書評:「受注生産に徹すれば利益はついてくる!」 本間峰一・著

受注生産に徹すれば利益はついてくる! - 取引先に信頼で応える“おもてなし"経営 -」 (Amazon)

良書である。著者は長年、金融機関系のコンサルティング会社で活躍した後、最近独立された中小企業診断士で、わたしの所属する「生産革新フォーラム」(通称『MIF研究会』)の会長でもある。知人の著書を紹介するときは、ほめるにせよ批判するにせよ中立の立場で書くのが難しいわけだが、本書は幸いにも非常に良くできており、安心しておすすめできる。

安心して推薦できる最大の理由は、本書が「受注生産」企業を対象に据えて、そのポジティブな面を書いているという、ユニークな視座にある。前から述べているとおり、日本の製造業の9割は受注生産の形態にあると想像される。にもかかわらず、世間にあふれるビジネス書の殆どは、自動車メーカーだとか著名電機メーカーなどに範をとって、“企業経営はこうあるべし、あああるべし”を論じるばかりだ。

さらに、それだけでは足りずに、Appleではこうだサムスンではああだと、海外事例を述べ立てては、(暗に)日本企業もその真似をするべきだ、と論じる。ちょっと、いい加減にしてくれよ--ずっと受注ビジネスで生きてきたわたしなどは、いいたくなる。GoogleやAmazonが、一度でも受託商売で苦労したことがあるのか? かりにあっても、ごく例外だろう。雑誌やメディアが、そうした著名海外企業を取り上げるのは、何よりも急成長会社だからだ。それに消費者向けビジネスだから知名度が高いこともある。

消費者を相手としたB2Cの商売は、たしかにうまくあたれば、大きく成長することができる。メディアは「目立つ変化」にとびつく性質があるから、急成長会社に注目する。しかし、それはとてもボラティリティの高いビジネスモデルである。成功企業の後ろには、実際には敗退し市場から退場していく多数の企業群があるはずだ。では、B2CではなくB2Bの、すなわち製造業向けに生産財をつくっている企業はどうだろうか。そのほとんどは、受注生産形態の会社である。

「受注生産企業って、本当に儲からないんだろうか? コンサルタント活動をしていると、儲かっている受注生産企業に出会うことも多いのだけれど・・」 これが、本書を書くきっかけになった問いだったらしい。著者は続ける。「減益企業は大げさに騒ぎ立て、儲かっている企業は低く静かに伏せているとはよく言われることだが、受注生産企業はもともと知名度が低いこともあり、儲かっている企業があってもまわりからは気づかれにくい」(p.1)

本書は、著者がさまざまな受注生産企業のコンサルティング経験をふまえて書いた、受注生産企業へのエールの書である。実際、現在の日本の製造業は、(メディアや官庁は気づいていないが)技術的にも利益的にも、受注生産企業が支えていると言っても過言ではない。さらに、日本の文化や社会風土自体も、受注生産形態に非常に向いていると言えよう。

それなのに、「受注生産=下請け」「受注生産=薄利」といったステレオタイプのイメージが蔓延し、働いている人たちは何となく劣等感を感じたりしている。さらに、見込生産に範をとった、間違った経営指針がとられがちである。この点をただして、もっと自信を持って受注生産に徹しよう、そのために必要な経営指針・営業政策・生産管理はこれだ、とノウハウを開陳するのが本書の特徴である。

本書は7章構成になっている。前半では、「受注生産が日本企業の強みだ」「受注生産を取り巻く環境変化が起きている」という風に、全般的な状況説明があり、後半は受注生産メーカーの「利益向上策」「工場運営の秘訣」「生産管理」「新規営業戦略」など個別の方策が書かれている。

ところで、受注生産と見込生産は、本当に企業ごとに分かれるのか? という疑問もあろう。無論、同一の企業で混在していることもある。いや、自社製品による見込生産を得意としてきた大手消費財メーカーが、受注生産に乗り出す例も増えていることを知って驚いた。「PB (Private Brand=流通業者のオリジナルブランド)製品は、メーカーのNB(National Brand)製品と異なり、広告宣伝費が発生しないことなどから低価格で販売されることが多い。そのためもあって、当初は販売力の乏しい中小メーカーが製造を担当して流通業者に供給するのが一般的であった。(しかし)最近では大手メーカーも積極的に、量販店向けPB製品を手がけるようになってきている。」(p.14)

受注生産企業は、顧客のわがままにふりまわされるケースも多い。大企業のわがまま要求の例として、著者は次のようなことを上げている。

・今日発注したものを今日中に納品しろ
・要求仕様が変わっても費用は追加しない
・取引先の在庫品を有償支給品として受け入れろ
・エビデンス(注文書など)がない状態で非公式手配してくる
・納品後に注文主や支払条件を変更してくる など(p.42)

たしかに、おかしな要求がしばしばまかり通っているのは、わたしも知っている。ただし著者は、「こうした不公正な取引慣行を役所が是正しろ」とは、言わない。逆に、「わがまま要求に対応するために行ってきた企業努力こそ、日本の受注生産企業が築き上げてきた世界に誇る強みである」(p.42)と、ポジティブにとらえる。そして、「自社が海外企業に負けない受注生産力を持っているのであれば、それに対して自信を持ってアピールすること」(p.43)と書く。つまり、弱みを強みに転換すべきだ、というのが本書の主張である。日本企業の受注生産における高いフレキシビリティは、海外サプライヤーからモノを買った経験のある企業ほど、痛感する点でもある。

むろん著者は刃を返して、わがままな大企業を厳しく批判することも忘れない。「現在、日本の上場企業において半数以上の企業が実質無借金経営状態にある。かれらがJIT調達による流動在庫の削減に注力する意味がどれだけあるであろうか。中小の下請企業に在庫を押しつけるのではなく、自社で在庫を持つことにより下請企業の生産を平準化させて、生産効率を高めるアプローチの方が正しいのではないだろうか。」(p.50) まことに正論である。そして、大企業の在庫恐怖症の背景には、ERPの導入があったことも、しっかりと指摘している。

他方、受注生産企業側にもいろんな課題がある。ひとつは、業績が比較的安定している(急成長もないが、顧客との取引停止にでもならぬ限り急降下もない)がゆえに、ぬるま湯体質になりやすい点だ。じつは、「金融機関に融資を申し込んだ場合も、最終製品メーカーに比べてすんなりと審査が通ることが多い」(p.66)というのだから結構なことだが、「対外的な派手な宣伝活動もなく、大ヒット商品を生みだし大儲けして社内が盛り上がることも少ない。その結果、何となく『自社はつまらない』と感じてしまう社員が増えがちだ」(p.68)。

それゆえ、「業務改善活動は取引先からの圧力で始めることがあっても、社員自らが率先して業務改革に取り組むことは少ない」(p.68)・・まるで、日本自体の縮図を見るようではないか。

肝心の「利益向上策」「工場運営」「生産管理」については論点が多いので、個別には紹介しきれない。ぜひ本書を紐解いてほしい。利益計画の中心は、『スループット』管理にある。受注生産企業は自社だけで売上を向上させることは難しいので、営業マンを売上高で駆り立てるのは、じつは愚策である(この点が消費財メーカーとの最大の違いだ)。そうではなく、スループット・マネジメントを推奨する。

スループットとは、売価から外部購入費(材料費・外注費)を差し引いたもので、小売業では「粗利」に相当し、製造業では会計用語で言う「付加価値額」にほぼ等しい。これを積み上げて、年間の作業経費(人件費・減価償却費等の固定費)を上回るように、受注をコントロールしていく。たとえ見かけ上は赤字案件でも、それを受注することで固定費をカバーする足しになるなら、ちゃんと受注していく。そうした判断は、従来の原価管理(固定費を配賦して変動費化する)では、うまくできない。今の会計学手法は、じつは「作れば売れる」見込生産・実物経済時代の発想でできあがっているからである。

著者の考え方は、じつはゴールドラットのTOC理論(制約理論)にかなり基づいている。工場運営で、ボトルネック工程(制約工程)を平準化し最大活用せよ、という発想など、その典型であろう。しかし、受注生産企業は製番管理より流動数曲線管理が向いている、とか、理想的な現場管理システムはいらない、とか、「設計部門を治外法権にしない」(p.184)など、随所に著者らしいノウハウの蓄積を感じさせる。

最後の第7章は、「新規営業戦略」である。欧米流のマーケティング理論をふりかざしても、それは日本の受注生産企業にはあてはまらない。まして「ソリューション提案」など、顧客企業にとっては余計なお世話である。また中小が最終製品開発を志向しても、販路などの障壁で無理が多い。そこで、あくまで「ハイレベル受注生産力」を、その5大要素である
 「技術対応力」
 「納期対応力」
 「品質管理能力」
 「アフターサービス力」
 「事務処理能力」
ごとにアピールすべし、と指南する。とくにこの章は、かつて大手電子通信メーカーで営業をしていた著者の経験がいかされる分野であろう。

受注生産ビジネスは、決して特殊な形態でも、二流の形態でもない。日本の産業は、じつは受注生産企業が屋台骨を支えている。そして、日本企業の受注生産力は世界随一である。ただし、これまでメディアや官庁、学会などの無理解により、その点が正しく認識されてこなかった。しかし、ようやくここに良い指南書を得ることができた。これを機会に、多くの受注生産企業がもっと世界に雄飛してほしいと、切に願う。
by Tomoichi_Sato | 2014-06-21 19:35 | 書評 | Comments(1)
Commented by skuna@docomo.ne.jp at 2014-06-24 06:50 x
えっとこちらのブログすごいびっくりして…

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共感もしたし、本当にウチの中で大切なことが書き込まれてるブログだと思ったんです。こんなにも素敵なブログを書く方ってどんなひとなんだろう?って思って

興味津々で初めて書き込みさせてもらいました!

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※もし面倒ならこの書き込みも抹消しちゃって構わないので気にせずにお願いします。

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