購買リードタイムとは何か?

知人が調剤薬局に薬をとりにいった。やや特殊で高価な薬である。順番がきたので窓口にいったら、担当の人が「申し訳ありません。この薬は今、在庫が無くて取り寄せになりますが、2~3日お待ちいただけますか?」という。知人が、手元に数日分あるから待てます、と答えると、「もし定期的に購入されるのでしたら、在庫しておきますので次回からはお待たせすることはありませんが、どうしますか」とたずねられたそうだ。

医薬品はふつう見込み生産されている。だから、メーカー在庫は必ずある。かりに薬局に在庫が無くても、2~3日で取り寄せられる。医薬品は人の命にかかわる場合もあるので、メーカーは『供給責任』の名のもとに、必ず在庫をもっておくものなのだ。ちなみに医薬品は国が価格を決める特殊な商品で、どこの調剤薬局にいっても値段はかわらないのが原則だ。だから、その薬局に格別不満がないかぎり、知人が定期的な利用をコミットすれば、購買リードタイムは数日間から数十分に短縮できる。つまりほぼゼロになるわけだ。

このエピソードを紹介したのは、購買リードタイムを決める要素が、短いやりとりの中にすべてあらわれているからだ。製品在庫、定期的な消費、コミット(約束)、価格、見込み生産、取り寄せ、輸送・・。

リードタイムとは、何らかの指示(オーダー)を出してから、それが完遂(フルフィルメント)されるまでに要する期間のことである。調達においては、購買オーダーから納品までの期間をさす(なお、購買と調達を区別する場合もあるが、ここでは説明を省く)。注文してから、手元に届くまで。

生産管理システムやスケジューリング・システムでは、購買リードタイムを標準日数(固定値)としてマスタに登録する場合が殆どである。では、この日数は、誰がどのように決めるべきか。また、その日数の信頼性や、その短縮方法はどう検討すべきか。こうした問題は、従来の生産管理理論があまりフォローしてこなかった領域と思われる。

たとえば、ある部品の購買リードタイムが2ヶ月とマスタに登録されているとする。ところで、その部品はじつは毎月買っているものだとしよう。このリードタイムの値は正当だろうか、それともおかしいだろうか?

集中購買を行なっている会社では、購買部門がリードタイム日数を登録・メンテしているケースが多い。購買部門はその品目の取引を新規にはじめた際、サプライヤーに引合いをして価格と標準納期を決め、登録する。価格は年に1回くらいネゴを行なって見なおすだろう。だが、リードタイムはそのままにされる場合が少なくない。納期は、個別には催促することもあるが、標準値をネゴって短縮できるものではない(また効果も少ない)と購買部門は考える。なぜなら、購買リードタイムとは、サプライヤー側にとって見ると、注文を受けてから出荷するまでの生産リードタイムに相当するからであり、旋盤で4時間かかるものを3時間にまけておけ、と言ったって現実的ではないはずだ・・。

ところが、これは大間違いなのである。冒頭の調剤薬局の例を思いだしてほしい。定期的に消費がコミットされるものは、製品在庫として置いておくことが可能になるのだ。コミットというと、なんだか『引取り保証』のようなものを連想されるかもしれないが、それは極端な例である。サプライヤー側にとって、“見込みが立つ”商品は、(よほど高価な部品でないかぎり)見込み生産ができるのである。

つまり、購買リードタイムを決めるのは、サプライヤー側の見込みと購買側の予定(思惑)とを、どれだけ一致させられるかという事である。購買予定が継続的で平準化されていれば、それだけサプライヤーは見込みで先行生産が出来るから、リードタイムは短くなる。購入が断続的だったり、購入量のアバレが激しい場合は、こわくて見込みでは作れない。いきおい受注生産になるから、リードタイムは生産に必要な期間より短くはできないことになる。新規部品の場合は必ずこのケースだから、納期は長くなる。

もし、毎月購入する部品があったとして、それが比較的平準化されているならば、標準リードタイムは2ヶ月どころか2日でも納入できるように交渉可能なのだ。しかし量が毎月ひどくバラバラなら、在庫を置いておけとは言えないだろう。もっとも、半期や年間でならせば平均的というのなら、まだ多少の交渉の余地はある。

これは言いかえるならば、購買リードタイムの値を実質的に決めることができるのは、購買部門ではなく生産計画部門だ、ということを意味している。当初の登録は購買部門でも、それを見なおして短縮できるのは生産計画部門なのだ。なぜなら、購買部門は部品消費予定を決める立場にないからだ。集中購買方式をとる日本の少なからぬ企業が、ちっとも納期競争で海外に勝てないのは、こうした事情に対する無理解が生んでいる可能性も高いと私はにらんでいる。
by Tomoichi_Sato | 2007-07-01 15:07 | サプライチェーン | Comments(0)
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