2017年 11月 03日 ( 1 )

PMの世界はどこに向かうのか 〜 PMI世界大会2017に参加して


1. PMI世界大会とは

米国で10月28日から30日まで開催された、PMI Global Conference 2017 https://www.pmi.org/global-conference/about というカンファレンスに参加してきた。PMIはProject Management Instituteの略で、ご存知の方も多いと思うが、米国発・世界最大のプロジェクトマネジメント専門職団体である。全世界に40万人以上の会員を擁し、通称「PMBOK Guide」(正式名称"A Guide to Project Management Body of Knowledge")と呼ばれるPMの標準書を制定、さらにProject Management Professional(略称PMP)という資格試験認定制度を有している。世界で最も影響力の大きなPM関連団体だ。

そのPMI Global Conference(長いのでPMI世界大会と略そう)は、今年はシカゴで開催された。約3千人が参加する、大規模なカンファレンスである。ベンダーの展示会も併設されている。世界大会の名にふさわしく、60カ国から参加者があったという。みたところ、聴衆は北米、南米からの参加者が多い。他に中東、インドからの参加者も多少眼についた程度か。

ただ意外だったのは、中国人がほとんどいなかったこと。今どき、どこの分野の技術展示会でも大勢の中国人をみかけるものだが、不思議と少なかった。また韓国人らしき人や、東南アジア・アフリカからの参加者も少なかった。ちなみに日本からは、数名の参加者があったようだ(PMI日本支部の方とは、挨拶を交わした)。わたし自身、この大会に参加したのは、はじめてである。2コマ、合計2時間ほど、講演発表をした。その内容については、後で触れよう。

わたしは個人資格で、自費で参加した(発表申込みの事前審査をパスすると、大会参加費約15万円は無料になるが、旅費宿泊費は負担が必要)。日本人の発表者は、他にはいなかったと思う。だが日本にはPMI日本支部・PM学会・日本PM協会という大きな団体が三つもあるのだから、もっと競い合って米国で発表したらどうかと思うのだが。
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(PMI世界大会2017 基調講演の風景)

2. セッションの構成

今回の大会では、全部で100以上のセッションがある(https://www.pmi.org/global-conference/program-schedule)。10以上の部屋で、並行して進んでいく。そしてセッションは基本的に、どれも1時間以上の長さがある。

PMI世界大会は、いわゆる学会風のカンファレンスではない。ふつう学会となると、発表時間は15-30分程度だし、アカデミック・スタイルで論理的に、堅苦しくしゃべらなければならない。しかしPMIの大会は、もっとずっと自由である。講演者が聴衆に語りかける感じだ。分類としては、Educational Session(教育セッション)が中心で、その他に、展示会の出展者によるベンダーセッションがある。

教育セッションは、さらに5種類に分かれる
  • Analyzing and Process Improvement(プロセスの改善)
  • Communication and Teamwork(コミュニケーションと組織)
  • Decision Making and Problem Solving(意思決定と問題解決)
  • Enhancing PM Skills(PMスキル向上)
  • Influencing and Business Strategy(ビジネス戦略と働きかけ)

こう並べてみると分かる通り、セッションの話題はPMのソフト・スキルが中心であり、ハード・スキル系の講演は少なかった。ちなみにハード・スキルとは、技術・知識として確立されており、座学などで習得が可能な能力を指す。PMの分野でいえば、WBSやCPM・EVMSなど、理論やツールに関する事柄だ。だが、こうした話題の発表はほとんどなかった。

他方、ソフト・スキルとは、交渉力や問題解決力など、もっと属人的な技能である。日本だと「人間力」などと一括されがちな能力だ。こちらがどうやら、米国PM界の現在の関心の寄せどころらしい。人間心理などにも関わりが深い。ちなみに米国には「行動科学」「社会心理学」などの流派の心理学がけっこう旺盛である。それは最近の「行動経済学」などにもつながっているし(今年のノーベル経済学賞も行動経済学者だった)、経営学にも取り入れられている。その影響が PM分野にも、かなり流れ込んでいる感じだ。

大会では同時に、"PMI Project of the Year”の発表とポスター・セッションが行われた。毎年行われる数々のプロジェクトの中から、最優秀プロジェクトを選んで表彰するものである(わたしの勤務先は2002年に、サウジアラビアのプロジェクトで受賞した)。今年の候補者は、優勝のHanford Double Shell AY-102 Recovery Project(放射性廃棄物の漏洩回収プロジェクト)のほか、シアトル市のUniversity Link Light Rail Extension(郊外型公共交通システム建築プロジェクト)、Gahcho Kué Mine Project(北極圏でのダイヤモンド採掘施設建設プロジェクト)などである。こうしてみると建設系のプロジェクトが多いのに、大会のセッションには建設関係の話題がきわめて少ないのは不思議である。

ちなみに、本大会のセッションは、よく日本などで行われるような産業別・分野別などの分類にはなっていない。業種を越えて共通の話題を取り扱う、という方針なのだろう。なお、この秋には、遅れていた
PMBOK Guide第6版がやっと出版された訳だが、この解説セッションなどはなかった。


3. わたしの講演発表

わたしの講演タイトルは、"Decision making with Risk-based Project Value (RPV) analysis and activities’ value contributions"である。長さは1時間。日曜日に1回行い、さらに月曜日午後にアンコール講演を行った(アンコールの実施は、事前に事務局からの要望で決まっていた)。

内容は、わたしが近年ずっと取り組んできた、「リスク基準プロジェクト価値(RPV)」理論の概要と、ケーススタディの応用例である。今日のモダンPMには、価値論が欠けている、というのが、かねてからのわたしの課題認識である。意思決定はプロマネの主要な仕事であり、何かを決めるためには、複数の選択肢の中から、ベストなものを選ぶ必要がある。ベストなもの、とはすなわち、「プロジェクトの価値を最も高めるもの」という意味だ。

だが、どんな選択肢にも、不確実性とリスクが付随しているのが、プロジェクトの世界である。では、リスクを伴うプロジェクトの価値とは何で定義されるのか。また、プロジェクトを構成する一つひとつのアクティビティ自体は、そのプロジェクト価値に対して、どのような貢献をするのか。こういった問題を、RPV分析という手法で定量化できる、というのが、わたしの理論的枠組みである。

この上で、たとえば二つの選択肢AとBがあり、AよりもBの方が余計にコストがかかるが、そのかわりBの方が、プロジェクト全体に与えるリスクが小さい場合、どちらをとるべきか、数字で比較評価できるような方法を提示する。このようにして、プロジェクト意思決定に客観性のある基準を確立する、というのがわたしの講演発表の主旨である。さいわい講演は2回とも、好意的な反応を多くの方から(とくに実務者から)いただいた。

なお、今回の発表内容は、来る12月8日(金)夕刻に、東京神谷町の日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)が開催する「PM Networking」で詳しく再演する予定である(もちろん日本語で)。PMAJ非会員も自由に参加できるので、近いうちに本サイトでもご案内するつもりだ。
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(講演発表のスライドの前で)


4. 他のセッション内容

わたし自身が聴けた中で、ほかに印象に残ったセッションを、いくつかご紹介しよう。

全体のオープニング・セッションでは、Sir Tim Berners-Leeの講演があった。89年にスイスの物理学研究機関CERNで、はじめてWorld Wide Webとhttpを開発した人だ。これは20世紀後半の最大の発明だったと思う。最後に彼は、AIが将来、裁判で人を刑務所に送り返すか放免するかを決めるようになる可能性もある、と予測。だがその時には、Accountabilityが大切になるし、裁定の理由を説明できなければいけないだろう、との意見には感心した。

もう一人のキーノート講演者・Nicholas Epleyシカゴ大教授の "Mindwise: How We Understand What Other Think, Believe, Feel, Want”もなかなか興味深かった。Epley教授はまさに行動科学者で、マスコミにも頻出する有名人である。彼はさまざまな心理学実験から、わたし達人間が、いかに他人と理解し合えていないかを説明する。にもかかわらず、わたしたちは、「他者に理解してもらっている」と過剰に自信を持っていることが、実験から証明できる。このギャップこそが、われわれのコミュニケーションに横たわる最大の問題点だ、というのが彼の解説である。

一般講演の中で一番面白い、と個人的に感じたのは、Andy Silberというコンサルタントによる、"Adaptive Project Management: Leading Complex and Uncertain Projects"という講演だったかも知れない。Silberは、ハードウェア製品開発プロジェクトの専門家である。彼は縦軸に複雑性、横軸に不確実性をとって、プロジェクト方法論を分類していく。まず左下に「最小限の計画」を位置づける。つまり出たとこ勝負だ。縦軸の不確実性とは、プロジェクトの規模をある程度、表す。だから、左上に「ウォーターフォール」をとる。大規模な建設プロジェクトが、その好例だ。そして、クリティカル・パスはPMの重大な関心事となる。

一方、彼は右下に「アジャイル」をおく。アジャイル開発は、要求仕様の不確実性に対応する、良い方法だ。ただし、これはITプロジェクトの一部にしかうまく適用できない。同じ製品開発でも、ハード系になると、長納期の部品調達などにプロジェクトが引きずられるからだ。そこで彼は、右上の象限に、 "Adaptive PM"をおく。ハードの製品開発がここに位置づけられる、というのはなかなか良い。
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Adaptive PMでは、"Replan often"(しょっちゅう再計画)という漸進的なアプローチをとる。この点では、アジャイルに似ている。しかし長納期部品などクリティカル・パスにもフォーカスする必要がある。そこで、フェーズ化されているが、フェーズを一部やり直しながら進める方法をとる、という。これによって進む方向をアジャストしていくのだ。これを通称「刺身モデル」という。なかなか面白い。そして、今回聞いた中で、これが一番、ハードスキル的な話だった。

他にも、Brian Clausenという人の"Design Thinking”の講演、Andy Kaufmanの"Decision making”の講演、
人間類型を用いた"Business Chemistry”の解説、パワポを使わずにプレゼンしようという講演、そして米国企業で働くインド人による、異文化の問題の講義など、興味深い講演が多かった。


5. PMIは、そしてPMの世界はどこに向かうのか

今回のPMI世界大会でのセッション全体をみると、Agile関連の話題がわりと多い印象である。また、Design Thinking(デザイン思考)もいくつか眼についた。

これは結局、プロジェクト・マネジメントにおける”How”(コストやスケジュールなどをいかに計画しコントロールするか)の問題から、”What”(プロジェクトで何を生み出すか)に、関心が移行していることを示しているように思われる。別の言い方を借りれば、"Do things right”から、"Do right things”へ、ということである。

わたしは2003年に、ボストンでProject Worldというカンファレンスに参加したが、その時はハード・スキルや方法論の話が多かった。そして、非常に勉強になったという記憶がある。分野も、医薬品もあればITも防衛産業もある、という感じだった。ただし当時はまだ、米国全体で、Program以上の上位概念への関心が薄かった。

それから12年後、2015年のProject World Bostonは、かなり様変わりしていた。まず、BA(Busines Analyst)団体の大会との共同開催だった。これは、もはやIT ProjectがPM界の主体となったことを示している。その流れは、PMIによるBusiness Analysisの標準制定などの動きにも通底している。

察するに米国では、ハード・スキルの教育普及はおそらく一巡したのだろうと考えられる(その点、日本とはまだ事情が違う)。そして、ソフト・スキルに関心が移ったのだ。

こうした変化は、米国の経営学の歴史の流れをなぞっている、ともいえる。ちょうど100年前、米国でテイラーが「科学的管理法」を提唱したとき、それはハード・スキル中心だった。それはフォード・システムなど自動車産業での応用に結実していった。しかし、1930年前後の有名な「ホーソン実験」以後は、モチベーション理論へと経営学の焦点が移っていく。すなわち、リーダーシップなどソフト・スキルへの注目である。日本風にいえば、理系的な経営工学から、文系的な経営学へのシフトだった。

そして'80年代以降は、金融工学への傾斜があった。つまり、経営における関心事が、
 科学→人の心→お金
という風に、アメリカではシフトしていったのである。

米国におけるPMの分野でも、科学から人の心へ、という方向性が感じられる。CPMやEVMSなど、技術とツールは整った。プロマネもPMBOK Guideで知識を得て、PMPの資格も取った。だが、プロマネの悩みは、あまり解決されていないのである。ハード・スキルの普及によって、プロジェクトの短期的な成功率は上昇した(これは米国IT分野の統計が示している)。だが。望んだアウトカムは得られていない。そのもどかしさ・不満感が、伝え聞くようなPMIの会員数の伸び悩みにつながっているのではないか。

もう少し問題をさかのぼると、PMBOK Guideの枠組みとその限界に突き当たる。PMBOKは周知の通り、「プロセス」を中心にして、プロジェクト・マネジメントの仕事を整理した。それはじつに見事な体系化だったと思う。また、とくに初期のPMBOKは、受注型プロジェクトを無意識に前提としていた。つまりScopeは顧客からSOWで与えられていて、かなり固まっている、という前提である。これは防衛宇宙産業やエンジニアリング産業では確かにその通りだが、そうでない種類のプロジェクトも世には多い。

プロセスとは、How(いかに)を記述するものだ。だが、本当にプロセス中心アプローチで、望む成果が得られるのか。それが今の多くの人の悩みなのではないか? そこでデザイン思考やアジャイルなど、Whatを明らかにする技法に脚光が当たっている。だがWhatを掘り下げていくと、そもそも、何を目的とし、何を価値としてプロジェクトをやっているのか(Why)の問題に突き当たる。

 How→What→Why

こう考えていくと、現在のPM理論のパラダイムには、大きな革新が必要だと分かる。そして、そのブレイクスルーとなるのは価値論であろう、というのがわたしの信条である。当然ながら、これには異論もあろう。だから、そういったオープンな議論ができる場を、わたしは作りたいのである。


by Tomoichi_Sato | 2017-11-03 12:56 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)