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なぜ納期に遅れるのか

日本の製造業の9割は、受注生産の形態だろうと、以前書いた。確たる統計を知っている訳ではない。経験にもとづく感覚的なものである。だが、一般の人の常識とは異なっているので、こういうと驚く人が少なくない。いつかも、ある企業にお邪魔したとき、そこの部長さんが「ウチは受注生産なので特殊です」と胸を張っておられた。他所のコンサルなんかに、わが社の仕事の難しさが分かってたまるか、という雰囲気も、少し込められていたかもしれない。貴方の会社はぜんぜん特殊でも例外でもありませんよ、とお答えしたが、相手は半信半疑だった。

なぜなら、世間でいう製造業とは自動車とか、家電・パソコンとか、カメラ、飲料・食品、日用雑貨などであり、そこに共通したイメージがあるからだ。すべて、自社で開発した製品を、需要を見込んで生産し販売する「見込生産」の形態で動いているメーカーである。だから、そうした生産形態が普通であり、受注生産は例外的だという思い込みが、いつの間にか広まったのだろう。ついでにいうと、いずれもTVコマーシャルをさかんに打つ業種であり(消費者相手に製品を売る商売だから当然だが)、知名度も高い。経済メディアも、取り上げる頻度がどうしても高くなる。そもそもメディアにとっては重要な広告出稿主、という事情もある。

しかし、自動車メーカー1社の後ろに、「系列」と呼ばれる部品メーカー数百社がつき従っていることを考えれば、受注生産形態の企業の方が、数としては圧倒的に多いことは理解できよう。自動車部品メーカーは典型的な「繰返し受注生産」と呼ばれる形態である。製造する部品の仕様は、納品先である顧客が決める。決められた仕様の部品を、いつまでに、何個、どこそこに納入してほしい、と注文を与えられて、製造しておさめる。これは電子部品メーカーや、材料メーカー、容器メーカーなど、非常に幅広い業界に共通である。企業の大小では別に決まらない。端的に言って、製鉄所でさえ、受注生産で動いているのだ。

その受注生産における最大のポイントの一つが、納期である。もちろん、コストも大事だ。品質も大事だ。だが、とくに繰返し受注生産の企業は、継続的な供給体制の一環として、サプライチェーンに組み込まれて動いている。値段は(たとえば)半期単位で決められており、また品質だって顧客仕様で定まっている。いきおい、指定された納期の遵守率が、競争上の要点になる。

(ところで、『遵守』は“じゅんしゅ”と読みます。従い守る、の意味ね。先日、東大の授業で、何人かの東大生がこの漢字を“とんしゅ”と読んでいたけれど、それじゃ『頓首』だかんね)

さて、ところがこの納期、守るのがなかなか難しいのである。--ときくと、首をかしげる人もいるかもしれない。個別に顧客の注文をきいて設計するような「個別受注生産」なら、納期遅れもあるだろう。とくに顧客がぐずぐずと迷って決めない場合など。しかし、決まりきったものを、同じ仕方で作るだけの繰返し生産で、何で納期を守れないのか? 単純な力仕事ではないか。そう、思われる方もおいでだろう。

しかし、それは製造という仕事の実態を知らないまま、頭の中だけで考えるから、そう見えるのである。実際には、工場では多種多様な品物が流れている。今日の製造業で、同じ一品種をずっと作り続けていればいい、などという企業はほぼ存在しない。ふつうは多品種を、切り替えながら生産している。同じ製造装置や道具でいろいろな品種を加工製造するから、切り替えが必要なのである。そのためには、各工程に、「何々を、いつから着手し、いつまでに作れ」という指示(製造オーダーとか製造指図と呼ぶ)を的確に出さなければならない。

おまけに、需要は納入先の都合で、勝手に変動する。さらに、原材料・部品の手配の問題もある。工場内に鉄鉱石の鉱脈があるならいざしらず、どんな工場も原材料や部品は外部から調達するのである。とうぜん、いつ、何を、どれだけ注文すべきかという問題が出る。足りなくなれば、生産が止まってしまう。余りすぎれば、コストになるし、置き場所を圧迫する。

つまり、工場というものを一つのシステムと見た場合、かなり高度な制御を、連続して的確にやらないと、思った通りに機能しないのである。需要という予条件(インプット)がある。工場が抱える製造機械や道具や人びとの数と種類、というリソースの制約条件がある。外部調達にかかわる制約もある。こうした変わりやすい環境と制約条件の中で、複数品種(それぞれ異なる数量と納期を持つ)の製造を継続的に行った上で、さらにコストを最小化せよ、というのがシステムの運転に求められる要請である。工場の生産管理が、そう簡単な仕事でないことは、お分かりいただけると思う。

では、納期遅れはなぜ、起きるのか。一言でまとめると、「平均リードタイムが要求納期より長い」ということになる。しかし、じゃあリードタイムをむやみに短縮すればいいかというと、そうではないのだ。納期遅れが生じる原因が、工場ごとに異なっており、同じ対策が全てに当てはまる訳ではない。そこで、Structured Approachを応用してみよう。分析的な観点に立ち、直接の原因、そのまた原因、という風に列挙してみるのである。

まず、「需要が読めない」という原因が考えられる。

え、需要? 受注生産の話じゃなかったの? 注文を受けてから作るのが受注生産なんだから、需要の読みなんか、関係ないはずだろう? ・・はい、そこの方。とっても論理的ですね。でも、ふっふっふ。それは考えが甘い。わたし達の社会は、そんな論理では動いていません。「部品Aを100個、丸ペケ工場まで持ってこい。納期は明日の夕方、5時。」--これが、現実の姿です。部品Aを、組立て研磨し検査して包装し、トラックで運ぶだけで精一杯。部品Aを作るための材料を手配する時間なんてゼロ。粗材を切り出し加工する前工程だって、やっておかなかったら、そんな短納期に間に合う訳がない。そうした事前作業は全て、需要を読んで行われる、というのが繰返し受注生産の現実なのである。

自動車業界など一部の業界では、「先行内示」というものをサプライヤーに開示する。来月は何個、再来月は何個、注文する予定でいる、と書かれている。しかし、内示書は確定注文ではない。確定値は、「かんばん」などと呼ばれる納入指示書でようやく決まる。だから、先行内示が実需と合わない可能性はつねに残っている。

次に、「適切な指示が出ない」という原因も考えられる。工場の指示系統(生産計画系統)に問題があって、すべての工程にタイムリーに指示が出ない。しかたなく、現場がそれなりの判断と読みと慣例で作業せざるを得ない。そんなケースも、たしかにある。

需要は一応読めて、指示も出るのだが、「指示どおり作れない」という状況も、もちろんありうる。というより、たぶん実態はこれが一番多いだろう。

なぜ指示どおり作れないか。理由はいろいろだ。まず「図面がない」という問題。これは、完全な繰返し受注生産では起こらないが、仕様・性状に変更要求やオプション指定があり、そのために技術部門で設計図面を起こすときに、生じる問題だ。モノもある。製造機械も空いている。だが図面がないので作業できない。情けない、とお思いか? そういう方は、宮崎駿の「風立ちぬ」で、主人公が工場に着任したときのシーンを想い出すとよい。あの場面では、別の同僚が上司に向かって、「現場への出図が間に合いません!」と訴えるのだ。(飛行機はもちろん、受注生産である)

それから、人・道具・設備が能力不足、という状況も考えられる。まず、人が足りない。あるいは、機械設備の能力が足りない。それから、ツール・治具が足りない。さらに、人も機械も道具もあるのだが、生産性が低い。いずれの場合も、納期遅延が生じる。

それ以外にも、材料・部品が足りない(欠品)という状況だってある。モノが無ければ現場は動けない。なぜモノが無いのか? 理由は三つだ。適切なタイミングに注文をしていなかったのか、注文はしたが数が足りないのか、あるいは、あるはずなのに見つからないのか(最後のが一番くやしいが)。

そして、指示どおり作れたのだが、検査したところ不良が出て、作り直しになってしまった、という状況。

以上を樹形図的にまとめると、図のようになる。一番下のレベルの原因だけを図から拾い上げると、12種類になる。納期遅れの、12の原因である。もっと細かく分類することも可能だが、まあこの程度で実務的には十分だろう。

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したがって、納期遅れ問題を解決するためには、上記の12種類の原因のうち、どれが起きているかに応じて、対策を考えるべし、ということになる。たとえば
「適切な指示が出ない」 →製造指示システムを構築する。
「人が足りない」 →人を増強あるいは教育する。
などなど。Structured Approachにふさわしく、きわめて論理的で、シンプルである・・

ところが、これだけでは問題は解決できないのだ。

なぜなら、納期遅れ問題が起きている工場では、上の12の状況が複数、同時に発生しているからだ。人も足りず、機械設備も古く、だから生産性も低いのに、内示と実需が合わないおかげで、工場は余計なモノがあふれかえって、必要な材料部品がすぐ見つからない。せっかく作っても不良で作り直しになる。結果として指示系統が混乱して、適切な指示が出なくなる・・。これが、システムにまつわる問題のややこしさ・難しさだ。

では、どうしたら良いのか。

こういう時には、とるべきアプローチに順番がある、とわたしは考える。その話を、17日の大阪府工業協会のセミナーでは説明するつもりである・・のだが、それでは本サイトの読者諸賢にあまりに不親切だろうから、最初にすべきことだけは書いておこう。

それは『不良を減らす』である。最低限、満たすべき品質を上げて、不良による作り直しを、まず防止する。なぜなら、「予期せぬ作り直し」ほど、生産スケジュール全体をかく乱するものはないからだ。人の不足、設備能力不足、欠品問題などは、ある工程単位には遅れを生じさせるだろう。もちろんその影響は連鎖的に波及していくのだが、まだしも読みが可能である。しかし作り直しは、どの工程まで後戻り・リワークが生じるか、全く見えない点が一番問題だ。このような、スケジュール担当者にとってもっとも読みにくいかく乱要因を、まず抑えること。

しかも不良問題は、工場が見逃して出荷し、納品先で発見された場合、顧客に与える迷惑度が非常に大きい。納期遅れの比ではない。信用失墜も大である。

何もわたしは、「品質がつねに一番」だから、できる限り品質を上げろ、などと主張しているのではない。最低限、満たせる水準でいい。不良ゼロ・歩留り100%を、などといっているのではない。歩留り80%でもいいから、まずは、予期できる水準に抑え込み、予期せぬリワークを防ぐべきだ、と申し上げている次第である。

では、その次は? 二番目にとるべきアプローチは、「在庫を活用する」である。だが、そろそろ紙数が尽きたようだ。この話の続きは、いつか、また語ろう。


<関連エントリ>
 →「Structured Approachができる人、できない人
 →「映画評:『風立ちぬ』
by Tomoichi_Sato | 2014-06-15 22:35 | サプライチェーン | Comments(1)
Commented by 774 at 2014-06-16 07:26 x
(『遵守』を“そんしゅ”と読んだ社会人もいたなぁ。)
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