生産管理とはどういう仕事か

初めて会社に入って、配属の辞令をもらったときのことは、よく憶えている。ぼくらの会社では、新入社員は最初しばらく、本社で集合研修の日々が続く。皆で役員や先輩の話をきいたり、グループで討論したり、富士山の麓まで合宿に行ったり、工場見学に行ったり(エンジニアリング会社というのは工場作りが仕事のくせに、自分では工場を持たない)・・その間、みな自分がどの部署に配属になるのかは聞かされないのだ。それが一月近く続いた連休前のある日、初めて辞令の紙をもらい、所属の部署に挨拶に行く。

さて、自分の席に座って、与えられたのは仕事ではなく、問題だった。紙にきれいにプリントされた英文の問題が、図表もついて数十ページ。内容は、石油精製工場、つまり製油所の生産計画を立案する問題だった。ここで生まれてはじめて、生産計画という仕事に触れたのだ。

なぜ自分では工場を持たない会社のエンジニアが、生産計画を考えるのか。それは、工場の生産性を最大化するための必須の要素だからだ。工場は、原料を流し込んで、ボタンを押せば自動的に製品が出てくる場所とはちがう。製品の種類は何十とある。原料(原油)はじつは産地により性状が一定ではない。おまけに連産品といって、ガソリンもLPGもジェット燃料も、同時に一緒にできてしまう。マグロをバラしたらトロだけでなく赤身もカマもみんなとれてしまうようなものだ。どれか一種類だけ、つくると言うことができない(その比率はある範囲内でかえることができる)。だが、かえるためには装置の容量やランニング・コストも変わる。こうして、生産計画はいつのまにかひどく難しい問題になる。

その問題はうんうん唸りながら、二週間かけてやっと解いた。手計算だが線形計画法(LP)の手法も使う必要があった。制約条件がきつくて、実行可能な解を得るのが至難の業に思えた。しかし、おかげで、生産というものの構造がすっかり頭に入った。目的も、条件も、制約も。つまり、先輩たちが意図したとおりの教育効果があったわけだ。

生産管理とは、工場の生産性を最大化する活動のことだ。ところで、『生産性』とは何だろうか? この問題は、案外正しく答えられる人が少ない。こういう点が企業の不思議なところだ。目的が与えられているのに、その目的の正確な意味をよく知らないまま動いている。しかし、いわゆる経営工学やマネジメント理論では、生産性は単純・明快な定義が与えられている。それは、こういう式だ。

    [産出量]
生産性=--------
    [投入量]
    
実に単純である。ただし、どこにでも当てはまるよう一般化されすぎていて、生産の現場では誤解を生みやすい。

一番ありがちな誤解は、産出量は生産数量で、投入量は原材料数量である、という誤解だ。あるいは、産出量は生産金額、投入量は原価、という誤解もある。前者は、収率ないし歩留とよばれる量だし、後者は売上高原価率(の逆数)にすぎない。

正しい定義は、こうである:

    [付加価値額] [売上高-外部購入費用]
生産性=------------ = ----------------------
    [投入労働量]   [投入労働量]

これを正確には付加価値生産性と呼ぶ。分母の労働量は、従来は従業員数で示すのが通例だったが、最近はパートタイム・派遣工や工場内外注や偽装請負などがあって、正確な指標ではなくなってしまった。そこで、直接労働時間をとることもしばしば行われる。

付加価値とは、購入してきた材料を変形・加工・組立することによって生まれる。これを製造の直接作業とよぶ。生産管理の仕事とは、すなわち、直接工の人たちが、いかに無駄なく、効率よく仕事できるかをお膳立てし、サポートする仕事である。そのために、何をどの順序で作るかをきめ、それにしたがって材料や部品や機械や治具を供給し、作業の依頼を出し、トラブルがおきたらすばやく解決する。これが生産管理だ。

生産管理を「生産のマネジメント」だととらえると、なんだか偉そうな、立派そうな仕事に聞こえる。製造現場に命令・采配するような印象がある。それは誤解である。生産管理とは、高校の運動部のマネージャーのような存在だと思った方が良い。主役は、モノに加工を行って付加価値を生じせしめている直接工の人たちである。彼らがプレイヤーなのだ。マネージャーはプレイヤーが気持ちよくプレーできるように、雑用を承る役割である。

そうしたサポート的な役割なのに、なぜ、現場に指示や依頼を出せるのだろうか。なぜ、そもそもそんなサポート役が必要なのだろうか?

理由は二つある。第一に、「生産工場は大きなシステム」だからである。大きなシステムは、どこを押したら、どこがどう加速するのか、あるいは引っ込むのか、簡単ではない。工程・資源・要員・材料・スペースなどの要素が複雑にからみあっている。これをよく知った上で運転する人が必要なのだ。単に材料をどばどばと第一工程につぎ込めば生産性が上がるわけではない。

第二の理由は、第一ともからむが、要素が多くて、頭だけでは考えきれず覚えきれないからだ。だからITなどの道具を使って、何がいくつどこにあって、いつ使われる(使われた)かを計算する必要がある。この職種が分業の結果として生まれたのだ。

生産管理とは、そういう仕事である。あくまで、サポーターであり雑用係とも言える。生産管理部の人間は、付加価値を産出する仕事には実際にはタッチしない。つまり、ある意味では余計なスタッフなのである。しかし、彼らの仕事が、製造現場の生産性を向上させるなら、そこには意義が生ずる。200人の工場に、10人の生産管理部員がいたとして、その努力によって直接労働の生産性が5%以上あがれば、それは必要な仕事なのだ。ただ、それは主役ではないということを忘れてはいけない。
by Tomoichi_Sato | 2008-04-09 23:49 | サプライチェーン | Comments(1)
Commented by とある生産管理部の人間 at 2014-02-15 00:25 x
読んでいて一理あるとは思いますが、サポーター、雑用係とはあんまりな言い方ですね。受注の仕事を行う順序は?原料、部材の手配、工程の進捗管理、在庫管理、不合格品が発生したときの処置方法、出荷の手配。設備導入の検討。作業員獲得の為の稟議etc。こんなこと作業者、生産活動しながらできますか?むりでしょ。高校の運動部のマネジャーなんかおらんでも部活はできますが、生産管理がいなければ工場は、まともに稼働しません。仕事の予定が曖昧ならみんな好き勝手に有休とって休みますよ。生産数量なんてほとんど上がらないのでは?
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