。工場内や工場間で輸送中のモノもそうだ。いいかえると、製造リードタイムがゼロでない限り、工場内には必ず仕掛在庫が存在する。たまに、「うちの工場は在庫ゼロを目指しています」などという所があるが、それは仕掛品ゼロ、すなわち「何も製造しないこと」を目指していることになる。

仕掛在庫(WIP)と似ているものに、エージング在庫がある。たとえばウィスキーを樽の中で熟成させる。これには年月がかかる。だが、ウィスキー工場で「15年も在庫しているのか! 死に筋在庫だから早く処分しろ!」と叫ぶ者がいたら愚かである。必要があって寝かしている。このように、仕掛在庫やエージング在庫、輸送中在庫など、すべて次工程で使用されることが確定しているものをまとめて、わたしは『フロー在庫』と呼んでいる。

では、特定の使用予定に紐づいていない、未引き当て状態の在庫は何と呼ぶのか? 答えは、ストック(Stock)である。英語で見込生産のことをMTO = Make to Stockとよぶが、この事情をよく表している。ストックするために製品を作る。ストックの在庫を店頭に積み上げて、客を呼ぶ。そしてこの用語は、中間部品でも原材料の在庫でも、共通だ。まだ特定の使用予定に紐づいていない状態、すなわち、いつか発生するかもしれない将来の需要に備えるために置いておくものをストック在庫と呼ぶ。

ところで、ストック在庫であれフロー在庫であれ、その発生には二種類の理由が考えられる。計画的につくって置いているものと、偶発的に生じるものだ。たとえば、工程間でロットサイズが異なる場合は、どうしても途中で在庫が生じる。これは工程間バッファーの一種で、計画上やむをえず生じるフロー在庫である。しかし、同期するべき工程間のタイミング不良が起きて、発生してしまう滞留品は、偶発的なフロー在庫である。そして、意図せずにできてしまって、しかも使用予定が決まっていない種類の在庫は、いわば『できちゃった在庫』だ。

工場がまず第一に撲滅すべきなのは、この『できちゃった在庫』である。それに比べれば、タイミング不良による滞留は、望ましくはないが、下流工程で全部消費されるのだから、まだしも罪は軽い。そして、計画的なストック在庫やフロー在庫などは意図した在庫であり、むしろ積極的に活用すべきだ、というのがわたしの考えである。

在庫削減もけっこうだが、この4つのカテゴリーを区別せずに、むやみに減らすことばかり取り組むべきではない。ためしに、現在、工場内で抱えている在庫のうち、どれがストック在庫でどれがフロー在庫なのか、一度落ち着いて区分してみてはどうか。そして、そのうちのどれくらいの割合が偶発的な発生かも、概算してみるといい。そうすれば、より適切で現実的な削減目標が決まるだろう。

ちなみに、『BOM/部品表入門』では、6つのカテゴリーに分類していた。しかしちょっと多すぎて覚えにくく、また、APICS(米国生産在庫管理学会)の分類定義などを見ても4つに大別しているようなので、最近は4つのカテゴリーに集約して説明している。また企業個別の事情によっては、もっと適切な分類だってあり得るだろう。

いずれにせよ、わたしがここに書いたようなことは、落ち着いて考えれば、誰にだって分かることである。だが、今日、こうした分類で在庫問題に取り組んでいるところも少ないし、生産管理の解説書などでもあまり見かけない。とても残念なことだ。それこそ、「生産管理の失われた10年」の影響だろうと思う。そして、念のために書いておくが、その10年間の空白は、決して不況のために生じたのではなかった。わたし達の社会の、実力以上の好況と自信過剰によって生じたのである。


<関連エントリ>
 →「その在庫はストックですか、フローですか?」 (2012-06-02)
→「MRPとは何か」 (2008-05-15)
by Tomoichi_Sato | 2015-01-25 21:55 | サプライチェーン | Comments(0)

生産スケジューリングと生産統制に関するセミナーのお知らせ

来る2月18日(水)と19日(木)に、それぞれ大阪と東京で、有償セミナーの講師を務めます。
内容的にはかなり重なっており、日本に多い受注生産型の工場を主な対象に、納期遵守のための生産計画とスケジューリング、リードタイム短縮ならびに生産統制について、事例と演習を含めてお話しします。

拙著「革新的生産スケジューリング入門」や「BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)」をお読みになった方はご承知の通り、わたしは具体的なテクニック論のみならず、原理・原則に関する体系的な理解を重視しています。そのため、生産活動全般を『システム』としてとらえ、その生産システムをより良く運用するにはどうしたらいいか、より上手に設計するためには何に留意したらいいを考える『システムズ・アプローチ』をとります。したがって業種分野については、わりと間口を広くとってお話しできる点が特徴です(もちろん、ここでいうシステムとは仕組みのことであり、コンピュータのことではありません)。

普通の現場改善コンサルタントの講義に、飽き足りない気持ちでおられる技術者の皆さんのヒントになればと思っています。関心のある方のご来聴をお待ちしております。

<大阪>

日時: 2月18日(水) 10:00-17:00

テーマ: 「納期遅れを起こさない 生産統制のポイント
     ~ こうすればうまくいく、受注型生産工場の生産計画 ~」
主催: 公益財団法人 大阪府工業協会
     http://www.opmia.or.jp/
会場: 大阪府工業協会研修室
     大阪市中央区本町 4-2-5 本町セントラルビル
     (市営地下鉄御堂筋線「本町」駅8番出口すぐ)
セミナー詳細: 下記のPDFファイルをご参照ください(「受講申込書」も兼ねています)
     https://dl.dropboxusercontent.com/u/17787880/Osaka20150218.pdf


<東京>

日時: 2月19日(木) 10:30-17:30

テーマ: 「生産スケジューリングの基礎とリードタイム短縮のポイント 
     〜 デモ付 〜」
主催: 株式会社日本テクノセンター
     http://www.j-techno.co.jp
会場: 株式会社日本テクノセンター研修室
     東京都新宿区西新宿2-7-1 小田急第一生命ビル22F
     (都営地下鉄大江戸線「都庁前」駅または丸ノ内線「西新宿」駅)
セミナー詳細: 下記のURLをご参照ください(受講申込もここからできます)
     http://www.j-techno.co.jp/seminar/ID50L7N0O4H
by Tomoichi_Sato | 2015-01-22 23:03 | サプライチェーン | Comments(0)

在庫をどの形で持つか — 在庫管理論を再考する(2)

前回、このサイトでわたしは「在庫というものの意義をちゃんと積極的に評価して、そのコストやリスクに見合う適切な活用方法を考えるべき」だ、と書いた。「そのコストやリスク」のうち、『在庫のコスト』とは、前回も説明したとおり、保管費用と在庫金利に代表されるコストである。

それでは『在庫のリスク』とは何か。代表的なものは二つある。保管期限切れリスクと、不動在庫化のリスクである。在庫品目の中には、保管期限のあるものが存在する。電子材料系や化学品などに多いが、一定の有効期限がある。飲料・食品などでは賞味期限というかたちをとる。いずれにせよ、ある一定の期限を過ぎたら、在庫として無価値になってしまうのだ。したがって、基本的には保管期限が来る前に、使い切ってしまわなければならない。ちなみに生産スケジューリングの分野では、とくに中間在庫品に有効期限のある問題は、解くのが最も難しい部類に属する。これに保管スペースの容量上限などが組み合わさると、もう超絶技巧級の難物である。手作業ではまず解けないと思っていい。

そこまで難しくなくても、よく悩みの種になるのが、「3分の1ルール」というやつだ。大手流通チェーンではよく、「3分の1ルール」なる規則が納入業者に課されることがある。これは、「有効期限(賞味期限)が残り3分の2以上あるものしか受け取らない」というルールである。そもそも大手流通チェーンでは、有効期限付きの商品はロット逆順の納入を許さない。つまり、2月末の期限付き商品のロットが出荷された後で、1月末期限のロットを納めようとしても受け取ってくれない、という慣習である。「3分の1ルール」はこれに加えて、「有効期限が3分の2を切ったもの」、すなわち製造日から有効期限の3分の1以上が経ってしまった商品は、受け取らない、とする。さらに、「販売期限は、賞味期限の3分の2の時点までを限度とする」というルールも、しばしば同時に行われている。

たとえば有効期間が6ヶ月の商品を1月末に製造したとする。有効期限は7月末だ。ところがこのルールによると、4月に入ったら、もうその商品は大手流通チェーンは受け入れてくれなくなる。1/3経ってしまったからだ。そして、受け取ってもらった商品でも、もし小売店頭で5月以降まで売れ残っていたら、どうなるか。その場合は、残り期間が1/3を切ってしまったので、卸に返品されてしまう。当然、卸は廃棄せざるをえなくなる。これが「3分の1ルール」に伴う在庫リスクである。

この慣習は2000年頃から食品業界を中心に広まったと言われている。が、さすがに問題が多いので、最近はやや見直しの機運にある。問題が多いといっても、別に、サプライチェーンにおける『在庫リスク』が大きすぎ、経済の生産性阻害要因になるから、という観点ではない。主に「返品された食品を廃棄するのはもったいない」という価値観ないし道徳観(?)からである。もちろん、チェーン側からすれば「消費者の要求からこうなった」との説明がされるから、ことは消費者意識にまで問題の裾野は広がっている。

さて、もう一つの在庫リスクは、不動在庫化、いわゆる「死に筋在庫」化の可能性である。作ったはいいが、使われぬまま、いつまでも動かずに残ってしまう。広い意味では、品目の陳腐化のリスクもこれに含まれる。使えることは使えるのだが、もう仕様が古くなって、使いたくない。(なお、「不動在庫」のかわりに「不良在庫」という用語が使われることもあるが、後者は品質検査の結果、ロットアウトした在庫なども含んでしまうので、ここでは不動在庫と呼んでおく)

不動在庫になってしまった品目が見つかった場合、最終的には除却廃棄処分にするか、あるいは捨て値で見切り販売するか、ふつうは二つに一つである。まあ、製鉄やガラスなど素材産業の一部では、製品を原料の一部に戻すこともあるが、いずれにせよ会計上はコストが発生する。有効期限切れも同様である。

ところで、この件について、ある方からご質問をいただいたので、少しここで補足させてもらうことにしたい。それは、在庫を持つことによるコスト・メリットと、不動在庫化するリスクとの数値的比較の方法についてである。

一般に、リスクとコストを比較する場合には、

 (発生確率)×(影響金額)

で計算して比較する、というのが、標準的な考え方だ。これはプロジェクト・リスク・マネジメントでも、あるいは労働安全のリスク・アセスメントなどでも共通である。では、「不動在庫化する事態」の『発生確率』とは、どういう定義で、どうやって見積もるのか。

これは、計画上の意思決定をする際の、「計画のタイム・ホライズン内において、不動在庫化する確率」を意味している。つまり、在庫日数の期間内に、死に筋品目となってしまう確率である。たとえば、今、適正在庫量が1ヶ月分だという計算が成り立ったと仮定しよう。その場合、「向こう1ヶ月間に、その品目が(需要ストップのために)破棄せざるを得なくなるリスク」の確率を推定するのである(1ヶ月分のストックが無くなった時点で、再び製造手配をかけるのだから、1ヶ月以上先の心配はする必要が無い)。同じように、たとえば5日分が適正在庫量なら、向こう5日間に陳腐化する確率、1年分なら、向こう1年間に陳腐化する確率、ということになる——まあ、適正在庫量が1年分もあるという状況はふつう考えにくいが。

仮にこれが、向こう1ヶ月間に陳腐化する確率が10%くらいあるような、足の速い分野の製品や部品の場合、陳腐化リスクを金額に換算すると、年間売り上げの0.83%ということになる。これが大きいとみるか小さいとみるかは、その企業それぞれの事情や判断によるだろう。たとえばこの在庫を持つことによって、納期遅れ(欠品)リスクが減るとか、あるいはロットまとめ効果によって生産コストが低減するとか、そうした効果との比較になるわけだ。無論、こうした検討評価をするためには、過去、自社の品目が、どれだけの頻度で除却処分になったかを、分析しておく必要がある。不動在庫化が、きちんと定期的に検知されるような管理の仕組みも必須である。

しかし、比較検討において、在庫期間ではなくもっと長期間(たとえば年度内)での確率を考えてしまったり、あるいは「確率」という見方をせずに、その在庫品目の評価額それ自体を使って計算してしまうと、リスクは必ず過大評価になってしまうだろう。じつをいうと、リスクを論ずるときに、確率の概念に抵抗を示す人は、案外多い。確率がいくら小さくても、万が一起きたらどうするんだ、不確かな確率論などナンセンスだ、という訳である(これは余談だが、エネルギー問題や環境問題に関しては、市民活動家達の「絶対安全」論を批判するわりに、自分のビジネスの話になると、突如ひどくリスク回避的になる人も、まま見かける)。もちろん超長期的に見れば、どんな品目だっていつかは寿命が尽きる。つまり100%陳腐化するのである。だからといって、どんな品目も作るのはムダだ、生産は無常だ、となったら、ほとんど仏教の禅問答であろう。

ところで、もう一点だけ、補足しておきたいことがある。前回の記事でのべた在庫活用論を、なぜか『製品在庫』という文脈のみで受けとめた方が、ある程度おられたようだ。もちろん違う。在庫には、製品在庫も、中間部品の在庫も、そして原材料の在庫もある。それを、どの形で(どの位置でと言ってもいいが)ストックしておくべきか。これは生産システムの設計・運用上、とても大事なポイントである。

図を見て欲しい。工場では、最上流の原材料の形から、部品、中間製品を経て、自社の最終製品まで、モノは形を変えていく。主なストック・ポイントを最終製品の形で持つのが、いわゆる『見込生産』(英語でMTO = Make to Stock)形態である。Dell Computer社のBTO方式に代表されるような『受注組立生産』(ATO = Assemble to Order)では、中間製品やモジュール単位でストックし、受注と同時に組立作業に入る。一般の『繰返し受注生産』(MTO = Make to Order)では、ふつうさらに上流側の部品や原材料でストックを持つ。『個別受注生産』(受注設計生産とも言う:ETO = Engineer to Order)は都度手配品のみでストックは通常もたない。

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そして、どの生産形態であれ、主要なストック・ポイントまでの上流側は、需要見込み(需要予測)で製造し、下流側は確定受注にひもづいた製造になる。もし、主要なストック・ポイントを上流側にもっていけば、受注から納入までのリードタイムは長くなるだろう。リードタイムが長いと言うことは、生産計画(需要見込み)の誤差も大きくなる。ただし、汎用的な原材料のストックだから、在庫の不動化・陳腐化リスクは小さくなる。逆に、ストック・ポイントを下流側に移すほど、納入リードタイムは短縮され、計画誤差も小さくなるが、在庫品の汎用性は失われ、陳腐化リスクは大きくなる。

このようなトレードオフ状態の中で、主要なストック・ポイントをどの形で持つのかは、生産活動全体のシステム・デザインと運用にとって、とても大事な判断なのである。一製品には複数の部品が関わるのが通例だから、話は決して単純ではない。さらに生産のサプライチェーンが地理的にも広がっている場合、それぞれどこに配置するのか、冷静で合理的な見きわめと、そのための原理原則が必要になる。

そして最後に、もう一言だけ付け加えさせていただこう。中間部品・原材料の不動在庫化リスクがいやなので、自社では一切、主要な在庫を持たず、すべてサプライヤーから都度調達することにしている、という企業も、ときおりある。いわゆるJIT調達化である。しかし、考えてみてほしい。もし、あるサプライヤーから仕入れる部品・材料が、特定の顧客向けで汎用性がなく、他に転用も転売もできない種類のものだとしたら、そのサプライヤーだって、その部材(=彼らにとっての製品)の不動在庫化リスクを抱える点では同じである。結局、自社のリスクを、サプライヤーに押しつけているだけで、サプライチェーン全体のリスクはちっとも下がっていない。それはまるで、机の引き出しを整理して、見つけたいらないモノを、他の引き出しにしまうのと似ている。サプライヤーは、その在庫陳腐化コストを、結局は価格に乗せて請求してくるだろう。

もし買い手側の企業がそれなりの企業規模なら、そんな無意味なJIT調達などはやめて、むしろ自分で部品在庫のリスクを引き受ける代わりに、毎月一定量の発注をして、部品メーカー側が平準化生産をできるように、手助けするべきだ——これは畏友・本間峰一氏の主張だが、まったくその通りと思う。生産効率を上げ、生産コストを下げる一番の定石は、生産量の平準化なのだ。セットメーカーである大企業がリスクをとって、中小の部品メーカーには作りやすい平準化生産の環境を与えてやる。こんな風に、多くの業界が動いてくれれば、わたし達の経済だって、もっと活性化すると思うのだが。


<関連エントリ>
 →「在庫は本当に悪なのか — 在庫管理論を再考する」 2015-01-11
 →「ATO、BTO、CTO」 2007-11-09
by Tomoichi_Sato | 2015-01-18 23:04 | サプライチェーン | Comments(0)

在庫は本当に悪なのか — 在庫管理論を再考する

少し前、生産管理に関して人前でお話しさせていただいたときのことだ。“納期遅れを防ぐために、もっと積極的に在庫を活用しよう”という趣旨の説明をしたあとで、ふと心配になって、セミナーの受講者の方にこう質問した。——皆さん、在庫は悪だと思いますか? 

すると、40名近い受講者がほぼ全員、「悪だと思う」という答えの方に手を上げた。わたしはちょっと驚いて、前に座っていた方にたずねた。

——どうして、悪だと思うのですか?
「だって、置いておけば、コストがかかるでしょう。場所代とか。在庫がなければかかりません。」というのがその人の答えだった。
——たしかに、どこか倉庫を借りておいておけば、保管費用がかかりますよね。でも、失礼ですが、御社の工場は借地ですか? もし自社の敷地だとしたら、工場の隅っこに置いておいておけば、1円もコストはかかりませんよ?
「それは、そうかもしれませんけれど・・金利がかかります。」

これはもちろん、とても正しい指摘だ。在庫というのは、キャッシュをモノの形に変えて、寝かせてあるものだと解釈できる。材料費と工賃で合計100万円分の製品や半製品を、1ヶ月間もムダに寝かせたら、それは何の利息も生まない。その100万円分を、銀行に預けるなり別の形で運用するなりすれば、利息を生む。つまり、在庫というのは、生み出せたはずの利息を失っているのである。それどころか、もしその100万円が借金ならば、その分の金利がかかることになる。これを『在庫金利』とよぶ。

——つまり、在庫金利という形のコストがかかっていると、おっしゃるわけですね。とても正しいご指摘です。ところで、現在の金利は、いくらですか? 100万円のお金を1ヶ月寝かせたら、いくら損するのです?
「え? ・・さあ。考えたことありません。」
——そうですか。日本は過去10年以上にわたって、いわゆるゼロ金利政策をとっており、金融機関の利率は非常に低いのです。定期預金だって、いいとこ年0.2%程度ですから、月0.02%以下ですよ。100万円分の在庫を寝かせたって、月に200円足らず。仮に1億円分を在庫しても、月に2万円弱。車1台の駐車場代より安いくらいです。それでも、在庫は悪ですか?

「在庫は作りすぎのムダです!」という声が、ほかの人から上がった。助け船ということなのだろう。わたしはその方に聞いた。
——作りすぎは、なぜいけないのですか?
「余計な加工や運搬を発生させますし、人員過剰や不良など他の問題も隠してしまうから、作りすぎは最悪のムダなんです。」
——外から買ってきた部品を資材倉庫に置いておくだけなら、別に作りすぎのムダは発生しませんよね。金利もほとんどゼロだ。それでも最悪のムダですか?
「・・・。」その方は、それでも釈然としない顔つきで、席に座った。他の人たちも、同様である。

どうやら、『在庫は悪である』という“常識”のすり込みは、わたしの思った以上に製造業では強烈なようだ。とにかく在庫は減らさなければいけない。そういう強いドライブが、つねに意識にかかっているらしい。そうなると、どれくらいの納期遵守率に対して、どれくらいの在庫量レベルが適切なのか、という問題設定自体が、聴衆の思考のフレームワークに受け入れられなくなってしまう。わたしは次に、Wildonの公式を使って、最適なロットサイズと在庫量のバランスを説明するつもりだった。そして欠品率と安全在庫水準のバランスへと、論旨を展開する予定だったのだ。

しかし、在庫は「必要悪だ」くらいの認識ならまだしも、「絶対悪だ」と信じられていると、在庫量と他のリスクとのバランスをとる、という発想自体が成り立たなくなってしまう。一種の思考停止ポイントである。在庫を無制限に持っていいというのは、明らかに間違いだ。だが、在庫はつねにゼロであるべし、というのも非常に硬直した発想であり、生産システム全体の運用を、ゆがめてしまう。

そもそも在庫は、なぜ発生するのか? それは、累積需給曲線で考えると、分かりやすい。累積需給曲線とは、横軸に時間(日付)をとり、縦軸に、着目している品目の数量をとったグラフである。これに、2本の線を引く。一つは「累積需要曲線」で、これは販売量、すなわちそれぞれの日までに、需用側(=使用者)に納入すべき数量の累積値をとる。数量の単位は、個数でも、重量でも容積でも、扱いやすい単位でいい。もう一つの線は「累積供給曲線」だ。これは、その日までに、生産され出荷可能になった数量の累積値をとる。累積の基点は、月初でも、年初でも良い。ただし累積供給曲線の方は、もし期初に何らかの在庫量があったら、その値を切片としてプラスする。

もし、ある日までに累積需要量が100個あったとする。それに対し、累積供給量が120個の予定だったら、それは120 - 100 = 20個の在庫が発生していることを示す。すなわち、累積需給曲線における、供給線と需要線の差(縦の高さ)は、その時点での在庫量を示している。

また、たとえば累積需要量が80個になる日付が15日で、累積供給量が80個に達する日が10日なら、そこには15 - 10 = 5日の納期余裕があることを意味する。つまり累積需給曲線における、供給線と需要線の日付の差(横の幅)は、その数量における納期余裕を示している。

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ちょっと待った。それは消費財を売っているようなメーカーの話だろ? ウチは受注生産で、注文を受けてから出荷するんだ。だから製品在庫なんて基本的にないし、供給線が需要線を上回るなんてことはない——そう、反論される方も大勢おられるだろう。

たしかに、その通りだ。受注生産形態では、受注量で累積需要曲線を引くと、累積供給曲線よりも上側(左側)に来る。そして、受注の時点から納入の時点までの差(横の幅)は、すなわち納入リードタイムを指している。では、縦の差は? それは、ある時点での受注残高(注残)を示しているのだ。

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また、消費財などの見込生産形態で、もし、供給曲線が需要曲線を下回ることになったら、何が起こるのか。それは「欠品」である。すなわち、その時点で、注残(=納期遅れ)が生じるのだ。

これでお分かりだろう。在庫圧縮とリードタイム削減は、まったく同じ問題の両面なのである。何の問題かって? それは、「需要曲線と供給曲線の不一致」という問題だ。言いかえると、生産管理の第一の課題とは、需要曲線と供給曲線をうまく一致させることにある。「生産管理の目的は、最小の在庫で最短のリードタイムを実現すること」と言う人も、ときどきみかける。それも、同じ事を言っている。つまり需要曲線と供給曲線が、どちらが上でもなく下でもなく、つまり一致させるべきだという意味だ。

ちなみに同じようなグラフは、対象が中間部品でも、原材料でも描ける。中間部品の場合、需要量とは、下流側の工程による使用量(消費量)を意味し、供給量とは、上流側工程での製造量を意味する。これが原材料のように、外部から調達する資材の場合は、「供給量」とはサプライヤーからの納品予定数量になる。たとえ受注生産の企業であっても、部品や原材料はある程度、在庫を持っているものだ。ボルト・ナットの果てまで一切、受注してから手配しますという企業は、たとえ個別受注生産でも少ないはずだ。ましてカンバンで引っ張られている繰返し受注生産形態(多くの部品メーカーなど)では、なおさらである。以前も書いたことだが、カンバン方式の調達というのは、内示でPushし、カンバンでPullする方式だ。内示で材料の手配をかけるわけだから、必ず材料の供給線は需要線よりも左側(上側)にくる。

それで、なぜ、この二つの線を一致させることは難しいのか? 理由は大きく言って、二つある。

第一に、わたし達の予測能力に限界があるからだ。需要線の側は、顧客の気まぐれでぐるぐる変わりうる。一方、供給線は、ある程度の予測と計画(生産計画や調達計画)を立てて進める必要がある。そして計画には一種の慣性があって、そうクルクルとは変えられないのだ(変えると、今度は生産効率が下がってしまう)。だから、予測と実際に乖離が生じて、二本の線がずれてしまうのだ。まあ、トヨタ自動車のようにサプライチェーンで販売チャネルを握っている企業は、販売力をフルに行使して顧客の気まぐれをうまく誘導し、需要曲線の側もコントロールしてしまうことを目指しているが、すべての企業が同じようにできるわけではない。

そして第二の理由は、もっと単純だ。顧客が、十分なリードタイムをくれないのだ。もし原材料の手配から最終製品の完成検査まで30日かかる製品があったとして、顧客が注文後30日間も鷹揚に待ってくれるなら、工場の中に一切、在庫はいらない。注文を受けてから、原材料を手配しても間に合うからだ。しかし、顧客が20日しか待ってくれなかったらどうか? まして、一般消費財のように、目の前に商品がなかったら、すぐ別の競合商品を買われてしまう場合は? その差に相当する分、すなわち10日分とか、30日分は、先回りして作っておかなければならないはずだ。先回りして作っておいた品物、それは在庫である。在庫とは、だから「時間の缶詰」なのだ。在庫に投資することで、企業は時間を買っているのだ。

そこから逆に言うと、在庫というのは、需給のギャップの結果うまれるものだから、ある一部門の判断だけではなかなかコントロールしがたいのである。世の会社に「生産管理課」や「品質管理課」はあまたあれど、めったに「在庫管理課」が存在しないのは、このためである。ということは、在庫問題のオーナーシップも、曖昧だという事態を意味する。「在庫は悪」だといいながら、マクロに取り組む組織を持たず、単に『在庫責任』をどこかの部署に押しつけ合っているケースも、ままある。

それくらいならば、在庫というものの意義をちゃんと積極的に評価して、そのコストやリスクに見合う適切な活用方法を考えるべきじゃないか。これが、かねてからのわたしの考えである。今のところ幸い、日本では、まだゼロ金利に近い状態が続いている。できるうちに、“最適な在庫の配置”を検討しておくべきだと思うのである。

もっとも、ここまで書いても、まだ在庫を増やすことに懐疑的・消極的な読者は多いことと想像する。それは、そもそも『在庫』というものを、無定義に、ひとくくりにして考えているからだろう。正確に言うと、在庫には、四種類がある。そのうち、積極的に削減すべきなのは、一種類だけなのだ。だが、この話ははじめるとまた長くなるから、稿を改めて論じよう。

需要曲線と供給曲線の一致は、繰り返すが、生産管理の第一の課題である。これは一種の理想状態であって、現実にはいろいろな変動による乖離が避けられない。しかし、まず、上手な計画によって大筋を一致させること、その上で、生産に支障が出ず、かつ顧客に迷惑がかからぬよう、在庫活用とスケジューリングで細かな調整を可能にすることが、望ましい方策であろう。それを、具体的にどう進めるべきかについては、来月、大阪と東京でそれぞれ1日ずつセミナーを開催する予定である(2月18日・大阪府工業協会、19日・日本テクノセンター)。詳細については追って当サイトでもご案内するつもりだが、この問題に関心のある方のご来聴を期待する次第である。


<関連エントリ>
 →「Pushで計画し、Pullで調整する」 (2014-02-14)
by Tomoichi_Sato | 2015-01-11 22:43 | サプライチェーン | Comments(3)

受注型ビジネスにおける業務量の予測法

前回述べたように、ビジネスの基本形態は大きく、見込型受注型に分かれる。別の言い方をすれば、「Push型」と「Pull型」という風にも考えられる。市場の需要に対するスタンスが、前者の見込型では、自分から需要を想定して事前準備(生産)し、市場に対して"Push"していくのに対し、後者では実際の顧客の注文を起点として、製品やサービスをつくり提供していく、受け身("Pull")的な動きをする訳である。もちろん、別にどちらがよい、わるい、という事ではない。市場と製品の性質にしたがって、適不適があるだけである。客の注文を聞いてから魚を釣りに行く料理屋はないし、先にプラントを建ててから買い手を探すエンジニアリング会社もありえない。そして住宅のように、建売と注文住宅が共存するような市場も存在する。

ところで受注型ビジネスにおいては、見込型ビジネスに比較して、一点、難しいところがある。それは、先々の受注量(=業務量)が予測しづらい点である。製品やサービスを生みだすためには、人員や設備や原材料・金型等をあらかじめ手配する必要がある。急に受注が増えたからといって、人も設備も、今日頼んで明日からすぐ増やせるものではない。人の採用にはかなりの時間がかかり、教育もしなければならない。かりに外部からの派遣に頼るとしても、やはりアレンジし面接して適性を評価して、とやっているうちに、すぐ数週間たってしまう。設備・金型などの増強も同様である。手配するのに数週間から数ヶ月、ときには1年以上もかかることがある。

だから、受注が年間を通じてきわめて安定しているような理想的ケースは例外として、受注型ビジネスを営むたいていの企業は、先々の業務量をなんらかの形で想定した上で、要員や設備の手配計画、すなわち『リソース計画』を立てている。このリソース手配計画は、ふつう3ヶ月とか半年に一回行われ、向こう1年~2年程度の期間をタイム・ホライズンとして見るような計画である。したがって、生産計画や生産スケジューリングなどよりはずっと単位とする時間軸が長いが、予測にもとづく計画であることに変わりはない。

では、この業務量予測を、どのように行うべきか。これはいうまでもなく、すでに受注して抱えている業務量(受注残の分)と、これから受注するつもりの業務量(受注予想の分)の合計になる。受注ビジネスでは、この二つをしっかりとウォッチしていかなければならない。既受注分の業務量予測は、技術・製造部門の責任範囲である。そして新規受注の予想はむろん、営業部門の責任範囲になるのが普通だろう。

既受注分は、すでに受注し確定しているんだから、今さら何を「予測」するんだ、などと問うなかれ。予測は必要なのである。たとえば1億円の案件を3ヶ月前にすでに受注していたとしよう。全体の工期は6ヶ月で、約束の納期は3ヶ月後である。半分は済んだ勘定である。したがって、残る業務量は5千万円分だ、などと計算できないことはすぐわかる。まず、仕事は毎月均一のペースで進む訳ではない。最初は基本設計があり、それから詳細設計や購買手配があり、後半になると製造・テストなど大幅な力仕事になる。だから、時間が半分たった時点での進捗率が50%ということは、普通はない。オーダー別の個別スケジュールを見た上で、あとどれくらい仕事量が残っているかを計算しなければならない。

おまけに、仕事なんて予定どおりはなかなか進まぬ。当初のスケジュールでは3ヶ月後に作業の40%までが進むはずだった--でも、顧客の度重なる変更要求や、それにつられて起きた設計のミスなどで遅れが生じ、実際は32%しか進んでいません。業務量はまだ68%残っている。しかも、このままで行けば納期を5週間は遅れてしまいそう・・などという事態がよく起きるではないか。そうしたことを、(かりにここまで細かく数値化はしないとしても)適時勘案し、受注残の業務量を「予測」する必要があるのである。それはまさに、工程管理者の仕事である。

では、営業部門が担当すべき、受注予測の分はどうか。

わたしが想像するに、多くの企業では、「見込案件リスト」を営業部門がまとめているはずである。案件リストには、それぞれ案件別に、顧客名、案件名、案件内容、受注金額(想定)、受注確度、受注時期、営業担当者、などが並んでいる。これをExcelで作っている会社もあるだろうし、もっとスマートなところは、SFA(Sales Force Automation)とかCRM(Customer Relationship Management)と呼ばれる種類のソフトウェアでデータベース化しているかもしれない。

そして、この案件リストは、まず「受注確度」によって、ABCランク、あるいは松竹梅、呼び方は何でもいいが、ランク別にソートされるだろう。Aランクは「受注確実」とか「必注」と考えられている案件である。Cランクは「とれないかもしれないなあ」となかば諦めている案件で、Bランクはその中間領域に属する。このような案件別の受注確度の評価も、必ず営業部門はしているはずだ。

その上で、営業部門の責任者が、Aランクの表は真剣に、Bランクはそれなりに、Cランクはまあ適当に、じっくり眺めた上で、案件ごとの受注確度などを個別に推定・調整し(いわゆる「鉛筆を舐め」て)、最終的な受注量を推定する、という手順である。受注確度についても、担当者の評価とは別に、営業トップの査定があり、大事な案件の場合は、担当者をてこ入れしたり支援しながら、受注確度を上げるよう努力を払う。とにかく、普通の企業の営業部門は受注金額が最大の評価指標である。だから、この作業は定期的に、かつ真剣に行われる。そこで最大限に活かされるのが、営業トップのエキスパートしての経験と判断である。

ところが。

わたしがたまたま知っている欧米系企業の中には、これとはかなり違うやり方で、受注量予測をしているところがある。彼らのやり方は、どんな方法か。

「見込案件リスト」を集成し、それが予測のベースになるところまでは、もちろん同じである。だが、その先の手法が、ぜんぜん違う。彼らは、個別案件の受注予測額を次のような数式で評価する。

受注予想額 = 案件想定金額 × 受注確率
      = 案件想定金額 × (案件実現確率 ÷ 競合社数)

ここで案件実現確率は、次のようなステップで決められている。
 (1) 構想段階 10%
 (2) 事業化検討(Feasibility Study)段階 25%
 (3) 基本設計段階 40%
 (4) 投資決定(Investment Decision)段階 70%
 (5) 引合い・入札段階 80%
 (6) 金額交渉段階 90%
 (7) 受注決定 100%
このように、案件の実現する確率を、その案件が顧客内部でどのような段階まで「成熟」しているかで、自動的に推定するのである(ただしここに掲げたのは一例であり、段階や数字は企業により異なる)。

案件実現確率から受注確率を導く際は、ごく単純に、競合相手が1社ならば50%、相手が2社ならば33%、4社競合ならば25%、という風に考える。自社を含めてN社の競争ならば1/Nの確率である。ウチが有利だとか、相手が強そうだとか、競争に裏がありそうだとか、そういったいわゆる「営業マル秘情報」は一切加味しない。

そして、リストにある全案件に、上記の数式を機械的に当てはめて計算し、受注推定時期に応じて、四半期ごとに積み上げて行く。それが彼らの経営計画の基礎数値となるのである。直近の業務量負荷計画は、この数字を用いる。

このようなシステマティックな、しかし機械的な予測方法には、違和感を感じる向きも多いと思う。そこには営業マンたちの持つ、生々しい情報や経験に裏打ちされた判断が、ほとんど取り込まれないからだ。前述の通り、普通の日本企業の場合は、営業案件リストを見ながら、営業部門の責任者たちが、なるべく蓋然性の高い受注予測をつくって、業務量負荷計画のベースとする。ここの工夫が一切、数字に反映されないことになってしまう。

それではなぜ、このような方法を彼らはあえて取るのか? そこには、基本的な考え方の差があるからだ。それは、重要な仕事のプロセスを、属人性に頼る形でデザインすべきかどうか、の差である。上に書いたような方法をとる企業は、経営資源(要員は大事な経営資源だ)のベースを決めるような仕事について、誰もが客観的に説明可能なやり方をすべきだと信じている。そして、そうしなければ、まず株主が納得しないはずだ、とも考える。

なんでこのような数字で経営計画を立てたのか? と株主にたずねられたとき、「セールス担当副社長のジョン・某の長年の経験と勘で・・」では通らない。なぜなら、ジョン・某が来月、急にライバル会社に転職したら、誰がこの会社のリソース計画を裏書きするのか。--まあ、こんな問答は極端としても、彼らには“業務プロセスは誰がやっても結果の品質にむらがないようにすべき”という発想が強いのだ。この点、“品質は熟達した職人がつくる”と無意識に考えている多くの日本企業とは、ずいぶん違う。

また、計画のベースとなる予測数値に、個人や部署の「思い入れ」だとか「やる気」だとかいった主観的願望を入れるべきではない、という思いもある。これもまた客観性の担保である。

さらに、上記のような計算方式をとることで、リソース計画を審議するマネジメント層の議論のあり方が、まったく変わってくることに注意してほしい。彼らは、過去の推計値と実績値を比較分析することで、たとえば
「(4)投資決定段階にある案件の実現確率は、40%よりも45%とする方が、事実をより正確に反映するようだ」とか、
「直近2年間の案件履歴を見ると、わが社は(4)段階から(5)段階に至る間に、相当数の案件がリストから消えてしまう。これはすなわち、引合い入札前の事前審査対応に何か問題があるのではないか」
といった議論をする訳である。他方、“個別案件鉛筆舐め方式”では、どうしても案件単位の議論、それも願望や情熱を含めた議論に終始しがちだろう。

むろん、機械的計算方式をとるからと言って、個別の営業局面での仕事に大きな違いがある訳ではない。彼らだって営業情報は必死になってとっている。どこが競合相手なのか、自社はどれくらい有利なのか。失注したら、どこが勝ったのか、なぜ自分たちは勝てなかったのか、どれくらい値差があったのか、なんとかして探り出そうとするのは、我々と同じだ。営業マンの査定方法まではわたしは知らないが、やはり受注額がモノサシになる点に違いはないだろう。ただ、その査定にしても、
「ジェームズ君。計算式で言えば君の今期の受注額予測は40万ドルだったが、実績は46万ドルと上回っているな。昨年同時期に比べると絶対額は減ったとはいえ、その分の努力は評価できる」
くらいの会話は成立しそうな気がする(ま、ここは想像である)。

念のため言っておくが、わたしはすべての欧米企業が上記のようなやり方をしている、などというつもりもないし、まして日本の受注ビジネス型企業が明日から全員真似すべきだ、などとも思ってはいない。まさにそれこそ「経営判断」で決めるべきである。ただ、繰り返しになるが、重要な業務プロセスを属人型でやるか客観型ですすめるかは、大きな思想の違いである。属人型の場合は、人を育てる(ないし、素質のある人を選抜する)しかない。客観型の方は、それを技術として継承し改善していく事が可能である。それがすなわち、わたしの好きな用語で言えば、「マネジメント・テクノロジー」となる訳である。

ともあれ、受注型ビジネスの企業においては、業務量の予測とリソース手配計画という重要な仕事があることは頭にとどめておいていただきたい。

え? そんな「リソース計画」などという小洒落たものはない? --それってあれですか。「手前どもは身の丈にあった以上の注文は受けるな、という先代からの方針でして」という、老舗らしいディセンシーあふれる経営方針ですか。あ、違うと。「とれてもいない仕事の心配なんかしてどうなる。とれてから考えればいい! 人が足りなきゃ外に丸投げしたっていい。やり方なんて仕事についてくる」が、社内の合い言葉ですか? そりゃたいへん失礼いたしました。それなら、ここに書いた話なんて、みんな忘れていただいて結構です。


<関連エントリ>
 →「基本的フレームワークで4種類のビジネスモデルを理解する」 (2014-08-30)
 →「進捗管理とは何か?」 (2012-02-26)
by Tomoichi_Sato | 2014-09-07 19:32 | サプライチェーン | Comments(0)

なぜ納期に遅れるのか

日本の製造業の9割は、受注生産の形態だろうと、以前書いた。確たる統計を知っている訳ではない。経験にもとづく感覚的なものである。だが、一般の人の常識とは異なっているので、こういうと驚く人が少なくない。いつかも、ある企業にお邪魔したとき、そこの部長さんが「ウチは受注生産なので特殊です」と胸を張っておられた。他所のコンサルなんかに、わが社の仕事の難しさが分かってたまるか、という雰囲気も、少し込められていたかもしれない。貴方の会社はぜんぜん特殊でも例外でもありませんよ、とお答えしたが、相手は半信半疑だった。

なぜなら、世間でいう製造業とは自動車とか、家電・パソコンとか、カメラ、飲料・食品、日用雑貨などであり、そこに共通したイメージがあるからだ。すべて、自社で開発した製品を、需要を見込んで生産し販売する「見込生産」の形態で動いているメーカーである。だから、そうした生産形態が普通であり、受注生産は例外的だという思い込みが、いつの間にか広まったのだろう。ついでにいうと、いずれもTVコマーシャルをさかんに打つ業種であり(消費者相手に製品を売る商売だから当然だが)、知名度も高い。経済メディアも、取り上げる頻度がどうしても高くなる。そもそもメディアにとっては重要な広告出稿主、という事情もある。

しかし、自動車メーカー1社の後ろに、「系列」と呼ばれる部品メーカー数百社がつき従っていることを考えれば、受注生産形態の企業の方が、数としては圧倒的に多いことは理解できよう。自動車部品メーカーは典型的な「繰返し受注生産」と呼ばれる形態である。製造する部品の仕様は、納品先である顧客が決める。決められた仕様の部品を、いつまでに、何個、どこそこに納入してほしい、と注文を与えられて、製造しておさめる。これは電子部品メーカーや、材料メーカー、容器メーカーなど、非常に幅広い業界に共通である。企業の大小では別に決まらない。端的に言って、製鉄所でさえ、受注生産で動いているのだ。

その受注生産における最大のポイントの一つが、納期である。もちろん、コストも大事だ。品質も大事だ。だが、とくに繰返し受注生産の企業は、継続的な供給体制の一環として、サプライチェーンに組み込まれて動いている。値段は(たとえば)半期単位で決められており、また品質だって顧客仕様で定まっている。いきおい、指定された納期の遵守率が、競争上の要点になる。

(ところで、『遵守』は“じゅんしゅ”と読みます。従い守る、の意味ね。先日、東大の授業で、何人かの東大生がこの漢字を“とんしゅ”と読んでいたけれど、それじゃ『頓首』だかんね)

さて、ところがこの納期、守るのがなかなか難しいのである。--ときくと、首をかしげる人もいるかもしれない。個別に顧客の注文をきいて設計するような「個別受注生産」なら、納期遅れもあるだろう。とくに顧客がぐずぐずと迷って決めない場合など。しかし、決まりきったものを、同じ仕方で作るだけの繰返し生産で、何で納期を守れないのか? 単純な力仕事ではないか。そう、思われる方もおいでだろう。

しかし、それは製造という仕事の実態を知らないまま、頭の中だけで考えるから、そう見えるのである。実際には、工場では多種多様な品物が流れている。今日の製造業で、同じ一品種をずっと作り続けていればいい、などという企業はほぼ存在しない。ふつうは多品種を、切り替えながら生産している。同じ製造装置や道具でいろいろな品種を加工製造するから、切り替えが必要なのである。そのためには、各工程に、「何々を、いつから着手し、いつまでに作れ」という指示(製造オーダーとか製造指図と呼ぶ)を的確に出さなければならない。

おまけに、需要は納入先の都合で、勝手に変動する。さらに、原材料・部品の手配の問題もある。工場内に鉄鉱石の鉱脈があるならいざしらず、どんな工場も原材料や部品は外部から調達するのである。とうぜん、いつ、何を、どれだけ注文すべきかという問題が出る。足りなくなれば、生産が止まってしまう。余りすぎれば、コストになるし、置き場所を圧迫する。

つまり、工場というものを一つのシステムと見た場合、かなり高度な制御を、連続して的確にやらないと、思った通りに機能しないのである。需要という予条件(インプット)がある。工場が抱える製造機械や道具や人びとの数と種類、というリソースの制約条件がある。外部調達にかかわる制約もある。こうした変わりやすい環境と制約条件の中で、複数品種(それぞれ異なる数量と納期を持つ)の製造を継続的に行った上で、さらにコストを最小化せよ、というのがシステムの運転に求められる要請である。工場の生産管理が、そう簡単な仕事でないことは、お分かりいただけると思う。

では、納期遅れはなぜ、起きるのか。一言でまとめると、「平均リードタイムが要求納期より長い」ということになる。しかし、じゃあリードタイムをむやみに短縮すればいいかというと、そうではないのだ。納期遅れが生じる原因が、工場ごとに異なっており、同じ対策が全てに当てはまる訳ではない。そこで、Structured Approachを応用してみよう。分析的な観点に立ち、直接の原因、そのまた原因、という風に列挙してみるのである。

まず、「需要が読めない」という原因が考えられる。

え、需要? 受注生産の話じゃなかったの? 注文を受けてから作るのが受注生産なんだから、需要の読みなんか、関係ないはずだろう? ・・はい、そこの方。とっても論理的ですね。でも、ふっふっふ。それは考えが甘い。わたし達の社会は、そんな論理では動いていません。「部品Aを100個、丸ペケ工場まで持ってこい。納期は明日の夕方、5時。」--これが、現実の姿です。部品Aを、組立て研磨し検査して包装し、トラックで運ぶだけで精一杯。部品Aを作るための材料を手配する時間なんてゼロ。粗材を切り出し加工する前工程だって、やっておかなかったら、そんな短納期に間に合う訳がない。そうした事前作業は全て、需要を読んで行われる、というのが繰返し受注生産の現実なのである。

自動車業界など一部の業界では、「先行内示」というものをサプライヤーに開示する。来月は何個、再来月は何個、注文する予定でいる、と書かれている。しかし、内示書は確定注文ではない。確定値は、「かんばん」などと呼ばれる納入指示書でようやく決まる。だから、先行内示が実需と合わない可能性はつねに残っている。

次に、「適切な指示が出ない」という原因も考えられる。工場の指示系統(生産計画系統)に問題があって、すべての工程にタイムリーに指示が出ない。しかたなく、現場がそれなりの判断と読みと慣例で作業せざるを得ない。そんなケースも、たしかにある。

需要は一応読めて、指示も出るのだが、「指示どおり作れない」という状況も、もちろんありうる。というより、たぶん実態はこれが一番多いだろう。

なぜ指示どおり作れないか。理由はいろいろだ。まず「図面がない」という問題。これは、完全な繰返し受注生産では起こらないが、仕様・性状に変更要求やオプション指定があり、そのために技術部門で設計図面を起こすときに、生じる問題だ。モノもある。製造機械も空いている。だが図面がないので作業できない。情けない、とお思いか? そういう方は、宮崎駿の「風立ちぬ」で、主人公が工場に着任したときのシーンを想い出すとよい。あの場面では、別の同僚が上司に向かって、「現場への出図が間に合いません!」と訴えるのだ。(飛行機はもちろん、受注生産である)

それから、人・道具・設備が能力不足、という状況も考えられる。まず、人が足りない。あるいは、機械設備の能力が足りない。それから、ツール・治具が足りない。さらに、人も機械も道具もあるのだが、生産性が低い。いずれの場合も、納期遅延が生じる。

それ以外にも、材料・部品が足りない(欠品)という状況だってある。モノが無ければ現場は動けない。なぜモノが無いのか? 理由は三つだ。適切なタイミングに注文をしていなかったのか、注文はしたが数が足りないのか、あるいは、あるはずなのに見つからないのか(最後のが一番くやしいが)。

そして、指示どおり作れたのだが、検査したところ不良が出て、作り直しになってしまった、という状況。

以上を樹形図的にまとめると、図のようになる。一番下のレベルの原因だけを図から拾い上げると、12種類になる。納期遅れの、12の原因である。もっと細かく分類することも可能だが、まあこの程度で実務的には十分だろう。

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したがって、納期遅れ問題を解決するためには、上記の12種類の原因のうち、どれが起きているかに応じて、対策を考えるべし、ということになる。たとえば
「適切な指示が出ない」 →製造指示システムを構築する。
「人が足りない」 →人を増強あるいは教育する。
などなど。Structured Approachにふさわしく、きわめて論理的で、シンプルである・・

ところが、これだけでは問題は解決できないのだ。

なぜなら、納期遅れ問題が起きている工場では、上の12の状況が複数、同時に発生しているからだ。人も足りず、機械設備も古く、だから生産性も低いのに、内示と実需が合わないおかげで、工場は余計なモノがあふれかえって、必要な材料部品がすぐ見つからない。せっかく作っても不良で作り直しになる。結果として指示系統が混乱して、適切な指示が出なくなる・・。これが、システムにまつわる問題のややこしさ・難しさだ。

では、どうしたら良いのか。

こういう時には、とるべきアプローチに順番がある、とわたしは考える。その話を、17日の大阪府工業協会のセミナーでは説明するつもりである・・のだが、それでは本サイトの読者諸賢にあまりに不親切だろうから、最初にすべきことだけは書いておこう。

それは『不良を減らす』である。最低限、満たすべき品質を上げて、不良による作り直しを、まず防止する。なぜなら、「予期せぬ作り直し」ほど、生産スケジュール全体をかく乱するものはないからだ。人の不足、設備能力不足、欠品問題などは、ある工程単位には遅れを生じさせるだろう。もちろんその影響は連鎖的に波及していくのだが、まだしも読みが可能である。しかし作り直しは、どの工程まで後戻り・リワークが生じるか、全く見えない点が一番問題だ。このような、スケジュール担当者にとってもっとも読みにくいかく乱要因を、まず抑えること。

しかも不良問題は、工場が見逃して出荷し、納品先で発見された場合、顧客に与える迷惑度が非常に大きい。納期遅れの比ではない。信用失墜も大である。

何もわたしは、「品質がつねに一番」だから、できる限り品質を上げろ、などと主張しているのではない。最低限、満たせる水準でいい。不良ゼロ・歩留り100%を、などといっているのではない。歩留り80%でもいいから、まずは、予期できる水準に抑え込み、予期せぬリワークを防ぐべきだ、と申し上げている次第である。

では、その次は? 二番目にとるべきアプローチは、「在庫を活用する」である。だが、そろそろ紙数が尽きたようだ。この話の続きは、いつか、また語ろう。


<関連エントリ>
 →「Structured Approachができる人、できない人
 →「映画評:『風立ちぬ』
by Tomoichi_Sato | 2014-06-15 22:35 | サプライチェーン | Comments(1)