見えない壁に突きあたった中堅エンジニアが学ぶべき、三つのこと

先週の4月2日(土)に浜松市で、合同シンポジウム「サプライチェーン戦略とプロジェクト・マネジメント」を開催した。主催はOR学会・日本経営工学会・スケジューリング学会で、その配下にある「サプライチェーン戦略研究部会」(主査・日本IBM 米澤隆氏)と、わたしが主査を務める「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」が実行主体だ。

講演者には、倉庫管理システムiWMSの開発元として有名な(株)フレームワークスの渡辺重光会長と、ヤマハの曽根卓朗主席技師のお二人をお招きした。お二人の話はどちらも非常に興味深いもので、渡辺氏はロジスティクスとIoTの広範な展望を話され、曽根氏は通信カラオケの製品開発を題材に、生々しい体験をお話しいただいた。最後にパネル・ディスカッションを行い、わたしもパネラーとして参加した次第だ。

幸い大勢の方に来ていただき、立ち見が出そうになったので椅子を補充したほどだった。製造業の街・浜松でのこうしたテーマへの関心の高さを感じるとともに、遠方からおいでいただいた方々にもお礼を申し上げる。

ところで、なぜ「サプライチェーン」と「プロジェクト・マネジメント」という二つのテーマで、合同シンポジウムを企画したのか、その理由について少しだけ補足説明しておきたい。それは、このところずっとわたしが考えている問題と関連しているからだ。その問題とは、

中堅エンジニアがモチベーションを保って成長するには、何を学ぶべきか

という問いである。わたしはたまに、頼まれて、社会人向けの研修セミナーをすることがある。対象者の多くは、中堅のエンジニアである。実際には技術系に限らず事務系の職種も混ざるが、ここでは「エンジニア」と総称しておく。

中堅とは、年齢で言うと30代から40代くらいまでが中心だ。そろそろ「リーダー」的なポジションにつく頃である。たとえ課長係長といった中間管理職ポストではなくても、自分一人だけでなく後輩や部下を采配し、あるいはときに上司や関連部署を動かして、仕事を達成していかなければならない立場になる。

それは同時に、自分の持つ固有技術だけで勝負できにくくなる年代でもある。20代の若い内は、技術が身につくこと自体が面白い。できなかった計算ができるようになり、分からなかったことを知るだけで成長を実感できる。しかし、同じ技術職を5年、10年とつづけるうちに、ふと不安に駆られるようになったりする。不安とは、今の職場から外に出ても、業界で【専門家】として十分通用するか、といったことだ。その年代はまた、人を使うことの難しさにだんだん気がつくときでもある。

それでも、ユニークな上司や、理解力あるトップに恵まれれば、面白い仕事ができ、力を尽くせる可能性はある。曽根氏の製品開発など、まさにその例であったろう。中堅エンジニアこそ、まさにイノベーションの担い手である。

ただ、それはいつでも、誰にでもあるチャンスではない。中堅の取り組みは、しばしば上司や会社の仕組みという壁につきあたる。あなたが今の仕事をもっと良くしたいと考え、たとえば外部のセミナーなどに聴きに行ったとしよう。刺激的で、ためになる話を聞き、感激して上司に報告する。するとどうなるか?

あなたの上司は、あなたから学びたいとは思わないものである。部下が外で学んできた知識は、むしろ自分の「指導力」にとって脅威となる、とさえ感じるかもしれない。どんなに素晴らしい知恵を仕入れたとしても、それが上司のものの考え方や世界観にあわなければ、はじき返されるだけだろう。かりに上司がそれを受け入れてくれたとしても、会社のルールや習慣にあわない可能性もある。かくて、仕事のやり方を良くしたいという、あなたの意欲は満たされぬままとなる。

では、中堅エンジニアがモチベーションを失わずに、成長するにはどうしたら良いのか。専門技術を掘り下げるだけでは十分でなさそうだと、この層の人たちは感じている。だったら「リーダーシップ」や「人間力」を身につけろ、というのが世間の答えらしい。だがそれは、どうやったら身につくのか?

もっと年配層のベテラン達なら、「そんなのは理屈じゃない」「俺の背中を見て育て」、みたいなことを言いそうである。そいつはご遠慮するとしても(笑)、じゃあどうすべきか。ドラッカーでも読むべきなのか。だがそれも、一足飛び過ぎる。経営者でもないのに、経営論を読むのは面はゆい。それに、世に流通するリーダー像は、有名企業の経営者か、あるいは外資系コンサルタントとかベンチャー経営者ばかりだが、コンサルや起業家をめざすだけが人生なのか? あるいは、出世して経営者にならない限り、面白い人生はやってこないのか。誰もが社長になれるわけではないのに、経営者にならなければやりがいは満たされない、だから出世を目指せ、という人生観は、どこか間違っていないだろうか?

よく会社のトップは、「T字型人材」を求めるという話も聞く。T字型とは、縦と横の二本線からなる形だ。縦の棒は専門分野を狭く深く身につけ、横の棒はいろんな分野を広く浅く知っている状態を表す。つまり、一つの専門分野をきちんと習得しスペシャリストになった上で、異なる分野についてジェネラリストたるべし、ということらしい。これは(理由は長くなるので書かないが)日本の組織が求める一つの典型的人材像である。だが、横の棒を張り出すための勉強は、どうやるのか? まさか百科事典を、はしから読むわけにもいくまい。
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これが、現代の日本の中堅エンジニアが直面している、典型的な問題ではないだろうか。自分は個人として成長し、また組織人としてもキャリアを伸ばしたい。だがなんとなく、仕事で見えない壁に直面している。自分は何を、どう学ぶべきなのか。

日本の産業を実際に支えているのは、中堅エンジニア層である。日本を元気にしたかったら、この人たちに元気になってもらうことを考えるべきだ。モチベーションを維持し、成長する方途を示す必要がある。

わたしは、中堅エンジニアが学ぶべき二つのことがあると考えている。

一つ目は、仕事に対するマクロな視点、「仕組み」の理解を持つことである。自分の専門領域というミクロな視点だけではなく、自部署や自社を含んだ、モノとサービスと情報の流れる大きな仕組みを、理解する能力。すなわちサプライチェーンの理解である。わたし達が問題や壁に直面したとき、目を近づけてミクロに解決の穴を探すより、ずっと上から大きな視点で問題構造を理解し、無意識に抱えていた余計な制約条件を外した方が、より根本的な解決策を得ることが多い。だから、サプライチェーン(生産管理や生産計画なども含む)を知ることで、マクロな仕組みを見る力を養うべきである。

もう一つは、仕組みの変え方、人の動かし方の視点だ。こちらは、プロジェクト・マネジメントの理解である。プロジェクトとは、新しいことにチャレンジする際の、人と協働するための方法論である(もっと厳密に言うと、「プログラム・マネジメント」の領域も関連するが、その話は省略する)。ちなみにヤマハの曽根さんは社内的に不本意な状況にあったとき、通信カラオケという(ある意味で卑俗に思われる)製品開発プロジェクトに取り組むことで、自分のモチベーションを維持した。そしてパートナー企業からプロジェクト・マネジメントの技術を学んだことで、自らのリーダーシップを強化できた、という。

サプライチェーンと、プロジェクト・マネジメント。エンジニアは、固有技術を一通り身につけたら、この二つを学ぶべきなのだ。だからこそ、この二つをテーマとする合同シンポジウムを、製造業の街・浜松で企画しようと思い立ったのである。

さらにいうと、三つ目の要素もある。それは、一種のソフト・スキルで、わたしが「チャレンジのOS」とよぶものである。OSとは、体系化された思考と行動の習慣、という意味だ。近著「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書 ~グローバルなチャレンジを成功させるOSの作り方」では、これを「S + 3K」と表現したが、中核のSは『システムズ・アプローチ』である。
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ただし、こうした知識は、読む・聞くだけでは十分ではない。実践しないと身につかないからだ。実践すれば、必ず問題にぶち当たるだろう。それをどう超えていくか、ここをサポートする方法論が必要だろう。目に見えづらい問題、正解のない問いに取り組んでいくためには、自分の問題を言語化して、他人と共有する場があった方がいい。問題を他人に話せるくらいに自分の頭を整理できれば、解決に半分近づいたようなものだから。つまり、中堅エンジニアのための、互いの学びの場が必要だということだ。

シンポジウム開催は、その一つの取り組みだった。わずか半日のシンポジウムで得られる知識の量は、限られているが、むしろいろんな人と出会える機会の方が貴重である。こうした場を作り続ける努力が必要なのだろう。高井英造先生が東工大CUMOTで主催されてきたサプライチェーン・マネジメントに関する社会人研修コースも、その取り組みの一つだろうし、わたしが今年度から客員教授としてお手伝いすることになった、静岡大学の大学院MOT(事業開発マネジメントコース)もその一つではある。

ただし、継続的に大学などに通うには、時間も金銭的にも負担が大きい。こうした形以外にも、もう少し取り組みやすい形が必要なのではないか。また以前も書いたように、成長のための仕組みには、『報償系』の存在も大事である。MOTによる修了証書授与以外に、なにか考えられないか。

それがどのような仕組みであるべきかは、わたし自身もまだ模索中だ。ただ、わたしのこのサイトが、なぜプロジェクト・マネジメントとサプライチェーンの二つのテーマを中心としているのかは、お分かりいただけると思う。わたし自身もまあ、会社員として何度も壁にぶち当たる経験をしてきた訳だが、このサイトで文章を編み出しながら自分の考えをまとめることで、少しずつではあるが自分を精神的に保ってこられたように思う。

わたしのこのサイトは、そうした意味で、これから新しい仕組み作りにチャレンジする人、仕事のあり方をかえたいと願っている中堅エンジニアのために、役立つものとなっていきたいと考えている。そのためには、本サイトの構成も、さらに変わっていくべきかもしれない。SCMもPMも裾野の広いエリアにもかかわらず、具体的に、生産管理とは何かとか、WBSはどう作るかといったコンテンツを提供しているサイトは、意外なほど少ないからだ。

そしてシンポジウムの最後でご紹介したように、わたし達は研究部会で「PM教育のためのシステム」構想にとりくむつもりである。わたしが『システム』 というときは無論、コンピュータ・ソフトだけではなく、それを含む大きな「仕組み」のことである。こうした模索に対し、心ある方々の応援や協力をいただけるならば、これほど心強いものはない。
by Tomoichi_Sato | 2016-04-04 21:24 | 考えるヒント | Comments(0)
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