課題、ペイン、そしてソリューション

ソリューション」という言葉を最初に流行らせたのは、'90年代の米国IBMだったと言われている。はじめのころは、「単に最新型CPUを載せたPCハードです、といって売れた時代はもう終わる。これからは顧客のソリューションとなるシステムでなければ売れないだろう」といった言い方だった。それがいつの間にか今日では、「最新型アーキテクチャのソリューション!」という具合に、単なるハードやソフトの出来合い商品をさすのに使われてしまっている。IT業界における典型的な“用語インフレ”の一つだろう。いまでは他の業界でも「ソリューション」を名前に冠する会社は少なくない。

しかし、発祥の地のIT業界でも、さすがにもう企業のCIOたちは『ソリューション』という語に不信感を抱くようになってきたらしい(たとえば『CIOが抱く「ソリューション」への不信感』日経ソリューションビジネス・記者の目2006年6月)。ソリューションとは何か、と正面切って問われれば、「課題への解決策だ」と誰しも答えるに違いない。それが英語の原義なのだから。

問題なのは、その『課題』を、誰が定義しているのか、という点である。これを勝手に売り手が想定して、しかもワンサイズ衣料品的に、どの顧客にも売っていることに矛盾があるわけだ。それでは、ソリューションとは一体何だろうか?

じつは、企業のかかえる課題は、大きなレベルの戦略課題から、小さな日常レベルの課題まで、いろいろな形で存在している。会社員という人種は、誰もが自分の職務範囲に応じた課題意識を持っているものなのだ。そうした課題を、ちょうどプロジェクトをWBS(Work Breakdown Structure)に分解するように、階層的に分解することができる。すると、どの企業でも第1レベルには7種類の課題が共通して並ぶ、というのが私の経験から得た結論だ。たとえばその一つが、販売力の拡大である。受注増加や売上増加といってもいい。

ところで、ある先輩コンサルタントの語るところによれば、良い営業マンとダメな営業マンを見分ける簡単な方法があるという。自分の商品説明から話をはじめるのは、じつは愚の骨頂なのだそうだ。商品説明をはじめれば、顧客は売りつけられていると感じる。そうなると、どんな顧客も身構えてしまう。だから、良い営業マンは、ぎりぎりのタイミングまで、自分の商品説明は控える。では、何を話すのか? それは、顧客側の問題なのだ。良い営業マンは、顧客との会話の時間の8割までを、顧客側の問題について話すことに使うのだそうだ。

これは私自身にとっても、耳の痛いアドバイスだった。私は技術屋だ。だから、セールスの場面では、つい自分の技術を売り込みたくなる。しかしそれは、「自分の技術に惚れている。つまり自分に酔っているにすぎない」のだと言われてしまった。私に限らず、技術志向の会社の営業は、どうしても技術的優位性、ということに関心が向いてしまう。だから発想が「プロダクト・アウト型」のセールスになる。

その先輩によると、優秀な営業マンは、同業他社に引き抜かれても、移った先で良い成績を上げるものだという。これは当たり前に見えるけれども、実はよく考えてみると不思議なことだ。なぜなら、元の会社の製品が他よりも技術的に優れているから売れたのなら、移った先では成績がふるわなくなるはずだからだ。にもかかわらず、どこでも良いセールスを上げられるということは、じつは販売力は製品の「技術優位性」にはあまり依存しないのだ、ということを表している。では価格なのか? いや、そうではない。競争環境下では、価格は自ずとある範囲内に落ち着いてしまうし、そもそも良い営業マンは安売りセールスなどには頼らない。

だとすると、ポイントは何か。それが、課題とソリューションを結ぶ顧客の「ペイン」(痛みを伴う問題)の掘り起こしなのだ。ペインとは、顧客が無意識のうちにかかえている問題、あるいは意識には上りつつも解決をあきらめてしまっている問題、のことだ。良い営業マンは、このペインの発見に長けている。顧客のペインに対して、自社の製品を「ソリューション=解決策」として提示できる。そのペイン(痛み)の大きさに比例して、顧客にとって価値が高く感じられる。価格競争から、頭一つ抜け出せる。これが付加価値セールスの源泉なのだ。単にモノを売っているのとは全然別である。

ここまで、私が「課題」と「問題」を慎重に使い分けてきたことにお気づきだろうか。「課題」は意識して(カッコつけて)いうことがたやすい。中期経営計画にも有価証券報告書にも書くことができる。課題は企業間で共通性が高いのだ。しかし「問題」は個別性が強い。問題は人に言いたくない。販売力の強化、とは書けるが、営業統括役員が無能だ、とは口に出せない。価格競争力の向上、とは書けるが、毎回赤字覚悟でたたき合っている、とはいえない。なぜたたき合いになるのか? それは「技術的優位性が足りないからだ」と『課題』はいうだろう。しかし、じつは「顧客のペインにたいして自社の製品をソリューションとして位置づけることができていない」ことが『問題』なのだ。

それでは、具体的に顧客のペインを見つけるにはどうしたらよいか? これはむずかしい。問題はたいてい個別性の泥の中に隠されているからだ。しかし、手がかりはある。少し長くなってきたので、これについてはまた次回書こう。
by Tomoichi_Sato | 2008-02-10 23:41 | 考えるヒント | Comments(0)
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