確定購買と見込み購買

安全在庫の項にも書いたとおり、在庫には、用途の決まっていないストック在庫と、用途の決まっている(引当済みの)フロー在庫がある。これとよく似た区別として、部品在庫管理における、常備品・引当品という呼び方もある。ただし、常備品の在庫の中にも、じつは引当済みの分(フロー)と、未引当の分(ストック)とがあるわけだから、両者は厳密には別の概念である。

ところで、購買発注を考える際にも、この二種類に対応する区別が有益である。私はこれを「見込み購買」と「確定購買」と呼んでいる。前者はストック在庫のための発注であり、後者は使用予定の決まった購買手配である(入荷してから使うまでに時間がある場合にフロー在庫となる)。なお、理屈から考えると、受注生産の企業はすべてが確定購買になるはずである。しかし、完全な受注生産という形態は実際には存在しない。どの企業も納入リードタイムを短縮するために、なんらかの見込み手配を行なっているものだ。これはちょうど、注文を聞いてから魚を釣りに行く料理屋がないのと同じである。

ところで、古典的な在庫・購買管理理論では、この両者を区別していない。というより、計画生産における購買発注論が不在だというべきかもしれない。その問題点は、<発注点>方式において典型的に現れてくる。

たとえば、向こう1ヶ月間の生産計画が確定しているとしよう(これを、計画の<タイム・フェンス>が1ヶ月であると表現する)。あなたは在庫・購買の担当者だ。さて、部品Xはこの期間内に合計120個、生産に使われる(引当)予定だ。汎用部品で消費量は比較的安定しているため、ABC分析の結果、Xは発注点方式で在庫を維持することになっている。注文すると翌日に納品される。今、現在庫量で40個あり、発注点は25個、発注ロットサイズは100個だ。さて、あなたならどうするだろうか?

在庫管理理論にしたがえば、こうだ:生産計画を見れば何日目かに在庫が25個を切る予定がわかる。その日になったら、100個発注をかける(発注書は今日、印刷しておいてもいい)。翌日以降はまた推移を見ていくわけだ。ところで、まったくの素人をここに連れてきたら、どうするだろうか? おそらく、120-40=80個の不足分を、在庫が無くなる前日に手配するだろう。月末の時点で、あなたのやり方なら40+100-120=20個の在庫をかかえ、素人は在庫ゼロである。どちらが経済的だろうか。その違いはなぜうまれたのか?

あなたのやり方は発注点方式であり、これは「見込み購買」の典型である。一方、素人のやり方は「確定購買」である。もし本当に生産計画が確定しているなら(ここがミソだが)、部品Xは確定購買でいけるはずなのだ。

ところで、部品Xの購買リードタイムが1週間だったら、どうだろうか? この場合、次の生産計画が決まるのは1ヶ月後だとしたら、素人流の確定購買では、ちょっとだけ気持ちのわるい部分ができる。それは、はたして月末在庫をゼロにしていいのか、という点だ。翌月の最初の1週間にXを使用する予定が入ったら、欠品状態になってしまう。だからあなたは素人さんに、「最低1週間分の在庫量は残しておいた方がいいよ」とアドバイスしたくなるだろう。確定購買に見込み購買の要素が入ってくるのだ。もっとも、生産計画が半月ごとに見なおされ、計画確定期間がシームレスに連続していったら(これをローリング・スケジュールという)、こうした心配は不要になる。

では、部品Xの購買リードタイムが1ヶ月以上だったら、どうなるか? 素人さん流の確定購買では、アウトである。今から手配しても、80個の不足はどうしようもない。もっとも、半月前の前回計画時点に手配してあって、その納入予定があるのなら別だが、その数量が80個以上かどうかは、(今月後半の計画は不確定だったのだから)何の保証もないことになる。一方、発注点方式のあなたの場合はどうか。現在庫量がまだ発注点を切っていないのだから、納入予定もないだろう。やはりアウトである。

まとめてみると、こうなる:
(1)購買リードタイム < 計画のタイム・フェンス の場合は、確定購買
(2)そうでない場合は、確定購買+見込み購買、または見込み購買のみ

見込み購買には不確定要素があるから、かならず余剰在庫や欠品のリスクがつきまとう。したがって、これを減らしたければ、購買リードタイムを短縮するか(それにはベンダー側の協力がいる)、あるいは計画のタイム・フェンス、つまり計画確定期間を確保するかの、いずれかの努力が必要になる。計画確定には、営業部門の協力も必須だ。だから、<S&OP>(販売・操業計画)が大事になるのである。
by Tomoichi_Sato | 2007-03-26 23:09 | サプライチェーン | Comments(0)
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