タイム・マネジメントの心得

イベント・ドリブン」(event driven)という形容の句をご存じだろうか。外部から飛び込んできた出来事を起点にして動くような仕事の仕方、あるいは外部に振り回されるような状態を指す言葉だ。『割込み駆動型』とも訳す。もともとはコンピュータのソフトウェア工学で生まれた用語である。ユーザによるキーボード入力やマウスのクリックやメールの到着などを、出来事(イベント)と考え、それぞれに対応する処理を設計する技法だ。

たとえばコールセンターのような仕事は、典型的なイベント・ドリブン業務である。顧客からの電話がかかってきたことを起点に、仕事がはじまる。なすべき特定のタスクを、あらかじめ自分自身が抱えているわけではない。銀行窓口をはじめ、窓口業務にはこうしたスタイルが多い。

これと対極にあるのが、「スケジュール・ドリブン」な仕事のスタイルである。あらかじめ決めた計画通り、時間表にそって進めていく。なんだか模範的受験生の生活みたいだが、多くの会社では、年次計画があり、月間目標があり、週次定例会議や日程表で仕事を動かしていくのだから、基本的にはスケジュール・ドリブンを理想としているわけだ。

たいていの技術者は、この両者が入り混じった生活をしている。計画に従い、設計作業を進めていると、上司から調べものを命じられたり、顧客からクレームの電話が飛び込んできて、しばらくその対応に追われる。一段落すると設計の図面に戻る。しかし次の日には定例進捗会議で、別のことを優先してやれと命じられる、といった具合だ。

エンジニアが自分自身の時間のマネジメント、あるいはパーソナル・スケジューリングをするにあたっての基本は、日誌をつけることだ。その目的は、自分の時間の使い方の事実を把握することにある。たいていの人は、事実を知らぬまま、忙しい忙しいと感覚だけで言っている。しかし、その忙しさの中身は、イベント・ドリブンな仕事の忙しさなのか、それともスケジュール・ドリブンな仕事の忙しさだろうか。両者はどれくらいの比率で入り混じっているか、自分はすぐに答えられるだろうか?

じつは、「忙しさ」の感覚の大半は、イベント・ドリブンな仕事から来る。スケジュールに沿って仕事を進めているときは、たとえ時間的には忙しくても、前に進んでいる達成感がある。これに対して、他人からの割込み駆動型で動かされているときは、自分で自分の時間の使い方を決められないもどかしさがある。どうしても、被害者意識のようなものが出てくる。かりに勤務時間が同じだとしても、心理的に追われている気分になるのだ。

それでは、どうしたら良いのか? 配置転換をのぞむしかないのか? いや、そんなことはない。答えは簡単である。それは、イベント・ドリブン型で発生したタスクを、日々の自分のスケジュールの中に入れてしまえばいいのだ。

これには、二つの意味がある。まず第一に、イベント・ドリブンな仕事のために、自分の時間を一定比率、空けておく。例えば私の場合、経験的に25%くらい割込み型に仕事の時間をとられる。ということは、その日や週にやらなければならない、前から決まっていた仕事があったとしても、1日6時間、週に30 時間分以上は、スケジュールに予定してはいけないということだ(実際には定例のミーティング等もあるから、スケジュール可能な時間数はもっと少ない)。かりに50時間くらいかかりそうなタスクだったら、うーん、こりゃ半月は期間が必要だな、と考えるわけである。このように、割込み時間比率をスケジュールに繰り入れるのが、第一の意味である。

そして、第二の意味は、タスクがその場ですぐ解決できないような、時間のかかるものであった場合、それをTo Doリストに、期日とともに書き込むのである。To Doリストは毎日見なおして、その日の時間の使い方を決めるためのベースだ。To Doリストに書き込まれた仕事は、すでにスケジュール・ドリブンな枠の中に収まっている。むろん、割込み仕事の中には緊急性が高くて、他の仕事の手を全部止めてかかりきりにならなければいけないものも時にはある。だが、いつもというわけではない。飛び込みではあるが、期日に余裕のあるタスクは、スケジュールに組み込んでしまえばいいのだ。これが二番目の意味である。

このようなことを実施するためには、To Doリストと日誌を一体化した運用が必要になる。これについては近著『時間管理術』の中に述べたのでくわしく説明はしないが、この両者がタイム・マネジメントに必須の心得であることは、ぜひ記憶に留めておいてほしい。
by Tomoichi_Sato | 2007-01-16 22:49 | 時間管理術 | Comments(0)
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