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お知らせ:ITmedia/MONOistに 『日系企業が国内生産にこだわるべき理由』を公開しました

製造業の技術者向けコンテンツを配信しているWebメディア「ITmedia/MONOist」に、生産の海外展開と工場立地に関する連載記事(4回シリーズ)の第4回目を公開しました。

最終回の今回は、日本企業はもっと「工場立地としての日本市場」を大切にすべきだ、という理由について、あらためて解説しました。

・海外展開でもうかる企業は一部だけ!? 日系企業が国内生産にこだわるべき理由
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1410/16/news005.html


本シリーズは、TPMコンサルタントとして海外で長らく活躍してこられた、田尻正治氏との共著です。
工場の立地問題に関心のある読者の方々のご来読をお待ちしております。

参考:

<第1回記事>
生産の海外展開に成功するカギ――工場立地を成功させる20の基準とは?

<第2回記事>
「工場立地」面から見たアジア各国の特性と課題

<第3回記事>
実は穴場!? 製造業が米国に工場を設置すべき8つの理由とは


日揮(株) 佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2014-10-16 21:30 | 工場計画論 | Comments(0)

お知らせ:ITmedia/MONOistに『実は穴場!? 製造業が米国に工場を設置すべき8つの理由』を公開しました

製造業の技術者向けコンテンツを配信しているWebメディア「ITmedia/MONOist」に、生産の海外展開と工場立地に関する連載記事(4回シリーズ)の第3回目を公開しました。

今回は、日本企業の工場進出先として実は非常に適地であるアメリカについて、解説しました。

・実は穴場!? 製造業が米国に工場を設置すべき8つの理由とは
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1409/08/news003.html

このシリーズは、TPMコンサルタントとして海外で長らく活躍してこられた田尻正治氏との共著です。
工場の海外展開に関心のある読者の方々のご来読をお待ちしております。

参考:
<第1回記事>
・生産の海外展開に成功するカギ――工場立地を成功させる20の基準とは?
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1406/16/news003.html
<第2回記事>
・「工場立地」面から見たアジア各国の特性と課題
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1407/17/news002.html


日揮(株) 佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2014-09-09 22:41 | 工場計画論 | Comments(0)

お知らせ:「ITmedia/MONOist」に、生産の海外展開に関する第二回記事を公開しました

製造業の技術者向けコンテンツを配信しているWebメディア「ITmedia/MONOist」に、生産の海外展開と工場立地に関する連載記事(4回シリーズ)の第2回目を公開しました。
意外と知られていない、アジアの工場立地先としての社会背景と、これから先の進出のねらい目の国について、大胆に解説しています。

・「工場立地」面から見たアジア各国の特性と課題
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1407/17/news002.html

このシリーズは、TPMコンサルタントとして海外で長らく活躍してこられた田尻正治氏との共著です。
工場の海外展開に関心のある読者の方々のご来読をお待ちしております。

参考:<第1回記事>
・生産の海外展開に成功するカギ――工場立地を成功させる20の基準とは?
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1406/16/news003.html


日揮(株) 佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2014-07-19 15:31 | 工場計画論 | Comments(0)

お知らせ:Webメディア「ITmedia/MONOist」に、生産の海外展開に関する記事を書きました

主にエンジニア向けのコンテンツを配信しているWebメディア「ITmedia/MONOist」の依頼で、生産の海外展開と工場立地に関する連載記事(4回シリーズの第1回目)を執筆しました。

・生産の海外展開に成功するカギ――工場立地を成功させる20の基準とは?
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1406/16/news003.html

TPMコンサルタントとして海外で長らく活躍してこられた田尻正治氏との共著です。
工場の海外展開に関心のある読者の方々のご来読をお待ちしております。


日揮(株) 佐藤知一
by Tomoichi_Sato | 2014-06-24 07:28 | 工場計画論 | Comments(0)

超入門:上手な工場見学の見方・歩き方

先週は、「生産革新フォーラム」恒例の工場見学会だった。生産革新フォーラムは中小企業診断士を中心とした集まりで、Manufacturing Innovation Forumという英語の頭文字をとり、略称『MIF研究会』とか『MIF研』ともよばれている(診断士の資格を未取得の会員もいる)。わたし自身、10年以上前からの古参の会員で、2年前には会員同士の共著で“JIT生産”を卒業するための本―トヨタの真似だけでは儲からない」を一緒に出版した。

この研究会の特徴は、年に2回の工場見学をずっと実行していることだ。これが非常に面白く、また勉強にもなる。工場というのは、複雑で大きな、生産のためのシステムである。この「システム」は、製造のための機械設備と、人の組織と、収納する建物と、そして様々な情報系から成り立っている。その中を、製品や部品や資材が行き交っている。そして、どこにも必ずオペレーションの工夫がある。画家が先輩達の絵を見て勉強するように、システムをつくる仕事をする者も、他のシステムをいろいろと見たほうがいい。そういう気持ちで、これまでもなるべく工場見学に参加してきた。

先週は、北関東にある自動車メーカーF社の工場と、ほかにもう一社、化学系の工場を見学した。自動車メーカーF社はもちろん大企業で世界的にも知られているが、日本の自動車業界の順位では、下位の方である。しかし、行ってみてわたし達は率直に驚いた。とてもレベルの高い、良い工場だったからだ。業界トップのT社が資本参加しているが、いわゆるT社式の工場とも違う。まさに、「百聞は一見にしかず」である。働いている人たちもきびきびして、熟達を感じさせる。「これだったら、次の車はF社を買ってもいいな」と帰り道に言っていたメンバーもいたくらいだ。

MIF研の工場見学では、通常は会員の誰かによる紹介で、生産管理関係の方に案内してもらい、最後に質疑討論する形をとる。ところが今回のF社の工場見学は、あいにくF社にビジネス・ルートがなかったので、まったく普通の一般見学ルートで行った。そのため、小学生向けの紹介ビデオを見て、小学生と同じコースを歩く。説明も、広報係の若い女性による一般向け説明で、製造や技術に関する質疑はできなかった。それでも、終わった後の総括をかねた飲み会では、生産方式や在庫やレイアウトのうまい点に関し、活発な評価が行われた。それは、参加した会員の多くが、プロのコンサルタントとして『工場の見方・歩き方』を身につけているからだ。

工場の見学は誰にでもできる。見て、“すごいなあ、きれいだなあ”と感心するだけなら、小学生だってできる。しかし、見るべきところを見抜くには、ある程度のコツがある。そこで、今回はそんな先輩たちのプロのノウハウを、一緒にちょっぴり勉強してみよう。

上手な工場見学には、三つの柱があるようだ。事前に調べる、目に見えるモノを見る、目に見えない事(コト)を見る、の三つだ。順に説明しよう。

(0) 事前に調べる

工場に行く前に、まず下調べをする。これが基本である。TVや雑誌のインタビューと同じだ。相手に会ってから、「あんた誰? 職業は?」では話にならない。

下調べのためには、ホームページなどで製品カタログをまず見る。何を作っている会社なのか。品種は多いのか少ないのか。生産量はどれくらいか。つぎに、財務諸表や年報(アニュアル・レポート)類をざっとチェックする。これもたいていの企業は、ホームページに載せている。売上はどれくらいか、利益は出ているのか、業績は伸びているのか、社員数はどれくらいか。このように、数値で会社の概要を客観的につかむことが大事だ。とくに製造原価報告書は重要な参考資料である。

しかし、数字だけでは会社の個性までは分かりにくい。それを補うために、その会社に関わるニュースなどもチェックすると良い。こうして、その企業の立体像が、少しずつ頭に入ってくる。

(1) 見えるモノを見る

次は文字通り、見学である。大手企業の工場は、外来者向けの見学ルートなども整備していることが多い。だが、工場に入る前から見学ははじまる。立地はどこか。なぜその土地その街なのか。高速インターや鉄道や港など物流面のアクセスはどうか。そして、敷地の広さや、敷地の使い方はどうか。

工場見学は、基本的に原料受け入れから製品出荷まで、モノと工程の流れに沿って順番に見るのが原則である。工場全体のレイアウトの中に、この流れが整然と、かつよどみなくできあがっているかどうかが、工場のレベルを見る大事なポイントだ。中間部品の倉庫が、敷地のへんな端っこに位置していたら、その工場では、何かの事情で想定していなかった中間在庫が常時発生している可能性がある。あるいは、そもそも設計思想が混乱していたのかもしれない。

そして工場建物を見る。デザインのきれいさを、見せる側はアピールするかもしれない。もちろん大事だ。誰だって、きれいでカッコいい職場で働きたい。しかしプロは別のところを見ている。平屋なのか多階層なのか。天井高はどれくらいか。空調はきいているのか。縦の物流動線や、床の耐荷重は。

もちろん、製品も見る。どこの工場でも、一番見せたがるのは製品である(とくに消費者向けの製品を作っている会社はなおさらだ)。F社でも、ここの展示は念入りで立派だった。なるほど、すごいですね。などと口では答えつつ、「この製品はどれくらいオプションやバリエーションがあるんだろう。需要は季節性があるのかなあ」と考えたりしている。

製造のための機械も、工場の自慢の一つだ。とくに最新型で、高速で、自動化されていればいるほど、作り手はうれしがって説明してくれる(でも、本当にそんな大量生産が求められているのかと、ひそかに疑ってみる姿勢も必要である)。自動車工場の場合、最終組立(トリム)ラインと、ボディ・ショップの溶接ラインを見せることが多い。とくに溶接は複数のロボットが自在に動き、火花が飛び散ったりして、派手だからだ。なんとなく、素人にも「工場を見た」気にさせる。F社の工場では、溶接の前のプレス工程まで見せてくれたので、ちょっと驚いた。感心したのは、ボディ・ショップでの多数の溶接用ロボットの、配置上の工夫だった。

人の数と、制服も目立つ要素だ。活気を持って働いているかどうか。若い人や女性はどれくらいいるか。大事なポイントである。また、倉庫もちょっとのぞいて見たい場所である。どれだけ部品があるのか。どう保管・格納されているのか。モノにはつねに現品票やバーコードが貼付されているか。倉庫を見ると、その会社の管理レベルが透けて見えてくる

さらに、プロは治具を見る。治具とは、モノの製造や加工・運搬作業を助けるちょっとしたツール類だ。気の利いた工場は、こうした治具をいろいろと工夫して、作業者の負担やミスを減らしている。また、工場内のあちこちにある掲示板も、人々に何をどう伝え、どう動かそうとしているか、コントロールの仕方を見るのにとても参考になる。

(2) 見えないコトを見る

見えるモノを徹底的に見るのが中級者なら、見えないコトを見抜くのが上級者である。正直に告白しておくが、わたしもまだこのレベルにはなかなか達していないと思っている。

でも、熟達者は、たとえば製造指図や製造報告などの『情報』が、どういうタイミングで、どう動いているかをたずね、それと工場内のモノの動きとの連動性を目で追っている。そして、「この工程はロットサイズが必要以上に大きいな」と、ぼそっとつぶやいたりするのである。

欠品という現象も、目に見えないが重要なポイントだ。欠品表が現場に貼り出されていればまだしも、たいていはそんなものはない。ただ、何となく、組立工程に、途中まで組み上がった半製品と、その周囲に部品類が雑然と放置され、そして近くに人がいない、といった状況があれば、それは欠品で手待ちになったな、と想像がつく。だったら部品が全部そろってから配膳すればいいのに、とか、補給作業は製造と分業されているかな、などの疑問がわいてくる仕掛けだ。

在庫レベルのコントロールも大事である。たとえば自動車工場では、上流のプレス工程は金型によるロット生産である。ところが最下流の組立ラインは、複数製品の混流であり、順序計画に従った一個流し(一車流し)である。当然、どこかの中間段階で、ロットと個別品種をつなぐバッファー在庫が発生する。自動車工場はこれをどこにどう置くかが全体のシステムを考える上で肝になる。F社では、プレス工程の後にある程度、この在庫ポイントをおいているようであった。では、どれくらいあるのか? というわけで、実際に目でパレット数を勘定してみたメンバーがいて、あとで一日の生産量から割り返して、何時間分の在庫量になるかを分析した。

安全・衛生レベルも、最後になったが、もちろんとても大きなポイントだ。結局、これが職場で働いている人たちのやる気を維持するわけだし、退職が少なければ技術・技能の蓄積も効果を上げやすい。


・・といった訳で、F社の工場についてはなかなかの高評価になった。本当は、技術者と質疑できればもっと正確な理解が深まったろうが、見るだけでも、かなりのことは分かるのである。

MIF研究会では、昨年は慶応大学の管理工学科の学生さん達と合同の工場見学も行った。これも楽しい試みだったと思う。みな優秀な学生ばかりだったが、やはり工場を見るのは慣れていない。プロの見方が刺激になったはずである。他方、学生の中には素人なりに鋭い質問をするものもいて、研究会メンバーが逆に感心する場面もあったくらいだ。こういう、年齢層や職業をクロスオーバーした見学会もいいものである。

工場見学は非常に面白い。無論、あまり多くの人が関心をもつことではないし、ふつうレジャーや趣味で行うものでもない(例外として、『工場萌え』マニアという人たちも存在するが)。しかし、繰り返すが、工場というのは複雑で巨大なシステムの、一つの極致である。良い工場を見ると、“いいものを見たな”という豊かな知的満足感がある。製造の仕事に関わる技術者は皆、もっと上手な「工場見者」になるといいと、わたしは思う。


<関連エントリ>
 →「工場見学ほど面白いものはない - K歯車工業に学ぶ」
 →「工場見学ほど面白い物はない
by Tomoichi_Sato | 2014-04-16 19:35 | 工場計画論 | Comments(4)

なぜアメリカに海外工場を展開しないのか?

デンバーでの仕事を終えたわたしは、テキサス州ヒューストンに向かった。最近開設したばかりの新しいオフィスで、グループ企業の幹部と打合せするためだ。全米のOil & Gas業界のメッカであるヒューストンは現在、非常な好景気にわいている。もちろんシェールガス革命のおかげである。米国の経済状況はまだら模様で分かりにくいが、少なくともエネルギー関係の産業は活況であり、そのためプラント系エンジニアも人手不足状態になりつつある。

シェールガス革命については、いろいろな事がいわれているが、的外れな解説も日本ではときどき見かける。Oil & Gasの分野の用語や技術が、分かりにくいからだろう。当サイトで1年ほど前に『シェールガス革命と、エネルギー価格のゆくえ』とう記事を書いたが、その後の情勢などは、いずれ項を改めて書こうと思う。しかし今回は、別のテーマである。それは、なぜ日本の製造業は、海外に工場展開を考えるとき、中国だとか東南アジアばかりに目を向けて、アメリカを考えないのか? という率直な疑問だ。

これについては、昨年の夏に、わたしの属する「生産革新フォーラム」(MIF研)で、米国の製造業に詳しいTPMコンサルタントの田尻正治氏をまねいて講演いただいたときにも、感じたことだ。そのときは、米国視察から戻ったばかりの本間峰一会長もいたので、ちょっとしたミニ・シンポジウム風の議論になった。日本の製造業の海外展開については、本サイトでも何回も書いてきたが、工場作りのプロの目から見ると、疑問を感じることも少なくない。

最近は何やら経済団体がメディアと組んで、「グローバル戦略うんぬん」のタイトルのもと、セミナーを開いて中堅中小の経営者を集めては工場の海外移転をあおり、それに官庁がお金をつけたりする光景も見受けられる。経済メディアは客さえ集まればそれでいいのかもしれないが、ブームやムードや流行のバズワードを追うだけではなく、少しは多面的な分析報道もしてほしいものである。

多面的とは、どういう意味か。それは、工場経営から見た立地論の多面性である。かりに、ある企業にとって、国内の工場のメリットが落ちてきて、生き残りや成長のため海外に工場展開を考えたとしよう。では、工場立地を選ぶのに、どういう評価の観点があるのか。自社の生産拠点を一つ作るのである。「人件費が安いから」「主要取引先の大手企業に促されたから」「周りがみんな出て行くから(=バスに乗り遅れたくなくて)」などの理由だけで決めるべきことではない。自分の車を買うときだって、値段だけでなくスピードや排気量や加速性や燃費やデザイン、サイズ、居住性まで、様々な評価軸を比較しながら決めるではないか。自宅を買うのだって、広さ・値段の他に周辺環境、通勤の距離、交通利便性、教育環境etc.を考える。生産拠点だって同じである。

たとえば、誰もが真っ先に考える(らしい)人件費について見てみよう。JETROが毎年行う「アジア主要都市・地域の投資関連コスト比較」の昨年の結果が、雑誌『ジェトロセンサー』(2013年5月号)に出ている。わたしはその中のあるグラフを見て驚いた。マネジャーの月額基本給の国別比較で、香港・シンガポール・ソウルなどはすでに一部で那覇を抜き、横浜に迫っているのである。製造業と非製造業で多少の差はあるが、3,000〜4,000ドルのラインを超えてきている。ちなみに「マネジャー」は営業担当課長クラスを指す。つまり、中間管理職層の人件費はもう日本を追い抜きつつあるのだ。(念のために書くが、この調査は2013年1月時点で、このときまだ1米ドル=91円だった。今の換算レートではさらに15%近く上がっているはずだ)

もちろん、作業員(一般工)の基本給ではまだまだ差は大きい。横浜が月額3,300ドルに対して香港・ソウルでも1,600〜1,700ドル程度だから半分だ。だが、工場という仕組みは、一般工だけで回るものではない。工場がきちんとシステムで動くためには、ちゃんとしたマネジャー層が絶対に必要である。その人件費が日本に迫っているということは、日本企業の給与体系ではもう、この先、良いマネジャーを雇えなくなることを意味する(日本の本社の管理職よりも高い給料を、現地の同じ等級の社員に喜んで払える企業は少ないだろう)。自立した生産拠点として機能していくためには、自社の管理職の給与体系も再考する必要がある。

管理職は日本から派遣するからいい? そうはいかない。駐在員用住宅借上料は、中国の各都市を含め軒並み月額2,000〜4,000ドルである。日本人の給料がちょうど倍になる勘定だ。事務所賃料も、香港は別格に高く、また北京・上海・大連・ソウル・シンガポール・ハノイ・ヤンゴン・ムンバイ、いずれも横浜を抜いている。一般用電気料金も、「日本は世界一高い」と言われているが、データを見ると、高い都市は日本並みに高い。電気の供給品質の差を考えたら、日本の方が安いくらいだ。(もっとも製造原価に占める電気代の割合は、4つの特別な業種を除くと、そもそも小さなものだ。だから、原発を止めると電気代が高騰して、日本の製造業が空洞化するというのは、データから見る限り誇張だろう)

少し話を戻すが、工場立地を考える際の評価軸は、決して労働者人件費だけでないことは分かっていただけただろう。ちょっと考えただけでも、以下のような項目があげられる:

A 人間の能力と資質
(1) マネジャー (2) エンジニア (3) 労働者
B 組織力とビジネス文化
(1) 社内教育 (2) 新しいことへの信任 (3) 転職(ジョブ・ホッピングの程度)
C コスト項目
(1) 土地代 (2) エネルギー価格 (3) 原料資材価格 (4) 水の価格(水の質的・量的供給水準も含む)
(5) 物流費 (6) 駐在生活コスト (7) 給与水準
D その他外部環境
(1) サプライチェーン (2) 治安(政治的安定を含む) (3) 通貨の安定性・通用力

これらの項目のどれが重要で、どこにウェイトを置くべきかは、その企業の業態と、とるべき戦略によって当然異なる。一概に他人が決められるものではないし、当然、他の会社がどうやっているか、は関係ないことだ。

それでは、上記の項目について、アメリカという国はどうなのか。田尻氏の意見や、わたし個人の経験などからまとめると、以下のようになる。

A 人間の能力と資質」であるが、アメリカのエンジニアは概して真面目かつ理詰めなタイプが多い。彼らの特徴は、論理的説明+成果を見せることで、自分から動くようになることだ。この点、日本の技術者は優秀だが職人気質であり、残念ながらしばしば頑固でチャレンジや変化を嫌う。中国・東南アジアは、優秀なエンジニアとそうでない者の落差が激しいが、まだ全般的には日米のレベルには追いついていない。

労働者については、アメリカの労働者は機械さばきが上手である、という特徴がある。これは少し意外だろうが、田尻氏によると米国の労働者は農家出身者が多い。そして、あの国の農家は車でも農機具でも、自分で直しながら使うのが常識であり、DIYセンスのかたまりなのだそうだ。日本や他のアジアの国では、労働者は手先が器用だが、そのかわり機械にはやや弱い。マネジャーの資質・能力の差については、ここでは論評を控えておこう。もちろん、日本が世界で最優秀(笑)なはず、である。

B 組織力とビジネス文化」であるが、米国企業文化の特筆すべき点は、新しいことを積極的に試そうとする意欲が高い点だ。つまりイノベーションのポテンシャルが高いのである。日本は、率直に言って、「ブランド信仰」「横並び志向」のようなものが強く、挑戦よりも失敗を避けることが優先されるきらいがある。

転職についていうと、意外に思われるかもしれないが、アメリカの製造業では日本で思われているほど簡単には転職しない。同じ企業で10年、20年働き続ける人が多く、それこそ親父や祖父の代から同じ職場で働いている、という人だっている。もちろん変転の激しい金融業界・IT業界などではホワイトカラー層に転職も多いが、少なくとも中国や一部の東南アジアのような、労働者の激しいジョブ・ホッピングに悩まされる国柄ではない。その分、社内訓練の蓄積効果も高い。もちろん、アメリカはルールとシステムで仕事を動かす国であって、日本のような手厚い社内教育は必要ない。(そのかわり、きちんとルールとシステムを設計しないと会社は回らない。日本人得意の、すり合わせと浪花節とあうんの呼吸では、組織は動かぬ)

C コスト項目」についていうと、土地代、エネルギー価格、物流費いずれも、日本に比して圧倒的に安い。資材は種類にもよるが日本よりはおおむね安い。金属素材・化学品などはいずれにせよ国際相場で決まるわけだが、水も豊富で質が良い(ユーラシア大陸は水質は良くない)。駐在生活のコストも、アジア諸国に比べてひどく高いわけではない。むしろ、日本人子弟の教育のことを考えると、総合的には安いかもしれない。

たしかに人件費の給与水準を比べると、労働者もマネジャーも、日本同等か、あるいはそれ以上かもしれぬ(とくに最近の円安状況では)。ただし供給力は大きい。そして、アメリカのマイナス点はほぼここだけである。「D 外部環境」としての治安の良さ、サプライチェーン面(市場の大きさと近さ)、基軸通貨の力、そして上記A, Bにあげた項目などを考慮すれば、全体にはかなりプラス点が大きいことが分かる。

労働者の賃金についていえば、製造原価報告書のうち、どれだけが直接労務費であるかをまず、考える必要がある。というのは、製造業の総合的な労働付加価値生産性は、労働装備率(一人あたりの生産設備資産)にかなり左右されるからである。たとえばシェールガス革命を見れば分かるとおり、エネルギーや化学は典型的な「装置産業」であり、労務費比率は小さいから、米国で十分ペイするのである。

ちなみにアメリカ立地に向いている業種として、田尻氏が指摘していたのは、自動化・機械化の進んだ産業であり、具体的には以下のようなものだった:

 半導体、ガラス、機械部品、鋳物、テキスタイル(紡績)、食品、医薬品、化学など

逆に、向かない業種だってある。たとえば、縫製、電気製品最終組立など、労働集約的な工場である(こうした産業は、すでに米国から外に出てしまっている)。

いうまでもないが、わたしは何もアメリカが全て良く、中国や東南アジアがだめだと主張してるのではない。工場の立地戦略は、きわめて総合性の高い、多面的な観点から検討すべきことである。それは流行や促しで決めることではなく、各社それぞれが熟考して決めることだ、と言いたいまでだ。何よりも、事前の十分な情報収集が大事である。必要ならば、それを助ける専門家や、支援する公的仕組みなども存在する。そして、イメージや偏見にとらわれずに、総合的・多面的に分析すること。それこそが経営の仕事ではないか。

あるいは、熟慮の結果、やはり日本にとどまるのが最善だという結論になるならば、それでももちろん良い。誰でも、自分で決めて自分で結果を引き受けるのである。それが自由経済というものだ。そんなことを、テキサス南部のだだっ広い平地を走りながら、わたしは考えていた。


<関連エントリ>
 →「シェールガス革命と、エネルギー価格のゆくえ
 →「工場計画論(1) 立地論--工場はどこに行くのか
by Tomoichi_Sato | 2014-04-06 23:20 | 工場計画論 | Comments(0)

哀しい工場。

もう何年か前のことになるが、金融機関系の経営コンサルタントの知人から依頼されて、小さな工場を見に行ったことがある。知人は経営面の数字を見て提案の骨子を作ろうとしていたが、製造現場にもいろいろ問題がありそうだと感じたらしい。ただ化学系の工場は不得意なので、プラントもよく知っているわたしに手伝ってほしい、とのことだった。年商数十億の小規模工場なので、わが勤務先の仕事につながる可能性は少ないかとも思ったが、出かけることにした。

住宅地にほど近い県道沿いに、その工場はあった。敷地内に数棟の工場建屋がたっている。その一棟の中にある事務室にわたし達は通された。副工場長や製造課の方々から、まずどんな製品を作っているのか、どんな工程から製造されるかの概要を教えてもらい、それから工場を一巡りする。これはどこの工場を見学する際も同じである。ただ、そのときの「一巡り」の順路が、最初のポイントになる。工場全体の分かりやすい配置図があって、工程の順番どおりに見せられるかどうか。複数の製品ファミリーがある場合(日本の製造業はどこも多品種少量生産を強いられるため、たいていそうなる)、製品別にブロック化されているのか、それとも設備・工程別か。また上下階はどう使い分けるか。こうした点に、生産マネジメントの設計思想が現れるからだ。

残念ながら、この工場の設備配置はばらばらで、製造の動線があちこちで交錯していた。土地代の高い日本の工場はどこも、多層階の建物の中に設備・装置をおしこめなくてはならない。化学工場は工程間が密結合で、配管がメインの輸送手段だから、装置のレイアウトが経済性に大きく響く。だがここはたぶん、業容拡大期になりゆきで建物を増設し、製品種類の拡大とともに装置を入れやすい場所に据え付けた、という感じだ。しかしもっと驚いたのは、製造作業環境だった。製品性状にきびしいはずのファイン・ケミカル材料を、蓋のない攪拌槽の中で作っている。しかも部屋を気密にし空調をコントロールしている訳でもないので、窓から埃が飛びこんできてもおかしくない。品質問題はありませんか、と聞くと、「それが悩みなんです」との答えがかえってきた。

品質もさることながら、労働安全面も相当なものだった。無機化学で、個体や粉体、強酸などを扱う工場なのに、作業台の高さと搬送台車の高さが合っていない。人がかがんで手で持ち上げている。あれでは腰が辛そうだし、こぼす危険性だってある。中でも一番驚いたのは、強酸性流体の配管が、人の行き来する場所の真上を、ろくな支持もトレーもなしに通っていたことである。配管材の摩耗で中身がリークしたらどうするのか? 今どき、21世紀の日本にこんな工場がまだあるなんて信じられない。見学を終えて事務室に戻ったとき、思わずため息をついてしまった。

まあ、建物の配置自体は変えようがないにしても、物流動線を整理し、空調もきちんとし、適切な装置や治具を考案すれば、多少時間とお金はかかるだろうが、おそらく生産性は10%近く上がるにちがいない。比例して製造コストも下がり、利益もまた出てくるだろう。化学会社出身の、自営コンサルタントの先輩を紹介して、少し地道にやってもらうことにしようか。そう考えて、見学後の質疑応答にのぞんだ。

製品種類や需要の動向、従業員数などの話がすんで、わたしに順番が回ってきたとき、いつもの質問をした。「代表的な製品の製造リードタイムを教えてください。それと、原材料・中間品・製品の在庫量はそれぞれどれくらいありますか?」

いうまでもないことだが、製造リードタイムと在庫量は表裏の関係にある。受注生産の会社では(中小下請製造業はほぼ全て繰返し受注生産型である)、顧客がリーズナブルな納期を与えてくれる限り、基本的に製品在庫はゼロになる。『リーズナブル』とは、製造リードタイムよりも長い納期、との意味だ。仕込みから仕上げまで1週間かかる製品を、電話で「明日持ってこい」という顧客ばかりが相手なら、最低でも1週分の製品在庫を持たなければ、商売はやっていかれない。では、納期を1週間くれる顧客ばかりなら在庫ゼロになるかというと、そうではない。多品種を切り替えて作っている場合は、注文が来ても装置が空いていないことも多いからだ。でも、1週間で製造できる製品の在庫が、2ヶ月分も3ヶ月分もあるとしたら、何かがおかしいことになる(たぶんロットサイズが大きすぎるのだ)。

また原材料在庫について言えば、原材料の手配から納入までのリードタイム分は、常備しておくのが基本である(そうしなければ途中で品切れが生じる)。ただ、たまにしか使わず、納入が早い原材料は常備せずに都度の手配で良い。何を常備し、何を都度手配にするか。原料でおいておくのか途中まで加工して中間品としておくのか。ロットサイズをどうするのか。こうした事項には、需要(販売)の『読み』と生産の『決断』が必要になる。つまり、ちょっと大げさに思われるかもしれないが、リードタイムと在庫量を質問することは、生産マネジメントの基本方針を問う事なのである。

ところで、この会社の回答は、「在庫量と原料価格についてはお答えできません」だった。それは親会社からの指示らしかった。親会社は専門商社で、できた製品の営業・販売も受けもっている。ここは製造子会社で、言われたモノだけを言われたとおり作っているのだ。そればかりではなく、重要な原材料(貴金属の一種)の購買も親会社が取りしきっているらしい。相場商品だから秘密、という訳なのだろう。

しかし、原価構成が大まかにでも分からなくては、コンサルティングはやりようがない。コンサルティングとはつまり、問題解決の手伝いであり、問題の優先順位の整理だからだ。本案件は結局、仕事にはならなかった。

一般に、日本の製造業の苦境を批判する人は、まず経営者の資質を問題にすることが多い。つまり、"Who"の問題である。それから、魅力ある製品を開発できないことを指摘する。"What"の問題である。しかし、わたしには、あの実直そうな副工場長の人材の問題だとは思えなかった。あの人は、親会社から派遣されたトップの指示どおり動いているだけだ。同時に、この会社はそれなりにファイン製品を開発している。技術開発部門には、大卒の良い人材を一応つぎ込んでいるのだろう。WhoやWhatの問題ではない。評論家たちの製造業への批判は、あとは立地、つまり"Where"の問題だろうか。こんなに円高では海外に出るしかないはずだ、と。でも、この会社の顧客はすべて国内であり、安い輸入品と競争させられているのでもない。

Who(経営者)もWhat(新製品)もWhere(立地)も、かなりマクロな問題である。しかし、たいていの工場の中核問題は、生産マネジメントというミッド・スケールにある(『問題はミッドスケールのシステムで生じる』参照)。それは、ものをどう作るかという"How"の問題である。どう作るかと言っても、製造手順やレシピのことを指しているのではない。どう需要を予測し、何をどれだけ手配し、いつ、どれくらいのロットサイズで作り、どこにどうやって運び保管するのか、という問題だ。このHowの上手下手だけで、原価は5%くらい変わるだろう。何よりも、Volatileな需要の変動に対する追随性や安定性が向上する。ただなりゆきでモノを作っていても製造業は一応なりたつが、外部環境が変化したらひとたまりもない。

ただ、こうしたミッド・スケールの構造と能力は、直接は見えにくく、測りにくい。それは最終結果として、リードタイムや在庫量、あるいは労働災害統計や離職率といった数値にあらわれてくるのみである。工場を見学するとき、これら数値が大事なのはそのためだ。

昨年の震災の時、この工場は大丈夫だったのだろうか。働いている人たちの頭の上から危険な液体が降り注いだりしなかっただろうか? 操業停止するような大きなダメージは受けなかっただろうか。働いている人たちはみな、真面目そうな方ばかりだった。危険な職場とはいえ、急に仕事がなくなったらもっと困るだろう。わたしが他所でこんな心配をしても、何の役にも立たないことは知っている。しかし、経営者がミッド・スケールのマネジメント構造を等閑視し、「新製品」や「相場」や「リーダーの人材」だけが利益の源泉であると信じている企業なら、そこが工場であろうとなかろうと、じつは誰もが同じ問題に直面しているのである。
by Tomoichi_Sato | 2012-03-18 19:05 | 工場計画論 | Comments(0)

工場計画論(6) ディスクリートとプロセス--製造業の分類学

何年も前のことになるが、電子調達のサイトの仕事をしていたときに気づいたことがある。それは、「物品が先か、仕様が先か」という問題だ。ちょっと抽象的で、分かりにくい問題設定だとは思う。というのは、まずモノが現実の中に存在していて、それに属性がある、という風に、たいていの生産管理や販売管理のシステムでは考えている。そして、それを表現するために、「品目マスタ」とか「マテリアル・マスタ」という技術データ管理のマスタファイル(データベース)を実装しているのが普通だからだ。

ところが、いざ調達管理の分野に関わってみると、奇妙なことに気づく。いわゆる電子商取引のためのサイト(Amazon.comみたいな)には、電子カタログの機能が必須である。カタログを開けて、消費者がほしい商品を注文する、みたいな仕組みだ。ところが、こうした仕組みは、本だとか家電製品、化粧品だとかいった見込生産の消費財には、まあ適しているが、生産財の世界に踏み込むと、とたんにうまくいかなくなるのだ。

たとえば、コンデンサだとかフランジだとかいった、工業規格で決まっている汎用品は、まだしも製品カタログの仕組みに載せることができる。ただしカタログ数がやたら膨大になるきらいはある(『工場見学ほど面白いものはない - K歯車工業に学ぶ 』参照のこと)。しかし、これがケーブルだとかシートだとかいった「切り売り」する材料の場合、さらに工業用ガスや燃料油といった液状製品になると、次第に始末に負えなくなる。こうした製品は、三つのやっかいな特性を持っている。第一に、規格がブロードで、特性にいろいろな幅があること。第二に、異なる製品を簡単に混合できてしまうこと。そして第三に、購入量によってボトルやボンベといった荷姿が変わることだ。

生産財の調達はB2B(Business to Business=企業対企業)取引で行われる。多くの場合は、ユーザすなわち購入者が、細かな仕様(特性上の要求事項、たとえば純度だの発火点だの粘性など)を指定する。つまり、同じような品目に見えても、顧客の用途によっては適合したりしなかったりして区別が必要になるのである。それでは、性状の異なる製品をタンクの中でまぜちゃったらどうなるのか? おまけに、(ミネラルウォーターを見れば分かるように)1リットルと5リットルでは、まったく別の容器に入っている。これらは、同じ製品なのか、別の製品なのか? もし「同じ」だとしたら、“じゃあ今日は12リットル持ってきてくれ”と注文を受けたとき、どう引当するのか? もし「違う」ならば、“5リットルが在庫にないときは、たとえ1リットルが5本あっても、欠品状態になる”という状況が出現しないか? 

こうした問題を解決するためには、頭の中を切り替える必要がある。売り手の作った「製品のカタログ」があるのではなくて、買い手のほしい「仕様のカタログ」があるのだ、という発想をすべきなのだ。このことに気づいたとき、はじめて私は、ディスクリート系のマテリアル・マネジメントと、プロセス系のそれに、根本的な違いがあるのを理解したのである。

工場を分類する方法はいくつかあるが、その代表的な区分の一つが、「ディスクリート型」と「プロセス型」である。ディスクリート型とは、自動車工場や電子製品工場など、いわゆる組立加工型の工場である。プロセス型とは、化学プラントとか製油所といった、反応と合成を主体とする工場である。だが、その両者の最大の違いは何かというと、非常に単純なこと、すなわち「扱う主要な原材料・製品が固体か流体か」にある。固体ならば、ディスクリート、流体ならばプロセス型になる。

固体と液体なんて相対的なものじゃないか、液も冷やせば固体になるんだし--そう思う人もいるだろう。だが、固体になったら混ざらないのだ。混ざらないということは、属性が固定されるということである。赤ワインと水を混ぜれば、その比率によって透明から赤まで、連続的に好きな色がすぐに作れる。何かマテリアルの種類を特定したければ、その色によって特定するしかない。つまり、固体は「モノに仕様が付属する」のに対し、流体は「仕様がモノを特定する」のである。

ほかにも、固体と流体とでは、ハンドリング上、異なる点がいろいろある。
(1)サイズ(ロットサイズ): 固体ではほぼ決まっているが、流体では決め方は無数に可能
(2)中間在庫: 固体はいつでもストック可能だが、流体はタンク等の特殊設備が必要
(3)製造装置の連続運転: 固体では稼働・休止は自由(モノを自由に置けるため)だが、流体では連続運転が原則(止めるにはパイプの中の流体も全部どこかにはき出す必要がある)
(4)搬送設備: 固体ではAGV等、複雑だが必須ではないのにたいし、流体は配管+ポンプで輸送するため、単純だが必須になる

こうした性質は、工場のプランニング、レイアウト、在庫計画、入出荷計画、生産計画とスケジューリングなど、さまざまの面で根本的な差違を生む。簡単に言うなら、プロセス型の工場は、機械装置間が密結合されているシステムになっている。Aという工程から運び出された流体は、(そこらへんに積んでおく訳にはいかないから)すぐさま下流工程のBに、配管とポンプで輸送する必要がある。両者は、別々に運転するわけにはいかない。だから、制御も集中型になる。

これに対して、ディスクリート型工場は、粗結合のシステムと言えるだろう。加工機械をフロアにぽんぽんと適当に配置しても、それなりに工場としては機能する。なぜなら、A工程で生み出された仕掛品は、すぐB工程に持ち込まずとも、そこらへんに好きに積んでおくことが可能だからだ。

このような特性の違いは、すなわち工場設計論の違いをも生んでいる。プロセス型の工場では、全体が統合されたシステムであるから、システム・エンジニアが基本設計を行う(正確に言うと、プロセス・システム・エンジニアという職種がある)。そして、最初から最適化を念頭において設計していく。これに対して、私がこれまで見聞きした範囲では、ディスクリート型の工場は、システム・エンジニアという職種自体が確立しておらず(IT技術者とは別)、個別の工程が局所最適風につくられてしまう傾向が強いように感じられた。

さて、幸か不幸か、日本の製造業の花形業界(自動車・電機とその周辺)はディスクリート型である。そのためか、日本の工場を見ると、どうも局所最適・粗結合、つまりあちこちにアンバランスと無駄のある設計に気づくことが多い。あそことか、こことかを改善すれば、5%くらいは生産性が上がるだろうになあ、と傍目では思うのだが、ご当人達はベストの努力を尽くしていると信じている(局所最適型のエンジニアはだいたい、そうなりがちである)。

企業では5%生産性が上がったら(あるいは原価が下がったら)、かなり劇的に収益が向上するものだ。せっかくのそのチャンスを、活かせず無駄にするのは惜しいことである。だからといって、ディスクリート型の工場をプロセス型に転換するわけにはいかない(工場の構造は、主要工程の科学技術的制約によって決まるからだ)。でも、せめて、密構造の全体システム設計の視点を持ってほしいものだと、機会があるごとに感じるのである。
by Tomoichi_Sato | 2010-06-23 23:08 | 工場計画論 | Comments(0)

工場計画論(5) BTOと製品アーキテクチャー

前回は生産形態の区分として、「見込生産」(MTS)、「繰返し受注生産」(MTO)、「個別受注生産」(ETO)の3種類について説明した。この3種類を比べると、在庫リスクと納入リードタイムのトレードオフ関係が成立していることが分かる。見込生産は納入リードタイムは最短となるが、在庫リスク(売れ残りや陳腐化のリスク)は最も大きい。その対極にあるのが個別受注生産で、製品在庫は無いし原料在庫も(ほぼ)不要だが、そのかわり受注から出荷までのリードタイムは最長となる。

では、ちょうどいいバランス点はないのか、という疑問に対する一つの答えとなるのが、第4の生産形態=「受注組立生産」である。受注組立生産とは、部品をそろえておいて、客先からの注文が入ると、すぐに組み立てて出荷する生産形態を指す。それって繰返し受注生産とどこが違うんだ、と疑問に思われるかもしれない。違いは、二つある。

第一に、受注組立生産では、サブモジュールないし加工組立を終えたサブアッセンブリの形で、在庫を持っておく。だから注文を受けたら、最終組立工程だけ済ませて、すぐに出荷できる(たいていは1日以内)。一方、繰返し受注生産の場合は、注文を受けてからキーとなる部品の引当手配をかける。サプライヤーからの調達リードタイムが加わるため、どうしても全体リードタイムが長くなる。かりに原材料及びローレベルの部品はすべて常備品として在庫しておいたとしても、加工・組立工程が入るため、やはりリードタイムは受注組立生産よりも長くなってしまう。

この違いはちょうど、昔からの鰻屋と、現代風の食堂のようなものだ。古風な鰻屋は、客の注文をきいてから、鰻をさばきはじめる。それから串をうって、蒸して、焼いて、タレをつけて、丼やお重に盛って、と工程が続く。注文してから出てくるまで3, 40分かかるのが普通だから、客はその間、つきだしと小料理か何かで酒を飲みながら待っている。とおろが現代の客はそんなに悠長ではない。したがって、鰻丼のメニューを出す食堂では、先にさばいて白蒸しにする工程まで済ませ、在庫しておくのである。注文が来たらタレ焼きにして盛付けて、すぐ「お待ちっ」と出せる。この現代風のやり方こそ、『受注組立生産』なのである。

受注組立生産を英語では普通、Assemble to Order=ATOと呼ぶ。受注組立生産は、在庫リスクをある程度抑えながら、短い納入リードタイムを実現できる。Dell Computer社は、このやり方を同社のネット直販方式と組合せ、受注当日出荷・翌日配送(地域によるが)を売り物にして大いに市場シェアを取った。Dell社がこのやり方を、あえてBuild to Order=BTOと呼んで違いを強調したこともあって、今日ではBTOという用語の方が広く普及しているようだ。

先日の「工場見学ほど面白いものはない - K歯車工業に学ぶ」で紹介したK社も、標準歯車に若干の追加工を施した『追加工品』を収益の一つの柱としている。標準歯車は、工場で見込生産して、常時ストックを数千種類持っている。そして、客先からのオーダーにしたがってボスだとか穴あけだとかの追加工を行い、当日出荷する。この「受注当日出荷」の能力を競争力の源泉として守るために、あえてトヨタ系のやり方に固執するJITコンサルタントと喧嘩してでも、受注時間帯の制限を設けなかったというエピソードこそ、BTO方式の価値を象徴している。

現代風の食堂のみならず、カウンター式の鮨屋やラーメン屋の屋台なども、みなBTO方式である。つまりBTOは、「一人屋台生産方式」と非常に親和性が高いのだ。

むろん、古風な鰻屋の場合でも、生きた鰻という原材料だけは、ストックしている。注文を聞いてから、おもむろに川に釣りに行く鰻屋はいない。そういう点では、繰返し受注生産と受注組立生産の違いは、どの段階の部品材料をストックするかの違いとも見える。

そもそも原材料から製品までのサプライチェーンを考えた場合、たとえば鉄鉱石からはじまって、それが銑鉄になり鋼板になり、裁断・折り加工を経て板金の部品になり、さらにそれが組み立てられてパソコンのボディとなり・・という長い連鎖を持つ。このサプライチェーンのうち、最上流は必ず見込生産で進められる(それがたとえば鉄鉱石の採掘である)。一方、最下流は、マーケット・インとマス・カスタマイゼーションが主流の今日、ほぼ確実に受注生産となっている。この、見込(プッシュ型)と受注(プル型)の接合点が、すなわちその部品の最大の在庫ポイントとなる。この点を、「カップリング・ポイント」と呼ぶ(日立製作所の光國氏の命名による)。

だから、古風な鰻屋(繰返し受注生産)と現代風の食堂(受注組立生産)との相違点は、単にカップリング・ポイントの違いだけのように思えるかもしれない。ところが、そうではないのである。なぜなら、両者では、蒲焼きの味が違うからだ。

いや、これは冗談で言っているのでは無いのである。鰻は白蒸しにして置いておくと、時間が経つうちに、風味も歯ごたえも抜けていってしまう。だから、味で比べたら、古風な鰻屋の方が普通はずっと美味しい。

つまり、在庫という行為は、それ自体にいろいろな制約があるのである。だから、繰返し受注生産の在庫ポイントだけ移動すれば、すぐBTOに移行できるかというと、そうはいかないのである。BTOを実現するためには、組立すべきサブモジュールが、在庫可能で、簡単には劣化せず、ひどく場所ふさぎでもなく、かつ種類が無制限に増えない保証がなければならない。

とくに最後の条件は重要である。たとえば、工業用の熱交換器を考えてみてほしい。圧力も、流量も、使用条件も、流体の温度や腐食性も、非常にバラエティに富んでいる。組合せの数をちょっと考えてみても、かるく百万種くらいはいきそうだ。大きさも伝熱能力によって千差万別、数十cmから数十mまでありえよう。そのための主要部品を全部そろえて在庫しておけるか? とうてい無理である。

熱交換器のような種類の製品では、主要な仕様のバリエーションを、限られたモジュールの組合せだけではうまく表現できない。パソコン製造でできることが、熱交換器の製造ではできない。これは、パソコンという製品の設計思想が、そもそもモジュラー化した機能部品の組合せとして出来上がっているから可能なのである。

製品の設計を、比較的少数の単機能型のモジュールの組合せで表現しようという考え方を、『モジュラー型の製品アーキテクチャー』と呼ぶ。これに対して、個別部品の細かなバリエーションの組合せによって表現する考え方を、『インテグラル型の製品アーキテクチャー』と呼ぶ(インテグラルを日本語では「すり合わせ」ともいう)。BTOは明らかに、モジュラー型アーキテクチャーを要求するのである。もし、ある製品をBTO生産形態で作りたければ、その製品アーキテクチャーから考え直さなければならない。これが、繰返し受注生産とBTO(受注組立生産)の第二の、そして一番重要な相違点なのだ。

BTOの工場と、繰返し受注生産の工場とでは、レイアウトがかなり異なる。それは、部品在庫の量や種類や工程の数が違う以上、当然のことだ。“部品表(BOM)を見れば、工場を見なくても、そのレイアウトがだいたい分かる”と拙著「BOM/部品表入門」に書いたのは、このような理由による。もちろん、BOMを見れば、リードタイムもだいたい想像がつく。

より良い工場を計画するためには、製品アーキテクチャーすなわち製品の設計思想まで立ち返って、再検討する必要がある。意外かもしれないが、これが生産システムにおける真実なのだ。だからこそ、設計と生産技術と製造の各部門の間に、お互いに十分な対話が成立するような、闊達な社内マネジメントが大事なのである。
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by Tomoichi_Sato | 2010-03-14 16:03 | 工場計画論 | Comments(0)

工場計画論(4) 4つの生産形態

前回は、「製品(の在庫)をどこに置くか」という話題をかいた。今回は、「原料や部品の在庫はどこに置くべきか」という話を書く。

あれっ? タイトルと話の中身が違うじゃないか--そう思われた方もあるかもしれない。『生産形態』ってのは、すなわち受注生産か見込生産か、という分類だろ? 

だが、これでいいのである。生産形態とは、「在庫を何の形で、どこに用意しておくのか」という問題に対する対処方法の種別に、一対一で対応しているからだ。

議論に入る前にまず、理解しておいてほしいことがある。生産システムとは「需要情報というインプットを、製品というモノ(あるいは製品に実現された付加価値)に変換してアウトプットする仕組み」を指す、という基本概念である。工場設計論とは、すなわち生産システムの設計論に他ならない。

その上で、「見込生産」からおさらいをしておこう。見込生産とは何か。それは、製品需要を“見込んで”生産する形態である。JISは、生産者が、市場の需要を見越して企画・設計した製品を生産し、不特定な顧客を対象として市場に出荷する形態、と規定している。ここで重要なポイントは「需要の見込み(demand forecast)」、「自社設計の製品」、そして「不特定顧客」である。

見込生産は、実需が発生する前に、製品を作ってしまう。必然的に、「製品在庫」が生まれる。この在庫は、まだ特定の出荷先に紐づけされていない(未引当在庫)状態にある。不特定顧客向けなのだ。需要に応じて、その製品在庫の中から引き当てて顧客に納入していく。見込生産を英語でMTS=Make to Stockというのは、この理由による。Forecast Productionなどとはいわない点に注意してほしい。

日本語の「見込」というのは、なかなかフレキシブルで含蓄の深い言葉である。英語に直すとForecastだが、forecastには「予測」という語も対応する。予測の方が科学的で客観的な語感がある。しかし「見込」というと、なんとなく人間の判断がこもった匂いもするではないか。計画=予測+意志決定、という式から考えると、見込は予測より計画の側に近い。

これに対して、受注生産とは、顧客が定めた仕様の製品を生産者が生産する形態、とJISは規定する。だが、これを読んで、あれっ?と感じなかっただろうか。見込生産の定義と対称型になっていない。「不特定顧客」や「需要の見込み」はどこへ行ったのか。完全を期すならば、特定な顧客を対象に、確定した需要に応じて、顧客の要求・設計した製品を生産し出荷する形態、としなければおかしいではないか。

そう。実はここに、日本の生産管理思想の混乱した点が見えるのだ。たとえば、考えてみてほしい。年に数台しか売れない、ごく特殊な仕様の超高級スポーツカーがあったとする。これをディーラーに買いに行くと、“注文をいただいてから工場で生産にかかりますので、あと3ヶ月半お待ちいただくことになります”と言われる。これは受注生産なのか見込生産なのか? JISの定義では、どちらにも当たらない。

受注生産を英語では、MTO=Make to Orderと呼ぶ。こちらの方が直接的で分かりやすい。注文に応じて生産する。だから超高級スポーツカーはMTOである。あるいは、あなたは海運王で、豪華客船を一隻造ってくれ、と造船会社に注文する。すると2年後に、それは堂々とドックから進水式を挙げるだろう。こちらは、あなたの要求に応じて、生産者が設計したものだ。これも受注生産のはずである。

実は、受注生産は、その設計行為が注文後の作業に含まれるかどうかで、2種類に分かれるのである。すでに出来上がっている設計にもとづいて、単に確定した需要(=注文)に応じて生産に取りかかるタイプを、「繰返し受注生産」とよぶ。超高級スポーツカーは、これである。

一方、顧客の要求仕様にもとづいて、個別に設計してから作る、豪華客船のようなタイプを、「個別受注生産」と呼ぶ。「個別受注生産」を別名、「受注設計生産」とも呼ぶ。英語ではETO=Engineer to Orderである。プラントなどで用いる圧縮機・冷凍機など産業機械類も、多くはこの種類にあたる。

ちなみに自動車部品や電子材料などは、「繰返し受注生産」である。これらは基本的に顧客指定の仕様品である。日本では、自動車産業や電機産業が製造業の花形だと思われており、そのサプライヤーに位置する部品メーカーが多い。JISが受注生産を「顧客が定めた仕様」と規定したのは、おそらくこの影響ではないだろうか。

そもそも、「生産システム」に関する冒頭の定義を思い出してほしい。インプットとしての需要情報の起点は、必ず顧客なのだ。需要情報には、数量や時期のみならず、「どんな仕様で」も含まれる。これを明確に図面でもらうか、暗黙のうちに自分で企画するか、設計主体の差は、その違いでしかない。

だが、この際だからはっきり言っておくが、日本の場合、自動車部品や電子部品メーカーのほとんどは、需要数量に関しても、確定した受注などもらっていない。あるのは「翌月内示」と「引き取りかんばん」なのである。「かんばん」は一種の分納の仕組みであって、発注書ではない。内示の数字と引取量の合計は、一致する保証など無い。だから、自動車部品メーカーというのは、「顧客の定める仕様の製品」を「需要を見込んで」製造し、うっかり作りすぎてしまった分は在庫として自ら抱えるしかない立場なのだ。作ったものは特定顧客用だから、転売もきかない。これを「受注生産」と呼ぶべきなのかどうか、多少疑問さえ感じる。

それでも、顧客指定品の「繰返し受注生産」の場合、需要はかなり見込みが立つ。そこで、生産者側も材料手配などの準備が事前にできる。したがって「繰返し受注生産」では、部品原材料の形で在庫を持っておいて、需要に応じて製造する形態になる。見込生産のように、製品在庫を持つ必要が無い分だけ、過剰在庫のリスクは少ない。ただ、受注から納入までのリードタイムの中に加工組立の製造が入るため、少し納期が長くなる。

「個別受注生産」では、設計自体が事前に済んでいないのだから、もはや在庫は持ちようがない。注文を受けてから魚を釣りに行く、気の長い料理屋の状態である。在庫リスクは最小だが、納入リードタイムは最大となる。

そして、工場を計画する時は、どこにどのような量と種類のストックを置くのかが、非常に大きなポイントとなる。だから、これまでくどくどと、サプライチェーンや在庫や生産形態の話をしてきたのである。

ところで、「見込生産」「繰返し受注生産」「個別受注生産」は、在庫リスクと納入リードタイムのトレードオフ関係が成立していることが分かる。では、ちょうどいい最適なバランス点はないのか、という疑問も出てくるだろう。これに対する一つの答えが、まだ説明していない4番目の生産形態=「受注組立生産」なのである。だが、また例によって長くなりすぎた。「受注組立生産」についてはまた別の機会に取り上げることにしたい。
by Tomoichi_Sato | 2010-02-09 23:37 | 工場計画論 | Comments(0)