高い買い物をする方法

「安い買い物をする方法」についての解説は、インターネットにたくさん出ている。と思う。誰もが安い買い物をしたいと思っている。“ウチの店なら安い買い物ができます”という情報は、もっと多いに違いない。

そこで、このサイトでは差別化のために、「高い買い物をする方法」を教えようと思う。おっと、“高価なブランド品・高級品を買う方法”ではないので、誤解なきよう。あくまでも、本来ならもっと安く買えるものを、あえて高いお金を払って買う、非常に社会貢献度の大きな方法である。もちろん、経営者から怒られたりはしない。むしろ、誉められたりする。その方法である。

まず、買うべき対象のものであるが、自社仕様品でなければならぬ。世の中にあふれているコモディティ(日用品)で、店に行けば棚に並んでいるようなモノでは、誰でもどこが安いかわかってしまう。これではいけない。そもそも、自社のビジネスのために購買するものである以上、自社の要求にぴったりとフィットしていなければならぬ。とうぜんながら、求める仕様も、細かく微妙だが多岐にわたる。これは、過去の経緯や実績をふまえ、かつ社内各部署の便利を考えた上で、同業他社との差別化がはかられた仕様であるから、当然の結果である。「ニーズにあった、最適なものを買う」--こう主張すれば、役員会でだって、胸を張って説明できよう。(ただし、決して“特注品”などと呼んではならぬ。言葉づかいには注意すべきだ)

ところで、この「仕様」を決める際に、重要なポイントが一つある。それは、できるならば『構成・構造』ではなく『性能』で定めるべき、ということである。何気筒何千cc排気量のエンジンを積んだ自動車、などと指定してはいけない。時速200kmで何時間突っ走っても平気な乗り物を、というべきだ。解説は不要だと思うが、ユーザというのは基本的に、生産財であれ消費財であれ、機能にたいしてお金を払うものだからである。

製品の性能は、内部構成・構造の設計結果から生まれる。だから買い手は、メーカーがいかに部品構成を設計するかなどに口出しすべきではない。もし、「何気筒何千cc」的な仕様でモノを買って、それが200km/hで走れなかったら、誰が責任をとるのか? 仕様を満たす責任は、必ずメーカーにとらせるようにしなければ、賢い購買とは言えない。設計はメーカーの仕事であって、見積はそれをタダでやらせる絶好の機会である。設計の結果生まれたアイデアは、無論もらっていいのだ。

さて、個別仕様品を購入することが決まったら、次は見積引合である。当然ながら、たとえ形式的にでも、3社以上から競争見積をとるべきだ。同じモノをくりかえし買う場合でも、頻繁に競争をさせる。こうすると、ベンダーの営業に刺激を与えるから、とても良いサービスを引き出すことができる。なお、打合せにはなるべく大勢の人間がぞろぞろ出てくるような会社を選ぶのが望ましい。こういう会社は、管理システムがしっかりしていて、専門分化した職種間で誰もお互いにリスクをとらないようできている。だから販売管理費もとても高くなる。

リスクといえば、自社にとってリスクとなる部分は、すべてベンダーに押しつけることが肝要である。これはリスク・マネジメントの観点からみて、当然すぎる処置だろう。したがって、仕様書はなるべく曖昧な文章で、かつ詳細に多岐にわたって明文化すべきである。そうすれば誰が見たって立派な購買プロセスである。できれば引用文献や標準図書などを多数オマケに付けてあげるべきだ。そうすればベンダーの設計部も喜ぶだろう。

見積引合をとるときには、なるべく短期間で出させること。これは案外見過ごされているが重要なコツである。2週間より1週間がよく、3日よりも「明日まで」がいい。こうすれば、ベンダーの営業マンは徹夜であなたの会社に誠意を見せてくれるし、しかもコストダウンを検討する余地などなくなる。ただし、注意。建設業の世界では、700万円以上の想定価格のものを、3日以内に下請けに見積もらせると、明確な法律違反になる。コンプライアンスの観点から、こういう場合は口答で指示して、下請けの「自主的営業努力」にまかせなければならない。なに、同情など不要だ、なぜならあなたは高い買い物をしてあげているのだから。

また、購買組織を本社に集中化するのも、ぜひともとりたい手段である。集中購買の担当者はたいてい文化系で技術は知らないから、「この材料をこう変えればコストダウンになる」などという知恵を出す心配はない。彼らの仕事はバイアウトであり、値切り率が勲章である。だから、あなたもベンダーの営業マンに対しては、“購買部門に値切りシロをのせて持って行きなさい”と耳打ちすることができるだろう。こうすれば、5%アップでオファーされた見積書を、3%値切って買うことができる。かくて、あなたもベンダーの営業マンも本社の購買マンも、誰もがハッピーである。かつ、ベンダーに恩を売ることもできたわけだ。

発注量は、ぜひ多めにしたい。大量購買の方が効率的だと、誰もが信じている。品質問題だってある。鋳物にスが入っていたら、どうするのだ! 欠品は誰もが嫌がる。それに今どき、在庫金利なんてゼロ同然ではないか。多めの注文を、なるべく短納期で発注しよう。それも、ときどき急な変更や飛び込み注文も出して、ベンダー側が怠惰にならぬよう刺激を加えるべきだ。製造直前の変更は、目に見えにくいコストがとてもかかるが、それは営業のせいでも設計のせいでも工場のせいでもないから、誰も傷つかない。たんに、高コスト「体質」のせいになるから、全体にうっすら価格が上がるだけだ。

では、おさらいをしてみようか。高い買い物をする秘訣は、次の通りである:

●自社仕様品を買う
●あいまいな性能要求で見積もらせる
●分厚い引合い書類をわたす
●設計をさせる
●アイデアをうばう
●形式的にでも競争見積にする
●短期間に見積もらせる
●集中購買にする
●短納期で多めの量を注文して直前に変更する・・・

こうすれば、必ずやメーカーでは設計費や販売管理費がかさんで、高い買い物をすることができる。そして手続きは購買管理の教科書にのるぐらいに適正である。

読者諸賢。これこそ、日本の製造業が大きな内需を生み出す秘密である。2010年には、中国のGDPが日本を抜くのは、ほぼ確実だろう。しかし、一人あたりGDPではまだしばらく差があるはずだ。だから、高い買い物は当分つづけられるはずである。え? この秘密を海外メーカーも知ったらどうしようかって? --心配はご無用。このサイトには、英語版は(まだ)存在しないから。
by Tomoichi_Sato | 2007-10-23 22:44 | サプライチェーン | Comments(0)
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