2017年 11月 23日 ( 1 )

『生産統制』の三つの課題

3年ほど前から、大阪府工業協会のご依頼で、『生産統制』をタイトルにした1日セミナーを行っている。といっても、メインのテーマは納期遵守とリードタイム短縮であり、内容的には生産の計画と統制の両面を含んでいる。いや、話としては、むしろ計画面での話の方が、ウェイトが大きい。というのも、受注生産における納期遅れの問題は、無理な受注や計画が起点となることが多いためだ。

部品材料も手配してある。ちゃんと能力的に無理のない計画も立てた。必要な図面もある。それなのに製造が遅れました・・というような事は、日本の優秀な製造現場ではあまり起きない。機械が老朽化してチョコ停が多かった、人手が足りなくて作れませんでした、という事象が起きることはあろう。だが、そうだとしたら、そうした現実を無視した生産計画の方に、ムリがあるのだ。適切な指示手配を出したのに、統制(コントロール)がきかずにモノが作れないような会社は、そもそも今までの競争に生き残れていないだろう。

計画・指示の方向と、実績・統制の方向は車の両輪である。製造業では、この二種類の方向の情報が行き交っている。生産の計画と統制は、英語で言えば、PlanningとControlである。この二つは、より大きな概念であるManagementの機能に含まれる。

ところで、「生産統制」という用語・概念をはじめて学んだのは、今からもう25年も前、中小企業診断士の勉強をしているときだった。生産管理の教科書に、生産計画と生産統制が並んで書かれていた。そして、今でも覚えているが、生産統制の3つのポイントは、(1)現品管理、(2)進捗管理、(3)余力管理、だと習った。診断士の一次試験は暗記物だから、そのままオウム返しに記憶したのである。ネットで「生産統制」と検索すると、今もこの3つのキーワードがすぐに上がってくる。

だが、不思議に思うのだが、なぜ、この3つなのか? 計画を立て指示を現場に出した後、生産管理担当者としてやるべきことは、他にもあるではないか? 誰がこのような「生産統制」の教科書的概念を決めたのか? 米国から輸入したのだとは、思えない。「現品」などの用語が英語的でないからだ。

英語で生産統制に相当するのは、Production ControlないしShop Floor Controlであろう。しかし、アメリカの生産管理の本、たとえば手元にあるK. Sheikh著”Manufacturing Resource Planning II”の該当する章を見てみても、そんな3大ポイントは見当たらぬ。かわりに、APICS(米国生産在庫管理学会)の辞書にある6項目、すなわちオーダーの優先付け、仕掛品の数量把握、といった事柄が紹介されている。

もう一つ、「生産統制」に関して不思議なことを指摘しよう。それは、「生産統制部門」が企業には存在しないことだ。もし教科書がいうように、生産計画と生産統制が生産管理の二本柱だとしたら、それに相当する部門(課なり係なり)があるはずだ。実際、生産計画の担当部署はいろいろな会社に存在する(課や係ですらなく、担当者一人の場合もあるが)。しかし、いろんな機会に多くの人にたずねたが、生産統制と名のつく部署があると答えた方は一人もいなかった。

もちろんそれは、単に名前の付け方の問題だ、という見方もあろう。工程管理部門とか、工務部門とか、あるいは単に「追っかけマン」などが、専門職として存在する企業は、たしかにある。でも、もしそうだとしたら、教科書の用語の方が、現実に寄り添うべきではないのか。どうして誰も使わない用語が、いつまでも資格試験には通用するのか。

だが、話を元に戻そう。製造業には、指示と報告の二つの情報の流れがつねに存在する。計画を立て、指示を出すことは、未来方向についての情報であり、現場への流れである。進捗や実績を報告するのは、現在や直近の過去についての情報であり、現場発の情報である。では、そのその後半について、やるべき仕事の全体像は何だろうか。わたしは、大きく分けて3つあると考えている。
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第一は、トラッキングである。具体的にいうと、タスク(作業)とモノと情報のトラッキングだ。一番大切なのは、指示された作業が、その通り行われたかを、逐次おいかけて確認することである。ちなみに『トラッキング』とは、移り変わっていく物事を、逐次追いかけることを指している。「逐次」とわざわざ書いたのは、作業のプロセスが大事だからだ。製造業は、決して「結果オーライ」ではない。モノさえできあがれば、あとはどうでもいい、という訳にはいかないのだ。

ただし、指示のトラッキングを行う前提条件は、まず、指示が現場に対して明示されていることである。製造オーダー(あるいは「製造指示」、「指図書」、「仕掛けかんばん」等、呼び方は何でも良いが)が、現場に対して出されていなければ、そもそも追いかけようがない。

指示が出されていない所なんてあるの? と思われるかもしれないが、現場に対しては、ざっくりしたバーチャートの工程表が示されるだけで、あとは班長の裁量で着手したり中断する、という職場も実はけっこう存在する。もちろん、現場にも裁量や自由度を持たせることは、責任感という意味からも大切だろう。だが、現場の班長にきかないと、どの注文がいつできるのかサッパリ分からないようでは、それこそ「統制がとれていない」状態である。作業指示の統率と現場の自由度とを両立させるためには、現場の着手・中断の裁量範囲を決めるとか、指示の完了期限をタイム・バケット付きで与えるといった方針が必要である。

トラッキングの対象は、しかしタスク(作業)だけではない。そもそも現場は、モノ(ワーク)と情報(製作図面・仕様書)がそろっていないと、製造ができない。そこで、工場内における、仕掛品を含めたモノのトラッキングが重要になるのである。つまり「現品管理」である。もちろん、工程の中間にどれだけ仕掛かり(ワーク)が滞留しているか、といったことも、つかんでおくべきである。無論、これはなかなか簡単ではない。が、ともあれ、工場内における、モノの位置と流れの交通整理が大切なのだ。

わたしが工場見学に行く際、いつも注目しているのは、工場内の物品にきちんと『現品票』が添付されているかどうかである。そして、そのモノが何なのか、どの製造オーダーのためのモノなのか、どの顧客向けなのか、そして本来あるべき定位置はどこなのか。そういったことが現品票に明示されているかどうかを調べる。出庫や使用予定が2ヶ月も前のモノが、通路脇に無造作に置いてあったりしたら、この工場は何かおかしいな、と分かる。

図面や仕様情報についても同じである。個別受注生産の形態では、製造着手時点で詳細設計が固まりきっていなかったり、途中で設計変更が生じることが、ままある。その場合、現場に正しい最新版の図面が配布されているか、の追いかけが必要だ。つまり情報のトレーサビリティである。

ところで、こうした追っかけのために、どのような管理番号の方式(トラッキングのためのキー)をとるかは、企業によってまちまちだ。たとえば受注生産形態ならば、日本ではしばしば製番管理方式が用いられる。作業指示に、製番(受注番号)が付番される訳である。

しかし、繰り返し性の高い生産形態や、内示とかんばんによるプル型生産の場合は、製番よりも流動数管理の方式が適している事が多い。流動数管理は別名、「追番管理」ともいい、零戦の生産で有名な中島飛行機が発祥だともいわれている。製品・部品に連番をとって、累積生産数量を追っていく方式である。いずれの方式でも、モノの管理番号としては、シリアル番号が用いられる。

さて、三つのポイントの2番目は、製造資源の状態のモニタリングである。「指示と作業」は一過性の物事であり、経過をたどって消えていってしまう。だから追いかけの対象になる。しかし製造資源、すなわち人とか機械設備とか治具・金型などは、永続的である。一つの作業が終わったら、別の作業に向かうことができる。そこで、どれだけの資源が利用可能なのか、その能力はどれほどかを、モニタリングしておく必要がある。

「人」に関しては、多くは日報単位の把握が行われている。それは半日とか1日遅れの情報であり、致し方ない面もあろうが、リアルタイムなモニタリングとはほど遠い。まあ人は組織の中にいるので、上長がつねに監視・統率しているはずだから、それでいいと考えられてきた。また、小うるさく管理されたくない、という感情面の配慮もあろう。

しかし機械設備に関しても、じつは組立加工系の多くの現場で、状態はよく把握できていない(プラントや半導体など、高度に自動化された工場は除く)。もちろん、機械のそばにいて使っている担当者は、状態は見てわかっている。しかし、生産管理側から見ると、それこそ、工場の扉を閉めて、建屋の外に一歩出たら、もう中の機械が動いているのかと待っているのかさえ、分からないケースがほとんどである。立派なマシニングセンタでさえ、PLCが外部に持っている通信インタフェースは、この21世紀にRS-232Cのままだったりするのである。だからこそ、機械のモニタリングは、IoT技術が一番試されている部分なのである。

ツール・金型・治具も製造資源だが、こちらになると、モニタリングはもっとあやしくなる。管理番号(ID)さえついているかどうか、心許ない。こうした金型類も、状態と履歴の把握が必要だし、それが結構なコストセーブにつながる可能性がある。

そして、電力や用水や圧縮空気などの用役も、一種の製造資源であり、その供給状況(使用状況)と原単位の把握はしておく方が良い。

三番目のポイントは、製造ラインあるいは工場全体の生産パフォーマンスの測定である。つまり、工場の実力を、モノサシを当てて測る仕事だ。指示した仕事もした、資源の状態も把握した、だが全体としての実力の程を評価しなければ、改善改良を考えることができない。

パフォーマンスの測定は、端的にはQCD(品質・コスト・納期)の達成水準であろう。ただし、工場には普通、品質管理部門があって品質を専門にチェックしている。またコストについては、生産着手時点にはもう、だいたいのコストは決まってしまっているものだ。だから生産管理の視点からいえば、納期並びに進捗の測定が中心となる。だから、納期遵守率の概念などが大事になる。そして昨今、納期遵守率を左右する最大のポイントは、生産能力と負荷(あるいは余力)レベルであろう。

とはいえ、工場にはQCD以外にも、在庫量だ生産性だリードタイムだ労働安全統計だ、とモノサシがいっぱいある。その全てを、なかなか同時には満たせない。そこで、どの尺度を重視して工場を運営するかは、その企業の「コアの競争力」を、どうとらえるかにかかっている。ここがけっこう、あいまいな工場が多い。

以上、「生産統制」の観点から3つのポイントをあげた。こうした作業を支援するITシステムの仕組みは、MES(製造実行システム)と呼ばれる。とくにUpper MESとよばれる仕組みの機能領域である。

ただ、生産管理においては、上記の3つの作業で生産の実態を把握することが、最終目的ではない。生産実態に付随する問題発見と解決こそが、生産のコントロールの一番の目的なのである。そして、上記のリストをふりかえってみると、中でも、能力負荷と余力の判定が一番難しい、と感じられる。多品種を切り替える工場での「能力」について、定義も理屈も明確になっていないことが多いのだ。
 
このままではUber的な工場の「余力取引」だとか、Industriy 4.0だとかの対応など、どこの国の話だ、ということになってしまいかねない。だからこそ、日本の製造業が今一段の飛躍を遂げるためには、生産のコントロールのレベルを上げるMESが重要になってくるはずなのである。いや、それよりもっと前に、そもそもこうした複雑で広範にわたる生産管理という仕事の全体像をきちんと理解して、「生産管理を統率する」人材こそ、日本の製造業には必要なはずなのだ。

なぜ、世の中には、単なる入門書・教科書より一歩奥の、実務家のために役立つ情報源が少ないのか。理由は不明だが、ニーズは明らかだ。さればこそ、わたしのこのサイトが、そのささやかな一助となることを願って、こうして書き続けているのである。


<関連エントリ>
 →「IoT時代のMESをもう一度考え直す 〜 (3) MESの未来像とは」 http://brevis.exblog.jp/26026181/ (2017-09-04)

by Tomoichi_Sato | 2017-11-23 00:59 | 工場計画論 | Comments(0)