みなとみらいホールにて。
副題は「愛するがゆえに笛は飛ぶ」。まあ実に、江崎さんらしいタイトルではある。 曲目は、バレンタイン・デーにちなんで、第1部は江崎浩司・脚本編曲による音楽物語「シンデレラとウグイス夫婦」(エイク・クープラン・モーツァルト・クライスラーなどの小曲とナレーションで構成する)、第2部はヘンデル・スカルラッティ・ヴィヴァルディなどのバロック歌曲をオーボエで演奏する前半と、バッハ・モンティ・R=コルサコフ・モーツァルト・ドビュッシーなどのヴァイオリン曲やピアノ曲をリコーダーで(!)演奏する後半からなる。実に意欲的なプログラムだ。 それにしても、この人の笛の巧さは、まことに驚嘆すべきレベルだ。長久真実子さんのチェンバロ伴奏も良いが、「マルチ笛吹き職人」を自称する江崎さんの演奏のクオリティの高さには、心底驚いてしまう。リズムの正確さ、音程やフレージングの絶妙さ、指使いの速さ(誰がいったい「くまんばちの飛行」や「チャルダッシュ」をあのスピードでリコーダーで演奏できるだろうか!)、ブレスの巧みさ、そして何よりも歌心の繊細な表現が素晴らしい。これほどのレベルのリコーダー奏者は、賭けたっていい、世界中を探しても、そうは居まい。 しかも、彼はどんどん上手くなってきている。今回出たばかりのCD「空飛ぶ笛」を買ってかえって聴いたが、彼がほんの3年前に録音した缶入りCD「Bath Herb & Music」と聴き比べてみると、その進歩の度合いが分かる。同じジャズ曲「煙が目にしみる」が入っているが、その差は明瞭だ。この人は最近2,3年で、はっきりと音楽とは何かをつかんできたのだ。小節線に区切られた音のかたまりではなく、歌うフレーズの生きた流れとして、音楽を表現できるようになっている。30代の人間の成長力というものだろう。 それほどのレベルの演奏会を、横浜みなとみらいの小ホールで、満員とはいえない人数の聴衆とともに、たったの3千円で聴けるのだ。この国の音楽環境の良さを感心するよりも、この国の音楽愛好家の耳のありかを疑ってしまう。本当にこれでいいのだろうか? 彼が先月タブラトゥーラで披露したオリジナル曲のタイトルに「だれもわかってくれないし」というのがあったが、まさに、彼の気分を表わしているに違いない。サントリー・ホールで、大真面目に「男はつらいよ」を演奏して、耳が化石になった石頭連中の顰蹙を買ったりした彼だ。成長しつつある彼の才能は、今やクラシックだの古楽だのといった枠の中に押し込めておくには、大きすぎるようになったのだ。 どうか、江崎さんのコンサートがあったら聴きに行ってほしい。これからも彼がどんどん新しい音楽に挑戦していけるようなチャンスに恵まれることを、私は切に祈っている。
by Tomoichi_Sato
| 2005-02-10 23:49
| 映画評・音楽評
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