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お知らせ:納期遵守のための1日セミナーを開催します(11月18日・大阪)

来る11月18日(土)に、大阪府工業協会で納期遵守をテーマとした1日セミナー(有償)を行います。主に受注生産型の工場における、納期遵守のための生産計画と統制(コントロール)について、製造業の実務家向けに、理論・事例と演習を含めてお話しします。3年前からはじめた本シリーズも、今回で5回目の開催になります。

人手不足が深刻化している昨今、多くの企業が納期問題に直面しています。しかし、だからといって生産性の向上はそう簡単ではないし、高価な最新鋭機械を導入すれば解決する問題でもありません。生産リードタイムは、生産システム全体のパフォーマンスで決まるからです。

拙著「革新的生産スケジューリング入門」や「BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)」をお読みになった方はご承知の通り、わたしは具体的なテクニック論のみならず、原理・原則に関する体系的な理解を重視します。そのため、生産活動の仕組み全般を『システム』としてとらえ、その生産システムをより良く運用するにはどうしたらいいか、また仕組みをより上手に設計するためには何に留意したらいいか、を考える『システムズ・アプローチ』をとります(もちろん、ここでいうシステムとはコンピュータのことではありません)。

したがって業種分野については、わりと間口を広くとってお話しできる点が特徴です。普通の現場改善コンサルタントの講義に、飽き足りない気持ちでおられる技術者の皆さんのヒントになればと思っています。関心のある方のご来聴をお待ちしております。


<記>

日時: 2017年11月18日(土) 9:30-16:30

テーマ: 「納期遅れを起こさない 生産統制のポイント
     ~ 工程管理担当者の実務能力の強化 ~」

主催: 公益財団法人 大阪府工業協会

会場: 大阪府工業協会研修室
     大阪市中央区本町 2-6-12 サンマリオン NBFタワー4F
     (市営地下鉄御堂筋線「本町」駅9番出口より徒歩4分)

セミナー詳細: 下記のPDFファイルをご参照ください(「受講申込書」も兼ねています)


by Tomoichi_Sato | 2017-10-15 22:15 | サプライチェーン | Comments(0)

IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (3) MESの未来像とは


最近、ある工場を見学に行った。ここでは仮にX社と呼ぼう。中堅の機械メーカーで、精密な加工技術を要する製品(というか、より大きな機械に組み合わせて使うモジュール的部品)を作っている。顧客の個別仕様要求が多く、生産形態としては受注設計生産に属する。

組立工程の現場のチーフ格の人から、話を聞いた。ここの現場では、一種の「デジタル屋台」というべき方式を採用している。ちょうどラーメンの屋台のように、一人に一台の作業用のラックが与えられ、目の前の端末には組立工程の作業指示が1ステップずつ、3D的図面に表示される。

X社が作っているのは小さな製品で、組立にはネジ止めを多用する。ネジ止め作業では屋台(ラック)に付属する電動ドライバーから、トルクなどの情報を自動的に取って、作業を自動的にチェックし、ミスを防止している。他企業でも見たことがあるが、優れたやり方だ。

ラックのサイドに部品入れの抽斗が並んでいて、部品はそこから手で取り出して、とりつける。取り出すべき抽斗の位置も、自動的に表示される。そこまではいいのだが、使うのは小さなネジなので、どうしても取り出すのにイラついたり、あるいはサイズや本数を間違えて取ってしまうことがある。

そこでこのチーフ格の人は、何か解決策はないものかと考えた。そしてある日、100円ショップから、色付きストローを何本か買ってきた。ストローの先端を、ちょっと丸める。そしてストローの逆側からネジを何本か入れてみた。こうすると、ストローの中でネジが数珠つなぎになり、ストローの先端からは、ネジの先っぽが顔を出す。一本引っ張って取り出せば、次のネジがまた顔を出す。

かくてワンアクションで、確実にネジを1本取ることができるようになった。ネジの種類に応じて、ストローの色をかえれば、取り間違えも防止できる。見事な知恵である。これ以外に他の現場でも、いろいろ創意工夫を聞いて、X社の職場の志気の高さに感心した。

それにしてもX社は、多品種 小ロットの受注設計生産がメインである。このデジタル屋台の作業指示の3D的画面は、誰がどのように作っているのだろうか? 3D-CADで設計しているから、というのは答えの半分でしかない。繰返し性の高い量産工場なら、3Dモデルから、工程設計者が細かく作業展開して、指示データを作っておくことができる。しかし小ロット個別受注で、そんな手間がかけられるのか?

X社の秘密は、設計の標準化と、コンフィギュレータの利用にあった。設計については、徹底した標準化を進め、製品各部分のサイズや材質については、パラメータ化している。また、共通部分と、個別にカスタムで変えるべき部分についても切り分けられているようであった。その上で、見積と受注段階で、コンフィギュレータを使う。コンフィギュレータというのは、製品の顧客要望の仕様を入力すると、適切な部品やパラメータの組み合わせを自動的に検索・計算してくれるソフトウェアのことである。

これによって受注時に、基本的な設計BOM(E-BOM)が自動的に選定されており、また価格も見積もられる仕組みだ。その設計BOMと付帯情報は、3D-CADに組み込まれたロジックにより製造BOM(M-BOM)に自動展開され、さらに別のソフトにより、デジタル屋台の作業指示画面が生成される。

製造現場の作業者に対して、ステップ・バイ・ステップで標準作業の指示を与える機能は、典型的なMESの機能である。医薬品分野のMESでは、「SOP(標準作業指示)」機能と呼ばれる。組立の分野では、紹介したような組立図の画面表示がよく行われる。作業の着手と完了時に、ワークに付随するバーコードやRFIDを読み取って、誰がどの部品をいつ・どれだけの時間をかけて製造したかをモニタリングする「POP(製造時点情報管理)」と並んで、MESの基本機能と言っていい。かなり制御層に近いので、前回記事の言い方を借りれば”Lower MES"ということになるが。

ところで、作業指示をステップ単位で表示するためには、MESが対象製品の製造部品表(M-BOM)と、作業工程表(BOP=Bill of Process)のデータを知っていなければならない。ご存じの通り、部品表(BOM)と作業表(BOP)は、製品設計からスタートする情報の流れ、すなわち製品の『エンジニアリング・チェーン』の中で生成される。つまり、MESという仕組みは、企業のエンジニアリング・チェーンときちんとデータ・レベルで結合されていないと役に立たない、ということになる。

そして製品のエンジニアリング・チェーンというものは、納入先顧客数が増え、製品の品種数が増えるほど手間暇がかかるようになり、部品点数や個別仕様が増えるほど、設計変更の可能性が増える性質を持っている。少品種・大量見込生産の高度成長期に比べ、個別受注設計・小ロット生産が主体の今日は、エンジニアリング・チェーンとMESのスムーズな結合・連携は、はるかに重要かつ難しいといえるだろう。多くの企業では、生産技術部や製造部の技術者達が人手で対応して、つないでいるのが現実だ。

エンジニアリング・チェーンからBOMやBOPデータを受け取ることと並んで、MESにとって大事なのは、生産オーダーの情報を上位系から受け取ることである。どのオーダーは、どの顧客向けで、どんな数量と納期になっているのか。これが分からないと、各工程における優先順位やスケジューリングができないことになる。製造工程のスケジューラは、前回も紹介した通り、MESのもう一つの重要な機能である。こうした納期・顧客・数量のデータは、サプライチェーン関係の仕組みから入ってくる。MESの3層モデルが示すところである。

エンジニアリング・チェーンとサプライチェーン。MESがつながる相手は、これだけで十分だろうか。いや、まだある。

IoT技術が進展しつつある今日、MESの普及を阻害してきた現場の機械・制御系とのやりとりが可能になり、稼働監視や複数機械の連携制御、そして予防保全などが新たな期待となっている。それはつまり、MESが設備情報のマスタ・リストを持たねばならないことを意味する。工場の機械設備等のBOM構成・能力やプロファイルなどのマスタデータはどこから来るか。それは、設備に関するもう一つのエンジニアリング・チェーンからくる。多くの企業では、生産技術部門や保全部門などが主導し、工務部門や調達部門もかかわる業務の流れである。

他には? MESが現場作業者に指示を出し、制御系やPOPなどから工程実績をとれるようになると、次には工程別や個人別の生産性に目がいくと思う。「デジタル屋台」などはそれに非常に適した仕組みである。作業ステップごとに、組立作業時間の実績が分かる。こうなると、自分の目標値や自己ベストや職場のチャンピオンの時間との比較も可能になる。こうした生産性比較は、上手に使えば個人のモチベーションアップにつながる(もちろん、下手な使い方をすれば、単に全員を「競争馬の疲弊」に追い込むことにもなり得るが)。

ともあれ、こうなるとMESは人事や労務管理プロセスから、作業者のマスタ・データを受け取り、あるいは能力・実績を送り返す必要が出てくる。

まだある。製造現場には、顧客サイドからのフィードバックが入ってくることがある。主に品質に関する情報だ。顧客サービス部門が起点で、製造部門にまず入り、そこから設計をさかのぼって製品企画部門に至る、製品改善のチェーンである。5月にフィンランドで開催されたMPD 2017で、たまたまご一緒したIVIのエバンジェリストである富士通の高鹿初子さんは、これを「顧客サービスから製品企画に持ち帰るフィールド・プロセス」と呼ばれていた。よい言葉だと思うから、借りることにしよう。

MESには、フィールド・プロセスから来る品質に関するクレームや提案を、製品ロットやシリアル番号とともにインプットする機能も必要だ。

結局、それはMESが情報のハブになる、ということだ。これが、IoT技術の進展と共に、MESに起きる一つめの変化なのだ。従来のMES機能モデルでは、本社の上位系から計画情報を受け取り、実績情報を返す、と書いてきた。前々回で、わたしは「8の字モデル」をご紹介したが、そのバリエーションだ。ISA-95はもっと複雑だが、資材・スケジューリング・在庫といったSCM系情報が中心で、品質・保全系がサブに見える。だが今後は、MESは製造業における情報のハブとしての機能を、強化する必要があるだろう。もっと分かりやすくいえば、外部とのインタフェースがもっと増えるだろう。同時に、マスタデータの同期をどう図るかという、運用設計上いささか面倒な点も考慮しなければなるまい。
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もちろん、こうした機能の全てを皆がいつも必要とする訳ではない。また、MESパッケージがこれら機能全てを備えるべきだとも思わない。製造現場のニーズは多様であり、個別目的にフィットしたパッケージやモジュールを選んで組み合わせて使う、という風になっていくのではないか。それはプロセス産業で一足先に実現している姿だ。

さて、冒頭のX社の事例を見学しながら、わたしは10年近く前にかかわった別の企業のことを思い出していた。そこをY社と呼ぼう。Y社も個別性の高い多品種少量・受注生産形態の、機械のメーカーだった。受注の半分以上が、設計工程のある受注設計生産だったと思う。

Y社を思い出したのは、そこもやはり受注に当たってコンフィギュレータを活用していたからだ。かなり早い段階から自社開発していたと聞く。営業部門は引合いの段階からコンフィギュレータを使って型式選定や見積を行い、受注後は、自動的に標準製作部分と、追加設計の必要な部分に分けてE-BOMが出力される。部品の発注手配も、そこから行われる。設計部門が設計作業をおえてE-BOMを完成登録すると、システムが自動的にM-BOMに展開していく。なかなかすぐれた仕組みだった。

Y社の元々の構想では、M-BOMと図面情報から、工作機械(NCマシン)の加工プログラムまでつなげて、生産性を高めるはずだった。だが、Y社の製品は、部品点数や材料のバリエーションが非常に多く、またサイズも最初のX社の製品よりずっと大きい。結果として、マテリアル・マネジメントがいくつかの理由で混乱して、部品在庫が沢山あるはずなのに、欠品による納期遅れが多発していた。エンジニアリング・チェーンから自動的に製造管理の仕組みにつなげるアドバンテージを、生かし切れていなかった。何より、個別オーダーの納期管理の責任が、いくつかの部門間に分散されていた。

わたしは、社内に「受注コントロールセンター」的な機能を作って、納期管理を徹底させることを提案した。ちょうど空港の管制センターが、入ってくる飛行機に次々に指示を出して、限りある滑走路やゲートを割り当てていくように、個別のオーダーの指示とモニタリングを集中化するのだ。かなりの受注オーダーをさばくY社の業態には、こうした機能が必要に思われたのだ。だがそのためには、情報システム関係にもかなりの改変が必要になる。結局その提案は受け入れられずに終わった。

冒頭のX社は、PCベースの工場スケジューラを導入して、この問題を乗りこえようとしておられた。まだ工場の全工程まではカバーし切れていない様子だったが、その方向性はとても正しい。標準形はあれども個別性の高い要求使用を受けた受注生産を、マス・カスタマイゼーションと呼ぶ。そう。ドイツIndustry 4.0がターゲットにしている生産形態である。マス・カスタマイゼーションでは、製造全体をカバーするような、中央管制システムのような仕組みが必要なのだ。

そして、まさにIoT技術の進展が、それを次第に可能にしてくれている。これまで、現場の手作業やアナログ機械の状態監視ができなかった。また工場内を動く部品やワークの、所在や流れを追いかけることも困難だった。IoTのおかげで、そうした要求は、(コストのハードルはあれども)指呼の間に入ってきたのだ。Lower MESという言葉が出てきたように、MESが制御層と直接やりとりする界面がずっと広がった。今後は、MESと制御システムとのつながりはもっとシームレスになっていくだろう。そして工場全体の流れや動きがリアルタイム的に分かるようになるだろう。

MESの分野に起きる、もう一つの大きな変化とは何か。それは、MESと制御システムがより一体化して、工場全体の「中央管制システム」のような仕組みが生まれることである。従来からプロセス・プラントには中央制御室があり、そこから工場全体を監視し指示を出すことができた。ディスクリート系工場も、いずれ、似たような中央管制システムを持つようになるだろう。これがわたしの二番目の予想である。

もっとも、こうした予想に対しては、「欧米流トップダウン式の中央制御の仕組みは、日本のボトムアップな現場力を損なう」という反論があり得よう。読者はどう思われるだろうか?

でも考えてみてほしい。空港には管制塔がある。では、航空機の世界はトップダウンだろうか。飛行機の機長は、ただ上から言われたことをやるだけのロボットのような存在だろうか? そうではあるまい。たぶん、そういう意見は、中央に情報のハブを持つ仕組みと、軍隊式の命令服従型の組織構造を、なんとなくごっちゃにしている。冒頭のX社は、中央管制システムの実現に相当近い位置にいる。だが、現場の人はものすごく独自な知恵を出して、さらなる改善を続けているではないか。誰かがオーダーの最初から最後までを追いかけていることと、現場の創意工夫とは、まったく矛盾しないのだ。

わたしはむしろ、中央管制システムの実現に対して、もっと別の心配をもっている。それは、誰がこのような制御とITにまたがったシステムの構想を描き、設計をリードし、実装と運用の面倒を見るのだろうか、という問題だ。よほどの大企業だったら、工場にも情報システム部門があるだろう。だが普通の企業では、情シス部門は本社にいて、製造現場の泥臭いことには手を出したがらない。多くの工場では、生産技術や製造部の、「ちょっとパソコンに詳しい若手」が、片手間にその任に当たることになっているのだ。だがこんな大きな仕事、片手間でできるだろうか?

製造現場にIoT技術が広がる現在こそ、わたしは経営層に、こうした生産情報系への関心を持ってほしいと切望する。「ウチの現場力は外国に負けない」と自負されるのは結構だ。だがその現場力は、きちんとモノと情報が交通整理された工場ではじめて十分発揮できるのだ。

昨今、ものづくりの競争力のコアは製品開発にある、製造は単なる力仕事だ、といった通念がメディアで流布しているように思う。冗談言わないでくれ、というのがエンジニアリング会社で働くわたしの率直な実感だ。経営者はもっと製造現場を見て、そこで働く人達の悩みを理解してほしい。せめて聞く耳を持ってほしいと思うのだ。

それを怠ったら何が起きるかって? いうまでもない。ここに書いたこと、これまで3回にわたって縷々説明してきたことは、すべて日本にも外国にも共通した話なのだ。放っておけば、必ずや頭の良い外国人達が、情報のハブとしてのMESと、MESによる中央管制システムの仕組みを、実現していくだろう。それが第4次産業革命のコア技術となるのだ。いや、そればかりか彼らは例によって、勝手に標準規格を作って、押しつけてくるかもしれない。そして日本はまた、その動きを後追いすることになりかねまい。

そういう受け身の状態を、わたしはこれ以上見たくない。だから、こうした予測や議論を共有したくて、記事に書いているのである。まあこんなサイトに書いたからといって、経営層の人が見る気遣いはあるまい。しかし、読者の中には心ある技術者の方がいて、こうした意見を含め上申されるかもしれない。わたしはいろいろと足りない人間だが、言葉を連ねる能力だけは、多少あると思っている。

多くのエンジニアは、寡黙である。寡黙なるが故に、力量があっても理解されない。せめてわたしは、声なき技術者にかわって、言挙げし続けようと思っている次第である。


<関連エントリ>
 →「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (1) MES普及を妨げたもの」 http://brevis.exblog.jp/25991822/ (2017-08-19)
 →「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (2) MESの機能と階層を理解する」 http://brevis.exblog.jp/26007261/ (2017-08-27)
 →「部品表と工程表」 http://brevis.exblog.jp/25634844/ (2017-03-22)

by Tomoichi_Sato | 2017-09-04 23:28 | サプライチェーン | Comments(0)

IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (2) MESの機能と階層を理解する


前回の記事(http://brevis.exblog.jp/25991822/)で、IoT技術の発達はMES(Manufacturing Execution System=製造実行システム)にどのような影響を及ぼすかを考えたい、と書いた。MESの概念が提唱されてから、すでに20年がたつ。その間、限られた一部の業界を除くと、MES自体はあまり大きく広まらなかった。そのボトルネックが、製造現場の機器や人との通信インタフェースにあったことも、前回書いたとおりだ。

そもそも、MESとは何か。どのような機能を持つITシステムなのか。これをきちんとおさえないことには、IoT技術のインパクトも論じられない。MESの持つべき機能については、MESA Internationalが早くから「MESの11機能」を定義していた。「MES入門」の中村実氏の解説を元に列挙すると、次のようになる。(なお、日本語だけだと誤解されかねない部分があるので、元の英語も併記した)

(1) 生産資源の配分と監視 Resource Allocation & Status
 生産資源の監視・管理、資源の配分と予約、資材や設備の監視・管理、などを行う。なおここで生産資源とは、人・機械・治具・金型など、それがないと製造ができないが、材料と違い製造後にも残って他の仕事に使えるものをいう。

(2) 作業のスケジューリング Operations/Detailed Scheduling
 スケジューリングの策定、ロットの発番とリリース、実績の把握に基づくスケジュールの修正。この部分だけを見ると、いわゆる工場スケジューラの機能である。

(3) 差立て・製造指示 Dispatching Production Units
 差立て(ディスパッチ)、製造指示の発行、ロット(現品)管理、現場作業員に対する作業のガイダンスを行う。このうち、製造指示書の発行と差立ては、中堅以上の工場ではどこでもほぼIT化されていると思う。

(4) 仕様・文書管理 Document Control
 仕様・工場モデルの設定・管理(BOM、SOPを含む)、製造記録の管理、ペーパーレス・オペレーションなどを行う。なおSOPとはStandard Operating Procedureの略で、「標準業務手順書」のことである。医薬・食品など品質管理を厳密に求められる分野で重視される。

(5) データ収集 Data Collection Acquisition
 作業報告・POP、データ収集・蓄積などを行う。日本の現場では、作業報告はおおくは日報の形で記録され、翌日上がってくるのが普通だろう。POPとはPoint of Productionの略で、流通業界でPOS(Point of Sales)システムとよばれるものの製造現場版だ。つまり、作業の着手と完了時に、指示書のバーコードをスキャンして、どこの誰が何をいつやったか、リアルタイムに収集する仕組みである。
 他方、「データ収集」(Data Aquisition)と英語で言う場合は、制御系のDCS/PLCなどからタイムスタンプ付きデータを、リアルタイムに自動的に転送してくる仕組みを普通いう。

(6) 作業者管理 Labor Management
 作業者管理・セキュリティ管理などを行う。といっても勤怠管理や現場のゲート・コントロールなどは普通、別に仕組みがあるはずだろう。

(7) 製品品質管理 Quality Management
 統計的品質管理、品質情報の蓄積と管理、品質分析・解析の支援、顧客サービスの向上などを行う。

(8) プロセス管理(工程品質管理) Process Management
 通常のプロセス制御、高度なプロセス制御(工程間制御、フィードフォワード、モデル予測制御など)、例外状況のアラートなどを行う。

(9) 設備の保守・保全管理 Maintenance Management
 保守・保全管理を行う。なお、この部分だけに特化したCMMS(Computerized Maintenance Management System)というパッケージのソフトウェアも存在する。

(10) 製品の追跡と製品体系の管理 Product Tracking & Genealogy

(11) 実績分析 Performance Analysis
 レポート作成、分析作業支援、進捗管理、出荷予測を行う。

・・以上だが、読んでいて、なんだか分かりにくいと思うのはわたしだけだろうか? たとえば、通常のプロセス制御(フィードバック制御など)が、なぜ (8) Process Management機能の一部なのだろうか。これは制御層の仕事ではないのか? また、トレーサビリティ関連の機能が(3)(7)(10)に分散しているように見えるのはなぜだろうか。どうも今ひとつ、自分の頭の中ですわりがわるいのである。

そこで調べてみると、じつはMESの機能モデルはこれだけではないことがわかる。

たとえば、ISA-95 (IEC/ISO 62264)という標準規格がある。ISA-95は、ビジネス(経営)ドメインと製造ドメインとのインタフェース仕様を定めたもので、その中には以下の12の生産関連機能が書かれている(番号はわたしが勝手にふった整理番号である)。

ビジネスドメイン:
 1 オーダ処理、
 2 製品原価管理、
 3 製品出荷管理、
 4 マーケティングと販売、
 5 研究開発および生産技術、
 6 調達、
製造ドメイン:
 7 生産コントロール
両者の境界線にまたがる機能:
 8 生産スケジューリング、
 9 製品在庫管理、
 10 品質保証、
 11 保全管理、
 12 資材およびエネルギー管理

ビジネスドメインと製造ドメインにまたがる機能がMESの役割と考えると、スケジューリング、在庫、品質、保全、資材・エネルギーの5(6?)種ということになる。ただこれらは「お仕事の機能」であって、IT機能モジュールという意味ではないので注意。

ほかに、あまり知られていないが、日本発の標準化を目指した製造科学技術センター(MSTC)の「オープンMES」の9機能というのがある。

1 製造指示管理、
2 工程管理、
3 設備管理、
4 資材管理、
5 搬送管理、
6 製品仕様管理、
7 スケジュール管理、
8 工程仕様管理、
9 保守管理

ISA-95と比較すると、搬送管理や工程仕様管理が入っている点が目をひく。こちらはさらに、製造現場に立脚したモデルという感じを受ける。ただオープンMES自体は、実証目的で試験的実装まで行われたが、技術的及びマーケティング的理由で、現実には広まらなかった。

ところで、ARC Advisory Group(米国の製造業系ITの調査コンサルティング会社)のつい最近の調査レポート:
ISA-95 Integration Standards: Evolution, Revolution or Irrelevance
を読んでいたら、興味深いことが書いてあった。著者はIoT技術の普及進展と共に、MESがいかに影響を受けるかを論じていて、とくにISA-95規格が「進化するのか変革されるのか、それとも無関係なのか」と問うている。その中に小さな図が一つはいっていて、例の3層モデル風の絵が描かれているのだが、そこではMESをさらに

 - Upper MES
 - Lower MES

に分けているのだ。Lower MESは、制御層に一部食い込んでいる(ISA-95はパーデュー大学が開発した機能階層モデルを採用しているので、「制御層」という言い方はしないが)。上位MESと下位MES? 似たような表現を、別の制御ベンダー資料でも見たことがあった。
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いったい、Lower MESとは何か。それは制御層の機能を抱え込んでいるか、切れているのか? これは、上記MESA Internationalの(8) プロセス管理 Process Managementで感じた違和感にも通じている。そもそも、本社機能と現場をつなぐのがMESシステムではなかったのか。だったら現場の機械を動かす制御が、どうしてMESの一部なのか。

こういうヘンテコな現象がMESの機能モデルで生じるのは、じつは理由があるのだ。それは、上述のアメリカ発の標準体系が、ディスクリート系とプロセス系の両方を取り込んだ結果なのである。彼らは抽象化と汎用化を強く志向する人達なので、どんな製造業にも当てはまるモデルを求めたのだろう。だが、それが混乱の元だった。両方をそれなりに見てきたわたしの意見では、プロセス系と組立加工(ディスクリート)系は、制御層の構造がものすごく違っているのである。

簡単に言うと、プロセス産業では、制御レベルで工場(製造ライン)全体が統合されている。プラントにはDCSというシステムが中央制御室にあって、そこから工場内の全てのできごとが監視でき、また主要な機器・バルブなどを操作できるようになっている。

ところが、ディスクリート系では制御が機械単位で行われているのが普通だ。現場に製造機械がある。それのモーションを制御するPLCは、機側盤の形ですぐ横についていて、オペレーターはそのパネルから操作するのが普通だ。搬送機器なども同様である。だが、工場レベルではバラバラだった。前回書いたように、建物の一歩外に出ると、中の機械が動いているか止まっているのかさえ分からないのである。

これではこまるから、複雑な機械作業の連動が必要な半導体や液晶や医薬品工場では、MESが発達したのだ。MESが各機械・設備を統括し、連動して工程間制御の指示を出す。だからMESの中に制御的な機能が入ってくるのである(いわゆるLower MES)。これはプロセス系MESではほとんど不要なことだった。

現場センサーの接続についても、状況はまったく異なっている。プロセス系では、現場の圧力計のトランスミッターと、中央制御室のDCSのメーカーが違っていても、つながってあたり前である。通信がつながるかどうかの心配なんて、誰もしない。もう何十年も前からそうなのだ。だがディスクリート系では、長らく、つながること自体が技術力の証だった。「つながる工場」といったって、つながり度が全然違うのである。

だから制御システム業界では、プロセス系をPA(Process Automation)、ディスクリート系をFA(Factory Automation)と呼び、社内的に区別してきた。技術の考え方がまったく違うからだ。

プロセス系とディスクリート系は、製造における仕様や品質管理の思想も違う。このことは、強調しておいた方が良い。ディスクリート系では、モノに属性がある。また、モノに(やろうと思えば)シリアル番号をふれる。それが当たり前だと、皆、思っているだろう。なぜなら、扱うモノが個体で、混合しないからだ。

だが、プロセス系では、モノではなく、ライン(配管内の流れ)に属性がある、と考える。なぜなら扱うのが流体や粉体で、任意の比率で混合するからだ。そして混合比率も性状も、経時的・連続的に変化する。ただしプロセス系といっても、連続生産でなくバッチ生産の場合は、品質的に均質と言える範囲をロットと定義して管理する必要があるが。

ともあれ、無理に木に竹を接ぐと奇妙なモデルが生まれる。これが、「システム・モデラーが天職」を自称するわたしの、MES標準化活動に関するいささかゴーマンな主張である。もちろん、プロセス系とディスクリート系の境界領域は存在する。わたしのいう「切替型連続生産」業種で、上流はプロセス、下流はディスクリートになる。こういった領域ではモデリングにも細心の注意が必要だと、わたしも思う。

それで、主題はIoT時代のMESの将来であった。わたし自身は、プロセス系のMESについて、すでに「MES入門」「MES活用最前線」でいろいろ書いてきたので、この記事ではあえてディスクリート系のMESについて論じよう。IoT技術が現場とのつながり方を速く広くしてくれたことで、MESはどうなるのか。MESとは工場の製造管理者(工場のホワイトカラー層)を助ける仕組みである、というのがわたしの前提である。一部の欧米人は、本社が直接、MESで製造現場を指示統制できれば製造管理者など不要になると空想しているかもしれないが、わたしはそうは考えない。

その前提の上で、わたしはMESに二つの変化を予想している。だが、今回も問題整理で長くなりすぎてしまったようだ。変化の方向性については、稿を改めて、次回書く。


<関連エントリ>
 →「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (1) MES普及を妨げたもの」 http://brevis.exblog.jp/25991822/ (2017-08-19)
 →「工場計画論(6) ディスクリートとプロセス--製造業の分類学」 http://brevis.exblog.jp/12850087/ (2010-06-23)



by Tomoichi_Sato | 2017-08-27 12:54 | サプライチェーン | Comments(0)

IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (1) MES普及を妨げたもの

2000年に、中村実氏ら何人かと共著で『MES入門―ERP、SCMの世界と生産現場を結ぶ情報システム』を上梓した。わたしが担当したのは第3章「MESを中核とした垂直統合 -プロセス産業のケース-」というセクションだ。製造業、それも製造現場の情報システム化という地味なテーマの本だったが、一応、それなりの評価を得た。類書が少なかったせいもあるだろう。いまでも、あの本を読みましたよ、という方から声をかけられたりする。

ここで一応、MESとは何かについて、おさらいをしておこう。何年か前に、その名も「MESとは何か」という記事も書いたが、MESとはManufacturing Execution Systemの略で、日本語では「製造実行システム」とも訳される。だが、普通は「製造管理システム」とよんだり、あるいは略称のままMES(メス)ということも多い(ただし英語ではエム・イー・エスとスペルアウトして読むのが正式である)。

製造業のことを良く知らない人は、MESと「生産管理システム」とをよく混乱しがちだが、別のものだ。生産管理システムは全社レベルで、製品別の生産・在庫・出荷などを計画し、部品材料の調達を決め、実績を集計する。さらに原価や収益を計算したりする。だからお金に関わる人達、つまり経営者や営業部門や会計部門も、そのアウトプットを見たりする。だがこうした人達がMESの画面をのぞき込むことは、まずない。

MESの概念は、1993年に、米国の製造業向け調査コンサル企業であるAMR Research社が提唱した、3層モデルに端を発する。AMRは、製造業の機能を、
・主に本社が担当する「計画層」、
・主に工場が担当する「実行層」、
・機械等が働く「制御層」、
の3レベルにモデル化した。しかし最上位の「計画層」という言葉は分かりにくいので、「ビジネス層」と読み替えても良いと思う。ここを担うITシステムはERPである。また最下層の制御レベルで動くのは、たとえばPLCやDCSなどのシステムである。

AMRはその上で、ビジネス層(ERP)からの計画・要求を、現場の機器・制御層(PLCなど)レベルにつなぐ中間層の機能が、IT的な<ミッシング・リンク>(失われた環)になっていると指摘した。そしてこの部分を担うシステムを、Manufacturing Execution System = MESとよんだのである。

わたしは90年代の半ばから、海外プロジェクトでプロセス産業におけるERPとMES層の仕事に、従事してきた。その経験を元に上述の『MES入門』第3章を書いたのだが、その中で「8の字モデル」という概念を提案した。これはAMR Researchの3層モデルを元にしつつ、意味的には換骨奪胎したものだ。AMRは米国流トップダウンの経営思想で、本社の要求を現場に落とし込む、つなぎ機能としてMESをとらえた。だが、実際の現場を見てきたわたしには、MESはオートメーションにおけるミッシング・リンクというよりも、製造管理者の仕事を助ける道具である、という主体的な位置づけの方がふさわしいと思えた。ちなみに製造管理者とは、工場の製造部門のホワイトカラー層のことである。
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「MES入門」第3章より

さて、わたし達はさらに前述の本の姉妹版として、2004年に『図解 MES活用最前線―実践事例でわかるMES(製造実行システム)導入のポイント』という本を上梓する。この中で、かなり幅広い業種・企業から、MESによる製造現場情報化の事例を集めて紹介した。

この本には、自動車会社のALC(アセンブリー・ライン・コントロール)システム、フォークリフト製造会社の工場全体をカバーする本格的MES、そして、今や製品に内蔵したIoTシステムで有名になった建設機械メーカーのMESなど、さまざまな事例が図解付きで紹介されている。なお最後の建機メーカーのMESは、現場への指示中心でPOP的だが、現場ユーザが音声でシステムに指示を出すという点でかなりユニークな事例である。ただ、あいにく出版元の工業調査会自体がすでにないため、どちらの本も今やかなり入手困難だ。

さて、それから10年以上の歳月がたった。では、MESに関わるものごとは、どれほど進展したのか? 

工場にMESがあることが当然であり、MESが製造のほぼ全域をカバーしている、という業種は、2004年の刊行時点では、
  • 半導体工場、その応用として一部の液晶関連工場
  • 石油・化学工場
  • 医薬品工場
  • 自動車組立工場(アセンブリー・ライン)
などであった。それ以外は、製造の情報化について、部分的なトライアルが行われている、一種の事例集であった。

その事態は、2017年の今も、あまり変わっていないように思える(少なくとも日本では)。たしかに17年間でMESソフトウェア情報や、ベンダーの勢力地図は変わった。海外ITベンダーからは、今や、より統合的な(そして高価な)MESパッケージが販売されている。ただし、日本ではあまり売れていないらしい。

こうした新しい仕組みの普及度については、ざっくり三種類に分類できると思う。

(1) 一番上に来るのは、『必須レベル』である。
「それがない工場は考えられない、それがないと製造の仕事が回らない」というくらい、仕事に組み入れられている。たとえば会社のITならば、会計システムだろう。今どき、そろばんと電卓で経理している企業はもう、ない。あるいは車にたとえるなら、オートマチック・トランスミッションか。今どき、新車の98%はAT車で、マニュアル車は例外に近い。

(2) 二番目は、『普及レベル』だ。
「普通はある。ただし、なくてもなんとか仕事は回せる」がこのレベルである。車でいえば、カーナビだろうか。製造業ならば、販売管理(受注管理)システムだ。これがないと、受注番号(製番)を起こせないし、出荷遅れや請求漏れも生じかねない。あるいは設計系ならば、CADシステムだろうか(ただし、3D-CADとなるとあやしいが)。

(3) 三番目は『オプションレベル』だ。
「先進的な工場にはある。あると仕事に優位性や効率性が出る」という種類のものである。口さがない人からは、趣味だとか、好きものだとかよばれかねない。車なら自動ブレーキ、さらには夢の自動運転か。
そして、明らかにMESはまだ、このレベルにいる。

だが、なぜMESは普及しないのか?

一昨年のこと、わたしが所属する「ものづくりAPS推進機構」の委員会で、ある会話に衝撃を受けた。それは、多くの製造現場で使っている自動化された工作機械、NC(数値制御)やMC(マシニングセンタ)に関することだった。こうした高価な自動機を制御するPLCの外部通信インタフェースは、いまだにRS-232Cが主流だというのだ。RS-232C! それって、1980年代に、パソコン通信で使っていた低速のシリアル通信規格ではないか。

いや、その場にいた某大手PLCメーカの人は、「RS-232Cがついていればいい方です。旧いマシンのPLCになると、外部I/Fすらついていませんから」というのだ。だから複雑な加工のどこまで進んだかを、リアルタイムでモニタリングできない。進捗管理はある意味、ショップ・フロア・コントロールの柱だが、それができるようになっていないのだ。まあ、メーカー側ももう少し高機能なNC用I/Fは開発して出している。だがそれもPLCメーカーごとに規格が違う。

その場の話では、ドイツではこうしたI/Fは標準化が進んでいて、どこの工作機械メーカーをもってきても、すぐにつないでリアルタイムに機械の状態を監視できるということだった。わたしはしばらくディスクリート系(組立加工系)の仕事から遠ざかっていたので、日本でこうした状況が続いていることに驚いた。

しかし、NCマシンの切削状態監視どころではない。多くの組立加工系の工場では、工場出入口の扉を後ろ手に閉めて、建物の一歩外に出ると、中の機械が動いているか止まっているのかさえ、分からないのである。最近見た、日本の製造業をリードする自動車産業のTier-1サプライヤーでさえ、いまだにそうなのだ。

ただ、それでこまらなかったのは、カンバン方式に代表されるトヨタ生産システム(TPS)を実現しているためである。トラブルがあっても、「アンドン」で見える化し、現場で近くにいる人がすぐ問題解決するのが、TPSの思想である。だから建物の外から機械の稼働をリモートで監視する必要はない。NCマシンの通信I/Fが古いシリアル通信のままなのも、そういう思想が理由なのだろう。加工プログラムだけNCに送れればいい。加工中に問題が起きたら、現場の多能工がトラブルを解決する。

それは、現場の技能員が優秀ならば可能なやり方である。だからトヨタは「ものづくりは人づくり」と主張し続けているのだろう。だが、「それはトヨタ系だからできること」と、知り合いの中小企業経営者はいう。彼の会社では、現場の人にとてもそんな能力は期待できない。だから、「問題が起きたら俺を呼べ」と、つね日ごろいっているそうだ。

それにしても、現場カイゼンの得意なJITコンサルタント流のIT不要論をきいていると、まるで「熟練のドライバーなら、マニュアルミッション車を上手に運転できるし、地図も頭に入っている」という主張を聞いているようだ。なるほど、たしかに熟達の人ならば、ATやカーナビ的なシステムは不要だろう。だが、「その熟練の技、どうやって海外展開するんですか?」 と聞きたくなる。

いや、その前に、「どうやって後輩に伝えるんですか?」といいたい。・・だいたい今どき、工場に好きこのんで働きに来てくれる、優秀な若者ってどれだけいるの? 夏暑く冬寒い、外気開放の鉄骨スレートの建物の、油煙舞い立つ職場に、誰が来たがるのか。これからの工場というのは、むしろ、見学した人がみな、「ぜひここで働きたい」と思う環境でなければいけないのではないか。そう思うのだ。

いや、つい話がそれた。

製造管理に話題を戻すと、いくら現場が優秀でも、一つの現場だけでは解決しきれない問題、判断しがたい指示変更はいくらでもあるはずだ。複数工程にまたがる変更や、負荷のアンバランスなどである。そして週単位・月単位での、品質や生産性や労働安全の傾向などもそうだ。わたしの言い方でいうと、現場の個別問題は「技術的問題」である。他方、いわゆる「パフォーマンス問題」をこそ、製造管理者は発見し、解決しなければならない。

以前からMESが当たり前に導入されてきた、半導体、液晶、石油・化学、医薬品に共通することは何か。それは、製造エリアがクリーン度を要求される、あるいは危険物質を扱い防爆が必要など、現場作業に人手をかけにくいことだ。結果として、機械設備リッチな工場になる。製造のみならず搬送を含めて、広範囲に自動化される。

こういう工場は、機械との通信I/Fを含めてMESを入れやすい。むしろMESがないと工場が動かない。最初からMESの存在を前提に、工場レイアウトも設計される。だから、「製造現場を後からスマート化する」発想では、そもそもないのだ。ただ、自動車工場の最終組立ライン用ALCシステムはやや例外で、人による組み付け作業が中心になっている。しかし多数の部品と指示からなる複雑な製造システムであることは、共通である。

結局、MES普及のボトルネックはビジネス層とのつながりではなく、制御層・製造現場との接続だった。

ではなぜ、現場の機器・制御層とつなげなかったのか?。ひとつには工場の既存設備の問題があるだろう。機械制御用PLCのI/Fが乏しいばかりか、PLCを持たない単純機械や、手作業もかなり介在する。

またIT技術的な問題もある。工場内の適切な通信プロトコル標準がまだ存在しない。ネットワーク一つとっても、まだベンダー間のバトル状態である。それにセキュリティ対策の懸念もある。

そして、規制や商習慣の問題もある。電気・空調・消防系設備のシステムは、いわゆるビル・マネジメント・システム(BMS)とよばれる領域であり、製造系システムとは別業界で、共通I/Fもない。また仮に製造機械が外部からネットワークでつながったとしても、機械メーカーが外部からの制御を歓迎しない、などがあげられる。

かくして製造管理者と現場との間には、壁ないし岩盤があったのだ。そして、だからこそここに、IoT技術登場のインパクトがある。ようやく、センサーやSCADAを介して、機器やデバイスレベルのデータをとれるようになったのだ。

では、それはどのようなインパクトなのか? 長くなってきたので、続きは次回書こう。


<関連エントリ>
 →「MESとは何か」http://brevis.exblog.jp/14886701/ (2011-06-02)


by Tomoichi_Sato | 2017-08-19 23:57 | サプライチェーン | Comments(0)

工程表と部品表 - 個別受注生産における主従の逆転


若い頃、『システム・モデラー』という職種を目指したい、と言ったら、上司から「そんな職種はない」と言われたという話は、以前書いた。(「システムとはいったい何を指すのか」 http://brevis.exblog.jp/20878001/ 2013-08-01)。それで、その後わたしは「プロジェクト・アナリスト」を名乗るようになり、今では名刺に、勤務先の「チーフ戦略アナリスト」である、と書いている。

だが、今でもわたしはモデリングの仕事が好きだ。データ・モデリングとは、世界の概念的スケッチである。言葉と簡単な図を使って、世界のあり方を切り取って分析する仕事は、何より楽しい、と思う。モデリングという仕事は、技術とアートの中間地点にある、とも言われる。科学的論理性だけでは、良いモデルを作るには足りない。モデルとは近似であり、見切りだからだ。モデルは必ずしも事物の厳密・正確な再現ではない。英語で、"Models are all wrong. But, they are useful.”という言葉をきいたことがあるが、金言だと思う。モデルはすべて、正しくない。だが、有用なのだ。

さて、前回(http://brevis.exblog.jp/25634844/)は『部品表』と『工程表』という概念について、簡単なイントロ的解説を書いた。ところで、前回の記述は、じつは繰返し性の高い生産形態での話だった。つまり、見込生産(MTS)とか繰返し受注生産(MTO)の場合なのだ。

(なお、若干話がずれるが、生産形態の分類を表す用語については、日本語の慣用句よりも英語の用語の方が本質を突いているので好きである。見込生産は英語でMake to Stock = MTSとなる。「在庫してストックするために作る」形態なのである。繰返し受注生産はMake to Order = MTOで、これは「注文に応じて作る」やり方だ。このように、何に対して製造するか・製造の結果が何になるか、が英語での表現では、より明快だ)

さて今回は、ETOの場合について書いてみたい。ETOとは、Engineer to Orderの略だ。Engineerという単語は、ここでは「技術者」という名詞ではなく、「設計すること」という動詞で使っている(ちょうど”Engineering”という動名詞の言葉があるように)。ETOは日本語では、「個別受注生産」あるいは「一品受注生産」「受注設計生産」などとも呼ぶ。

ETOという生産形態の本質は、製造の前に設計作業が必須となることだ。このような生産形態は、意外と多い。たとえば造船。航空機。大型の産業機械(たとえば圧縮機や工作機械など)。あるいは金型。いろいろある。わたし達プラント・エンジニアリング会社が購入する資機材の大部分も、ETOの形態で生産される。そしてIT業界でSIerが行う受託型のシステム開発も、受注後に設計が必要になる点では、ETOの一種だと見ることもできる。

わたしの見るところ、日本の製造業には、このETO形態をとっている企業がかなり多い。好むと好まざるとに関わらず、いや、それが企業自身で自覚して選んだ結果なのかどうかも分からないが、とにかく、広く見受けられる。統計的根拠までは示せないが、英米や中国などより、ずっと比率が高いのではないかと思う。

その理由は、日本における顧客(買い手)側のあり方に起因している、というのがわたしの推測だ。日本の顧客(B2Bで、顧客が企業の場合)は、なぜかメーカー標準品を買うことを潔しとせず、必ず自分好みの個別仕様を付け加えたがる傾向がある。たとえば生産財を買う場合、それが自社の生産ラインにぴったり最適化され、面倒が少ないようにしたい。そのため、いろいろ個別で特殊な注文がつく訳だ。そういう風に細かな注文をつけること自体が、エンジニアとしてのプライド、ないし存在意義とさえ思っているらしい(実際にはその分、標準品よりコストが上がっている可能性が高いのだが、会計部門への説明能力の高いこともエンジニアの能力の一部である^^;)。顧客から個別注文を受け取った企業の技術者は、自分のサプライヤーに振り向いて、同じように個別仕様を要求する。かくして、日本ではETOに対応しない企業は生き残れなくなっていく。

ところで、いろいろな生産形態のうちで、生産管理の一番難しいものが、このETOなのである。だから日本の製造業は、全体として、わざわざ一番難しい生産形態を、みんなして選んで、お互いに生産性の低さに苦しんでいるとも言える。

ETOは、なぜ難しいのか? ETOの特徴は、受注時点で部品表(BOM)が固まっていないことにある。まあ受注時点でも、たいていの場合、大きな骨格くらいは見えている。そうでなければ、そもそも金額さえ見積れないからだ。

しかし、細部は設計してみないと決まらない。当然、設計後に、部材を注文することになる。注文してはじめて、部材は工場に入ってくる。部材がなければ、製造はできない。当たり前だろうって? その通りだ。だが、製造のスケジュールという観点から見ると、ETOとそれ以外では、大きな違いがあるのだ。

前回の図を思い出してほしい。複数の子部品が組み合わさって、一つの製品ないし親部品ができあがる。それを作るために、工順がある。いいかえると、部品の親子関係に対応して、一つの工順がある(厳密には『代替工順』というものも存在しうるが、今その話には深入りしない)。工順は複数の作業からなっていて、それぞれの作業に、製造資源(人や機械)が結びつく。こういう構造だ。

ここで、ちょっと図を見てほしい。ここに掲げたのは、渡辺幸三氏が「CONCEPTWARE/生産管理」の名前で公開している、生産管理システムのデータモデル図の一部だ(http://dbc.in.coocan.jp)。渡辺氏は、今日のIT業界のレベルアップと生産性向上をめざして、あえてこうした本格的で実線的な業務系システムのデータモデルを公開しておられる。
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E-R図を見慣れた方ならば、これを見るだけでわたしの言いたいことはお分かりいただけると思うが、念のために説明しておこう。なお渡辺氏の用語はわたしのとは少し違っているため、対応関係を示しておく。左が渡辺氏のモデル上の用語で、右がわたしの用語である。

(1) 工程→工順、 (2) 作業場→作業区(ワークセンター)、 (3) 製造品工程明細→作業、 (4) 製造品材料明細→部品表、 (5) 品目→マテリアル(品目)

この図を見ると、(5)「品目」レコードに対して、複数の(4)「製造品材料明細」レコードがぶら下がっている(渡辺氏の図法では、「∈」は1:Nの関係を示す)。これは、一つの親部品が、複数の子部品から組立・加工されて作られる「親子関係」を示している。そして、(5)「品目」レコードに対し、(3)製造工程明細が、やはり複数ぶらさがっている。つまりここでは、品目が主であり、工順・作業が従であることが表されているのだ。(細部に興味がある方はダウンロードして、全体をご覧になることをおすすめする。非常に勉強になると思う)

そして製造リードタイム(渡辺氏の図ではLead Timeの頭文字をとってLTと略されている)は、個別の作業に結びついており、作業を積み上げて、工順の、そして全体の生産スケジュールができあがるのだ。

言いかえるなら、設計が完了して、すべてのマテリアルと部品表が決まらない限り、製造コストやスケジュールが確定しない、ということになる。コスト(原価)については、もはや受注時点ですでに販売価格が決まっているのだから、今さら泣いても笑ってもどうにもならない。だがスケジュールは問題だ。工場では複数の品目や注文が流れており、スケジュールの相互調整によっては、他の品目の納期に影響してしまう。

MTS(見込生産)やETO(繰返し受注生産)ならば、事前にBOMが確定しているから、「標準納期」とか「標準リードタイム」といったものを設定することができる。だがETOは、受注時点で全体のスケジュールが見えないのだ。ということは、受注時点で、本当に納期を確約できるかどうかも、分からない訳だ。おまけに、現場の人や機械の事前手配も、難しいと言うことになってしまう。

それがどうした。ものづくり現場は、部品と図面がなければ動けないのだ。だったら設計が全部終わった時点で、製造のスケジュール計画を立てればいいではないか、と思う人もいるかもしれない。だが、そうはいかないのだ。競争環境下では、そんなにのんびりした納期を顧客は与えてくれない。だから、部品表が確定した部分から、順次作り始めなければ、ふつう間に合わなくなるのだ。かくして、設計作業と、部品調達と、製造作業が、並行して進むことになる。本来は順番に進むはずの仕事が、入れ子になったり逆転したりして進むのだ。設計部品表(E-BOM)と製造部品表(M-BOM)が別々に管理されている企業の場合、話はさらに混乱してくる。

米国生まれの生産管理手法であるMRPが、日本でなかなか受け入れられ普及しなかった理由の一つが、ここにある。MRPは、大量繰返し生産マインドの強い米国で、'60年代に生まれた手法である。MRPでは、計画時点に、製品のBOMデータが存在していることを前提している。だが個別仕様が好きで短納期を要求したがる顧客だらけのわが国では、なかなか使い物にならない。

では、どうしたらいいのか?

ここで実は、発想の転換が必要となる。それは、「品目」→「作業」という主従関係の逆転である。

「作業」と、その集合である「工順」を、視点の中心におく。そして工順のインプットとアウトプットとして、子部品・親部品をとらえる。前回の図を、もう一度見直してみてほしい。

今、ここで問題としたいのは、製造スケジュールである。つまり個別作業にかかる正味時間、工順に与えるべきリードタイムだ。そして、それは、同じような親部品を製造する作業では、子部品の細部が多少異なっても、ほぼ同じだと見ることができる。え? 六角の部品の加工と、円形の部品の加工では作業が違うだろうって? たしかに厳密には違う。だが、生産スケジュールはモデルであり、一種の近似であることを思いだしてほしい。何秒単位の厳密な数字を議論しても仕方ないし、そんな精度は必要ないのだ。現場が必要とするのは、現場が混乱しないですむようなざっくりした精度の、しかしある程度は信頼しうる予測なのだ。

個別作業の所要時間見積のために、ここで登場するのが「パラメトリック見積法」である。これは、作業対象が持つ、なんらかの代表的なパラメーターを用いて、作業時間(つまりコストを)推計する方法だ。そして、この仕事のために、BOQ = Bill of Quantityという概念が、BOMのかわりに登場する。Quantityはパラメーターの数字である。グラムとか、mmとか、リットルとか、何の単位でもよい。それが作業の量(Quantity)を適切に示してくれたら、それで良いのだ。あとは割り当てる製造資源と、その生産性指標とから、作業時間を推算することができる。製造コストも、推算できる。

詳細な設計作業が十分に完了していなくても、基本設計段階(ないし受注前の見積設計段階)で、製品を構成するサブ・モジュールや共通部品等のBOQを洗い出し、リスト化しておく。そうすれば、これを元に、製造スケジュールをあらかじめ立てられる。これが、プロジェクト的なETO=受注設計生産のやり方なのである。詳細のBOMは、設計のあとでできてくれば良い。

もともとBOQという用語・概念は、100年ほど前に英国の建設業界で生まれた概念だ。そして、エンジニアリング業界に流れ込んできた。わたし達の業界では、このBOQ(しばしばBQとも略す)が、プロジェクト・スケジューリングの中心的なデータになるのである。わたし達にとって、作業(プロジェクト用語ではActivity)が主であって、そのインプット・アウトプットとなる品目(マテリアル)は従である。作業が先にあり、品目は段階的詳細化の結果として、後から決まってくる。このような世界観で、エンジ会社はプロジェクト・マネジメントを行っている。

そしてエンジニアリング・プロジェクトは、まさに巨大な「受注設計生産」そのものなのである。基本設計の外部仕様を元に、詳細設計を起こし、資機材を世界中のサプライヤーから調達し、プラントの現場に運んで、据付組立作業(「建設」)を行う。我々もまた、組立加工産業なのだ。

そしてもう一度最初の話に戻ると、システム・モデリングの面白い点は、こうしたデータモデル上の主従の逆転、アクロバティックな視点の転換が、ときに必要となることにある。必要なだけではなく、とても有効でもある。もちろん、そのためには、ある種のスキルがいる。ものごとを俯瞰して見る、一種マネジメント的なスキルが。そういう訓練の場をエンジニアのために作ろうと、わたしはこのところずっと研究部会の仲間達と活動しているのである。どうか期待していてほしい。


<関連エントリ>
 →「システムとはいったい何を指すのか」 http://brevis.exblog.jp/20878001/(2013-08-01)
 →「部品表と工程表」 http://brevis.exblog.jp/25634844/ (2017-03-22)

by Tomoichi_Sato | 2017-03-31 22:10 | サプライチェーン | Comments(0)

部品表と工程表

今年の初め頃だったが、ある集まりを手伝うことになった。中高校生くらいの若い子達が20人くらい集まるので、彼らに昼食を出す。わたしと連れ合いはその食事作りのお手伝い、という受け持ちになった。わたし以外は全員、年配の女性達だ。集会場所の横にはそれなりのキッチン設備があり、食器もそろっているので、そこに集合となった。前日までのメールでは、シチューを作ると聞いていたのだが、当日集まっていたら、なぜかメニューはカレーと野菜スープに変更になっていた。ともあれ、食材もそろって、さあ調理と言うことになった。

ところで、この調理の進め方がなかなか見物だった。わたしは男なので、食器洗いその他の力仕事に回り、実際の調理は女性達が受け持つ。皆、何十年と料理をしてこられた方ばかりだ。ただ、わたしも一応、料理の心得はあるので、どんなプロセスで進むかは理解している。まず材料を洗い、切り、大鍋に適時投入して、煮て味付けをする。そのかたわらご飯を炊いて、織機を用意する。それだけのことなのだが、現場は大騒ぎだった。

まず、この集団には、采配をふるうリーダーがいない。2、3人、それなりにリーダー格というか、まあ仕切り屋のタイプの人はいる。だが回りの人たちも黙っていない。みな、料理については一家言ある女性ばかりだ。だからどの材料をどれくらい使うか、どう切っていつ鍋に投入するか、味付けには何をどれくらい入れるか、まあ実に喧々がくがく、議論が続く。議論だけでなく、彼女たちはしゃべりながら実際に手が動き、勝手にやってしまう。もうどうなることやら、ホントに昼食時間までに間に合うのか、などハラハラして見ていたが、幸いというかカレーも野菜スープもなんとかそれなりに出来上がって、腹を空かせたティーンエイジャー達の胃袋にあっという間に飲み込まれた。

この集まりはまあ、ボランティア集団のようなものである。こういう集団では、会社のような上司・部下関係が無いし、指示=命令原理も働かない。誰か図抜けたリーダーがいればその人の判断と采配で、皆が一応動くだろう。だが、そういう人もいなかった。それでも何とかなったのは、女性達の調理のスキルもあるが、一つにはカレーとスープという料理が、材料にも味つけにもある程度幅があっても、まとまりやすい料理だったからだろう。

それにしても、同じこの仕事を、わたしの勤務先の同僚達がやったらどうなるだろう、と想像してみた。ボランティアの組織だ。賛同者が集まり、業務命令系統はとくにない。でも、きっと、自然にこうなるだろう:
(1) まず、料理は何を何人前作るか相談の上、決める。
(2) 必要な食材のリストを作る。食材の種類と、数量と。必要ならば、スペックつき(たとえば豚肉ならば「バラ肉」とか)で。
(3) 調理の手順のリストを作る。それに必要な調理器具もリスト化する。
(4) 食材調達の担当者を決めて、買い物を任せる。
(5) その間に、調理器具と食器の準備をする。必要な食器を集めて洗い、並べる。
(6) 食材が来たら、これも分担して洗い、カット、下ごしらえをする。
(7) 調理をする。この作業にはやはり、多少はスキルのある経験者をあてる。
(8) たぶん何人かで味見をして、OKとなれば盛りつけ、配膳作業をする。

たぶんこうしたことが、なかば自然に進むだろう。なぜなら、これはエンジ会社が普段やっている、エンジニアリングの仕事そのものだからだ。誰かがリーダー役を引き受けるだろう。あるいは長老が、誰か若手を指名してリーダー役にするかもしれない。皆、そのリーダーの采配と交通整理に従う。難しい問題が起きたら、皆で相談して解決する。それでも迷ったら、リーダーの責任で打ち手を決断する。これがたぶん、わたし達のスタイルだ。もちろん、調理の腕前は熟練の女性達にはかなうまい。でも、何とか必要なものを必要なタイミングに必要な量だけ、届けられると思う。

とくに大事なことは、最初に大まかな計画を立て、必要な材料や道具や手順のリストを作ること。これがないと、全体の仕事量も、作業の分担も、そして納期も見通せないからだ。

わたしの勤務先が特別だというつもりはない。たぶん大方の会社は、少なくとも製造業なら、こういう風に仕事を進めると思う。ものづくり企業に共通なDNAというのがあるとしたら、その一つは、最初にいろいろなリストを作ることにあるだろう。リストなんか作らなくても、あの女性達のように、ものは作れる。だが、仕事の見通しは、格段に落ちるだろう。

必要なリストは何だろうか? あるいは、もっと抽象化して問題を捉えるなら、生産という仕事に必須な基準情報は何なのか。

それは大きく、「もの」(=マテリアル)に関する情報と、「製造作業」に関する情報とに分かれる。「もの」に関する情報は、まず、どういう品目(材料・製品を含む)があって、それはどういった使用・属性を持つか、というリストになる。これは通常のIT用語で言うと『マテリアル・マスタ』(品目マスタ)と呼ばれる。ついで、ある製品は、どのような部品・材料から成っていて、どれだけの数量を要するのか、という製品構成に関する情報が必要だ。これが『部品表』(BOM = Bill of Material)データである。ただしBOMがマスタとしてITシステムの中に整備されているかどうかは、その企業・生産形態に依存する。

では、製造作業に関する情報はどうか。これはまず、製造に使う機械・設備の情報と、具体的な作業の情報に分かれる。前者は、機械リストとか、会社によっては作業区(ワークセンター)マスタと呼ばれる。もう少し進んだ形では設備構成マスタというデータ形式になる。設備構成マスタとなると、その中に階層構造が表現されて、たとえば作業区1の圧縮機Aには、補機として潤滑油ポンプA1がある、といった事情がわかるようになっている。つまり一種の、機械設備に関する部品表みたいなものである。かなり保守業務のレベルの高い企業では、こうしたマスタが必要とされる。

後者の、具体的な作業の情報については、特定の製品・品番ごとに、(通常は複数の)製造作業が生じる。つまり、各作業に必要な機械・設備は何で、その順序はどうで、各作業条件は何で、(もしあれば)マニュアルや作業標準はどれで、といった属性が並ぶ作業マスタがいる訳だ。これは基準情報である。ただし、個別の作業指示が出される場合は、それぞれの作業にIDをふり、これに着手・完了のタイミングを指定し、さらに必要な機械・設備などをアサインしたリストを作ることになる。これは、しばしば『工程表』と呼ばれる。英語でBOP(Bill of Process)と呼ぶこともある。

以上をまとめると、生産という仕事に関する基準情報は大きく4種類に分けられる:

マテリアルに関する情報
・マテリアルの属性情報 → マテリアル・マスタ(品目マスタ)
・マテリアルの構成情報 → 部品表(BOM)
製造方法に関する情報
・機械・設備の構成情報 → 作業区マスタ、ないし設備構成マスタ
・製造作業の属性情報  → 作業マスタ、あるいはその具体型としての工程表(BOP)

なお、ここで注意しておきたいことがある。それは「情報」と「データ」の区別だ。これについては以前、『ITって、何?』というシリーズで長々と述べたことがあるから詳しくは繰り返さないが、
・「情報」とは人間に意味をもたらすもので、基本的には不定形
・「データ」は定型化された記号の並びで、機械的処理に適する
という区別がある。今日はA社の業績ニュースが流れて株価が上がりました、が情報。各社の株価が定型化されて並んでいる株式欄が、データ。情報を定型化して機械で処理したり、データを読み取って人間に意味を提示するのが、IT(情報技術)である。上に述べた基準情報の例でいえば、人間は情報だけあればいい。ただ、量が増えたときには、紙に記録してリスト化したり、さらにコンピュータの中に収めてマスタ・データ化する方がベターだ。

もう一点。上の説明では、『工程』という言葉をあえて使わぬように説明した(「工程表」は別として)。これは、工程という用語が業種・会社によってかなりいろいろな意味に使われているためだ。大きく分けても、工程をプロセス=作業群の意味で使うケースと、ワークセンター=作業区の意味で使うケースがある。それらをごっちゃにしているケースだって、少なくない。工程表という用語だって、それなりにブレがある。

本当はこうした用語類は、わが国の生産管理の発展のためには、共通化した方が良い。しかし、抽象化・標準化への希求がかなり弱いわたし達の社会では、それぞれの業界や特定の大企業が勝手に作った方言を、グループや系列会社に押しつける例が、よく見受けられる。業界を横断して工場づくりの仕事をしている我々エンジニアリング会社にとっては、まことに不便な状況である。本来だったらアカデミアの学者が先導して、こうした状況を改善すべきなのだろうが、あいにくその動きも薄い。

そこでわたしは、せめてこのサイト内では整合性のある用語を使うように心がけており、とくに多義語である「工程」は極力使わないようにしている次第だ。かわりに、わたしは製造業務のプロセスを呼ぶときは『工順』(英語でRouting)と呼ぶようにしている。わたしの考える製造という仕事のプロセスの構造を、図に示すと次のようになる。
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図 製造という仕事のプロセスの構造

もっとも「工順」という言葉だって、作業の集合を指す場合と、単に一連作業の中の連番(数字)だけを指す場合があるから、曖昧性は残るのだが、「工程」よりは誤解が少ないだろうと考えて、こうしている。

なお、図の中には「リソース」(Resource=製造資源)という言葉が出てくる。これは、作業の間は占有するが、作業した後でも別の作業に再利用できるようなものを指す用語だ。具体的には、作業する人・機械設備・治工具・金型などが含まれる。つまり、機械とか作業者とかよりも、1レベル抽象度を上げた用語である。このリソースのリストのことを、「資源表」(BOR = Bill of Resource)と呼ぶこともある。

かくして、製造業には、大きく言っても4〜5種類の基準情報が必要であり、それをきちんと整備・保守していく仕事が生じることになる。こうした仕事は全て、「間接業務」=直接お金を生まない仕事である。だから、しばしば日陰の仕事、縁の下の力持ち的な業務とみなされ、不況の時は優先度が下げられたりもする。そして、そういう態度自体が、生産性の低下をもたらし、さらに不況を加速するというダウン・スパイラルが生じる。これは、企業の持つ思考と行動の習慣=OSがバグっている状態だ。

なぜ企業には基準情報が必要なのか? それは、情報・データを再利用可能な状態に保つためだ。さらにいえば、仕事を予見・計画可能な状態に保つために必要なのである。冒頭に紹介したように、たまに集まるおばさま達の集団なら、基準情報など無くても、なんとか料理はできる。いや、それこそ、「ちょっとカレーの味が薄いみたいだから、ここにある和風だしを入れちゃいましょ。」などという、臨機応変な小技(大技?)を繰り出すことだって、できたりする。だが、これを仕事にして食堂を開くなら、もう一歩上を目指す必要がある。きちんと計画できて、繰り返し可能な仕事の状態にするべきなのだ。部品表と工程表は、そのための武器なのである。


(本記事を書くきっかけとなったのは、OpenLearning(https://open.netlearning.co.jp)が提供する「応用情報学」講義シリーズの中の、京都情報大学院・上田治文教授による「企業経営の情報学」Wee 2・Lesson 3「工場のIT化の核 部品表のコンセプト」を見たことである。わたしの用語・見解とはいろいろ異なっているが、4種類のマスタの整理など、いろいろと学ぶべき良いヒントをいただいたことを記しておきたい)






by Tomoichi_Sato | 2017-03-22 12:56 | サプライチェーン | Comments(0)

お知らせ:納期遵守のための1日セミナー(11月25日・大阪)

来る11月25日(土)に、大阪府工業協会で納期遵守をテーマとした1日セミナー(有償)を行います。一昨年からはじめたセミナーもバージョンアップを重ね、今回で4回目の開催となります。

主に受注生産型の工場における納期遵守のための生産計画と統制(コントロール)について、製造業の実務家向けに、理論・事例と演習を含めてお話しします。

拙著「革新的生産スケジューリング入門」や「BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)」をお読みになった方はご承知の通り、わたしは具体的なテクニック論のみならず、原理・原則に関する体系的な理解を重視します。そのため、生産活動の仕組み全般を『システム』としてとらえ、その生産システムをより良く運用するにはどうしたらいいか、また仕組みをより上手に設計するためには何に留意したらいいか、を考える『システムズ・アプローチ』をとります(もちろん、ここでいうシステムとはコンピュータのことではありません)。

したがって業種分野については、わりと間口を広くとってお話しできる点が特徴です。普通の現場改善コンサルタントの講義に、飽き足りない気持ちでおられる技術者の皆さんのヒントになればと思っています。関心のある方のご来聴をお待ちしております。


<記>

日時: 2016年11月25日(金) 10:00-17:00

テーマ: 「納期遅れを起こさない 生産統制のポイント
     ~ 工程管理担当者の実務能力の強化 ~」

主催: 公益財団法人 大阪府工業協会

会場: 大阪府工業協会研修室
     大阪市中央区本町 4-2-5 本町セントラルビル
     (市営地下鉄御堂筋線「本町」駅8番出口すぐ)

セミナー詳細: 下記のPDFファイルをご参照ください(「受講申込書」も兼ねています)

by Tomoichi_Sato | 2016-10-27 22:41 | サプライチェーン | Comments(0)

生産システムとは、どういう仕組みだろうか

法政大学の西岡教授といえば、現在、「つながる工場」のための緩やかな標準づくりで、日本版インダストリー4.0として注目を集めるコンソーシアム"Industrial Valuechain Initiative”(IVI)https://www.iv-i.org/を率いている方だ。その西岡教授は、日本機械学会の研究分科会報告の中で、世の中にあるシステムは、二種類に大別できる、という興味深いことを書いておられる。

「自動車や携帯電話など、人がその外側にいるシステムを第一種のシステムと呼び、人がシステムの内部にいて、その構成要素となっているものを第二種のシステムと呼ぶことにしましょう。はたらく作業者である“私”にとって、私は生産システムの一部であり、システムの内側にいます。これまで工学の世界では、第一種のシステムを多く手掛けてきました。その反面、第二種のシステムは、挙動が自然法則のみに依存せず、なかなか理論化で きません。」(http://www.jsme.or.jp/fad/sig/cm/N008_industrial_valuechain_initiative.pdf
P.3-4より、筆者が語順を一部改変して引用)

これは非常に卓見であると思う。わたしの知る限り、これまで、この二つのシステムを区別して論じた工学者はほとんどいなかった。第二種のシステムは、従来の科学法則のみに立脚したシステム工学だけでは、うまくいかない。より新しいアプローチが必要なのだ。

わたしは前回の記事で、「生産のマネジメントとは、生産の仕組み(システム)をつくり・活かし・進化させ、それによって働きがいを創出すること」だと書いた。では、『生産のシステム』とは、具体的には何をさすのか?

もちろん(くどいようだが)ここでいう「システム」とはコンピュータ・システムのことではない。人間をその要素として含む、第二種のシステムである。

そして(当たり前だが)生産システムは人工物である。どこからか造物主の手により忽然と現れた訳ではないし、自然に生じたものでもない。誰かが作ったものなのだ。作ったのは、一個人ではないかもしれない。繰り返し、多くの人の手で少しずつ進化し、改良されたかもしれない。だが、そこには人工物としての設計意図がなければいけない。

この『生産システム』、普通の言葉では「工場」に相当するといってもいい。ただし「工場」という語は、建物とか場所を意味する場合もあるし、あるいは企業組織内の一部門を意味する場合もある。また、購買とか生産技術とか受注センターは、本社にあったり工場から離れていたりすることもある。だから「工場」と、わたしのいう生産システムは、つねにイコールではない。

さて、人工物であるシステムを理解するには、その目的・機能・構造を見れば良い。目的とは、
(0) 最終的に何をめざし、何の役に立つのか、
ということだ。

システムの機能とは、具体的には以下の6点で代表される。
(1) 直接的に何をアウトプットするのか
(2) そのためのインプットは何か
(3) その動的特性はどうなっている(どうあってほしい)のか
(4) インプットや取り巻く環境とのインタフェースはどうなっているのか
(5) その制約条件は何か
(6) そして、その性能(目的関数)は何でどう測るのか

またシステムの構造とは、
(7) 何の要素から成り立っているのか
(8) 要素間はどのような形状(空間的配置)で接合し合っているのか
(9) 要素間はどのようなインタフェースでつなげられているのか
で表現できる。ちなみにシステムの構成要素もまたシステムである場合は、「サブシステム」と呼ばれる。

あるシステムが何か、という疑問は、上にあげた10個の質問に答えることで、ほぼ記述できる。

では、生産システムの目的に関する、質問(0)からいこう。生産システム自体の目的は、生産という行為を通じて、永続的に付加価値を生み出し続けることである。これを達成できなくなった場合、つまり付加価値を生めなくなったとき、あるいは付加価値は生むが一過性で、将来まで継続できないときは、その存在理由が疑われる。

生産システムの機能の根幹とは、「(1)需要情報というインプットを、(2)製品というモノ(あるいは製品に実現された付加価値)に変換してアウトプットすること」である。このことは、このサイトでもすでに何度か述べてきた。そのサイド・インプットとして、原料・部品 や、用役・副資材 などがある。
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(3)動的特性は、製品の種類や業態により、さまざまだ。それは一般に、「生産リードタイム」という言葉で代表される、需要変化への追尾特性をいう。(4)主要なインプット(需要情報)とのインタフェース方式によって、いわゆる「生産形態」が分類される。生産形態は教科書にある4種類、つまり
- ETO (Engineer to Order):受注設計生産
- MTO (Make to Order):繰返し受注生産
- ATO (Assemble to Order):受注組立生産
- MTS (Make to Stock):見込生産(「需要予測生産」ともよぶ)
および、
- 下請け型受注生産
の5つからなるが、複数製品でこれらが混在することもある。なお、最後の「下請け型受注生産」はわたしが名付けたもので、日本の部品製造業に多く見られる特殊形態だが、普通の教科書には載っていない(たぶん欧米には存在しない)ものだ。詳しくは「“JIT生産”を卒業するための本―トヨタの真似だけでは儲からない」第5章を見られたい。

生産システムの(5)制約条件として代表的なものは、「生産リソース」(つまり構成する人や製造機械類)を、すぐには増減できないことであろう。もちろん他に、資金的な制約もあるのが普通だし、それ以外にも労働基準法や環境規制などさまざまな法規制にしばられている。

生産システムの(6)目的関数(性能)については、すでに別のところで述べた(「システムとはいったい何を指すのか」http://brevis.exblog.jp/20878001/)。この話は奥が深いのでここでは詳述しない。

つぎは構造面だ。(7)構成要素(生産リソース)は以下のものから成り立っている:
- 働く人々(「組織」として構造化されている)
- ハードウェア(製造機械・物流設備・工具・金型・治具類)
- 建物(正確には、それによって作られる作業空間) →これは(8)空間的接合を主に決める

リソース間の(9)インタフェースでやりとりされる情報は、紙の伝票も電子データもあるが、これは指示系と実績系に分けられる(生産計画、製造実績など)。その中核には、「広義のBOMデータ」がある。広義のBOMとは、
- BOM(部品表)データ
- 品目データ
- 工順(工程表)データ
- 資源表
- BOQ(資源能力表)などなど
である。これらは、さらに、行き交う一過性のもの(トランザクション)と、繰り返し利用されるもの(マスタ)に分類される。とくにBOM・工順・BOQなどは、生産形態に応じて、マスタ化されている場合と、毎回、設計によってデベロップしていかなければならない場合がある。

わたしがこのような生産システムの全体像の認識にいたったのは、10年くらい前のことだったかと思う。キーポイントは、主要なインプットが「需要情報」であると気づいたことだった。というのは、わたしがエンジニアリング業界に入った頃は、いまだ高度成長期の工場観がずっと受け継がれていたからだ。それは、
「工場とは原材料をインプットとして、製品をアウトプットする仕組みである」
というものだった。今のわたしの認識との違いは、お分かりだろう。従来概念での主要なインプットは、「需要情報」ではなく「原材料」だったのだ。
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では、需要情報はどこにあるのか? もちろん、そんなものは、無くてもよかったのだ。高度成長期とは「モノは作れば売れる」時代だった。この時代の工場概念は、大量生産・薄利多売とワンセットだった。しかしバブル時代を経て、次第に世の中は成熟市場となり「モノあまり時代」になった。製品は必然的に多品種化し、気まぐれな顧客ニーズに合わせて生産しないと売れなくなった。つまり、主なインプットが交代したのだ。

こうした時代の変化にもかかわらず、生産システムの設計思想は、多くの企業で変わらぬままとなっている。そもそも、旧来の生産システム自体、誰かが意識してデザインしたものか、それとも、よその真似や「業界常識」でそうなったのか、よく分からぬ会社が少なくない。そして、海外に工場を建てるときも、無意識に「マザー工場」のあり方をコピーしていく。それでうまくいったら不思議である。

だから、「今こそエンジニアリング会社の出番です」、とはまあ、言うまい。ただせめて、工場のハードを更新したり建て増したりする際に、「生産システム」の設計の視点を、もっともってほしいと思う。わたしは工場見学が趣味の人間だが、あちこちで、あまりにも勿体ない事例を見てきた。もっとうまく設計し運用すれば、同じ費用でずっと付加価値の上がる工場になるのに、と感じるのだ。

それにしても(自分で書いていて思うのだが)、こんな抽象的な話、誰かの役に立つのだろうか? 生産管理のセミナーなどを聴きに来られる方は、ふつう、目の前の問題(ペイン)に悩む人ばかりだ。在庫過剰とか納期遅れとか。いや、赤字や売上不振など、もっと深刻な問題もあるはずだ。明日の米びつの心配が最優先だ、というのがふつうの感覚であろう。そんなとき、「生産システム」などという認識は、何かの役に立つのか?

それは、地球儀は何の役に立つのかという質問に似ている、と思う。地球儀は、町中で道に迷っている人に、直接は役に立たない。過去や未来をマクロに考えたい人に役立つだけだ。

あるいは、運転免許の講習に、自動車の構造説明なんて無用じゃないのか?という問いにも、似ている。ほとんどの受講者はきいていないし、きいても理解できないだろう。だが、考えてみてほしい。オイルは汚れ、タイヤの空気圧は低く、ラジエーターの水は足りないのに、ローギアのまま高速を走って、“この車は何で早く走らないんだろう?”と悩む運転手は、あなたの回りにいないだろうか? みな、毎日の運転でヘトヘトに忙しい。でも、その悩みは、すこしだけ「仕組み」の根本を理解することで、直せるのかもしれないのだ。

<関連エントリ>
 →「生産システム-その目的と機能は何か」 (2008-08-04)
 →「システムとはいったい何を指すのか」 (2013-08-01)
by Tomoichi_Sato | 2016-05-17 22:57 | サプライチェーン | Comments(0)

生産管理という仕事の目的は何か

以前、このサイトの読者の方から質問をいただいたことがある。「生産管理とはそもそもどういう仕事でしょうか?」という主旨だった。この方は製造現場から生産管理へ異動になった際に、仕事の全体像や目的をきちんと考えたく思い、本屋やネットを探して、わたしのサイトの「生産管理とはどういう仕事か」http://brevis.exblog.jp/7709373/ という記事にたどりついたのだそうだ。

上記の記事で、わたしは「生産管理とはあくまでサポーターであり雑用係といえる」と書いた。だが、この答えでは今ひとつ納得しきれない気持ちがあって、メールいただいたという次第だ。この記事は2008年4月、つまり今から8年も前に書いたものだが、いまだにそれなりのアクセス数がある。ということは、こうした問題を考えあぐねている人は、世の中にけっこう多いのだろう。

ただこの記事は、「サポーター、雑用係とはあんまりな言い方」というコメントも頂戴した。わたしは、プロジェクト・マネジメントの仕事は雑用の集積だ、などと考えている人間なので、『雑用』をムダだとか下層の仕事だという風には思っていない。むしろ一種の謙譲語として使っている。そうとらえることで、かえって仕事の本質、本来の目的が見えやすくなるのではないかと考えたのだ。だが、むろん雑用という言葉に引っかかり、ムッとされた方もいるだろう。自分の大切な仕事を雑用とは何だ、と。

でも、ちょっと考えてみてほしい。かりにあなたがジャズバンドのリーダーだったとする。仲間と一緒に音楽するのが純粋に楽しい。ところで、近々ライブを計画している。会場を手配し、曲目を決め、お知らせやチラシを作成して配り、必要ならゲストを呼んで、練習のためにスタジオも借りなければならないだろう。採算の心配もしなければならない。こうした面倒な仕事のほとんどは、リーダーであるあなたが采配する。そして、こうした仕事は、あなたや他のメンバーにとって、「雑用」に思える。なぜなら、あなた方にとって“本来の目的”は、楽器を演奏して音楽を楽しむことにあるのだから。

純粋に音楽を作ることにのみ心が向かう人にとって、それ以外の手配や環境作りは、雑用である。だから、バンドが成長し有名になったら、誰か「マネージャー」を雇って、そうした事は一切任してしまいたい。でもそれまではリーダーがまとめ、メンバーと分担して雑用を続けるしかない。ところで、雇われマネージャーにとって、会場手配や広報や会計などは、「本来の仕事」である。本人はもしかすると「雑用係です」と謙遜した言い方を、外部に向かってはするかもしれないが、その人自身にとっては、ちっとも雑用ではない。バンドに必要な、大事なことだからやっているのだ。

「製造部門」の仕事が音楽作りに相当するならば、いわゆる「生産管理部門」の業務は、雇われマネージャーの仕事に相当する。では、この雇われマネージャー、いいかえると生産管理の仕事の、目的・使命とは何なのか? それが今回の主題だ。

(ところで余談だが、最近、ノートルダム清心学園理事長でベストセラー『置かれた場所で咲きなさい』の著者・渡辺和子氏が講演の中で、
「この世の中に『雑用』というものはございません。わたし達が用を雑にしたとき、いい加減にしたとき、その用は『雑用』になります」
と発言されているのを知り、面白く思った。ちなみにこの方はカトリック修道会のシスターだが、この講演は鎌倉の禅宗の総本山の一つ円覚寺で行った夏期講座だったのが、また面白かった)

さて、生産マネジメントという仕事の目的は何か? この問題を考えるにあたって、まず言葉について整理しておきたい。わたしは「管理」と「マネジメント」という用語を、あえて区別して使っている。両者はイコールではない。日本語の「管理」に相当する英語は、Management、Control、Administrationの3つがあり、かなり別の領域をさしている。この英語の区別については以前も「マネジメントと管理はどこが違うか」http://brevis.exblog.jp/10625203/ に書いたのでここでは繰り返さない。

日本語の「管理」がまた、くせ者の言葉である。ビジネス社会で管理といえば、権限・権力・地位などを通常伴っている。ところが「生産管理」だけは、管理なのに地位・権力がない(まあ品質管理や在庫管理も同様だが)。もしも生産管理が“生産を管理すること”を意味するのならば、工場組織はピラミッドの一番下に製造部門がいて、その上に生産管理部門があり、そのトップはすなわち工場長である——ということになりそうだ。だが、そんな会社は見たことがない。

にもかかわらず、多くの会社では——ここが日本語および日本のビジネス文化の不思議なところだが——生産管理は「管理」だから“技術屋ではなく事務屋の仕事”とされ、しばしば文系の配属先となっている。そのことの是非はおくとしても、こうした事情がますます、問題を分かりにくくしている。だからここでは、あえて一番広義で、ハイレベルな(=抽象度の高い)言葉である「マネジメント」を使うことにする。一般に、問題を考える際には、より大きな視野から問題の位置づけをとらえる方が、局所的でおかしな習慣の枠にとらわれずにすむからだ。

で、そもそも生産のマネジメントの目的とは何なのか? わたしの答えは比較的シンプルである。それは、生産の『仕組み』(システム)を 、
1 生み出し 、
2 活かし 、
3 進化させる。 そして、
4 それによって働きがいを創出する
ことを使命としている。
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使命の中に「進化させる」ことが含まれているから、この使命は永続的で終わりがないことを示している。生産の仕組み(システム)とは、生産のための機械設備や、働く人々や、そのための空間(建屋)や、情報・データをやりとりする手順全てを含んでいる。なお、「システム」という言葉を使ったが、これはコンピュータとは直接関係がない。すべて紙と帳票で動かしていたって、それが『仕組み』である以上はシステムと呼べる。

いやいや、ちょっと待ってくれよ、と読者は思われるかもしれない。生産の仕組みを生み出す、つまり製造ラインを設計したり設置したりするのは、「生産技術部門」の仕事ではないか。“活かす”の部分の主役は、「製造部門」ではないか。だって彼らが製造機械を動かしているのだ。そして“進化させる”となると、たとえば「保全部門」「品質管理部門」の仕事もからむし、まして“働きがいの創出”なんて、経営者の仕事じゃないか!

そうかもしれない。だが、繰り返すが、上に述べたのは、もっとも広義でハイレベルな、『生産のマネジメント』のめざす目的、使命である。この中には、工場長がやるべきことから、現場の一担当者がやるべき事まで、すべて含まれている。そして個別の企業の生産技術・生産管理・資材購買・加工・製造・品管・保全・物流・・といった縦割り組織が、本当にこのような目的にふさわしい分業形態と目標設定になっているかどうかは、別問題である。

また、“活かす”という言葉にも注意してほしい。製造部門が機械を動かしているからといって、それを“活かし”ているとは、必ずしも言えない。もしかりにポルシェを町内の宅配便につかったら、ポルシェを動かしてはいるが、活かしていることになるだろうか? かりにもし製造部門が高機能な連続鋳造装置をフル稼働させて、その結果、使いもしない素材の在庫の山を築いたら、それは活かすことになるのか? それを生産管理部門が止める事の方が、活かすことになるのではないか。ある仕組みを、より価値の高い使い方に仕向けることこそ、“活かす”の意味なのである。

普通の工場における、いわゆる「生産管理部門」の中心的な仕事とは、計画・スケジュールの立案、作業の手配指示、進捗確認、そして問題発生時の対応などであろう。区別のため、これを狭義の「生産管理」と呼ぶことにする。ではなぜ、このような種類の仕事が必要なのか?

すべて一人でやる職人の工房には、「生産管理」はいらない。頑固親父が一人でやっている和菓子屋を想像してほしい。 材料の手配も、製造も、来客の注文さばきも、みな一人でやって、できている。

狭義の生産管理が要るのは、生産のスケールが大きくなって、分業が発生するためなのだ。一日に千人のお客が来る大店(おおだな)の御菓子司は、一人ではさばけない。売り子と作り手の分業、仕入れと仕込みと配達の分業、などが生じてくる。つまり店という「システム」になったのだ。かくして、販売(注文)と生産のすり合わせ 、製造と資材(購買)のすり合わせ、品質検査と出荷のすり合わせ・・・こうした調整が必要になる。 いいかえると、情報の交通整理である。こうした交通整理が、いわゆる狭義の生産管理の本質なのだ。

近代的な生産の仕組みにおいては、必ず「指示」と「報告」が行き合う。生産指示に対して、生産実績の報告が上がり、資材購買指示(発注)に対しては、納品書(納入報告)が上がる。こうした指示と報告情報のハブとして、全体の管制塔となること。それによって人や機械などの生産の仕組み・システムを「活かす」こと。 つまり、最小のインプットで最大の付加価値(スループット)を得られるようにすること。ただしそのことが労働条件の過酷化を招いて、「働きがいを創出する」障害とならないようにすること。効率の最大化だけに着目して、変化に適応し「進化する」ゆとりを無くさないようにすること。こうしたことが生産管理の仕事である。

これほどまでに大事な役割であるにもかかわらず、「生産管理」が余計な間接業務、事務作業だと思われているケースをときおり見かけるのは、なぜだろうか? たぶん、組織がどこかで目的意識や価値観を見失っているのだ。まるで売り子や配達の仕事をバカにして、「俺の菓子作りの腕があるからこの店があるんだ」とうそぶく職人のように。

まあ、世の中にはどんなに丁寧に説明しても、自分の抱えた仕事だけが偉くて、他はくだらぬと信じる手合いが一定数いる。彼らは自分がシステムの一員であることを知らない。大店全体がシステムとして機能し利益を出すから、職人も安心して腕をふるえるのである。システムでは、すべての要素がちゃんと機能して、はじめて全体が価値を生み出す。だから、要素間でどれが偉いの偉くないのという議論は、無意味なのだ。たとえどこかの要素(部門)が情報のハブとなり、そこが指示を出ししていても、それは「そうした役割」をおっているだけで、上下関係ではなない。たしかに生産管理は製造作業を直接する訳ではないから間接業務だが、大切な業務である。「大事な雑用」が、世の中にはあるのだ。

ものづくりをテーマとした展示会やサイトなどでも、取り上げられるテーマの中心は、製品の設計技術や、製造機械の生産技術・検査技術などであり、生産管理を真っ正面から取り上げたものは少ない。わたしは、このことを大変残念に思っている。それは生産管理が、生産システムの情報のハブである事を、多くの企業も技術者も認識していないことを示しているからだ。要素技術ばかりに熱中し、全体のシステムを見ないビジネス文化に、わたしは危惧を抱いている。ちょうど楽器をいじることのみに熱中し、それ以外はすべて「雑用」と貶めるジャズバンドのメンバー達のように。それは、「システムズ・アプローチ」の弱さを示しているのだろう。

最初の質問を寄せられた方には、こうお答えした:
「『そもそも生産管理とは何か』という問いを立てられたところがまず、素晴らしいと思います。“そもそも論”を考えようとする人は、少数です。100人中98人は、目の前の仕事や直接の成果だけを考えているのが現実です。これでどうして改善やら改革が可能でしょうか?
わたしのサイトは、『そもそも論』を自分の頭で考える人(=システムズ・アプローチの素質がある人)に役立つサイトを目指しています。」

そして、生産システムのマネジメント理解する糸口として、共著の「“JIT生産”を卒業するための本―トヨタの真似だけでは儲からない」をおすすめした。この本の第5章は、わたしが書いている。べつに(信じてもらえないかもしれないが)自著の宣伝のためにおすすめしたのではない。こういうアプローチで生産管理を論じた本が、滅多にないからなのだ。生産管理の仕事は、カンバン方式だとかMRPだとかのツール・手法の集合ではない。生産というシステム全体を見て舵取りをする、航海士やパイロットのように高度な技術専門職であることを、一人でも多くの人に知ってもらいたいからである。

<関連エントリ>
 →「生産管理とはどういう仕事か」(2008-04-09)
 →「マネジメントと管理はどこが違うか」(2009-07-15)
by Tomoichi_Sato | 2016-05-11 07:00 | サプライチェーン | Comments(0)

同じモノか、違うモノか? - マテリアルの同一性問題をめぐって

前回、「E-BOM(設計部品表)とM-BOM(製造部品表)の関係を考える」 を書いた後で、この分野の専門家の方々と少しやりとりがあり、わたしのつかったBOMという言葉に分かりにくい点があったかな、と気づかされた。そこで今回は補遺として、用語を明確にすることからはじめたい。

一般に、『BOM』という言葉は、三つの意味を持っている。それは「BOMデータ」「BOMデータベース」「BOMソフトウェア」だ。同じ一つの問題の、三つの側面といってもいい。

BOMデータとは、部品表(業界によっては「材料表」)の内容そのものである。データというのは、数字や文字の規格化・定型化された並びのことである。BOMデータとは、マテリアルの数量的な関係を示した一覧表で、たとえそれが手書きでも、Excelの表の形でも、きちんと業務でハンドリング可能な形になっていたら、BOMデータと呼べる。ただし、誰かの頭の中にあるだけで、形式化されていない状態では、まだデータとはいえない。(なお、データと情報の違いについては『ITって、何?』の「質問2: ITを理解している人を見分けるにはどうしたらいいの?」 を参照のこと)

BOMデータベース」とは、コンピュータの中に形式化されて保存されているデータを指す。データベースは、ご承知の通りマスタ・データと履歴(トランザクション)データに、さらに区分することもできる。BOMデータベースは、その両者の形態があり得る。

BOMソフトウェア」とは、主に上記BOMデータベースを処理する情報システムのことだ。製造業ではBOMはいろいろな業務に関係するから(設計・購買・製造・保守・原価など)、いろいろな業務系システムがBOMソフトウェアとなり得る。とくに、BOMデータベースの維持管理を主目的としたソフトウェアをつくる場合、それは「BOMプロセッサ」と呼んで区別することにしている。

このサイトでは今後、上記の三つを、可能な限り区別して使うことにする。たとえば前回「どんな製造業でもBOMはある。ただし、BOMをきちんとマネジメントしている企業は少ない」と書いた。これは、より正確には、次の意味である:
どんな製造業にもBOMデータはある。だがBOMデータをマネジメントしている会社は少ない。

たとえば、製品を自前で製造している会社なら、ふつうは必ずP-BOM(購買部品表)データをもっている。これがなければ部品材料を仕入れられないからだ。もしもその会社が、よくセットメーカーにあるように、部品は全て外部から購入し自社では最終組立・検査のみを行う業態の場合、
 P-BOMデータ=M-BOMデータ
でもある。自社内で加工・製造を行う業態の場合、工程ごとに展開されたM-BOMデータをもっているはずである。そうでなければ、各工程に製造指図書(製造オーダー)を発行できないからだ。ただし、その企業が構造型の「BOMデータベース」を持っているかどうかは不明だが。

また、設計機能のある会社なら、必ずE-BOMデータはある。それは組立図面の上のたんなる表かもしれないが、データではある。

(小うるさいことを書くようだが、念のために注釈。製造業の裾野は非常に幅広い。製品を自前で生産しないメーカーというのも存在する。製造を全て外部委託している会社だ。具体的には、一部の電子機械メーカー、開発型医薬品メーカー、そして多くのアパレルメーカーなど。出版社もこれに近い。また、自社で設計をしない製造業は、中小下請け部品メーカーに非常に多い。それから、化学・食品産業などではBOMという言葉はあまり使わず、「レシピ」概念がそのかわりにある。ただ、混乱を避けるため、わたしの話はデフォルトで「組立加工型・繰返し生産形態・生産管理中心」で書いている。日本ではそういう企業の裾野が一番広いからだ。読者諸賢は、ご自分の業種業態にあった形で翻案しながら、お読みいただきたい)

さて、BOMデータをきちんとマネージするためには、普通はBOMデータベースが必要だ。他方、上述のようにBOMソフトウェアは業務目的別に複数持つ場合もある。たとえば設計業務用ソフトと、生産管理用ソフトのように。もちろん両者が一つのソフトウェアで済むなら、それに越したことはない訳だが、現実にはなかなか難しい。そういう意味で、E-BOMソフトウェアとM-BOMソフトウェアが別々にあるケースは珍しくない。同一のBOMデータベースから、異なる表現形式としてE-BOMとM-BOMを取り出す例もあるだろうが、あるいは物理的に別々なDBかもしれない。

では、わたしが前回述べた、「E-BOMとM-BOMの乖離問題」とは何のことなのか? それは、データ内容の乖離の話である。設計部門と生産部門が維持・参照しているBOMデータの中身が、だんだんと食い違ってくる。それが社内で様々な問題を引き起こしているのである。たとえばユーザからクレームが入った。保守部門が対応すべくアクションを起こす。ところが調べてみると、設計図面とは別の部品が使われている。あるいは、工場内で部品の欠品が起きる。本社資材部門は正しく手配済みのはずだった。だが工場では当該部品とは別の部品を使用することが恒常化していた・・。こうした不便がいろいろと起こりうるのだ。

そしてBOMデータ内容の中心は、マテリアル・コードである。マテリアル・コードとは部品材料を特定するキー・コードのことで、会社によっては部品番号とか品目コードとよぶ場合もあるだろう。ある部品のマテリアル・コードは何か、その子部品のコードは何か、がBOMデータの中心部分である。BOMデータの乖離とは、同じ製品を構成するはずのマテリアル・コードが、設計部門と生産部門で次第に食い違っていく事態を意味する。甚だしい場合は、両者でまったく異なるコード体系をもっている。まあ、仮に異なるコード体系であっても、その間に1対1の対応関係があるなら、まだいい。その対応関係が次第にずれて1対NやN対Nになっていき、機械的な変換ができなくなるから、こまるのだ。

なぜそのような乖離が起きるのか? それは、異なる部門間で、ある品目が同一であるか、違うモノかで意見が異なってしまうからなのだ。

例を挙げよう。ここに、「岩手産の牛乳1ℓ瓶」と、「十勝産の牛乳2ℓパック」 があったとする。この両者は、同じモノなのか、違うモノなのか?

仮にあなたが、ある食品メーカーで、マテリアル・マスタの管理者だったとする。お好みなら、SAPのMMかなんかでもいい。そこにユーザから、上のような質問があった。どう判断するべきだろうか?

見た目に明らかに違う物品だから、別のコードで登録すべきだ、などと結論にジャンプしてはいけない。慎重なあなたは、ためしに、社内の関係者に質問してみることにした。

あなたの会社にはチーズ製造部門がある。そこの購買課に見解をたずねると、こう答えた。
「乳脂肪含有率が重要だ。産地が違えば区別が必要だ。いや、季節によっても品質は変動する」。
一方、あなたの会社はレストランもチェーン経営している。そこの仕入係の見解はこうだ:
「コップに注いでしまえば産地も容器も関係ない。要冷蔵かどうかだけが重要だ。」

片方は別のモノだと答え、もう一方は区別の必要はない、という。

二つのものが同一物かどうかは、会社によって違い、部署によっても違う。つまり、ものの見方によって違うのだ。そこには、第三者が客観的に決められる厳密な基準はない。では、『モノの見方』を規定するカギは何なのか?

こたえは単純だ。同一と見なせるかどうかは、「キーとなる属性」が同一かどうかで決まるのだ。キーとなる属性とは、業務上の要求仕様のことであり、マテリアルの使用目的によって決まる。チーズ製造部門にとってキーとなるのは乳脂肪含有率であり、レストランにとっては保管方法だった。だから、使用する企業・部署ごとに見方は変わるのである。どちらが正しい、どちらが間違っている、ではない。ただし、企業として統一したマスタを持つのなら、そこには基準が必要だ。そして、それは区分がむやみに増殖しないような基準であってほしい。

たとえば、「設計上は同じ仕様だが、サプライヤーが異なる物品」はどう扱うべきか? もしも製造組立でまったく互換性がある場合は、両者は同一のモノである。 でも、価格や納期が異なるとしたら? その場合、サプライヤーに依存する属性は、品目マスタではなく、「購買情報マスタ」に登録するのが定石なのだ( 「購買情報マスタ」は、マテリアル・コードと取引先コードを複合キーとするマスタである)。

あるいは、「設計上は同じ仕様だが、荷姿や入り数や保管方法が異なる物品」は?  その場合、物流側の情報システムで、SKU(Stock Keeping Unit)として区別するのが定石だ。

そのような形の工夫を重ねることで、マテリアル・マスタの品目数がずるずると膨張し、類似したデータが増えて1対N風の状態になることを防ぐことこそ、BOMデータをマネジメントする際の要諦なのである。

わたしの接してきた経験では、残念ながら多くの企業が、このような判断基準を社内的に確立していない。そもそも購買情報マスタだとかSKUだとかいうことさえ、理解されていない。こうした事情の背景には、部門同士の距離感があるのだろうと感じる。各部門がサイロのようになって、部門単位で最適化された業務フローを持ち、それに応じて情報システムを作ってしまう。結果として、本社設計部門の管理する部品マスタと、工場の製造部門のつかう品目マスタの対応関係が、乖離してくるのである。これを称して、E-BOMデータとM-BOMデータの乖離という。

これを防ぐためにはどうしたらよいか? 原因が単純である以上、解決法も単純だ。社内の複数部門を横断する「マテリアル・マネジメントのためのコミッティー」を形成し、そこで基本指針を定め、各種情報システムの要件にも口をはさむ。個別の事案の判定は、実務担当チームを任命してあたらせる。このようにすべきだろう。

拙著「BOM/部品表入門」では、社内の10以上の部門が横断的に集まるBOM検討ワークショップによばれた、外部アドバイザーの矢口先生が、各部門の担当者に順番に質問を発していくという形式で書いた。それは、上に述べたような問題意識があったからだ。マテリアル・マネジメントは、非常に多くの部門にまたがる課題である。だから、部門の垣根を越えて話し合う仕組みがどうしても必要なのだ。

単純だ。だが、難しい。単純なことほど実現の難しいのが、会社というものだろう。そしてそのために、マネジメントという機能が存在するのである。


<関連エントリ>
 →「E-BOM(設計部品表)とM-BOM(製造部品表)の関係を考える」(2016-02-21)
 →「『ITって、何?』質問2: ITを理解している人を見分けるにはどうしたらいいの?」 (2010-10-07)
by Tomoichi_Sato | 2016-02-28 15:56 | サプライチェーン | Comments(1)