2017年 06月 04日 ( 1 )

BOM(部品表)で苦労する会社、得する会社

よくセミナーなどで、「マネジメントとはどんな仕事でしょうか?」と問いかけると、「PDCAサイクルを回すことです」という答えが返ってくることがある。とくに製造業では、継続的改善のためのデミング・サイクルが、全員の頭にまことによく刷り込まれている。これ自体は立派なことだと思う。

だがPDCAサイクルを回すことだけが、マネジメントのすべてではない。そこは誤解してもらいたくない、と思う。なぜなら、企業の中には、一過性の仕事というのも多数存在するからだ。新製品を設計する、試作品を検査する、特注品を製造する、新工場を海外に開設する・・こうした仕事はすべて、一過性である。PDCAサイクルは、繰返し性のある仕事を、さらに高いレベルに改善していくことで、だからCheckとActionが入っている。じゃあ繰返し性のない一過性の仕事は、どうしたら良いのか?

一過性の仕事を計画すること、実行可能にすること、再利用可能にすることも、またマネジメントの機能である。わたし達の社会では、量産型の時代は終わって、ますます個別性と一過性の高い仕事の比率が増えてきている。それをどうマネージ可能(Manageable)にするか、という問題に、もっと真剣に立ち向かう必要がある。それはBOMをめぐる状況に、典型的に現れていると思う。

BOM(部品表)は何のためにあるのか?

BOMとは、マテリアルのリストのことである。これは拙著『BOM/部品表入門 (図解でわかる生産の実務)』にも書いたし、このサイトでも繰り返し触れていることだ。マテリアル(資材部品)のリストを持たない製造業は、ない。資材の買い物をするのに必要だからだ。製造業はモノを加工変形し付加価値をつけるビジネスのことである。だからBOMを持たない製造業などというのも、存在しない。

それなのに、「ウチもそろそろBOMをちゃんと整備しなければ・・」とつぶやく会社が存在するのは、なぜなかのか? それは、以前も触れたように、BOMデータベースについての問題意識を感じるからだ。つまり、単なる使い捨てのリストではなく、再利用可能なマスタとしてのBOMデータベースの必要性と有用性、である。一過性の仕事を再利用可能にすること。これはマネジメント機能の一つである。そして、当たり前だが、BOMデータベースの必要性・有用性が、作成し維持する手間を上回るならば、持つ価値がある。

では、BOMデータベースの有用性、つまり目的とは何か? 端的に言って、ストラクチャー型(構造型)のBOMマスタは、部品展開(工程展開)と製造オーダー発行のために用いられる。これがあれば、生産オーダー(すなわち製品単位の生産数量指示)を、工場の各工程・作業区単位の細かな指図(製造オーダー)の束に、律儀に機械的に正確に展開してくれる。これを手作業でやるのは大変だ。もちろん、製造指示などなしでも、職人が勝手に判断して作ってくれる職場もあるだろう。だが職人が数百人もいたら、正確な指示なしでは動けない。指示を出せば実績が上がってくるのが常であり、そのデータは工数や材料費を通じて、コスト計算と、スケジュール推算のベースになる。計画可能になるのだ。

ここでいうストラクチャー型部品表とは、別名「製造部品表」(=M-BOM)と呼ばれるものだ。親部品と子部品の数量関係が規定され、それがどのような工順(作業の並び)を通してできあがるかが、紐づけられている。このM-BOMがマスタ化される目的は、つまり製造現場の計画と指示のためである。そしてM-BOMの作成の起点は、「設計部品表」(E-BOM)にある。

設計部品表=E-BOMは、もともと、製品組立図に表示するP/N, B/Mから発している。P/NはPart Numberの、B/MはBill of Materialの古い略号で、現在もこの呼び名を使っている企業がどれほどあるかは、良く知らない。組立図には、それを構成する部品に、引き出し線を引いて、数字を丸で囲んだ「フーセン(風船)」を表示する。これがP/Nである。そして図の脇に、数字と部品名とを並べた表をつける。これがB/Mの原型だ。B/Mは今ではBOMと呼ぶことの方が多いし、CAD/PDMで維持するのが普通だろうが。

設計部品表E-BOMとは、つまり製品と、部品図面への紐づけを示す情報だ。ただE-BOMは、必ずしも設計の必要性で生まれたとはいいにくい。これは製造や購買のための情報という側面が強い。もちろん、E-BOMをデータベース化すれば、部品の再利用には有用だろう。設計の手間が減るからである(再利用可能にする仕事)。また、部品を共通化できれば、さらに有用である(ただ設計の手間は多少、増えるかもしれないが)。

ここまでをまとめると、BOMデータの目的は、
・資材購買のため
・製造指示のため
・コスト推計のため
・工程(スケジュール)計画のため
ということになる。

これらの便益が、作成の手間を上回るならば、BOMマスタデータで得する会社になる。逆に言えば、これらの便益より、作成の手間が大きいと感じられると、BOMマスタデータは構築されないままだろう。では、どんな場合に、構築が難しくなるのか。

BOM構築の第一の難所は、作成の手間をかける部署と、便益を得る部署が違う事から生じる。E-BOMは設計部門が作成し、M-BOMは生産技術部門が展開する、というのが多くの会社の実情だ。しかも設計部門は本社に、生産技術部門は工場にあったりする。かくして両者は、次第に乖離していく可能性がある。

当たり前だが、BOMや構成するマテリアルの属性などは、上流側(設計部門)が入力すればベターである。だが、これを入力する手間は、設計部門にはあまりメリットももたらさないように思われる。かくして、属性入力は製造側が、あとで設計仕様書を見ながら手作業で入力したりする。

また、製造の都合で代替部品や代替工順(外注化)が行われることも、E-BOMとM-BOMが乖離していく理由の一つだ。では、この両者の整合性をとるのは誰の仕事か? どの部署も、あえて自分からは動きたくはない。会社全体の利益より、部門のコストを優先するのは、おかしな話だ。だが現実にはしばしば横行している。まあ、もっともこれは、会社の上層部が、本気で号令をかければ解決可能ではあろう。

BOM構築の第二の難所は、もう少しやっかいだ。もともと階層構造型のBOMデータのモデルは、米国の生産管理方式であるMRPから生まれた。MRPは’60年代の終わり頃に、IBMが中心になって作り上げた仕組みだ。そして現在でも、多くのERPパッケージや、生産管理パッケージの基本に組み込まれている。

ところでMRPには、当時の米国の生産思想を反映した、(暗黙の)前提条件がある。以下にそれを列挙してみよう:
(1) 製造指示はロット単位に、プッシュ型で行われる
(2) 工場の生産能力は十分にある
(3) 製造リードタイムはリーズナブルに与えられている
(4) 生産計画が確定したら、変更は少ない(受け付けない)
(5) BOMのトポロジーはA型である(組立加工的)
(6) 製品のバラエティ(オプション数)は多くない
(7) 計画立案時点で製品のBOMは確定している

一つひとつを解説すると長くなるので、ここではしない。ただ、上記の前提条件の全部が当てはまる日本の企業は、滅多にないだろう。あなたの会社はどうだろうか?

にもかかわらず、やはり最低でも製造オーダーの発行と資材の発注書くらいは自動化したい、というニーズが強い。で、どうするのか。結果として、MRPシステムでM-BOMデータベースからの部品展開機能だけを使い、スケジュールや進捗管理は手作業化する、というのが大方の企業のあり方である。研究会仲間のコンサルタント本間峰一氏は、この状態を「生産管理システムが伝票発行マシン化する」と表現している。

スケジュールや進捗管理は、実際には手作業なのだが、現場の裁量と有能さでなんとか乗り切るのが、日本企業である。ところが製造現場を良く知らない経営者は、「ウチは生産管理をシステム化している」と信じている。それどころか、現場の追随能力を超えた変更を、営業が(受注ほしさに)受けてしまうのも、よくある話だ。これが、BOMで苦労する会社の実態である。

一体、どうしたらいいか?

ここですべての解決策を書くことは、無論できない。だが、少なくとも大事なことが一つある。それは、「BOMで苦労している」という事実を、会社レベルで共有することだ。そして、適切なBOMデータのマネジメントは、便益(とお金)をもたらす、という認識を経営者が持つことが必要である。

しかし、これだけでは記事としてあんまりだろうから、一例として、上記の前提条件(5)があてはまらないケースについて、少しだけヒントを書いておく。A型のBOMとは、複数の部品を組み立てて、サブアッシーをつくり、製品を作っていく、集合型の部品表のことだ。これが当てはまらない場合とは、たとえば共通の中間部品・材料から、多数のバリエーションが生じるV型、T型のBOMのケースである。
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現在のMRP系の仕組みは、V型、T型のBOMを扱うのが上手ではない。そのまま動かすと、一つの共通部品・材料に対して、多数の製造オーダーが集まってしまう。しかもどれかの受注に納期変更や数量変更が生じると、影響範囲の特定はますます複雑になる。

こういうケースでは、共通する中間部品の上流側と、下流側の指示方式をかえるべきなのだ。上流側は、需要予測に基づく計画(見込)生産がおそらく適している。あるいは、(需要変動が小さければ)在庫推移監視方式で生産するのが良い。「在庫推移監視方式」というのは渡辺幸三氏の発案した用語で、文字通り、在庫の推移を監視して、適切な在庫量を切らさないように、補充生産指示をかけていくやり方である。

他方、下流側は確定オーダーに紐づく受注生産で動かすのが良い。このように、部品展開計算を途中の中間部品でせき止める(通して部品展開しない)ことで、個別の注文の変更による影響範囲やリワークが、全体に広がらないようにコントロールするのが大事なのだ。もっともこのような方式の実現には、在庫増が伴うし、営業部門や購買部門や原価管理部門の、理解と協力が必要だ。

・・さて。では、こうした生産・販売・在庫方式の変革を、リードするのは誰か? これが次なる疑問であろう。よくビジネス界の英雄物語に出てくる、「生まれつきのリーダーシップ」を持った人か? まさかね。そんな人が、あちこちの職場にいてくれるとは、あまり期待できまい。おまけに、生まれつきだったら、育てることも叶うまい。

そうではなくて、実際に必要なのは、生産システム全体を見通す能力を持った人である。それだったら、(もちろん資質にもよるが)教育可能だ。

わたしはこの点で、中堅企業に期待を持っている。

大企業では、縦割り分業病で変革がスローすぎる。小企業では、BOMソフトウェアに投資できまい。中堅企業ならば、変革の可能性を一番持っている。日本ならば、中堅企業にも、優秀な人はたくさんいる。

そしてわたしは、近々開催するBOMのセミナーで、限られた時間ではあるが、こうした問題への取り組みについて説明したいと思っている。何だ、お前の宣伝かよ、と思っていただいても別に構わない。ただ、わたしは、払っていただいた費用に見合う分の、気づきを持ち帰っていただけるよう、約束の意味も込めて書いている訳だ。本を読めばすむことを、セミナーでお話しするつもりはない。12年前に発刊した以降に、わたし自信が気づき学んだことをお伝えしようと思っている。

わたしがこうしたセミナーをお引き受けする理由は、参加者に知識を伝授して「教育」するためではない。BOMの問題は各社に固有性がありすぎて、的確な解決法を限られた時間に伝えるなど、現実にはむずかしい。そうではなくて、自社にはどんな視点が欠けているか、何を学ぶべきかを参加者の皆さんに気づいてもらうためにやっているのだ。

気づけば、「学び」が発動する。きちんと学んだ人だけが、自分の問題を解決できるのである。


<関連エントリ>
 →「BOM/部品表に関するセミナー講演のお知らせ(6月20日・東京)」 http://brevis.exblog.jp/25787223/
 →「同じモノか、違うモノか? - マテリアルの同一性問題をめぐって」http://brevis.exblog.jp/24176770/ (2016-02-28)
 →「書評:生産管理・原価管理システムのためのデータモデリング 渡辺幸三」 http://www2.odn.ne.jp/scheduling/Rec2004.html#label00087 (2004-07-05)

by Tomoichi_Sato | 2017-06-04 04:54 | Comments(0)