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管理とは何か、を明らかにする12の質問

何度か書いたことだが、わたしはこのサイトでは原則、「管理」という言葉を使わないことにしている。「管理」という日本語は多義的で、人により文脈により、何を指すのかブレが大きすぎるからだ。「ちゃんと管理しておけよ!」——そんな風に、部下が上司に叱られたとき、上司が求めていたことは何だったのか。部品材料の保管のことなのか、取引の追跡把握(トラッキング)のことなのか、人への作業指示のことなのか。あなたは間違いなく言い当てられるだろうか?

じつはこの稿、最初は製番管理について書こうと思って、内容を考えはじめたのだ。きっかけは、ある知人からの質問であった。『製番管理』とは、数ある生産管理方式の一つである。日本ではかなり広く用いられている方式だ。だが、これを理解しようとすると、どうしても生産形態と生産方式の区分、そしてそれらと生産管理方式との関係への目配りが必要になる。

ところで、生産方式と生産管理方式、と言葉を並べたところで、その区別がちゃんとできる人が、世の中にどれだけの比率でいるのか、ちょっと不安になってきた。「方式」はしばしば「システム」という言葉で置き換えられもする。在庫管理の「ダブルビン方式」は「ダブルビン・システム」だし、キャバレーの「明朗会計方式」は(わたしの専門外だが)、「明朗会計システム」とも呼ばれる。じゃあ、生産方式と生産管理方式は、生産システムと生産管理システム、と置き換えは可能だろうか。だが「生産管理システム」と呼んだとたんに、いつの間にかITシステムの話にすりかわってしまわないだろうか?

こういう風に話がやっかいになるのは、結局、皆が「管理」や「システム」という言葉を、その場の雰囲気で、いろいろに使ってしまうからだ。そこで今回はあらためて、日本語で「管理」と一般の人が言う行為は、どういう要素から成り立っているのかを、(英語のManagementとかControlは引き合いに出さずに)ゼロから整理し直してみよう。

そもそも、「管理」という行為は、何を対象とするのか。よく世間の人は、「人・物・金」という言い方をする。いや、世間の人だけでなく、経営を専門とする某学会も、学会発表の演題分類がこの3種類からできあがっている(なので、『プロジェクト・マネジメント』の研究はどこに出したらいいか迷うのだが、余計な話であった)。ともあれ、「人の管理」「モノの管理」「お金の管理」は、それぞれ管理という語の用法としては、しっくりくるだろう。

そこで、一番単純と思われる、「モノの管理」から考えよう。

まず、最初に考えるべきことは、

 (1) 所有しているものは、何と何か

であろう。これが分からないようでは、「管理している」とはとうてい言えぬ。
もちろん、所有していないが借りているものだって、あるわけだ。だとすると、

 (2) 手元にある(借りている)ものは何か

も大事だ。ここまでは『対象の把握』である

さて、「モノの管理」というだけでは抽象的で、イメージがつきにくいかもしれない。そこで、誰の家にもある「冷蔵庫の中のモノの管理」を考えれば、少しわかりやすいかもしれない。そうなると、それぞれの管理対象のモノについて、

 (3) 所在はどこか
 (4) 状態はどうか
 (5) どんな性状(属性・品質)か
   →少なくとも、使えるか、使っているか、使えないかの区別
 (6) 数量はどれくらいか
   →少なくとも、足りているか、足りないか、余っているかの区別

あたりは、把握していないといけないはずだ。ここまでは『現状の把握』だということができる。まあ、ご家庭の冷蔵庫でも、ここらへんまでは、ユーザが(ふつうは頭の中で)「管理」しているだろう。

次なるレベルは、

 (7) 出入りはどうだったか

である。これは、ある期間(1日、1月など「管理単位」の期間)に、何が加わり、何が減ったか、を把握することだ。冷蔵庫から何を出して使い、また何を買って入れたか。すなわち、「現在」に加えて、『時間軸と変化の把握』という要素が加わる。さらにいえば、

 (8) 出入りはどうなる予定か

もほしい。過去だけでなく、「未来」の要素も加える訳である。

そして、さらに管理レベルには上がある。それが、

 (9) 使いやすい位置においてあるか

である。冷蔵庫はたいてい、平棚の奥が深いので、どうしてもLast-in, first-outで、時間と逆順になってしまいがちだ。奥にしまったあげく、忘れられることもししばしばある。そこで、整理整頓というアクションを伴う。これは、使用する際の効率化をねらっている訳だ。そして、

 (10) 補充、廃棄、修繕がなされているか

も大事になる。足りない食材は買い足しし、賞味期限の過ぎた古くなったものは捨て、倒れやすい食器の中身はタッパにでもうつし、容器のふたが外れていたらラップをして、使える状態に保つ。つまり、モノに関する問題解決であり、さらにいえば標準化でもある。ここでは、管理という行為が、単なる情報の把握を超えて、能動的で具体的なアクション(=こと)を生み出していく。これの延長にあるのが、

 (11) 無いもので必要なモノはあるか

を考えることだ。つまり目の前に「あるモノ」から、「ないモノ」に管理対象を広げるのである。いいかえると、それは、「あるべき姿」を考えることである。ここまで来ると、かなり高度な管理だといっていいのではないか。

では、モノの管理の最上位課題は? それは、

 (12) 経験に学んで、モノの管理の方式をつくっているか

である。モノに関わる個別の出来事から、再利用(再適用)可能な教訓を引き出すこと。そしてモノの管理の方式をつくり、あるいは改良すること。ここまで来れば、あとは自律的に回っていく。

こうして数えてみると、モノの管理なる行為は、12個(ちょうど1ダース)の疑問文に答える要素からなっていることが分かる。そして最後にあげた「管理の方式」は、これら12の課題を、カバーできるようになっている必要がある。

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ところで、上にあげた行為の中には、冷蔵庫の中のものを出して食べたり(消費)、煮炊きして料理したり(加工・製造)、あるいは八百屋さんで美味しそうなものを見つけて買ってきたり(調達)、といった楽しいことは含まれていないことに注意してほしい。

調達・製造・消費といった行為は、会社の仕事でいえば『直接業務』である。直接業務のつながりによって、価値が生み出される。直接業務がなければ、文字通りわたし達は、飢えて干上がってしまう。これに対して管理というのは『間接業務』だ。間接業務というのは、たとえしばらくの間は止まっても、あまり切実にはこまらない。

また、こうやって整理してみると、たとえ冷蔵庫といえど、「管理レベル」の差がありそうだと分かる。(1)に答えられないようでは論外。(6)くらいまでは普通レベルだろう。(9)(10)は、上手下手はあれど、できている人も多いと思う。でも(11)(12)は、どうだろう。

家庭の冷蔵庫に当てはまることは、もちろん、工場の部品倉庫や製品倉庫、はたまた建設現場の資材置き場などにも、同じように当てはまる。そして、後で述べるが、会社の仕事となると、「全部頭の中で」管理します、ではすまなくなってくる。

だからこそ、(12)が課題となるのである。だが、そうなると、そもそも「モノの管理の方式って何だ?」という問いを、逆に返されるかも知れない。そう。それを考えるのが、本稿の目的なのである。

でも、答えにジャンプする前に、もう少し、「管理」の仕事の中身を探ってみよう。お金や人の管理の場合、何が違うのだろうか?

(この稿続く


<関連エントリ>
  (2017-12-18)




by Tomoichi_Sato | 2021-03-16 21:15 | ビジネス | Comments(0)
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