ピッキングとはどういう仕事か

前々回の「マテリアル・コントロールとはどういう仕事か」で、物品=マテリアルに関する仕事には、3つの階層があると書いた。

1. マテリアル・マネジメント:
 ・台帳(マテリアル・マスタ情報)の整備統一
 ・供給の流れ(設計→調達→保管→使用→廃棄)の仕組みとルール作り
 ・需要の先読みと評価に基づく在庫レベルや改廃の判断 など
 ↓
2. マテリアル・コントロール:
 ・供給の流れの定量把握と短期予測
 ・マテリアルの保管や移動の差配(交通整理)
 ・予実分析と是正措置の勧告・手配 など
 ↓
3. マテリアル・ハンドリング
 ・選別・移動・仕分け・集荷・定置
 ・マテリアルの状態確認と計数(棚卸し)
 ・包装や小分けなどの物流加工 など

その続きとして今回は、人手や機械によって物品を直接さわるマテリアル・ハンドリング業務について少し書こう。とくに、その中心的な仕事である『ピッキング』作業について説明する。というのも、ピッキングは物品を扱うすべての場所で必要となる仕事だからだ。物品を扱うすべての場所とは、いわゆる倉庫とか物流センターだけでなく、工場の製造現場も、そして通常のオフィスさえも含んでいる。製造現場では、モノを作るのに原材料・部品が必要だ。オフィスにだって、文房具などのサプライ品は必ずあるし、それ以外に書類ファイルや郵便物といった物品がつねに動いている。にもかかわらず、ピッキングにどういう種類があり、どう使い分けたら効率的かという基本さえ、良く理解されていないケースがまま見受けられる。

なお、ピッキングという語をインターネットで検索すると、鍵を針金等で強引にあけてしまう行為の方が、真っ先に出てくる。ここでいっているPickingはもちろん違う。物品のかたまりの中から、ある物品をとりだすことである。何か一品を拾い出すだけでなく、複数の物品を取りそろえることも指す。この作業に使う指示情報が、「ピッキング・リスト」である。

たとえばあなたが、TVの料理番組を見て、よし、冷やし中華を作ろうか、と考えたとする。さっそく必要な材料をメモしてみた。すると以下のようになった。

【材料】      【数量】   【場所】     
中華麺・・・・・・・・一玉    冷蔵庫
醤油・・・・・・・・・大さじ1  冷蔵庫 
酢・・・・・・・・・・大さじ1  調味料棚
ごま油・・・・・・・・小さじ1  物置
砂糖・・・・・・・・・小さじ1½ 食器棚
玉子・・・・・・・・・1個    物置
チャーシュー細切り・・50g   冷蔵庫
キュウリ細切り・・・・30g   野菜カゴ

これがピッキング・リストなのだ。あなたは料理の材料として、調理の前にこれだけの物品を収納場所から拾い出し、取りそろえる必要がある。ちなみに物品の中には、手で拾い出せる麺や玉子のような固体だけでなく、調味料類のような液体・粉体もある。こうした液体や粉体は、計量(秤量)しながら小分けに取り出す作業になる。

そしてこれが料理でなく製造行為でも、部品材料を倉庫から拾い出し、取りそろえる点では同じだ。その場合、一つの工程の製造オーダー(製造指図)に対して、一組の部品材料がいるわけだから、ピッキング・リストとは製造オーダーに一対一に対応することになる。すなわち部品表(BOM)の中における、特定の一段階の親子関係がピッキング・リストになる(厳密に言うと、ボルト・ナット類など現場常備の汎用品などは、ピッキング・リストでは省略されるが)。

あるいは物流センターで、どこかの顧客からの注文に応じて、商品を取りそろえる場合も同じである。あなたがAmazonに何か複数の商品を注文したら、彼らの物流センターでは、倉庫から商品を取りそろえて例の茶色の段ボール箱にいれ、送付状を同封してあなたの住所宛に発送するだろう。この場合、1枚のピッキング・リストは、1件の顧客のオーダー(=納品書明細)と内容的に一致する。すなわち、ピッキング・リストとはある種の作業オーダーであり、より正確に言うならば保管場所からの出庫オーダーなのだ。

さて、このピッキング・リストに技術があるといったら、あなたは驚くだろうか。実は、あるのだ。上記のリストをよく見てほしい。いろんな材料が並んでいる。取りに行くべき場所も、まちまちだ。そこで、これをこんな風にソートしてみる。

【材料】      【数量】   【場所】     
中華麺・・・・・・・・一玉    冷蔵庫
醤油・・・・・・・・・大さじ1  冷蔵庫 
チャーシュー細切り・・50g   冷蔵庫
酢・・・・・・・・・・大さじ1  調味料棚
砂糖・・・・・・・・・小さじ1½ 食器棚
ごま油・・・・・・・・小さじ1  物置
玉子・・・・・・・・・1個    物置
キュウリ細切り・・・・30g   野菜カゴ

このリストは保管場所の近い順になっている。こうすると、リストを見ながら物品を取りそろえる際に、あちこちと同じ場所の間を何度も往復する必要がなくなるのだ。せいぜい狭い台所の中なら大した違いはないだろうが、もし工場のように、部品倉庫や仮置き場所がけっこう離れていると、往復の手間はばかにならない。え? 俺だったら最初のリストでも、頭の中で同じ場所のモノをまとめて持ってくるって? それはこの例が8種類の物品リストだから可能なのだ。これがもし80種類もあったら、あなただって道に迷うに違いない。

ただし、このようにピッキング・リストをソートするためには、二つの前提条件がある。第一に、すべての物品の保管場所が、明確に把握されていること。いわゆる「ロケーション管理」である。第二に、そのロケーションが、ちゃんと順路的なコード体系になっていること。上の例で、【場所】を単にアイウエオ順にソートしても、それが実際の位置関係であっちこっちになっていたら、あまり移動の節約にはならない。つまり場所の裏にロケーション・コードがあり、そのコードが近ければ地理的な所在も近いという風にコーディングされている必要があるのだ。

ピッキング・リストの表示順が、きれいに棚の順番になっていて、行ったり来たりの重複やムダのないものを、「一筆書き」のピッキング巡路とよぶことがある。ピッキング・リストをすべて効率の良い一筆書きで生成するのは、技術というべきだ。

ただし、ここまでは「冷やし中華」という一品料理のための材料のピッキング作業を考えた。しかし、現実には工場でも複数センターでも、複数のピッキング・オーダーを処理しなければいけない。

ここでちょっと、現実の中華料理屋を考えてほしい。顧客はバラバラのタイミングにやってくる。そしてレバニラだとかワンタン麺だとかカニ玉丼だとか、まちまちな料理を注文する。そうした個別の注文に一対一でピッキングを行う。これを、シングル・ピッキングと総称する。

ところが、店によってはラーメン系だけに品種を絞り、客の回転の速さで勝負するところもある。そうした店でカウンターに座り、調理場を眺めていると、最初に客の人数分だけラーメンどんぶりを並べておき、タレやスープや麺、そしてチャーシューなどの具を、まとめてどんぶりに小分けしていく。麺もまとめてゆでているし、チャーシューなどは大皿にのったものを、一人前の枚数ずつ(中にチャーシュー麺があればそこだけ多めに)のせていく。つまり、個別のオーダー単位でピッキングして取りそろえる代わりに、麺やスープや具などを、複数オーダー分まとめてピックして配膳台に持ち寄り、そこで個別オーダーごとに仕分けしていくのである。このような方式を、トータル・ピッキングと(あるいはマルチ・ピッキングとも)呼ぶ。

トータル・ピッキングの利点は、物品の保管場所と、荷揃え・出荷場所との間の往復移動がずっと少なくて済む点である。そのかわり、ピッキング・リストのあり方がまったく異なってくることは、システム屋さんならお分かりと思う。もはやリストは製造オーダーや出荷オーダーに、1対nの対応になる。仕分け作業においては、個別の出荷箱(ラーメン屋ならどんぶり)の横に、内容明細が別途必要になる。

シングル・ピッキングとトータル・ピッキングは、日本語で「摘み取り方式」と「種まき方式」と呼ぶこともある。農作業からの類比なのだろう。では、この両者は、どのように使い分けるのがいいのか?

いうまでもない。物品のニーズが多品種少量の場合はシングル・ピッキングで、ラーメン屋のように少品種多量の場合はトータル・ピッキングが向いている。シングル・ピッキングも、全体として扱う物流量が大きい場合は、効率化のために一筆書き的な順路の工夫が必要である。では、多品種かつ大量の場合は、どうするか? そのときは、もはや手作業では間に合わないから、全体を機械化する必要がある。たとえば郵便局や宅配業者などの中央仕分けでは、自動ソーターなどの機械で処理をしている。まとめるとこうなる:


          (多品種大量)
           完全機械化
            ↑ 
            ↑
(多品種少量)←←       →→(少品種多量)
シングル・ピッキング  ↓    トータル・ピッキング
  〔一筆書き巡路化〕 ↓
             ↓
         シングル・ピッキング
          (少品種少量)

このように、ピッキング作業は、全体の物量、および品種数の特性とを合わせて、適切な方法を選ばなくてはいけない。あるいはさらに、自社の物品の使用量を頻度に従いABC分析して、A品目にはトータル・ピッキングを、BC品目にはシングル・ピッキングを組み合わせて使う、などの応用編が必要になるだろう。

そして工場の設計においては、こうしたピッキングの方式や動線を考慮したデザインをしなくてはいけない。いや、むしろマテリアル・ハンドリングの観点から、まず全体レイアウトがどうあるべきかを構想すべきなのである。

だから工場見学をしていて、ときおり製造現場の作業者が持ち場を離れて、モノ探しにでかけたりするのを見ると、
 (いったい何を考えているんだろう)
と思ってしまうのである。作業の生産性を2割も3割も向上する方法があるのに、それをやっていない。

もちろん、わたしは現場作業者を非難しているのではない。彼らは単に命じられたとおりのことを、必要に応じてやっているだけだ。わたしが「何を考えてるんだ」と言いたいのは、そうした非効率を放置している工場長である。そして、そんな工場長を任命している経営者である。現場を見もせずに、「日本人は人件費が高コストで困る」「ウチはなんでヒット商品が出ないんだろう」みたいなことを『考えて』いる。ピッキングのちょっとした工夫も生まれぬ職場に、創造性など育つはずがない。組織とは、どこを切ってもだいたい同じ体質なのだ。現場が非効率なのに、本社だけ目を見張るほど優秀、などという会社は見たことがない。

くりかえすが、ピッキングのような一見単純な作業にも、それを活かす技術がある。ただし、そうした技術を活用するためには、工場を、あるいは生産システム全体を、俯瞰する視点が必要なのである。


<関連エントリ>
 →「マテリアル・コントロールとはどういう仕事か」(2015-04-26)
 →「マネジメントのテクニックと技術論について」(2015-04-12)
by Tomoichi_Sato | 2015-05-12 07:59 | 工場計画論 | Comments(0)
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