ATO、BTO、CTO

生産管理の本を読むと、最初に生産形態の分類が出てくる。「受注生産」と「見込み生産」だ。受注生産はさらに、個別受注生産と繰返し受注生産に分けられる。

見込み生産は、たいていの人が思い浮かべる生産方式だろう。需要を見込んで、製品を生産し、販売していく。商店街のパン屋も、横町のお団子屋も、見込みで商品を生産している。食品、飲料、衣料、書籍、雑貨・・こうした、我々が日常生活で買う商品はほとんどすべて、見込み生産で作られる。携帯電話や自動車も、そうだ。こうした一般消費財をつくるメーカーは、TVでも新聞でも、たくさん広告を打つ。知名度を上げて、皆に買ってもらいたいからだ。だから私たちが「大企業」といわれて思いつく会社は、たいていが消費財メーカーだ。

そのせいだろうか、日本では生産形態は見込み生産が普通で、受注生産は特殊だと思っている人が多い。じつはとんでもない間違いである。自動車を考えてほしい。トヨタ自動車の下に、系列部品供給メーカーが何百いるだろうか。こうしたメーカーは、みな受注生産だ。ただし、生産財を作っているから、業界の人以外には知られていない。この間、何人もの大学生にたいして、日本を代表する超優良電子材料メーカーの名前をいくつか上げて知っているかたずねてみたが、ほとんど誰も知らなかった。これから就職活動にいそしむ3年生なのに、消費財メーカーにしか目が向いていないのだ。これでいいのだろうか?

いや、思わず脱線してしまった。私が言いたいのは、日本では受注生産の形態の方がずっと多くて、普通であるということだ。

その受注生産は、さらに2種類にわけられる。繰返し受注生産は、すでに設計の決まっている製品を、注文を受けてから作る。寿司屋のカウンターで注文するようなものだ(回転寿司は、見込み生産である)。本格的な鰻屋もそうだ。客の顔を見てから作る。一方、毎回、ゼロから設計して作る形態も、少なくない。たとえばオーダーメードの服屋さんを思い出してほしい。あるいは、注文住宅の大工さん。基本的に、建設業は個別受注生産だと思って間違いない。そして、SIerの業界もそうですね。個別受注生産は、お客の細かな希望/要望をすべてくみ上げることができるのが長所だ。

見込み生産のことを、英語ではMake to Stock=MTOと呼ぶ。作って在庫にする、の意だ。一方、繰返し受注生産は、Make to Order=MTOという。注文にたいして作る。そいして、個別受注生産を、Engineer to Order=ETOと略す。

ところで、この3種類にたいして最近、新しい生産形態があらわれ、急進してきている。それが、ATOなのである。ATOとは、Assemble to Order。日本語で、『受注組立生産』という。

受注組立生産とは何か? それは、部品あるいは中間製品やモジュールの段階まで、あらかじめ需要を見越して作って在庫しておく。そして、顧客から注文が来たら、即座に部品/モジュールをあつめて組立て、出荷する形態だ。

こんなやり方がなぜ注目を集めているのか。それは、このATOが、MTSもMTOもETOも抱えていた悩みを、かなり解決できるからだ。それは、リードタイムと在庫のバランスの悩みである。

ETOは何しろ、注文してから設計をはじめる訳だから、納品までのリードタイムがやたら長い。洋服でも3週間、住宅なら3ヶ月、プラントなど3年もかかってしまう。その間にお客の要望も懐具合も、どんどんかわっていってしまう。MTOは既に設計図がある分だけリードタイムは短いが、やはり注文してから材料を買って加工し始める。今日の明日、というわけにはいかない。

これにたいして、MTSは注文・即・納品。なにしろ在庫がある。そのかわり、売れ残りや陳腐化の在庫リスクを、つねにメーカーは抱えている。そうしたリスク費用が、すべて乗せられて値段が決まる。客の好みは多様だから、ひどくたくさんの種類の製品在庫を積んでおかなければならない。そのコストは半端ではない。

ここで、ATOの出番である。ATOでは、顧客の要求する仕様に応じた製品を、その場で、中間部品やモジュールの組合せで実現する。これを最も早くから見事に実行したのがDell Computerである。PCのたぐいは、仕様やオプションのバリエーションがとても多い。そこで、Dellは客が自分で「お好みメニュー」を選べるようにしたのである。そして、部品在庫はもっておく。だから注文して数日のうちに、好みの商品が送られてくる。

Dellではこの方式をあえて、BTO=Build to Orderと呼んでいる。だから、受注組立生産のことをBTOとよぶ人も多い。また、客先の希望に応じてコンフィギュレーションしていくわけだから、Configure to Order=CTOとよぶこともある。

ATOが巧みなのは、きわめて多様な顧客の要求仕様を、部品組合せのかけ算によって実現している点である。たとえていえば、1,000種類の要望があっても、それをCPU 10種、メモリ10種、ディスク10種の組合せで対応する。だからモジュール部品在庫は水準を低く保てる。たとえていえば、麺のかたさやトッピングを好きに選べるラーメン屋のようなものだ。

そのかわり、ATOには前提条件がある。それは、モジュール化に対応した設計になっているということだ。BOM(部品表)もその設計に応じた構成に整備しなければいけない。つまり、ATO生産のためには、設計の根本から対応を要求されるのである。

それでも、なおMTSやMTOからATOを目指す企業は多い。それは、やはりリードタイム短縮と在庫低減の効果が、非常に魅力的だからである。今後も、ATO生産形態を目指す製造業は、増えこそすれ減ることはないだろう。
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by Tomoichi_Sato | 2007-11-09 00:31 | サプライチェーン | Comments(0)
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