受注生産企業に生産計画は必要か?

随分前のことになるが、 ある部品材料メーカーの 生産管理システムを見せてもらったことがある。 その分野では大手のメーカーで(A社と呼んでおこう)、 全国の製造業の顧客に対して、 部品材料を納入していた。 ほとんどが、顧客仕様による受注生産品である。 品目数は数千種類あり、常時、数百種類を毎月作っては顧客に納入していた。 原材料には共通性が高く、同種の原材料から多数の品目が生まれる。BOMのトポロジーでいうと「V字型」のタイプである。

典型的な受注生産であるにもかかわらず、面白いことに、A社の生産計画作業は「需要予測」の集計から始まっていた。全国の営業拠点の営業マンが、担当する顧客・品目ごとに、向こう3ヶ月間の需要予測を立てる。正確には月間ではなく旬単位の予測である。それを本社のコンピュータで集計した表が、生産計画立案の基礎となる。

工場の製造工程は大きく3工程に分かれている。正味の製造リードタイムは、製造ロット数量にもよるが、3工程の合計で数日から10日程度だ。ただし多品種を切り替えて生産しているので、顧客から注文をもらってから納入するまで、普通は半月から1ヶ月程度はかかる。しかもしばしば、納期や数量に変更がある。そのたびに、生産計画マンが営業と工場の間をとりもって調整しなければならない。とくに金型に特殊な制約条件があり、スケジューリングには熟練したエキスパートの経験が必要だった。

A社はS社のERPを導入していた。ただ、このような製造特性のため、単純なMRPでは役に立たない。そこでどうすべきか、という相談だった。ついでにいうと、この会社の購入する原材料は汎用的で、工場のすぐ隣の原材料サプライヤーから毎日運んでくることができる。長納期品がないため、材料調達にはあまり悩みがない。

それにしても、受注生産なのに、なぜ需要予測から計画が始まるのか? 受注をもらってから作るのではまずいのか? 答えは、イエスである。

理由は、多品種を切り替えて作るからだ。いや、もっと正確に言おう。数多くの受注(オーダー)を正確にさばかなくてはならないからだ。各オーダーは、品目と納期がキーになっている。工場の生産の効率性からいえば、同種の品目はまとめて作った方が良い。段取り替えも少なくなるし品質も安定する。しかし、そうすると納期に間に合わぬオーダーが出てくる可能性がある。かといってすべてを最早納期のオーダーに間に合わせて作ることは難しいし、仮にできたとしても在庫の山になってしまう。

さらにいうと、A社は全国の顧客をカバーするために東西に複数工場を持っていた。どのオーダーをどの工場に振るべきか。輸送費と納期と切替ロスの間に、複雑なトレードオフが生じる。

これらをうまくバランスさせるためには、予測を含む生産計画が必要になる。オーダーが入ってきた順番に《手なり》で作っていくわけにはいかないのだ。そして、この種のケースで計画の眼目になるのは、生産順序、すなわちスケジューリングになる。

生産計画は見込生産形態をとる消費財メーカーのためのものだ。受注生産の企業には必要ない——そんな風に信じている人も、世の中にはときどきみかける。だが、それは間違いである。そういった人たちは、「生産計画」という言葉を、「計画生産」(=見込生産)とごっちゃにしているのかもしれない。“あたりもしない予測に基づいて計画生産をするより、実需に応じて出荷し、足りなくなった分を補充生産すればいいのだ。必要なモノだけを、必要なときに、必要な量だけ生産する。これがJIT(ジャスト・イン・タイム)の考え方だ”、と主張をする『JIT生産コンサルタント』は、世の中に大勢いる。

別のある企業(B社と呼んでおく)は、こうした主張をそのまま取り入れて、工場のオペレーションを根本から変えようと考えた、という。これはわたしが直に接したケースではなく、伝聞を紹介するのだが、B社が作っているものは部品だが汎用品に近く、品種数は前述のA社よりはずっと少ないようだ。そこで、工場の都合で毎月の生産品目を決め、工場の作りやすいロットサイズで製造し作りだめする方式を長年とってきたらしい。しかし、従来のやり方は「在庫のムダ」が生じ、問題が多い。

そこで、月次サイクルの「計画的な生産」をやめて、販売店で毎日売れた分だけを物流センターから補充することに決めた。物流センターは出荷した数量を工場に毎日連絡し、工場は不足した分だけを小ロットで組立生産して、センターに送り込んでやる。すなわち、工場を「計画なしの受注生産」で動かそうという訳である。正味の製造リードタイムはかなり短いから、やろうと思えばできない話ではない。

これぞ正しいJIT生産のあり方だ! といさんで改革に取り組みはじめたのだそうだ。だが、途中ではたと問題に気がついた。いったい、サプライヤーへの原料資材の発注は、誰がいつ、どう決めるのか。

工場で消費した分だけ、毎日注文して翌日もってこい、といいたいところだ。だが、サプライヤーはそんなやり方にはついてこれない。どこでもそうだが、鋳物屋にも塗装屋にも材料屋にも、それぞれ釜や色替えや素材配合の都合があって、毎日ころころとは切り替えられないのだ。「来月どれくらいの量を納めればいいのか、事前にいってください。そうでないと納期はお約束できません。」あるいは、端的に「この値段ではきびしいです。」——資材部がこの種の抵抗に直面するに及んで、はじめてB社は気がついたらしい。つまり、「ジャスト・イン・タイム生産の実現には、先行内示が必須だ」という原理にである。

周知の通り自動車業界の慣習では、発注側が向こう3ヶ月分の先行内示をサプライヤーに示し、同時に毎日の納入量には「かんばん」(トヨタ系列以外は別の名前を使うが)で調整するやり方だ。かんばんは発注書ではない。一種の分納の指示なのだ。来月はトータルで200個納入してもらう予定だ、とまず内示で告げる。ただ、それだけでは毎日均等に10個ずつ作るべきなのか、上旬に50個・下旬に150個を納めればいいのかはわからない。その量とタイミングは、日々の「かんばん」で伝達されてくる、そういう仕組みだ。

かんばんの受領から納品までのサイクル(納期)はきわめて短い。かんばんを受け取ってから作り始めるのでは間に合わない。だから、サプライヤーは内示を受けて、生産準備に入るのである。また各サプライヤーのサブ・サプライヤーにも内示が出される。

B社は、いわば自社の物流センターと工場との間、また工場とサプライヤーとの間で、この「かんばん」による納入指示の仕組みを動かそうとした訳である。ところが、物流センターは工場に「先行内示」などは出せないし、工場だってサプライヤーに出せない。だから、たとえ自社工場は短納期・翌日即納が実現できたとしても、B社のサプライヤーまではついてこれなかった、という訳である。

では、B社が工場を受注生産型で動かすためには、どうすべきだったか。簡単である。自社で出荷量の予測をたてるしかないのだ。それを元に、部品表と所要量展開をして、サプライヤーに先行内示を与える。これだったら、(その先行内示がある程度ぶれずに信頼できるなら)なんとか動くであろう。

つまり、言いかえれば内示とは「需要予測」のことなのである。こう考えると、じつは最初のA社のケースと相同だと分かる。すなわち、受注生産でも計画が必要で、その起点は需要予測なのである。自社で立てれば需要予測と呼び、顧客から与えられれば先行内示と呼ぶ。ここで大事になるのは精度の高い数量の計画である。

ちなみに、最初のA社のケースでは、この企業自身が一部の大手顧客から「JIT納品」を要求されていた。日単位・納入時刻指定の納入指示票を、直前に受け取る。ただし、先行内示は出してもらえないか、あっても量のブレが大きく、あてにならなかった。

そこでA社はどうしたか。その大手顧客の会社の近くに自分で営業倉庫を借りて、翌月分の需要予測の0.5ヶ月分を、つねに積んでおくよう計画するのである。翌月の需要予測・先行内示が1000個だったら、「用心のために」500個分を在庫にキープするよう、生産するのだ。

わたしはこの話を聞いて、パレット1枚あたり何円くらいの在庫コストになるか、頭の中で概算してみた。バカにならない金額だ。そのコストを、A社は負担している。ということは、もちろん、利益を出すためには、その在庫コストを売値に乗せるざるをえない。だから、「JIT納品」を要求していた大手顧客は、じつは少しばかり高い買い物をしていたことになるのだ。

サプライヤーに対しては、数量をまとめて、予期しやすい納期(余裕のある、あるいは前準備しやすい納期)で発注をする方が、安くなるし品質も良くなる。これは自明の理だ。先行内示とかんばんを組み合わせた本家トヨタの方式は、この原理で成り立っている。そして、この原理にたつ限り、トヨタは自分で需要予測を立て、月度生産計画を回す必要がある。だから、彼らはそうしているのだ。

ただし、トヨタの系列サプライヤーは、自分では需要予測はしない。トヨタからの先行内示がベースとなるからだ。与えた内示に対して、勝手に「0.5ヶ月分」などの余裕率を加味することを、トヨタは嫌う。高コストを招くからだ。だからトヨタは、サプライヤーに対しては「需要予測などするな」と説く。どうも、この点が誤解の元となって、「かんばん方式による受注生産では、計画も予測もいらない」という神話が流布するようになったらしい。

受注生産企業に生産計画が必要な理由を、「多品種(多数オーダー)のコントロール」「サプライヤーへの資材手配の必要」の2点にしぼって説明してきた。

むろん、多品種や資材手配だけが、生産計画の必要理由ではない。一般に、顧客の要求する納期よりも、自社の生産リードタイムが長い場合は、なんらかの事前の用意・手当が必要になる。これが計画の要る所以である。かりに顧客が明示的に納期を定めていなくても、競合関係の中で納期が競争要因になっていたら同じである。つまり、

要求納期 < トータルの供給リードタイム

だったら、生産計画が必要なのである。ここでいう《トータルのリードタイム》とは、自社内の製造リードタイムの合計だけではない。工程間の滞留や輸送の時間も含む(だからA社のように多品種になると滞留による待ち時間が増える)。さらに、生産が常備品在庫だけで間に合わない場合は、資材手配のリードタイムを加えなければならない(B社のケース)。あるいは、資材ではなく要員や金型など、別のリソース手配がネックになる場合も、トータルのリードタイムに加味しなくてはいけない。

逆に言うと、受注生産企業で生産計画が不要な場合とは、
(1) 世界でオンリーワンの製品を作っていて、顧客は行列をなし、どんな納期でも待ってくれる
(2) 工場の製造能力にはふんだんに余裕があり、どれだけ受注が集中してもさばいていける、あるいは
(3) 作る製品はごく少数で、それぞれ専用の製造ラインを持っている
などの条件が満たされる企業である。こういう素晴らしい状況を経営者が作り出しているならば、生産計画担当者などという存在は不要であろう。

以前も書いたことであるが、日本の製造業の9割は受注生産である。見込生産の消費財メーカーが1社いれば、その背後に部品材料のサプライヤーが9社いると思っていい。そして、その9割の受注生産企業も、ほとんどが生産計画を必要とするのだ。なぜなら、たいていの製造業は、じつは確定受注生産と見込生産(需要予測生産)の混合だからだ。一つの製品であっても、下流側は確定受注生産で、上流側は見込生産になる。ただ、その混合の仕方と比率によって、生産計画の主眼が数量の計画になるか、あるいは順序の計画になるかはかわってくるのだ。

では、どのような場合にどんな計画手法が大事になるのか。例によって長くなってきたので、それについては項を改めて、また別に書こう。
by Tomoichi_Sato | 2015-11-18 23:16 | サプライチェーン | Comments(0)
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