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製造管理とは何か

日本の生産管理系の用語はややこしい。その最たるものが、この「製造管理」だろう。生産管理と、製造管理とは、同じなのか、違うのか。同じなら、なぜ二つの用語が並立しているのか。違うとしたら、何が違うのか。生産と製造はそもそも違うものなのか。疑念は尽きない。

生産管理』が、製造業において生産システムをつかさどるために必要な、すべての間接業務をあらわす風呂敷みたいな概念だということは、すでに書いた。生産システムの中には、工場内の生産活動みならず、設計や調達や物流にかかわる活動も、しばしば含まれる(どこまでが含まれるかは、その企業の生産形態による。個別受注生産・見込生産・繰返受注生産・連続生産・ファブレス企業等々で、そのバリエーションと守備範囲がことなってくる)。

また、同じ製造業といっても、企業の規模は様々である。社長自身が額に汗して働く町工場からはじまって、工場と本社が同居している企業、本社や営業機能がわかれて工場は生産に専念している企業、複数工場を持っている企業、そして全世界に生産・物流拠点をもっている企業まで、広いスペクトルがある。

一般に企業組織は、量的に大きくなればなるほど、機能別に分化していく性質をもっている。したがって、生産に直接間接にかかわる部門の範囲は、大企業になるほど多くなる。設計や、集中購買や、物流や、生産計画などの諸機能が、工場の外に行ってしまっているケースは珍しくない。

そのため、こうした広義の「生産」にかかわる活動と、工場内で直接作業に従事するための活動とを、区別する必要が出てくる。その場合、後者をしばしば『製造』と呼ぶ。生産は広義の概念で、製造が狭義の概念に相当するのである。そして、その製造を支えるための間接活動を指して、製造管理と呼ぶのだ。

ちなみに、英語では生産はProduction、製造はManufacturingであるが、この両者を広義と狭義で厳密に使い分けているかというと、必ずしもそうではない。たとえばMRPⅡはManufacturing Resource Planningの略と言うことになっているが、カバーしている範囲は明らかに購買も受注(販売)も含む広義の生産活動である。

もう一つ、MESという言葉もある。これは情報システム系の用語で、Manufacturing Execution Systemの略だ。もともとはAMR Researchという機関による造語で、日本語では製造実行システムと訳しているが、なんだかあまりしっくりこない。そこでしばしばこれは、『製造管理システム』とも呼ばれる。ここにも製造管理が出てくる。

しかし、これは実はなかなか穿った訳語なのである。もともとAMR Researchでは、製造業の情報システムとして、「三層モデル」というものを考える。最上位層は、本社レベルにおける生産のマクロな計画と管理である(これを「計画層」Planning Layerとよぶ)。最下位層は、工場現場における機械設備の運転と制御である(「制御層」Control Layer)。そして、その中間に、工場の製造手配と進捗把握のための活動が来る(これを「実行層」Execution Layerとよぶ)。

これらの階層は、そのまま働く人間の職位につながっている。計画層は本社の生産企画部門、実行層は工場のホワイトカラー管理職、制御層は現場の職工である。また、情報システム的に言うと、最上位のERPシステムと、現場の制御システムをつなぐ立場として、製造実行システムMESが来る、という位置づけになる。整理すると次のような形だ。

(1)計画層-本社管理者-年月単位・工場単位・製品群単位のマクロな視点-ERP
(2)実行層-工場管理者-月週日単位・工程単位・品目単位の視点-MES
(3)制御層-現場運転員-週日時単位・機械単位・ツール単位の視点-PLC

むろん、これは類型化したモデルであって、いつもこの通りとは限らない。本社で、時間単位のスケジューリングをしている会社もあれば、現場班長が半月分の差立てを決めている会社も知っている。ただ、こう整理すると分かりやすいのだ(詳しくは、工業調査会・刊「MES入門」をご参照いただきたい)。

そして、(1)が広義の生産管理、(2)が狭義の製造管理、にそれぞれ対応していることが分かるだろう。広義とか狭義とかは、すなわちマネジメントのスコープ(責任範囲)のことを差しているのだ。

だから、ERPシステムで生産管理までやるべきだ、とか、いや無理だ、とかいった議論は、そもそもナンセンスなのである。生産管理といい製造管理といったとき、どこまでが必要な管理の粒度(視点の細かさ)なのか、そして判断の自由度をどこまで下ろすべきなのか、それは生産システムの質に依っている。そこの議論を抜かしたまま、情報システムベンダーや経営雑誌の批評に自分の判断をゆだねては、いけない。
by Tomoichi_Sato | 2006-06-12 00:18 | ビジネス | Comments(0)
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