特別な我が社

考えるヒント、2001/2/03より)

ITコンサルタントの仕事をしていると、つくづく面白いと思うことがある。仕事柄、さまざまな企業を訪問して話を聞くわけだが、訪れる会社はどこも、「自分のところの業務はひどく特殊だ、ウチは特別な会社だ」とおっしゃるのである。どの会社もどの会社も、“これこれの理由でウチはよその会社とちがう”と主張される。

いわく、「ウチの業種の製品は鮮度管理が非常にきびしいから」「ウチの製品はお客様の生命に直接かかわるものだから供給の責任があって」「ウチの業種は可燃物を大量に取り扱うので消防法のこうるさい設備検査が必要で」「ウチの業界はものすごい多品種少量で、かつ製品のライフサイクルがめちゃくちゃ短いから」「徹底したカンバン方式で工場を回しているから」「完全受注生産でリードタイムが長いから」「小さく高価で壊れやすいから」「場所ふさぎなのにひどく安価だから」etc...

“というわけで、外部の方には我々の問題の難しさはご理解いただけにくいでしょうねえ・・”と続く。

そして結論はというと、
「だから平均的な製造業向けにつくられたパッケージ・ソフトではウチの仕事はうまく取り扱えない」
という風に誘導されるのだ。特殊性を強調されたあげく、ほとんど判で押したかのように、同じ結論にたどり着くところが面白い。

そんなことはないのである。

この仕事をやってみるとわかるのだが、日本の製造業が抱えている問題点というのは驚くほど共通性が高いのだ。それは、非常に圧縮した形で表現するならば、『大量・見込み生産の体制を残したまま、多品種少量の受注生産に移行しようとしている』ということになる。だから調達から販売までのサプライチェーンのあちこちで、プルとプッシュが混在しているのである。

したがって、解決の手法も一つの事例できちんと確立してしまえば、あとはかなり応用が利く。若いコンサルタントでも、見習いで3社の事例をやってみたら、4社目からは中核の問題を自分で見つけることができるようになる(むろん、応用問題を解くにはその業種の個別知識と、人を動かし説得できるだけの知恵がいるから、経験もなしにすぐに独り立ちできるわけではないが)。

「パーキンソンの法則」で有名な経営学者C・N・パーキンソンは、「コンサルタントの仕事はミツバチに似ている」と言っている。花から花へ、花粉を運ぶ蜜蜂のように、コンサルタントはある会社で見つけた知恵を別の会社に運んでそこに植え付ける訳である。自分自身では花粉を作り出したりしない(知恵を生み出したりしない)点が面白い。こう書くと怒り出す人もいるだろうが、かなりの程度、真実に近い。

個別性・特殊性の強調は、なんとなく日本の文化に根ざしているのかな、とも思う。丸山真男が『日本の思想』で分析して見せたように、日本では「理論信仰」と「実感信仰」が表うらの関係で支え合っている。外国から直輸入した公式的理論によって現実をばっさりと切ってしまうような風潮と、逆にその防御として、個別の事象・実感をならべたてて共通論理をいっさい否定してしまう態度。まるで「パッケージに業務を合わせろ」「いや業務に合わせてすべてカスタマイズしろ」という水掛け論を聞いているかのようではないか。

面白いことに、私のつきあった範囲では、欧米の会社からはあまりこういう「ウチは特殊だから」論は出てこない。それも当然だろう。彼らはそもそも、みずからの独自性を前提として生きている。一人一人に個性がある、というところから思考は出発する。その上で、個別の事物を包含するイデアが存在する、というのが西欧の哲学だからだ。

哲学抜きで特殊論にしがみつく国には、ただ“諸行無常”の風が吹くだけかもしれない。
by Tomoichi_Sato | 2006-02-01 22:39 | ビジネス | Comments(0)
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