プロジェクト・マネジメントの世界は動いている その3

先週は東京でPM関連の大きなイベントが二つあった。10・11日は「国際プロジェクト&プログラムマネジメント・シンポジウム」 が江戸川タウンホールで開かれ、また14・15日にはプロジェクトマネジメント学会春季大会 が白山の東洋大学キャンパスで開催された。いずれも数百人の参加者を集め、盛況だ。PMに関する関心が世間で高まっていることは明らかなようだ。ちなみに私自身はPM学会で「Convertible LSTK契約によるプロジェクト・リスクの緩和」という研究発表を行った。

日本PM学会は、今年9月にアラスカのアンカレッジで開催される予定の国際大会ProMAC 2008を応援しており、参加をさかんに呼びかけている。ProMACは2年ごとに開かれるアジア/パシフィックの大会で、私自身も、2004年の東京、2006年のシドニーと2回にわたり、研究発表を行った。今回のPM学会の懇親会にも、アラスカからゲストが見えて、日本人に海外に目を向けてほしいと呼びかけていた。

しかし国際色という意味では、「国際プロジェクト&プログラムマネジメント・シンポジウム」(IP&PMS)の方が上をいっている。この大会、講演者の半分近くが外国人、ホームページも講演プログラムも予稿集も全て英語である。むろん、何も別に英語だから偉いと言っているのではない(念のため)。参加者の顔ぶれのバラエティから、必然的にこうなったということである。主催は日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)だ。

PM学会の発表は、どちらかといえば実務に根ざしたプロジェクト運営の改善研究が多い。他方、IP&PMシンポジウムはハイレベルな戦略論ないし経営論に近い視点の講演が目立つ。前者はプロジェクトの現実に悩むIT業界系参加者が中心であるのに対し、後者はエンジニアリング業界なども加わり、プロジェクト&プログラムという上位の視点をメインに据える違いが現れているようだ。私には、どちらもとても面白かった

とくに興味深かったのは、IP&PMシンポジウムの最後に行われたパネル・ディスカッションだ。壇上にはなんとPMI・IPMA・PMAJ・AIPMの代表者/元代表者が顔をそろえて議論を行ったのだ。念のため書いておくと、国際的PM団体=PMI、国際PM標準=PMBOK Guideだけ、と信じている人が案外多いが、これは“アメリカ=世界”と思いこみがちな日本の視点の狭さを表しているに過ぎない。

ところで、「なんで世界に国際プロジェクトマネジメント団体がいくつもあるんだよ? PMの理論や技法は世界共通だろ? 資格だって、なんで国ごとに作る必要があるんだ。」と疑問に思われる方もいるだろう。当然の疑問だ。この狭い日本にも、PM学会とPM協会とPMI東京支部が3つひしめき合っている。この議論を、パネルディスカッションの司会者Hugh Woodward(米国人・元PMI会長)があえて、"burning question"として提起したから面白い。

Adesh Jain(インド人・初めての非欧州人のIPMA理事長)は、「医師やエンジニアのように、異なる資格の間での対応付けmappingをするべきだろう」と答える。これはある意味で順当な意見だ。Lynn Crawford(豪Bond大学教授・AIPM理事)の答えは、「競争があるのは健全だ。何事も独占はよくない」というものだった。たしかに、互いに切磋し刺激しあって良い標準を作ればいいとの見方にも一理ある。

PMAJの田中理事長は、「PMIメンバーの80%はIT業界だが、IPMAは非IT業界が80%を占めている。一口にプロジェクトといっても、その性質や文化の違いは無視し得ない」という考えだ(ちなみに、今回これだけそうそうたるメンバーを集められたのは、PMAJ田中理事長の力量だろう)。

しかし、一番共感したのは、Ralf Muller(スウェーデンUmea大学教授)のコメントで、「資格というのはそれを必要とするマーケットのニーズで動かされるものなのだ」というものだ。言いかえれば、供給者側がそれをコントロールしようと考えるのがおかしいので、一番世の中に必要とされ受け入れられる資格が、次第に生き残り発展していくだろう、という見方である。これはいかにもヨーロッパ人らしい、大人の見方だな、と思う。同時に、以前『誰のための資格?』『資格はユーザーのためにある 』(「コンサルタントの日誌から」2003/01/13, 21)に私が書いた意見とも共鳴するからだ。

今後複数の団体がどのようになっていくのかは、分からない。しかし、世の中のニーズが減っていくことは、もはやあり得ないと思う。プロジェクトマネジメントは初期の啓蒙期を過ぎて、すでに普及発展期に入っているのだ。それが今回、私が一番感じたことだった。単一プロジェクトだけでなく、複数プロジェクトをハーモナイズして動かしていくマネジメントも、ますます重要になりつつある。こうした国際大会に参加するたびに、ますます目の離せない分野だと痛感するのである。
by Tomoichi_Sato | 2008-03-17 21:54 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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