超入門・調達管理


Kさん。そろそろまたメールをいただくころではないかと思っていたところ、やっぱりでしたね(笑)。最初が生産管理,次が在庫問題で、今度は資材ときましたか。工場に赴任された後、景気の雲行きがあやしくなって在庫に目がいき、さらに不況だから資材コストダウンと、まさに定石通り取り組まれているようですね。おかげで私の側も「超入門」シリーズがホームページに自動的に展開できそうで、まことにおそれいります。

さて冗談はさておき、ご質問は「資材業務の改善」というテーマなのに、私が勝手に「調達管理」という風に言葉を置き換えたのには、理由があります。およそどんな問題でも、まず正しい言葉と概念規定から出発しないと、伝わっていくうちにどんどん混乱していくからです。

Kさんが「資材」という用語で指しておられる業務は、文面を拝見するかぎり、購買の仕事のように思われます。どう違うの?とお感じかもしれませんが、英語にすれば前者はRaw Materialで、後者はPurchasing、全然違います。おそらく御社では『資材課』という部署が購買の仕事をしているから,最初のご質問だったのでしょう。ですが、資材にまつわる仕事には、購買手配からはじまって、受入れ・検品・入庫・現品管理・出庫供給などの広がりがあります。たまたま御社は購買機能のみが資材課の仕事で、あとは他部門の分担という事情のようですが、その範囲は会社によってずいぶん違います。

用語の話を、もう少しだけ続けさせてください。購買と調達はちがう、という話です。何が違うのかって? 調達(Produrement)は購買より広い概念なのです。購買は、簡単に言うと、発注書(購買オーダーPurchase Order)を切るまでの仕事です。調達とは、購買オーダーが完遂されるまで(納品検収まで)をずっと追いかける仕事です。注文してから先にまだ仕事なんかあるのか、と疑問にお思いでしょうか。ですが、ときにはこちらの方が重要な場合があるのです。

私は何年か前、米国大手のERPベンダーの開発責任者と、向こうの本社で激論した経験があるのですが、どうも多くのエンジニアやIT専門家は、調達という業務を、まるでAmazon.comで本か何かをクリックするだけのように無邪気に思っているようですね。そして価格競争は逆オークションでやればいい、あとは寝て待てば宅配便で品物が届くと信じている。とんでもない話です。なぜなら、上手な調達のためには、調達先の業務プロセスをよく知る必要があるからです。

もっと具体的におたずねしましょう。一般に、工場の生産形態が4種類あることは、ご存じですね。それでは、Kさんのところで問題となっている購買品について、調達先はその品目を「見込生産」「受注組立生産」「繰返し受注生産」「個別受注生産」のどの形態でつくっているのか、ご存じですか? 

Amazon.comに代表されるカタログ品は、見込生産でつくられるものがほとんどです。本やCDなどはその典型ですね。逆に言うと、カタログ・ショッピングが可能なものは、見込生産品だということになります。見込生産品とは、作り手側が商品を設計します。Kさんの工場の用途に合うかどうかは、御社の方で判断しなければなりません。

そのかわり、見込生産品は、売り手による値段の比較が容易です。だから逆オークションや、価格ドットコムのような情報サイトが成立しうるのです。

受注組立生産品とは、Dell Computerに代表されるような、オプション仕様の組合せで買い手が自由に作っていくタイプの商品です。自動車なども、ベースモデルは決まっていますが、多種多様なオプションを選べるようになっている点で、このカテゴリーに近いですね。なお、ここで、見込生産品よりも購買の「自由度」がちょっぴり上がったことにご注意ください。そのかわり、値段の比較はやや単純ではなくなります。

繰返し受注生産の品目とは、機械部品や電子部品などに多く見られる種類のもので、基本的には買い手側の設計仕様で、注文に応じて繰り返し作られるものです。Kさんの工場で必要とする特定部品ですから、仕様の面では思い切りわがままがききます。ただし、売り手との関係は固定的で限られています。値段を比較したかったら、いくつかのサプライヤーに対して、御社の仕様を公開し、競争させる必要があります。また、発注リードタイムはカタログ品などより当然長くなりますので、納期確認を発注後もつづけるのが望ましいでしょう。さらに、納品されたものの品質が要望に添っているか、ご自身で検査する必要があります。

4番目が個別受注生産の品目です。これは、サプライヤーに新規設計からさせるような品目で、産業機械や建築設備機器などがあたります。私の勤務先のようなエンジニアリング会社は、ほとんどの購買品目がこれです。情報システムの発注などもこの部類ですね。相手側に設計をさせるわけですから、発注までも発注後もエンジニアが購買担当者と二人三脚で仕事を進める必要があります。相手先の工程管理も品質検査も輸送手段もケアしていかないと、思い通りの品物が希望する納期に入らなくなるかもしれません。

おわかりでしょうか。仕様面での自由度が上がれば上がるほど、納期も延びるし、調達の手間もかかり、価格のネゴもむずかしくなっていきます。無理に値切れば、品質・納期が犠牲になりかねません。ここを改善するためには、相手の業務プロセスを理解し、事前にさまざまな情報を開示しながら、相手が動きやすいように誘導してやる必要があります。

いいかえるならば、調達の目的は、自社の生産の要求仕様にかなったマテリアルやサービスを、予算の範囲内で、円滑に滞りなく供給できるよう、サプライヤーをしむけることにあります。品質も、価格も、納期も、調達先の生産システムの働きによって決まります。すなわち調達とは、サプライヤーが適切に生産管理できるよう、サポートする仕事なのです。調達が奥の深い業務である、というのはこのためです。

Kさん。ご質問の中には、調達組織の件がありました。集中購買がいいのか、工場ごとに分散購買がいいのか。多くの人は、「集中購買がいいはずだ、たくさん買えば安くなるはずだから」と安易に考えがちです。しかし、私が単純にその意見に同意しがたいのは、上記のような検討の視点が欠けているからです。

最後に、あえて聞きにくいご質問をさせていただきます。御社では、調達の担当者は何で評価されるのでしょうか。まさか、コストダウンだけではないですよね。上に書いたように、コストと品質と納期にはトレードオフがあるのです。

それと、そもそも調達という仕事は積極的に評価されているのでしょうか。つまり、出世して、役員になったりする可能性はありますか、というご質問なのですが。もし、調達の部門が会社の中であまり高い位置づけでないとすると、人のモチベーションも上がらない可能性がありませんか。そこを変えずに、「改革・改善」だけを押しつけて組織いじりをしても、あまり効果は期待できないかもしれません。御社が、そのような通り一遍のご判断をなさる会社でないことを、祈念しております。
by Tomoichi_Sato | 2009-01-14 23:56 | サプライチェーン | Comments(0)
<< Web連載記事のお知らせ 一年の計は >>