なぜ原価が下がらないのか

生産管理の最重要課題は「最小の在庫で顧客の納期を守ること」、すなわち、需要と供給の線を一致させるよう、生産システムを運用することだ、と先週の「生産管理とは何か」で書いた。

ところで、たいていの企業では、生産管理の目的は原価低減だ、と考えられている。まず何よりコスト削減が主題。それから、品質の確保。納期は三の次である。というか、納期はたくさんの在庫によって守られているため、問題意識にあまりのぼらないようになっている。

なぜ、そうなりがちかというと、背景には会社の目標管理と分業主義がある。製造業は大きく販売部門と生産部門に分かれる。そして、販売は売上高、生産は原価で管理することが当然だと経営者は信じている。なぜなら、企業の利益は

 売上高-製造原価=利益

という式で決まるから、との理解だ。利益を上げるためには、売上高を増加させ、製造原価を下げる必要がある。したがって営業も工場も、各々の持ち場で最善をつくすべし。そういう三段論法が、ここにはある。(じつは、この式には逸失利益の項が入っていないのだが、その問題はまたいつか別のときに論じよう)

ところで、上の式には「納期」のような時間の項目が入っていないことに注意してほしい。納期の項とは、生産量の項と言いかえてもいい。なぜなら、工場のキャパシティが一定ならば、総生産量は平均生産リードタイムに反比例するからだ。つまり、生産量の項がない上記の式は、1個あたりの単価計算でも、1期あたりの総量計算でも、関係は同様に成り立つとの見方をあらわしている。だが、はたしてこの前提は正しいだろうか?

もともと直接原価の3要素といえば、材料費+労務費+経費、である。材料費は確かに、生産量にほぼ比例する。部品費が1個1円なら、100個で100円のはずだ(まとめ買いをすれば少しは安くなるかもしれないが)。では、労務費はどうか。これも、10個の製品を組み立てるのに必要な工数は、1個の工数の10倍だと考えてよさそうだ。部品加工になると、段取り替え時間などがあるので、大ロットの方が少し有利にはなるが。

だが、ちょっと待ってほしい。たいていの工場では、生産量は月によって変動する。つねにフル稼働、という工場は滅多にない。では、工場の人件費は、生産量に比例して変動するだろうか? いうまでもないが、そうはならない。給与は(残業分をのぞけば)固定費だからだ。大昔の日本や、あるいは現在の中国の一部では、生産の出来高で労賃を払うような雇用形態があった。これなら確かに労務費は生産量に比例する。

だが、現在の日本では、そうではない。生産量の低いとき、工場の人は何をしているのか。あくびをしているのか? むろん、彼らだって遊んでいるわけではないことを、十分に示す必要がある。つまり、その分、目に見えにくい間接作業が増えるのである。ツールを研いだり、材料を配膳したり、運搬したり、欠品表を書いて資材部にかけ合ったり、清掃したり修繕したり、仕事はいくらでも生み出される。彼らもタイムカードに押した分、給料をもらう権利があるからだ。

これは直接労働に従事するブルーカラーに限らない。そもそも、生産管理や品質管理や在庫管理など、いわゆる管理と名の付く間接業務にたずさわるホワイトカラーだって、負けていられない。工程会議をやったり営業に納期回答のFAXを書いたり納入業者を怒鳴ったり工場長に月報を出したり、ひどく多忙なのだ。

私の見るところ、日本の多くの工場で製造原価が下がらない理由は、直接作業以外の人件費にかなりを依っている。無駄な人が多すぎるのだ。いや、この言い方は正しくない。人の動きに無駄が多すぎるため、生産量が上がらないのだ。月産500台の工場に100人が働いていたとしよう。無駄を減らしてスループットをあげれば、月産1000台が可能になったら、明らかに原価は劇的に下がるはずだ。

そして、工場に対して生産量を与えるのは、営業の仕事だ。つまり、原価を低減したかったら、たくさん売る必要があることになる。そして工場側の責務は、現状の設備やリソースを活用して、どれだけスループット(生産量)を上げられるようにするか、となる。おわかりだろうか。売上増大と原価低減は、互いに関係しあっており、独立に操作できる変数ではないのだ。

管理会計学は欧米で発達したが、彼らのものの考え方の特徴は(あるいは癖は)いつも『分析的』であることだ。対象を分析し、部分品に分けて、それぞれの特性を把握し、操作していく。問題があれば部位を切り分けて、外科医学的に対処していく。部分は互いに独立しているのだ--たとえそれが企業という人間組織であっても。ある部分を操作したら、とんでもない部分に影響が出るかもしれない、などという漢方医学風の発想は、管理会計学にはない。

だが、こと製造業に関しては、こうした“風が吹けば桶屋が喜ぶ”式の発想--いいかえるならば「生産システムとしての発想」が必要なのだ。そして、それを実践するのが、生産管理の本来の業務なのである。
by Tomoichi_Sato | 2006-05-16 23:55 | ビジネス | Comments(0)
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