予定と実績の間のミッシング・リンク

今、米国で最も広く使われているプロジェクト管理ソフトウェアは何か? --答えは、"Excel"である。これは少し前にBostonで行なわれたProject Worldのカンファレンスで聞いた答えだ。ついでにいうと、Microsoft Projectとは、米国で最も売れており、かつ最も使われていないソフトウェアだ、とも聞いた。

MS Projectは私の勤務先でも(使いたければ)使えるが、あまり好まれていない。その理由は色々だ。ユーザ・インタフェースは親切なようでいて、一貫性がない。マウスのドラッグで工程表のガントチャートを簡単に書けるのは便利だが、どうも妙に親切すぎて、おかしな事をしばしば、しでかしてくれる。メニュー階層も分かりにくいし、印刷設定も不可思議である。

しかし、もっと根本の所で、プロジェクト・マネジメントのプロの目から見ておかしな部分がある。たとえば、MS Projectにはタスクやプロジェクトの予定終了日以外に、「期限」を設定できる。この二つは何が違うのか? またプロジェクトの終了日をずっと後ろにずらすと、何とクリティカル・パスが消えてしまう。「クリティカル・パス」というのはプロジェクトの開始から終了までの経路の中で最長のものを指す、というのが定義である。だとしたら、このソフトは、クリティカル・パスの意味を知らないのだ。

しかし、もっとも問題なのは、じつは別のところにある。MS Projectには、スケジュールの開始/終了日付が、「予定」と「実績」の二つしかないのだ。これでは困る、と、プロジェクト・マネジメントのプロである同僚たちは言う。予定と実績の間に、プロジェクトの世界ではもう一つ必要なものがあるのに、MS Projectをはじめとする多くのプロジェクト管理ソフトには、それが欠けている。そのミッシング・リンクとは、「見込み=forecast」である。

見込み日(forecast date)とは何か。これは、「現在のままでゆくと、開始日・終了日はこの日付になる」と判断された結果だ。今、設計のタスクを遂行中だとしよう。予定では、3月の1ヶ月間で設計完了のはずだった。つづく実装作業は、4月1日から開始の予定である。これらは「予定日」だ。ところが、設計は3月10日になって、ようやく開始した。そしてまだ完了していない。だから、実績開始日は3/10で、実績終了日はまだ無い。しかし、開始が10日遅れたのだから、作業ボリュームにかわりがないとしたら、設計が終了するのは、4月9日の「見込み」(forecast)である。実装開始の見込み日は、4月10日になる。

プロジェクトは複数の人間が協同する作業である。下流工程の担当者は、自分のタスクが本当はいつ着手できる「見込み」なのか分からないと、困ってしまう。だからforecast dateは必須なのだ。これが、プロジェクト・マネジメントのプロの感覚である。

ところが、少なからぬ企業で、この「見込み日」の概念が、なぜか活用されていない(単に知らないだけなのだろうか?)。では、そうした会社では、現実を予想するのに、どうしているか。

答えは簡単だ。計画をそのたびごとに変更していくのだ。設計の着手が遅れたら、設計の予定日付も変えてしまう。こうして、何回も計画を更新していくから、計画の履歴管理が必要だ、などという要求が出てくる。しかし、この調子で計画をどんどん変更していったら、結局のところ、実績は常に計画と一致することになる。これで本当に進捗管理といえるのだろうか? 

計画のベースラインとは、めったなことでは変えないのが、プロフェッショナルのやり方である。では、変わりやすい現実にどう追随していくか。そのためにこそ、見込み日(forecast date)が必要なのだ。

ちなみに、生産スケジューリングの世界には、普通Forecast dateなどない。いらないのだ。なぜなら、製造現場の作業は精度が高いので、たいていはスケジュールどおり仕事が進んでいく。見込み日の概念がいるのは、ホワイトカラーだけだ。ホワイトカラーの仕事は、製造現場よりも精度が低い。だから、計画通り進まないのが当たり前になっている。精度が低い人たちが、不思議なことに、なぜか給料はたくさん貰っている。まあこれは余談だが。

ところで、見込み日を運用するに当たって、きわめて重要なことが一つある。それは、“見込みは誰が決められるのか”という問題である。よく、プロマネが進捗会議で担当者に対して、「その仕事はいつ終わる見込み?」と聞いたりする。この質問が意味を持つのは、回答者が『正しく予測できる能力・態度を持っている』という時に限られる。パートナー企業との共同プロジェクトや、海外ベンダーとのプロジェクトなどでは、この条件はかなりの留保つきでないと、適用できない。担当者が見込みを正しく答えられると言うのは、一企業の中だけで成り立つ、性善説だと考えるべきである。
by Tomoichi_Sato | 2006-03-17 12:47 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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