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期日つき督促の矛盾と『学生シンドローム』

督促』というのは嫌われる言葉だ。される側にとってはうるさいばかりか迷惑千万に感じられ、する側だって楽しくない。この言葉を『催促』と言いかえてみても、もちろん同じだ。鬱陶しいものであることに変わりはない。

「督促する」を英語ではexpediteという。ところで、私の働くエンジニアリング業界には、Expeditorという専門職種がある。日本語に直訳すれば、「督促者」だが、この恐ろしげな名前の人たちは何をする人たちなのだろうか。まさか鞭を持ってオフィス内を歩き回り、人を後ろから怒鳴りつけるのだろうか。

実際には、エクスペダイターは、外注先の工場を定期訪問し、その進捗状況をコントロールする仕事をしている。日本語での名称も、「工程管理」という、もっと受け入れやすい穏和な(?)肩書きをつかう。

エンジニアリング会社は、客先のために工場を設計し、機械や資材を調達し、建設工事を管理することが仕事である。そして、工場に使う産業機械や資材はほとんどが個別仕様による発注品だ。作るメーカーの側から見れば、設計作業を伴う個別受注生産品(英語で言えばETO=Engineer to Order)ばかりである。こうした品目は、受注したらひょいと製品倉庫の棚から出して発送するような見込生産品と違い、納期が長くかかる。いや、標準納期すら存在せず、毎回、受注のたびに個別に納期を設定せざるを得ない。

しかも、受注してからすぐに工場で作り始めるわけではなく、まず設計部門で設計し、外形や重量や機能構成を「承認図」の形でまとめて、いったん発注者に提出し、承認を得る必要がある。それから部品表(BOM)と製作図面の出図にうつる。これだけで2,3ヶ月はあっという間に経ってしまうのが普通だ。部品表にしたがい、主要材料を手配し、納入されるのを待つ。工場側の生産計画にスケジュールを載せる。それからやっと、工場で材料を刻みはじめるのである。さらに組立があり、出荷前性能検査があり、塗装梱包されてようやく出荷となる。

これだけのプロセスを経て進む作業である。まさか発注書を切ったあとは目をつぶって待っていれば、納期の日に、目の前に自動的に製品が忽然と現れる、などと期待する方がどうかしている。ましてエンジニアリング会社の調達先の7割以上が海外メーカーである。Amazon.comで本を1冊買うのとは訳が違うのだ。

そこでExpeditor=工程管理の専門家の必要が出てくる。彼らは、発注先の工場を定期的に訪問する。そして、設計工程や生産工程が予定通り進んでいるかをモニターするのである。メーカーの設計部門が必要とする仕様書や技術図書の最新版が、全てそろっているかどうか(しばしばエンジ会社から営業部門に渡してもタイムリーに技術部門に渡っていかない)、技術上の懸案事項が残っていないか、主要部材は発注したか、工場はちゃんと製造能力に余裕を持っているか、検査要領の手はずは整っているか、等々をくりかえし確認するのである。

このプロセスはある意味で、外注先ではなく社内の他部門に仕事を依頼した時も、同じはずである。製造依頼ばかりとは限らない、設計の依頼でも、なんらかの検討の依頼でも同じである。スケジュール通り仕事を進めたければ、相手側の内部の進捗についても、モニターしていく必要がある。そして問題が発生していれば、タイムリーにそれを検知し、都度解決していかなければならない。むしろ、同じ社内であるほど、「発注書」や「契約書」が存在しないだけに、気をつけなければいけないはずだ。

ということは、社内の他部門に対しても、工程管理の仕事が必須ということになる。しかし、他部署の内部プロセスに口を差し挟むのは、現実にはなかなか困難である。そこで、妥協案として、依頼事項に提出期限をつける、という方法が普通は採用される。この日までにやって下さいね、よろしく、と頼むわけだ。

しかし、この方法には一つ、大きな欠点がある。それは、期限を自分の都合だけでは決められないことだ。相手側の事情も含めて、社内調整が必要になる。こちらは月末までにほしい。でも、相手は他の通常業務もあるので、来月中旬でないと約束できない、等々といった話し合いである。

そして、いったん両者の間で期限が合意されたら、成果物はその期日より前に届けられる可能性は極めて低くなるのが、現実だ。なぜなら、そこに『学生シンドローム』が働き始めるからだ。

学生シンドロームとは、小説『ザ・ゴール』の著者で、制約理論(TOC)の創始者であるエリヤフ・ゴールドラット博士が言い出した言葉である。彼は、夏休み最後の日にならないと宿題に手をつけない学生達を引き合いに出して、人はいったん将来の期日を与えられると、すぐにそのタスクに着手しないで、ぎりぎりまで後回しにしがちである、という。それでも期日に間に合えばいいじゃないか、と依頼を受ける側としては当然思うだろう。しかし、いったん期日を設定してしまうと、学生シンドロームのために、それより前に仕事が終わる可能性は極めて小さくなるのである。

期限にはもう一つ問題がある、とゴールドラット博士はいう。期限を設定する時に、依頼を受ける側は、約束をほぼ守れるように、それとなく期間にサバを読んで長く言いがちになる点である。2週間でたぶんできるな、と内心思っても、それを万が一守れなかったら責められる、じゃあ4週間といっておけば安心だろう、となる。

かくして、社内で複数部門を巻き込んだ仕事(つまりプロジェクト型の仕事)をやろうとすると、あちこちに水増しされた社内期日が設定され、全体工程が長くなってしまう結果になるのである。部分的な期限をつけたが故に、全体が長くなる矛盾が生じるのだ。

では、この問題を解決するにはどうしたらいいか。彼はそこで、あっと驚く解決策を提示する。だが、長くなってしまったので、続きはまた書こう。
by Tomoichi_Sato | 2009-11-15 15:59 | 時間管理術 | Comments(0)

ベーシックとしての時間分析

私たちは時間の上に住んでいる。誰にも平等に、1日24時間が与えられ、週に7日、年に12ヶ月が与えられる。資産や所在地や名望など、他のありとあらゆるビジネス上の前提条件とは違って、そこにはハンデも優劣もない。

したがって、私たちが何ほどかを競争で得たければ、まず時間の使い方で競うしかない。ところが、これほど無頓着になされているものも珍しい。経営資源を「人・モノ・金」と三つにくくるのは、誰がはじめたか知らないが広く浸透していて、事実、人やモノや金の使い方には、皆ずいぶん気をつかっている。それに比べて、時間の使い方に対する注意は格段に落ちる。たぶんそれは、時間が目に見えないからだ。

経営工学(あるいは、その基盤であるインダストリアル・エンジニアリング=IE)が、テイラーの『科学的管理法』の論文から始まったことは周知の通りだ。今からちょうど100年前、工場の主任技師だった彼は、労働者による重い荷物の運搬作業に対し、ストップウォッチによる時間計測を手段にして、適切な休息と労働のバランスによって生産性が飛躍的に向上することを見出した。同じ8時間という労働(拘束)時間の中の使い方をかえることによって、劇的な改善が可能になったのだ。それは号令や叱咤やインセンティブ等よりも、はるかに効果的だった。だから、彼はこれを、自信を持って「科学的管理法」と名付けたのだ。

テイラーの流れをくむIE技術者たちは、その後も工場の現場作業に対して、ストップウォッチを武器に取り組みつづけ、地味ながら立派な成果を上げつづけた。さらに人間動作を詳細に分解して、標準動作による生産性予測や改善もできるようになった。今日、まともな工場ならば、IE技術者による作業設計と不断の改善活動を定常的に行っている。

しかしながら、日本の製造業の多くの企業では、生産性のボトルネックはすでに製造現場から、設計や管理を中心とするオフィスワークに移っている。にもかかわらず、オフィスワークにおける作業時間分析は、あまり行われているのを見たことがない。不思議ではないか。

いや、我が社はタイムシートをつけている。何月何日に、どの仕事で、何時間働いたかはすべて正確に把握している--そう反論されるかもしれない。しかし、それでは不十分なのだ。時間分析には、目的別の分析と、様態別の分析と、そして機能別の分析があることを、多くの人は理解していない。タイムシートは、目的別の時間集計には使えるだろうが、様態や機能の分析にはすぐには使えない。

目的別の時間分析とは何か。それは、「その作業時間」が、どの顧客・案件・段階向けの作業かを見るための手段だ。A社向け・Zシステム納入・テスト段階--これが目的別の分類である。気の利いた企業なら、作業段階別にWBSやコード番号を設定しているかもしれない。例えば、テスト段階の中でも「テスト要領書の作成」まで把握できるようになっている。でも、これでは時間の使い方の“結果だけを知る”ことしかできない。いわば、タクシーが、どの客を連れて、どの目的地まで行き、何mを走ったかだけを記録しているようなものである。

もし時間の使い方の内実を知りたければ、様態別の把握をしなければならない。たとえば、同じオフィスワークでも、会議に出席していたのか、設計書を書いていたのか、メールを読んでいたのか、電車で移動していただけなのか、いろいろな様態がある。終日会議に出席しているばかりの人や、一日の半分以上は移動時間の人が、生産性に貢献すると期待できるだろうか? 会議も移動も、必ず『目的』はある。どの案件・どの客先かは(たぶん)明確である。でも、それはタクシーが渋滞の中につかまっているようなものではないか。だとしたら、高速か、一般道か、裏道か、どんな道をどれだけ通ったかの分析が必要なのだ。

そして、様態別の分析だけでも、まだ生産性を考えるには十分ではない。なぜなら、仕事に使う時間の中には、プロダクト(成果物やアウトプット)に直接結びつく部分と、そうでない部分が混ざっているからだ。たとえば机に向かって設計作業中だとする。ところで、以前もらった資料のファイルをさがして、サーバの中をあちこち検索したとしよう。ある目的のために仕事をしている時間であることに間違いはない。だが、そうした探し物の時間は、実際には生産性に何も貢献していない。あるいは、上流部門から来た要件設計書に間違いが見つかって、設計がやり直しになり、残業したとしよう。あきらかに設計活動の時間だ。だが、ちっとも生産的ではない。こうした時間は、タクシーが道を間違えて引き返したり、地図が無くてうろうろしている時間とかわりがない。

製造現場では、「正味時間」という概念を大事にする。部品を加工したり、組み付けたりして、モノに付加価値を与える作業の時間である。旋盤でワークを削っている時間は正味時間だ。一方、治具が無くて探しに行ったり、加工図面の到着を待つ間に機械の掃除をしている時間は、正味時間に入らない。無論、材料の入荷待ちやロット待ちも、正味時間外だ。そして、工場での改善のポイントは、いかに無駄な待ち時間を無くして、正味時間の比率を上げるかにある。念のために書くが、正味時間の比率はせいぜい数%から、よほど優秀な工場で20%程度である。あとはほとんどが、付加価値に貢献しないムダ時間なのだ。

同じようなことをオフィスワークで知るためには、目的別タイムシートではなく、様態別・機能別の時間集計が必要になるのである。むろん、こんな細かな作業記録を、毎日毎日タイムシートにつけることなど不可能だ。だから、サンプリング期間を区切って(例えば1日とか1週間とか)、職場全体で調査をかける必要がある。そうしてはじめて、本当の意味で「付加価値生産性」向上のための基礎データができるのである。そのために、どのようなフォームやツールがいるのか、知恵と工夫のポイントでもある。

とはいえ、もしかしたら、タイムシートそれ自体、目的別の時間集計にも使えない状態だということも考えられる。タイムシートが残業集計や給与計算に直結している場合である。いや、もちろん直結してもいい。だが、そこに「みなし年俸制」やら「サービス残業」やらがひそんでいると、もはやタイムシートは監督官庁へのアリバイ資料にすぎず、ビジネスの改善の基礎データにもならなくなるだろう。そんな状態は、ごく例外的な事象だと信じたいものだが。
by Tomoichi_Sato | 2009-09-28 21:45 | 時間管理術 | Comments(1)

「良いデザイン」の工数は見積ることができるか

目の前に広げられたのは、30数枚に及ぶスケッチの紙だった。我々の顧客が打合せを終えて帰った後で、そのグラフィック・デザイナーの人が見せてくれたのだ。CI(コーポレート・アイデンティティ)の世界では、かなり名前を知られた人である。彼が顧客に見せたのは、3つのデザイン案だけだったはずだ。ダイナミックでポップなもの、端正で清潔なもの、柔らかで明るいものの3つで、ずいぶん違う印象の候補案を用意してくれていたのに感心したばかりだった。でも、その裏側には10倍以上の半製品があったのだ。

その人は、候補の3案に至るまでの案出しとデザイン展開の結果を何枚もめくって見せながら、どのような発想から出発して、どうバリエーションをつくり、それからどう最終成果物に結びつけたのか、素人の私にたいして簡単に説明してくれた。私は完璧に驚いてしまった。ひらめきから生まれるものとばかり思っていたグラフィック・デザインが、じつはとてもシステマティックな、かつ時間をつぎ込んだ作業の結果、生まれてくるのを知ったからである。

CIデザインの中心には、いわゆるロゴ・マークの設計がある。私は視覚デザインについては全くの素人だが、それでもいろいろな企業のロゴ・マークには出来不出来があるのに気づく。もう少しマイルドな言い方をすれば、個性的な美を感じさせるものから、限りなく無難な印象のものまで幅がある。ただ、ロゴ・マークのデザインが難しいのは、そこに大きな自由度があるからだ。たとえば配電盤の中の結線図を作成するのだって、デザインといえば同じくデザインだが、こちらは答えの自由度が小さい。定石や手順が決まっていて、それに従えば出来上がる定型的な作業だ。しかし、グラフィック・デザインは明らかに非定型的な、創造的な仕事に思える。

その日まで私は、こうした創造的なデザインというものは、デザイナーが宙をにらみながら、ある瞬間にふと閃いたアイデアにもとづいて制作するものだ、と単純に思い込んでいた。言いかえると、良いデザインが生まれるかどうかは、その場の運だと考えていたわけだ。今日にも閃くかもしれず、半年後も思いつかないかもしれない。つまり、「いつまでにできますか」などという質問には答えられないことになる。

ところが、この人のプロセスを見ると、集中した思考に費やす時間が、明らかにデザインの質を決めているのが分かる。むろん、不連続な閃きだってあるだろう。持ち前のセンスの良否もある。だが、デザインという、いかにも不定形に見える仕事の成果が、実は費やした時間の長さにほぼ比例するのだという発見に、ひどく衝撃を受けたのだ。

不定型な仕事とは何だろうか。それは、答えの見えない、解き方の分からない、個別的で自由度の高い仕事だといっていい。そして大学教育を受けたホワイトカラーに専ら任せられる仕事でもある。新製品の企画を立てるとか、展示会に出展するとか、原価改善に取り組むとか、こうしたことはすべて非定型的な仕事、事務作業や力仕事とはちがう特別な知的作業だと考えられている。こうした創造的な仕事とは、効率だけが求められる職種とは違った世界があるはずだ、と。

このような思考はまた、フレックス勤務とか、裁量労働制とか、年俸制とかいった、勤務時間にしばられない給与報酬制度とむすびつく。自分はタイムカードで働くのではない、成果で評価されるのだ、と。

ところで、そのデザイナーに仕事のプロセスを見せてもらった時以来、私は考え方が変わってしまった。「不定型な仕事だから、どれだけ時間がかかるかは分からない」という言い方をしないようになった。そればかりか、他人のそういう発言も、単純には鵜呑みにしないようになった。そして設計や計画やデザインの質が低いのは、時間を費やせなかったせいではないかと疑うようになった。

デザイナー以外にも、不定型な仕事をしている人には何人も出会った。音楽家、映画監督、映像展示プロデューサー、建築家といった、事務作業や力仕事とはほど遠い業務に従事する人たちだ。こうした職種の人たちの多くは、成果物で報酬を得ている。しかし、よく聞いてみると、この人たちもたいてい、仕事に費やす時間や工数をかなり正確に見積もっているのだ。それどころか、報酬額が自分に必要な工数の分に足りないときは、どこを押さえてどこで手を抜けばいいかさえ、ちゃんと計算している。自分の評判を下げない程度に、質をキープする知恵である。いかにもプロフェッショナルである。

課長に「秋に開かれる展示会でアピール力の高い内容を考えろ」と命じられたとき、「でも閃きは半年後に来るかもしれないので期限は確約できません」とは答えられないのが勤め人である。なるほど非定型的な仕事ではある。だが、かかる時間は見積もれる。見積もることのできる能力が要求される。これを、『スケジュール・マインド』とよぶ。コスト・マインドと並んで、プロとしての能力の要件の一つである。

自分の仕事は創造的だ、特別だ、という思い込みは、ある意味で「特別な我が社」という思い込みに通じている。ベタな工数見積や効率化活動の対象外だ、ほおっといてくれ--そんな感覚が、そこにはないだろうか。だが、そんなことはないのである。「非定型的な仕事」の多くは、特定の成果物や結果を生み出すための、一度限りの営為だ。これはまさしく、PMBOK Guideにいうプロジェクトの定義="a temporary endeavor undertaken to create a unique product, service, or result" に、ぴったり当てはまるではないか。

つまり、非定型と思われている仕事の大半は、じつはプロジェクトなのだ。定常業務の仕組みや職制を残しながら、個別で部門横断的なプロジェクトに(そうとは意識せぬまま)取り組んでいることが、今日のホワイトカラーの生産性の低さを生んでいる。「特別」意識を持つ製造業の問題に、いかに似ていることか。

そして、プロジェクト的な仕事には、明確にマネジメント・テクノロジーが存在するのである。たとえば、工数見積に必要となるのが、パフォーマンス基準時間の概念である。長くなったので、これについては、稿をあらためてまた書こう。
by Tomoichi_Sato | 2009-07-10 23:41 | 時間管理術 | Comments(0)

人時は金なり


今でもよく覚えているが、新入社員のとき集合研修に参加していたら、ある講師がこう語った。「われわれエンジニアリング会社は、時間で勝負している。一人1時間働くと、7,500円という単価がかかる(注:金額は当時)。だから、君たち100人を相手に1時間半こうして話をするということは、会社は100万円以上のお金を使っている訳だ。だから、この講義の時間はそれだけの価値あるものにしなくちゃならない。」

あとで知ることになったのだが、1時間7,500円というのは平均の売値(Price)であって、人件費原価(Cost)ではない。もちろん、自分達がそんな高い時給をもらえるわけでもなかった。なのにその先輩が「100万円以上のお金を使っている」と説明したのは、つまり顧客に売ればそれだけの収入の可能性があるのに、あえて教育研修に振り向けている機会損失コストのことを言っていたわけだ。

機会損失というのは、分からない人にはちょっと分かりにくい。これは“釣り逃した大魚の代金”みたいなものだからだ。財務諸表のどこを探しても出てこない。でも、たとえば今、宝くじの一等の当たり券を持っているとしよう。購入代金は300円だった。つまり原価は300円である。でも、当たりくじは3億円に換金できる。さて、もしこの当たりくじをゴミ箱に、ぽいと捨ててしまったら、自分はいくら損をしたことになるだろう? 300円か、それとも3億円か?

手取りで時給1,000円にもみたぬ当時の新入社員であっても、たとえば設計マニュアル通りに熱交換器のデータシートを記入したり計算ソフトを回したりすれば、そのプロダクトについて石油メジャーは1時間7,500円相当の金額を支払ってくれた(時間数が適正で結果が正確である限り)。それがある意味で欧米流の人時の考え方なのだった。プロフェッショナル・サービスに対しては、時間コストが付随する。そして、それは売り手側にとっては機会損失で測られる。かんじんの講義の内容は忘れたが、今でもそのことだけは身にしみて忘れない。

さて、1時間7,500円ということは、1日8時間働くと6万円である。もしあなたが、自分の作成した役員会用の資料の図表のデザインや文言のあれこれについて、小心な上司からあれこれ注文をつけられて、修正作業に1日半かかったら、10万円がすっ飛ぶ勘定である。またこれを1分あたりに換算すると、毎分125円である。ケータイの通話料なんかより、ずっと高い。貴方が誰かに自分の携帯を貸してあげて、相手が使った後もずっと回線をつなぎっぱなしだったら、かなり腹が立つだろう。だとしたら、自分が意味のない会議やら挨拶やらにずっとつきあわされたら、(たとえそれが自分の上司でも)抗議するべきなのだ。

いや、もっというと、秒単位に換算すると、1秒2円以上だ。ということは、お辞儀したらすぐ5円、あくびしてもすぐ5円が失われる。もし1円玉を床に落としても、かがんでそれを拾ったりしたら、もう10円がとこは使ってしまう。ということは、1円玉を落としても、拾ってはいけないということだ。

そんなのはエンジニアリング会社の特殊な事情さ、と貴方はおっしゃるだろうか? じつは、そうでもないのだ。人日や人月でプロジェクトを受注しているIT業界の人はよく知っているはずだが、人時7,500円はそれほど高い金額ではない。月160時間労働だとしても、人月120万円だ。この程度の単価をSEにたいして請求する企業はざらにある。

しかしその一方で、まったく逆の感覚をもつ組織も少なくない。それは、ホワイトカラーのマンパワー(マンナワー)に対して、何のコスト意識もない会社だ。つい最近、頼まれてある製造業で、プロジェクト・マネジメントに関する簡単なレクチャーをした。そこで例によって目的・ゴール・目標の定義や、プロジェクトCHARTER(憲章)の作成などを説明したのだが、いざプロジェクトの概略予算を書いてもらうと、その中に一切自社内の人時コストが含まれていないのだ。技術部門や企画部門の人間は、いくら使おうと、タダであるという感覚が身に染みついているらしい。

その会社は繰返し受注生産が中心の会社なので、技術部や企画部の人件費は「販売管理費」の中に入っている。だから、いくら使ってもタダだ(文句を言われない)という感覚になるらしい。まあ、個別受注生産でない限り、タイムシートで記録した作業時間を案件別に振り分けることなど困難だから、この会社のような感覚が蔓延するのも分からぬではない。

しかし、だとすると、なぜ製造現場では時間分析を執拗に実施して、労働者が半歩でも余計に歩く動作まで切り詰めたがるのかが、分からない。それも、今や現場の大半は派遣労働者で、たいして高い単価ではない。1秒切り詰めたって、1円にもなるまい。そのかたわら、大卒の技術者が本社で、上司に説明するパワーポイントの字体の大きさをめぐって1時間も2時間も残業しているのか。現場と比べてアンバランスではないか。

マンパワー(マンナワー)はお金である。だから、オフィスワークについても、出来高と、生産性を明確に定義して、測定できるようにする必要がある。いや、少なくとも、人時を浪費したら、それはお金の浪費であるという感覚を持つ必要がある。不況だ不況だといって仕入れ先や外注先をたたく前に、もっとやるべきことがあるはずなのである。
by Tomoichi_Sato | 2009-06-24 23:28 | 時間管理術 | Comments(0)

Web連載記事のお知らせ

技術評論社のWebマガジン「エンジニア・マインド」に、連載「タイム・マネジメントの心得」第12回 『まとめ―もっと「考えるための時間」を!』を掲載しました。どうぞご覧ください。
by Tomoichi_Sato | 2009-04-17 23:55 | 時間管理術 | Comments(0)

Web連載記事のお知らせ

技術評論社のWebマガジン「エンジニア・マインド」に、連載「タイム・マネジメントの心得」第11回 『日誌をつける』を掲載しました。どうぞご覧ください。
by Tomoichi_Sato | 2009-03-25 23:23 | 時間管理術 | Comments(0)

カムアップ・システムを使う

まず、カードとカードボックスを用意しよう。カードの大きさはとくに決まりはない。B6サイズでも3 x 5インチでも、いわゆる「京大型カード」でもいいが、現場で使うのだから少し堅めで丈夫な紙質のものが良い。それから、カードボックスには、見出しのついた仕切り紙を15枚ほど入れておく。

仕切り紙の見出しには、「月曜日」「火曜日」「水曜日」・・という具合に1週間分の曜日を2セット、書き込んでおく。残る1枚は、「3週以降」としておく。あるいは、もし几帳面な人なら、曜日で2週間分ではなく、「1日」「2日」・・・「31日」「翌々月以降」という風に、1ヶ月分+1枚=32枚用意するのでもいい。

さて、生産計画にしたがって先日付の製造指図が発行されたら(あるいは、MRP用語風にいうと、製造オーダーが計画状態Planned からリリース状態 Releasedにディスパッチされたら)、その製造指図番号と内容をカードに転記する。もちろん、製造指図書自体がカード形式で出力されるならもっと良いが、これは加工図面や製造仕様書やピッキングリストなどを一緒にするケースも多いので、必ずしもカード型が便利とは限らない。だからカードに必要な最小限の情報だけを転記するわけだ。

カードに転記した製造指図には、着手日が指定してあるはずである。そこで、そのカードを、着手日にしたがって、カードボックスの該当日の仕切り紙の後ろに差し立てる。こうしておくと、週次あるいは随時発行される製造タスクが、着手日付ごとにカードボックスにソートされて並ぶことになる。

さて、毎朝、当日分の仕切り紙の後ろに入っているカードを出して並んべてやれば、その日のやるべき製造作業が全部一目で分かる。その日の作業順序を考えて、班員に渡してやる。そして、一日の仕事をおえて就業時間になったら、作業日報にしたがい、完了した製造タスクのカードは廃棄する。その日のうちに完了できなかった仕事は、カードボックスの翌日の仕切り紙のところに差し立て直す。こうして、一日単位で仕事を回していくのである。

この仕組みは単純だが、やるべき仕事の「見える化」手法としては便利で分かりやすい。先日付の作業指示を受け取ったとき、机の上に積んで記憶しておくだけだと忘れがちだ。しかし、カードボックスに整理しておくと、当日の朝になると、自動的にカードが出現(カムアップ)してくる。そこで、これを「カムアップ・システム」と呼ぶようになったらしい。

ところで、ここまで読んだ方は、“なーんだ。工場の現場の話かあ。じゃホワイトカラーの自分には関係無いな”と思われたかもしれない。ところが大ありなのだ。今日ではむしろ、オフィスワークにこそ、カムアップ・システムが必要だからである。

昨今の情報化の進んだ製造現場では、むしろ端末をたたけば先日付の製造オーダーをすぐ見ることができる。ところが、オフィスにいるホワイトカラーは、明日、あるいは来週の今日、どの仕事がどれくらいの量あるのか、誰にも見えない。つまり、作業負荷が誰も分からない(上司でさえ)という状態なのである。なぜか? 理由は単純だ。オフィスワークでは、だれも「製造オーダー」に対応する「ワークオーダー」を発行してくれないからだ。上司も、隣の部署も、客先も、あなたに口頭で頼むか、せいぜい電子メールで送ってくるだけだ。

そのような「見えない」状態で仕事を進めていくと、困ることは何か。それは納期が守れないことである。だって、仕事がどれくらい忙しいのか客観的にわからない(自分でさえ分からない)のだから、当たり前ではないか。

そこで、私はオフィスでこそカムアップ・システムを使うことをおすすめしたい。カードボックスのかわりに、ファイルフォルダーをつかう(厚紙のものでも透明のものでもいい)。そのフォルダを、32冊、用意するのである。そして、「1日」から「31日」まで見出しをふっておく。

あなたが、誰かから会議のお知らせメールを受け取ったとする。会議用の配付資料が添付されている。そこで、それをプリントアウトして、会議の日付のフォルダに差し込んでおく。あるいは、あなたは来週、顧客のところに打合せに行かなくてはならない。そのための資料を用意したら、来週の該当日のフォルダに入れる。上司にレポートを宿題として渡された。そうしたら、A4の紙にやるべき内容を要点だけ書いて、フォルダにはさむ。こうすれば、自分がやらなくてはいけない仕事(To Do)は、すべてフォルダのなかに、物理的な実態として見えてくる。To Doリストの見える化である。
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フォルダは、かならず日数分用意しなくてはいけない。2~3日分ずつまとめて、などとやると見づらくて混乱するばかりである。また、自分は紙は嫌いだ、なるべく電子ファイルで画面上で処理したい、という方は、かわりにメーラーに31日分、フォルダを作ってもいい。口頭で受け取った依頼は、メモして自分あてにメールとして発信(受信)しておけばいい。

このようなやり方をはじめると、気がつくことがある。それは、タスクというのは着手日を決めることがとても大事だ、という単純な原則である。着手がそれより遅くなるると、納期に間に合わなくなるような、適正な着手日を見積もること。それが、オフィスワークにおけるスケジューリングの最大のポイントなのである。
by Tomoichi_Sato | 2009-03-08 23:01 | 時間管理術 | Comments(0)

Web連載記事のお知らせ

技術評論社のWebマガジン「エンジニア・マインド」に、連載「タイム・マネジメントの心得」第10回 『会議の時間を活かす』を掲載しました。どうぞご覧ください。
by Tomoichi_Sato | 2009-02-18 23:06 | 時間管理術 | Comments(0)

マイルストーンは中点で測れ

プロジェクト・スケジューリング立案作業の第一歩は、いうまでもなくWBS(Work Breakdown Structure)の作成である。成果物スコープとプロジェクト・スコープを、もれなく・重複なくカバーするタスク(アクティビティ)をすべて拾い上げる。それらを階層的に構成し、整理番号をつけたものがWBSだ。スケジューリングは、WBSを構成するアクティビティの所要期間を見積り、また、それらアクティビティ間の論理的な着手順序や依存関係を決定して、ロジック・ネットワークに落とし込む(ここは何らかのソフトウェア・ツールを利用することが多い)。その上で、クリティカル・パスを求めると、それがプロジェクト全体の工期となる、という訳である。

通常はさらに、クリティカル・パス上の主要な達成点に、「マイルストーン」を設置する。これは後の進捗管理を分かりやすくするための工夫だ。ここまでは教科書的な常識の話で、誰もが知っていることだろう。

さて、問題は各アクティビティの所要期間の見積だ。これの精度がいい加減だと、プロジェクトの納期も信頼度が落ちるばかりか、コスト見積の精度もあやしくなる。したがって、過去に類似プロジェクトの経験があれば、当然そこから実績期間のデータを集めてきて、参考にすることになる。むろん作業量の大小に違いはあるだろうから、作業量の基準となる値(BOQ)を比較する必要がある。BOQというのは、たとえば、テスト件数であるとか、コンクリート打設m3だとか、端末設置台数とか、業務プロセスのシナリオ数とか、そのアクティビティの仕事量を代表する指標である。プログラミングなら、ファンクション・ポイントを用いることも多いだろう。

過去のアクティビティと現在計画しているアクティビティのBOQの比が2倍なら、所要期間も2倍になるだろう、と一応考える。ただし、これでは単純すぎるわけで、実際には投入要員数と生産性で補正して所要期間を計算するわけだ。

ところが、この「過去のアクティビティ実績期間」というのがくせ者なのである。というのも、実はアクティビティの着手時点と完了時点というのは、正確につかむのが案外むずかしいからだ。たとえば、「90%シンドローム」という言葉を聞いたことがあると思う。「プロジェクトの期間の9割で進捗率は90%に達し、その後また同じ期間をかけてようやく100%に達する」(つまり当初計画の1.8倍の期間がかかる)という、ジョーク混じりの法則である。どんな仕事でも、最後の詰めの部分は効率がわるい。だから、アクティビティの進捗率のグラフを描くと、「Sカーブ」になって最後はかなりなだらかな上昇になる。

全体の90%まではすんなり到達するが、最後の10%にずっと時間がかかる理由は、二つある。一つは、「100%地点」が正確に見えていなかった、というケースだ。製品開発の基本設計とか、情報システムの要件定義などの“ソフトな”仕事では、よくある。しかし、もっとしばしばお目にかかる理由は、仕事も9割を超えると、むしろ「残存問題箇所の修正モード」に入るからだろう。これはソフト的か、力仕事的かにかかわらず、起こりうる。ほぼ終わりが見えた時点で、ふつうは残件リスト(英語ではPunch Listとよぶ)を作成し、それをつぶすモードになる。この残件つぶしに、思ったより時間がかかるのだ。だから、「実質的に終わり」の時点と、「公式に終わり」の時点にかなりの開きが出てしまう。

期間がとらえにくいもう一つの問題点は、着手時点にある。プロジェクトの上流側の作業が遅れている場合、下流側の担当者は、しばしば「できるところから先に手をつけて」準備作業に入ることが多い。上流側が終わっていないので、下流側で手をつけられる箇所は当然限られている。だから、チョロッと手をつけては待ちになり、またちょっとやっては待ちになる。こうして生産性の上がらない期間が最初にできてしまう。あるいは、TOC理論で言う「学生症候群」で、最初はサボっていて、タスクの締切近くにならないと真剣に作業しない、というケースだってあるだろう。

このように、過去の実績期間データというのは、案外そのままは使えないものが多いのだ。それでは、どうするか?

ここで使うテクニックが、「中点で測る」方法である。アクティビティのBOQの50%を達成した時点を、マイルストーンとして内部管理用に記録しておく。そして、マイルストーン間の期間を比較の尺度としてつかうのである。むろん、期間の半分の時点を記録するのではなく、達成率50%になった時点を記録するのである(いわずもがなと思うが、念のため)。

このようにすると、先行して着手したり、あるいは最後のダメ詰めで時間をとられたりした際の影響を受けにくい。いわばSカーブの傾斜の大きなときに測るわけであり、精度も比較的ぶれない。複数のプロジェクトを比較するときも、50%時点を中心に並べると見やすく、分かりやすい。

無論、このためには、作業量見積の基準となるBOQをうまくみつけておく必要がある。人間の標準作業や生産性評価が重要となるのは、このためなのである。
by Tomoichi_Sato | 2009-02-06 23:29 | 時間管理術 | Comments(0)

Web連載記事のお知らせ

技術評論社のWebマガジン「エンジニア・マインド」に、連載「タイム・マネジメントの心得」第9回 『進捗をはかる』を掲載しました。どうぞご覧ください。
by Tomoichi_Sato | 2009-01-18 15:27 | 時間管理術 | Comments(0)