プロジェクト採算管理は重要か

はたしてプロジェクトの採算管理は本当に重要か、などというと、常識知らずのレッテルを貼られるかもしれない。とくに、受託開発をビジネスとしているシステム・インテグレーター(SIer)ではそうだ。システム開発プロジェクトは一つ間違うと、の単位で赤字が発生し、他の数十のプロジェクトで稼いだ利益が吹っ飛びかねない。

だからプロジェクトの綿密な採算管理は必須だ。個別のプロジェクトがいかなる採算状況にあるのかを、マネジメントの側がチェックできる仕組みが求められている。いや、それだけでなく、部門単位でも収支の集計を行なって、採算で目標管理するべきだ--こういう理由から、最近、大手のSIerではプロジェクト採算管理システムの構築が活発だ。そもそも、システム開発はお手のものだから、自社ニーズにマッチした仕組みを自社内で作ってしまおう。そう考えられておられる会社もかなりある。

でも、ちょっと待ってほしい。かりにあなたが、見知らぬ街でタクシーに乗っているとする。運転手に行き先を告げたが、いつ着くのか、いくらかかるのか、あなたはよく分からない。目安の時間と値段は、あるいは事前にたずねることもできただろう。しかし現実は道路渋滞のために、別の道を通っていたりする。そもそも、運転手は十分信用できるのかどうか。わざと回り道をして、とんでもない料金を請求するのではないか・・・

そんな疑いを持っているとき、あなたは、タクシーの料金メーター・システムが正確であれば大丈夫だ、と思うだろうか? 着いたときにメーターを見て、金額に驚きはしないだろうか? いやいや、乗っている最中も、3分おきにメーターを見て料金をチェックしているから問題はないのだ、と考えるのだろうか? でも、目的地まであと何㎞あるのか分からないのに、現地点までの料金だけ正確に把握したからといって、いったい何の足しになるのだろうか?

プロジェクトの採算管理システムが重要だと信じている人は、タクシーの料金メーターをにらみつづけている乗客によく似ている。すでに過ぎてしまった結果だけを管理しているのだ。そんなのは「管理」の名に値しない。管理というからには、これから先の行為をどうすべきなのか、判断し指示できなければならないからだ。

そのためには、現時点までに費やしたコストと、現時点における進捗データが、完全にリンクしていなければ意味がない。タクシーでいえば、現在地から目的地までの距離が、リアルタイムに正確に分かっている必要がある。そうなれば、あといくら料金がかかって、最終的にいつ着くのかを推定できるだろう。おかしければ運転手に軌道修正を要求できる。そのためには、GPSとカーナビを積んでいるタクシーを選ぶべきだ。

同様に、プロジェクト採算管理システムを構築するのだったら、プロジェクトの進捗把握と残作業量を同時につかまえられる仕組みにしなければならない。進捗管理とは、「どれだけ進んだか(工数を費やしたか)」ではなく、「あとどれだけ仕事が残っているのか」で測るべきものだからだ。

その点は大丈夫さ。我が社はプロマネから残工数やETC(Estimate to Complete=完了までの予想費用)をヒアリングして入力することになっているから。そう答えられた会社もある。でも、そのデータは、リアルタイムですか?

多くの会社では、採算の集計は月次に行なわれる。工数集計は人事・勤怠管理システムから集計し、外注費は発注検収システムから受け取る仕組みになっており、そうした会計処理の多くが月次だからだ。だが、システム開発が短納期化して、6-9ヶ月のプロジェクトが珍しくなくなってきた昨今、はたしてこれでリアルタイムの把握といえるだろうか? へたをすれば、プロジェクト全体の1/6=17%の誤差が、集計遅れのために発生しているのだ。あなたは1日に4時間も遅れる時計を信用していられるだろうか? 私はごめんだ。

採算管理は進捗管理とセットでなければ意味はない。会計処理ではないのだから、1円単位の正確さは不要だ。しかし、プロジェクトの進捗状況にひもづいたコストが、最大でも1週間以内に集計されてこなければ役には立たない。そのためには、進捗と消費工数を、プロジェクト・チームの構成員全員が、毎日入力できるようになっている必要がある。外注作業についても、同様に進捗(出来高)がリアルタイムに見えるべきだ--「e工程マネージャー」の設計思想は、そこにある。

べつに我が製品だけを宣伝するつもりはないが、採算管理とはそういう観点から考えるべきものなのだ。プロジェクトの失敗は、たしかに採算割れに現れる。しかし、それは最終結果なのだ。タクシーの料金メーターだけを見ても、それは結果論に過ぎない。運転手が道を間違えているとき、それに途中で気づくためには、リアルタイムの進捗管理が必要なのである。
by Tomoichi_Sato | 2005-07-13 23:03 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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