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超入門:上手な工場見学の見方・歩き方

先週は、「生産革新フォーラム」恒例の工場見学会だった。生産革新フォーラムは中小企業診断士を中心とした集まりで、Manufacturing Innovation Forumという英語の頭文字をとり、略称『MIF研究会』とか『MIF研』ともよばれている(診断士の資格を未取得の会員もいる)。わたし自身、10年以上前からの古参の会員で、2年前には会員同士の共著で“JIT生産”を卒業するための本―トヨタの真似だけでは儲からない」を一緒に出版した。

この研究会の特徴は、年に2回の工場見学をずっと実行していることだ。これが非常に面白く、また勉強にもなる。工場というのは、複雑で大きな、生産のためのシステムである。この「システム」は、製造のための機械設備と、人の組織と、収納する建物と、そして様々な情報系から成り立っている。その中を、製品や部品や資材が行き交っている。そして、どこにも必ずオペレーションの工夫がある。画家が先輩達の絵を見て勉強するように、システムをつくる仕事をする者も、他のシステムをいろいろと見たほうがいい。そういう気持ちで、これまでもなるべく工場見学に参加してきた。

先週は、北関東にある自動車メーカーF社の工場と、ほかにもう一社、化学系の工場を見学した。自動車メーカーF社はもちろん大企業で世界的にも知られているが、日本の自動車業界の順位では、下位の方である。しかし、行ってみてわたし達は率直に驚いた。とてもレベルの高い、良い工場だったからだ。業界トップのT社が資本参加しているが、いわゆるT社式の工場とも違う。まさに、「百聞は一見にしかず」である。働いている人たちもきびきびして、熟達を感じさせる。「これだったら、次の車はF社を買ってもいいな」と帰り道に言っていたメンバーもいたくらいだ。

MIF研の工場見学では、通常は会員の誰かによる紹介で、生産管理関係の方に案内してもらい、最後に質疑討論する形をとる。ところが今回のF社の工場見学は、あいにくF社にビジネス・ルートがなかったので、まったく普通の一般見学ルートで行った。そのため、小学生向けの紹介ビデオを見て、小学生と同じコースを歩く。説明も、広報係の若い女性による一般向け説明で、製造や技術に関する質疑はできなかった。それでも、終わった後の総括をかねた飲み会では、生産方式や在庫やレイアウトのうまい点に関し、活発な評価が行われた。それは、参加した会員の多くが、プロのコンサルタントとして『工場の見方・歩き方』を身につけているからだ。

工場の見学は誰にでもできる。見て、“すごいなあ、きれいだなあ”と感心するだけなら、小学生だってできる。しかし、見るべきところを見抜くには、ある程度のコツがある。そこで、今回はそんな先輩たちのプロのノウハウを、一緒にちょっぴり勉強してみよう。

上手な工場見学には、三つの柱があるようだ。事前に調べる、目に見えるモノを見る、目に見えない事(コト)を見る、の三つだ。順に説明しよう。

(0) 事前に調べる

工場に行く前に、まず下調べをする。これが基本である。TVや雑誌のインタビューと同じだ。相手に会ってから、「あんた誰? 職業は?」では話にならない。

下調べのためには、ホームページなどで製品カタログをまず見る。何を作っている会社なのか。品種は多いのか少ないのか。生産量はどれくらいか。つぎに、財務諸表や年報(アニュアル・レポート)類をざっとチェックする。これもたいていの企業は、ホームページに載せている。売上はどれくらいか、利益は出ているのか、業績は伸びているのか、社員数はどれくらいか。このように、数値で会社の概要を客観的につかむことが大事だ。とくに製造原価報告書は重要な参考資料である。

しかし、数字だけでは会社の個性までは分かりにくい。それを補うために、その会社に関わるニュースなどもチェックすると良い。こうして、その企業の立体像が、少しずつ頭に入ってくる。

(1) 見えるモノを見る

次は文字通り、見学である。大手企業の工場は、外来者向けの見学ルートなども整備していることが多い。だが、工場に入る前から見学ははじまる。立地はどこか。なぜその土地その街なのか。高速インターや鉄道や港など物流面のアクセスはどうか。そして、敷地の広さや、敷地の使い方はどうか。

工場見学は、基本的に原料受け入れから製品出荷まで、モノと工程の流れに沿って順番に見るのが原則である。工場全体のレイアウトの中に、この流れが整然と、かつよどみなくできあがっているかどうかが、工場のレベルを見る大事なポイントだ。中間部品の倉庫が、敷地のへんな端っこに位置していたら、その工場では、何かの事情で想定していなかった中間在庫が常時発生している可能性がある。あるいは、そもそも設計思想が混乱していたのかもしれない。

そして工場建物を見る。デザインのきれいさを、見せる側はアピールするかもしれない。もちろん大事だ。誰だって、きれいでカッコいい職場で働きたい。しかしプロは別のところを見ている。平屋なのか多階層なのか。天井高はどれくらいか。空調はきいているのか。縦の物流動線や、床の耐荷重は。

もちろん、製品も見る。どこの工場でも、一番見せたがるのは製品である(とくに消費者向けの製品を作っている会社はなおさらだ)。F社でも、ここの展示は念入りで立派だった。なるほど、すごいですね。などと口では答えつつ、「この製品はどれくらいオプションやバリエーションがあるんだろう。需要は季節性があるのかなあ」と考えたりしている。

製造のための機械も、工場の自慢の一つだ。とくに最新型で、高速で、自動化されていればいるほど、作り手はうれしがって説明してくれる(でも、本当にそんな大量生産が求められているのかと、ひそかに疑ってみる姿勢も必要である)。自動車工場の場合、最終組立(トリム)ラインと、ボディ・ショップの溶接ラインを見せることが多い。とくに溶接は複数のロボットが自在に動き、火花が飛び散ったりして、派手だからだ。なんとなく、素人にも「工場を見た」気にさせる。F社の工場では、溶接の前のプレス工程まで見せてくれたので、ちょっと驚いた。感心したのは、ボディ・ショップでの多数の溶接用ロボットの、配置上の工夫だった。

人の数と、制服も目立つ要素だ。活気を持って働いているかどうか。若い人や女性はどれくらいいるか。大事なポイントである。また、倉庫もちょっとのぞいて見たい場所である。どれだけ部品があるのか。どう保管・格納されているのか。モノにはつねに現品票やバーコードが貼付されているか。倉庫を見ると、その会社の管理レベルが透けて見えてくる

さらに、プロは治具を見る。治具とは、モノの製造や加工・運搬作業を助けるちょっとしたツール類だ。気の利いた工場は、こうした治具をいろいろと工夫して、作業者の負担やミスを減らしている。また、工場内のあちこちにある掲示板も、人々に何をどう伝え、どう動かそうとしているか、コントロールの仕方を見るのにとても参考になる。

(2) 見えないコトを見る

見えるモノを徹底的に見るのが中級者なら、見えないコトを見抜くのが上級者である。正直に告白しておくが、わたしもまだこのレベルにはなかなか達していないと思っている。

でも、熟達者は、たとえば製造指図や製造報告などの『情報』が、どういうタイミングで、どう動いているかをたずね、それと工場内のモノの動きとの連動性を目で追っている。そして、「この工程はロットサイズが必要以上に大きいな」と、ぼそっとつぶやいたりするのである。

欠品という現象も、目に見えないが重要なポイントだ。欠品表が現場に貼り出されていればまだしも、たいていはそんなものはない。ただ、何となく、組立工程に、途中まで組み上がった半製品と、その周囲に部品類が雑然と放置され、そして近くに人がいない、といった状況があれば、それは欠品で手待ちになったな、と想像がつく。だったら部品が全部そろってから配膳すればいいのに、とか、補給作業は製造と分業されているかな、などの疑問がわいてくる仕掛けだ。

在庫レベルのコントロールも大事である。たとえば自動車工場では、上流のプレス工程は金型によるロット生産である。ところが最下流の組立ラインは、複数製品の混流であり、順序計画に従った一個流し(一車流し)である。当然、どこかの中間段階で、ロットと個別品種をつなぐバッファー在庫が発生する。自動車工場はこれをどこにどう置くかが全体のシステムを考える上で肝になる。F社では、プレス工程の後にある程度、この在庫ポイントをおいているようであった。では、どれくらいあるのか? というわけで、実際に目でパレット数を勘定してみたメンバーがいて、あとで一日の生産量から割り返して、何時間分の在庫量になるかを分析した。

安全・衛生レベルも、最後になったが、もちろんとても大きなポイントだ。結局、これが職場で働いている人たちのやる気を維持するわけだし、退職が少なければ技術・技能の蓄積も効果を上げやすい。


・・といった訳で、F社の工場についてはなかなかの高評価になった。本当は、技術者と質疑できればもっと正確な理解が深まったろうが、見るだけでも、かなりのことは分かるのである。

MIF研究会では、昨年は慶応大学の管理工学科の学生さん達と合同の工場見学も行った。これも楽しい試みだったと思う。みな優秀な学生ばかりだったが、やはり工場を見るのは慣れていない。プロの見方が刺激になったはずである。他方、学生の中には素人なりに鋭い質問をするものもいて、研究会メンバーが逆に感心する場面もあったくらいだ。こういう、年齢層や職業をクロスオーバーした見学会もいいものである。

工場見学は非常に面白い。無論、あまり多くの人が関心をもつことではないし、ふつうレジャーや趣味で行うものでもない(例外として、『工場萌え』マニアという人たちも存在するが)。しかし、繰り返すが、工場というのは複雑で巨大なシステムの、一つの極致である。良い工場を見ると、“いいものを見たな”という豊かな知的満足感がある。製造の仕事に関わる技術者は皆、もっと上手な「工場見者」になるといいと、わたしは思う。


<関連エントリ>
 →「工場見学ほど面白いものはない - K歯車工業に学ぶ」
 →「工場見学ほど面白い物はない
by Tomoichi_Sato | 2014-04-16 19:35 | 工場計画論 | Comments(4)
Commented by たけちよ at 2014-04-18 09:27 x
私は以前某自動車メーカーでライン工をしていたことがあるのですが、
同じメーカーでも各車各様の工場設計をしていて見学は面白いですよね。
私は今度は韓国メーカーの見学を狙っています。ウォン安、安価な車両価格とは別に製造的な目付での競争力を探っていきたいです。
Commented by 東京大学日経サークル~致知~ at 2014-04-18 17:10 x
こういう見方があるのですね。見学はよく参加しますが、ここまで要素分解して考えていませんでした・・・。大変勉強になりました。
Commented by いち at 2014-05-02 08:38 x
二回目のコメントです。
IT企業F社で工場の監査を仕事にしています。
今回も大変興味深い記事でした。
私が工場を見るときの観点を少し付け加えさせて頂きます。

工場が製品を製造する際に気にするのはQCD、つまり品質、コスト、納期です。
この中の品質を見るときのポイントは、作業者にとって難しい作業はないか?です。
難しい作業というのはバラツキが発生するので、ある確率でヒューマンエラーが発生します。
難しい作業は、記事にもあるように自動化するとか治具化するとか、簡単な作業に置き換えることでバラツキがなくなります。
その結果、ヒューマンエラーもなくなって品質が良くなります。
逆を言えば、難しい作業がない工場は優秀な工場と言えます。

12月にお客様を金沢にあるスーパーコンピューター「京」を作った工場にご案内させていただいたところ、作業を簡単にするいろんな仕掛けに大変関心されていましたよ。
Commented by 栗林かおる at 2016-02-14 02:24 x
・治具 - 経験知と技術、そしてどのような価値の創出を目指しているか
・掲示板 - プロセスや機能と人との関わり方(の方針)
・情報の動き - モノに情報を転写するプロセス - どのような仕組みがどのように機能しているか -
これらが表れているということでしょうか。
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